●リプレイ本文
●消えた仲間を探せ
『それじゃあ僕は留守番してるね』
「磨理那様よろしくなの」
京都山科区にある平良屋敷、熊のぬいぐるみである癸を乙(
ga8272)は平良・磨理那(gz0056)に預ける。
「任せるが良いのじゃ‥‥八洲も協力するのじゃぞ」
「わかってますよ、姫様」
身支度をしていて八洲は傷ついた体に包帯を巻きつけた姿で外へと出た。
「磨理那様と、久しぶりにお話をしたかったのですけど‥‥ちょっと、それは後回し、ですね‥‥」
土間の先で待っていた菱美 雫(
ga7479)は傷を堪えながらも最低限の処置を終えて捜索に協力する八洲を見て自分の思いを振り払う。
「沖那さんと分かれた場所までの案内と地図への記載お願いします」
雫に続き、大神 直人(
gb1865)は10人分の地図と赤ペンを持って八洲に近づく。
行き先を知っているのは後ろ姿を見た八洲だけなため、情報共用しようという考えの末だった。
「大蛇と戦闘したのは屋敷をくだった先の道だな。そこから沖那は別の山の方へ走っていった」
方角まで地図にしるしながら八洲を中心に能力者達は山を下りていく。
「その山に向かわないといけないですね‥‥道中に大蛇キメラが‥‥いるようですね」
フォル=アヴィン(
ga6258)が地図を気にしつつ麓まで降りると、倒したキメラの死骸を食う大蛇キメラがいた。
「ここに来るときはいなかったの‥‥」
乙が武器を構えて踏み出す。
「何か策略臭いものを感じるがやるしかないな。エミタ起動!」
直人も持ってきていたリンドヴルムを装着し臨戦態勢を整えた。
「皆さん、ここは俺達に任せて先にいってください」
フォルが敵の数を見ながら、決意を固める。
「こいつの相手は俺や沖那の方が慣れてる。地図は渡すからいってこい」
八洲から地図を受け取ったA班とB班となっていた能力者たちは大蛇キメラを跳ね除けて沖那を探しに向かった。
●予期せぬ再会
「戦闘後にどっか行っちまった‥だと‥‥? ったく‥‥ちったぁ成長したと思えばコレか‥‥」
玖堂 暁恒(
ga6985)は頭をガリガリとかきながら、山道の土を踏みしめる。
「怪我したままだとさ、無茶しやがる。こんだけ、心配させているんだからな? 後で、説教だな」
「まったくだ」
玖堂とはうって変わりどこか楽しそうに神無月 翡翠(
ga0238)は説教内容を脳内で考えだしていた。
「二人ともオキナって奴と付き合いながいんだな?」
親しそうに話す二人の中、多少居心地悪さを感じながらも翡焔・東雲(
gb2615)は心配されている沖那を羨ましく思う。
ぶっきらぼうであると共に、戦闘中は血を撒き散らしてしまう東雲にはつかめないもののようにも感じた。
左腕の包帯の下にある聖痕をギュッと握り、東雲は茂みを睨んだ。
沖那が向かったと呼ばれる森の麓につき、能力者達は山道にそって二手にわかれ、捜索をはじめている。
静か‥‥いや、不自然なほどに音のない山道を進んだとき、ゴォゥという音と共に白いローブのようなものを着た少年が炎を纏った拳で東雲に殴りかかってきた。
「何だ! こいつっ!」
東雲はポリカーボネイトの盾で防御するも、盾を抜けた拳に直接肌がやかれる。
「っ! アスラ‥‥!? また貴様に遭うとはな‥‥まさか、山戸が追っていたのはこいつか!」
玖堂は沖那と関わっている間に戦った敵を見据え、嫌な記憶を蘇らせた。
「まだいるようですね。できるかぎりサポいたしますので、思いっきりやって下さい」
口調が変わり別人のようになった翡翠がエネルギーガンで東雲に攻撃を加えたアスラの腕を吹き飛ばし、周囲を探る。
『ヌグァァ!』
腕を潰されたアスラは幼い少年に見える外見とは裏腹に低い声を上げて悶えた。
「さっきは良くもやってくれたな!」
左の瞳を紅に輝かせた東雲が悶えるアスラに対して刀を振るって力任せに斬りつける。
六本の腕を動かし、防ごうとしたアスラだが剣閃の煌めきに心臓を貫かれた。
(「心臓1つき‥‥嫌な予感がしやがる」)
別のアスラと戦いながらも玖堂は嫌な予感を振り払えない。
しかし、頭を振ってその思いを飛ばし玖堂は『疾風脚』を使い、戦場を舞った。
●幸運
「沖那君一人で、戦い続けているかもしれないとなると心配ですね」
ラルス・フェルセン(
ga5133)は『Good Luck』をかけたまま捜索を続けている。
定期連絡を取っている他班からは何も伝えられてはいないままだ。
それでも、足跡や物音などに気を配りラルスは同行しているヴァイオン(
ga4174)や佐伽羅 黎紀(
ga8601)と茂みをかき分けている。
「熱くなるのは好きな子口説く時位が良いですのに〜落ち着いたらデコピンしてお説教モードですねぇ」
どこか緊張感のない黎紀の言葉に微笑みそうになったラルスが人間の声を聞きつけた。
「今、声が聞こえてきました。あちらです!」
「善は急げですね、いきましょう」
ラルスの指差す方向へヴァイオンは1人『瞬天速』で森の木を蹴りながら向かう。
飛び出した場所は開けたところであり、そこで少年が1人傷だらけの姿でキメラと戦っていた。
「おっと、これは本当に急ぐ必要がありそうです」
覚醒ではなく、体質により黒くなった髪を揺らし、ヴァイオンはゲイルナイフと快刀「嵐真」を構えてアスラへ踏み込む。
沖那と戦っていたアスラは沖那を攻撃しつつも余っている手でヴァイオンの二刀流を次々に弾いた。
「多数の手を持つ相手とは聞いていましたが、面倒ですね‥‥」
弾かれたが、踏みとどまりつつヴァイオンは舌をうつ。
『カミ‥‥イズル‥‥コノチ‥‥ソウゾウス』
ヴァイオンの呟きにアスラは意味不明な言葉を返した。
「神とかなんかよりも、友人を返してもらえませんか」
「それに‥‥俺を無視するじゃ‥‥ねぇっ!」
目の前の戦闘に注意を引かれていたアスラにラルスのアルファルより放たれた『影撃ち』の矢が胸に刺さり、沖那からの斬撃が止めを刺す。
「‥‥大丈夫?」
「これでも‥‥強く‥‥なってるんだぜ‥‥だが、まだ‥‥敵がいる」
黎紀の声に息をきらせ、夕凪を杖のように立ててたっている沖那は答えた。
その言葉の通り、まだアスラや大蛇キメラが姿を現す。
「ここまでキメラが発生することは‥‥いままで?」
「あったら‥‥もっと‥‥はやく頼んでる‥‥っての」
黎紀が片っ端から持ち替えた小銃「フリージア」で撃ちながら沖那へ聞き、沖那はそれにいらだつように答えた。
「沖那君は動けますか? 動けるなら逃げながら迎撃しますよ」
「休ませた方がいい‥‥大丈夫、私が担ぐ」
連戦で疲労しているのは目に見えていたため、黎紀は沖那を問答無用で担ぎ、フリージアの弾倉を交換する。
『ソノ、オノコ‥‥ノガサナイ』
「狙いは沖那君か‥‥けど、はいそうですかとはいかない!」
人語のように聞こえるアスラの言葉にヴァイオンは答え、1人ヒュドラスピアに持ち替えて心臓を狙って突いた。
(「なんで今になってアスラが? 本当の両親の話とか謎を残したままでしたね」)
覚醒をとき、ぐったりとなった沖那をみて、ラルスは内心呟く。
「こちら黎紀‥‥沖那を確保した森の入り口まで撤退する」
ラルスの逡巡など関係なく、事態は動いていった。
●合流‥‥そして、本当の敵
「磨理那様から戴いた称号に、恥じない働きをしなければ‥‥!」
「つっ‥‥もう少し加減してくれ」
戦闘を越えてきたため練力を少しでも温存しようと”戦場の癒し手”雫は沖那に救急セットを使って治療を施していた。
3班に分かれていた能力者たちは合流し、それぞれの情報を交換する。
「ラルス‥‥山戸を探しているときにアスラにあったんだが‥‥」
「わたしも〜、戦いましたよー。 あの場所以外見かけられないキメラだったんですけどー?」
「俺の方は大蛇としか戦わずじまいでした。けれど、あのアスラが沖那君狙いだとするならば目的はなんなのでしょう?」
長い間沖那と関わっていた3人は顔をあわせながら考えをめぐらすが、ピースが少なくはっきりした答えが出てこない状態だった。
「どうでもいいけど、アスラってどんな奴なんだ? 沖那とはどういう関係なんだよ」
「私も聞きたいの」
「アスラは‥‥俺が初めて戦ったキメラで、誤って一般人を殺したこともある依頼の敵でもあった」
傷の手当てを受けて、多少落ち着いたのか沖那が立ち上がり、興味をしめしていた八洲と乙に説明をしはじめる。
故郷でキメラに襲われ、助けられて能力者になり、そして出向いたこと。
そのとき覚醒で強い性格の『タケル』が現れたこと。
沖那のエミタが過去の大規模作戦で死んだ能力者のものであること。
エミタの摘出で、厳しい制約付きながら一般人に戻ることも出来たが、能力者でいることに決めたことを沖那はゆっくりとだがはっきり伝えた。
「そんな話があったとは‥‥姫様は何もいわずに指導しろといったのはそういう理由があってか。だが、もう動けたりできるのならさっさと研究所へいくぞ。エミタのメンテをしなければならない」
乙や直人と一緒に話を聞いていた八洲が沖那の肩を叩く。
「ああ‥‥そうだ‥‥なっ」
叩かれた瞬間、沖那が苦しむように胸を押さえ、膝をついた。
目を見開き、がたがたと体を揺らす。
「だ、大丈夫ですか!? なにか、処置を間違えたりしたりとか‥‥」
不自然な沖那の動きに雫が心配して、近づいた。
ヒュッと空を何かが切り、差し伸べた雫の手のひらが切れ赤黒い血が溢れる。
「え!? ‥‥いたぃっ!」
一瞬のこと過ぎて痛覚より先に驚く雫だが、すぐに手のひらを押さえ沖那の方を向いた。
「危ないっ!」
雫の頭に向けて振り下ろされる夕凪を瞬時に覚醒した直人がリンドヴルムで受け止める。
振り下ろしているのは沖那であるが表情は読めないほど硬かった。
「まさか、タケルか!」
フォルの叫びに沖那は答えず、直人を夕凪で押しのける。
「なんてパワーだ、リンドヴルムが押されている!?」
「沖那さん、目を覚ますの」
直人と入れ替わるように乙が入り、イアリスの腹で沖那を気絶させるように狙った。
無言で沖那はバックステップをし、乙の攻撃をかわす。
今まで見てきた沖那の動きでないことは乙にも分かった。
「動きが違うのは先ほどいっていたエミタの前任者のものでしょうか‥‥できれば、負傷させたくないので大人しくしてください」
翡翠が異常を感じてすぐに『練成弱化』を駆け出した。
「あたしも回る‥‥いや、こっちが先か!」
いつの間にか周囲に現れた大蛇キメラに気づいた東雲が『流し斬り』で大蛇キメラを斬る。
「沖那君、自分を確り持って下さい! キミは『沖那』‥‥私達の仲間です!」
ラルスも傷ついた雫を沖那から離し、またエネルギーガンで口をあけて襲ってくる大蛇を貫いた。
それでもなお呼びかけるのは信じているからである。
「この馬鹿者! 『あの時』の事を繰り返すつもりか!?」
乙とフォルが沖那の攻撃を抑えている間に玖堂が自らの得物である『エリシオン』を手放し、振り上げた沖那の腕を狙った。
しかし、それを邪魔しようと大蛇が飛び掛る玖堂へ鎌首をもたげていく。
「やれやれ、無粋すぎますよ」
だが、ヴァイオンのコートより放たれたナイフに貫かれ大蛇は倒れた。
「そらよっ!」
玖堂の蹴りが沖那の腕にあたり夕凪が落ちる。
そのまま玖堂は地面に沖那を押さえ込んで関節技を決めだした。
「沖那‥‥さん」
「あっちは大丈夫ですから、まずは貴方を治しますよ」
片手を負傷して超機械を上手く扱えない雫に代わり翡翠がその傷を治す。
「あとどれくらいかかる? ‥‥さすがに面倒だ」
銃をしまい、本来の得物であるヴィアとサーベルに持ち替えた黎紀が頭から胴からと大蛇を斬り捨てていった。
「もう少しだ、沖那君! タケルにも勝ったのだから、エミタの宿命でくじけてはだめだ!」
フォルが呼びかけている間に沖那は玖堂によって追い込まれていく。
「うぅ‥‥あぁ‥‥」
仲間からの呼びかけによって、暴れていた沖那の動きは鈍くなっていった。
「今‥‥これを沖那に飲ませる」
黎紀が持っていたウォッカを玖堂に投げる。
「もう一度‥‥眠っていろ」
玖堂が無理やりウォッカを沖那に飲ませると沖那はぐったりとその場に横たわった。
「あとは大蛇退治なの」
しばらく沖那の様子を見ていた乙だったが、立ち上がらないのを確認すると大蛇キメラの方へ向き直る。
「目覚めたときにお説教はとっておきましょう」
安心したフォルもキメラに向きなおり戦闘を再開させていった。
●今日の説教部屋
「まったく無茶しすぎだ。これで、運が悪かったらどうするつもりだったんだ?」
「沖那さんには故郷があります。ですが、今帰る場所はこの京都です。磨理那様を心配させてはいけません」
襖で仕切られた部屋で正座をさせられた沖那が翡翠と黎紀により説教を受けている。
その他の能力者たちも沖那を円で囲うようにすわり、沖那にとって逃げ場のない状態だった。
「沖那が複雑な事情をもっているのはさっきの話でも、報告書でもわかってるけどな。それでも抱え込むのはよくないぜ?」
「そうですよ〜。前にも言いましたが、頼っていいんですー。『仲間』なのですから〜。そこの八洲さんも磨理那さんも沖那君の大切な人なのでしょう?」
「それは‥‥そうだけど‥‥ごめん」
エミタに操られ意識なく戦っていたことを聞かされた沖那は元気なく項垂れて話を聞くだけである。
タケルのときと違い、意識なく傷つけてしまったことを本当に反省していた。
「人は間違いを起こします。でも、それを引きずっていてはいつまでも成長できませんよ?」
傷つけられた側である雫は傷の癒えた手で沖那の頭を撫でて微笑む。
「今更あがいても過ぎた時間も、失った命も、傷つけた事実は戻らない。どうせあがくなら、これからどうしていくか本当に考え直してみたらどうだ?」
「分かったよ‥‥考えてみる」
雫に撫でられている沖那は東雲からの言葉を素直に受け取り、答えた。
「その言葉、信じますよ。でも、忘れないでください。言葉は言霊といって命を持っているものです‥‥沖那さんの言葉を信じる私達の気持ちを裏切らないでください」
黎紀は沖那の返事に満足そうに頷きながらも釘を刺す。
沖那の心にその釘は深く突き刺さった。