●リプレイ本文
●再会の喜びを分かち合い
「凛華ちゃ〜ん! お久しぶり〜会いたかったわ♪」
「あら〜ナレインちゃん♪ 私も会いたかったわ〜ん」
美女二人が熱いハグをしている‥‥かのようにみえた。
どちらもスリットの深いチャイナドレスを着ていて、薄く化粧を施しているため女性と見紛う姿だが男性である。
ラストホープのとある中華飯店『凛々亭』では『Wind Of Hope!』の月見企画の準備の真っ最中だった。
ナレイン・フェルド(
ga0506)と店主の凛華・フェルディオは再会を喜んだあと月餅を用意したり、お茶を水筒にいれたりと準備を整える。
しばらくして準備を整えた二人はチューブトレインの駅へと向かった。
「あら、あの子背中からススキがでているわぁ」
「それじゃあお仲間かしら?」
青いリボンでとめたツインテールを揺らしてナレインが駅で待つフロリア・クロラ(
gb2796)を見つける。
「あ、『お姉さん達』今晩わ!」
フロリアもナレインたちに気づき、ペコリとお辞儀をしながら挨拶をした。
「お姉さん達だって、可愛い子ねェ」
「ほんと、いい子」
凛華とナレインに撫でられつつも、どうして撫でられているかわからないフロリアはコクリと首をかしげる。
そのまま3人は一足先に現場へと向かうのだった。
●月を見ながら
「『海の見える丘』、2月の特番でも使ってやがったですが、ライディにとって特別な場所?」
クリーム色の着物を着たシーヴ・フェルセン(
ga5638)が『Redio−Hope』のバンに乗りつつ隣に座るライディ・王(gz0023)に首をかしげながら聞き出す。
「いってなかったかな? ぼ‥‥いや、俺が始めてラストホープに来たときにずっと見ていた場所だから」
「そんな話、俺は初耳だぜ?」
バンを運転しているアンドレアス・ラーセン(
ga6523)が後部座席の二人にバックミラーから顔を覗かせ、声をかけた。
「ライディも男らしくなって‥‥これも愛の力ってやつかね?」
「な、何をいっているんですか!」
「アンドレアス‥‥いじわるでやがるです」
ライディもシーヴも顔を真っ赤にしてアンドレアスの軽口に講義の声を上げだす。
「それはそれとして、欧州では月にいいイメージがないからな‥‥こうして、月を見ながら楽しむなんて企画は意外だったぜ」
ニヤニヤと笑いながらアンドレアスはハンドルを握りつつ月を眺めて小さく言葉に出した。
シーヴも同じように不思議な気持ちで空に浮かぶ満月を見上げる。
大規模作戦で慌しい中、綺麗な月がどこか優しく微笑んでいるように感じた。
●深夜の収録準備
「やっほー、ちゃんとつれてきたよー」
「コハルちゃんありがとう。助かったよ」
スタッフでもある葵 コハル(
ga3897)はチューブトレインでイベント参加のリスナーを案内してきていた。
10人近くの能力者や今回の企画に乗ってきた大勢の一般人リスナー達が深夜の丘に集まっている。
凛華とナレイン、そして便乗してきたフロリアが共に月餅とお茶を配っていた。
「盛り上がっているうちに準備進めましょう、アンドレアスさんも機材の設置お願いします‥‥といっても後日の編集しますけど」
「了解。こんなところがラストホープにあったんだな‥‥告白イベントをやるにはたしかにうってつけだ」
宴を楽しむ人の声しか雑音の聞こえない小高い丘を見渡してアンドレアスは呟く。
「本当に綺麗な月夜‥‥夜って落ち着くわね。はじめまして、ライディ。私はケイよ」
「こんばんわーライライ。差し入れだよ」
騒いでいる人ごみの中からケイ・リヒャルト(
ga0598)がラウル・カミーユ(
ga7242)と共にライディの方にやってきて軽く挨拶をした。
「ケイさんは初めまして、ライディ・王です。ラウルもありがとうね」
ラウルから差し入れのクッキーを受け取りライディが食べようとすると急にラウルが止めだす。
「ああっ! 間違えた、そっちはリュンちゃん用の激辛スパイスクッキーだったよ」
「%’&$!?」
時すでに遅し、しっかりと一枚食べたライディは声にならない声を上げた。
「ライディ、ウーロン茶でも飲むです‥‥砂糖持ってきてなかったのが悔しいです」
「ウーロン茶に砂糖は流石にないとおもうよ、シーヴ」
コハルがシーヴの肩を叩きふるふると首を横にふる。
「ライディは貧弱だな。この程度で根をあげるとは凛華から貰ったアイス月餅でも食べろ」
激辛スパイスクッキーの主ことリュイン・カミーユ(
ga3871)もやってきて平然とした顔でクッキーを受け取り屠りだした。
(「番組開始までには口の中治っているといいけど‥‥」)
変わりに貰ったアイス月餅を食べつつ、ライディはひそかにそんなことを心配する。
番組開始の深夜零時まで残り5分だった。
●深夜のラジオに耳を傾け
『ライディ・王の『Wind Of Hope!』今夜は午前零時より収録しています』
いつもよりトーンを下げた静かなジングルと共にOPコールが始まる。
『今夜は深夜、月を見ながらの放送です。こちらでは参加していただいたリスナーの皆さんが盛り上がっていますので、後ほどインタビューに向かいたいと思います』
ライディの声を聞きながら、ルナフィリア・天剣(
ga8313)とリュス・リクス・リニク(
ga6209)は”リクス”と呼ばれるリニクの別人格が作った月見饅頭を寄り添って食べていた。
「月見の風習は中国起源でそれが日本に伝わった、だったか? 月を模した饅頭や餅というのは興味深いものだ」
しばらく沈黙が流れていたが、ルナフィリアの方からリニクに声をかける。
今の彼女はリニクという人格だからだ。
「あのね‥‥ちょっと‥‥聞きたいこと‥‥ある‥‥んだ?」
「リクスのことだったら、私は好きさ。気が付いたら特別な、大切な人になっていた」
「あう‥‥そう、なんだ‥‥」
縮こまるリニクとは対照的に凛とした姿でルナフィリアはリニクの頭を撫でる。
それはルナフィリアの好きな相手、リクスにやることと同じことだった。
「私に生きる理由と戦う目的をくれた、『彼女の幸せの為に』力を尽くすという目標を見出させてくれた、愛しい人だ‥‥」
ルナフィリアはリニクの頭をなでなおす。
すると続いて放送が流れてきた。
『欧州の方には満月というのに不吉なものを感じやすいとおもっていますが、今宵の空は綺麗ですよ』
『そもそも月にうさぎがいるといわれるようになったのは、昔の仏教寓話もに発端があります』
『森に迷い込んでしまった老人に動物達はえさをもっていきましたは、兎だけは草で食べれるものではなかったのです』
騒がしかった雰囲気が静まり、ライディの語りに耳を傾けている。
『兎は老人に火をおこしてもらい、そこに身投げし捧げました。すると老人は神の姿に変わり、兎の自己犠牲心を尊び月にしたといわれています』
「自己犠牲の末、兎は神に認められたのですね‥‥」
ライディの語りに耳を澄ませていたハンナ・ルーベンス(
ga5138)は誰にいうのでもなく呟いた。
いつもはスタッフとして動いている彼女ではあるが、準備だけを手伝ったあと彼女は1人丘にいる。
「レナーテ院長‥‥私は皆の分も意義ある人生を送れているでしょうか‥‥?」
答えが分からず、何度問いかけてきた分からない問いをハンナは口にだした。
月を見上げれば影が確かに餅つきをしている兎にもみえなくはない。
そのとき、ハンナははっとした。
『同じものでも見るときの気持ちが変れば見え方が変わるのではないか』ということに気づいたのである。
「この月と同じように私がいつまでも送れていないと思っているから、そう思えてしまうのかもしれませんね」
この『最後の希望』と名の付く島で、かけがえのない友と出会い新しい家族が出来た。
そうであるのに、どうして意義がないといえるのだろうか。
「どんなに辛くても、弱音を吐いていたら勿体ないですね」
ハンナは1人納得し、夜風を頬に受けながら天で餅をつく兎に優しく微笑みかけるのだった。
●あの思い出を胸に
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は胸ポケットに紅色の菊をさし、半年近く前に告白を行った場所へと足を運ぶ。
そのときは隣に暖かな風が流れていた。
「‥‥次はアジア、か」
海の向こうを眺め、見えない戦場にホアキンは思いをはせる。
月光に照らされた海原を肴に酒を飲み月餅を一口食べて、恋人との思い出をゆっくりと思い出していった。
周囲には誰もいないその場所でホアキンはゆっくりと口を開く。
「この海の向こうには君とであった名古屋がある。その空で僚友たちの翼が凍えぬように雷電の名前をインカの太陽神にちなんで『インティ』と名づけたよ」
夜風に乗せて言葉が恋人に届くよう願いながらホアキンは言葉を紡ぎ続けた。
「俺の心を暖めてくれた君のためにも、俺は太陽でいるよ」
屈託なく微笑むとホアキンは煙草に火をつける。
その紫煙は海の向こうへと流れていった。
●突撃インタビュー
『はーい、どうもコハルです! ご存知の方もいらっしゃると思いますが、能力者アイドルグループ『IMP』として活動してるので、『アイドルの星』を目指してます』
インタビューコーナーに移るとボイスレコーダー片手にコハルが今回のテーマでもある『星』についての思いを語りだす。
「コハルちゃーん、がんばれー!」
『応援どうもです! 今回はアイドル活動ではないのでサインは後でこっそりと書きます。マネージャーには内緒で』
「聞こえてますよー」
『にゃははそうでした。実に複雑な関係っ! っと、話がずれたけど能力者は戦うだけじゃないって事を知って貰いたい』
『武器を持って戦う事だけがバグアに立ち向かうんじゃないんだ、って考えてくれる様になれば良いな、って思います』
ライディからのツッコミを受けて苦笑しながらも言いたいことを言い終えたコハルはお辞儀をし、拍手を盛大に受けた。
そして、アンドレアスがBGMを流しインタビューコーナーに移る。
『まずは恋が実ってウキウキ気分のサブパーソナリティのシーヴに突撃DA!』
「その流れ聞いてないでやがるです‥‥」
無表情ながらもしてやられたという雰囲気をかもしだすシーヴにコハルがボイスレコーダーをマイクのように向けた。
『ほらほら、インタビューの見本を見せたりした方がやりやすいでしょ? さぁ、答えるのだ!』
「星っつーのは旅人の標地を歩く時も海を行く時も、迷わねぇよう導いてくれるモン」
「そういう意味じゃ、シーヴにとっちゃ『人』が星。ライディもコハルもアンドレアスもラウルも他のモンも」
「皆、シーヴの星でありやがるです」
しかし、思うことがちゃんとあったシーヴはハッキリした声で話し、微笑しながら締める。
『ありがとう、シーヴ! 私もシーヴが大好きだよ!』
感極まったコハルがハグっとシーヴを抱きしめた。
「コハル、番組すすめやがるです」
『おっとそうでした。次はー誰にしようかな〜?』
宴会モードの人ごみを見回して、目星をつけた銀髪の人物に声をかける。
『ささ、インタビューですよ。星について何か答えてくださいな』
「む、我か‥‥そうだな、近くに見えて遠いもの。光で人を惹きつけるけれど、なかなか手には入らない――そんな存在だ」
ボイスレコーダーを向けられた人物はそんな風に答えた。
「‥‥手に入ったように思えても、思うようにはいかんのだよなぁ」
「それじゃあ、私もまとめて答えちゃおうかしらっ」
銀髪の人物の声をさえぎって、背の高い黒毛の三つ編みの人物が月餅片手に割り込んでくる。
『ど、どうぞ』
「コハルちゃんみたいに私も目指すもの。好きな人に少しでも近づくためにねぇん。キラリと光る綺麗な星に私もなりたいわ by蓮華」
「凛華ちゃん好きな人がいたのね、もっと詳しく聞きたいわ」
「ラジオじゃ流せないから、後でゆっくりとね。それと本名晴らしちゃだめじゃないの♪」
『ありがとうございました! えーと、次は〜』
次の人物を探しているとき、ライディがケイと一緒に打ち合わせをしている金髪の成年と黒髪の少女を指でさした。
盛り上がる凛華達を後にコハルがその指示に頷いてこっそりと近づく。
「素敵なフレーズね? それじゃあ歌を載せてみようかしら?」
「おおー生演奏!」
金髪の成年がギターを軽く弾きながら音あわせをしていたためか、ものめずらしそうに双眼鏡を首に下げた少女らがギャラリーを形成していた。
その間をかき分けてコハルが突撃していく。
『はーい、どうも。お二人にとっての星を聞かせてください』
「このときに来るかよ‥‥あー、俺の祖先は星を頼りに北海を渡ったという。ずっと見つめてた俺の星は遠くへ飛び去った」
ギターのチューニングをしつつ金髪の成年が思いを漏らした。
「だけど今は知ってる。俺の航海を導く星はすぐ近くに沢山いるってこと、大切な全ての人へ心からの感謝を RN:空飛ぶ海賊」
成年は一度ギターを鳴らし、コハルにウィンクを飛ばす。
『ありがとうございました。そちらのお姉さんも良ければ聞かせてください』
「宇宙の塵が此処で見れば光り輝くモノとなる。とても不思議。‥‥強さとそして儚さを感じる‥‥まるで人間みたい。そうね、RNは『Schwarze』で」
『歌をつくっているのか詩的な表現ありがとうございます。二人の爪の垢をください。煎じてのんでアイドル活動に使いたいと思います』
憧れか丁寧な口調になったコハルが二人の回答に素直な感想を述べた。
『えー、それはここで一曲。今のお二人による生演奏をどうぞ』
ライディの一声に拍手と歓声が沸きあがる。
「やってやって、私おつきみもはじめてだし、生演奏もはじめてだから聞かせて欲しい」
双眼鏡を首から下げた少女や他に囲んでいたギャラリーに言われて、一息ついた”空の海賊”はギターを構え、”Schwarze”にタイミングの指示をだした。
”Schwarze”は頷き、発声練習のあと抑揚を効かせ甘く切なく歌いだす。
♪〜〜
Moonrise
I’m waiting for you
laying down on the bed of flowers
Moonset
I’m thiking about you
sheding so many tears
I wish you were here
But only your smell remains with me
〜〜♪
月の情景が浮かぶような歌を歌い終えた女性は拍手の中、涙を溢れさせたのだった。
●閑話休題
「王、これは秋の花だ。シーヴにプレゼントしてあげなよ」
煙草を吸い終えたホアキンが静かにライディの元に寄ってくると胸ポケットに入れていた菊の花を手渡す。
「ありがとうございます。ホアキンさんは何か最近元気がないようですけれど、大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だよ。菊の別称は『星見草』。赤い色は『愛情』を表している」
気負いなくホアキンは微笑み、そのまま立ち去っていった。
『星について思うことを聞かせて欲しいです』
『『星』かぁ‥‥うーむ‥‥見守ってくれるもの? 長い時間かけて僕らの目に届くんだっけ。星の光って』
『それ考えると、何か長ーい間ずっと見守ってくれてるよにも思える』
『そこに居なくても‥‥何か親とか友達とか、そういう存在と似てるカナ?』
番組は今シーヴがコハルと交代してインタビューを聞いている最中である。
「おいおい、おまえと一杯やりたかったんだが帰るのか?」
アンドレアスも惜しいのか酒瓶を片手にホアキンをじっと見た。
「悪い‥‥また、今度な」
ライディに向けたのと同じ笑顔をアンドレアスはホアキンに向けて去っていく。
その後ろ姿は何かを抱えているようで、誰も声をかけることは出来なかった。
「えっと‥‥ライディ‥‥と‥‥最近‥‥あって、なかった‥‥から‥‥つい、来ちゃった‥‥♪」
沈黙が流れていたがそこにリニクがやってくる。
「あ‥‥えっと、その‥‥ごめんね。また落ち着いたら遊びに行くよ」
幾分和らいだ空気の中、ライディはリニクに微笑しつつ答えた。
「うん‥‥元気でよかった」
リニクの方も釣られて笑顔になる。
「アンドレアスさんもケイちゃんもお疲れ」
「お、おう、ナレインか」
「凛々亭自家製のお茶よ。暖まるから飲んでね」
挨拶に来たリニクに釣られてか、ナレインも水筒片手に差し入れをしにきた。
湯気の立つお茶と甘い月餅はとてもあう。
「月餅といえばさ、少し伸ばして表面に焦げ目がつく位に焼いて、中華の五目あんをかけるのも美味しそうな気が‥‥」
自分で用意した月見団子とタレを広げつつコハルが想像をして涎をたらしだした。
「ふふ、あとで凛華ちゃんに話しておくわね。新メニューで並ぶといいわね」
「考えたらおなか空いてきた。凛華さんとこに月餅もらいいってこよーっと」
コハルが移動しはじめたとき、シーヴのインタビューが聞こえてくる。
『星についてのメッセージがありましたらどうぞ』
『星は私にとっては遠く気高い理想に近い。届かなくともそれでも星の輝きに手を伸ばしたい』
『大切な人が居るならば、いつか届くと思うから』
『関係無いけどKVをシュテルンって名付けてたら、クルメタルの新型と被ってしまったので改名しました by私をてんてんと呼ぶな』
「気高い理想か‥‥大切な人がいれば手に届く‥‥俺はこの先何を求めていけばいいんだろう」
コハルの後ろを眺め、メッセージを聞いたライディは小さく呟いた。
●夜の一幕
「忘れないようにたまには思い出さないとね」
番組も終わり、それぞれが思い思いの夜を楽しみ出した頃コハルは1人バンの中で、ライディに用意してもらった巫女装束に着替えて舞を踊りだす。
月夜の下、小太刀が光を放ち幻想的な空気を作り出していった。
音楽はなく、空を小太刀が切る音や、草鞋で地を踏む音だけで構成される神楽が創りだされる。
「ここには大規模作戦が終わったあとにでもまた来てぇです。無事に還ってくるですから‥‥『Vi ses』は絶対の約束です」
そんなコハルの舞をみながらシーヴはライディの隣に座り一緒にお茶を飲みつつ語りあっていた。
「今度は中国だったね。安定したら戻ろうかと思っているよ」
シーヴの肩を抱き寄せてライディは考えていたこと話す。
「あの二人はいいな‥‥って、こら阿呆兄、我の分の酒を飲むな」
ライディとシーヴを肴にリュインやラウル達は酒を飲んでいた。
「可愛い妹分だから悲しませて欲しくないなー。させたら、ライライだろうと狙撃スル」
「まったく‥‥珍しく歌を聴いてしんみりしていたと思ったら、いつもの調子か‥‥」
酒とは違う頭痛を感じながら、リュインはため息をつく。
「コハルもシーヴも無茶してなければいいんだけどな」
年長組みでもあるアンドレアスも心配そうな視線をむけて残りの月餅などを集めていた。
「他の人はいっぱい帰っちゃっているわね。ほら、お酌よ」
月餅も出払い、番組も終わったことで帰りだす人がまばらにでいている。
「月見酒っていうのもいいな‥‥。風情がある」
「そうね〜。いつもこ〜して穏やかな気持ちで居られたら‥‥」
アンドレアスが一杯飲み干しながら月をみあげると、ナレインも同じように見上げて答えた。
そのとき、ライディとシーヴの顔の影がそっと重なる‥‥。
●朝を迎えて
夜明け‥‥光る朝日の中、後光を纏ったようなハンナの姿と歌声を確認したという人間が多数いた。
「聖母マリア様、私を今この時この地にお遣わしになられた事を感謝いたします‥‥」
ハンナの目には迷いはない。
一夜明けることにより、彼女の心はこの朝日のように澄み渡り、輝いたのだ。
それぞれの思いに区切りをつけて、日は昇り道は進む。
始発のチューブトレインが駅に到着した。