タイトル:【AW】飛べよ鯨マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/23 04:15

●オープニング本文


  大規模作戦はアジアで大きく動き出した。
  今までにない大きな戦域をカヴァーするための作戦が各自のUPC軍で進められようとしていた。
  
●UPC西海岸空軍基地
「本日の輸送任務を指揮するUPC中央軍所属のジェイド・ホークアイ大尉だ」
 野暮ったいパイロットスーツに身を包み、ヘルメットを小脇に抱えた男が能力者たちと握手を交わす。
「任務の詳細を聞いていると思うが、ここで再確認をする。諸君らは我々のF−15と共にKC−135系航空機『ストラトホエール』をアジア圏まで輸送してもらう」
 握手の後、そのままブリーフィングルームにて、大尉からの説明が始まった。
「ほぼ洋上を渡る長距離航行となる。ストラトホエールはKVや戦闘機の空中補給が可能な空中給油機のため、アジアでの大きな戦いには必要不可欠にもなる。空輸練習と共に実戦への投下をする」
 ジェイド大尉は性能説明を終え、さらに課題を上乗せした作戦プランを提示する。
「本作戦では大きく3つのグループにまとまる。ストラトホエールも3機、そのうちトップにF−15部隊が配備する。残り2機のホエーリルや通信確保は傭兵によってフォーメーションを組んでくれ」
 さらにホワイトボードに簡単な図を描き、作戦の流れが書かれた。
「質問はあるか?」
 大尉がぐるっと見回して、傭兵達の顔を見ていく。
 ラストホープから呼ばれてきた傭兵達はそれぞれの面持ちで大尉の目に返した。
「よし、全員いけるな? ここで作戦からはずれるようだったら軍曹からマンツーマンの訓練があるから覚悟しろよ」
『作戦開始まであと5分。パイロットの皆さんは至急準備をしてください』
 やや高い男性のオペレートで作戦は動き出す。
 
 ”Catch the Sky!”
 
 空を取り返す大きな作戦が開始された。

●参加者一覧

ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
緑川 めぐみ(ga8223
15歳・♀・ER
憐(gb0172
12歳・♀・DF

●リプレイ本文

●『鷹』に対する思い
「‥‥すまんな大尉。俺としては、そっちへ回すのは1機か2機で充分だと思ったんだが」
『フォーメーションは任せるといったはずだ。気にするな。愚痴はこれが終わったら俺が聞くから今は仕事に集中しろ』
 ゲック・W・カーン(ga0078)からの急な謝罪にF−15パイロットであり、作戦指揮官のジェイド・ホークアイ大尉はいさめる。
 現状F−15、6機がホエール1につき、そのまま12機のKVがホエール2、3と均等に配置されていた。
 北米を離れ太平洋上まで出てきたが現在のところ何も異常はない。
『ジェイド大尉、お久しぶりです。ご一緒できて嬉しいです』
『所属と階級、もしくはTACを名乗れ』
『ははは、すみません。TAC、Suzaku。所属は【空戦部隊Simoon】です』
 ジェイドからの少しからかい混じりの声にフォル=アヴィン(ga6258)は緊張のほぐれた様子で言い直した。
 そんな様子を聞いていた同じF−15乗りからは大尉の人気をうらやむ声がオープン回線で響く。
「相変わらず気楽だな‥‥そこがすごいっちゃすごいんだが」
 ゲックはこのF−15乗り達が名古屋戦線から生き残っていることを素直に尊敬していた。
『落ちた奴もいる‥‥そして化けて出てきたのもな。運も実力のうちという言葉はあながち間違いじゃない』
 少し寂しい声が聞こえ、ゲックは口をつぐむ。
 キメラに体当たりして傭兵を救ったイーグルドライバーの話や、ゲックとフォルが戦った無人F−15【グリフォン】など後ろ暗い話もあたのだ。
『長く飛んでると‥‥体がガチガチになっちゃいそうだと思っていましたけど‥‥気分が軽くなります』
 藤宮紅緒(ga5157)が杞憂になった心配にホッとするような声を出す。
 初めてのKVによる長旅に不安があった。
『もっともウーフーや岩龍によるジャミング中和がなかったらここまでクリアに通信できなかったかもな?』
 中央のホエール2に追随しているファルロス(ga3559)がそんなことを呟く。
 岩龍から乗り換えたウーフーの調子は良好らしかった。
『魅惑のレディは鯨のワールドツアーを応援しています。頑張れ人類!』
 何か目的を間違っているかのような藤田あやこ(ga0204)がゲックのコックピット画面に体操服にブルマという格好で写しだされ、ゲックはそれを閉じる。
「そろそろ、第一回補給ローテーションといったところか」
 燃料の残りを把握していたゲックが呟くとコックピットにレッドアラートが響いた。
『敵機、前方より接近、ヘルメットワーム数十機、と噂のグリフォンが数機来ている』
『このまま順調――に行ける程、甘くはないわよね。更に気合入れていきますか』
「まったくその通りだ。これ以上イーグルの名を汚させるわけにはいなないぜ」
 ファルロスからの通信を受け、智久 百合歌(ga4980)とゲックは共に頷き迎撃体勢に移る。
 補給の隙を狙ってきた敵の動きに能力者達は激戦を覚悟した。

●言い知れぬ不安
『ディアブロは、突っ込む機体だと思われがちにゃけど、その破壊力は遠距離戦でも十全に発揮されるのにゃ!!』
 憐(gb0172)が叫び、ホエール2に接近してきた敵機をスナイパーライフルD−02で撃ち落していく。
 リロードの隙をかいくぐられないよう、ホーミングミサイルなどで補助も忘れてはいなかった。
 憐機の横を鈴蘭をあしらったエンブレムをつけた勿忘草色で塗装された機体が迎撃を手伝う。
 ヴァシュカ(ga7064)のアンジェリカだ。
『やらせないよっ!』
 数だけは多く、すべてを蹴散らすには中々骨が折れる。
『この堅いF−15がさっき言ってたグリフォンか? 嫌なものを持ってきてくれる』
 威龍(ga3859)が残りの敵機数を確認しながらウーフーを駆った。
『先手必勝といいますからね。派手にいきましょう。盛大な歓迎の花火です』
 緑川 めぐみ(ga8223)のディアブロからアグレッシヴ・フォースを込めたG放電装置が唸りグリフォンへとくらいつき落としていく。
 補給をしながら、穴を埋め、各機が上手く立ち回り敵を排除しきった。
「しかし、これだけか? なにやら拭えないものがある」
 ワイバーンを駆りながら御影・朔夜(ga0240)は煮え切らない何かを感じている。
『マンタ・ワームというのが水中からでてくるかもしれないってところじゃないかな?』
 葵 宙華(ga4067)が調べてきた資料による情報から伏兵が水中にいることをさした。
「それであれば‥‥いや、そうなのだろう」
 誰に言うにもなく御影は呟き己の脳内にある確執を振り払う。
『現在水中ともども異常なしのようだ。補給不足のものは補給の後、隊列に戻れ』
 ジェイド大尉の指示の元、戦闘態勢から警戒態勢に移りだした。

●戦乱のアジアへの突入
『射程距離のことを考え、これにしましたが、威力低いです。話に聞く高性能バルカンほしいですね。射程距離と威力、あと命中率が高ければ最高なのですけど』
 ホーミングミサイルを撃ちつくし、G放電装置もあまりないことにめぐみ機からため息が漏れる。
『Ronより、全機へ。海中からお客さんがくる!』
『はうぁ〜、まだ来るんですか』
 威龍の言葉に機体は休憩できても精神的に休めない藤宮が悲鳴をあげた。
『下方の敵を迎撃に行きます、射線から外れるよう鯨は移動を!』
『ホエールリーダー了解』
 フォル機からの通信に3機の補給機と6機のF−15は下方からの敵を避けるように機体を傾けコースを修正していく。
 浮き上がってきたマンタワームはそのままホーミングミサイルを撃ち出した。
 煙の尾を引き飛んでいくミサイルをフォル機が迎撃していく。
『ハーフタイムといってのんびりさせてくれないのね〜』
 インド洋上の手前で襲ってきた敵機にあや子は軽口を叩きバイパーで中国方面から来る敵機に対してスナイパーライフルD−02で撃ち貫いた。
「憐とファルロスは直衛、私と葵で敵など蹴散らしてくる」
 中国方面から来るヘルメットワームの軍団に御影機と葵機はホエール2から離れて接近戦を挑む。
 今回、御影はいつも襲う既知感を感じてはいなかった。
(「こういう経験も悪くない」)
 そう内心思いつつ御影は葵機とタイミングを合わしてヘルメットワームを屠り続ける。
『鴉の羽で刻まれ狼の牙で砕かれるがいいわ‥‥』
『6時より敵ディアブロ発見、各機気をつけろ! HWより厄介な奴が来たぞ』
 順調に戦闘が進んでいくと思ったそのとき、葵の静かな声とファルロスの一際大きな声が御影機のコックピットに響いた。
 編隊の真後ろ‥‥。北米方面より”それら”はやってくる。
 ファルロスからの通信に御影は気を引き締めた。
「B2からB4は対象の護衛を継続しろ。奴の相手は私がしてくる‥‥私には奴を沈める理由も義務もあるのでな」
『だからといって『はい、そうですか』なんていえないよ御影兄』
 編隊をはずれ、ディアブロに向かう御影機を葵が止めようとするも御影機はブーストをかけてディアブロに向かう。
 そのディアブロの型式は以前に南米へ向かうガリーニンを落としたものであることがファルロスが確認していた。
 だから、御影は止まらない。
『まーた、あの赤いのか積極的に動いて行こうぜ』
『やらせないよっ!』
 あやことヴァシュカがインメンマルターンを決めて進行方向を180%かえて敵機に向かった。
 そのとき、赤い機体が動く。
 上部装甲板が開き、ミサイル発射口が見えた。
『あ〜しまったぁー!』
 時にすでに遅し、ディアブロが盛大にミサイルをばら撒く。
 500発近いミサイルが空中に煙を撒き散らし、ホエール2、ホエール3を含めた10機の飛行物体を狙った。
 フォーメーションを均等にしていたため、ホエールは確実にロックされている。
『しかたないか‥‥大尉、先に逝ってます。あとはよろしく、PXのフェリーチェに告白するんじゃなかったなー』
 F−15の一機がインメンマルターンを決め、ホエール3の間に割って入りミサイルをバルカンで撃墜しながらその身をあてた。
 爆音と爆炎の中に鯨の身代わりとなった鷹が消えていく‥‥。
『すみません、俺もガードします』
 フォル機がブーストでホエール2の間に割り込み、ミサイルを受け止めた。
 ホエール2、ホエール2に追随していたKVたちも避けきれず受けていく。
 ただ1人、御影だけはすばやい機動でミサイルの合間を抜け、一直線に『赤い悪夢』へ向かっていった。
 急に現れた強敵にフォーメーションや作戦が崩れだす。
『悪いが、それでもやらなければな‥‥その悪夢、振り払わせてもらう』
 御影の瞳はただ1つの敵だけを見ていた。
 
●進路をインドへ
「水空両用なんて、嫌なモノ作るわね‥‥イーグルドライバーさん、お力を!」
 被弾して調子の悪くなったフォル機を尻目にヘビーガドリング砲で百合歌がホエールの下部より現れたマンタ・ワームを攻撃していく。
 その声に連動し2機のF−15がスプリットSを描きながら援護に飛びバルカンを当てては逃げる戦法を取った。
 釘付けされたマンタ・ワームは百合歌機のガドリングで落ちていく。
「お魚をたべるにゃー」
 憐機がミサイルの攻撃を受けて、ボロボロになりつつもマンタワームへ攻撃を続けた。
『正面からもお客が来ているぜ‥‥』
『QWじゃなかったら、何でもいいぜっ!』
 ミサイルの衝撃を耐え抜いた威龍機からの通信にゲックが自棄になりかがら答え、ジェイド機と共に攻撃を続ける。
 3機のF−15によるフォーメーション攻撃で撹乱し、そこにゲック機のレーザー砲が確実にヘルメットワームを屠った。
『まだ、落ちません‥‥落ちるわけにはいかないんです‥‥』
 犠牲となってしまったベテラン軍人の死を目の当たりにして動けなくなりそうな体を奮い立たせた藤宮も下方から来るマンタワームにマシンガンとレーザーの攻撃を当てていく。
 ミサイルなどを撃ちつくし、殆どドッグファイト状態の戦場から大きな鯨は少しずつ進路をインドに向けて変えていった。
『ホエールの進路変更して脱出するまで引きつけろ、そして出来る限り落とせ』
 ファルロス機の温存していたG型放電装置が空を黄色に染め正面から現れたグリフォンを光に包んでいく。
「アナタ達には過ぎたものよ――手出しはさせないわ」
 マイクロブーストを発動させ、百合歌はストラトホエール達に攻撃を仕掛けるマンタワームにソードウィングで斬りかかり、更にヘビーガドリングで鉛の雨を叩き込んだ。
『心の痛みを知らないものにこれ以上やらせるものか!』
 悪夢のミサイルを受けて辛うじて耐え切ったフォルが怒りをあらわにしながら集積砲をヘルメットワームに叩き込み、リロードの合間をヘビーガドリングで補って一機一機確実に落とす。
 敵をみるフォルの目は涙で潤んでいた。
 
●悪夢を振り払い
「護衛のほうは何とかなりそうか‥‥こいつをどうにかできればな」
 無二の友が乗っていたであろうディアブロとウィングによる空中格闘戦を行いながら御影は呟く。
 どちらも当てることも出来ず、拮抗している状態だった。
『このイエローカード野郎、今度こそ退場させちゃる!』
『倍返しでいかせて貰います!』
 あや機ことヴァシュカ機が合流し、4対1での戦いが始まる。
 追加スラスターをつけているディアブロはあやこ機の8式弾頭ミサイルをかわしつづけたが、その隙に近づいたヴァシュカ機の高分子レーザー砲に釘付けにされた。
『鯨をねらってきたなら御影兄だけの敵じゃないんだよ、短距離高速型AAM発射っ!』
 追随してきた葵機から回避しきれないほどのミサイルの雨が悪夢に叩き込まれた。
「そうだな、私は1人で戦っているのではなかった」
 御影は呟き動きの止まりだしたディアブロにマイクロブーストで加速ながらブレードウィングで斬り刻む。
 赤い悪夢は翼を砕かれ、機体のところどころに大きく穴を開けつつ海へと落ちていった。
「私の目の前から消えろ」
 御影の一言共にG型放電装置が展開し、赤い悪夢は完全に消え去る。
『御影さん、隊列に戻りましょう。強敵が消えたからって戦いが終わったわけじゃないんです』
『了解』
 ヴァシュカの声に頷き、御影は旋回をしながら鯨と合流に向かった。

●犠牲の上に成り立つもの
「イーグル隊は、飽くまで決定力が無いだけであって、空戦能力は俺達と遜色無いどころか上だ。これまで撃墜されずに生き残っている事が、その証明だろうが!」
 インドの基地へ到着後、ブリーフィングルームにゲックの大きな声が響いた。
「それ以上言う必要はない。作戦は成功した。それで十分だ」
 ジェイドはそんなゲックを諌める。
 ゲックにしてみればフォーメーションの不備で鯨が落とされそうになったというのが本心である。
 悪夢の登場が予想外だったとはいえ、戦場では予想外のできごとなどざらだ。
「プラットは軍人として職務をまっとうしたのだから、今更どうこういってもそれは替えることなんて出来やしない。その代わりお前達がしっかりと戦い続けてくれることが重要なんだ」
 ブリーフィングルームで休んでいる能力者たちをみまわし、ジェイドは一言いう。
 この場にF−15乗りはジェイドしか来ていなかった。
「憐達のために‥‥命がけで皆さん仕事している‥‥それに正面からあれが来てたらもっとイーグルさん死んでた」
 長距離航行のために持ってきた鯛焼きを慰めるように憐はゲックに渡す。
「分かってる、分かってるけど‥‥くそっ!」
 壁を大きく叩きゲックはブリーフィングルームを後にした。