●リプレイ本文
●陸戦にかける思いいろいろ
「以前からここの開発は気になってたんです。今回の開発がうまく行って、陸戦機仲間が増えると嬉しいんですけど、ね」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)はメルス・メス社の会議室に足を運びながらそんなことを呟いた。
「トレーラー型というのは存外に難しい。いろいろと考えれてしまう分ね」
すでに席についているUNKNOWN(
ga4276)は禁煙と表示された室内の手前煙草を指で遊びつつニヒルに笑う。
「上からは需要がなきゃお蔵入りといわれてたからよ、とりあえず人が集まっただけでも俺としちゃあ良しだな」
依頼主のゴンザレス・タシロは集まってきた能力者の姿に汗を拭って息をついた。
「うーん、何と言うか、飛べないし運送用車両だし、地味だけど有効そうなKVだよね?」
ジュジューとドリンクを飲みつつクリア・サーレク(
ga4864)も今回テストユニットを作ることになった『クローラー』の素案についての感想を漏らす。
「トレーラーについて、俺たちのほうでもチェックはしてきた。今回もそれを踏まえたうえでの意見を出させてもらう」
白鐘剣一郎(
ga0184)はそう前置きをしてから既存のトレーラー資料をどさりと置いて微笑んだ。
事前チェックに余念がない。
「みんな。ひさしぶりー。元気そうで何よりだよー。いやー、まさかこんなに面白いコンセプトのKVが出るとは思わなかったよ。ばっちり意見だすのでよろしくね」
最後にリチャード・ガーランド(
ga1631)が会議室に入り、10人の能力者と3人の整備士が勢ぞろいした。
●根本からの変更
「あ、これお土産の寿司盛りです。わさびは普通なので警戒しなくてもいいですよ」
「寿司なんてめったに食べないんで嬉しいでやんすね。ありがとうでやんす〜」
「あの事ぶりだな、今日はおんしの仕事を見させてもらいに来た。終わったらまた一杯やろう」
他の斜陽企業を見てきた刃金 仁(
ga3052)はタシロに対して、労った。
瓜生 巴(
ga5119)が出したお土産をマローナ・ドランツは受け取り冷蔵庫の方へと持っていく。
「今回のクローラーに対しては変形昨日の極力簡略化を希望したいですね。格闘戦をするのでしたら近づく前の被弾を減らしていくべきだと思っています。」
その間に巴は本題を切り出した。
「この変形システムは独自のフレームでやらないとキツイぜ」
巴が持ってきたレポート用紙にまとめらている変形に関するデータなどを見つつJJは頭を掻いた。
「全体的意見では、防塵装置関係はしっかりやって欲しいとおもっています」
「『陸バイパー』と言わしめるほどの価格や性能でやってほしいとす」
風見トウマ(
gb0908)と守原有希(
ga8582)がそれぞれに意見を出す。
「なるほどな、そっちに関しちゃ俺は特に詰めてなかったから助かるぜ。さて、それじゃあここで3班に分かれて‥‥」
「いや、いっそ2つの意見を合体させようというのが来る前の傭兵の結論だったよ」
タシロがホワイトボードへ書き込みながら指示を出そうとするのをUNKOWNが止めた。
「練力充填をしつつ、さらにKV輸送を可能にするということか?」
「その通りだ。調べたところセミトレーラーならコンテナ部とセミトラクター部で分けられる。戦闘能力は自衛レベルに押さえ、支援機として特化させたい」
剣一郎が唖然とするタシロに補足するよう説明を付け加える。
「コンテナは兵装やアクセサリー化で再現して、今後の多様性を形づけてもらいたいんです」
「だけど本当にクローラー自身の戦闘力をどうするかでやんす。ブリッツ・インパクトじゃ、厳しいでやんすね。飛行機能がない分底上げはある程度は見積もりできるでやんすが〜」
マローナが宗太郎の意見にぐるぐる眼鏡を光らせてデータ計算をしだした。
安く上げるのがメルス・メスとしてのコンセプトであり、傭兵の意見を形にするにはそれ以外を削るしかない。
「ハイリガー・ファウストとかつんで欲しかったんですけどね‥‥難しいですか」
「回避性能を高める機構と重厚な作りは相反するからな。仕方ないぜ」
残念そうなトウマにJJが肩を叩いて慰めた。
「格闘機の概念をはずしてしまうということになるとですか?」
「まぁ、そうなるな。支援機としての局面を強める方がお前らの多くの意見を通しやすい。元々俺はフルトレーラーとして格闘機を作るつもりだったんでな」
守原の質問にタシロは自分の進めようとしていた考えをはなす。
「要は格闘戦が出来、安定性などが十分であれば良いのであって、人型の上半身があれば、下はタコ足生やそうが、名の通り芋虫にしようが問題ない気はする」
時枝・悠(
ga8810)のボツリと出た一言に視線が集中した。
「‥‥あくまで例えであって、そうしろと言う訳ではないが」
周囲の雰囲気におされ、悠は小さくなる。
「ともかく大きくまとめないとな。整理も追いつかん‥‥‥‥」
多くの能力者の意見をホワイトボードにまとめていたタシロは一息つきながらもどこか楽しそうに笑っていた。
●広がる可能性
「さて、とりあえず要望はいくらかあるようだがセミトラクター案が多いので、コストバランスも考え、戦闘力を極力削る方針で討議をしていくぜ」
タシロがホワイトボードにまとめを書いて能力者たちを見回す。
「セミトラクター‥‥つまり、KV部は弱いってことになるのかな?」
クリアが心配そうに聞いた。
「ある意味では正解だな。ただし、推奨装備のコンテナで化けるタイプにしてみる。基本性能は装備力、耐久力、防御力に振り分ける形だ」
「空を飛ぶ必要ない分重量があっても構わないと‥‥分厚いメトロニウム製コンテナ、人型になった場合、これが両腕の巨大な盾となるとかどうだろうか?」
心配そうなクリアとは対照的にUNKNOWNは自分の提案を出してみる。
「重量についてはまぁ、調整になるだろうがそれも『そういうコンテナ』として付属パーツ扱いだな。もし標準装備にするならフルトラクタータイプが一番だ」
「なるほど‥‥そういうことね。じゃあ、KV用の設置式重機関砲とか、大口径砲と弾薬や照準器一式なんてのもコンテナとして用意は可能なわけなんだね?」
「もちろんだ。まぁ、KV乗せて使わせることは無理だろうが他のKVに受け渡して使ってもらうってやり方も出てくるだろうぜ」
納得したクリアに対してタシロは説明を続けた。
「練力の受け渡しもできてそういう方向で能力値が大きく変動するのは新しいKV思想だ。買うかどうかはわからんが、期待できる」
悠も仕上がったクローラーのコンセプトに関心する。
「そうすると、推奨装備は普通の武器というのは似合わないかもしれませんね。KVバズソーとか考えたんですが」
「たしかに、ハイリガーファウストも提案しようとおもったとですが勿体ないですな‥‥ただ、火器コンテナをバリケードなんかに転用などは可能そうですね」
トウマと守原はそれぞれ推奨武器を考えていたが、守原はコンテナの可能性について自分なりに考えを広げていた。
「練力回復以外にも戦場病院とかコンテナで用意できれば正規軍への売り出しも十分できるんじゃないかな?」
静かにしていたリチャードがコンテナ案として別の切り口を出す。
「それなら簡易指揮所とかもいいよね〜。兵装とかも集めればクローラーの集団で『プロジェクト一夜城』とか前線基地代わりに出来そうだよね」
クリアがリチャードにのっかり、非戦闘系コンテナ案を続けた。
「戦闘外であるなら、カーペンターユニット‥‥いわゆる土木作業装備に宿泊施設を詰めたものなんかも復興支援の需要になると思うな」
「簡易KVドッグとして付属のスタッフ付きにできるなら欲しいところだなぁ」
自分のまとめた資料をめくり、剣一郎も仁も話を続ける。
「あとはトレーラー部に内蔵し複数のバーニアを展開させ、KV背後に接続する弾丸ブースターとかよ‥‥」
「元々速度を落として陸戦型にしているんだ。余計なブースターシステムはコンテナで賄えるものじゃない」
仁の意見にタシロが厳しく突いた。
「コンテナの武装なら、大型帯電粒子加速砲。他のKVと協力して練力注入する事で初めて撃てる決戦兵器で敵の超大型機や拠点攻略用に使用とかどうでしょう?」
「いいアイディアでやんすね。連結砲として高出力をキープして砲撃は可能でやんす」
「対空機銃を乗せたファランクスユニットとかどうだろうか?」
剣一郎はもう1つの案である資料の『SES対空機関砲』を押した。
マローナの方では詰めた宗太郎を中心に武器コンテナの相談に入っていた。
「剣一郎さんのアームドコンテナ案にのっかって、多弾投擲砲を基本武装としていただいたいですね。威力のある弾丸を増やせて有意義に使えそうです」
「あー、中に手足を仕込んでゲテモノ形態に変形する機能とか。‥‥トレーラーである事を全く活かせて無いな」
「交換用マニピュレーターを入れるのは悪い考えではないでやんすね」
悠の意見にマローナは悠の頭を撫でて丸くまとめる。
それから能力者たちは自分達の意見を織り交ぜたコンテナ案をだしていった。
「もし、これらの機能を特殊能力化するのであれば『ロードランナー』といったところだろう」
UNKNOWNがが話をまとめ、一息つく。
●最後に
「技術屋としてはこんなすごい開発にかかわるのは楽しいや。ありがとう。おやっさん」
会議も終わり、休憩室でゆっくりしているとリチャードは前を通ってきたタシロに感謝の言葉を述べる。
「こっちも感謝してるぜ、お前らのお陰で俺たちの予想を超えるいいアイディアが集まったってんだ」
「防塵フィルターを手作りだが悪くない会社で提案したこともある。ポストメルス・メスもしれんぞ?」
タシロの姿にゆっくり話せなかった仁が話を切り出した。
「防塵装置については問題ないんだな?」
「問題ねーよ。一応、試作作り上げたうえでこっちも幾分弄るがな」
薄いコーヒーをのみつつ、タシロは答える。
「今回、ちょっという機会がなかったんですがスクレイパーがもっている【回避オプション】を応用した【命中オプション】というのを提案してみたいなと思っています」
「できなくはないな。フルトラクタータイプの方で使えなくもないぜ。一応、今回は没にしたがいい設計思想だからな。メルス・メスのKVの案としてきっちり使わせてもらうぜ」
宗太郎からの質問にタシロは煙草に火をつけ、ニヤリとした顔で煙を吐いた。
「試作クローラーをこれからくみ上げて社長に見せるぜ。量産化するかどうかはわからんが、試作機の作成だったとしてもこれだけの人数が集まって意見くれたことに感謝するぜ」
タシロは煙草の火を消して、能力者たちに深く礼をする。
「次回はコンテナ機能の案件でお世話になるとおもうでやんす。そのときはお願いするでやんす」
「没になったら、フルトレーラーで別路線も考えていくからそっちでも意見を頼むぜ?」
タシロに続き、JJとマローナも能力者たちに精一杯のお礼の言葉を述べたのだった。