●リプレイ本文
●ブリーフィング
「全員に思うところがあって参加しているとは思うが、こだわり過ぎるなよ」
時任 絃也(
ga0983)が集められた前線基地で最終打ち合わせを始めている。
「お前に任せると死人が増える気がするし、な‥‥」
カララク(
gb1394)が壁にもたれながら武藤 煉(
gb1042)の方を向いた。
「一般人の死人だけじゃなくてこの依頼の参加者からもでなければいいのだけれど」
「煩ぇな‥‥俺は俺のやり方でやる! 一々口を出すんじゃねぇぞ!」
レオノーラ・ハンビー(gz0067)の軽口に焚き付けられ、煉は噛み付く。
「今回はウーフーでKV班と共に行動をしてくれ、早期警告や支援も可能な限りな」
「とうとう、あのバケモノの手先どもに引導を渡せるんだね‥‥長い戦いだったよ」
噛み付く煉をよそに絃也とシェリー・ローズ(
ga3501)は話を進めた。
「エルドラドの地図、航空写真は今までの戦いで収集してきたデータでなんとか‥‥あと避難用のゴムボートをいくつか貸してもらえないかい?」
「ジーザリオに入れていくとしても1つだけね。膨らませる時間や避難指示を乗りながら出来ないと逃げるのは辛いもの」
キョーコ・クルック(
ga4770)は資料をみつつレオノーラにゴムボートを申請するが思ったほどもっていけずため息をつく。
「救命胴衣を着けて川に飛び込み、あとでUPC軍に回収してもらう方が効率はよさそうですね。上手く操舵できるかどうかも定かではないです」
貸し出せるというゴムボートの情報を確認すると宗太郎=シルエイト(
ga4261)は別案をキョーコに提案した。
「その方がいいかもね‥‥それじゃあ、大尉さん頼めるかい?」
「連絡はしておこう。本格的に動くその前にこちらでもある程度現状確認はしたいからな」
前線基地の指揮官である大尉はキョーコと宗太郎の提案に頷く。
多くの人命を助けたいと思うのは能力者だけではなかった。
「本来は酒だがコップの水を半分あけ、無事戻れば飲み干すとかやってみるか? 明日の朝から任務になるからな」
会議がまとまりをみせたところで絃也がグラスに水を注ぎそっと掲げる。
それに応じて会議にでていた能力者達も同じように掲げ無色透明な水を一気に飲み干した。
●錯綜
戦場で情報が混ざることは良くあることだ。
だが、誰がこの情報を予想できただろうか?
『私は軍需大臣アンドリューの娘です、皆さんにお話があります。どうか生き延びて下さい』
三島玲奈(
ga3848)のオープン回線に能力者たちは唖然となった。
『むちゃな依頼の難易度をさらに上げてどうするつもりだ!』
共に飛んでいたリディス(
ga0022)は打ち合わせにない情報に訂正を求めるような通信を入れる。
夜明けと共に動き出した傭兵のKVチームは早くも足並みが乱れだした。
「事実か嘘か‥‥どっちでもいいが、お客さんが前から来てるぜ」
風羽・シン(
ga8190)がR−01改やS−01改、ワイバーンなどが都市から発進するのを目視で確認する。
警報がなり響き、迎撃体勢がしかれていった。
それを危惧したのか、三島機がエルドラド上空を飛ぶ。
『オープンコンバット、支援砲撃入ります』
三島機に向かっていくエルドラドのKV軍をみつけたアリス(
gb2430)はリディスと共に突撃した。
「さぁて‥‥姫様を護るは男子の本懐ってね‥‥んな事対面で言おうもんなら怒られっかねぇ?」
『守られるのは趣味じゃないわ、人のことより自分の命の心配をしなさい』
「聞こえてんのかよ‥‥趣味悪ぃ‥‥」
1人呟いたシンだったが、護る対象でもあるレオノーラから突っ込みをいれられシンは舌を鳴らす。
午前6時、エルドラド上空にてKV同士による空戦が開始された。
●混乱
「皆さん、騙されてはいけません。私とアンドリューの間に子供はいません」
アンドリューの妻であるリズィーは声高らかに市民へと呼びかけた。
突如、KVから発せられた情報に市民は揺らぎ、また一部実情を知っている軍部の人間の怒りを買う。
前回の空爆によりエルドラドでは多数の死者がでており、その傷も癒えていないところにこのようなことが起きたのだ。
夫が戦闘に出ている間、民衆の心を補助するのは妻であるリズィーの役目である。
「リズィー様、傭兵がエルドラド内へ車で進入し、投降及び避難を呼びかけているようです」
「そうですか‥‥いずれ、あのような空爆が行われるのですね」
偵察に出ていた兵士の伝令を受け、リズィーは俯いた。
そして、しばしの逡巡のあと顔をあげたリズィーは指示をだす。
「判断は各自に任せるといってください。私達は自分達の意志でここに集まってきました。出て行くのも自分達の意志です‥‥それ以外の方は私と共に頑丈な施設へ移動しましょう」
●理想と現実
「これからUPC軍による爆撃がある。だが、落ち着いて指示に従ってくれ、必ず助ける!」
「避難はこの車の来た先だ! 西の出口付近にKVがいるからそっちに向かえ!」
カララクと煉がジーザリオに乗りながらエルドラドの入り口で絃也、キョーコ組と分かれながら避難をとにかく呼びかけていた。
爆撃で荒れた町‥‥黄金郷”エルドラド”という名前が実に滑稽にうつる。
早朝ということもあり人通りは少なく、パニックもそれほど見受けられなかった。
「キメラもでてこねぇから多少は安心か?」
「この町の外じゃみられているんだ逃げ延びさせるまでが仕事になる」
朝日を手でさえぎってなるべく遠くまで煉が見ようとしたとき、銃をもった男達がゾロゾロと向かってくる。
「一般軍人さんのお出ましだ」
「どこまで手加減してくれれば許してくれるんだか」
煉とカララクは武器を構えジーザリオより降りて戦いに向かった。
機先は向こうに取られ、アサルトライフルから銃弾が飛びこんで来る。
急いでジーザリオを盾にするとガラスも割れて、ヒドイありまさになった。
「とにかく突撃するだけでこれかよ‥‥」
「俺らで生身の軍人をある程度確保しとけば戦力が減ることにもなる」
煉もカララクも装備を整えて、一息いれたあと反撃にでる。
「ここで人間同士が争っていてもしかたないだろう!」
煉が拳を強く握しめると、跳躍してジーザリオの天板に両手をつき、ジャンプの勢いを残したまま兵士達の間に蹴りこんだ。
「この能力者めっ!」
兵士の1人が煉を身ながら吐き捨てるように至近距離で撃ち込むが、弾丸が煉の体にぶつかったときアルミ缶のように変形して床に落ちた。
床に落ちた弾丸に煉も煉を撃った兵士も不思議そうにみる。
「おい、何やっているんだ! 逃がすなら気絶させてでも逃がすぞ」
「ば、ばけもぉぉぉぉっ!」
キメラに襲われた人と大して変わらない表情をして煉に銃を撃ち込んだ兵士は逃げていった。
「あ‥‥あぁ‥‥」
逃げていった兵士を見送るもの、追いかけるもの、それでもまだ震える手で銃を持つもの。
それらがいるエルドラド兵の対処に煉は戻った。
●危機
「ジャングルの夜明けは銃声で始まるか‥‥」
『もっと気分のいいものだったら良かったんだけどな!』
シェリーがアシュラに載りつつエルドラドの都市外で宗太郎機と共に陸戦KVとの相手をしている。
迷彩塗装をしたテンタクルスとスカイスクレイパーが1機ずつ二人を狙ってきていた。
『ちぃ、バケモノがそんなに有り難いのかぁぁ!』
テンタクルスへエンゲージしつつシェリーは強く叫んだ。
両腕からバルカンをだしたテンタクルスがシェリー達を攻撃してくる。
シェリー機は避け、宗太郎機のレーザー砲が代わりに放たれた。
光の矢を受けてぐらぐらとバランスを崩しだすテンタクルス。
「喰らいな! ローズ・レクイエム!!」
その隙を外さず、シェリーがサンダーホーンを必殺技のように叫びながら差し込んだ。
バシュュンという高電圧の発生した音がなりテンタクルスはその動きを止める。
「まずは一体‥‥」
『でも、俺らを囲むようにぞろぞろきてるぜ。キメラもな』
「害虫みたいにゾロゾロと‥‥消毒してやるよ、消えな!」
シェリーがやって来る集団に向かってグレネードランチャーを放ったとき、宗太郎が舌打ちしつつ報告を行った。
『地殻振動キャッチ、やつが来るぜ、全員注意しろ!』
言葉が事実であることを示すかのように小さくだが地面が揺れだす‥‥。
●乱戦
『ヘルメットワーム数機とS−01、R−01が来るわよ!』
「了解、アースクウェイクは地上班で何とかしてくれ、この状況じゃ厳しい」
『私が降ります。空戦では突撃するしかないので‥‥』
レオノーラからの通信を受けたリディスは眼下からの対空砲撃にさらされつつも、上空のワイバーン達と戦闘を繰り広げていいた。
「頼んだ」
支援を考えていたアリスだが空戦では武装の射程が短いため突撃することになり上手く戦えないため地上班へ援護にでていく。
ワイバーンによる間合いを取ってからのソードウィングアタックは機動力の少ないリディスのディスタンにとって面倒な敵である。
『人間を劣等種と看做す裏切者ブライトン博士率いるバグアを打倒せねば真の平和は来ません。ですから、私のいうことにしたがってください』
三島は根気よく撤退をいまだ呼びかけていた。
「増援にキューブワームはいないんだな? 出現位置の記録も頼むぜ」
『言われなくともやっているわよ』
一方、エルドラド上空を飛び回りながら地上班とKV班の情報をウーフーでリンクさせているレオノーラに対し、シンは確認と注文をつきつけて地上の基地をロケット弾ランチャーで空爆していく。
高度を下げて出来る限り基地に被害を集中させていると最後まで抵抗をやめない兵士が爆撃に巻き込まれて動かなくなるのが見えた。
「‥‥理想に殉じる、ねぇ? 本人にしてみりゃ本望かもしれんが、単に手前ェの事しか見えてない馬鹿のやる事だぜ」
眼を伏せてからその光景を振り払い、シンは近づいてきたヘルメットワームの撃墜に力を注ぐ。
「このS−01ボロボロのようだが‥‥」
リディスはヘルメットワームを倒しつつ、増援を不思議に感じた。
『もしかして‥‥そいつは『デュラハン』かもしれません! 気をつけてください』
宗太郎がリディスの呟きに焦りを見せる。
その答えが真実であるかのようにS−01は500発のミサイルを撃ち出し、そのポッドを捨てた。
リディス機、三島機、シン機、レオノーラ機がミサイル雨にさらされる。
「この程度で私を倒そうと思うのなら愚問だ。三島はいい加減にケジメをつけて戦闘に集中しろ」
ソードウィングを光らせ、バレルロールを使いながらリディスはミサイルを斬り裂いていった。
他の3機はしたたかにそれを受け、ボロボロになる。
『分かってる‥‥地球は地球由来の生物の物よ!』
戦闘中破棄されたものを鹵獲し、改造されたS−01『デュラハン』に向かって三島は呼びかけをやめてリディスと共に迎撃に動いた。
呼びかけに答えてくれないのなら本当である証を行動でみせるといわんばかりにリディスとタイミングを合わせスナイパーライフルによる時間差攻撃を繰り出す。
「このタイミングだ、くたばれ!」
フェザー砲で対抗してくるS−01の攻撃をあえて受けつづけ、リディスはソードウィングで大きく斬り裂いた。
●信念
「国に被害があってもそこに住む人が無事なら国はまた作りなおせる! だから自分達の命を第一に考えて行動して欲しい。それに貴方達が傷ついて悲しむ人が周りに大勢いるだろ?」
地鳴りと共に大きく揺れる大きな集会場の中、キョーコの怒声が響く。
避難中に地震に巻き込まれケガをした人間を手当てしているとき、リズィーのいる集会場を教えてもらったため絃也とキョーコは来ていた。
「仲間からの連絡に寄ればこの地震はアースクウェイクのものだ。市街戦も始まっている限りここにいるのは危険だ」
絃也はそういってリズィーに近づこうとするも兵士達がそれを塞ぐ。
「わかっています。ですが、ここを出たとしてもUPC軍や世界は私達を反逆者として扱うでしょう。もう一度エルドラドを作ることを容認するとは私には思えません」
二人の言葉を聞いていたリズィーは立ち上がりキョーコと絃也の方を見た。
「避難したとしても我々に行くところはありません。元々私もアンドリューも世界から外された存在なのですから‥‥」
「分かった。それならば、一緒に行く奴だけついてこい。あと、エルドラドにある輸送車も貸せるのなら貸してくれ」
黙って聞いていた絃也が口を開き、ぐるりと兵士たちを見ていった。
ズシィンと大きく揺れ、集会場事態が壊れだす。
どちらに行こうか決めかねている兵士や市民達がリズィーと絃也の方を交互に見出したとき、リズィーが銃をこめかみに構えた。
「私の話を聞いたうえで助けてもらうというのであれば、この命捧げましょう。その代わり、民をよろしくお願いします」
「あんた、待ち‥‥」
キョーコが止めようと思ったとき、銃声が集会場に響いた。
●決着
『超伝導アクチュエーター起動! ええいっ!』
アースクウェイクが避難民を喰らい尽くそうと現れたとき、アリスの雷電がヘビーガドリングを唸らせた。
その間に避難民達はシェリー機の方を目指して進みだす。
「こいつが暴れまわっていたら避難どころじゃない! 一気に決めさせてもらうぜ」
宗太郎が過労の見える顔をしながら汗を拭い、スカイスクレイパーを駆けさせた。
戦場を吹き抜ける風の如く動き‥‥。
「システムドライブ、『シルフィード』!!」
ブーストを作動させ、暴れまわるアースクウェイクへ一気に詰め寄りロンゴミニアトによる一撃を喰らわせた。
避難民から宗太郎に狙いをさだめたアースクウェイクがその牙を向ける。
しかし、回避オプションで難なく避け、再びロンゴミニアトで貫く。
気色の悪い雄叫びを上げて悶えるアースクウェイクから離れ、レーザー砲を宗太郎は構えた。
「眠りやがれ、ミミズ野郎!」
宗太郎の放つレーザー砲がアースクウェイクと共にロンゴミニアトを砕いて盛大に爆破させる。
『お疲れ様、宗太郎。空戦も片付いたわ。基地も破壊したし残存勢力なし、あとは避難を完了させるだけね』
「これで終わったんだな‥‥」
レオノーラからの通信を受け、宗太郎はシートにぐったりともたれかかった。
『まったく、馬鹿だよ‥‥アンタら‥‥バグアになんか関わるからこんなことになるんだ』
シェリーの呟きが漏れて聞こえてくる。
そこに啜り泣きがあったように聞こえたが、真実は当人しか知らない。