●リプレイ本文
●プロローグ
「さっさとそいつ捕まえて、国元さ帰るだよ」
遊牧民特有の訛りでナツァグはある国の使者から大金を受け取っていた。
ここは第三帝国連合の寄り合い場所。
そこでは幾人もの雇われの傭兵や、猛者が使者からの支度金や仕事の準備をしていた。
目的は勇者ライディと呼ばれる青年の捕獲である。
「あんた、噂の”クリムゾン”だな?」
クロスボウを持ち、胴体と脛に金属製のヨロイを着用し、腰に古びたサーベルを差した傭兵エアハルトが赤と黒の全身甲冑を纏った人物に声をかける。
「――そうだ、貴公は何のために戦う?」
全身甲冑の人物は低く響く声で答えた。
”クリムゾン”は性別も正体もよくわからないが、戦場という戦場で見られ勝利してきたという。
血のような色の甲冑から何時しか”クリムゾン”と呼ばれていた。
「俺か? 俺は金さ。後は‥‥そうだな、忠誠を尽くすに相応しい主か? いや、夢を見るのは止めよう」
「――そうだな」
つまらない話をしたといいたげなエアハルトにクリムゾンは静かに答える。
「出撃のようですね。自分は狩人のシタン・ウヅキです。終わったら一杯飲みにいきませんか?」
二人で話し合っているところにシタンが笑顔で握手を求めに入るがクリムゾンもエアハルトも自分の巨大甲冑に乗り込んでいた。
●勇者ライディの珍逃走
『‥‥そもそも、婦人との約束を忘れるとは。それでも男か貴殿はっ!』
「代々伝わっている約束とか、僕は知りませんッ!」
赤い鎧武者『禰亜武路』を乗る武者ユーリに追われながらライディは声を上げている。
今ライディが乗っているのは家の地下に眠っていた巨大甲冑『ドラゴンロッカー』だ。
何で眠っているのか、何で乗れるのかはライディにはわからない。
分かっているのは‥‥追われていることと、サイヴ姫も一緒であるということだった。
『ライディ様の邪魔をなさらないで下さいませ!』
サイヴ姫の乗っているものは純白のカラーリングであり重騎士を思わせる巨大甲冑で、その甲冑から光の魔法がユーリと同行している武官シロガネに向けて放たれる。
「ああっ!? 話をややこしくしないでっ!」
『姫の許婚とは言うが‥‥本当に相応しいのかどうかこの眼で見極めてくれよう。そして、女! 邪魔をするというのであれば容赦はせん!』
『サイヴ姫様に向かって、女呼ばわりとは何事でしょうか!』
『ドラゴンロッカー』2機に対して、『禰亜武路』が2機戦闘しているような状況で、さらにサイヴ姫の盾であり剣である騎士キサラが混ざり合い、複雑な状況になっていった。
『その禰亜武路はっ! キサラ! 敵国に寝返っていたとは‥‥姉は悲しいぞ』
『私のすべてはサイヴ姫さまにあります。この命を捧げるべき主君がいるのです、姉上にまけるわけにはなりません!』
ライディの思考は放って置かれ、周りがドンドン盛り上がっていく。
「とにかくあの先まで逃げ切れば船もあって遠い国にいけるはず!」
ライディ指差す先は幾多の町を越えた先の港だった。
『あそこにライディ様とわたくしの駆け落ちの先はあるのですね!』
「サイヴ姫、喜んでいるところなんだけど。周囲を大軍に囲まれているよ‥‥」
喜んでいるサイヴ姫に対して、申し訳なさそうにライディが感知した敵を知らせる。
第三帝国連合の傭兵や巨大甲冑であった。
「どうしようか‥‥」
不安がるライディに力強い声が聞こえる。
『わたくしだって、お役に立ってみせますわ――気合で!』
頼もしいような、怖いようなサイヴ姫の掛け声と共にライディの逃走劇は始まった。
●凌ぎあう巨大甲冑達
「あの巨大甲冑さ壊して、そいつ捕まえりゃええんだなや。まずは先回りだべ」
ナツァグは部族につたわる護神像ラグワの力を解放して一気に加速した。
『あの巨体で何たる速さ! だが、キャオウ島の武官を舐めてもらってはこまる! ものどもであえ!』
加速して進む巨大な護神像ラグワを赤い胴丸を着込んだサムライ達がシロガネの掛け声と共に出てきて押し戻す。
『おら達の守り神はそれしきでとまらね!』
しかし、相手は巨大甲冑クラス、普通の人間では止まるはずも無く進行を許した。
『サイヴ姫様をお守りするため、キサラ‥‥参ります!』
加速する魔法のかかった巨大なキサラの駆る赤い騎士はラグワを追いかけだす。
「おらの邪魔するならばようしゃしねえど!」
ナツァグは追いかけてくる敵に向かって大きく叫んだ。
一方、ユーリは複雑雑な思いで戦いに挑んでいる。
「姉妹で争わなければならず、赤い鎧武者を駆るものがまだいるというのか‥‥」
帷子の上に胸当てをつけ、羽織を羽織った弓引きの装束のまま搭乗席でユーリは唸った。
キャオウ島で選ばれたものにしか与えられない『禰亜武露』が余所者に出回っていることが不思議である。
『――邪魔だ』
一瞥するかのような声で、クリムゾンの巨大甲冑がユーリの横を抜けようと動いた。
「それはこちらの台詞! 散るがいいッ!」
ユーリはクリムゾンの声に苛立ちを介抱し、巨大な槍『論語短後』を突き刺す。
盛大な爆発と共にクリムゾンの巨大甲冑が揺れた。
「取った!」
『――気にいらん』
クリムゾンのその言葉と共に炎がユーリの足元から上がり、視界を赤く染める。
「小癪な‥‥」
暑さにユーリが顔をゆがめている間にクリムゾンは遙か先へと移動していった。
その後をシタンが追走する。
『ついでにこれも食らってくれよ』
「甘く見るな!」
エアハルトの魔力大砲がユーリに向けられるもそれは難なく避けきる。
そんな激しい戦闘が行われる中、ライディとサイヴ姫はそんな激動の中マイペースで最後尾を進んでいた。
「何で僕がこんな目に‥‥」
ライディの呟きに答えるものは誰もいない。
●大乱闘!
「敵につくとはキャオウの恥! 我が一撃をもって晴らしてくれよう!」
シロガネは大きく声を上げ、キサラに対して攻撃を仕掛けた。
鎧武者の方から回転式の発射口がせりあがり鉛の玉を打ち込みだす。
『私はここで負けるわけにはいきません! 国を捨てたとしても姫への忠誠心はかわりませぬ!』
発射される玉をすべて剣で受け止めキサラの巨大甲冑は加速した。
しかし、その先にはユーリの仕掛けた落とし穴があり、キサラの機体はそこで動きを止めてしまう。
『キサラよ‥‥忠誠する相手を見誤らなければそんな目にはあわなかっただろうに』
ユーリからキサラに対して哀れむような声がかけられた。
そして、ユーリは攻撃をふるってきたエアハルトへ『論語短後』をぶつける。
『こっちを忘れちゃいなかったか‥‥』
『三倍返しがキャオウの流儀だ』
激しい振動に揺さぶられ苦笑するエアハルトにユーリの鋭い声が響いた。
「苦戦している――だが、私は私の目的を達するまで」
クリムゾンは搭乗席の中で目を閉じ、自国が焼け滅ぼされる光景を思い出す。
その復讐のためにクリムゾンは今も戦っていた。
「――これで進み、進路をかえれ‥‥何!?」
しかし、クリムゾンの足を落とし穴が捕らえ動けなくなる。
『かかりましたな‥‥私の落とし穴に』
「――やってくれた」
キサラの仕掛けたトラップにクリムゾンは嵌ったのだ。
戦闘中に余計なことを考えたからかも知れないとクリムゾンは思う。
『ライディ様の邪魔をなさらないで下さいませ!』
進路上にいるユーリに向かいサイヴ姫が光の魔法を再び放った。
一発目は避けられたが、軌道を読んで放った二発目は見事に当たる。
『まぐれとはいえ私の軌道を読むとは妹の主というのは伊達ではないか』
ユーリはかすり傷をおっただけだが、当てた腕前を素直に認めた。
「この距離なら外す事はありませんよ‥‥といっても、落とし穴に落ちている獲物を狙うのは心苦しいですが」
ガシャンと巨大甲冑サイズのロングボウを構え、シタンは落とし穴に落ちたクリムゾンを支援するように同じく落とし穴に嵌ったキサラを狙う。
しかし、たいしたダメージを与えらなかった。
『助けなきゃっ‥‥僕に力があるのなら、動いてくれ!』
加速する魔法がかかりライディのドラゴンロッカーがキサラを助けに向かう。
流されてはいたが、ライディは優しい青年だった。
『おっと、大人しく捕まってもらうぜ。金がかかってるんでね』
そのライディを非情なる傭兵のエアハルトの巨大甲冑が全力で追い抜き、先回りを狙う。
ユーリを追い抜き、シロガネを抜いてキサラのところまでたどり着いた。
『こっちまで来てみろ、おらの国さで培った罠が向かえるべ』
最も先行しているナツァグがライディを迎え撃つべく下準備を一人進める。
勝者はどこの軍勢になるか‥‥まだわからない状況だった。
●決着のとき
「前を見るのは良い。だが足元が留守になると‥‥そうなる!」
熱で光る太刀を振るい。シロガネが落とし穴から這い出したキサラの巨大甲冑をきりつける。
火砲やロングボウで殆ど傷つかなかったキサラの巨大甲冑だが、シロガネの一撃は易々と切り裂いた。
『なんということ!? このままでは分が悪すぎまする』
シロガネから受けた負傷が聞いているのか、キサラはゆっくりとした足取りで港へと進路を取り出す。
『キサラ! 私もすぐに助けに参りますわ』
加速したサイヴ姫の巨大甲冑がキサラの元へと駆け出すも、距離は遠く中々傍までよれなかった。
『許婚である我が国の姫よりも一騎士が心配か‥‥それでも貴様は男か!』
助けに向かうサイヴ姫をスルーし、ユーリはライディへと攻撃の刃を向ける。
「許婚とか、伝説の勇者だとか‥‥そんなことは関係ない! 僕は1人の人間として人を傷つけたくないし、困っている人を救いたい。それだけだ!」
慣れない巨大甲冑の搭乗席で、ライディは力いっぱい叫んでユーリの繰り出す槍を受け止めた。
防いだたでが砕け散り、巨大甲冑の腕までも吹き飛ぶ。
『ライディ様!』
『――あの青年‥‥』
サイヴ姫とクリムゾンがそれぞれ違う反応を見せた。
しかし、クリムゾンはそのままキサラを狙おうと進むが伏兵に押し戻される。
「これ以上、町を壊すな! こんなところで戦争をするなー!」
伏兵といってもそれは近くの町に住む人間達だった。
女子―供や老人までもキサラに味方し、クリムゾンを押し戻す。
『――これが力』
押しもどされた力にクリムゾンが『グングニル』をキサラを狙って叩き込んだ。
ライト・ディフェンダーでやり過ごそうともするが、グングニルは大きく肩に食い込む。
『やってくれます』
クリムゾンの機体に押されながらもキサラは攻撃をしなかった。
『こうまでされてなぜ戦わない!』
『私は戦い、敗戦したときにサイヴ姫さまに救われました故、姫様を守るためが私の戦いでござりまする!』
クリムゾンの感情溢れる怒声にキサラははっきりと答える。
「これ以上、僕の仲間を傷つけるなっ!」
ライディもサイヴ姫とキサラの後を追いかけて加速をした。
「おやおや、そっちにむかうか。まとめてこれで吹き飛ばしてやるぜ、中身だけ安全ならばいいんだろうからよ!」
エアハルトが救出に急ぐライディとサイヴ姫のところへまとめて火薬樽を放つ。
『うわぁぁぁ!? でも、こんなところ‥‥で、サイヴ姫は早く、キサラさんを‥‥』
『ライディ様は私が守りきります!』
そんな光景をみていた、シロガネが動き出した。
「ユーリ、我はこれだけ傷付きながら尚諦めぬか。その気概を認めようと思うだが、どこの馬の骨とも分からぬ帝国には渡せん」
『奇遇だな。私も同じことを思っていた。まあ、叱責の百や二百は覚悟しておこう』
キャオウ島軍の2機巨大甲冑がライディたちを援護しだす。
『この度は心意気に免じて逃そう。だが、いずれ姫との許婚の件を白黒つけるべくキャオウ島に来てもらうがな』
『私もまだ貴様を認めたわけではないが、貴様の誠意は認めよう』
援護をもったライディたちはナツァグの攻撃をしのぎきり、キサラが罠を解除するなどして逃げることに成功した。
●夢からの帰還
「あれ? ‥‥ここはスタジオ?」
気が付けばライディは一階のスタジオでミーティングルームのテーブルに突っ伏していた。
「おはようでありやがるです。ぶつくさ寝言をいってやがったみてぇですが、どんな夢見てやがったです?」
毛布をもってきたスタッフのシーヴが首をかしげながらライディを見ている。
「あ‥‥いや、何でもない‥‥よ」
まさかKVのようなロボットに乗って戦っていたとはいえず、ライディは言葉を濁した。
「むー‥‥。はっきりいうです!」
ライディの返答に不満そうな意志を体中から発し、シーヴは詰め寄る。
「あ、おはようございます‥‥といっても夕方ですけれど、番組が終わったら一杯どうです?」
番組を聴きに来たのか卯月がそこにいて、シーヴとライディの間にマイペースで割り込んできた。
「えっ‥‥うふふふ。あははははは」
夢でみたのと同じ一言にライディは思わず笑ってしまう。
「ライディいきなり笑い出して怖いでありやがるです‥‥何か変なものくったでやがるですか?」
「違う、違うんだけど‥‥うふふふ」
シーヴが心配するなか、ライディの不気味な笑いが何時までも続いた。
そんなある日の出来事――。
●この夢の中の登場人物
勇者ライディ ‥‥ライディ・王(gz0023)
武官シロガネ ‥‥白鐘剣一郎(
ga0184)
騎士キサラ ‥‥如月・由梨(
ga1805)
遊牧民ナツァグ‥‥ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)
武者ユーリ ‥‥南部 祐希(
ga4390)
傭兵エアハルト‥‥クラーク・エアハルト(
ga4961)
サイヴ姫 ‥‥シーヴ・フェルセン(
ga5638)
”クリムゾン”‥‥レティ・クリムゾン(
ga8679)
狩人シタン ‥‥紫檀卯月(
gb0890)