●リプレイ本文
『TOWER OF MERCENARY The Movie』
●潜入
『1200。依頼で指示された南米の塔への潜入に成功。以後調査のため記録を残す。 スレイ・シーバー』
ボイスレコーダーに記録を残しつつ、ブロンドのウェーブヘアにフライトジャケットをきこんだ女性が共に潜入をした刀を持った少女と茶髪少年の方を見る。
「特に変わった様子はないけど‥‥なんか、嫌な予感がする。フェル‥‥あんたのことだから無事なんでしょうけど」
少女湖春は静か過ぎる内部にぶるっと身を震わせ、パーカーの胸元をキュッと握った。
先遣隊として出発し、帰ってこないフェルゼーヴの身を案じて、湖春は塔の探索に志願している。
「まだ一番下だからかもしれませんね。人の気配もないですし」
茶髪少年のヴァーミリオンはやや大きめのコートをはためかせ、顎に手をやり思案した。
そのとき、カツンカツンと靴音が響く。
ここにいる3人以外の足音だった。
スレイがバトルアックスを構え、音のする方へ声をかける。
「誰?」
「うぅ‥‥僕は千影 召。貴方達に‥‥依頼をした千影 蓮の‥‥弟です」
「なんで、こんなところに‥‥しかもボロボロじゃないですかっ!」
ヴァーミリオンが召に駆け寄り傷を心配した。
「塔の奥から来たっていうことは、先遣隊?」
「いえ、独自でこの塔にいる‥‥んです。案内しますから、ついてきてください」
湖春の疑問に召は口ごもりながら答え、負傷した体を引きずりながら塔の上へと案内をしだす。
「どうします?」
ヴァーミリオンがスレイを見て、湖春も同じように見た。
「今は信じてもいいと思うわ。手がかりもないことだから‥‥」
スレイはバトルアックスを背負い直し、召の後ろを歩く。
「やむなしですか、鬼が出るやら蛇が出るやら」
ヴァーミリオンと湖春もそれに続いていった。
塔の上層部に繋がる階段は暗い。
「フェル‥‥あんた、大丈夫だよね?」
底知れぬ不安を感じながら湖春は小さく呟いた。
●脅威
『1300。塔の深部へ侵入。キメラが徘徊しており、これを駆除する。意識が多少薄れてきているが疲労と思われる。 スレイ・シーバー』
「記録なんか後にして戦ってくださいよ」
ヴァーミリオンが刀と小太刀を振るいゾンビのような敵を切り裂く。
「手早く片付けて上りましょう。時間がありません!」
ハーピーの攻撃を盾で受けカウンター気味の斬撃で倒しつつ召が叫ぶ。
「こんなにキメラがいるなんて‥‥やっぱりバグアの施設なの、ココ? だとしたら、早く先遣隊のみんなを探さないと‥‥」
倒しても倒してもいなくならないキメラに湖春は息をついた。
敵数へ呆れと不安解消の安心感からである。
召の案内で最短ルートで傭兵達は階段を上っていった。
「いったい、どれだけ階層が分かれているの? この塔の目的はなんなの?」
激しい戦闘で傷つき血塗られたジャケット姿のスレイが召へ問いかける。
「この塔は‥‥危ないっ!」
召が答えようとしたとき、部屋の奥から閃光が飛来しそれを召は盾で受け止めた。
強力なエネルギーを帯びているのかバックラーが溶け湯気が昇っている。
「この子達がね‥‥血を求めていますのよ。真っ赤な真っ赤な‥‥綺麗な血を」
酔っているかのような艶やかな響きをもち、そして凶悪な内容の声が室内に響いた。
「あんたは雛子! フェルと一緒だったよね? どういうことなの?」
湖春が飛び出し露出の高く花柄の水着を着た声の主に問う。
だが、答えは3mもある日本刀の斬撃によって返された。
「うあぅ! ‥‥雛子。あんた‥‥」
日本刀で受け止めようとした湖春だが、力で押し切られパーカーが斬り裂かれる。
「あらあら、服がボロボロですわね。そんな無粋な服より、この『刀(こ)』達の方が可愛いし、強いですわ」
武器に酔っているのか、雛子は虚ろな瞳で刀についた血をぺロリと舐めて微笑んだ。
「『まとも』とは言いがたい状況ですね。説明を願いましょうか、千影 召さん」
「僕が彼女の相手をします。皆さんは上に向かってください‥‥見取り図はこれです」
召は懐から見取り図を取り出し、ヴァーミリオンに渡す。
「見取り図を持っているって‥‥貴方は何者なの?」
「この塔は兄が‥‥千影 蓮が‥‥力あるものを呼び出し、バグアに差し出して自分がより強い力を得るために利用している塔なんです」
スレイに答えながら召が雛子に斬りかかった。
「先遣隊がこうなっている理由はなんなの?」
「わかりません‥‥けれど、こうしてキメラや人類同士で戦わせてより強いものを求めていることは確かです。信じてください!」
「ふふふ、戦闘中によそ事なんていけない人ですわ」
雛子からグレートソードが横薙ぎに放たれ、受け止めた召のバックラーが二つに割れる。
「とにかく、上がりましょう。ここは召さんを信じてもいいと思います」
ヴァーミリオンが傷ついた体で戦い続ける召を見て、スレイに指示を求めた。
召の言葉を信じるのなら疲労が敵なのは明らかである。
「ショウ! 死ぬんじゃないよ。借りを作ったままというのは私は許さないんだから」
「分かりました、善処します。最上階に兄はいますから、今は急いで上ってください!」
スレイはヴァーミリオンに案内役をまかせ湖春へ肩を貸して走りだした。
「逃しませんわよ!」
「戦闘中によそ事はだめですよ! 」
雛子がナイフをスレイたち投擲するも、髪を黒に染め上げた召がタックルで打ち消す。
そして、そのままもう一撃間合いを詰める突撃を雛子に食らわせた。
●再会
『1600。塔はキメラと能力者を戦わせ、選抜したものをバグアの手先にさせていた。原理は不明だが、この虚脱感はもしかして‥‥。 スレイ・シーバー』
上階層にいくと昆虫だらけの階層に入る。
「フェル! 無事だったんだね!」
湖春が黒ゴシック服でうずくまっているフェルゼーヴを湖春が介抱に向かった。
「無事だといいですが、やな感じがしますね‥‥」
先遣隊の1人が洗脳されていたら他にも洗脳されている可能性は高かい。
しかし、ヴァ−ミリオンは周囲を警戒した。
「――ムスペルヘイム」
うずくまっていたフェルゼーヴが急に起き上がり、紅蓮の衝撃波を湖春に当てようとしたが、ヴァーミリオンのコートが塞ぐ。
「‥‥冗談にしちゃ随分と殺気が篭ってたんだけど‥‥」
「特注のコートがボロボロですよ」
ヴァーミリオンがクロスに刀を構え、フェルセーヴに相手をする間合いを取り出た。
「とりあえず、ここで死んでもらおうかしら!」
さらに闇の中から声が聞こえ、月詠がヴァーミリオンの背中を切る。
意識をフェルにもっていったヴァーミリオンは、夜月が背後から黒装束で奇襲を加えてきたことに気づけず、コートが斬られた。
「どうやら、今回は二人で相手をしなければならないようですね」
ヴァーミリオンが月夜の方を向く。
「やりたくないけれど、仕方ないよね‥‥あんたを止めるよ、フェル」
湖春は親友と戦わなければ無ければならないことを覚悟した。
「貴方達に二人にまかせるわよ。ちゃんと戻ってきなさい!」
スレイだけは1人最上階へのステップを進んでいく。
「一張羅を傷つけられた代償を支払ってもらいますよ」
シュンとすばやい動きでヴァーミリオンが月夜へ急所を狙うナイフ投擲した。
だが、同じくらいの早い動きで間合いを離れ、月夜は残撃をかわす。
「なるほど、似たようなタイプ、か‥‥」
「逃げられたわね。尤も、先に進んだところで何もできないわ。‥‥とりあえず、あなたはここで消えてもらおうかしら」
月夜はその名前を表しているかのような刀を構えヴァーミリオンを視線で射抜いた。
●頂点
『1700。頭が朦朧としてくる。だけど、止まるわけにはいかない。頂上にいる千影 蓮を倒すまでは‥‥。 スレイ・シーバー』
ブーツの音が1人だけとなり、階段に響く。
それが妙に寂しく感じながら窓に面した螺旋階段をスレイは上りきった。
「フリーズ! 千影 蓮、これで貴方の野望も‥‥」
「待ちくたびれたぞ‥‥傭兵。暇つぶしのコイツより楽しませてくれる事を期待している」
軍隊時代の癖か、威嚇の声をだしたスレイだが、目の前の光景に言葉を失う。
千影 蓮は血まみれで倒れ、赤髪の男が足蹴にしていたのだ。
「誰なの?」
「コードズ”S(エス)”。それ以外の名前などない」
Sはツヴァイハンダーに付いた血を振り払ってスレイに近づいていく。
背丈はスレイのほうが高いが、人とは思えない気迫を放つSにスレイの体が強張った。
「うぉぉぉぉあっ!」
スレイは恐怖を払うかのようにバトルアックスを振りかざし、頭部を狙う一撃を放つ。
ツヴァイハンダーでSが受け止めると、ガキィンという大きな金属音が響いた。
「武器同士のぶつかり合い、これでこそ戦い!」
狂乱という言葉が似合う形相でSは喜び、力ませにスレイをはじく。
「砕け散れ‥‥ファフナーブレイクッ!」
そのまま追い討ちとばかりにSは2mの大剣を軽々と振るい、紅に燃える斬撃を二回繰り出した。
「食らうわけにはっ!」
一撃、二撃とバトルアックスでスレイは受け止める。
スレイの腕に強烈な衝撃が襲い掛かりグギリと嫌な音がした。
「つぅっ!?」
「ハッハッハ、どうした! お前らの力はそんなものかァ!?」
さらに蹴りが入りスレイは床に転がる。
バトルアックスを杖のようにして立ち上がり、スレイは息を整えた。
スレイにとって、Sは”Slayer(スレイヤー)”であり”Stronger(ストロンガー)”に感じる。
「それでも、負けるわけにはいかないっ!」
軋む腕の痛みをこらえ、スレイはバトルアックスと長身を生かしたリーチのある攻撃をSへと放った。
「そうだ! 闘争! 怒り! すべてを俺にぶつけてみろ、俺を楽しませろ!」
高笑いをするSにスレイの攻撃は避けられる。
腕と痛みと共に、虚脱感がスレイに重くのしかかってきた。
「な‥‥に‥‥この感じ‥‥」
「砕け散れ! ファフナーブレイクッ!」
動くことも侭ならないスレイに、Sから衝撃波が放たれた。
漆黒の衣装に血でアクセントをつけたSを目の前に、スレイはふらふらとした動きで対応しようとする。
しかし、防御などもできずにスレイは弾き飛ばされ、壁にめり込んだ。
●覚醒
一方、下では能力者たちによる戦闘が続いている。
「彼、『ランディ』も心配してたんだよ!? 無事に帰ってきて欲しいって!! だからバカやってないで、とっとと目ぇ覚ませってーの!!!」
「――ヘルヘイム」
湖春の攻撃を服などが切れるのをのもともせずフェルゼーヴは仁王立ちし、コンユンクシオのカウンターを返した。
「うわっ‥‥つつつっ! さすがにやばいねー!」
胴を抉られるように斬られるも、直撃にいたらず湖春はホッとする。
湖春が武器を構えなおし、フェルゼーヴの方を向くとフェルゼーヴは頭を抱えて、うずくまった。
「‥‥あ‥‥カ、レ? ラン‥‥ディ‥‥頭が痛ぇ‥‥です‥‥」
「ゆっくり眠ろう、フェル」
峰打ちを首に当てて湖春はフェルゼーヴを気絶させる。
一方、ヴァーミリオンと月夜の戦いはすさまじいものがあった。
音と風だけが落ち着き無く室内を駆け巡っている。
「目には目を、歯には歯を、速さには速さを、ってね」
「追いつくだけが精一杯なら、勝てないわよ!」
刀を切り結びながら、ヴァーミリオンと月夜が互いをにらんだ。
「月影狼!」
月夜は刀で隙を作り、その隙を蹴撃で突き、更にそれでできた隙を斬撃で切り払うという連続攻撃をヴァーミリオンへあてにいく。
「んぐぅっ!? ‥‥まずいですね、だけどっ!」
ヴァーミリオンの顔に紋様に見える黒い線が浮かんだ。
そして、コートを大きく広げたかと思うと、瞬時に10本のアーミーナイフを機動力をそぐように投げる。
「くっ!」
服などが壁に縫い付けられ、動けなくなった月夜にヴァーミリオンの一撃が狙った。
ヴァーミリオンの体から力が溢れ、間合いを瞬時に詰めつつ刀で急所をさだめる。
「これぞ切り札「魔弾」ってね‥‥うう、無茶した所為か体の節々が‥‥」
だが、月夜には刀は刺さらず、ヴァーミリオンは柄で月夜を叩いたのだ。
ガックンと月夜の体がゆれ、再び顔をあげた月夜の顔は瞳がはっきりしている。
「洗脳が解けたかもしれません。湖春さん、一気に上へ行きましょう」
「うん、フェルをこんな風にした奴、あたしはゆるさない!」
●決着
「増援か‥‥良いだろう、その方が暴れ甲斐があるというものだ」
倒れているスレイや蓮を一瞥し、上ってきたフェルを背負った湖春達にSは狙いをさだめた。
「ま‥‥だ‥‥」
ガラリと瓦礫の崩れる音がする。
「まだ、私はおわっちゃいない!」
スレイが壁から出てきて、髪が雄ライオンの鬣のようになった。
『覚醒』である。
「おもしろい! 数が増えただけで俺に勝てると思ったのか!」
「おぉぉっぉぉぉぉあぁぁぁっ!」
破れたジャケットを腰に巻き、スレイは雄たけびを上げて頭部を狙う一撃を放つ。
避けようとしたSをヴァイオンの投擲したナイフが妨害した。
「くっ!」
Sは受けとめるが、反撃に動けるほどの力がない。
「このまま、潰すっ! 」
急所突き+豪破斬撃+紅蓮衝撃をあわせた兜割りをスレイは放つ。
Sの防御したツヴァイハンダーごと叩き割られる。
「ば、バカな‥‥!?」
両断され、ありえないといった顔でSが倒れた。
それと同時に塔が呻きを上げて崩れていく。
「ここ‥‥ただ現れ、ただ消えてゆく‥‥」
●崩壊
崩れる塔をとにかく傭兵達は下がっていった。
「ごめんなさい‥‥私」
正気になった月夜がヴァーミリオンに肩を貸されながらすまなそうな顔をする。
「その先は生きて出てからでお願いします」
ヴァーミリオンは月夜にウィンクしながらいった。
「‥‥そこのスイッチを押せば外へ通じる道が出来るはずです‥‥!」
そのとき、傭兵達の前に千影が現れる。
「約束守ったようだね」
「ええ‥‥」
ボロボロになり、洋剣を持った千影は脱出口を作り、出るように指示をした。
千影は脱出せずに塔の奥へと戻る。
『2100 千影 召、蓮、そして雛子の死体は見つかっていない。 捜索を中断する。 スレイ・シーバー』
●キャスト
雛子 ‥‥鷹司 小雛(
ga1008)
スレイ・シーバー‥‥トレイシー・バース(
ga1414)
湖春 ‥‥葵 コハル(
ga3897)
千影 召 ‥‥蓮沼千影(
ga4090)
ヴァーミリオン ‥‥ヴァイオン(
ga4174)
フェルゼーヴ ‥‥シーヴ・フェルセン(
ga5638)
コードズ”S” ‥‥ブレイズ・S・イーグル(
ga7498)
月夜 ‥‥十六夜 紫月(
gb2187)
製作‥‥TOM映画化プロジェクト委員会
※この作品はすべて妄想です。実際の人物、団体とは一切関係ありません。