●リプレイ本文
●先行スタッフ入り
「ふあ〜‥‥人がいっぱい来るとは聞いてたけど‥‥想像以上の広さだねコレは‥‥」
葵 コハル(
ga3897)はまだサークルやブースが準備されている中を歩いていた。
10時からアイドルとしてのイベントがあるため、コミックレザレクションを楽しめるのはわずかの間だけである。
コハルが向ったのは『グラディア』と言われる同人ゲームのサークルだ。
「はろはろー♪ あ、コレ差し入れの飲み物、みんなで飲んでね」
「あ、はぁ‥‥どうもです」
男だらけのサークルスペースに突如と現れたコハルに疑心暗鬼な様子で代表者の角は飲み物を受け取る。
「‥‥って、あたしあたし。ほら、それ!」
びしっとさしたのはタワーオブマーセナリーのポスターの真ん中で刀を構えている少女だ。
「あ、ああ!? あの時はお世話になりました」
「にゃはは。楽しめたからいいんだけどね? そういえば、あたしがアイドルなのって知ってる?」
気づき、あわてて礼をした角へコハルがにやにやと笑いながら聞き出す。
「あ、やっぱり? どこかで見たことあったんですよね」
「そういえば、今日アイベックス・エンタテイメントのブースもあったよな?」
角はいまいちの反応だったが、スタッフのうち何人かはコハルのことを知っていたようだ。
「ゲームの方を買いたいんだけど‥‥」
「まだ、入場前なんで売れないんですよ。時間が空いたら来てください」
「あ、そうなんだー。それじゃあ、また後でね。IMPのブースにも来てくれたら嬉しいな」
あまりこういう場所に来ることのないコハルは販売体系を知り、大人しくアイベックス・エンタテイメントのブースへ戻っていく。
このことをコハルはあとで後悔することになった。
●アスタリスク大阪で叫べ
「コミレザよ! 私は帰って来た!!! んっふふふふふふ‥‥懐かしいですね、この空気。霊的な力があればきっと、この会場は黒く見える事でしょうねぇ」
ニヤニヤしつつ玖堂 鷹秀(
ga5346)はアスタリスク大阪の正面。最後尾と掻かれた札を持つスタッフの指示に従い列に並んだ。
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜」
気合を入れているのは鷹秀でだけではないドクター・ウェスト(
ga0241)も最近ハマっているマジカル血煙対戦格闘ゲーム『魔法と少女と肉体言語』のメインキャラが描かれたお手製白衣を装着中である。
「なぁ、山戸‥‥俺達なんで‥‥こんなところにいる‥‥んだろうな‥‥」
「俺に聞かないでくれ‥‥」
一緒に並びながらもテンションの低い玖堂 暁恒(
ga6985)と今回の依頼主である少年、山戸沖那。
見渡す列は先がかすむほど長かった。
「えらい人出やなぁ‥‥」
「お、クレイフェルじゃん」
丁度、沖那達が並んでいた列の後ろにクレイフェル(
ga0435)と蓮沼千影(
ga4090)が偶然並ぶ。
世の中広いようで狭いようだ。
「あ、あんたは紫陽花祭のときにお嬢に浴衣頼んでいた」
「ああ‥‥あのときの‥‥沖那だっけ? 沖那がいるってことは磨理那様関係か?」
「京都のお嬢ちゃんがどないしたん?」
沖那に気づいた千影が事情を察して聞いてくる。
クレイフェルもなにやら面白そうなことが起きる予感がしているのか首を突っ込んできた。
「買出し頼まれて、自腹で‥‥あとで立て替えてくれるっていうんだけどな‥‥正直、こんなには持ってない」
沖那が差し出した目録を見て、千影もクレイフェルもなんともいえない顔になる。
傭兵といえども金がかかるのは二人とも承知であり、さらに4万C近い金額は高額だ。
京都からの旅費も決して安くはない。
「なるほどなるほど、兄がこの手のイベントに参加しないと思ったら君が兄の知り合いだったわけですね。初めまして、暁恒の弟・鷹秀と申します。今日は目当ての物を手に入れられる様頑張りましょう」
眼鏡をかけた鷹秀の笑顔は好青年ぽく沖那にはみえた。
「あ‥‥どうも」
「しかし、DVDBOXや限定テレカとは基本を踏まえいい選択ですね。ここで発売されるBOXは先行発売でさらに握手会などへの参加と特典など‥‥」
そう思ったのもつかの間、鷹秀の眼鏡がキラリと光り、ヲタク知識が開放される。
とても話についていけなかった。
「やぁー沖那〜そんなところにいたんですねー。困った時には誰かを頼る――頼るのみではダメですがー、必要な時は大事ですよぉー」
そんな時、遠くの列からラルス・フェルセン(
ga5133)が沖那に向かって手を振ってくる。
「は、恥ずかしい‥‥」
「無視‥‥しようぜなぁ‥‥」
沖那と暁恒はそんなラルスをスルーしてアスタリスク大阪の方をみて、移動する列に従った。
●同人誌漁って三千里?
「鳳外流無双(ふぉーげるむそう)って能力者のサークルかなあ? 私もKVの本出したいなぁ」
藤田あやこ(
ga0204)はコミレザ準備会でコスプレの登録をし、『強攻偵察中隊【燕】』の制服でコミレザのカタログ片手に人ごみの中を歩いている。
個人サークル参加経験があるツワモノのあやこは人ごみなどなんのそのとしっかりとした足取りで同人誌を漁りに向かっていた。
カタログカットは鎧を着込んだKVのようなものがポーズを決めている。
そんな力強いイラストに惹かれたのか、常連サークルを後回しにあやこはサークルに顔をだした。
「鳳外流無双の販売サークルはここですか?」
「はい、ここどすえ」
あやこを出迎えたのはワカメのようなロングヘアをした豊満な体型の女性である。
「新刊一冊。あの、能力者の方ですか?」
「うちは能力者ではありまへんな。ただ、KVにはちーっとばかり関わっているとだけいっておきますえ」
あやこは本を受け取りながら女性に聞くと、女性は意味深な笑みを浮かべて本を手渡した。
「ん? ‥‥おっと、忘れるところだった〜」
そんなことをやっているとあやこの後ろからウェストが白衣をひるがえしかけてくる。
入り口でコスプレでの入場は禁止と入れなくなるところだったが許可証にサインして入場できていた。
「こんな場所で傭兵に会えるとは思いませんでしたよ。皆KV好きなんですねぇ」
大規模作戦でよく見る顔をみつけあやこは微笑む。
「新刊一冊もらえないかね? あと、過去のサンプルを読ませてもらうよ。あやこ君もきていたのかね。類は友を呼ぶとでもいうのかな?」
ウェストは鳳外流無双を買いながら、このサークルにめぼしいものがないか読み出した。
「そのKV擬人化本はどこで買ったんですか?」
「ん〜、これはだね〜」
「後ろにお客さん来とるし、他所様のサークルの話は他でやってくれへんやろか?」
サンプルを読んでいるウェストが持っていた本にあやこは目をつけ、聞き出す。
しかしながら、自分のサークルの前で余所のサークルの話をされるのは気持ち良いものではないし、マナーに反しているので、やんわり注意された。
「ついつい、やってしまうのだね。あやこ君、せっかくだから一緒に回ろうではないか、けひゃひゃひゃ」
サンプルを置き、2、3冊購入したあとウェストとあやこはサークルから離れる。
お互いのヲタク話に華を大いに咲かせながら‥‥。
●限定品争奪戦!
「ぬ、ぬごぉ、お‥‥おすなぁ‥‥」
アスタリスク大阪内部の企業ブースと呼ばれる全国から出展を許可された企業が物品販売をしているエリア。
そこで沖那は列に押しつぶされそうになっていた。
並んでいるのは日本橋のアニメグッズ専門店『キャラメル探偵』のブースである。
そこの限定テレカを買うために並んでいた。
「ぐ、ぐはぁ‥‥し、死ぬかと思った‥‥」
沖那がぎゅとテレホンカードを握り締めて姿を現す。
「山戸‥‥大丈夫か? ‥‥キズはあせぇ‥‥ああ、たぶんな‥‥」
フラフラとした沖那をささえ、暁恒は人ごみの中で頬を引きつらせた。
「あら、山戸さん。ここにいたのね」
「え、えっと‥‥どちら様で‥‥しょうか?」
突如声をかけてくる金銀砂子の浴衣を着た美女に沖那は戸惑う。
「ぁん‥‥てめぇは‥‥傭兵じゃねぇか? 暇だな、お互い」
暁恒はすぐにシュブニグラス(
ga9903)だと気づき、ため息混じりに答えた。
「ふふ、そうね。けど、いたいけな少年の心を奪えたのなら、私の浴衣姿も捨てたものじゃないわね。しかし、暑いわ」
シュブニグラスは扇子で自分を扇ぎつつ『ぷりてぃマキちゃん♪』DVDBOXを空いた手でぶら下げている。
「あ、そのDVDBOX‥‥」
沖那がシュブニグラスのDVDBOXに注目した。
それもまた磨理那からの目録賞品の1つである。
「あ、これ? 何かもう少しで在庫なくなるそうよ?」
「嘘だろ‥‥」
シュブニグラスがDVDBOXを掲げ、首をかしげた。
沖那はがっくりと肩を落としたのは言うまでもない。
「まだ、間に合うだろう‥‥いってこい‥‥俺はいかねぇ‥‥マジ切れして覚醒しそうだからよ」
暁恒に落とした肩を叩かれ、沖那は気合を入れて立ち上がった。
「平良さんのお使いなのね? がんばってきてね。買えなかったら写真くらい撮らせてあげるから」
「それは‥‥お嬢が怒りそうだから遠慮しておくぜ‥‥じゃあ、『逝って』くる」
シュブニグラスへの返事に妙なニュアンスが入っている。
それに気づきながらも、暁恒もシュブニグラスも人ごみに消えていく沖那を見守っていた。
「さ、私はCDを買いにいきましょっと」
「まだ‥‥買うのかよ‥‥」
見送ったあと、思い出したかのようにシュブニグラスは動き出す。
暁恒はそんなシュブニグラスのバイタリティにただただ呆れるばかりだ。
シュブニグラスが向かったのはアイベックス・エンタテイメントのブース。
IMPの初アルバムCDが売り出されるとあって、中々盛況だ。
「えぇ、一枚しか買えへんの? 残念やわ‥‥あの‥‥がんばってな」
シュブニグラスより先に並んでいたクレイフェルが無事CDを購入している。
購入するときクレイフェルはアイドルの1人に頬を染めつつ挨拶をしていた。
「微笑ましいわ‥‥ああ、私も列に並ばなくちゃ」
手渡しでCDを売るスタッフの奥で準備中のアイドルに声をかけるクレイフェルを微笑ましく見ていたシュブニグラスだが、すぐに列へと並ぶ。
CD購入でサイン会か握手会に参加できるとあっては買わない手はなかった。
●大人気、タワーオブマーセナリー
「今回は体験版としての販売で申し訳ありません、冬には完全版を出しますのでよろしくお願いします!」
「キャラモデルの子、アイベックス・エンタテイメントのブースにアイドルとスタッフで来てますよ〜。あ、1人は私の妹なんですけどね〜」
列に並びながら、ラルスが周りのヲタクに声をかけていく。
「あー、私は〜4枚お願いしますー」
ラルスの順番が回ってきて、笑顔でゲームを購入する。
沖那の分と知り合いでIMPマネージャーをしているライディの分、さらには遊ぶ用と保存用というマニアな買い方だ。
「能力者をモデルにしたゲームというのは興味がありましたからね、楽しみです‥‥ふふふ」
ラルスの後方では鷹秀がゲームを手に入れる前から悦(えつ)に入っていた。
「おぉぅ、すごい列だな‥‥磨理那様の服を買っていたら、遅れたぜ」
折れ曲がり続く列に磨理那の目録にあったコスプレ服を購入した千影が並ぶ。
スーツ姿の千影はゲームのキャラクターそのままだった。
「あれ、千影 蓮じゃね?」
「本当だ千影 蓮だ」
並んでいる列にいるヲタクの何人かがざわざわとしだす。
「え、俺? 確かに格好そのままかも‥‥」
「握手会の前にいそいできたー‥‥って、列すごっ!」
その後、さらにゲームキャラクターが加わった。
「小春だ、小春がいるぜ!」
「ちがうって、IMPの葵ちゃんだよ」
ざわめきが大きくなり、何やら危険な雰囲気が漂う。
「ま、まずかったかな?」
「コハルちゃんの分は俺が買っておくから‥‥逃げた方がよくないか?」
じりじりと下がるコハルに一部のヲタク達が詰め寄り、その様子をみた千影が列に並びつつ逃げることを提案した。
「そ、そうするよー。それじゃあ、よろしく〜」
ゆっくりと後退し、コハルはその場から立ち去ろうとする。
「「小春ちゃーん」」
だが、ヲタク達の波にコハルは飲まれて、思いっきり流された。
「会場で走っちゃ危ないですよー!」
あやこの制止など聞かず、ヲタク達はコハルを運ぶ。
アスタリスク大阪、そこは欲望の渦巻く場所だった。
●真っ白に燃え尽きて
「‥‥つかれたー」
真っ白に燃え尽きながら、沖那はテーブルに突っ伏する。
アスタリスク大阪から離れ、ゆっくり出来るフードコートにて沖那をはじめとした能力者達が集まっていた。
「同人誌・鳳外流無双と我輩の趣味本色々だよ。我輩のおごりだから気にしないでくれたまえ、きゃひゃひゃ」
燃え尽きている沖那とは裏腹に元気なドクター・ウェストが同人誌どアニメキャラの描かれた紙袋で沖那に手渡す。
「いやぁ〜‥‥お疲れ様でした、皆さん。お目当ての物は手に入りましたか?」
「俺の弟は‥‥化け物か‥‥」
ドクターと同じくつやつやの笑顔で同人誌を両手に持ち、皿にリュックからポスターが突き出ている鷹秀の姿に暁恒は呆れていた。
「えっと、まきちゃんDVDに千影さんが買ってくれたコスプレ服に、限定テレカ、鳳外流無双‥‥」
「はい、タワーオブマーセナリー体験版です〜。入り口で無視されたときはー悲しかった〜ですよー」
起き上がって目録を確認する沖那へラルスがゲームの体験版を手渡す。
「流石にあないな人ごみで声をかけられると恥ずかしいて‥‥」
ラルスとは別のテーブルにすわり、クレイフェルが弁解をした。
「クレイさんはー買ってないのですか〜? ターワーオブマーセナリーにはーいい子いますよ〜特に、私の妹がモデルの〜」
「あー、それならさっき千影兄さんから貰ったわ。ゲームのモデルキャラやったと聞いてたんやけど、これやったんな。なんか、偉い行列だったとか」
ラルスが妹の宣伝をしはじめると、クレイは千影から渡されたゲームを出す。
「ええ、早めに抑えておいて良かったですよ。パッケージのできが良くて観賞用とプレイ用で最低2枚買う人が多いようでしたね」
「冬はお誕生日席は確実ですね。もしかしたら、外周になるかもしれませんが」
コスプレ衣装からいつもの白衣に着替えなおしたあやこがどこからともなく合流を果たした。
「いろいろあるんだな‥‥なにより、ミッションこんぷりーとー。でも、帰りの電車賃を考えると飯食えない‥‥」
目録が全部埋まり、沖那はぐだっとなる。
「おめでとう、あまりにも不憫だからお姉さんがご飯奢ってあげるわ」
浴衣姿のシュブニグラスも合流を果たし、フードコートで昼食を兼ねた感想会が始まった。
千影やクレイフェルが見たKVのコスプレ衣装やら、リネーアなどのコスプレなどの話題。
鷹秀やあやこ達が回った能力者になる前から知り合っているサークルの話などだ。
普段では味わえない貴重な経験を皆したようである。
「あ、KVの写真とりわすれたぁぁぁぁ!?」
楽しい話題で盛り上がっていたなか、沖那が大きな声で叫んだ。
「まだ何かあったのかよ‥‥お前も大変だな‥‥あの姫サンの、ワガママもよ‥‥同情するぜ」
「同情するなら、写真取ってきてくれ」
「だが‥‥断る」
沖那の叫びに暁恒は肩を叩いて哀れみの目を向けるが、それだけである。
「不憫ね。ここは交換条件でいきましょう。LHに平良さんのコスプレ写真おくってね」
どうしようと悩む沖那にシュブニグラスが懐から自分のKV写真を沖那に渡した。
「おおぅ、何から何まで‥‥本当に悪い」
大切に写真を受け取り、沖那はシュブニグラスに何度もお辞儀をする。
こうして、真夏の一日は過ぎていった。
●後日
シュブニグラスの自室に『デジタルアイドルりりあーの』のコスプレをした平良・磨理那が両手を兎のようにして踊っている写真が送られたという。
真実かどうかは当人しか知らない‥‥。