●リプレイ本文
●物思いにふけて
「結成した時以来かな? ここまでの大舞台って。‥‥あたしらも結構なとこまで来たわねぇ‥‥」
鷹代 由稀(
ga1601)が設営されていくブースを眺めて感慨深げにもらした。
「さて、今回もメジャーな舞台ですね。ミスをしないよう頑張りましょう」
黒をベースにしたボディースーツにスカートが一体となった共通衣装を緋霧 絢(
ga3668)は身につけながらステージの様子を見に来る。
鎖付首輪、手枷、足枷などいつものアクセサリーに赤いネクタイのアクセントをつけた格好だ。
「リーダーは冷静ね。そうでなくっちゃ困るけど」
いつもながらの緊張感を見せない無面目な絢に由希は心強さを感じる。
「コハルちゃんは見当たらないけれど、どこにいったかシーヴしらない?」
雪村 風華(
ga4900)が着替えを済ませてやってくると、IMP専用スタッフジャンパーを羽織ったシーヴ・フェルセン(
ga5638)に声をかけた。
「ああ、コハルならサークル回りに行きやがったです。自分がモデルになったゲームがでてやがるですから‥‥シーヴもモデルになったです」
「なるほど、リハーサルまでに戻ってきてくれればいいんだけれど‥‥」
シーヴの説明に風華も納得し、設営を手伝いだす。
「えっと‥‥この年でこの衣装は少し恥ずかしい気もします」
26歳という年ながら、短いスカートにドレスのように胸元までしか覆われていないボディースーツに加賀 弓(
ga8749)は恥じらいを隠せなかった。
弓自身も洋服よりは和服が多いため露出が高い物はなれていない。
「お似合いですよ。水着と同じような感覚で大丈夫ですよ。スタッフの皆さん今日はよろしくお願いします」
一方、モデル経験豊富な大和・美月姫(
ga8994)は慣れた様子でスタッフに笑顔で挨拶をしていった。
「えっと、許可証のほうを配りますのでこちらを忘れずにもって動いてください。あと、まだ開始より時間ありますがあまりであるかないでください」
IMP専属マネージャーのライディ・王(gz0023)がアイドルたちにコミックレザレクションでの入場許可証を配っていく。
「CDの配置とか一緒に決めて、皆様がんばりましょう」
絢は許可証を受け取りながら締めた。
●CD販売
「お買い上げありがとう〜。新人のケイちゃんでつ、宇治グリーンビーチのCMに出てます」
常夜ケイ(
ga4803)はCDを手渡しで渡しながら笑顔を振りまく。
衣装はどこか魔法少女っぽさを漂わせる赤のアクセントや装飾の強い共通衣装だ。
「今日はありがとっ、この後のライブも楽しんでってね」
リハーサルギリギリに戻ってきた葵 コハル(
ga3897)は練習のあと進んでCD販売を手伝っている。
「あ、あの‥‥なんや、がんばってな!」
「は‥‥はい、このあとのライヴも‥‥見ていただければ嬉しい‥‥です」
ドンドンと客達にCDを手渡して売り回している二人とうって変わって、絢が1人の客を前に顔を真っ赤にしてカチカチに固まっていた。
客の方も声をかけたはいいが照れているのか動かなくなっている。
「おい、どけよ」
「早くしてくれー!」
動かなくなっている青年男性に対して並んでいるヲタク達が苛立ちを見せだした。
「騒がずお並びください。また購入された方にはこの後のイベントへ参加できますが、他のお客様の迷惑がありますと中止ということもなりかねます。ご協力をお願いします」
「最後尾はこちらです。IMPのCD購入をされる方はお並び下さい。購入された方は速やかにブースから離れてください。」
スタッフであるライディが騒ぎ出すヲタク達を優しくなだめている。
その間に最後尾という文字と賞品のジャケット写真が貼られた看板を掲げてシーヴは客寄せをしながら列の騒ぎをカモフラージュした。
「はい、リーダーに代わりまして新人の弓です。すみません」
由希がこっそり動いて絢と弓を交代させてCD販売を任せる。
「はい、急に年齢が増えてしまって申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
弓は苦笑していたが、すぐにいつものおっとりした雰囲気に戻りCDを販売していった。
「ゆみちゃんだ! ゆみちゃんに代わった! 俺運がいい!」
列が進みでたオタクは弓の対応に喜ぶ。
7月の浴衣コンテストで弓を応援していたファンの1人らしい。
「初の唄が入っています。楽しんでいただける内容に仕上がっていますから、是非お聞きください」
自分を応援してくれている人に賞品を渡せる楽しさを弓は感じた。
そして、このCDにより本当にアイドルになったという実感も‥‥。
「新人という呪文には賞味期限があるので必死でライブ成功させるでつ〜」
弓の感慨とは裏腹にシュババババとCDを売っていくケイはとてもノリノリだ。
(「私も負けていられませんね」)
心の中で対抗心を燃やし、弓は笑顔でCDを売り出していく。
「お買い上げありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします」
衣装の恥ずかしさなどもうどこかに消えていた。
●サイン&握手会
「うわぁ、暑い中ありがとう」
風華が『ゆきむらふーか☆』というサインを書きながらファンに猫かぶりの笑顔を振りまく。
「『ひなふぇすた』の時にファンになりました。今日はあえて本当に嬉しいです」
3月に京都であったイベントでファンになってくれたという女性ファンがサインを貰ってまぶしいくらいの笑顔を返した。
「今日のライブ、ふーか精一杯頑張るから、ちゃんと応援してね。あとCDにはふーかの曲もあるから聞いて元気になって欲しいな」
風華は飛び上がりたくなる嬉しさを胸にしまいこんで交流をしていく。
「えっと、蒼紀さんへって書けばいいのね?」
「姐さん、それでおねがいしやす!」
一方、座右の銘「Going my way」を由希は書いてから、「IMP Yuki Takashiro」と崩し気味の筆記体で色紙を埋め、『蒼紀さんへ』の一言で締めた。
頼んだファンの方は普通のヲタクとは何か違うオーラを漂わせていたが、営業スマイルで由希は対応する。
「IMPと‥‥あたしをこれからもヨロシクっ」
次のファンはCD『小悪魔の楽園』を差し出してきたがジャケットの包装を解いて由希はサインを描いた。
握手のほうも平行しておこなわれている。
ブースの角に机を二つ直角に置き一辺同士3人と4人で内容を変えた形でおこなわれていた。
「今日はありがとうございます。最後まで楽しんで下さいね」
握手会の筆頭は美月姫である。
欧州で一部で注目されだしていたのがあるのか、外国人のファンの姿があった。
弓やコハルも握手をしていく。
コハルのテーブルにはなぜか『自重しる』と書かれたハリセンがある、しかし、それが使われたことはなかった。
サイン会を早めに切り上げ、休憩に入る。
「やっとかめー。しっかり、売りこんどりゃあか?」
その頃になって、プロデューサー兼アイベックス・エンタテイメントの社長である米田がアロハにサングラスというらしからぬ姿でやってきた。
「あ、社長ー。ライブの時の司会なんだけど‥‥人を手配してないなら、あたしにやらせてもらえない?」
「司会はそこのマネージャーのつもりだっただがねー。でも、挑戦したいのならとみゃぁせんでよ」
由希が企業ブースでスポーツドリンクを飲みつつ米田へ話を持ちかける。
「え!? こんなところで司会‥‥っ、つめたっ!」
マネージャーといわれたとき、シーヴに頬へ冷えたスポーツドリンクをつけられたためライディがびくっとなった。
「そういえや、うちのマネージャーはラジオパーソナリティーだったか。忘れてた忘れてた」
由希が思い出してリアクションを取る。
「でも、せっかくの機会ですし色々挑戦してみたらどうですか? 新たなジャンル拡張とか‥‥」
「ライヴの時間ですがリハーサルの流れで別ステージで複数のアイドルでおこなうとのことなので、あまり曲を多くできませんね」
「CD収録曲が無難だがねーダンスの練習とかもできとりゃあせんし」
絢が正式なタイムテーブルを確認し悩んだ。
米田の言うとおり簡単なリハーサルしかしていないので、新曲は本番で失敗する可能性が高い。
「初のライブになりますががんばります。失敗はしない様にしますが、多少の事はご愛敬と言う事で‥‥」
美月姫が初ライブの緊張と興奮を含めた微笑を浮かべる。
「そうだね。初めのライヴも練習ギリギリだったし何とかなるよ」
風華がぐいっとスポーツドリンクを飲み干して休憩が終了した。
●ライヴ!
他の事務所からのアイドルなどがライヴを行い、緊張感が増す中IMPの出番が回ってくる。
「はーい、MC交代よ。やかましいのが来たー、とか思わないでねー。だべりと仕切りはあたしの得意分野なのよ」
「「姐さーん!」」
IMP共通衣装にアクセサリに銀十字のペンダント、ブレスレット、イヤリングなどをつけた由希がステージに立つと予想外の歓声がおきた。
「ちょ、それはやめて。あたしはかたぎの人間なんだから‥‥」
「ゆっきちゃーん」
「それはもっと勘弁」
会場を笑いに包みながら、ステージ袖に控えるメンバーの緊張をほぐす余裕を取る。
今回は第二期以降が3人、うち2人ライヴ初経験なのでしっかりと下準備は必要だった。
「会場のみんなに負けないくらい熱くアツくハジけてこうっ!」
「「おーっ!」」
円陣を組みコハルが掛け声をかけ、呼応するかのようにアイドル達は気合をいれる。
「まずはIMPのメンバーに出てきてもらいましょう。どうぞ!」
由希の声と共に黒に赤いアクセント加えた衣装のアイドルたちがステージにでた。
「念願かなって傭兵アイドルになれました、ヲタクの女王様と親しまれる様頑張ります」
「今日はタルトが別のお仕事でいないけど、ふーか、その分も頑張っちゃうねっ〜!」
先進歌猫アイドルのケイと先進舞闘アイドルのふーかが挨拶をする。
「それでは一曲目はおなじみのナンバーで、『Catch the Hope』!」
6月に合宿で練習をしたファーストシングルをアイドルたちがステージの上で揃って歌いだした。
闘っている傭兵とは別の姿、今はここにいる観客、そして唄を楽しんでくれる人たちのアイドルになる。
「二曲目は新曲を歌います。WILL〜光へ〜をどうぞお聞きください」
『WILL〜光へ〜』
作詞:風華
♪〜〜
希望なんて有りはしない
誰かがそっと呟く
それでも前を向き進む
それしか私には出来ないから‥‥
たとえどんな辛くとも
絶望が世界を覆っても
私が未来(あす)を切り開く
絆 闇を打ち倒し
光 世界を染めあげる
たとえこの身が滅んでも
この意思だけは砕けない
〜〜♪
新曲は歌いやすい曲を選出。
ダンスはなくしっとりと声をそろえて全員が歌いに思いをこめた。
『Brave Spirits』は米田の意見もありダンスを完成させて次のライヴで歌うことになる。
歌っている間にたくさんのフラッシュが光り、またアイベックススタッフによるビデオ撮影も行われた。
「最前列で警備できなかったでやがるです」
「シーヴみたいな女の子だと逆効果になる可能性もあるからね」
その様子をライブ区画のそとからシーヴとライディは眺めて曲に耳を傾ける。
サビのリピートまで歌い終わりと共に盛大な拍手で退場し、コミックレザレクションのミニライヴは無事幕を閉じたのだった。
●撤収
「おつかれだがねー。CDも完売できたでよ。十分成果は出せたと思うだで、今後ともがんばっとくりゃあ」
米田が団扇で自分を扇ぎアイドルたちを労う。
「ライブって緊張しますね〜お疲れ様でした。さ〜買う買う」
「ちょ、ちょっと待ってください。せめて着替えてください」
そのままで衣装で出かけようとするケイをライディが引きとめた。
ヲタクアイドルを目指すケイは少々注意が必要かもしれないと他のアイドル達は感じる。
「完売は嬉しいですけれど、聞きたかったですね」
さっさといつもの着物姿に着替えてきた弓が残念そうに呟いた。
「そこんとこは安心すりゃぁよ。ちゃーんと人数分キープしといたで」
米田がニヤリと笑いアイドルたちにCDを配る。
「あ、あの社長さん。このジャケットに書かれているのは‥‥」
受け取った美月姫はなんともいえない視線を米田に向けた。
「俺のサインだがやー。レアだでよ〜」
あっはっはっと笑いながら米田はそのまま人ごみの中へ消えていく。
そんな後ろ姿をみつつ、美月姫は自分の曲をCDに入れるためインスピレーションを高めた。
キーワードは『挑戦』。
がんばれIMP、社長にも負けるなIMP!