●リプレイ本文
●浴衣にお着替え
「磨理那様こんにちわ。祭りに参加できること、嬉しく思います。‥‥それで、紺色の浴衣貸してくれませんか?」
蓮沼千影(
ga4090)は自分より一回りは小さい年の平良・磨理那(gz0056)に頼み込んでいた。
「うむ、早く着替えるのじゃぞ。沖那が着替えておるから一緒に着替えるがよいのじゃ。女子で浴衣忘れたものはおらぬかの?」
すでに浴衣姿で集まっている能力者たちに向かって声をかける。
「すみません。紫の浴衣をお借りしたいです。できれば、八神さんのも‥‥」
人波を掻き分けてでてきたリゼット・ランドルフ(
ga5171)が頼みだした。
予想外の申し出だったのか、リゼットについてきた八神零(
ga7992)は困ったような顔をする。
「いや、俺は私服で‥‥」
「着てくれないんですか?」
「そ、そんな目で見ないでくれ‥‥分かった。リゼットと同じ色で頼む」
じーっと期待するような目で見上げられ、八神は着替えることに決めた。
「あの‥‥リニクも‥‥浴衣‥‥借りたい‥‥色は決めてないかな?」
リゼットが呼び水となったのか、リュス・リクス・リニク(
ga6209)も浴衣を借りたいと申請をしだす。
「一緒に出歩く者はおるのかの? 妾が相手に合わせて選ぶのじゃ」
「リニクの相手は俺だ。どうだ、この猪鹿蝶! ‥‥似合う? 似合いますか? 似合うといってくださいお願いします」
呼ばれて飛び出たわけではないが、ド派手な浴衣でド派手に現れたのは須佐 武流(
ga1461)だ。
「タケル‥‥似合ってる‥‥よ」
「元気じゃのぅ。そうじゃな、明るい色の方が釣りあいそうじゃな」
磨理那はちょっとびっくりしながらリニクにオレンジの浴衣を渡す。
「ありがと‥‥」
「着替え部屋は奥の方じゃ、男が入らぬようにの」
「リニクさんも浴衣を着るのでしたら、私が着付けをお手伝いさせていただきますね」
磨理那がさししめした部屋へ、絢文 桜子(
ga6137)がリニクをつれて嬉しそうに入っていく。
桜子の格好はユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)から借りた蛍模様の浴衣にレースのアレンジを加えたものだ。
「お嬢ー。着替え終わったぞ」
ちょうど桜子と入れ替わって、紺色の浴衣に着替えた山戸・沖那が襖を開けてでてくる。
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
磨理那よりも先にファルロス(
ga3559)が沖那へと声をかける。
「あんたは‥‥ファルロス!」
「よぉ‥‥不良少年‥‥元気してっか‥‥」
玖堂 暁恒(
ga6985)がくくっと笑いながら沖那の肩を叩いた。
「玖堂もきてたのか!」
沖那は世話になった能力者の姿を見て、驚くと共に嬉しさを感じて微笑む。
「他にも‥‥いるぜ‥‥その辺はまた会うさ‥‥」
くくっと再び玖堂は笑った。
「知り合いが来て良かったのう。では、蛇の目傘を配りだすので準備をできたものは妾についてくるが良い」
磨理那は沖那が京都では中々見せない笑顔を見せたことに満足する。
そして、あえて語らいの時間をもうけるために人を引き連れ出発準備に取り掛かるのだった。
●祭りの園へ
「浴衣に着替えたから、あとは屋台を全部回って花火を見て‥‥。くう〜! 今から楽しみだぜ!」
京都へ来る前に送られてきたしおりを見て練ったデートプランを回想し、風見トウマ(
gb0908)は気合をいれる。
「雨に濡れていると風邪をひくわよ? この大人数だったけれど、すぐに見つかってよかったわ」
臙脂色の傘をトウマにかけたのは神森 静(
ga5165)だ。
「お、おおぉ‥‥今日はよろしく! 傘は俺が持つからいこうぜ」
静の紅葉がちりばめられた浴衣姿に言葉を失いかけたトウマだが、いいとこを見せようと傘を受け取って一緒に門をくぐる。
「ここから先が神仏を祭った『聖域』ですよね‥‥」
金城 エンタ(
ga4154)は何か普段の世界とは異なる空気を感じてあっけにとられていた。
『ねぇねぇ、1人なら一緒に回ろうよ』
そんなエンタの目の前にテディベアが現れ、しゃべりだす。
「え、テディベア? じゃない、腹話術なんですね」
エンタよりも背の高い乙(
ga8272)が良く見れば喋らせているのが分かった。
「乙なの。このこは癸(みずのと)っていうの」
『癸だよ』
蛍模様の浴衣をきた乙が挨拶をすると、癸も一緒にお辞儀をする。
「それじゃあ『3人』で回りましょう。よろしくお願いします」
エンタもお辞儀を返し紺色の蛇の目傘をかざして門をくぐっていった。
「うわ〜人一杯じゃねえか‥‥あ、1人なら一緒にどうかな?」
次々と門の中へ入っていく人たちを見ていた来栖 祐輝(
ga8839)は蛍模様の浴衣をきた紅 アリカ(
ga8708)を誘った。
「私でいいなら‥‥」
臙脂色の傘を持った来栖はアリカと共に門をくぐっていった。
「はっちー、お留守番していて大丈夫かな〜」
多くの人が大原三千院の門をくぐっていき、人がまばらになってくると1人ぽつんと愛紗・ブランネル(
ga1001)の姿が見える。
いつものパンダのぬいぐるみは濡れると嫌だったので、磨理那の屋敷において来ていた。
かわりに浴衣はパンダ模様の特別仕様である。
「なんじゃ、1人なのかえ?」
臙脂色の浴衣をきた磨理那が沖那に紺色の傘を持たせつつ、愛紗にたずねた。
「磨理那ちゃんを待ってたのー」
「あら、私も磨理那さんとご一緒しようかと‥‥」
愛紗の言葉に同じように待っていた佐伽羅 黎紀(
ga8601)が紫の蛇の目傘を愛紗にかざす。
黎紀は浴衣ではなく私服。
どうやらトラウマがあるらしく、磨理那も無理強いはできなかった。
「メンドクサイな。4人で一緒にいけばいいだろうに」
沖那は頭をボリボリと掻いて呟く。
「そうじゃな、黎紀は愛紗と共に話しつつ参るのじゃ」
磨理那も沖那の提案に従って、4人そろって散策をすることに決めるのだった。
●雨の中での同行者
「香原先生はカタツムリを数えますから、あっくんはアマガエルを数えてくださいね。少ないほうは抹茶を奢るという方向ですよ」
香原 唯(
ga0401)は紫陽花模様の浴衣で、福居 昭貴(
gb0461)と共に聚碧園で見かける生き物達を探す。
「雨の日にはカタツムリとかいるのね‥‥私はちょっと苦手かしら」
「ナレインちゃんは虫が苦手だったの? 意外だわ」
唯と福居の近くを歩いていたナレイン・フェルド(
ga0506)はカタツムリがいることを知り、びくびくと隣にいる鳥飼夕貴(
ga4123)に身を寄せた。
「確かに意外ですわね‥‥お邪魔でなければご一緒してもよろしいでしょうか?」
朱紅葉の浴衣を着た二人に臙脂色の浴衣を来たジュリエット・リーゲン(
ga8384)が混ざる。
ぱっとみ3人の美女に見えるが、ナレインと夕貴は男同士だ。
けれど、ナレインは夕貴と密着するかのように腕を組みカタツムリがいるかもしれない恐怖か頭を夕貴の方に傾けている。
ジュリエットが遠慮しようというのも分からなくもなかった。
雨の日傘をかざして散歩するというお祭りのため、カップルがおおい。
「地蔵がかなり多いらしいぞ、どちらが多く見つけられるか勝負するか?」
「うふふ、そうですわね」
紺色の浴衣にえび茶色の帯を締めたルフト・サンドマン(
ga7712)と自前のラピス・ヴェーラ(
ga8928)もそうだった。
臙脂色の傘の下、二人は腕を組み寄り添って歩いている。
「3人とも浴衣が似合ってますよ。それぞれ違った趣があっていいですね」
また、フォル=アヴィン(
ga6258)が同行者である3人の女性の浴衣を褒めた。
「ようやく母の形見である紫陽花柄の浴衣を着ることができてご機嫌ですよー。何を言われても許せちゃいます♪」
その1人、鳳 つばき(
ga7830)は笑顔でフォルの賞賛に答える。
「ふふ、一緒にあるけて私もうれしいよ。こうしているとちょっと私のほうが背が高いんだね」
つばきとひっついて歩いているのは月夜魅(
ga7375)だ。
浴衣も紫陽花柄でつばきと合わせている。
「ありがとうございますの。でも、褒めても何もでませんよ」
フォルのさしている傘の下で桜子は微笑んだ。
「紫陽花柄の浴衣の人多いわね〜」
「やっぱり、お祭りがお祭りだからと思いますよ」
そんな4人組の後ろをリーゼロッテ・御剣(
ga5669)と麻宮 光(
ga9696)は少し離れつつ歩いていた。
カップルというわけではないが、何をしていいか分からないという光にリーゼが付き合った形である。
「此処にもあるといいですね、ちか色の紫陽花‥‥」
レーゲン・シュナイダー(
ga4458)は微笑みながら千影に寄り添う。
千影も傘からレグがはみ出さないように腕を組んで境内を歩いた。
「今日誘ったのは『ちかの色』って言ってくれた紫陽花をみれるかなっていうのとレグの浴衣姿が見たかったからってのもあってさ」
恋人‥‥いや、それ以上の存在のレグに照れ笑いを向ける。
「ちかの浴衣姿も、素敵なのです‥‥え、そんな往来で――」
「超可愛いぜ‥‥レグ、大好きだ」
レグに向けられたのは笑顔だけでなく、千影の顔が迫った。
二人の唇の距離が縮まっていく‥‥。
その先は蛇の目傘に隠された。
●俳句を読もう
『紫陽花に 負けず秀麗 君蛍 水鏡・シメイ(
ga0523)』
「こんなのでどうでしょう? 珪さんはいいものができましたか?」
シメイは紫陽花苑で句を読みつつ、隣にいる蛍模様の浴衣を来た妻を見つめる。
「そうですね。私はこんなところでしょうか?」
『紫陽花の 滴に映る 夏の空 水鏡・珪(
ga2025)』
「今日は雨ですが、晴れた日にこれたら来たいものですね。きっと綺麗でしょう」
妻の句を聞いてシメイは優しく微笑んだ。
『暗き世を 照らしつ進む 蛍かな 風代 律子(
ga7966)』
「この戦争だらけの世の中を照らす蛍になりたいものね」
律子は句を読み終わったあと、息抜きできたこの三千院の景色を眺めて誓いを立てる。
京都の自然な景色が律子にとって荒んだ生活に灯った蛍ように感じたのだ。
『さくらんぼ いくらたべても おなかすく 最上 憐(
gb0002)』
「ん‥‥できたの。パパは読まないの?」
「俳句は良くわからないんだ。でも、憐の句は俺にもわかるよ」
憐の純粋な気持ちを読んだ俳句をサルファ(
ga9419)は褒め、頭をなでる。
「ん‥‥ありがとう。‥‥なの」
頬を染めて憐は迷子にならない様に握られたサルファの手を強く握り返した。
「次へいこうか?」
「うん、食い倒れ‥‥なの」
『梅雨の空 ロケット花火で 吹っ飛ばせ 水鏡 空亜(
gb0691)』
「うん、いい感じ♪」
一際目立つピンクの傘にピンクの浴衣姿で水鏡は満足げに頷く。
「皆、俳句上手ですね」
聞いていた都倉サナ(
gb0786)は関心していた。
「私も興味はあったのだけど、難しくて断念しました」
フィオナ・フレーバー(
gb0176)は蛍の浴衣に紺色の蛇の目傘をさしつつサナに同意した。
『紫陽花や 水面に映る 我が衣 シュブニグラス(
ga9903)』
「私は苦手なのでうらやましいです」
紫の傘をさして、紫の浴衣に着替えた神無月 るな(
ga9580)がシュブニグラスの歌を褒めだす。
「ありがとう。桜塚杜の方はどう?」
るなからの賞賛をシュブニグラスは目を細めて微笑みで受けた。
『紫陽花の 色に例えし 恋心 白き色は 彼(か)の元へ 字足らず 桜塚杜 菊花(
ga8970)』
「俳句の文字数じゃ足らなかったから短歌にしてしまったわ」
緑の強い黒髪をアップにし、うなじを目立たせた菊花は臙脂色の傘をさしながら薄く微笑んだ。
「結局、字足らずじゃない」
「細かいことを気にしちゃだめよ‥‥あら?」
シュブニグラスの突込みを菊花が受け流していると、小雨の振る中をレインコートを着た三枝 雄二(
ga9107)が駆けてくる。
「雨なのに傘を差さなくていいの?」
「軍属の性と思ってくださいっす‥‥関西出身っすけど、京都にはあまり来たことないっすねぇ」
菊花が尋ねると雄二は答えた。
そんなことをしていると、磨理那が横を通り、雄二に目をつける。
「何じゃ、軍服で参加するとは情緒が分かっておらぬのがいるようじゃな?」
「軍人の性って奴っす。あ、一応傭兵っす」
「京都に慣れてなくても良いが、『郷にいれば郷に従え』じゃな。景観や情緒を大切にして欲しいの」
沖那が持つ蛇の目傘の下、細身で背の高い雄二を磨理那は見上げながら注意をした。
「磨理那もそんなに怒らないで、楽しいお祭りの雰囲気を大事にするものでしょ? ほら、写真とるわよ」
シュブニグラスが気を利かせて、買っておいた使い捨てカメラで二人を取り出す。
「せっかくだから、私とこの軍人さんのも一緒にお願いするわ」
菊花も雄二と一緒に思い出を一枚とるのだった。
●宿命を共に越えたもの
『彩(あや)と咲く 傘花愛でる 手鞠花 ラルス・フェルセン(
ga5133)』
「こんなところでしょーかー。さてー磨理那様のー傘持ち交代をーしましょうー」
にっこりと笑ったラルスになんともいえない顔をしつつ沖那が離れる。
「なんだよ、俺を半端にするのかよ」
食って掛かろうとする沖那だが、フォルが引き止める。
「元気そうじゃないですか、京都の生活はどうですか?」
「フォルかよ。どうも、こうもお嬢様のお屋敷で3食たべつつ鍛えてもらってるよ」
「そりゃ、何よりだ‥‥剣はどうなんだ? 追い抜くぜ?」
フォルと玖堂が混ざりだし、沖那はもみくちゃにされた。
「リーゼが来たようだな。写真を一枚とって、それから予定通りで」
ファルロスはそういって、目配せをする。
目配せにあわせて一緒にいたメンバーは頷いた。
「あー、送れちゃってごめんなさい」
遅れて、リーゼが出会った頃のままのロングストレートで紫陽花柄の浴衣を着てやってくる。
「まずは記念撮影だな‥‥」
「フルメンバーじゃーないのがー残念ですー」
出雲の依頼で沖那と共に活動し、今京都に集まった能力者は沖那と磨理那を中心に集まり、写真を撮った。
「焼き増しはして渡しておく」
ファルロスがカメラ片手に呟きつつ、その場からさる。
フォルも、黎紀も、玖堂も跡を追羽陽に消えていった。
「なんじゃ、気になるのじゃ!」
「まーまーここはー若い人たちでー」
最後に残った磨理那は、二人の様子を気にしながらも、ラルスに説得される。
「そう、若い人は‥‥若い人同士で‥‥」
くくくくっとシャレム・グラン(
ga6298)が庭園の中からそっと囁きだした。
「うぅっ、寒気がするのじゃ。らるすとやら、いくのじゃ」
磨理那が駆け出すと、その場に残ったのは沖那とリーゼだけになる。
「一体、何なんだよ‥‥」
「なんか、静かになっちゃったね」
わけが分からないと思っている沖那の手をハズカシさを耐えつつリーゼが繋いだ。
「沖那君は最近どう?」
「俺は‥‥戦うことは怖くなくなった‥‥か?」
「良かった。それじゃあ、覚醒症状も安定しているのね?」
「今のところは‥‥だな。これから先はわからない」
沖那の表情が曇る。
何だかんだと、不安を残していることが分かった。
「あのね? 沖那君のおかげで私は強くなれた気がする‥‥本当にありがとう♪ 沖那君もこれから色々あるだろうけど頑張ってね」
「いわれなくてもな、この力を持った限り責任を果たさなきゃならないし」
リーゼの言葉を沖那は顔を上げて傘を持つ手に力を込める。
「沖那君が素敵な大人になったら、私をデートに誘ってね♪」
そんな沖那を頼もしくおもったのか、リーゼは沖那の頬にキスをした。
リーゼから沖那の手を握り、引っ張るように散策にでかける。
力の恐怖を乗り越えた二人の思い出が一ページ増えた。
●『甘い』ひと時を
「抹茶アイスは美味しいか?‥‥僕が奢るから遠慮なく食べてくれ」
八神はリゼットと共に野外茶店で休憩をしている。
食べるための椅子ごとにいろいとりどりの傘がさされているので、紺色の蛇の目傘は折りたたまれていた。
「とっても美味しいです。和と洋の長所を混ぜたいいものですね」
至福のときといわんばかりのリゼットの笑顔に八神の表情も柔らかくなる。
『梅雨の雨 夏の近づく 足音かな 来栖 祐輝』
「来栖ちゃ〜ん。あ〜んして」
「あ、あ〜ん」
一方、ナレインは来栖をからかうかのようにワラビ餅を食べさせていた。
来栖のほうもナレインを男と分かっているがつい赤くなる。
「ナレインちゃん、あんまりからかうと来栖ちゃんの隣の子がかわいそうよ♪」
夕貴が来栖と一緒に来たアリカを見ながら、ナレインを制した。
「ふふ、そうね。ナチュラルメイクの話をしましょうか‥‥ファンデーションは明るめのものにするでしょ? アイラインは控えた方がいいわね。引くとしても軽くよ?」
「ナレイン様のメイク術は私も勉強になりますわ」
夕貴だけでなく、一緒に行動していたジュリアまで感心をする。
『咲き集う 紫陽花の美に 句が継げず 金城 エンタ』
『紫陽花と 共にひらくは 傘の花 乙』
「エンタさんの俳句綺麗なの」
「そう? 乙さんのもよく見てるなぁって、僕は思ったよ?」
『よかったね。褒められたよ。お礼言わなきゃ』
「ありがとう、なの」
エンタと乙は抹茶に葛きりを食べつつ、俳句を読んでいた。
ゆったりと休憩した心で読むのも趣(おもむき)がある。
「‥‥えっと‥‥はい‥‥タケル‥‥あ、あーん‥‥」
「あ〜ん。んぐんぐ、うまいなぁ〜。可愛いリニクとリーゼの浴衣姿も見れたり幸せだなぁ〜」
リニクから差し出された抹茶アイスを食べ、武流は鼻の下を伸ばした。
こうしてゆっくりと過ごす機会がなかったから、純粋に嬉しいようである。
「タケル‥‥今日は‥‥ありがとう」
リニクはそっと武流の頬にお礼にキスをした。
「何かああいうのいいな」
「そう? それじゃあ、やってあげましょうか? あーん」
「あ、あーん」
いちゃつく人たちを見て羨ましくなったトウマが呟くと静が水羊羹をトウマに食べさせてあげる。
トウマの予定にはないイベントだが、喜んだのはいうまでもなかった。
「水無月の三角形は氷室の氷片を表した物で、上の小豆は悪魔払いの意味があるそうです。昔は6月末に氷室の氷を口にして暑気を払ったとか」
「あっくんは、物知りですね〜。和菓子博士になるのも近いのでしょうか?」
唯は福居に抹茶と水無月を奢ってもらい、福居の薀蓄に耳を傾けて楽しむ。
「‥‥ち、違います、目指すのは和菓子博士ではなく、先生と同じ分野の博士です!」
福居は唯の勘違いを必死に訂正した。
『花の影 でんでんむしが かくれんぼ 福居 昭貴』
「でも、隠れていたのはアマガエルさんの方でしたね」
「先生、突っ込みが厳しいです」
唯と福居がそんなことを言っている隣の席では1人ユーリが稲荷寿司を食べている。
「本当の安らぎとはこういうものなのかな‥‥」
今回のユーリは桜子や光などに貸し出すために浴衣を多く持ってきていた。
ユーリ自身も藍染の甚平に下駄履きで、緋牡丹柄の扇子と和装である。
普段戦闘で使うような武器も、携帯品も一切持ってきていなかった。
それが、逆に安らぎの心を掻き立てるのかもしれない。
「雨も風情があって素敵ですわね‥‥粗茶ですが、どうぞ」
ラピスが愛するルフトのために、心を落ち着け抹茶を点てた。
「こうしていると、とても穏やかな気持ちになる。参拝土産も買っていきたいな‥‥うむ」
ラピスの点てた抹茶と葛きりを飲み、ルフトは微笑む。
その笑顔は穏やかで、このひと時を楽しんでいるようだ。
「抹茶は菓子とよく合うな。ラピス殿、少し口を開けてごらん」
「口をですの?」
ラピスのあけた小さな口にルフトから葛きりがいれられた。
『恋心 蝸牛の 歩みかな 鳳 つばき』
「はふぅん」
元気だったつばきが、休憩所で俳句を読むと悩ましげなため息をつきだす。
「大丈夫?」
沖那と分かれて、つばきの様子をみにきたリーゼはため息を見て心配になった。
「あ、大丈夫ですよ〜。ほら、つきみーさん。あーん」
つばきは心配をかけまいと抹茶アイスを月夜魅に食べさせようとする。
「餡? それはアイスじゃないですか〜」
「違っがぁーうっ!」
スッパァンとつばきの巨大ハリセンが唸りを上げた。
『境内に ハリセンの音 響く夏 平良・磨理那』
「うわ、テキトー」
「俳句とは思ったことをしたためることに意義があるのじゃ。感情表現を豊かにせねばの」
沖那からの突っ込みをさらりと流して磨理那は抹茶を飲む。
「本当にお元気そうでー何よりですー。元気なら、『何が出来るか』考えられます」
一緒に抹茶を飲み、ラルスが沖那に微笑みかけた。
「まだ、わかんないけど‥‥せっかく、こういう機会をもらえたんだから大事にしたいとおもってる」
沖那は真剣な顔でラルスに答える。
「‥‥焦らずにです。焦ってもいい答えはできないですよ」
「焦らずに‥‥か」
沖那はラルスの言葉をかみしめるかのように繰り返した。
●夏の夜長に花開く
「折角の機会ですし、大盤振る舞いしますよ。もってけ泥棒♪」
夜、平良屋敷に帰ってくるとサナは持ってきた花火セットやら、ロッタ特製花火を広げる。
「妾が用意するまでも無い様じゃな。ここまで揃えば”百花繚乱”じゃな。綺麗じゃろう」
一口サイズに切ったスイカを持ってきた磨理那はその豊富さに驚いた。
「スイカ‥‥食べる‥‥あと、カレーも欲しい」
憐が早速スイカを食べだし、さらに注文も付け出す。
「まだ食べるのか‥‥磨理那さん、良かったら台所借りれないかな? カレーを作りたいんだけど」
「構わぬぞ。今、れぐに握り飯を教えていたところじゃ、案内するからついてくるのじゃ」
「パパのエベレストカレー‥‥待ってる」
サルファの手料理がここでも食べれると憐はご満悦のようだ。
昼間も甘味を食い倒れしてきたとは思えない。
「それでは、花火もらいますね?」
神無月はサナから花火をいくつかもらい、縁側で楽しみだした。
「どうだ? この浴衣男前だろ?」
浴衣を全体に「無駄!」の文字が無数に躍る豪快なものに着替えた来栖が西瓜を食べているアリカの前に現れる。
「どういっていいのか、分からないわ‥‥」
「あらっ、まぁいいや。超線香花火とか一緒にどう?」
「いいわよ‥‥」
来栖の誘いにアリカは乗った。
「二人で線香花火をするなんて、どれくらいぶりでしょうね?」
シメイは珪と共にサナからもらった線香花火を楽しむ。
「それはいわないことにしましょう。今、この綺麗な花火を楽しみたいですから」
珪は微笑みながらシメイに返した。
「皆さん、おにぎりできましたよ。がんばりました」
花火で盛り上がっているとき、レグが綺麗な三角に握られたおにぎりを持ってくる。
「ちょうどおなかすいていたんだ、もらうぜ! あぁ、レグの手の暖かさがする」
千影が子供のようにおにぎりに飛びつき、レグの握り飯を味わった。
「圧力釜で短時間煮込みだけど、カレーもあるから欲しいのはもっていってくれ。憐はエベレストな?」
「ん‥‥パパ、分かってる」
サルファがカレーを何人分かもってきて、縁側で食事をしながらの花火大会が開かれる。
大勢で楽しむもの、隅のほうで二人で楽しむものなど、それぞれの形で楽しんでいた。
もうすぐ、いつもの生活に帰らなければならないのだから‥‥。
「締めに大きいのいきましょうか」
「ふふふ、私のロッタ特製花火が空を彩りますよ」
シュブニグラスの提案で、ロッタ特製ロケット花火を持ってきたフィオナをはじめとした有志による連続打ち上げが始まった。
ドンドンドドドッドン。
ロケット花火とは思えない豪快な爆発音が京都の夜空に響く。
「た〜まや〜、か〜ぎや〜♪」
空亜はそれを見て子供のようにはしゃいだ。
「次に来るときはもっと平和になったときだな‥‥」
楽しむ人を見ながら、光は呟く。
空を見上げれば白い星に混じって、赤い星が輝いて見えた。