タイトル:おやっさん最後の開発マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/25 05:59

●オープニング本文


 『ナイトフォーゲルFG−106 ディスタン』
 チリに本社を置く『メルス・メス』社が開発したKV。
 同社がドロームから異端と呼ばれたディスタン研究員を引き受け開発にあたる。
 最終的には幾度かのテストによりドロームの援助をも引き出し、同機は完成するに至った。
 最高速度を犠牲にして出した高い機動性は他の機体を圧倒するが、精密部品の多い当機はメンテナンスに手間がかかる。

 つまるところ、開発はほぼドローム社でメルス・メス社は販売を受け持っているようなものであった。
「なっとくいかねーな。こいつは」
 退院後、薄いコーヒーを飲みながらゴンザレス・タシロはたまった資料を見ながら唸った。
「でも、売り上げはでていますし‥‥」
 そういったのはブリッツ・インパクトのアイディアマン、J・Jと呼ばれる黒人男性整備員だった。
「お前らの負担が増えてるのもな‥‥武装開発もできて後一回だな。時間が作れそうもねぇ」
 頭をボリボリかいて散らかったデスクの上に短い足を投げ出すタシロ。
「おやっさんにはまだまだ学びたいことが一杯あるでやんすよ〜」
 背の小さい赤毛で瓶底めがねをかけたメカアニメオタク、マローナ・ドランツ独人女子整備員が涙を滝のように流していた。
「そこでだ。俺を安心させるためにおまえらを呼んだわけだ‥‥」
 タシロは立ち上がってJJとマローナに資料を手渡した。
「能力者を呼んで兵器開発ラストコンペだ。うまくいったほうを申請して、おまえらの腕を見ておきたい」
 コーヒーを飲み干してタシロはマジメな顔で二人にいった。
「コンセプトはツインドリルのような可変式腕武装。J・Jにはブリッツ・インパクトのアイディアを応用した武器、マローナには炸薬式で強力なパンチを打ち込むものを作ってもらう」
 もらった資料をJ・Jとマローナは見てツインドリルの機構解説やチームを組んで作るというプロジェクトコースを見てタシロが任せるとの意味をしる。
「一応、俺のアイディアとして見本が乗っているがそれにそう必要はねぇ。おまえらと能力者で相談して改良してくれてかまわん」
「わかりました」
「了解でやんす」
 二人は大仕事をまかされたと喜んで部屋からでていった。
「さて、本社勤務ラストだな」
 タシロの散らかった机の上には転属願いの包みが置いてある。
(「ここにいてばかりじゃ新型をいじる機会がねぇ‥‥ラストホープにいかねぇとな」)
 心のなかでタシロはつぶやいた。

●参加者一覧

御嶽眞奈(ga0068
30歳・♀・ST
石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
二階堂 審(ga2237
23歳・♂・ST
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA

●リプレイ本文

●おっやさんと一緒
「兵器の開発に参加するのって初めてなのよねぇ〜。タシロさんのお話が直接聞けるのは幸せだわぁ」
 一部の人間には見慣れたメルス・メス社のオンボロ修理工場を見てうっとりしながら御嶽眞奈(ga0068)は呟く。
「おう、よく来たな。今回で俺が呼ぶのは最後だ。あの坊主がいないのは残念だが、仕方ないか」
 御嶽の呟きが聞こえたのか、修理工場の置くから耳をほじりながらゴンザレス・タシロが姿を現した。
「タシロのおやっさんはメルス・メスを離れるのか‥‥。もう次の行き先は決まっているのか?」
 白鐘剣一郎(ga0184)は風の噂で聞いた話をタシロに向けて話しだす。
「ラスト・ホープではそんな話になっているのかよ。俺はラスト・ホープの支社に転属するだけだよ整備専門になるだけだ。初心忘れるべからずってな」
 やれやれと言った様子でタシロは剣一郎を肘で小突いた。
「単身赴任だと、いろいろ大変じゃないのか? いや、別に取り残される家族が心配とかそういうわけじゃないんだが‥‥」
 入院時もあまり家族と触れ合えてなかったらしいタシロを心配してか、御山・アキラ(ga0532)がらしくなく話しだす。
「逆だ。お前と坊主に言われたから開発とかをJJたちにまかせて家族揃ってラストホープで暮らす方向だ。気分よく行かせる為にがんばってくれよ」
 タシロはアキラに照れくさそうにそっぽを向きながら答えた。
「それなら安心だ。そうだ、ヒートディフェンダーだが、使いやすくって気に入っている。ありがとう」
「そうそう、あれ店売りしてくれないか! ギャンブル運ないからさぁ」
 アキラが話を変えていると霧島 亜夜(ga3511)が話に混ざってくる。
「テストパイロットの亜夜か。ヒートディフェンダーは依頼で稼いだ金をメダルに交換してさらに交換すればそんなに苦労しねぇはずだぜ。今回の収入でやってみな」
 ばしばしとタシロは肩を叩いて亜夜を励ました。
「依頼で乗っけたとおりJJとマローネの補佐をして欲しい。お前らの意見がそのまま通すより、あいつらの発想力を試す形にもなるからな。よろしく頼むぜ」
 タシロは依頼に来た能力者たちに頼みこむ。
「大丈夫、ボクたちに任せて!」
 クリア・サーレク(ga4864)が自前の設計書片手に意気込んだ。
「なんか不安だが、ま、頼むぜ。俺は出発のための整理をしているからなんかあったら、呼んで。あと、ラストホープ行きはあいつら二人には内緒にしておけよ」
 タシロの最後の頼みに能力者達は頷きで答えた。

●マローナチーム
「あっしが、マローナ・ドランツでありやす。マローネとよく間違われるでやんすが、その辺あっしは気にしてないんでよろしくでやんす」
 瓶底めがねでそばかすの残る少女が時代劇のような口調で能力者たちに挨拶をした。
「設計や組み立ての行程にも興味があるので、見学をさせて貰います」
 石動 小夜子(ga0121)がにこやかに挨拶を返す。
「漢の信じる最後にして最強の武器は己が拳だよな!」
 日本のアニメ番組のOPを口にしつつ、九条・縁(ga8248)がマローナの肩を叩いた。
「い、痛いでやんす」
 瓶底めがねの端から涙がこぼれる。
「早速だけど、武器としてはこれくらいのスペックを要求したい」
 ”事前準備の鬼”二階堂 審(ga2237)は来る前に用意していた武装案を提示した。
「これはまた、高額でやんすね‥‥ただ、魅力があるかどうかという部分ではおやっさんは落とすと思うでやんす」
 高威力、高価格のインフレを起こしている状況でこういう武器は似合わないとマローナはいう。
「でも、この拳聖って名前はいいでやんすね。あっしはフィストブレイカーより好きでやんす。あっしの国の言葉でいえば『ハイリガーファウスト』ってところでやんすかね?」
「拳聖かぁ、いっそナックルフットコーティングを強化してみるってのはどうだ?」
 ヒューイ・焔(ga8434)はいいだした。
 おやっさんからの元案であり、こだわる必要はないと元から言われている。
「もともと0だからちょっと重くしてバランスをとるか‥‥使いやすさは確かに」
 ぶつぶつと審は独り言を呟きだした。
「それならさ、回避力を上げるのってどうだ? 斬新だと思うぜ、足にも燃料タンクをつんで同じ炸薬機構で瞬発力をあげる」
 亜夜が集団に首を突っ込み、提案をしてみる。
「面白そうでやんすね。両手、両足に軽量小型燃料タンクを積み込むと普通のナックルフットコーティングより重くて高くなるでやんすがそれでも安くできそうでやんす」
 電卓を叩いてマローナがにんまりと笑った。
「相談ばかりで、のども渇くでしょうからコーヒーをいれてきましたよ」
 小夜子が挨拶のあとに準備をしていたコーヒーを飲む。
「チリで飲むコーヒ−は苦い‥‥なんて、冗談はおいておいて確かに高威力ばかりを求めすぎてはいたな。使うのは俺達だけじゃないんだから」
 緑はヒューイの案と亜夜の案を踏まえて考えた。
 まだ先の見えない戦いなのだから、新米でも使える武器は多いほうがいい。
「防御無視でダメージを与えるのは無理か?」
「さすがに技術が足らないでやんすね。あっしらがやっているのはメインで修理とディスタンの製作でやんすから」
 砕牙 九郎(ga7366)の問いにマローナはすまなそうに答えた。
 実情南米でのUPC軍の主力は今でもS−01やR−01である。
「価格が安くてリロードも練力消費もいらないなら多少ダメージは眼をつぶるか‥‥」
 九郎はそういって『フィストブレイカー』あらため『ハイリガーファウスト』の設計プランを見る。
「R−01だったら、アグレッシブ・ファングで攻撃力はあげられる。それで燃費を考えれば上等じゃないか?」
「それもそうだ」
 ヒューイの言葉に九郎も頷き作業に取り掛かった。
 
●おやっさんの準備
「ったく、今回開発案は募集してなかったんだがな‥‥」
 そういいながらもタシロは私物整理をしつつ、能力者たちから渡された希望武装アイディアを眺めていた。
「このスタビライザーとドリルミサイルくらいは仕上げてやるか‥‥あとは、あいつらのために取っておく」
 アースクウェイクという地中からの敵。
 ファームライド、ステアーに対する高機動の敵を早急にどうにかする手は必要だった。
 手荷物をまとめて、すぐに作業にとりかかっていく。
 おやっさんの最後の開発作業だった。
 
●JJチーム
「案が百出して纏まりそうも無いんで、それぞれが持ち寄ったアイデアを、実現性や費用や性能の面で検討して、最終的にはJJさんに製作する案を決定してもらうと言う方向でどうかな?」
「まぁ、そっちがまとまらなかったなら仕方ないな」
 クリアの提案にJJと呼ばれる黒人男性は苦笑しつつ答えた。
「まずは、ボクの案をみて! 名づけて”腕部伸長電磁武装『ドラグーンファング』”」
 クリアの設計書には伸縮した腕が敵まで伸び手噛み付いて電撃を流すという解説とイラストが書いてあった。
「以前、スパークワイヤーのテストでもあったんだが物を飛ばすってのはなかなか制御しづらいぞ?」
 アキラが突っ込みをいれる。
「そうすると、俺の案もJJの手助けになれないか?」
 同じように伸縮槍を射出するアイディアを剣一郎はだしていた。
「二人とも‥‥射程を考えるとかなり伸ばさなきゃならないから重量は3倍近く見積もらないとな‥‥命中精度も落ちるだろうし」
 自分の少ない経験での意見だが、機体や武器を修理してきた実績はある。
「使えるレベルの性能でショップに並んでくれればどちらのどの案が採用されても良いのだが」
 アキラがぼそっと呟いた。
「俺達は納品するだけで、それをどう売るかはULTの管轄だから何ともいえない。出回ってくれるだけでこっちとしてはもうけものだよ」
 JJはそう答えた。
 メガコーポレーションの開発競争も必死である。
「それならぁ、ここでちょっと方向を変えたものを提案していいかしら?」
 今まで静かだった御嶽がJJに声をかけ、アイディア案を見せた。
「両腕に重いものつけちゃうからちょっと回避が落ちちゃうのだぁけど。電撃を放つというのはどうかしらぁ?」
「電撃を放つか‥‥たしか、ブリッツ・インパクトも出力制御できなくて腕が吹き飛んだくらいだからな」
 苦い思い出をJJは思い出す。
「逆にかんがえれば、これをG型放電装置のように命中率の高い武器にできないだろうか?」
 前回の経験もある剣一郎がJJにアイディアをだした。
 高機動力の敵機が出ている現状だから、陸戦形態でも命中率の高い武器があったほうがよいのではないかという考えである。
「たしかにぃ、カウンターで当てるならいいかもしれないわねぇ。リロードできるなら使いやすそうだし」
 剣一郎のアイディアに御嶽が乗る。
「出力は相当でるはずだ。プラズマ放電を使うから‥‥『プラズマブラスター』でどうだ!」
 JJは名づけて、そのアイディアをベースに武装開発を始めていった。
 
●摸擬戦!
 数日後、試作武装が完成する。
 摸擬戦の始まりだ。
『こっちの準備はOKだぜ』
 亜夜が見た目の普通と変わらない試験用R−01から声をかけた。
「ボクのほうもOKだよ」
 試験用S−01に乗り込んだクリアが声をかえす。
 摸擬戦は何回かテストを行う形で始まった。
『いくぜっ!』
 ブーストを使い亜夜のR−01が距離を詰めつつ、アグレッシヴファングで、ハイリガーファウストを叩きこむ。
「くっと、でも意外とダメージはない?」
 受け止めたが、予想よりも高くないダメージにクリアは疑問を感じる。
『そっちの番だぜ!』
「へへん、こっちはそっちよりもすごいよ! いけぇ、プラズマブラスタァァァア!」
 そのことばと共にブレス・ノウをこめ、両腕が大きく変形した。
 さらに、G型放電装置に近い電撃が両腕だった電極より放たれる。
『まじかっ!?』
 だが、亜夜機も脚部に筋肉がついたようにふくらみ、バシュンッという炸裂音と共に回避をこころみるが電撃を避け切ることはできなかった。
「どちらも、元のアイディアよりかなり発展したものになりましたね」
 自機を持ってこなかったため武装がつけれず残念がっていた、小夜子が摸擬戦の光景をみて息を呑む。
「あえて、不具合を利用するのはさすがといったところか」
 剣一郎も早く乗ってみたいという思いで摸擬戦を見ていた。
 5Rほど戦い終わったあと、修理を終えて摸擬戦は繰り返されることとなる。
 そして、訓練を終えた亜夜は色紙を持ち出し、書きこみをはじめる。
「何をしているんでやんすか?」
 ひょことマローナが顔出した。
「あ、これは‥‥」
 亜夜が言葉に詰まっている間に緑が【浪漫と共に! 頑張れ!】と書いていく。
「色紙? 誰に渡すんだ?」
 JJも気がついたのかやってきた。
 もはや、言い訳はできない。
「これはですね‥‥タシロさんのラスト・ホープへの転属のための色紙なのですよ」
 小夜子がすべてを二人に説明しだした。
 
●おやっさんの旅立ち
「どっちも採用だな。微調整がいるだろうがメルス・メス社のものとして売り出せる」
 摸擬戦の結果をタシロに報告すると意外な答えが返ってきた。
「どういう気のかわりようなんだ?」
 九郎が不思議に思って聞き返す。
「もともと似た案がでてたから対抗させようと思ったが、お前らの協力もあってまったく別物になった。商品として魅力があるなら売り出しにだせるってもんだ」
 タシロは荷物片手に答えた。
「おやっさん、ラスト・ホープにいくんですね」
 JJの言葉にタシロは能力者達をにらむが、全員がすまなそうに両手を合わせた。
「JJ、マローナ。基本は修理だ、そのノウハウがあって開発であって他のメガコーポレーションじゃないようなものを出すのがメルス・メスの魂ってのを忘れるなよ」
 タシロはそういい二人の肩をたたいた。
「開発の実力はある。前にある坊主に言われたんだ、もっと下を信用しろってな。知らない間に十分成長していたからあとはお前らでなんとかしていけ。俺の開発資料やパソコンはそのまま置いておくから合間を見て勉強しておけ」
 その言葉は親から子供に伝えるかのように能力者たちの目にうつる。
「それじゃあな、さぁ、お前らいくぞ。高速移動艇はお前らと同じ便だからよ」
 今度は能力者たちの背中を叩いてタシロは旅立った。
 家族と共に最後の希望の島へ‥‥。