タイトル:ジェームスお前もか!マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/28 23:23

●オープニング本文


「すまん、帰還早々悪いが手を貸してくれ」
 熱血漢のジェームス・ブレストが弱弱しく声をかけてくる。
 ふと見てみれば、左肩がやや下がっている。
 その先には4歳ほどの女の子。
 ジェームスの手をぎゅっと握って引っ張っている。
 ジェームスの顔を見直した。
「お、俺の子じゃないぞ! 親父と一緒にするな、親父と!」
 動揺する姿が余計に怪しい。
「おかあさんと‥‥はぐれたの」
 女の子はぽつぽつと話だす。
 注意しなければ聞き流しそうなくらい小さな声だ。
「だ、そうだ‥‥なんでか知らんが俺にくっついて離れないんだ」
 強気で勝気なジェームスが参ったという顔をしてこちらに目を向けてくる。
「ラスト・ホープの一般人らしいことまではわかったが、中々それ以上聞き出せなくてな‥‥」
 暑苦しい男で有名で、朝の掛け声で迷惑する隣人のいるジェームスだ。
 この年の女の子の相手はつらいだろう。
「頼む‥‥」
「メイズ、ママに‥‥会いたい」
 ジェームスと女の子は一緒にこちらを見てきた。
 女の子名前はメイズというらしい。
 黄色い髪にくりっとした茶色の瞳でこちらを見上げている。
 仕事帰りで疲れているにはいるが、はてさてどうしたものか‥‥。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
結城 朋也(ga0170
40歳・♂・ST
平口 蝮(ga0362
18歳・♀・ST
黄 鈴月(ga2402
12歳・♀・GP
愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
雪子・レインフィールド(ga3371
20歳・♀・FT
シャルロッテ・エンゲル(ga4231
18歳・♀・FT
四条 巴(ga4246
20歳・♀・SN

●リプレイ本文

●迷子の迷子のメイズちゃん
「痛っ! 変調箇所がまだ痛む‥‥」
 四条 巴(ga4246)は初任務から帰還後、UPC管轄の医務室で検査を受けていた。
(「お医者さんはまだエミタの適応が済んでいないだけって言ってたけど‥‥適応、出来るのかな?」)
 検査も終え、巴は広場にでる。
 そこには平和に過ごす人々と、まぶしい太陽があった。
 少し、光に目がくらみ巴は手をかざした。
(「このままじゃ‥‥足を引っ張ってばかりだよね」)
 そんなことを思っていると、広場の一角で妙な人だかりができていた。
「何をしているんですか?」
 巴が声をかけると、中心人物の男ジェームス・ブレストは振り向いた。
「ん? お前も協力してくれるのか!」
 ジェームスは巴のほうを向き、嬉しそうに答えた。
 振り向いたジェームスの陰に隠れるように、少女が動く。
「彼女はメイズちゃんっていうんだ‥‥迷子らしくて」
 ぽりぽりと頬をかき、視線をきょろきょろとさせながら、眠そうな顔をした結城 朋也(ga0170)は答えた。
「それで、皆様と母親探しの作戦会議をしていたのです」
 メイド姿の平口 蝮(ga0362)は補足した。
「他の人の携帯電話の番号登録は終わったんやけど、あんさんも協力してくれるなら、番号教えてくれへん?」
 黄 鈴月(ga2402)が巴を見上げながら聞いてきた。
 手元では携帯電話をピコピコ動かし、メンバーの番号確認をしている。
 他の人というのを見渡せば、依頼をともにした人達や自分よりも先輩の傭兵などもいた。
(「そっか、戦闘ばかりが傭兵の仕事全部じゃないんだ‥‥。私は、どんな小さなことでも守りたい!」)
 そう思った巴は、鈴月に自分の携帯番号を教えた。
 
●歩こう歩こう♪
 軽くお母さんとたどった道を歩いてみようという水上・未早(ga0049)の意見もあり、メイズとジェームスをつれて『散歩』をすることになった。
 同時にプラカードやビラなどの準備を平行して行う作戦である。
「お姉ちゃん達と、お母さんを探しにいこうか? お母さんとどこをお散歩したか覚えてる?」
 未早はメイズと視線を合わせるように屈み、にっこりと笑いながら話かけた。
「んと‥‥お店がいっぱいあるところとか、鳥さんがみえるところとか‥‥」
 ジェームズに引っ付いていたメイズもその様子に安心したのか、おずおずと話し出す。
「そんな断片的な話じゃわかんn‥‥」
 何かを言いかけたジェームスを愛輝(ga3159)が取り押さえた。
「こんな形で申し訳ありません。ですが、今はあの子のためにも少し辛抱してもらえませんか?」
 その様子をみた未早は苦笑する。
 今一度、視線をメイズに向けなおし、彼女は言葉を続けた。
「そっか、じゃあお姉ちゃん達にも案内して欲しいな」
「私も一緒にいきたいな」
 巴も未早と同じように笑いながら、メイズに話しかけた。
 メイズは少し悩むようにしたあと、こくんと頷いた。
「たぶん‥‥こっち‥‥」
 ジェームスの手をとり、広場から移動しだす。
 記憶をたどりながら、きょろきょろと首を動かす姿は、小動物のように可愛らしかった。
 そんなメイズを、朋也は少し離れた距離でその様子をみていた。
(「しかしこの子を見てると思い出すなぁ。娘もこの子くらいの時が一番可愛かった。‥‥って、しっかりしないと」)
 おいてかれそうになり、首を振って惚けた頭をすっきりさせようとする朋也。
 それでも、心に根を張っているものは取り除けなかった。
 
●不安と目星と甘いもの
 一行はショッピングモールへとたどり着く、広場からでは結構な距離だ。
 休日ということもあり、人が多い。
 ここではぐれたという可能性は高い。
 ジェームスを放した愛輝のほうも、またメイズに妹の姿を重ねていた。
 家族の中でももっとも溺愛していた妹、今の偽名もその妹から一文字もらって名乗っているほど‥‥。
「メイズの母さんはどんな格好していたのか覚えているか?」
 メイズに近づき、愛輝は目を細めながら、メイズへ努めて優しく言葉をかけた。
「うんと‥‥よく、わかんない」
 格好は覚えているが、説明する言葉が見つからないといった困った顔をメイズはした。
「あ、ごめんな」
 4歳の子供に服の説明を言葉でさせるのは酷だった。
「ねぇ。メイズちゃんお腹すいてる? クレープとアイスクリームどっちが好きかな?」
「キャラメル‥‥なら、僕が、持って‥‥いるよ」
 朋也がポケットからキャラメルをいくつかだしメイズに握らせる。
 その一つをメイズは口にいれると、機嫌が直ったのかにこりとした。
 その顔に誰もが癒される。
「必ず、見つけてやらないとな。メイズの母親」
 愛輝の言葉に一同は力強く頷く。
 そのあと、映画館や図書館などを回るも手がかりは掴めなかった。
 ロッタ・シルフスの店に戻り、次の作戦へ能力者達は動き出した。
 
●一方、舞台裏では‥‥
 ロッタ・シルフスのショップでは帰ってきたメンバーのための準備が進められていた。
「‥‥そうですか、ありがとうございます」
 カチャンと電話をメイド服の平口は切った。
「平口殿はどなたと話しておったのでござるか?」
 古風な口調と、白き衣をまとい黒きはかまをはいた雪子・レインフィールド(ga3371)が不思議そうに聞いた。
 平口のメイド服も白と黒であるが、ミスマッチな光景である。
 そのため、ロッタは店の奥の部屋で作業してもらうよう頼んでいた。
「ああ、いえ、警察へ電話を‥‥」
 念のため、平口は迷子の届出がないのか確認をしていた。
 メイズの母親からの届け出はないようである。
 まだ、自分で探している可能性が高かった。
「デジカメからの写真の焼き増しすんだで」
 鈴月がとったメイズの写真を引き伸ばしプラカードサイズにしたものを両手に抱えてもってきた。
 赤いチャイナ服に日本の関西方面にあるイントネーションのある口調の彼女が平口や、雪子に混ざった。
「和洋中勢ぞろいだね‥‥」
 店の主であるロッタがひと段落ついたのか、ショップにある材料の一部を持ってきながらボソっという。
 3人が顔を見合わせ、くすくすと笑った。
「本当に‥‥その、ただで、い、いいのですか?」
 シャルロッテ・エンゲル(ga4231)がおどおどとロッタに聞いた。
 割引ですら中々しないロッタである。確かに疑問な部分は多い。
「困っている女の子を助けたいって思うのは私も一緒だからね♪ それに、お店の宣伝にもなるからそれでOK」
 店で留守番してもらい、店の番号をプラカードに書くわけだから、宣伝効果になる。
「しっかりしているものでござるな、ロッタ殿は」
「ほんま、かなわへんわ」
 雪子と鈴月はロッタ言葉に関心する。13歳という年齢で店を切り盛りできるわけだ。
「お昼くらいには帰ってくるでござろうし、それまでには仕上げたいでござるな」
 雪子が時計をみながら、鉢巻をグッと締めなおす。
「ほな、みなはんがんばりましょか〜」
 鈴月の掛け声をうけ、プラカード作成が始まったのである。
 
●芸術は個性なり
 メイズを連れて能力者達はロッタのショップにて合流を果たした。
「お帰りなさいませ。ご主人様、お嬢様」
 店の掃除をしながら、メイド服の平口が出迎えた。
 何か別の店のようである。
「準備が終わったから手伝ってくれるっていって‥‥私は気持ちだけもらっておきたかったんだけど‥‥」
 ロッタが苦笑しながら、奥の部屋へ案内した。
「ぅわ、すごい‥‥メイズがいっぱい」
 奥の部屋に入ってメイズが目を見開いて驚いた。
 無理もない。
 床には顔写真を広げたものをはったプラカードが置かれ、『迷子預かり中』と書かれたビラが山積みになっていたのだ。
 納得いかないこともあったのか、紙くずが床に散らばっている。
「う、うん‥‥みんなで、が、がんばったからっ!」
 シャルロッテが自作のプラカードを見せる。
 メイズの顔を真ん中におき、ぬいぐるみのシールで枠を飾ったものだ。
「わしのも自信作やでぇ」
 鈴月が出したのは『メイズちゃんのお母はん探してます』と書かれたプラカード。
「はじめはスピアを棒代わりに借りようと思うたんやけど、ロッタはんに止められたわぁ」
「それは、うん‥‥普通だと思うよ」
 朋也が静かに突っ込みをいれた。
「そうだ、メイズちゃんにお母さんの絵を描いてもらいましょうか?」
 巴がぽんと手を叩いて、自分の意見を述べて見る。
「そうだな、言葉よりも絵のほうがわかりやすいかも」
 愛輝も同意し、メイズへマジックを渡す。
 渡されたマジックを握り締め、メイズは自分の母親を描き出した。
 会いたい気持ちをいっぱい込めて‥‥。

●母親探し大捜査線!
 留守番チームと別れ、母親探しの本腰をいれた。
 シャルロッテは映画館の受付の人へ、必死に説明をしている。
「あ、あの‥‥この子、迷子っで‥‥お母さんと、ここで、はぐれたかもっ、で」
 ビラを渡し、受付のお姉さんに途切れ途切れの言葉で訴えかけていた。
「わかりました、アナウンスをかけて見ますのでまたお越しください」
 受付のお姉さんはそういってシャルロッテへ微笑んでくれた。
 愛輝は図書館を探り、鈴月は居住区でビラを配った。
 広場では、雪子と平口がプラカードを掲げ、呼びかけを行っていた。
「迷子を預かっているでござる、迷子を捜している母親を見かけた方はこちらへ連絡を〜」
「迷子をこちらで預かっています、皆様ご協力ください」
 メイドと女侍による呼びかけは人を集めるも、中々情報は集まらない。
「君達、この広場で客引きは‥‥」
「よ、呼び込みではありませんっ!」
 さらには警察に職務質問をされる始末になるのは宿命(さが)だった。
「場所を変えたほうがよさそうでござるな」
 さすがに職務質問までされるとあってはと、雪子はため息混じりに呟く。
「そのようですね。いったんお店のほうへ連絡をしてみましょう」
 警察へ事情を説明し、開放されたあと平口は携帯電話でロッタのショップ残留組に連絡するのだった。
 
●人生の先輩からの言葉
 ロッタのショップでは、ジェームスとメイズと巴、そして朋也が留守番をしていた。
 メイズはジェームスのそばから離れず、絵を描いたりしていた。
「君達は、家族‥‥みたいに見えるね」
 視線を動かしながら、朋也が呟く。
「俺はそうは思わないが‥‥親父もこんな感じだったんだろうな。この年で子供を持つなんて」
 小さいメイズを眺めながら、ふとそんなことを思うジェームス。
「遺伝子て侮れないものだし、今から子供との接し方勉強したらどうかな‥‥?」
「男なら、何とかなるが女の考えることはよくわらからん」
 はぁと深いため息をつくジェームス。
「きっと、ジェームスさんが頼れる人だって分かってるんですよ。とにかく、変に気にせず普通に接していればいいと思います」
 巴がフォローする。
 そのとき、朋也の携帯電話がなった。
「あ‥‥はい、結城です。うん‥‥そうか、大変だったね‥‥こっちには連絡はな‥‥」
 無いと言おうとしたとき、店の電話がなった。
 すかさず巴がとる。
「はい、こちらULTのショップ。お母さんですか? はい、金髪でくりっとした茶色の瞳をしています。えっと、代わりますね?」
 巴が電話をメイズに代わる。
「マ、マ‥? ママ! ママ! メイズ、いい子にしているよ」
 声を聞いて、メイズは元気になった。
 それ聞いた朋也は、平口にこちらへ来るように呼びかけた。
「作戦、は‥‥上手くいったようだよ、ロッタさんのお店へ集合するよう、皆に伝えてくれないかな?」
『了解しました。ですが、念のためその人の格好など確認してからいくようにします』
「疑り深いね、蝮ちゃんも」
『お褒めに預かり光栄です』
 ほっとしたかのような声のあと、凛とした響きにかわり、平口からの電話は切れる。
(「ほめては、無いと思うんだけど‥‥いいかな」)
 思うだけで、止めておく朋也であった。

●再会と報酬と
 メイズが店の前でまっていると、母親がやってきた。
 呼びかけに行っていた能力者達も戻ってきた。
 メイズが書いたイラストの服を着た優しそうな人物だった。
「メイズ!」
「ママ!」
 ピタピタとメイズが走り、屈んだ母親にしがみついた。
 母親も返すようにひしっと抱きしめた。
「いい光景ですね」
 戻ってきた未早がその光景に目を細めて喜んだ。
「直接見つけられなかったのが少し残念だったがな」
 愛輝も一歩引いた位置で見る。
「でも、メイズちゃん、本名が‥‥メ、メイゼラートだったというのが」
「小さいから自分の名前をあだ名で覚えてしまうってことは良くあることでござるよ」
 シャルロッテの呟きに、ふぅと汗を拭きながらおにぎりを食べながら雪子はシャルロッテの方を叩く。
「ジェームズはんに懐いていても、やっぱりお母はんが一番やね‥‥あれ、そのジェームスはんは?」
 鈴月もほっとしたとき、依頼主のジェームスがいないことに気づく。
「逃げた‥‥とは、信じたくないですが」
「失敬な。俺はここにいるぜ」
 ロッタのショップの奥からデジカメと三脚を片手にでてきた。
「折角だから、記念撮影をしようとね! 迷子探し達成記念すべき1回目ということで!」
 ロッタはすでに宣伝材料にしようと頬を緩ませていた。
「そういうことだ、俺からの報酬はこの『今日という思い出』だ」
 ジェームス、ロッタ、メイズと母親。
 そして今日集まった能力者達。
 皆、達成感を感じた笑顔を見せている。
 しかし、巴だけ気を抜いたからか体が軋んだ。
 それでも、巴は笑顔を作った。
(「私は負けない。この痛みにも、挫けそうな心にも‥‥」)
「それじゃあ、とるぞ」
 オートタイマーをセットし、ジェームスが一団に混ざる。
 カシャッとフラッシュがたかれ、心に誓った笑顔は一枚の画(え)となった。