●リプレイ本文
●外界の風が運んだもの
「あれ? なんだろう」
壮行会当日の朝、準備をするために自室から下のミーティングルームに降りたライディ・王(gz0023)は郵便受けの手紙に眼を留めた。
『
拝啓 ライディ君
風薫る季節となりました。
先日はすまない。途中で依頼への呼び出しがあってね。残念ながら最後までいることができなかった。
ふふ、できれば君のファンタジーゾーンも探ってみたかったけどね』
「国谷さんらしいや」
途中まで読み、ライディは感じる。
その後は雑談などが続き、最後の文面にライディの眼がとまった。
『そういえば、何かを悩んでいる感じに見えたけど。
こんな時代だから、と悩むことはいろいろあるね。
でもこんな時代だからこそ、みんな、必死に生きて、それぞれのステージでできることを精一杯やっている。
君もそうだし、僕もそうだ。
自分の力の及ばぬことを恥じるな。
希望は、確かに今は届く距離にないところにあるのかも知れない。
でも手の届かぬ絶望より、諦めてしまう自分を恐れよ。
弱いからこそ、僕たちは努力し、協力し、手を伸ばすんだ。
五月に吹く風のように、君の背中を押せますように。
敬具
国谷 真彼(
ga2331)』
その手紙を読み、ライディは優しさに少し涙する。
「ありがとうございます。国谷さん」
手紙にお礼をし、二階にあがろうとすると、届け物があるらしい。
「あ、はーい」
郵便局員から受け取ったそれは小さな小包と小さな手紙。
だが、その筆跡は懐かしさがあった。
「希望の風、本当に遠くから届くようになったんだ‥‥」
そんな事をつぶやき、ライディは壮行会の準備をはじめだした。
希望の風はもう吹き出している。
●スタッフだよ、集合
「ライディおにいちゃん遊び‥‥じゃにゃい、お手伝いに来たにゃー」
「どうもお久しぶりです」
「近くのコンビニで軽食や紙コップなどをかってきましたよ。」
西村・千佳(
ga4714)、樹エル(
ga4839)、ハンナ・ルーベンス(
ga5138)が新スタジオに入ってくる。
「ライディおにいちゃんの部屋はどこかにゃー?」
「前みたいに狭くないから、友達以外立ち入りです」
きょろきょろする千佳をライディはとめて、システムキッチンになったLDKエリア兼ミーティングルームに案内した。
「すごく広いです‥‥」
エルがそんな感想をポツリと漏らす。
「おーい、だれか来てくれ鉢植えを動かしたい‥‥」
外からホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が呼びかける。
「シーヴも手伝うでやがるです」
すると、一緒に来ていたらしい、シーヴ・フェルセン(
ga5638)の声が外から続いてきた。
「これで、スタッフ全員かな? 放送は夜ですけど、壮行会は夕方からやろうとおもっていますのでよろしくお願いします」
ライディはきてくれた面々に丁寧に一例をし、外へ鉢植えを動かしに移動しにいく。
ハンナや樹はそれぞれの仕事をし、千佳もハンナを手伝いだした。
希望の風が他人同士を繋いだのかもしれない。
●キッチンにて、その1
「こういう機会がないと腕を振るわなくなったのは困ったものだ、不肖の弟子だな」
ホアキンがシステムキッチンでリンに教わった料理を作っていると、花柄の着物に割烹着をつけた絢文 桜子(
ga6137)が隣にたった。
「キッチンも広くて使いやすくなりましたね。うらやましいですの」
「もっとも、その分いろいろとバイト掛け持ちしてためてたりしたようだ」
料理を作りながら、ハンナと一緒にもてなしているライディを見ていてホアキンはつぶやく。
「私たちのため、皆のためにとがんばっているのでしょうけれど‥‥無理をしていないかが心配ですわ」
桜子もオートミールクッキーの準備や巨大肉まんの生地をねりだした。
「そちらは洋と中か。俺の方は露だから万国いりみだれた料理がならびそうだな」
「ホアキン‥‥鉢植えの並びかたあんなかんじで‥‥いいかな?」
花のことはホアキンに聞いてといわれたアシュラ(
ga5522)がちょこちょことやってきてリビングに統一感のある並べ方をした鉢植えをみせた。
「いいんじゃないかな? 貴方にはセンスがあると思うよ」
ホアキンはそういってアシュラの頭をゆっくり撫でた。
●壮行会開始
「この光景、昔の場所じゃ絶対できなかったな‥‥」
ライディはそっとつぶやいた。
軽食や、本格的な料理、桜子が用意したお茶が大きなテーブルに並びパーティ会場のような様相を彩った。
「ほれ、若いの乾杯の挨拶をしてくれんかの?」
来客の霧雨仙人(
ga8696)がすでに日本酒を開けて準備をしていた。
「そうそう、ライライがはじめてくれないと皆もりあがれないよ!」
ラウル・カミーユ(
ga7242)が霧雨からもらったワインを片手に乾杯の準備をしていた。
「えー、それでは‥‥」
ライディが挨拶をしようとしたとき、玄関の扉がバーンとひらかれた。
「ランディさん、引越しお疲れ様☆ 今、参上したところの私は阿野次のもじ。今日は外の風が特に強いね!」
花の飾りつけグッツと桜そばをもって、桜満開の着物衣装でド派手に訪問し、リビングまでかけてきて敬礼したのは阿野次 のもじ(
ga5480)だった。
「のもじさま? ランディ様ではなくライディ様ですわよ」
桜子もオレンジジュース片手に苦笑する。
「もう、なれましたよ。小さなスタジオだった『Redio−Hope』がこうして大きなスタジオで壮行会ができるようになったのは能力者の皆さんをはじめ一般リスナーのおかげです」
ぐるりと集まった10人を見回し大きく礼をした。
「これからも、皆さんに希望の風を届けれるようにがんばりたいと思います。それではカンパーイ」
「「カンパーイ」」
紙コップやグラスが宙をまってかち合い、壮行会がはじまった。
●放送準備中
「これが原稿でやがるですか‥‥」
シーヴはライディの手書きで用意された原稿を両手に持って目を通す。
多少汚い書記ではあるが、ところどころ注意書きが書かれてあったり、ポイントがついているのがライディらしいとシーヴは思った。
「ごめんね、パーソナリティなれている人が2人ともいない状況だから‥‥」
狭くはないはずの部屋に配線や機械が置かれている。
エルが持ち込まなくても、もっといい音源などが置いてあり、逆に驚きまた触れる喜びにエルも楽しそうだった。
「ライディはいつもこんな感じで準備していやがるのですか?」
いつもは見られない光景シーヴは少し不思議で‥‥嬉しい気分になっている。
「はじめのころはもっと大変だったけれど、大分なれたからね‥‥スタッフも増えたし」
作業をしタイムテーブルを確認するライディがシーヴにはまぶしく見えた。
そして、思い出したかのようにホアキンから預かっていた小包をだす。
「ライディ、スタジオに花置いてもいいでありやがるですか?」
「いいよ、そういうのがあるとリラックスできるならあったほうが‥‥雑音も入らないしね」
ライディがシーヴの方を向かずに答えると、シーヴは小包から桜蘭の鉢植えを出してマイクの置いてあるテーブルの上に置いた。
(「花言葉は『人生の旅立ち‥‥別名では思いがけない出会い。全部網羅でありやがるです』」)
「綺麗な花だね‥‥鈴蘭?」
「シーヴからライディと新スタジオに贈るです‥‥感謝を込めて」
花言葉の事は口にせずシーヴはライディに答えた
「Jag kan gora vad som helst」
小さくシーヴはつぶやいて台本を読んでいく、あとは時間まで自分のできることをやるだけである。
●キッチンにて、その2
「人数が結構いるとお皿も多くなりますし、ゴミもでてしまいますね」
ハンナが困っているとアシュラがやってきた。
「ハンナ‥‥、アシュラにも‥‥手伝いできること‥‥ある?」
「それじゃあ、ゴミを外へもっていってくださいませんか?」
アシュラの問にハンナは微笑んで答える。
だが、それと同時にこの年頃の子が欧州の戦いが想像を超える厳しい戦いに身を投じることが不安だった。
そして、炎と瓦礫と悲鳴の中に消えた、故郷の修道院の妹を思い出す。
大儀名分を唱えつつ、明らかに復讐を望む自分が居ることに心も痛めていた。
「アシュラさん、ごめんなさい」
一人になって皿を洗いつつ新たに考え出す。
今はただ、安らかなひと時を過ごそう。
●『Wind OF Hope』放送開始
『ライディ・王の『Wind Of Hope』!』
ミーティングルームに設置されたスピーカーから、エルのジングルと共にOPの掛け声が流れ出した。
壮行会を楽しんでいるメンバーはそのまま食事をしつつラジオに耳を傾ける。
『こんばんは、そしてお久しぶりです。新スタジオから放送中です。パーソナリティも新しくシーヴ・フェルセンさんを呼びました』
『シーヴ・フェルセンです。はじめてのサブパーソナリティとなりますが、無理なくやりたいと思います』
普段のシーヴを知っている一方すれば別人のような声をしたシーヴにミーティングルームにいた能力者は驚いた。
「おー、しーヴりんたら、いつもながら見事な変身ぶりですなー」
花をつけた枝をふり、都踊りをしていたのもじが丁寧にしゃべるシーヴの声に踊りをとめた。
『最初のお便りからです‥‥』
のもじの声はシーヴには聞こえない。
『
生まれた時からずっと一緒だった大切な花
キミがいつも綺麗に咲き誇っていられるよう、僕は支える大地でいたいです
灼熱の光や嵐に傷ついても、また何度も花咲けるよう
誰かの花になる日まで
RN:紫水晶の影
』
『告白みたいなかんじですね?』
とライディが相槌を打つ。
「どちらからというと兄弟の優しさを私は感じましたわ」
エクレアを食べつつ微笑む桜子。
「エクレアが評判で僕はうれしーよ」
ラウルが言う間にもメールが読まれる。
ラスト・ホープへ初めてきた一般人らしい人や、能力者となって出会いを喜ぶ人もいた。
『次のお手紙は私が読みます。その後は壮行会開場でのみにコンサートの様子を流したいと思います』
ホアキンが音声収録の担当をしたいといってきたため、ライディが予定を変更しての作業である。
この辺のアドリブ能力も場数をこなしてきたのか鮮やかだ。
『良い出会いでもあったのでしょうか?
急にLHに現れた時は驚きましたが、今では良かったのかもしれないと思います
傭兵になって欲しくなかった気持ちは変わりません
ですが、傭兵になる事で得た物も多いようですね
頑なに生きていたキミが、どこか変わった気がします
キミを変えた出会い、どうか大切に
RN:猫にまっしぐら』
『いい出会いというのはいいですね、私自身いい出会いに恵まれてこうして大きいスタジオでお送りする事ができています。うれしい事だと思います。シーヴさんはどうですか?』
『え、あ‥‥はい、出会いはすばらしい事だと思います。友達や義理の姉も私にもできました』
ライディが話している間シーヴは固まっていたが、ライディの声ではっと戻る。
『それでは、CMをはさんでから魔法少女アイドル・チカさんのミニライブをお送りします。お楽しみに』
様子のおかしいシーヴをさっしてか、ライディは番組をきりエルにスポンサーとなってくれた店のCMを流しだした。
(「もしかして、大兄‥‥」)
シーヴは心の中でそう思っていた。
●とらぶる生収録!
(「やれやれ、何かしないと落ち着かないとは‥‥昔と比べると変わってしまったな」)
ホアキンは霧雨仙人の酒の相手をしつつ、今はスタジオからワイヤレスマイク持ってきてチェックをしていた。
説明書片手に機械をいじる。
「おー、ここでやるにゃか。これはこれでカラオケっぽくっていいかもしれないにゃ」
歌うチカのほうも発声練習をしつつ準備万端である。
『それでは、チカさんの歌をお聞きください。どうぞ』
スピーカーからジングルが消え、ライディの声がつづいた。
パチパチパチと壮行会に集まった能力者たちの拍手にチカは一礼し、マイクを持った。
エルがイントロを流しだす。
♪〜
始めようよ ここから
私達の 物語
二人の旅立ちの 時はもうすぐ
朝陽が上って 夜が終わるよ
これから一緒に 歩いていこうよ
どんな道でも 二人ならいけるよ
私達の新たな旅立ち
皆が祝福してくれるよ
だから‥‥ずっと一緒に、ね
〜♪
短くもテンポの軽い歌がミーティングルームに、そしてラジオを通してラストホープに広がった。
「あ、マイク! マイクあるところのもじあり!」
トイレにいっていたのもじが歌を聴きつけ、マイクをチカから借りて歌を歌いだす。
「王、いいのか?」
スタジオへの扉をそっと開けてホアキンが疲れた顔でライディに聞きにくる。
「まぁ、いいでしょう。せっかくの機会ですから一曲くらいいいです。あ、ホアキンさんのもじさんが歌い終わるまで休憩してくださいね。あと、これ」
ライディはニヤニヤしつつホアキンに小包を渡した。
上には『大切な人へ』と書かれた手紙。
筆跡はホアキンの愛する風(
ga4739)のものだった。
「そうさせてもらうよ。ありがとう」
「どういたしまして」
そんなやり取りなど知らずにのもじは「バグアー退散、バグアー退散」と歌い続けていた。
●スタジオ無いで‥‥
「マイク回収してきました。曲も終わると思いますので手紙の準備お願いします」
のもじが歌い終わったあと、すぐにエルがCDを流してマイクを回収してきていた。
「ありがとうございます。それじゃ、シーヴいくよ」
音を下げてマイクの音量をあげる。
「はい、第二のメールコーナーです。まずはこちらから」
と、ライディがシーヴにメールを選んで渡す。
「シーヴがよませていただきます」
『
希望の風の諸君、ご苦労! 今日も依頼先から元気にメールだ!
こう日々戦いに身を置くと、エミタに戦わされている気がしなくもない!
だが、もう一度自分の心に確かめる!
こんな時代だから仕方がない、能力者だから仕方がないということがあろうか!
夢や希望は他人が与えるものではない! 自分で考え、自分で到達するものだ!
そう、私は自分の意志で戦っている!
では、私の命があるのなら、またメールをしよう! さらばだ!
RN:バグアくにゃっとまっがーれ↑(うえやじるし)
』
「シーヴ、そういうときはアクセントを上あがりにすればいいんだよ」
「そう、そうだったでやがる‥‥あ、そうでしたか、なれていなくてすみません」
ライディにしてきされて、戸惑い地が出だすシーヴ。
そして、シーヴは一通のメールを出す。
「それでは、次のメールを。私のほうで読ませていただきます」
ライディがメールを探り、読み出す。
『
やわらかに降り注ぐ言葉は、固い殻で閉ざしていた種に力をくれました
どんな花が咲くかは、まだ分かりません
けれど真っ直ぐに空へ向かって――咲かせます、心の花
これからも力を下さいね?
RN:紅の炎
』
「‥‥紅の炎さんは最近良くメールをくださいます。ありがとうございますね。貴方の心に届く力になるかわかりませんが希望の風を吹かせていただきたいと思います」
しばし、間をあけてライディはメールの感想を述べた。
「最後はこの曲で締めたいと思います。旅立ちをする皆さんへ、出会いをする皆さんへ贈る希望の歌『The Last Radio−Hope』」
エルに指示をして、ライディはマイクの音量を落とす。
これ以上しゃべれそうに無かったからだ。
●宴も終わりて
番組が終了し、スタッフを含めての壮行会も終わり、アシュラやハンナ、ラウルが片付けを行っている。
その間、ホアキンはサンルームで手紙を何度も何度も読んでいた。
『
誰よりも大切な人へ。
手紙と共に、この花を贈ります。
ローダンセ、花言葉は『変わらぬ思い』です。
あたしから、大切な人への思い。
新たに歩き出すライディさんの思い。
そして周りを支えるみんなの思い。
変わらぬ思いを皆さんへ送ります。
』
小包の中にあるローダンセの花束をぎゅっと握り締め、ホアキンは立ち上がる。
変わらぬ思いに答えるためにやらなければならないことがあるからだ。