●リプレイ本文
●それぞれの思い
「まぁ、どう贔屓目に見てもヒヨッコには見えない訳だが、大尉から教わりたい事はあるし枠を取らせてもらったぜ」
ゲック・W・カーン(
ga0078)は高速移動艇から見慣れた基地が大きくなるのを見つつ思っていた。
操縦技能、経験からいってもヒヨッコではない。
初級能力者のためのブートキャンプに参加する必要のない立場だった。
「新機体を初陣で大破はマズいって‥‥機体の性能を引き出せる様にならなくちゃね」
一方、アイドルとしても名を少しずつ上げだした葵 コハル(
ga3897)は以前の戦闘で早く落とされた事を悔やみ初心に帰って訓練することにきめていた。
「素人な俺にはありがたい話だな‥‥」
そうつぶやいたのは龍深城・我斬(
ga8283)。
最近、エミタ解析により新たに発見されたダークファイターと呼ばれるクラスの男だった。
「貴方もそうなんですか? よかったぁ、弓さんだけだとおもって少し不安だったんです」
我斬の隣でワンピースにヘッドドレスという旅行気分なアリッサ・コール(
ga8506)がほっと胸をなでおろした。
「あんたもダークファイターか?」
「アリッサさんも私もダークファイターですよ。依頼経験すらない初心者ですけれどよろしくお願いします」
我斬が聞くと、アリッサの奥から加賀 弓(
ga8749)がひょこと体をだして挨拶をした。
着物の上にフライトジャケットという組み合わせが我斬には酷く印象に残った。
『まもなく、当機は着陸態勢に入ります。乗務員はシートベルトを着用してください』
コンピューター音声によるアナウンスと共に総勢15人の能力者たちは心して着陸態勢に入った。
鬼軍曹との面会は目前である。
●対面、鬼軍曹
基地に降り立つと、一番に大きな声が能力者たちに聞こえてくる。
「ぜぇぇぇいん、せいれぇぇぇぇつっ!」
(「空挺学校の教官より厳しそうですね、これは‥‥」)
思わずその声にクラーク・エアハルト(
ga4961)は空挺部隊時代の事を思い出しながらかけだす。
それにそって他の能力者も声にする方に駆け出した。
本来軍人でない能力者も多いため、整列にもたつく。
(「呼び出しておいて整列させるとは面倒だな」)
御剣 漣(
ga8657)のように快く思ってないものがいたためというのも一つの理由だが‥‥。
「遅いぞ、貴様ら! まぁ、いい。今日から二日間貴様らの面倒を見るジェイコブ・マッケイン軍曹だ。ここでは私がルールだ。何をいわれてもサー、イェスと答えろ!」
サングラスをかけ、帽子を深くかぶっている40歳くらいの男は名乗った。
UPC大西洋空軍基地の教官であり、鬼軍曹と呼ばれる男である。
「そういえば軍で私はどう言われているのだろうか?」
突如、UNKNOWN(
ga4276)がジェイコブ軍曹に対して声をかけた。
訓練であるというのに黒コートにスーツ。ダンディズムとマフィア風を漂わせる格好をしている。
「質問があるときは挙手の受け、許可をもとめろ。それがルールだ!」
ジェイコブ軍曹にそういわれると、やれやれといった様子でUNKNOWNは黙った。
「今回は事前の希望もあり基本である講義も行う。私以外にも貴様らを教えるのはこの二人だ」
ジェイコブ軍曹がそういって二人の白人を出す。
「ジェイド・ホークアイ大尉だ。主に初日の空戦の実技教官を担当をする」
びしっと敬礼をしたあと、ジェイド大尉は下がる。
「えっと、ルーカス・スミス少尉です。空戦講義の方を担当させていただきます」
ジェイドよりも背の小さく眼鏡をかけた雀斑の残る男性が敬礼をしつつ挨拶をすませた。
「ヒュー。スミスか。俺はダニエルだぜ、よろしくブラザー!」
1度会ったらブラザーがモットーであり、苗字も一緒とあってつい、ダニエル・A・スミス(
ga6406)がしゃべりだす。
「誰が自己紹介をしていいといった! 黙っていろ!」
しかし、ジェイコブ軍曹の激が飛び、ダニエルも静かになった。
「よろしい、では右側の女から自己紹介をしろ。実戦経験、シミュレーター経験も含めてだ」
ジェイコブ軍曹はそういい、リリア・柊(
ga8211)を指差す。
「あたしはリリア・柊っす。傭兵になるときにシミュレーター訓練をしただけで実戦経験は0っす。でも、意地でもがんばるっす」
一歩前に出て、ジェイド大尉やルーカス少尉がやったような敬礼を真似てリリアが挨拶をした。
リリアに続き、能力者たちが挨拶をしていく
ここからがブートキャンプの始まりだ。
●ルーカス少尉による空戦講義
15人の能力者たちは机と椅子のある集会場のようなところに案内され、空戦講義を受けることとなった。
もっとも、担当はルーカス少尉であるが、ジェイコブ軍曹が見ている事にかわりはない。
「えっと、改めましてルーカス・スミス少尉です。皆さんのナイトフォーゲルは私達の戦闘機と違い、頭に浮かんだイメージで空を飛んだり、陸地で敵と戦ったりします」
ルーカス少尉のたどたどしい説明を榊 刑部(
ga7524)は黙々とメモを取っていた。
(「次の戦いの時に少しでも皆の役に立てるように牙を研いでおく時期でしょう」)
先の大規模作戦の最後の戦闘の際に無我夢中だったので、ここでの研修で習得したいものが榊には多い。
「そうすると、空戦というものが貴方達にとってはとても難しいものと思います。空を飛んだことが無いのに空を飛ぶイメージをもたなければなりませんので」
ルーカス少尉はビシっといった。
(「まぁ、空軍でもない限りたしかに無理よね」)
トレイシー・バース(
ga1414)はルーカス少尉の言葉を聴きながら、軍人として訓練してきた人間と一般人から能力者になった人間の動きの差を思い出す。
経験やイメージというものはそれだけ大事なものなのだ。
だから、彼女もここに参加しているといっても過言ではない。
そこからルーカス少尉の説明は続いていった。
(「合宿なんて久しぶりなのですよ。前に行ったのは八甲田山雪中行軍で死にかけた時以来ですか〜」)
今回のブートキャンプに対して、思いをはせている美海(
ga7630)に軍曹の激が飛ぶ。
「おい、貴様! ルーカスの説明を復唱せよ!」
「は、はいなのです‥‥えっと‥‥えっとですね‥‥すみません、聞いてなかったのです」
敬礼して立ち上がるも、美海は反省をする。
「今、私が話していたのはロッテ戦術の話ですね。ペアで空戦を行い、1機が攻撃を行っている間、もう1機が上空で援護を行います。攻撃を行う方をリーダー。援護をする方をウィングマンといいます」
「あ、ありがとうございましたです」
ペコリとお辞儀をした美海は席についた。
(「ツーマンセルはどこでもかわりませんか。作法さえわかれば習得は難しくないかもしれませんね」)
ギィ・ダランベール(
ga7600)はSPでの経験を脳裏に流しながらルーカス少尉の説明を聞き、要点をメモにとる。
「あと、これは前回の大規模作戦での戦い方を見ての感想にもなりますが、キメラならばともかくヘルメットワームに対しては極力ドックファイトで挑んでください。なぜならば彼らの武器の射程が私達のものよりも長い可能性のほうが高いのです」
リオン=ヴァルツァー(
ga8388)はその言葉をきいて、挙手をする。
「ごめんなさい‥‥理由がわからないんですが‥‥」
「えっと、リオン君ですね? 基礎訓練は受けているようですけれど‥‥そうですね、たとえば銃を持った相手に対して自分がナイフしかもっていなかった場合、勝てるかどうかわかりますか? もしくは、相手の姿がわからずスナイパーライフルで狙われているという状況とかをかんがえてください」
ルーカス少尉はまだ子供であるリオンにたとえ話をつけた説明をする。
つまり、今戦っている相手は自分達よりもまず上と考えなければならないということだ。
「キメラはナイトフォーゲルであれば、それほど強くありません‥‥もっとも、私達戦闘機乗りにとっては十分強い相手なのですが」
苦笑するルーカス少尉にジェイコブ軍曹の咳払いが飛ぶ。
「話をもどしましょう。空は広くて視界も良く取れます。だからこそ、見敵必殺を心がけなければなりませんが今の私達には見つけられる方が高いのです。まずは初手を見極めて避けること、それからフォーメーションを組んで戦うことを覚えてください」
ルーカス少尉はそう締めくくり講義は終了した。
●TAC&タッグ
空を飛ぶにあたって、タッグを組む事になった。
「まずは距離をとりつつでもタッグを組んで飛行訓練をする。それは互いがはぐれないように見るためだ。それとTACネームこれは空での自分の名前だ。短い単語一つを推奨する。フルネームが呼びづらいからつけるようなものだからな」
ジェイド大尉からの声に内々で決めていたペアが固まる。
「TACネームを考えてないのがまたいるのか、貴様ら空を舐めるな!」
ジェイコブ軍曹に一喝されつつ、ないものはジェイコブ軍曹につけられていった。
第一ペア:ゲック(TAC:Guts)&我斬(TAC:Jacket)
第二ペア:コハル(TAC:Fuga)&UNKNOWN(TAC:UNKNOWN)
第三ペア:クラーク(TAC:Crash)&ギィ(TAC:Thon)
第四ペア:美海(TAC:Sea)&リリア(TAC:Holly)
第五ペア:ダニエル(TAC:Orga)&リオン(TAC:Leo)
第六ペア:アリッサ(TAC:Replicant)&弓(TAC:Bogen)
「6つはすんなんり決まったか、残りは3人。トレイシーと榊で第七ペア。御剣は俺と組んでもらうぞ」
「OK」
「了解」
トレイシーと榊はそれぞれ答えるが、御剣は一瞬戸惑った。
「あー、私でいいのか?」
努めて冷静を装いたかったが、イーグルドライバーの空軍大尉から声をかけられさすがに困る。
「相手がいないのだろう。奇数で募集したこちらの落ち度だ。付き合ってもらうぞ」
ジェイド大尉はまったく気にした様子もなく、御剣に乗るようにいう。
第七ペア:トレイシー(TAC:Lion)&榊(TAC:Hollywood)
第八ペア:ジェイド(TAC:Shadow)&御剣(TAC:Sword)
「空戦装備は20mmバルカンのペイント弾のみ。換装後フライトに入るぞ。質問があるものは今のうちに受け付ける。食事はするなよ、吐くかもしれないからな」
笑っていないジェイド大尉の最後の警告は能力者たちにとってアメリカンジョークには聞こえない。
「す、すみませーん。超初心者コースってないんですかー」
しかし、アリッサはマイペースに質問をしていた。
●Fly In The Sky
第八ペアであるシェイド機から空へと飛び立つ。
実際、ナイトフォーゲルの離陸可能距離は50mのため、先にでるのは当然だ。
そして、御剣が後ろに続き、七、六、五、四、三、二、一とペアごとに距離を開けながら離陸していく。
「はわわ〜、上手く動かない〜」
いち早く根をあげたのはアリッサであった。
そんなアリッサに助け舟がでる。
『こちら管制塔のルーカス少尉です。TAC:Replicant聞こえますか?』
「ああ、はい、聞こえていますけれど、ゆれが酷くて」
『先ほどの講義でもいいましたけれど、KVはイメージで動いているんです。自転車とかでも怖いと思っていると走り出せないようにKVも一緒です。怖くありませんから深呼吸をしてください』
ルーカス少尉の言葉にアリッサは従い深呼吸をして自転車をこいでいるようなイメージを浮かべる。
すると、先ほどまで揺れていた機体は安定してきた。
『Shadowより管制塔へ、珍しいな。ルーカスがサポートをするなんて、もしかして‥‥』
『管制塔よりShadowへ、無駄口叩いてないでヒヨッコどもに飛び方を教えろ!』
ジェイド大尉がルーカス少尉に何かを聞こうとしたとき、ジェイコブ軍曹からの激がとんだ。
『Shadowより各機へ、まずは右旋回、次に左旋回からいくぞ。旋回は水平方向に回ることだ』
基本中の基本とばかりにジェイド大尉は丁寧に説明をしつつ先導していく。
空挺隊でもあるクラーク、そして熟練であるゲックやUNKNOWNは物足りなさそうではあるがしたがった。
続いてループという垂直移動にうつりだす。
「セスナ、ヘリの操縦経験はございますが‥‥このGはかなり強烈‥‥」
ギィがループをしつつ、苦悶をあげる。
能力者でさえこうなのだから、一般人であるジェイド大尉はよほどのものだとギィは感じた。
しかし、それと同時にイメージで動かせる事に慣れやすさも得る。
『Shadowより各機へ、これより各ペアをロッテとした戦闘訓練に入る。チーム呼称は第一ペアから順にジェミニ1〜8だ』
ある程度飛行慣れをしたころを見計らい、ジェイド大尉から次のメニューが提示された。
『ジェミニ5〜8まで俺と共に30分ほど北へ移動。ジェミニ1〜4までは一度旋回の後おいかけてくるように。管制塔で鬼軍曹が見ているから気をつけろ。なお、ジェミニ1〜4までのリーダーはGutsにする。各機指示に従え』
『ジェイド大尉、それマジかよ!?』
いきなりの指示にGutsことゲックは驚きの声を上げた。
『答えは?』
『イエス、サー!』
こうなりゃ自棄だといわんばかりにジェイド大尉からの笑い声の響く聞き方にゲックは答える。
望まない形ではあるが大尉との対戦に内心熱く燃やした。
●Air Combat Manoeuvering
ドックファイトとはよく言われるが、近年では空中戦闘機動(ACM)といわれる。
今回の武装は20mmバルカンのペイント弾仕様のみだ。
双方とも状況は一緒であり、勝負は指揮官及び、各ロッテの動きで決まる。
「サスガは非量産型だね‥‥すっごく軽いや」
UNKNOWNと交換したK−111の動きのよさにコハルが声を漏らす。
『人生と同じだ‥‥相棒となる友を作れ』
ジェミニ2のロッテリーダーUNKNOWNからの言葉を聴き、コハルは気合を入れなおした。
『分け方がさすがですね。慣れてないのが向こうに多いですが、指揮官はイーグルドライバー。こちらは慣れていたり、新型もいますが、指揮になれていないゲックさんがリーダー』
ジェミニ3のロッテリーダーのクラークがつぶやき、敵機の接近が確認できる。
『ジェミニ1リーダーより各機へ、ACMに突入するぞ!』
『Jacket、了解! とにかく援護するぜ!』
ゲックの叫びが無線機を通じて、ジェミニ1〜4のメンバーに伝わった。
我斬が他に習ってTACで無線に答える。
空中で合計16機の戦闘機によるペイント弾を使った空中戦が約2時間ほど行われた。
●夕食と共に思いをはせて
「俺並にラージサイズなヤツはレアなんだな‥‥大丈夫か?」
黙っているペアのリオンの前にダニエルはよそわれた食事を持って座った。
240cmのダニエルは確かに目立つが、背は2mくらいでも筋肉がダニエルより遥かについている軍人の方が多い。
「‥‥かなり気持ち悪い‥‥」
2時間ぶっ通しでペイント弾のぶつけ合いをぐるぐる回りながらやったあと、機体の清掃をした上での夕食だ。
リオンには刺激が強すぎたんだろう。
「ドラッグもってきてやろうか? 酔い止めくらいあるだろ?」
「ドラッグっていうと危ない薬みたいだよ‥‥迷惑かけてごめんなさい」
心配そうに顔を覗き込むダニエルに、リオンは苦笑しつつ答えた。
「ハ! ペアを組んだらブラザーも一緒さ。ちょっと離れるな」
リオンは1mを超える頼もしい相棒の背中を眺め、ふと外に目をやる。
そこではまだF−15とゲックのR−01がドッグファイトを行っていた。
(「二人ともタフだなぁ‥‥僕もあそこまでいけるのかな」)
「お隣よろしいですか? やっぱり和食はなかったですが、どうせならお仲間同士でおしゃべりしたいですしね」
そういって弓がトレイに料理を乗っけてやってくる。
「KVの操縦‥‥思ったより簡単でしたっす。これなら慣れれば自在に動かせそうっす」
リリアも弓の前に座り、薬を持って戻ってきたダニエルとの4人の食事が始まった。
「まぁ、ただ飛ぶだけならな‥‥前、俺も戦ったがゴーレムって人型はやばかったぜ」
ダニエルが食事をしつつ、五大湖開放策戦線の依頼の話をしだす。
経験の少ない3人にとっては興味半分怖さ半分の話だ。
「でも‥‥高速移動艇で見る空よりも綺麗だった‥‥」
薬を飲んで大分楽になったリオンも語りだす。
初めて自分の翼で飛んだ空の気持ちよさを‥‥。
その気持ちはリリアも弓も、そしてダニエルも感じたことだった。
●夜の食堂にて
空挺隊でもあるクラークや、SPのギィ、そしてサムライの榊などは軍人達に興味をもたれたのか食堂で足止めをくらった。
「私が戦ってきた相手でありますか? 一通りは戦ってきたであります。手ごわかったのはステアーでありましょうか‥‥」
テーブルの上で元同僚のような人間達とカードをしながら戦果を語る。
それは、LHでは味わえない空気だった。
「なるほど‥‥そういえば、クラーク氏は鹵獲されたKVとも遭遇されたとか?」
榊は噂になっていた鹵獲KVの話をクラークから聞きだす。
自分の経験不足は、とにかく経験者からの話で少しでも補おうと思ってのことだ。
「しかし、ここのコーヒーは少々私に淹れなおさせてもらってよろしいでしょうか? 焙煎からできますから」
カードをしつつ飲んでいたコーヒーに違和感を感じたのかギィはカウンターへ移動してコーヒミルで豆を轢き出す。
普段のコーヒーからでは漂わないような香ばしい匂いが漂いだした。
「それならば、私は耳を楽しませようかな」
いつの間にかいたのかUNKNOWNがサックス片手にステージに上がり、セッションをする。
テーブルをどかしだした軍人が、リズムに合わせて踊りだしたりた。
騒がしくも楽しい夜は過ぎていく。
●女部屋の夜
「♪Plunge into a highway to the dangerous sky, the dangerous sky〜♪」
シャワーを浴びながら歌い出すトレイシー。
「その歌はどんな意味なんですか?」
相部屋のコハルが聞き出す。
シャワーを先に浴びて寝巻きモードだ。
「ん? 『危険な空へのハイウェイ、危険な空へ突っ込んで行け』ってところね」
そんな話をしていると加賀弓も戻ってきた。
「ただいま? この中ではコハルさんがベテランですよね」
「ベテランというか、KV依頼は結構やっているかな? エース仕様のゴーレムとか強い相手とも戦ってきたよ」
「TACネームもそのころから使っているかな?」
寝巻き姿でベッドに腰掛けてコハルは名古屋解放作戦からの経験を語りだす。
「TACネーム‥‥私のBogenも『人類を護り、バグアを打ち払う破魔の弓となれ』といわれたから考えたんです」
「面白そうね、私も聞かせて」
バスタオルで胸から下を巻いただけのトレイシーがでてきて話に混ざってきた。
隣の女部屋Bでは美海主催の百物語が開催されていた。
『‥‥眠いんだけどな、私は』
御剣のそんな声が聞こえてくる。
『美海の聞いた話なのですけれど、ある寂れた防空壕で‥‥』
態々声を低くした美海が怖い話を語りだす。
美海の話が終わると、御剣も乗り出して怖い話をしだした。
『‥‥ッ!? なかなか怖かったですねぇ、ふえぇ〜』
一話終わるごとに怖がり疲れながらも最年長であるアリッサの声が聞こえてくる。
「あとで脅かしにいこっか‥‥」
コハルがそう思い、自分の体験談が終わったあと脅かしにいくと、アリッサだけが部屋を猛ダッシュで逃げていった。
「やりすぎ?」
コハルが怪談話をしていた二人に聞くと、二人は大きく頷く。
●夜空の星と意外な出会い
アリッサが息を整えながら周りをみると、外のよくわからないところにきていた。
「わぁ、でも星が綺麗‥‥」
道に迷ったこともすぐに忘れ、あれが夫の星かななどと考えて手を振りだす。
「あれ、アリッサさん? こんなところにそんな格好でいますと風邪引きますよ」
不意にかけられた声に振り返ればルーカス少尉にジェイド大尉、ゲックにジェイコブ軍曹の4人が酒を飲んでいたのか赤い顔でたっていた。
「ルーカス少尉、貴様に命じる。アリッサを部屋までエスコートするように大尉命令だ」
厳しい顔ではなく、どこか優しい顔でジェイド大尉がルーカスをアリッサのほうに押し出し、3人はそのまま別の部屋に移動していった。
「え、あ‥‥どうもです」
「いえ、こちらこそ。今日は助かりました」
ルーカス少尉が礼をし、アリッサがぺこりとお辞儀をした。
「えっと、大尉より命令されましたのでお部屋まで案内しますね。ここは男の人が多いので紳士ばかりとは限りませんから」
自分のジャケットを脱いでアリッサにかけるとルーカス少尉はアリッサを部屋へ案内していく。
「ごめんなさい、あまりにも星が綺麗でしたから‥‥」
そんなたわいもない会話をしながら部屋へとアリッサはエスコートされていった。
●陸戦基礎訓練の風景
早朝ランニングを追え、準備運動を整えると磨いた機体での陸戦訓練が始まる。
なお、時間通りに全員集合できたので鬼軍曹による追加トレーニングはなかった。
装備も持参したものでもOKとなったので早速能力者たちは取り掛かった。
『今回も揉んでもらうぜ、ゲックさんよ。そういえば、流し斬りって銃器じゃ使えないのか?』
ツインドリルを格納庫で取り付けようとしたが、持ってき忘れていたため泣く泣くナックルフットコートに取り替えていたゲックに対し、先に乗り込んでいた我斬が質問する。
「格闘武器じゃなきゃ無理だったな。射撃をメインでたったかうなら、すばやいヤツの動きを牽制して白兵の援護をしたり、アサルトライフルとかを一斉にもって発射したりして広範囲を攻撃したりとかが基本になるんじゃねぇかな?」
ゲックはそんな事をつぶやき調整をおえる。
「まずは距離を把握して的に当てることを覚えることからだな」
『了解』
「ああ、昨日軍曹と飲んでて聞いた話だが、我斬のTACは自分を斬るからハラキリかジケツか迷ったが、近い発音のJacketにしたらしいぜ。酔ってたから本当かわかんないがな」
ゲック機が先行して進み、我斬機がそれを追う。
飛行場のいたるところに廃材で作った的が置いてあり、それを壊していくという簡単なものだ。
「人型と飛行機形態では武器の射程範囲が変わる。お前の装備している長距離バルカンはかなり先まで狙えるがあてるのは至難だぞ」
『よっ!』
ためしとばかりに我斬が射程ギリギリの的を長距離バルカンで狙うも、あっさり外れる。
「長距離バルカンはリロードもできないから、主に飛行形態で使え。射撃支援は突撃仕様ガドリング砲のほうが信頼できるっ!」
ぐるぐると回りながら我斬が突撃仕様ガドリング砲を的に叩き込んでへこませ、ゲックがパンチで粉砕した。
『なるほど‥‥』
人型による陸戦での戦い方は生身での戦闘に近いイメージを持ち、我斬は少しながらも自信をもつ。
「次は別の的に時間差攻撃を仕掛ける訓練するぞ」
『イェッス、サー』
「俺は軍人じゃねぇよ」
そんなやり取りをしつつゲックと我斬の訓練は続いた。
●サムライ、参る
「KVも武器の一つ。身体の延長と思えるほどにならなくては真に使いこなしているとは言えないでしょう。まずは慣れる事だと思っています」
榊はディフェンダーを構え、クラーク機に向かう。
『昨日の講義でもいってましたけれど、ナイトフォーゲルはイメージで動くものです。本当に体の延長と思ってきてください。新型に乗り換えるとまた勝手が違ったりしますからね』
クラークは優しくいいつつナックル・フットコートβでファイティングポーズをとる。
「いざ、参るっ! でぇぇぇい!」
切りかかってくる榊機の攻撃をクラークは徒手空拳で受け止め、ダメージを減らす。
回避よりも命中が高ければ格闘戦では受けのほうが有効なのだ。
『それくらいじゃ、ゴーレムにも止められてしまいますよ』
クラーク機は蹴りを叩き込み、榊機が大きくこけた。
「くぅ、真っ向から切りかかっても受けられるだけ‥‥そしてイメージで動くのならば‥‥」
榊機は立ち上がり、ディフェンダーを刀のように構えた。
榊自身の呼吸にあわせるかのようにシューとエアーが漏れ出す。
『変わりましたね、剣士として流派を持った人の動きです‥‥』
クラークが声を漏らして構える。
その一瞬に榊機が動いた。
先ほどと同じ真っ向への動き‥‥。
『動きが単純‥‥っと』
と見えたクラークだが、気がつけば榊機は背後を取っている。
アグレッシヴ・ファングが発動するのが、クラークにも見えた。
「一閃っ!」
横なぎのアグレッシブ・ファングをこめた一撃はクラーク機に大きなダメージを与える。
『見事です。ですが、そういう手がいつでも使えるように慣れていきましょう』
「よろしくお願いします」
榊機とクラーク機の特訓はその後もずっと続いていた。
●KVでできること、できないこと
『いいか、互いの位置を把握して戦うことが大事だ。背後から味方に撃たれたくはないだろ?』
人数上一人余るが、UNKNOWNは自機のK−111に戻り、コハル、ギィをペアにしての自分を敵と思っての実戦形式訓練をさせた。
「りょ、了解です。ソードウィングの試し斬りとかぶつかっていきますからね」
『実戦形式とはありがたいですね。いろいろ試せそうですから』
緊張するコハルにさらっとしたギィの言葉が聞こえる。
『遠慮なく来い』
距離をとったあと、滑走路で摸擬戦が始まった。
地上を動き出すUNKNOWN機。
「照準照準‥‥おいつかないっ!」
コハルはすばやいUNKNOWN機を照準ロックできないでいた。
『援護しましょう、徒手空拳であれば心得があります』
ナックルフットコーティングのみしか装備していないギィ機も行動力の高さを生かしてUNKNOWN機を掴みかかる。
「今度は射撃援護!」
自分が当てるのをあきらめ、突撃仕様ガドリング砲でUNKNOWN機の動きを止めようとする。
『では、投げをっ!』
『いい連携だが、ナイトフォーゲルで何でもできると思わないほうがいい。敵を知り、己を知れば‥‥だな』
ギィ機が掴みかかるも投げるまでに出力が上がらなかった。
30分ほどで訓練は終了したが、UNKNOWN機に二人は勝てずにおしまいだった。
休憩をしていると、ダニエルとリオンがやってきた。
『オーイッ、ブラザー。俺達も混ぜてくれよ』
ダニエル機はメトロニウムレイピアを振り回していて近づいていく。
『ダニエル、こうしていれば身長差は感じないね‥‥胸を借りるつもりでいくよ』
リオンも貸し出してもらったナックルフットコートと20mmバルカン装備のS−01で一緒にUNKNOWN達のほうにやってくる。
「いいだろう、4対1で相手をしよう。ゴーレムもビギナーでかかればそんなものだ」
UNKNOWNは吸っていた葉巻を消し、自分の機体に乗り出す。
コハルとギィも同じように乗った。
『ゴーレムか、懐かしいネームだぜ! リベンジもかねてコンビネーション練習するぜr』
『僕も‥‥腕をあげたい‥‥』
4対1の摸擬戦は帰り時間ギリギリまで続く。
そのため、ジェイコブ軍曹に5人が叱られたのは言うまでもない。
●訓練で得たもの
「基本は大切っすよね。今回は本当にいい訓練ができたっす」
基地を飛び立つ高速飛行艇の中で、リリアは満足な顔で訓練の終了を喜んでいた。
「今度はゲックさんみたいに教官みたいに参加したいですよ!」
美海もリリアの隣で熱く語る。
激しい1泊2日も興奮さめやまずといったところだった。
「まったく、あの軍曹とは顔をあわせたくないな。大尉とペアを組むとも思わなかったし」
意外なことばかりがおこって御剣はためにためていた愚痴をこぼし続ける。
「収穫は多かったし、初日のゲック教官のミーティングもよかったわよ」
トレイシーがからかうようにゲックにいった。
大尉と空戦をする前に軽く自分達の反省会をしたいとゲックがいってジェイコブ軍曹が許可をしたのだ。そのあと、飲みにいく仲にまでなったらしい。
「教官って柄じゃねぇよ。ったく、疲れた‥‥上にたつって面倒なんだなぁ」
ゲックはぼやきながら転寝をしだす。
ラストホープまでゆっくりとした空で。