●リプレイ本文
●希望のそよ風準備中
「アスターナ先生のお料理教室だな」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は手狭なキッチンでリン=アスターナ(
ga4615)と共にラジオのイベントで使うお弁当と卵チョコを用意している。
「味なことを考えるわね‥‥でも、これ自分で‥‥当たっても、後悔しないようにね」
チョコの中に詰める缶詰フルーツの中で一際目立つ『梅干』を一つだけ取り出してリンは苦笑した。
弁当の方は春野菜のテンプラを中心に、ホアキンがめかぶのさつま揚げやたけのことあさつきの肉巻きなどを用意していく。
二人とも異国人だが、和食通であるためこの手の料理はお手の物だった。
「ねぇ、ねぇ、この格好どう?」
メイド服にハリセンスタイルでくるりと葵 コハル(
ga3897)は回った。
「そうだね、ヘッドセットをもうちょっとこうしたほうが‥‥」
どこかに携帯で電話をしていた風(
ga4739)が、パチンッと携帯を閉じてコハルの衣装直しをリビングを改良した機材室で行う。
元グラビアアイドルらしく、着こなし方や見立てはしっかりしていた。
「風さんありがとう! よーし、気合入ってきた!」
ブンブンとハリセンを振り回し、今日もコハルは元気一杯である。
「音響設備はこれくらいか? バンがあるのは助かったな。あとは曲を用意を‥‥ワクワクしてきたぜ」
アンドレアス・ラーセン(
ga6523)は一般人スタッフであるライディの友人達と共に荷物を運び込んでいた。
スタッフ内にはファンもいたらしくサインをせがまれている。
「とりあえず、そんなもので。運動会用のテントとかも借りてこれましたし、準備はこんなものでしょう」
主催者でもあるライディ・王(gz0023)はうんと頷き弁当などをバンに積み込むとバタンと扉を閉じた。
「そういえば‥‥、ハンナは‥‥いないのね?」
リンがここにいないメンバーを心配にライディに声をかける。
「ちょっと予定変更。お花見に誘われているようでしたから、コハルさんに役割タッチです」
そういってライディは空を見上げる。
青くはれた空に白い雲がゆっくりと流れていた。
●桜の宴
「本当に、桃源郷という名に相応しい風景ですわね‥‥桜という花は私の名前でもありますので身近に感じます」
桜柄の和服で白いパラソルをくるくる回しながら、絢文 桜子(
ga6137)はバスケットを揺らし歩いていた。
風に舞って桃色の花弁が宙を舞う。
「おーい、桜子。こっちだこっち」
「シートもBBQの準備もできてますよー」
桜子が花弁を目で追えば、ユーニー・カニンガム(
ga6243)とシアン・オルタネイト(
ga6288)がシートをひいてバーベキューコンロを温めてまっていた。
「本当は仕事だったのですが‥‥代わっていただいたことに感謝しませんと」
ハンナ・ルーベンス(
ga5138)は桜子の後ろを歩きつつつぶやいた。
ライディからリポーターを頼まれていたが、桜子たちに花見をしようと誘われたので、急遽コハルと交代したのである。
コハルも先月スタッフとして動けなかった分快くOKした。
「さぁ、ハンナさんも一緒に楽しみましょう?」
桜子から声をかけられハンナも微笑を返す。
暖かな空気が当たり一面に広がるそのさきで、シートを広げた一組のカップルがいた。
「私の顔に何かついていますか?」
花が主役と、薄水灰地の春らしくも控えめな小紋を来た智久 百合歌(
ga4980)はじーっとみつめるジェレミー・菊地(
ga6029)にお茶を注ぎつつ聞いた。
「いやぁ、綺麗だなぁと」
お茶を飲み、百合歌と作った弁当を食べつつジェレミーは少し赤くなりながら答えた。
「桜ですか?」
百合歌がきょとんとした顔で聞き返すと、ジェレミーは不精髭の生えたあごで百合歌を示す。
「不意打ち‥‥禁止です」
そういいつつ頬染めた百合歌はジェレミーにそっと寄り添い、その肩をジェレミーは抱き寄せた。
『クリスマス以来ご無沙汰です、Wind Of Hopeサブパーソナリティの風です。これより『Redio−Hope』主催のイースターイベントが始まります。参加希望者は〜』
そんな二人に園内放送を通じて風の声が聞こえてくる。
『希望の風』の通称で傭兵達の間で慕われているラジオ番組。
二月の特別番組で百合歌とジェレミーは恋仲になったのであった。
「それじゃあ、少しいってきますね。卵チョコゲットしてきますよ」
「あまり無茶しないようにな」
着物の袖をまくって気合を入れる百合歌をジェレミーは笑顔で送り出す。
希望の風が静かに吹きだした。
●集まれきぐるみーず
「はーい、着ぐるみチェイスの逃げる人はこっちですよー」
トナカイの着ぐるみを着たライディの呼びかけに、幾人もの能力者が集まってきていた。
ちなみに、着ぐるみチェイスという名前はコハルの命名である。
「伊達に白猫を着ているわけではないことを証明しましょうか」
尻尾に青いリボンと首に鈴をつけた宗太郎=シルエイト(
ga4261)は不敵に笑った。
「はい、せんせー。あまった卵チョコは食べてもいいの?」
持参の白兎衣装で手をあげピョンピョンとはねたのは月森 花(
ga0053)。
「あ、はい。参加賞ということでとられなかった分は差し上げます。一人5,6個くらいバスケットに入っていると思います」
やったと小さく喜び、花の顔がほころんだ。
「やったね、花ちゃん」
同じウサギの着ぐるみを着て、風船のついたスプーンを持った風が花の頭を撫でた。
そんな花をかわいいなぁと宗太郎は眺める。
「しつもんー。瞬天速は使っちゃだめ?」
ライディの正面でアライグマの着ぐるみを着て、バスケットに十二単を着たはっちーを入れている愛紗・ブランネル(
ga1001)が上目遣いに質問をした。
「駄目です。追いかけてくる人はこの公園の一般人の方もいますので、皆さんとの交流を楽しむという企画でお願いします」
ぺこりとライディは頭を下げた。
能力者と一般人の垣根をなくすためにはじめた番組なので、能力者のための番組ではない。
そこに立ち戻っての企画だった。
「任務‥‥了解」
ホワイトタイガーの着ぐるみを着つつ、西島 百白(
ga2123)は和気藹々とした雰囲気の中硬くつぶやく。
「確かに俺たちはライディに雇われたけれど、もっと力抜いて楽しもうぜ」
自称・LH一のお祭り男、雑賀 幸輔(
ga6073)が西島の肩を叩いて微笑んだ。
格好は犬耳犬スーツで、顔が見えているタイプである。
「ダンディーさでは私も負けませんよ」
執事服をきた狐の着ぐるみをエレガントに着こなしながら、叢雲(
ga2494)は答えた。
「キャラかぶって無くてよかった〜」
シアンはファンシーな熊の着ぐるみである。
「そうですよ〜うまうまでいきましょ〜」
よろよろとおぼつかない中華服を着たパンダの着ぐるみは夏 炎西(
ga4178)どうやら酒に弱いのにチューハイを飲んでしまったようである。
言っている事もよくわからないが声は楽しそうだ。
「おっと、間に合ったようだな。今のうちにこの着ぐるみ集合写真を一枚収めさせてもらうぞ」
ぜぇぜぇと息を切らせた坂崎正悟(
ga4498)が集まった着ぐるみ集団をファインダーに収める。
皆の記憶に思い出が一枚刻まれた。
●大脱走! 着ぐるみチェイス
公園内に『Redio−Hope』のスタッフが用意した10個のチェックポイントを好きな順番で逃げる側がめぐっていく。
追いかける側はそれを予測して捕まえるというルールのもとコハルが命名した『着ぐるみチェイス』が始まった。
ドタタタと着ぐるみが走っていき、その後ろを能力者やその様子をみた子供達が追いかけだす。
「神は信じないのですが、楽しそうなので全力で追いかけますよ〜」
レールズ(
ga5293)は顔見知りとお酒を楽しんでいたが、その光景を見て追いかけだす。
勢いのあったり、ばらばらに逃げる着ぐるみ達は中々つかまらない。
「信じて勝利でやがるです!」
生成地に薄花模様の和服姿をしたシーヴ・フェルセン(
ga5638)はすそを両手であげつつライディ扮するトナカイを追いかけていった。
「加勢するぜ」
「トナカイさん、見つけました!」
ライディトナカイ百合歌、ユーニー、シーヴに囲まれ卵をシーヴとユーニーに取られてしまった。
「逃げますっ」
くぐもった声で答えなんとか、抜け出しトナカイは再び駆け出す。
「てんちょーわんこどこだーっ、おっととっ!」
転びそうなのを両手をばたばたさせてこらえ、クラウディア・マリウス(
ga6559)はお世話になっているらーめん屋の店長こと雑賀を追いかけていた。
「はっはっはっ、私はここだよ。ほーむず君」
まるで怪盗気分で雑貨は逃げ回っていた。
トナカイライディは予告していたとおり逃げていたため、いつも囲まれる。
その群がりが面白いのか、子供達も集まってきていた。
「ライディ、子供にも卵渡してやれよ」
「ファンサービスも必要だからな。大丈夫貴方のバスケットに仕掛けはないから」
ユーニーとホアキンが追い詰めつつ、トナカイライディに子供達へチョコを渡すように促した。
トナカイライディは子供達のうち特別に二つ卵チョコを渡して逃げていく。
その後姿をホアキンとユーニーは微笑ましくみていた。
いっぽう、風船のついたフォークを持ったウサギの風を追いかける一団に新しい姿が混ざりだす。
「あ、風じゃん」
「可愛い格好してるね、追いかけるよ〜」
風が電話で連絡していたブティックの店員や、元グラビラの友人達だった。
桜舞う公園に花が増える。
「お、皆ーこっちこっちー」
あえて、自分から手を振って誘導していく風。
子供達にも囲まれ、卵チョコを取られるも楽しく笑う。
「ほらほら、お嬢さんがた私はここですよー」
風のその様子がうらやましく思ったのか、執事狐の尻尾をワサワサさせて誘惑をしかけていた。
そんな様子を桜の木の上で周防 誠(
ga7131)は眺めている。
「天気はいいし‥‥花見にはいい日だ‥‥」
太い枝で寝転がり、誠は風と香りを楽しんでいた。
半分までチェックポイントをクリアしだすと、逃げている方も反撃に出だす。
「卵とりかえしちゃうぞ〜」
「ふふふ、着ぐるみでも動きは変わりませんよ」
愛紗や宗太郎などはノリノリである。
やっぱり、自分も卵チョコが食べたいのであった。
でも、なかなか捕らえることはできない。
「シーヴ、隙ありっ!」
宗太郎や風に気取られていた、シーヴからライディは卵チョコを取り戻した。
「むむ‥‥ライディ、やりあがるです」
無表情ながらもツリ目を光らせ、シーヴは再びライディを追いかけだす。
「てんちょーわんこからじゃないけど、卵チョコゲットー!」
クラウディアは西島から、ようやく卵チョコを手に入れてご満悦であった。
取られた西島の方は特になんとも思っていない様子で逃走を続けている。
「ライディさん、ゲットですっ♪ 恋人ももらっちゃって悪いですけれどね」
百合歌がライディのバスケットから卵チョコを取りつつ、後半はそっと耳元にささやいた。
その後、最終チェックも終わり着ぐるみチェイスは終わりを告げる。
アンドレアスが自作したジングルと共に、イベントの終了と公開録音が始まりだした。
『ライディ・王の『Wind Of Hope』今回はメインのライディ・王のかわりにリン=アスターナと風によって番組を進めさせていただきます』
リンのはっきりした声が桃源郷内に響いた。
『厳しい冬が過ぎ、暖かい日差しに誘われて草木が目を覚まし、いよいよ春本番と言った今日この頃。皆様、如何お過ごしでしょうか? 今回はいつものスタジオではなく桃源郷の特設開場よりお送りしています。中継のコハルさん〜』
春風と共に希望の風は強く吹く。
●突撃お花見開場
「はーい、こちらはお花見開場のコハルです聞こえてますか〜?」
『ばっちり聞こえていますよー』
音声を確認するコハルに対して風が答えた。
「こちらではすでに宴会モードのところがいくつかあります。寝てしまっている人もいますね?」
日ごろの疲れのためか横になっているサラリーマン風の人物をそっとしてなにやら騒いでいる集団の方へコハルは進む。
「これが、ジャパニーズトラディッショナル・ザ・ハナミスタイルだ!」
おもむろに赤いネクタイを頭に巻く中肉中背で黒髪黒目の日本人。
顔は赤くすでに出来上がっているのはコハルの目にもあきらかだった。
「郷に入れば郷に従えともいうからな、俺もやらせてもらおう」
赤いボサボサ頭の男も頭にネクタイを巻いて、腰を振って踊りだす。
最近巷ではやっている歌らしく、そのノリにあわせてコハルも「うっうっうまうまー」と踊りだした。
『コハルさん、巻き込まれないで』
「はっ!? つい、うっかり。静かに飲んでいるお兄さんにお酌していきたいとおもいます」
「ああ、どうも‥‥しかし、あの踊りは日本の文化を誤解されそうなきがします」
髪を後ろで束ねた青年は答え踊りを見て苦笑していた。
「ゆっくり花見ができていいですね」
「本当にそうですよねー」
黒髪の青年のところに謎の踊りを踊っている集団から逃げてきた銀髪の少女が同意をしめした。
「シーヴちゃん、踊ってないでこっちきてきて」
銀髪の少女はシーヴを呼び出す。
「なんでやがるですか」
頭にネクタイをまいたまま、シーヴがやってくる。
「叢雲、美味そうなおかず持ってきてやがるです。兄作のこれと交換しやがるです」
「いいですよ〜」
黒髪の青年、叢雲とシーヴの間でおかず交換がおこなわれ、コハルと銀髪の少女がつまみ食いをする。
「ん〜、お花見に持ってきている料理はみんなおいしいです!」
ふっと、コハルの視線が上をむくと桜の木の上で猫とウサギの着ぐるみが寄り添っているのが見えた。
だが、レポートを打ち切ることにコハルは決める。
「以上! レポートのコハルでした!」
まとまっているのかいないのかよくわからない中継がここで打ち切られた。
●お便りコーナー
「えー、気を取り直してお便りを読んで行きたいと思いますっ♪ 着てくれたお友達ありがとう」
アンドレアスの眺めのジングルで着ぐるみから着替え終わった風が言葉をつむぐ。
「今回のメールのテーマは『期待』。春は様々な思いを馳せるのにぴったりな時期。皆様の思いのこもったお便りを、希望の春風に乗せてお伝えしようと思っています」
それにリンが続いた。
「まずはじめの投稿っ! 短いので二枚一気にいっちゃいます」
『
もっとあの人との距離が近く―――願わくば肩を並べて歩けます様に
RN:風桜
』
『
春が来ると新たな出会いを期待します。誰にでも出来る、不思議な縁の繋ぎ方。もっともっと繋ぎたいな
RN:中間色
』
「春らしい期待ですね。恋への期待といえばこういうのもありました。こちらも2枚連続いきます」
風に続き、リンがメールを読み出す。
『
春、そして期待と言えば、出会い。
俺は出会いのトキメキを要求する!
要求に応じられない場合、俺は旅に出る! 出会いの前から傷心旅行〜
P.S:給料振り込んどきました
RN:道化師
』
『
彼女がチャイナ服のコスプレとかしてくれないかなあ
RN:謎のバンダナグルメ
』
「純粋といえば、純粋なのかな?」
風はリアクションに困った様子で答える。
「私には恋自身がわからないのでなんともいえないわ」
それでも、仕事をするといってレールズからのお誘いを断っていたのであとで埋め合わせをしたいなとリンは思っていた。
「次のお便りいきましょう」
『
自分に何が出来るのか分からない不安
でも不安の裏には期待が潜む
一人で不安なら、皆で期待を引っ張り出そう
Du ar inte ensam――貴方は独りじゃない
RN:紅の炎
』
「この方は大規模作戦の時に通常放送で投稿されたRNの方ですね♪ これはやっぱりあれなのかな? かな?」
うきうきしだす風にリンはなんともいえない視線を向けた。
「仕事中ですね。はい、がんばります。次のお便りよみまーす」
『
家庭と楽士を両立出来ず、独りになりました
楽士と傭兵を両立出来ず、ステージを下りました
そんな不器用な私に『二人で一人前で行こう』と言ってくれた貴方
手を繋ぎ歩く未来は期待に溢れています
ありがとう
RN:留守番係の元楽士
』
「こちらは先月の特番で上手くいったようね。おめでとうございます、元楽士さん!」
「手紙では6月に挙式が行われる様子。風とホアキン君はいつなのかしらね?」
「り、リンさん。そういう不意打ちはっ!?」
人の幸せをいわっていた風にリンの鋭い突込みが飛んできた。
「次のお便りいきましょうか‥‥」
あわてる風をよそに、リンは番組を進めだす。
前回やった事で多少自信がついたようである。
『
春は大好きな季節です。新芽が綻びるように、まっすぐに伸びる子供らの笑顔が絶えない事を期待します
RN:希望の風のファンSより
』
『
ライディさんこんにちは。いつも楽しく拝聴させていただいています
まずは大規模作戦に参加して全ての人にお疲れ様を。そして、私と共に戦ってくれた方々にありがとうを
この島に来て半年近く過ぎました。これまでの素晴らしい出会いに「感謝」を
そして、これから先に訪れるであろう素晴らしい出会いに大きな「期待」を膨らませています
「希望の風」が新しい出会いの切欠になってくれることを楽しみにしています
PS:ライディさんのパーソナリティーにも大いに「期待」しています。頑張ってくださいね!
RN:執事狐
』
「普通のお便りを呼んだ気分ね」
「いいじゃないですか、さて次で最後のお便りです!」
ふぅと息をつくリンに風が元気付ける。
『
よう、ライディ
いつも番組聴いてるぜ
大規模作戦で、隊長とエースが撃墜されて最悪の気分だった時
ラジオから聞こえてきたお前のメッセージを俺は忘れない
『あなたの帰りを待っている人がいる』
お前はそう言ったよな
ラスト・ホープは俺たちの家
『Redio−Hope』は大事なその一部だ
これからも俺たちの帰る場所を作ってくれ
俺はそれを期待してるぜ
RN:空飛ぶ海賊
』
「今回の大規模作戦は多くの人が怪我をおったわね」
「私もその一人だけど‥‥」
「それでも、この番組で元気付けられる人がいるのはうれしいと思います」
一瞬だけ、リンの微笑が流れたような気がした。
「では、最近のヒットナンバーから。『Cath The Hope』をどうぞ」
それもすぐに終わり、いつものリンの調子で番組は続いていった。
●認められるということ
「ここで一番大きな桜はどこでやがるですか?」
着替えようとしていたライディの着ぐるみを引っ張り、宴席から抜けてきたシーヴが声をかけた。
「えっと、ちょっと遠いよ?」
「いいでやがるです。案内する出やがるです」
ずるずると引っ張られるようにトナカイライディとシーヴが歩いていると、着替え終わった愛紗に声をかけられた。
「ライディおにいちゃん。愛紗、聞きたい事一つ忘れていたんだよ」
「なんだい?」
足を止め、愛紗に視線を合わせるライディ。
シーヴはどこかその様子を寂しそうに見ていた。
「ライディおにいちゃんは好きでこの仕事をしているんだよね? でも、認めて欲しいってへんだなぁって。認めてほしいからやっているの?」
「それはね、違うんだ‥‥たしかに、好きでやっているんだけどね。自信がなかったんだ。僕は皆の役に立っているのかなって‥‥だから認めるのかどうか聞いたんだ」
純粋な愛紗の言葉にライディの心が痛んだ。
それでも、答えをださなければならないとライディは言葉をつむぐ。
「この放送はおにいちゃんの番組だから、他の人にかわって欲しくないな。どうするかはおにいちゃんしだいだけど、愛紗は今の番組が大好きだよ! それじゃあね!」
にこぱぁと輝く笑顔をライディに向けて愛紗は宴会をしている方へかけていった。
その背中を着ぐるみを着ながらライディはじっと見つめる。
「いこっか、シーヴ」
声をかけづらかったシーヴのかわりにライディが手を引いて歩く。
しばらくして、丘のてっぺんに大きな桜の木が一本たっていた。
シーヴはポケットから小型のレコーダーを出して、桜の様子、風の色。
その桜の下で花見を楽しんでいる親子の声を録っていく。
最後にレコーダーをライディに渡して、インタビューを要求してきた。
「え、えーと。貴方の期待を聞かせてください」
ライディはトナカイの頭をとり、レコーダーをシーヴに向けた。
「シーヴ、LHに初めて来た時、ライディのラジオ聞きやがったです。慣れねぇ場所、シーヴも不安ない訳じぇねぇんで‥‥大丈夫、やってけると何かほっとしたです」
そのとき、風が吹き、シーヴの顔がかすかに微笑んだかのようにライディには見えた。
「シーヴ、ライディ好きです。立派なパーソナリティになることを期待しやがるです」
「ど、どうもありがとうございました」
そうして、ライディはレコーダーの電源を切った。
好きの意味は何なのかと考えつつ‥‥。
●宴の終わり
日も沈み、周囲が片付けを始めだしていた。
「夜桜で一杯ってのもいいが、さすがに仕事に響くからな」
美味い酒と食べ物を堪能したアンドレアスは祭りの終わりを寂しく思いつぶやいた。
「そうだな。ゆっくり寝れたし、俺達の仕事は世界平和を守るだから」
寝ていたユーニーもおきあがり寝起きのコーヒーを飲みだす。
「では、私と百合歌さんのギターと坂崎さんの記念撮影で締めましょう」
百合歌が和服に似合わないアコースティックギターをだし、ハンナから渡されていたテープでから覚えた曲を演奏しだす。
ハンナの歌は宴席の最中でも歌われていたが、この最後の曲はオリジナルである。
曲名は『The Last Redio Hope』。
♪例え世界が全てを見失っても、貴方の想いを、希望を、私達は忘れない‥‥この想いを込めて♪
喧騒が無くなったぶん、桃源郷全体に広がるかのように澄んだ歌声と、アコースティックギターの音色が響く。
♪‥‥嗚呼、その声は忘れえぬ日々今は未だ見えないけれどthe last radio hope‥‥♪
ハンナの歌の終わりと共に夜桜をバックにした記念撮影が取られた。
皆の思い出の一ページが増える。
これからも、希望の風と共に思い出が運ばれて欲しいと誰もが願った。