タイトル:ひなふぇすたマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/18 00:25

●オープニング本文


 桃の節句にあわせて『ひなふぇすた』と呼ばれる祭りが京都市で開催されている。
 バグア襲来までは毎年行われていたが、参加者の低迷などにより延期となっていた。
 しかし、能力者の活躍により今年は久しぶりの開催だった。
 来年二十歳となる皐月ヶ岳あやめは最後と思って気合いをいれていた。
「ギリギリ間に合ったよぅー。これで前回優勝者として花道がひけるんだよぅ〜」
 間延びする口調で衣装合わせをする少年。
 『ひなふぇすた』最大の見ものとされる『年ひなコンテスト』の前回優勝者である。
「参加条件が二十歳未満で心が乙女という条件はすばらしいんだよぅ〜♪」
 鼻歌まじりにあやめはフリル衣装を着こなした。

●アイベックス・エンタテイメントにて
 米田時雄は頭を悩ませていた。
 ひなふぇすの再開は予想外である。
「仕方ないですね。正々堂々書類選考から挑みましょう。IMPのメンバーにも連絡をいれてください」
 敬語による格式ばった口調で米田はマネージャーに指示を出した。

●参加者一覧

大曽根櫻(ga0005
16歳・♀・AA
ジーラ(ga0077
16歳・♀・JG
赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
緋霧 絢(ga3668
19歳・♀・SN
葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
ミオ・リトマイネン(ga4310
14歳・♀・SN
雪村 風華(ga4900
16歳・♀・GP
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
ノエル・イル・風花(ga6259
14歳・♀・SN
阿木 慧斗(ga7542
14歳・♂・ST

●リプレイ本文

●ステージ準備
「‥‥男の子でも参加出来るんだ。‥‥まぁなまじ普通の女の子より可愛い男の子もよく見かけるよね」
 ジーラ(ga0077)は呟きつつも、控え室で着替え終わった二人を見た。
「僕の顔に何かついてますか?」
「そんなに見つめられたら、はずかしいんだよぅ」
 返事を返したのは阿木 慧斗(ga7542)と皐月ヶ岳あやめである。
 ちなみに、どちらも性別は男性だが、阿木は和ゴス風な女学生姿に靴は編み上げのショートブーツ。
 衣装はレースをふんだんに使い、ネコミミヘッドドレスを装備という女の子そのものだった。
 一方、前回優勝者でもある皐月ヶ岳あやめのほうは貴族の皇女といわんばかりの洋装勝負。ホワイトドレスにフリルを多くつけ、白いタイツが細い足を覆っていた。
 男には見えない。
「なんか、ボクの存在がかすんでみえるよ‥‥」
「ジーラちゃん、あたしも一緒だよ‥‥」
 思わず目をそらしたジーラに葵 コハル(ga3897)が肩を叩いて同意した。
 コハルは緋袴の巫女衣装であるが、阿木に比べると見劣りしてしまう。
 もっとも、阿木の方が派手なだけではあるのだが‥‥。
「いえいえ、コハルさんも十分可愛いですよ。何より、かぶってしまいましたね」
 おっとりしつつも微笑みを浮かべたのは大曽根櫻(ga0005)。
 巫女衣装で、さらに出し物もコハルと一緒である。
「きょ、強豪だよ‥‥。お、おかぁさぁぁぁあん!」
 急に不安になったのか軽いパニックに陥るコハル。
「だいじょび、だいじょび! 先手必勝撃沈するの私! 緊張なんかノーモア横浜横須賀だよ!」
「のもじちゃん、意味不明すぎだよ」
 阿野次 のもじ(ga5480)の意味があるのか無いのか良くわからない励ましを受け、コハルは多少落ち着いた。
「なんだかんだで、皆素なんだね‥‥ボクはキャラを作らなくちゃいけないから、皆がうらやましいよ」
 ジーラは深いため息をつき、頬の筋肉をマッサージしだす。
 笑顔はアイドルの武器なのだ。
 
●応援を受けて
「ひな祭り‥‥世界には色んなお祭りがあるものね‥‥」
 ミオ・リトマイネン(ga4310)は古都の町並みと、盛り上がる雰囲気に圧倒されていた。
 アイベックス・エンタテイメントの社長である米田時雄が衣装をもってきたそうなので、見物ついでに他のIMPメンバーと共に移動中である。
「特注浴衣を作ってもらえたのはうれしいかも」
 うきうきしているのは雪村 風華(ga4900)。
 要望衣装を特注で作ってもらえたのだから仕方ない。
 新人アイドルに金をかけるのは異例であり、米田の期待がかかっているとも言えた。
「私のほうは普通ですが‥‥これから専用になるかもしれません」
 無表情ながらも緋霧 絢(ga3668)はつぶやいた。
 前回のダーク路線が気に入ったのか、今回もメイド服をボロボロにするつもりである。
 アクセサリーも鎖つき首輪など本格派を狙って勝負をかけるつもりだ。
「あ、おーい。緋霧さーん」
 そんなことを考えていた一団に、不意に声がかかった。
 声のするほうを向けば、髪を後ろで束ね浴衣を着た青年がいる。
 赤髪でサイドテールをした少女を肩車しながら手を振っていた。
 青年の横には引率者っぽく、マフラーをつけた少女の手を引いた女性と、金髪のニヤニヤした遊び人風の男性や女学生らしい女性もいた。
 結構な大所帯である。
「あ‥‥え、その‥‥」
 浴衣を着た青年と目が合ったとき、緋霧の様子がとたんに変わった。
 青年の方は気にした様子もなく、話しかけてくる。
「まだ準備してないんやな、コンテストは俺も見るから、皆がんばってな」
 皆とつけているが、青年の視線は緋霧から動かない。
 緋霧も動けない。
「衣装を取りに行く最中でありますので、すみませんが道をあけてください」
 援護をしたのはアイドルに興味があるということできているノエル・イル・風花(ga6259)だ。
「そ、そういう‥‥こと、なので‥‥」
「そりゃ、悪かったねぇ‥‥ま、がんばんなよ。IMPはあたしも応援しているからね」
 引率者っぽい巨乳の女性はややニヤつきながら、緋霧や風華、ミオの肩を叩いた。
 そして、一団は人波に沿うように移動を始めていく。
 緋霧は深呼吸を大きくすると、いつもの調子に戻った。
「好きな人が見ていると気合入るっていうけど‥‥」
「絢さんの場合逆効果かもしれません‥‥」
 前回のときから続く不安が的中し、風華とミオはころころと替えられる緋霧は器用だとも思いつつ、二人そろってため息をついた。
『ぴんぽんぱんぽーん、みんなぁ、こんにちはーです! 本日13時より『年ひなコンテスト』がはじまりまぁす。新人アイドルユニットIMPのメンバーや私も参加しますので、盛り上がりましょぉ〜』
 赤霧・連(ga0668)の元気なアナウンスが『ひなふぇすた』開場に響いた。
「皆さん、衣装を取りに行くであります。着替えは私も手伝うであります」
 腕時計を見て時間があまりないことを確認したノエルは3人をせかした。
 優勝は誰なのか、それは結果が出るまでわからない。
 
●年ひなコンテスト・前半戦
 そして、13時。
 『ひなふぇすた』の目玉でもある『年ひなコンテスト』が開かれた。
『エントリーNO1☆ 阿野次のもじ! 何故お雛様になるか? それはそこにひな壇があるからだ!』
 ズビシッと指をお雛さまのところだけが空席なひな壇をのもじはさした。
 そこに座れるのは優勝者だけなのである。
『皆の衆、我が魂のソレントを聞くがいいのじゃ!』
 前振りをして、イントロと共に右足に両手を置いてリズムを取り出す。
 地声による胡散臭いナレーションが続き、歌い出す。
 歌はゲームの挿入歌を替え歌にしたものだ。
 リズミカルで楽しい曲であり、自作の振り付けも派手に決まる。
『いぇっ!』
 最後も魔法少女のようなポーズを決めて締める。
 出だしのインパクトは大きい。
「この出だしは強烈です‥‥ですが、正攻法で勝負をかけます」
 ミオは舞台袖で眺めつつ、気合を入れる。
『エントリーNO2、初めまして、ミオ・リトマイネンです。普段は能力者として任務についていますが、今は一参加者です』
 ミオは緋袴の巫女服に犬耳(本人いわく狼らしい)をつけて挨拶をした。
『こんなときだからこそ楽しみたいです。あと、和服って胸苦しいんですね‥‥』
 その言葉どおり、ミオの胸はキュッとしまった巫女装束にもかかわらず、存在感をアピールしていた。
 そして、たどたどしくもギター演奏が始まる。
 メジャーな曲からビートを刻み、乗ってきたのか体をゆすると胸も揺れた。
 男性客からのおぉーという声が響く。
「みんな可愛いなぁ」
 次の出番を控えた阿木がミオや、のもじの様子をみて闘志をちょっぴり燃やした。
『エントリーNO3、阿木 ケイです。よろしくお願いします!』
 元気良くケイが出てきて、童謡のメドレーをステージ上で縦横無尽に(けれども、袴の裾が乱れない程度の速度を保ち)動き回った。
 マイクを客席に向けて、一緒に歌おうと呼びかけたり演出も心がける。
「では、私がいきましょう」
 緊張した様子もなく、櫻はすたすたとステージにでていく。
『エントリーNO4の大曽根櫻と申します。現在は能力者としての仕事をしながら高校に通うという生活をしています』
 しゃなりと礼をし、戻ると微笑む。
 巫女服の上に千早を着ている姿は、京都の町並みに良くあう大和撫子そのものだ。
『今回は、この巫女の装束で和の音楽を背景に神楽舞をさせて頂きます。では‥‥よろしくお願いいたします』
 再び礼をすれば、神楽が流れ出す。
 シャンシャンと神楽鈴を鳴らして櫻は神楽舞を舞った。
 幻想的な雰囲気が開場を包む。
 本当の神事と見紛うような神聖な空気さえ感じられた。
「皆さん、すばらしいであります」
 前半戦最後となるノエルが観客と共に拍手をささげ、櫻の退場と共に入れ替わった。
『エントリーNO5。ノエル・イル・風花‥‥年齢は推定14歳。誕生日は暫定12月24日であります‥‥』
 細身で幼い外見とは違い、淡々とした口調ではっきりと話し出す。
『私らしい何かを探すため‥‥参加させていただいたであります。目標は新人賞‥‥』
 そこまで行ったときに、おぉという歓声があがる。
『というのは大きすぎるようなので、目玉焼きを焼けるようになる事であります‥‥』
 びっくりしたのか少し目を見開き、ノエルは目標を下げた。
 こほんと軽く咳払いをし、本題にはいる。
『この曲は私が訪れた街々で‥‥ある時は兵士達が歌い、ある時はラジオから流れ‥‥多分会場の皆様も、一度は耳にした曲だと思うのであります』
 ノエルが選んだ曲は、老若男女国籍を問わない曲。
 能力者も一般人も無い誰もが知っている賛美歌のひとつを歌いだした。
 BGMとして所望していた、バグパイプの音色が客席を飲み込む。
 普段の大人しい喋り方とは全く違う、淀み無く澄み透明感のある声が響いた。
 誰からとも無く歌いだし、合唱が巻き起こるまでにいたり、盛大な拍手で締められる。
「‥‥ありがとうございました‥‥」
 静かに瞳を開け、お辞儀をしたあとノエルは下がる。
 
●あぴーるたーいむっ・後半戦
「うぅ、ボクも緊張してきた‥‥」
 前半戦をやった5人の堂々たるアピールにジーラは精神的に追い詰められていた。
 役を作らなくてはならない分緊張も高い。
 そして、ジーラの出番が回ってきた。
『ぇと、エントリーNO6のジーラ・マールブランシュって言います。フランスからこっちにやってきました。今は高校通いの16歳です』
 挨拶のあとくるりと一回転するジーラ。
 ふわりとスカートが動いた。
 衣装もはじめの3人に比べると落ち着いたブレザー姿である。
『色々と不器用で情けないボクだけど、変わってみたいと思ってここにきました。一生懸命がんばるので審査をよろしくお願いします!』
 後半戦はアクションが多いメンバーで構成された。
 ジーラもたがわず、弓を使ってひな壇に用意された的を射抜く。
 ブレザー姿と和弓のミスマッチさが特徴的だった。
「ジーラちゃん、やるぅ。あたしも負けられないね!」
『エントリーNO7、コハルっていいますっ。今日は見て下さる皆さんに見て良かったと思って貰える様、一所懸命、舞いたいと思いますっ』
 はじめは弓を使ってはいるも櫻と同じような日舞から始まる。
 客席の注目が集まってないのはコハルにも視線で感じられていた。
(「動きにメリハリを付けて緊張感が出る様に、ってよく怒られたなぁ‥‥あたしも、まだまだか」)
 しかし、コハルの演技はこれだけではなかった。
 舞台袖の連から投げられた桃を上空で射抜き、BGMが和風テクノに変わると共に衣装が変わる。
 白い巫女衣装が桜のような桃色の振袖に変化した。
 実際には前後に分かれるギミックではあるが、演出としてレベルは高い。
 舞台袖に居る連に弓を返し、槍で激しく舞う。
 大きく、そして力強い舞。
 さらに槍を連に返して刀を受け取る。
 踊りも刀のように鋭利なものへと変わり、曲のアクセントに合わせて刃を煌かせた。
 そして、曲の終わりと共に演舞も鞘に納まる。
『拙い舞いでしたが、ご声援ありがとうございましたっ』
 ぺこっとお辞儀をしてコハルは下がる。
「次は私ですが‥‥」
 緋霧はチラッと客席を見る。
 『彼』の姿はわからなかった。
(「これならできそうですね‥‥」)
 一呼吸おいたあと、緋霧はステージに出て行く。
『エントリーNO9の絢です。最近のお気に入りは『こねこのぬいぐるみ』です。IMPというアイドルグループにて活動中です。皆さん、応援お願いします』
 ボロボロ風のメイド服に首輪に鎖つきの腕輪など、ノエルとは一風変わった魅力が漂う。
 一礼をして顔を上げると視線の真ん中で『彼』が少し赤い顔をしながらこちらをみていた。
 緋霧の体が固まる。
 BGMである『Catch the Hope』が始まってもしばらく立ち尽くしていたが、袖から風華やミオ、コハルたちの援護を受け伏せ目がちにして動き出す。
 スカートの中が見えそうで見えないレベルで立ち回り、ガーターベルトに仕込んだ拳銃でひな壇にある的を撃った。
 頭の中から、『彼』のイメージを必死に消そうとしていても、消えないのか動きがいまいちである。
『これにて終わります』
 本来は2番までやる予定だったが、一番で切り上げて緋霧は下がった。
「こりゃ、私ががんばるしかないか!」
 気合を入れなおした風華がステージにでた。
『エントリーNO8、雪村風華だよっ♪ 応援よろしくね』
 猫かぶりの本領発揮。
 可愛さを前面に押し出した風華が特注の丈が短いスリットの入った浴衣で出てくる。
『趣味は体を動かすこと全般。得意なことは歌かな? 能力者だしKVの操縦とかも出来ちゃうけどね。え〜、乙女じゃない? こんな時代だからこそ、凛々しい乙女が必要だと思うんだ♪』
 笑顔を振りまき、ウインクで締めた。
 激しいロックが流れ、連よりソードが渡される。
 それをジャンプで受け取り、演舞を踊った。
 滑らかに舞、時には余裕を見せつつも危ない動きを『魅せる』。
 演舞が終わり、皐月ヶ岳あやめがでていこうとしていた。
「あやめさん、がんばです」
 阿木が応援し、そのとき連が気づく。
「あ、雑用していて参加登録を忘れていたのです‥‥」
 しゅんとなる連にあやめが手を伸ばした。
「じゃあ、ユニットとしてやるんだよぅ。最後だから許してくれるはずだよぅ〜」
 にこっと笑うあやめに、にへらと連は返した。
 白い服に黒い髪のあやめと、黒い服に白い髪の連がステージに共に立った。
『急遽、ユニット参加となったんだよぅ。AYAMEだよ〜♪ 今年で最後だから、気合いれていくんだよぉ〜』
『赤霧・連、19歳です! 盛り上がっていますか〜。皆と素敵な一日を過したいです、それではよろしく御願い致します☆』
 二人の挨拶が終わり、連のエレクトーンによる懐かしの曲が流れ出す。
 キラキラと元気を振りまくようなそんな歌。
 あやめもあわせて踊りを披露した。
 コンテストは盛大な拍手と共に幕を閉じたのである。
 
●結果発表
 一位をとったのはノエルだった。
 万人受けする曲の選択、そして応援に来た能力者の投票もありトップに輝いた。
「うれしいで‥‥あります」
「優勝は目出度いね、これは『目(の)出(た)鯛』だ」
 知り合いの一人からつくりもの目がついた鯛をもらいノエルは無表情なりに困っていた。
 また、阿木は米田の目に留まり無事、IMPへの所属が決まった。
 絢は『先進美冷アイドル(Id)』、風華は『先進舞闘アイドル(Id)』として名が売れ出す。
 彼女達アイドルの戦いはまだまだ続くのであった。
 がんばれIMP!
 負けるなIMP!