●リプレイ本文
●ゴンザさんは何者?
「素材集めの頃から噂は聞き及んでいたので参加出来て幸いだった。しかし社長の具合は大丈夫なのか?」
「ゴンザさんは社長じゃないですよ。メルス・メス社関係の依頼主であることが多いのは事実ですけれど‥‥」
南米にあるメルス・メス社のオンボロ修理工場につき、白鐘剣一郎(
ga0184)が今回の依頼に対して気になっている事を聞くと瓜生 巴(
ga5119)が答えた。
「そうなのか‥‥」
「ええ、ゴンザレス・タシロ主任は一社員ですよ。社長は腕を気に入っているのかいろいろとパイプ役になっています。サイエンティストの能力者でもあります」
出迎えの整備員がそう答えた。
「でも、社長に見えるだけの威厳があるだよ。おっちゃんには!」
内藤新(
ga3460)が熱く拳を握り語った。
「ここで熱く語ってもしかたないだろ。そうだ、見舞いに行こうと思うので病院の場所など教えてくれないか?」
いつものライダースーツではなく、落ち着いた服装の御山・アキラ(
ga0532)が内藤をなだめつつ整備員に住所を聞きだす。
「お見舞いいくなら、これとこれをお願いします」
南米へ移動する間の高速移動艇で書いた手紙とラストホープで買ってきた週刊誌をつめたバックをシアン・オルタネイト(
ga6288)は渡した。
そのほかにもクッキーやバナナなどの見舞い品を、依頼を受けた能力者たちが差し出し、内藤が受け取った。
「おやっさんってすげぇな‥‥」
「そのようだな‥‥。だが、彼の存在だけでなく、この企画自体に興味を持っているものも多い。是非、成功させよう」
剣一郎は一部始終を見て、心新たに依頼に向かう事を決意した。
●KVも体力だ!
「これは俺とお前の勝負だ!!」
増田 大五郎(
ga6752)は試験用エリアに入ると、ハンガーに待機されている試作フレームのついたナイトフォーゲルをビシイッと指差した。
「‥‥で、耐久テストという名目ですけれど『ここまでやると壊れるよ』というボーダーを引くものですよね?」
気合の入っている増田を一瞬眺め、何事も無かったかのように雪野 氷冥(
ga0216)は整備員達に話かけた。
「そうですよ? 調整も必要ですからね、引きちぎれたときの力の掛かり具合とかも貴重なサンプルですから」
「あ、あらそう?」
予想していたものとは違う返事に雪野は少し肩透かしを食らった気分だ。
「ですが、耐久性能を試すのは人工筋肉ならびにフレームですからね? エンジン周りとかは勘弁してくださいよ」
「はじめから壊すつもりはないですよ。ただ、不測の事態というのはつき物ですからそのときは割り切ってくださいね」
念を押す整備員にできうる限り答えるといった返事を雪野は返した。
『ボクはできれば、ブリッツインパクトのチェックがやりたいな〜と』
R−01に乗り込んだ鷹崎 空音(
ga7068)はワクワクが止まらないといった具合で語る。
まずはウォーミングアップということで先に防御反応や性能チェックという流れとなり、空音と砕牙 九郎(
ga7366)がR−01とS−01に乗り込んでいた。
『うだうだいってないでやるぞ。フレームは2個あるようだが、そっちだけつけて殴りあうぞ』
九郎はそういい、S−01に向かって殴りかかる。
それを空音がよけもせず受け止めた。
『衝撃時の振動も少ないし、ダメージもほとんど表示されないよ』
「メトロニウムフレームと同じくらいはあるようですね。もちろん、そうでなくては意味がないです」
雪野の厳しい見立てが飛ぶ。
『今度はこっちだよ、えいっ!』
お返しとばかりにR−01の拳がS−01にヒットする。
ガシャァンと重いパンチである音がし、R−01がゆすられた。
『つぅ〜。結構振動が来るぜ、ダメージは普通のナックルフットコートより多いなぁ。この出力修正は他の武器にも効果あるかぁ?』
「UTLショップでのスペックと比較していますけれど、人工筋肉による動作修正のようですし殴るだけでなく武器の取り回しも出力強化していると思います」
井出 一真(
ga6977)がカタログを片手に持ちつつ計測される未知のデータ群にワクワクしていた。
「筋肉はすべてを凌駕するというわけか‥‥いいものだな」
データ調整を後ろで眺めていた増田がややうっとり気味に呟く。
「それとこれは関係ないと思いますけど‥‥」
雪野が突っ込みを入れている間にも、空音と九郎はお互いを殴りあい、拳を受け止めあう。
フレームを付け替えての防御チェックも済ませた。
「軽いシールドを、フレームをつける事でもっているようなものですね。シールドを持てばさらに強度がますと思います」
一真が出していくデータではメトロニウムシールドより低いながらも受け防御性能は通常より増していた。
「次はおまえらの番だぞ」
ハンガーにKVをしまった九郎が降りながら一真と雪野のほうを見る。
「それじゃあ、反応チェックいきましょう」
「あ、はい。よろしくお願いします!」
雪野のウィンクに一真がどぎまぎしつつも礼をして答えた。
●反応チェック
「システム、グリーン‥‥はじめます」
KVのコックピットに乗り、高鳴る鼓動を押さえながら一真はシステムチェックをしていった。
強化人工筋肉による瞬発力、反応力のチェックのため雪野も一真も演舞のようなものを動作させる。
『ちょっと、柔軟性に欠ける感じがしますね‥‥装甲の厚さが問題かもしれません』
動きにどうも硬さを感じ、雪野がつぶやく。
『そうですね‥‥外装を厚くして強化よりは人工筋肉に重点を置いて、機体の耐久度を上げるほうが格闘フレームには適しているかもしれません。いえ、好みなのですが』
雪野の動作データを採取しつつ、巴が唸った。
「こちらでもやはり差は感じますね。近くで受け止めることに無理は感じませんけれど、反復運動のような回避能力に劣る感じがします」
装備過重は高まっているものの、微妙に使いかってが悪い。
格闘戦に柔軟性が必要だが、この強化フレームはいまひとつである。
「ちょっと、実戦してみませんか? お互いで手合わせという形で‥‥」
しばらく一真は殺陣を演じていたが、物足りなくなり雪野の対して提案を持ちかけた。
『いいけれど、手加減しませんよ? 限界時の具合をとりたいと思っていましたから』
『無茶しないでね〜、壊したら大変だから〜』
雪野の同意する声と、シアンの不安そうな声が続く。
それでも、一真の心は止まらなかった。
「いきますっ!」
ブーストを吹かした一真のR−01が雪野のS−01にパンチを繰り出す。
『筋はいいですが、機体ともども力が入りすぎていますね』
S−01はそのパンチを流すように受けて足払いをする。
ズシャァンとR−01は鋼鉄の床にこけた。
「どうぅわ!? いたたた‥‥。でも、まだまだ!」
一真は立ち上がり、雪野に向かっていく。
『青春するのもいいけど、ほどほどにね〜』
シアンの少しうらやましそうな声がS−01に響いたが、両者とも練力が切れるまで戦い続けた。
●おやっさんのお見舞い
「おっちゃんいるだべか〜」
ノックの後、内藤とアキラはタシロの病室に入っていく。
「おう、坊主に‥‥誰かと思ったらアキラ嬢か。格好が違うからわからなかったが普通の格好していると別嬪だぜ」
「世辞はよしてくれ。慣れていない」
出迎えたタシロは目元に隈をつくって、点滴をしているようだが元気そうである。
一方、褒められたアキラの方は頬を少し赤くした。
「メロンおいとくだよ〜。見舞いには社長さんとか来ただか?」
内藤は見ることの少ないアキラの態度に微笑みつつメロンをベッドの横に置いた。
「うちの社長は忙しい人でね。紙切れ一枚と労災降りた分だよ」
けっとゴンザレスは鼻で笑う。
「そこまでいえれば十分だ。そうだ、カプロイアのKF−14何だがな‥‥」
幾分落ち着いたアキラが配られている資料を手渡す。
「相変わらず、金持ちの考えることはわからんな」
ぼさぼさの頭をボリボリとかきながら、点滴を打たれていない手で資料をめくる。
「私も同感だ。そのうち武装提案を持ち込むかもしれない。水中用機がでて水中戦がメインとなると、その手の装備も欲しいからな」
出かけるときに同行者から預かった、バナナやクッキー、雑誌などを置きながらアキラはタシロにいった。
「ま、なるべくやっていくぜ。こっちもいろいろ忙しいし、俺自身がこんな状態だからな‥‥若いのには‥‥って、俺の見舞いだけで南米まできたのか?」
ふとタシロが二人をにらむ。
しばらく内藤は考えていたが、真剣な目でタシロを見つめ返してゆっくりと話し出す。
「他の整備員の人たちに呼ばれてきたんだべ。でも、怒らないで欲しいんだ。あの人たちだって一人前だべ、おっちゃんは一人で抱え込みすぎだべ!」
たまった気持ちが爆発したのか内藤の語気は荒くなった。
「けど、あいつらはまだ‥‥」
「そうやって整備員を心配するのもわかるが、もっと任せてやれ。誰かの娘だった身として言わせて貰えば、父親に構ってもらえないというのは精神衛生上宜しくない」
「そうそう、休養をしっかりとるのもエンジニアとしては必要だべ」
ごねるタシロに二人掛りで宥める。
「まぁ、こんな事をいっておきながら仕事を持ってくるのはどうかと思うが‥‥見てくれないか?」
アキラは苦笑しつつ今回出てきた新兵装案を見せる。
「どれどれ、かぁーっ、お前らは好きだな。杭打ち」
「やはりできないんだべ?」
「小型には無理だ。威力を持たせようとするとでかくなっちまって使い勝手が悪い‥‥だが、この増田の意見をまぜて腕そのものを杭代わりに打ち込むのならありだな」
タシロはツインドリルのように腕を変形させて叩き込むという妥協案をだした。
「こっちの電極攻撃もいっそ腕ごと変えちまった方が早いな。だが、同じタイプを二種類つくるとどっちかが売れなくなる。次回試作品をお前らに試してもらうのがいいんだろうな」
アキラからペンをもらってタシロは資料にメモをガリガリと取り出した。
「ハンマーはベルからの依頼もあるんで、あいつがパーツを集めてくれば完成するだろうよ。ただ、このサイズだと命中も回避も落ちるが勘弁しろよ」
「当人にはそういっておく」
「最後にこの高周波ソードの盾だが、コストがかなり上がるぞ? お前らが必要なのは高価な必殺武器なのか安定した武器なのかその辺考えてくれ」
剣一郎の提案したバインダーについては保留という流れになった。
この場合も空音の提案したショーテルと合わせての通常兵器ならまだやれそうとの話である。
「おっちゃん、休養中すまないんだべ」
「いいってことよ、久しぶりに坊主の顔が見れてうれしかったぜ」
今回の評価についてメモでまとめた内藤はタシロに礼をいい、タシロは内藤に笑顔で返した。
入ってきたときに見たものに比べるといい笑顔である。
「今回の資料を置いておくが、ちゃんと寝ろよ」
アキラはタシロに対して釘をさし、ゆっくりと病室を後にした。
●筋肉は浪漫だ!
『俺の筋肉がうなるぜ』
「それをいうなら腕だと思うが‥‥」
剣一郎は苦笑しつつ、機体の疲労具合をコックピットモニターでチェックする。
増田と剣一郎は工場の外、夕日の沈む中KVによるランニングをしていた。
ガションガションとアーマーをつけて走るKVの姿はアメフト選手のようにも見えなくは無い。
スクラップ置き場のようになった敷地をぐるりと時間をかけて回ったあと、腕立て、スクワットなどの運動に入る。
人間のように動くKVならではの動きである。
「自重を耐え切るには少し不安だな、腕立て時の発生熱量が中々ひかない‥‥」
剣一郎は筋肉疲労のような熱量に不安を持つ。
「装甲を減らして、人工筋肉を増やしたほうが回避も下がらないし、持久戦もできるようになるかな?」
『そうですが、現状より人工筋肉を増やしますと、燃料を人工筋肉用に回さないと動かなくなるでしょうね』
整備員の申し訳なさそうな声が聞こえ、剣一郎はふむと頷いた。
『く、向こうに負けるな。俺とオマエはまだやれるはずだ!』
やや疲れ気味の増田は気合を入れてS−01と共に運動を続ける。
続いてナックルの撃ちこみのシャドーを500回と続け、一連の訓練は終了する。
『よくやったぜ、オマエは立派な男だ』
筋肉疲労限界値までいったところでとめ、増田と剣一郎はKVより降りた。
増田は覚醒が止まらないのか、柑橘系の甘い香りを振りまきつつ、変形試験をするメンバーと交代する。
「ようやく乗れるぞー!」
シアンが待ちわびたとばかりに両手をブンブンと振って立ち上がる。
まるで子供のようである。
「間に合ったか? こんな時間になってすまない」
いつものライダースーツに着替えたアキラも合流し変形訓練が行われる。
●唸れ、ブリッツインパクトォ!
「うーん、飛行形態になるの今のままだと厳しい‥‥」
しょんぼり気味にシアンは唸った。
装甲同士が干渉し、飛行形態への変形が難しくなってしまったのだ。
強化を進めれば岩龍のように時間がかかってしまうかもしれない。
「これ、大幅に減量したほうがいいかも‥‥もしかしたら、陸戦なら邪魔にならないかな?」
『なるほど、陸戦型に搭載するというのはいいかもしれませんね。本格的なのはそちらとして、汎用的に使えるように調整するのはありだと思います』
巴がシアンの言葉に納得をしめす。
『それなら、ちょっと時間もあるし‥‥いくか、アレを』
アキラの不敵な微笑みが通信機から聞こえる。
「ブリッツインパクト! よーし、がんばるぞ」
目標はスクラップの山。
シアンが起動をすると、拳にエネルギーが充填しだす。
バチバチっと拳の周りに火花が光り輝いた。
「いっけぇ、ブリッッツ、インパクトォォッ!」
グオォッ唸らせ、スクラップに光る拳を叩き込んだ。
バァンと激しく光ったかと思うと、スクラップの山が吹き飛ぶ。
「おお‥‥すごい、えあれ、エネルギーが落ちな‥‥」
『急いで切れ! 回路をカットしろ!』
アキラの声にシアンが急いで出力を落としだすも間に合わず、ブリッツインパクトを放った腕が吹き飛んだ。
「うぉぉぅ!?」
『出力が安定しないといっていましたが、これはもともとにチャージする練力を調整しないとまずいですね』
巴が冷静に判断をした。
『また次回、本格的に調整するほうがよさそうだべ』
「そうだね、大事にならなかっただけよかったかな? 腕壊しちゃってごめんなさい」
内藤の言葉にシアンがコックピット内で頷く。
それと共に整備員のほうを向いて両手を合わせて謝った。
『いいって、まぁデータはかなり取れたし、俺の腕じゃおやっさんには適わないってのもわかったから‥‥次回、機会あったらよろしくな』
整備員の優しい言葉はシアンの心に染み渡る。
夜も深まる前に、一同はラストホープへと帰るのだった。