●オープニング本文

　頻繁に戦闘が続いていた。
　本土上陸をされてしまったため、日本は特に不利な状況だ。
　ここは四国。
　ここまでもバグアに制圧されてしまうと、本州への攻略ルートが増えてしまう。
　それは防衛戦力を幅広く割かなければならないということだ‥‥。
　
「主戦力が九州にいっているから、いつまでたっても片付かないな」
「補給があるだけましですよ」
　ため息をつく隊員に笑顔と共にコーヒーを出したのは看護兵の江崎・洋子だった。
「ああ、君も休んだほうが‥‥」
　兵士が空を見上げる。
　星が瞬き、見上げた顔を野営所の明かりが照らした。
「ローテーションを組んで休んでいますから、大丈夫ですよ」
　二コリと微笑む洋子。その顔は白衣の天使そのものだった。
　だが、ガサッとという物音で笑顔が消えた。
　兵士の顔がきっとなり、手元にあった銃をもち、片手で下がれという指示をだす。
　物音は森からだった、一歩二歩とレーザーサイトを出しつつ兵士は近づく。
「ぎゃぁぁぁぁぁ！？」
　だが、別方向から叫び声が上がった。
　休憩用のテントから声があがり、狂ったリズムで銃声が続く。
「どうした！　尾崎！」
　そちらに意識を向けたのがまずかった。
　前方からブゥーンという音と共に１ｍはあろうかという黒いものが牙をむき、兵士に襲い掛かった。
「ぐあぁ！？」
　肩口を食われながらも銃を撃ち込む兵士。
　襲われている相手は、油ぎった羽、伸びた触覚。
　黒い体。
　見慣れないのは、その体表にドクロの模様が、描かれていることと、大きさだ。
「た、隊長さん‥‥！？」
　気を失いそうになるも、声を絞り出す洋子。
「君は‥‥逃げろ」
　振り払うかのように暴れる兵士。
　それでも洋子から離れていく。
「す、すぐに‥‥応援呼びますからっ！」
　何とか意識をたもち、車に乗り込む。
　奇声と銃声の鳴り響く夜の道を洋子は一気に走り出した。

●参加者一覧

●リプレイ本文

●出撃準備ＯＫ？
　現地で江崎・洋子と合流し、今回の作戦を立てることにする一同。
「暗視ゴーグルすまないな。‥‥あとで返すぜ」
「逃げたジープに残っていたものだけですけれど、使えるはずです」
　一方、洋子からスナイパーの数だけゴーグルを貸してもらい、ライアン・スジル（ga0733）は淡々と礼をいう。
「しかし、８名の隊員野営地。５つゴーグルがここにあるということは‥‥少なくとも生存率はかなり低い可能性がありますね」
　野営地の場所などの確認を空間　明衣（ga0220）と行っていたクリストフ・ミュンツァ（ga2636）が冷たく呟いた。
　クリストフの顔は真剣そのものだが、洋子の顔は青ざめていく。
「防衛線の四国を護っている者達だ。無事に生き残っているはずだ」
　明衣は洋子の気持ちを思い、手を握る。
「銃弾よりもハリセンのほうが効果ありそうだしね」
　リズナ・エンフィールド（ga0122）も洋子を元気づけようと明衣と共に洋子に寄り添った。
「ありがとうございます、あれから一夜明けました‥‥もし、あれが黒いモノと同じなら昼間は動かないと思いますし、大丈夫ですよね」
　洋子自身も自分を元気付けるかのようにいう。
「とりあえず、地図から目星はつけた。できるかぎりでいいので、そこをメインに探して欲しい。囮の方は派手にな」
　地図に野営地の場所、隠れれそうな場所、潜伏してそうな場所などを記しつつ明衣は皆に向き直りいいだした。
（「普通のＧなら‥‥これが効くんですけどねぇ。キメラになると‥‥効果があるのかどうかぁ。だめもとですぅー」）
　作戦会議の片隅で、幸臼・小鳥（ga0067）こっそりと家庭用洗剤を瓶につめて準備する。
　気づけば日は西に傾きだしている、作戦開始だ。

●囮に踊り出る乙女達
　再び夕暮れがやってきた。
　『ヤツ』が襲ってくる‥‥３人の隊員はテントの中で倒れ、かろうじて一体『ヤツ』を倒せた。
　光が苦手なのか、傷つきながらも野営地に戻った坂本隊長の手当てを済ませ、斥候に長岡曹長をださせた。
　長岡が一歩二歩とＳＭＧを携行しつつヘッドランプで周囲を照らしつつあるいた。
　ジャングルブーツが落ち葉を踏む音だけしか長岡には聞こえない。
　日が山陰にかくれ、明かりは長岡のヘッドランプだけになった。
　小さな丸に照らされたところだけが長岡の世界のような気になる。
　ガサササッという物音に、グルッと銃口を向けた。
　カサッ。
「そっちかっ！」
　背後からなった音に銃口を向けた。
　だが、それは間違っていた。
　ブゥゥーンッ！という羽音が長岡の耳に近づくように響く。
「伏せてっ！」
　音ではなく声が聞こえ、信頼できるそちらへ従うもタイミング遅く、長岡は背中へ体当たりをうけた。
「はぁつ！」
　『ヤツ』に対して声の主は掬い上げるように蹴り上げ、両手の爪によって叩き落とすという荒業をやってのけていた。
　体当たりをうけ、転がりながらも長岡が見たその姿は蒼髪をした戦乙女そのものだった。
「大丈夫？」
　暗視ゴーグルをつけたリズナは長岡に肩をかし、ハンドガンでゴキメラを牽制しだした。
　ロッテによって弱ったゴキメラはハンドガンの攻撃で虫の息だった。
「えん‥‥ぐん？」
　銀色の髪の女性が長岡の答えに頷き、覚醒し、蒼髪になったロッテ・ヴァステル（ga0066）が二人のほうへやってきた。
「私ははリズナ、彼女はロッテよ。負傷しているようだからとにかく戻りましょ‥‥！？」
　長岡に肩を貸そうとした、リズナ。
　しかし、長岡の背中はゴキメラにかじられ、心臓まで食い破られていた。
　先ほどが最後の言葉だったのだろう。
「ものすごい速さで敵がきているわ、４匹‥‥二桁でないところが逆に不気味だけど」
　その姿に硬直しているリズナにロッテは別のゴキメラが自分達の方へきていることを伝える。
「別ルートできている可能性もある。野営地まで戻って、そこで決戦‥‥これ以上の犠牲は出させない」
　リズナはそうつぶやき、蒼髪のロッテと共に野営地へと戻るのだった。


　
●本陣設営、要救助者確保
　一方、暗視ゴーグルをつけたスナイパーたちは救助者の捜索にでる。
　また、腰のライトを用意していた御山・映（ga0052）と明衣は本陣の設営のため野営地へときていた。
「早速、要救助者発見か‥‥御山殿、手当てを」
「了解です」
　明かりをともし続けた野営地は壮絶な戦闘を繰り広げられたことがわかるほどにぐちゃぐちゃになっていた。
「広さは申し分ない。多少手入れは必要と‥‥」
　誰にともなくつぶやき、明衣は作業にかかる。
　映は映で、野営地の奥に座り込んでいる人物の手当てにかかった。
　応急処置を自分でしてはいたようだが、包帯はすでに赤く染まっている。
「今、手当てしますからね」
「江崎君が要請してくれた『能力者』たちか‥‥こんな姿をしているが、本野営地の指揮官、坂本少尉だ」
　坂本は動く手で弱弱しく敬礼をした。
「坂本殿、すまないが確認できている被害状況や敵の生態を教えてもらえないかな？」
「光は苦手なようだ。この野営地に逃げ込むと食い付きを離して逃げたし、朝から昼の間は寄ってこなかった‥‥あと、テントのほうは３人が寝ていて襲われたので全員やられた」
　坂本はテントのほうを眺め悔しそうに頭をたれた。
「じゃあ、あのテントは‥‥」
　中身を想像して映はぞっとした。
「ボクも２名救助してきました」
　月森　花（ga0053）が隠密潜行を解除し、現れる。
「私の方もぅ〜、発見しましたぁ〜、怪我が酷いですぅ〜」
　重そうに負傷者を担ぐ小鳥の声もした。
　花達のスナイパー組が負傷者に肩を貸し、周囲を警戒しながら野営地へと集まってくる。
　めぼしをつけていたためことは上手く進んでいる。
「戦闘に入る前に手当てできる限りはしましょう！」
　映は自分にできることをと重傷者、坂本の隣へ誘導した。
「さて‥‥囮組のほうはどんなもんか」
　ライアンが眠そうにいうとブゥゥゥーンという羽音が近づいてくるのが聞こえてきた。
「早いな、暴走族くらいなんじゃねぇかあいつら‥‥」
　ちっと舌打ち、ライアンは武器とゴーグルを構えだす。
「陣を組んで迎撃体制に出たほうがよさそうですね、あと暗視ゴーグルつけている人は光を見ないように。目がつぶれますよ」
　クリストフが応じ、救護者を囲むように動き出す。
「油虫なんかに負けてられないですっ！」
　負傷者の手当てする手を早めながら。映はいい、それに能力者たちは同意するよう頷いた。
　決戦は近い。
　
●能力者　ＶＳ　ゴキメラ

　リズナが牽制射撃をしながら、ロッテと共に本陣の有効射程内へ近づいてきた。
　ゴキメラの姿が暗視ゴーグルに映る。
「ゴキ‥‥あの黒いのと似てると思うだけでも嫌なのに、あの大きさは鳥肌ものだよぉ‥‥」
　花のうめきが示すとおり、ゴキメラの大きさは１ｍ〜２ｍほどあった。
　それが４匹である。
　生で見たくないのは想像に難くない。
「ここは一歩も通さない、狙うのならば私を狙うがいい！」
　両手で抜刀し、明衣はゴキメラを挑発し、野営地内の円陣より外へとでる。
　光が薄れ、ゴキメラの寄りやすいように‥‥。
「まだ、余裕ありそうですね、手当てを急ぎましょう」
　本格的な戦闘になる前に少しでも痛みを和らげようと映は陣の後ろで重傷者の手当てに回った。
（「一匹、弱らせたのがきてないわね‥‥」）
「今は、目の前の敵を撃つ！」
　低空で飛ぶゴキメラをロッテのファングが掬い上げ、軽くあがったところを回し蹴りをし、別のゴキメラのほうへ蹴り飛ばした。
　フィールドが張られてふさがれる稲妻の蹴り。
　しかし、力はゴキメラを難なく飛ばし、ぶつけさせあう。
「電キック‥‥？」
　ぽそりとつぶやく小鳥の声はあっけにとられた皆に聞こえてはいないだろう。
　ロッテは何食わぬ顔でそのままこちらに近づいた。
「ゴキメラのミンチ‥‥みたくないですけど‥‥とりあえず殲滅はしないとですぅ！」
　弓を番え、小鳥がロッテの攻撃で弱ったゴキメラに狙いをつけた。
　その背には翼が生え、キューピッドのようである。
　甲殻の隙間を狙った鋭角な射撃がゴキメラを貫き、弱らせる。
　何かの液体をじゅぶじゅぶとだし、気持ち悪い。
「あ〜、う〜」
　小鳥にはそれしかいえなかった。
「飛行できないよう潰してみますか‥‥」
　瞳を赤くしたクリストフがつぶやき、未だ弱っていないゴキメラに狙いをつけた。
　スコーピオンの弾が撃ち込まれ、ゴキメラの一体は飛行能力を失う。
「やれなくはない相手ということですか」
　勝機はあるとふみ、クリストフは口元をゆるめ、次の弾を込めた。
「‥‥ボクもあんなかっこいい女性になりたい‥‥」
　と明衣やロッテを見てつぶやき、花は覚醒する。
「その前に、おまえらには鉛弾のえさをタップリくれてやる！」
　金色の瞳が細くなり仄かに光った腕がスコーピオンを構え、ロッテの弱らせたゴキメラの頭部へダメージを与えた。
「ギャグルゥィィィィ！」
　奇妙な声を上げ、ゴキメラはもだえる。
　気持ち悪さがいっそう際立った。
　それに同ぜず花は次の矢をつがえた。
「目標確認、ふぅ‥‥奥から殲滅する」
　手前は弱らせてはいるが、奥のほうから飛んできているゴキメラはまだ丈夫だ。
　囮組のためにも弱らせたい。
　ライアンはそう思いつつアサルトライフルに弾を込める。
　気乗りしないのが弾道に出たのか、手ごたえを感じない。
「ったく‥‥」
　弾を込めつつライアンはつぶやいた。
　ゴキメラが動きだした、特に弱ったものは捕食しようとよだれか何かわからない液をだらだらと流していた。
　ブゥゥゥンと飛び、リズナとロッテの二人に体当たり攻撃を仕掛けてきた。
　長岡を葬り去った攻撃である。
「伏せてっ！」
　ロッテのすばやい判断により、リズナはかろうじてかわす。
「ありがとうございます」
　例もつかの間、リズナへ噛みいてくる。
　飢えた獣。
　だが、その攻撃には普通に対応する。
「そんな攻撃で！」
　飛べなくなったゴキメラも近くのリズナやロッテに体当たりを仕掛けるもそれを回避する。両名、噛み付きも避けきる。
　残りのゴキメラも二人を狙うも華麗に交わした。
　囮としての役割は果たしている。
「まったく、あの二人はすごいですね」
　クリストフが関心したように声を漏らした。
「醜い姿‥‥早くボクの前から消えてくれる？」
　冷淡に花が言い放ちながら、弱ったゴキメラにとどめとばかりの一撃を撃ち込む。
　ぐちゃりと、言葉どおりに弱ったゴキメラはミンチになった。
　それを鼻で笑いながし、次の獲物を撃った。口内を狙った射撃は大ダメージを与える。
「この作戦、私達がゴキメラの体液にも気をつけなきゃいけないのが盲点だったわ」
　ロッテは周りで落ちていくゴキメラに対して、苦笑しつつ現れない１匹を気にしていた。
（「逃げた？　それとも捕食？　なんにせよ、片付けないと離れられないわね」）
「まさに、悪夢ね‥‥」
　死骸を一瞥し、ちょうど良く落ちている一匹を狙って攻撃を仕掛ける。
　ファングによるワン・ツーが炸裂した。
　武器を通してではあるが、黒いモノを殴るのは気分のいいものではない。
「しぶといわね、これで終わりよっ！」
　二段攻撃しても生きている相手にロッテは舌をうちながら、掬いあげる止めを刺した。
「僕もこの超機械一号で！」
　治療を終え、動けるようになった映が、花たちの陣へ混ざる。
「油虫なんかぁぁぁぁっ！」
　超機械がウィンウィンとなり、電磁波が放たれた。
　その電磁波に２体のゴキメラは触覚を刺激され、大きなダメージを受ける。
「また一つ弱点発見ですね。今後‥‥を考えたくはないですが対抗策にはなりそうです」
　クリストフは冷静にそれを見届けた。
「それでは、緋焔の舞をお見せしよう。『紅蓮天舞（ぐれんてんぶ）』！」
　その宣言と共に明衣は覚醒し、緋色となった髪をなびかせ、ゴキメラへと駆け寄った。
　比較的元気に見えるゴキメラに対し、二刀流による刀舞を見舞った。
　食らったゴキメラは切り刻まれ、ぐしゃっと飛び散った。
「残りは一つ！」
　刀についた油を振り払いながら、明衣はロッテたちの陣へ混ざった。
「普通の・・・ゴキなら効くけど・・・えぃー！」
　何を思ったのか、家庭用洗剤を詰めた瓶をだし、残ったゴキメラに向かって思い切り投げ出す小鳥。
「おい、相手のフォース・フィールドに弾かれるぞ」
　ライアンが慰めともあきれとも取れない言葉をつぶやく。
　しかし、バリアに当たった衝撃で瓶が割れ、中の液状洗剤がゴキメラを侵食した。
「ギャグルゥィィィィ！」
　効果はあったようで、ゴキメラはもがきながらも息絶え絶えとなる。
「所詮、元はもとってことでしょうね」
　リズナも苦笑しながら、本来の獲物であるヴィアを抜く。
　四肢が雷光に輝き、練気が高まっていった。
「さようなら、『黒い悪魔』さん」
　それがゴキメラが聞いた最後の言葉となった。

●事後処理
　その後、長岡の遺体のあったところへロッテと捜索を予定していた人は動き、残りは怪我人の治療を施した。
　ロッテの覚醒は長岡の遺体を屠る最後のゴキメラへととどめをさしたところでちょうど切れた。
「最後の晩餐とは、優雅なものだね」
　食いかけの死体を一瞥し、枯れ木などに卵がないか探すクリストフ。
　卵や幼生体の姿はない。
「彼の遺体もあのテントへ持っていって、一緒に火葬しましょう。敵の気配は無いようだから‥‥」
　ジャケットなどで長岡の遺体とゴキメラの死体をくるみ野営地へと戻った。
　野営地では坂本がテントに油をかけて燃やしていた。
　そこにいた能力者、生存者はテントの炎を見ながら敬礼をしていた。
「長岡さんもいい？」
　ロッテが長岡をクリストフがゴキメラの遺体を持って戻ってくる。
「長岡もか‥‥俺が、もう少しまともな指揮官なら‥‥」
　涙する坂本隊長に明衣は肩に手をかけ、首を振る。
「若輩者の私がいうことではないが、坂本殿はそれでも４人の生存者をだせた。よき指揮官であったと思う」
　坂本からの返事はなく、テントの炎が揺らめく。
　戦死者の送り火として、炎は高く赤く燃え上がる。
　能力者の闘志も、また同じだ。