●オープニング本文
前回のリプレイを見る「何で、俺がこんな目に‥‥」
俺―山戸沖那―は涙目になりながら、今道のない山を登っている。
人を刺して、覚醒がとけたあとで逃げているところをUPC軍中国分隊に捕らえられ謹慎を受けた。
その後、村人の一人に刺してあった刀に俺の指紋がついていたので謹慎では無く特設軍法会議にかけられSES武器もなしにキメラ討伐を命じられた流れだ。
捕まえたUPC軍中国分隊の軍人達は能力者が嫌いだったらしい。
自分達よりも年下で、生意気なくせにエミタ適性があるからとラストホープという平和な島で暮らせるんだ。
大人にもいろいろなタイプがいるってのを俺はこのとき知る。
そして、俺の中にもう一人”誰かが”いるということもこの間の戦闘で知った。
「はぁ‥‥‥‥武器もなしで熊キメラを倒せってのも酷い話だぜ」
表向きはキメラ討伐ということだが、俺に武器は一切渡されなかった。
事故ということで殺したいのか、暴走をさけるためなのかはわからない。
『グォォォォォッ』
春先で冬眠から目覚めたような熊の声が聞こえてきた。
討伐する熊キメラらしい。
心臓が高鳴り、興奮してきた。
ヤツが出てくる‥‥俺はそう思う。
「おもしれぇ、このタケル様が倒してやるよ。クマ公!」
●ラストホープUPC本部にて
依頼を捜している傭兵達の耳に、噂話が聞こえてくる。
「ねぇねぇ、知ってる? 出雲の方で人殺しをした能力者が凶悪なキメラ退治をさせられたんだって」
「しかもその能力者はまだまだ新米らしいけれど‥‥人を殺しちゃねぇ‥‥タケルって名前らしいよ、その能力者」
その言葉を耳にした能力者の一部は急いで高速飛行艇をチャーターしに駆け出した。
●リプレイ本文
●ラストホープにて
「同行出来なかった時に限って‥‥」
水上・未早(
ga0049)は山戸沖那の担当教官でもあったため、今回の事件について悔やみ出雲へと向かう高速移動艇を本部の窓から眺めていた。
「水上さん! お久しぶりです。こんなところでどうしたんですか?」
「本部での噂話を聞いてもしかとおもって‥‥でも、私自身追及しなかったのに行ってもよかったのかなと迷ってね」
フォル=アヴィン(
ga6258)から声をかけられ水上はそちらを振り向き眼を伏せた。
「オペレーターさんに頼み込んで聞きましたけれど、依頼はでてないそうです。出雲関係のUPC軍に連絡をとったら能力者に現地にいた能力者に熊キメラ退治を頼んだ報告があったそうです」
あの手この手を使って聞き出した情報を水上に提供する。
「今思えば、私たちは沖那君について知らないことが多すぎますね。ルームメイトと話をしたら彼女も沖那君の存在は知っていたようですし」
水上は改めて、彼の存在‥‥そして、事件について考え出した。
「熊キメラについての連絡はしておきました。沖那君の変貌は異常です。手術はこのラストホープで行われたようですし、一緒に調べませんか?」
沖那を知る仲間として、過ちを犯させてしまった側としてフォルは水上に提案をする。
「断る理由はありませんよ。行きましょう、移植手術を受けた病院からあたりましょう」
水上は同意し、フォルと一緒に本部を出て行った。
●強敵(とも)を助けに‥‥
「場所は‥‥『アスラ』ん時の‥‥近くだろ‥‥とっとと行かないねぇとな‥‥」
玖堂 暁恒(
ga6985)は山道を歩きながら苦虫を噛みつぶしたような顔になる。
『前回消火作業のときに聞いた熊キメラで確定ね。高速移動艇内で連絡があったようだから‥‥』
一ヶ月近く前のことを思い出しつつかゆっくりと、リズナ・エンフィールド(
ga0122)からの無線が届いた。
「武器の携行確認できませんでしたかー、UPC軍の守秘義務は今に始まったことではありませんが〜熊退治だけでもわかればめっけもですー」
無線を受け取り。不安を抱えながらも、ラルス・フェルセン(
ga5133)は周囲を注意深く警戒する。
「問題は噂のキメラと沖那がどういう状況か‥‥」
ファルロス(
ga3559)があらゆる状況を分析しだす。
もしも、こちらで沖那と熊が戦っていて武器がない場合、空いているのはラルスの改造されたミルキアだけであった。
(「予想が外れてくれればいいが‥‥」)
策士ファルロスの懸念は当たる。
『グオォォッ!』
「がはっ!」
坂道を登りきったとき、大きな唸り声と少年のうめき声が聞こえてきた。
少年は血まみれの山戸沖那武器を持っている様子はない。
一方の熊は5mくらいの巨大な熊キメラだった。
「こちらラルス! 敵と沖那発見、援軍求めます!」
『ごめんなさい、こっちでも敵と遭遇中。結構つよいわ』
無線で連絡しつつも戦うリズナの声や、銃声や電撃が響く。
「分断戦か、仕方ないなんとかするぞ」
ファルロスもスパークマシンを構え、声高らかにあげた。
●熊キメラとの対決
「向こうも二手とは‥‥予想してなかったわけじゃないが」
ジーン・ロスヴァイセ(
ga4903)は覚醒すると、姿が若くなる。
「夕凪が無駄になったけれど、どうにかしないことには‥‥」
リズナも覚醒し、前衛を陣取った。
「とっとと倒して沖那君の援護に向かわないとっ!」
ドローム社製SMGを熊キメラに叩きこみながら、リーゼロッテ・御剣(
ga5669)は唸った。
放たれる弾丸が熊キメラに食い込むも、中々倒れない。
「少年兵を処罰で戦わせるというのも、嫌な世の中になったものです!」
元教師である北柴 航三郎(
ga4410)がスパークマシンを唸らせてダメージを与えた。
だが、近寄りつつジーンとリズナに怪力で体当たりし、ジーンは辛うじて受け止めるも大きくダメージを受ける。
リズナは避けようとしたが、その巨体にはじかれた。
「馬鹿力だね、こいつは‥‥」
血をながしつつ、ジーンは呟いた。
「受け止めて、ダメージを減らす方が楽かもね‥‥」
リズナも血をぬぐう。
「ジーンさん! リズナさん!」
リーゼが叫ぶが熊の目はリーゼに向いていた、獲物を見る動物の目。
それを耐え切り、SMGで攻撃を叩きこもうとするが熊のほうが早かった。
リーゼに近づき、鉤爪による一撃で服がやぶれ、吹き飛んだ。
「あぅ‥‥防具が意味をなしてないよ‥‥」
セクシーな肌を露出させながら、リーゼが呟く。
「こちらジーン、例のボウヤは気をつけさせな。相手はかなり強力だよ! あと、物理攻撃よりは非物理の方が効きそうだね」
ジーンは無線機に怒鳴り込んで、戦闘に入る。
「武器、あるといいけれど‥‥」
リズナは予備にもっていた夕凪を見つめるも、今は目の前の敵をにらみつけた。
●救え
「彼をやらせはしませんよ!」
覚醒し、弓をつがえたラルスが強弾撃をこめて弓を打ち込んだ。
飛んでいった矢に練力が纏い熊キメラの目に当たった。
『グガァァァ!』
眼に矢が刺さり、熊キメラがうめき声を上げ、それと共にラルスは持っているミルキアに手を伸ばす。
(「これを渡すのは少々忍びないですが‥‥」)
「沖那君、つかってください!」
ミルキアが宙を舞い、転がる。
それに触れた手がミルキアを握って立ち上がった。
「オレ様はタケルだ!」
血まみれになりながらもまだ動けている。
だが、瀕死なのは明らかだった。
「おれはヤツを手当てする。熊のほうを頼むぞ」
矢が刺さっていない方の眼をファルロスがシグナルミラーの光を当てて、動きを止めタケルのところへ駆けて行く。
怪我の状況は酷く治療に専念しなければならないだろうとファルロスは感じた。
「しぶとさは、一級品だな‥‥え‥‥?」
瞬天速でファルロス達の前に立ちはだかり、玖堂はタケルに向けてニヤリと笑った。
「くそったれども、武器さえ持っていればオレだけでなんとかなった‥‥」
ミルキアを杖のようにして立ち上がろうとするタケルを制して、玖堂は首を鳴らし腕をふって熊キメラに向かう。
「てめぇが逃げている間こっちは修羅場くぐってきたんだ。それを見せてやるぜ」
立ち直ろうとした熊キメラに玖堂が飛び掛り、矢の刺さっていない目を急所突きで貫いた。
『フグォォォォォッ!』
熊キメラは両目を失い、暴れだす。
「おら、もう‥‥一発ある、ぜ!」
振り払われないように捕まりながらもう一発、玖堂が拳を叩き込んだ。
だが、今度は暴走した熊キメラに吹き飛ばされる。
「これなら闘いが楽になりそうですね」
ラルスが弓をつがえ、体勢を保った。
闘いは有利に運んでいるが油断はできない状況だ。
理性を失ったものがどれほど恐ろしいのか、治療を受けている少年を見て知っている。
●エミタの真実
「山戸沖那さんに移植されたエミタは戦地でなくなられた能力者の方のものようですね」
手術を受けたのは未来研究所管轄の医療施設だった。
その後病院に移されたとのことである。
「覚醒症状ですが、これは個人差がありますよね? 移植してすぐの能力者が戦闘慣れしているような動きをしたりするのでしょうか?」
フォルは医療施設の担当員に時間を割いてもらい、会議室のようなところで話を聞いてもらっていた。
「基本的にはないはず、です‥‥ただ、エミタには戦闘記録が残されます。どんな闘いをしてきたか、どういう戦闘が得意だったのかなどですね。普通は移植されるときに消去されますから」
担当員はそう答えた。
「ありがとうございました、お手数をおかけしてもうしわけありません」
フォルは深く礼をしてから、椅子に座りなおす。
「沖那君に関しての情報、調べれたわよ。個人情報だったから親戚とか嘘をつきましたけれどね」
水上は舌をぺろっと出して、能力者の個人記録と出自に関する資料をだした。
「本当の生まれははっきりしていないですか、出雲に渡されて縁者はいるようですが行方不明‥‥ここまで謎過ぎる少年をどうして老夫婦が預かったのかが逆に気になりますね」
フォルは資料をめくりつつ、情報のない項目の多さに面クラっていた。
「そちらの調べはどう?」
「どうやら、エミタには今までの戦闘記録を保存する機能があるようですが、再移植には初期化されるそうです。そして、沖那君に移植されたのは死んだ能力者から回収したもの‥‥」
フォルは両手を組んで頭を乗せ、つぶやく。
エミタに適正する人間も少なければ、エミタ自身も貴重である。
能力者に移植し、力を発揮できるものは特に‥‥。
「死んだ能力者から回収したもの‥‥これから増えていく人たちもそういうことがなされているのね」
水上は冷静に考えていた。
エミタが希少である以上、大規模作戦で出た死者のそれを使って新しい能力者が生まれてくるかもしれない。
自分達の力とは、そうして作られて保たれているかと思うといい気分はしない。
「現地の人たちに連絡を取りましょう。沖那君の養父母さんにあってどうするかという事も含めて‥‥」
水上とフォルは通信できる場所へ移動をしはじめた。
●本当の『たたかい』
戦闘を追え、合流した二班。
ファルロスで怪我を程ほどに治して、沖那から住所を聞いて移動をしだす。
「なぁ、山戸‥‥お前、昔事故とか‥‥なんかに‥‥あったことはないのか?」
近くの村からUPC軍中国分隊の車を呼び、その荷台で玖堂は意識を取り戻した沖那に聞き出す。
「わかんない‥‥だけれど、出雲に来たのは6つくらいのとき。それ以前のことは良く覚えてないんだ‥‥」
沖那は弱弱しく答えた。
人を殺してしまった罪悪感と、武器を持たさずに戦いに出された恐怖心に支配されている。
そんな風に玖堂には見えた。
「沖那君はタケルと名乗っていたときの記憶はあるかい?」
北柴は聞きづらいことではあるが、教師としての性か聞かずにはいられなかったことをたずねる。
「ある‥‥自分の中にあるバグアへの憎しみが表にでたようなそんな感じがした」
ゆっくりとつぶやくように話す沖那の言葉を北柴はじっと聞いていた。
「私もよく自分の力に悩んでる‥‥自分が自分でなくなっていくような気がして‥‥だから、沖那君。今からでも遅くないよ。力ってなにか、もう一度みんなで一緒に考えていこう?」
北柴や、ジーンにはわからないいつものように元気のない沖那に対してリーゼが優しく言葉をかける。
「私たちも貴方の事が心配で、依頼にでてなくてもこうやって駆けつけたのよ? 貴方は一人じゃないわ。とりあえずこれをもって中国分隊で任務完了の報告をしてあとで返してくれればいいから」
リズナは夕凪を沖那に握らせるも、夕凪を持つ手が震えているのが傍目にも判った。
中国分隊の駐留所につき、沖那の事を話すと、一部の人間による独断の軍事裁判であることがわかり、上官が謝罪をする。
「本件については申し訳ない。しかし、タケルと名乗った少年が人を殺してしまった事実はある。正式な処分は検討しなければならない。今後同じことが起きないためにも」
上官の軍人は厳しい眼で能力者たちを見回した。
「すぐに結論はでないだろうが、今回は山戸沖那の身柄を拘束させてもらう。君達からも詳しい事情を聞いたのち、一度帰ってもらう」
その言葉に、能力者は頷きあい駐留所の中へと入っていく。
キメラとは違う『たたかい』の始まりだった。