●オープニング本文
前回のリプレイを見る 三月某日。島根県出雲市出身の新横綱が誕生した。
御名方(みなかた)部屋の力士で、四股名を『国津建(くにつたけ)』という。
臨時の首都・大阪で行われた大阪場所を終わった数週間後、相撲協会の協議の結果、近畿、中国地方の一部で春場所巡業が行われることとなった。
春場所巡業の最終地は、島根県出雲市にある出雲大社内の一角。
中国・四国地方は、本来は申請しても本来は秋巡業地となるが、現在のところ人類統治はかなっているものの、頻発するキメラによる事件と不足する戦力によって地域社会は崩壊の一途を辿っているため、人々に勇気と希望を与える、娯楽の一環として相撲協会とUPCが特別に許可し、出雲大社内での巡業が執り行われることとなった。
UPC兵士、能力者達がキメラ出現に備えて警護にあたるというのが条件であるが‥‥。
●なつかしの故郷へ
「山戸・沖那。訓練課程を修了し、実戦任務についてもらうぞ」
能力者へのガイドラインを渡してきた軍人が、再度俺の前に顔をだした。
ラスト・ホープで訓練をしながら、簡単な何でも屋のような仕事をしていた俺にとって嬉しい話。
どこか物足りなさを感じていたため、尚更だ。
「はい、場所はどこでしょうか?」
叩きこまれたおかげか、俺は無意識に敬語を使い敬礼をする様になっていた。
「喜べお前の故郷、島根の出雲市だ。横綱が来て春巡業をするらしい。そして、バグアの動きがあることも連絡を受けている」
厳つい軍人の顔が少し微笑んだように見えた。
「了解しました。周辺地域の偵察及び、障害の排除ということでしょうか?」
ここまで丁寧に質疑応答ができるなんて、人間変わるものだと俺自身感じる。
「そういうことだな。なお、前回の教官及び訓練生にも打診してパーティ(隊)を組んでもらうようにする。連携は一朝一夕でできるものではないからな」
「あの人達が‥‥」
俺は一月ほど前の記憶を呼び起こし、首からさげているロザリオを握った。
「周辺地域で見られたキメラの写真だ、能力まではわからないが参考にするといい」
そういって軍人が俺に手渡したのは、六本の腕が生えた少年のようなキメラだった‥‥。
●リプレイ本文
●一言
高速移動艇がラスト・ホープから飛び立ち、日本の出雲へと進路を向けていた。
その中では図書館などから集めた日本の神話や仏教の資料を任務に向かう傭兵達は読んでいた。
もっとも、気になるのは敵だけではない。
「よう、山戸‥‥お互い、くたばって無ぇようで‥‥何よりだな」
離陸が終わったあと、シートベルトを外した玖堂 暁恒(
ga6985)が山戸・沖那の肩に手を置き、クククと笑っていた。
その視線はいつもの興味なさげなものではなく、ライバル心のようなものが見え隠れしている。
「そのようだな、あんたと一緒で嬉しいよ」
その意図を理解するも硬い笑みで沖那は答えた。
「お久しぶり〜♪ 沖那君の為にグラナダから全速力で飛んで帰ってきたわよ♪ 初めての実戦、頑張ろうね♪」
「グラナダって、どこだ?」
リーゼロッテ・御剣(
ga5669)は依頼のハシゴをしてきたことを沖那に伝えるが、今まで海外に出た事の無い沖那にはグラナダがわからない。
「ヨーロッパのこの辺」
「わかんないって」
リーゼは空中に地図を指で描き、場所を指差すも抽象的すぎてわからなかった。
だが、おかげで緊張がとけたのか沖那は普通の笑顔を取り戻す。
「はじめての実戦ですけど、緊張は取れたようですね」
「ああ、先生。久しぶり」
微笑みながら優しく声をかけたのは蒼羅 玲(
ga1092)だ。
先生と沖那が呼んだのは玲から指導を受けたからである。
しかし、挨拶も早々玲の顔はキッと真剣になった。
「多くは言わないですけどこれから言う事だけは守ってくださいね? 『無理や無茶はしない』『焦らない』、そして『誰が相手でも敵に対して躊躇わない』」
頭二つくらい下の少女である玲だが、放つ気配は数々の戦場をくぐりぬけてきた精鋭である。
「あ、ああ了解。先生」
沖那は了承し、玲の頭を撫でる。
「だから、もっと尊敬をですねー!」
不服を玲は示しつつ、高速移動艇は現地へと進む。
だが、この言いつけが後の騒動への発端となってしまうのだった‥‥。
●作戦会議
「写真に写っている人影に見覚えは?」
現地近くの村に着くと井筒 珠美(
ga0090)は村の住民に聞き込みを行っていた。
「もしかしたら〜山火事のー恐れもありますのでーいつでもできるよう用意していただけるとありがたいですね〜」
道中に調べていたアスラ‥‥すなわち仏道の阿修羅神のことを考慮して、ラルス・フェルセン(
ga5133)は村の住人に火への対策を呼びかけた。
「もっとも、そうさせないのを目指すべきかな」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)はタバコが吸えないことを惜しみつつも、最悪のケースを避けたいと思っている。
「そうならないためにも作戦を練りましょう」
無線機を持ってきたフォル=アヴィン(
ga6258)はUPC中国分隊に消火要請をしていたリズナ・エンフィールド(
ga0122)達を呼び出して作戦会議を始める態勢を整えた。
「作戦は二手に分かれて周辺捜索。地形として森は避けれないし少数おびき出して倒すか、この村まで追い込んで戦うかのどちらかだな」
”冷淡なる策士”ファルロス(
ga3559)が村の人からもらった地図を手に作戦案をだす。
「目的調査というのがーありますーが、この辺の史跡も〜探る必要がありそうですーね〜」
ラルスもファルロスに同意しつつ、めぼしいポイントを指差す。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
いつもとは違う緊迫した作戦会議にうずうずとしている沖那が顔をだしてききだす。
「あなたには消火活動のをメインにやってもらうわ。私達でさえまだ遭遇した事の無いキメラだもの。実力がわからない相手と貴方を戦わせるわけにはいかないわ」
沖那をなだめるかのようにリズナは優しく声をかけた。
「そういうことだ。玲がサポートにつくから、戦闘が起こったときは一緒に対処してもらう方向だ」
ファルロスが玲に視線を投げかけ、玲は頷きと共に答えた。
●分担捜索
B班であるホアキン、玖堂、ファルロス、リーゼ、フォルは森の中を歩いていた。
ファルロスは双眼鏡を片手に人影の捜索を始めている。
「まさか‥‥お相撲さんと戦うためにやってきたキメラ‥‥なんてことないわよね〜‥‥?」
気になっていたことをリーゼは皆に聞いた。
「あながち間違っていないかもしれないな。相撲の起源は建御雷神と建御名方神の力比べと調べた本にはあった」
ホアキンがリーゼの疑問に対し、肯定を示した。
「此方B班フォル、特に異常は‥‥ありました!」
フォル達が森を探っていると、3体の人影を見かけた。
背丈は高くないが、六本の腕で、三面ある顔は此方の存在に気づく。
「先に戦闘入ります!」
無線機をしまい、代わりに朱鳳を抜き放った。
「神のお出ましか‥‥リーゼとファルロスは援護で前衛3人で抑えるだけ押さえ込もう」
ホアキンもソードを抜き放つ。
『ドウタク、オマエラカ‥‥』
「ドウタク‥‥なんだ、そりゃ?」
アスラの放った言葉のようなものに、玖堂 暁恒(
ga6985)が首をかしげる。
3体のアスラはそのまま能力者たちのほうへ進み襲いかかってくる。
「やっぱり‥‥銃を持つと振るえが止まらないけど、‥‥今回は実戦。私は手‥‥できる!」
リーゼが覚醒し、瞳と髪の色が金に変わった。
強化されたドローム製SMGを構え、射程に捕らえたアスラに対して弾幕をはった。
放たれた弾丸を腕でふさぎつつアスラは近づく。
「戦闘は避けたかったが相手の知覚が上か、やるしかない」
強弾撃で強化された矢はファルロスから放たれ、アスラの頭部に刺さった。
その一撃でアスラは弱る。
「阿修羅‥‥闘争の神ってか‥‥? ご教授願おうかね!」
弱ったアスラに後ろ髪を鉢巻で締めた玖堂が氷雨でとどめを指した。
「後ろからきてるぞ!」
止めを刺した玖堂隣に別のアスラがあらわれ六本の腕を炎でもやした。
それをふさごうとフォルが朱鳳を抜いてアスラに斬りかかり、胴を切り裂いた。
だが、それが発端となたのかアスラの全身が赤くなる。炎を纏った6本の腕が玖堂とフォルを同時に狙った。
ドドドンとい連続攻撃に、二人は押された。
特に玖堂は大きく火傷をおう。
「くそっ‥‥たれ」
玖堂はひざをつき、氷雨を地面にさした。
「悪いがもう一人いる」
ホアキンの流れるような斬撃により一体のアスラは倒される。
「まだ2体いるが、村の方に寄せつつ戦うぞ、玖堂歩けるか?」
「冗談‥‥コレくらい‥‥へでもねぇ」
ファルロスが後退しつつ、玖堂に声をかけるも玖堂の火傷は酷い。
「私達が牽制していくから、さっさと倒しましょ♪」
金髪のリーゼが髪をかき上げ、後ろに下がりつつ追ってくる残り二体に対してSGMを連射していく。
「まったくだ」
ファルロスも次の弓を番え放った。
「倒すなら反撃させないように一気に!」
瞳が蒼になり、頬に傷をつけたフォルがリーゼとファルロスの攻撃で弱ったアスラ達を力強い一閃により刻んだ。
『ドウタク‥‥サルタヒコ』
死に際にアスラが謎の言葉を吐いた。
「こちらは3体を片付けた‥‥玖堂が負傷したので治療してから合流します。ドウタクとかサルタヒコとかいっていました。あとは‥‥」
フォルはファルロスが治療している間に無線で別の班に連絡を行った。
●異変
A班 玲、リズナ、井筒、ラルス、沖那
「銅鐸に〜サルタヒコですか〜」
連絡を受けたラルスは複雑な顔をする。
サルタヒコは神を迎えるために東海地方からやってきたとされていた。
「退屈だー」
沖那の方はせっかくの実戦というのに動けなくて不満そうである。
(「彼の実力は申し分ないと思うのですが‥‥不安なんですよね」)
ラルスはモヤモヤを抱えつつ、周囲を探る。
すると、『KeepOut』で区切られたエリアにたどりつく。
「あれー?」
「ごめんなさい、ここはUPC中国分隊のほうで警戒しているキメラがいるエリアなんですって」
「ここがアスラの巣とかじゃないんでしょうか?」
リズナの補足に玲が聞き出す。
「うわさによれば熊のようよ。冬眠にはいっているようだからここから出てくる事もないし、巡回しているUPC軍人もいる」
リズナが消火要請のときに聞いたときに小耳に挟んだ情報を提供しだす。
「此処に隠れているという線は薄いか。一度村に戻ろう」
「腹も減ったしな」
井筒が一度考え撤退することにする、それに沖那も同意を示した。
山道を降り、村にいくと2体のアスラがいた。
アスラ達が何かを探すかのように村を歩き、家屋を破壊しいく。
住民が逃げ惑い、悲惨な光景が広がっていた。
「ドウタクを捜しているのでしょうか?」
冷静に様子を見ていた玲が沖那を見上げ声をかける。
「キメラが‥‥村を‥‥」
沖那は俯いたた様子でつぶやき、力をみなぎらせていった。
「沖那君?」
不安な様子で玲がたずねた。
「オレ様は沖那じゃねぇ『タケル』だ!」
顔を上げた沖那の顔は狂気に満ちている。
「本当の覚醒ですか‥‥皆さんは非難誘導しつつアスラを玲さん、リズナさん沖那君をよろしく」
ラルスはそういってアスラへ向かう。
「アイツはオレ様の獲物だっ!」
狂気の沖那がアスラに向かって駆け出す。
「沖那君!」
「この子はっ!」
「いったよなぁ! 『誰が相手でも敵に対して躊躇わない』って!」
沖那‥‥いや、タケルと名乗る少年は刀を抜き、豪力発現を込めた斬撃を当てる。防御していた玲を力任せに吹き飛ばした。
軽い玲が家屋の壁にぶつかりがっくり項垂れる。
実戦経験をまったく積んでいない能力者としてはありえなかった。
「うそっ!?」
リズナは驚くも2体のアスラが村を燃やしだし、子供達が逃げだしているため困惑する。
その間にも井筒とラルスはアスラと戦っていた。
「槍は防げますが、こちらはどうですか!」
超機械γにもちかえ、衝撃波と井筒の弾丸が共にアスラを倒した。
もう一体のアスラは村人の一人に近づいていた。
『ドウタク‥‥ドウタク‥‥』
ただそれだけつぶやくキメラに村人は動けない。
「最後の一匹はオレ様のものだぁぁっ! ひゃぁはっ!」
テンションが異常な沖那がそちらに全力で駆け出した。
「やめなさい!」
リズナが声をかけるも追いつけない。
それほどまでに覚醒している沖那の能力は異常だ。
「させっても、無茶もしていねぇ‥‥そして、敵に対して躊躇しねえ!」
タケルは喜ぶように叫んでキメラを刀で刺した。
だが、その後ろにいた村人も巻き添えになる。
「がふ‥‥な、なんで‥‥いたい、いたい‥‥よ」
その瞬間、タケルの覚醒は解けた。
「お、俺‥‥うわぁぁぁぁぁぁぁあ!」
刀もそのままで沖那はその場から逃げだした。
能力者たちはただ、その姿をじっとみることしかできなかったのである。