タイトル:【LC】海の見える丘でマスター:橘真斗

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/03/07 01:08

●オープニング本文


「‥‥はい、お久しぶりです‥‥その中々いけなくてすみません」
 たれ目ガチな目をさらに申し訳なくたらしてライディ・王(gz0023)は電話をしていた。
 手に持っている手帳にはいくつかの電話番号に×が書かれている。
「その‥‥バレンタインなんですけれど、そちらでイベントとかダメでしょうか?」
 尋ねてから暫く間が空いた。
 先ほどまでかけていたところは直ぐに断られている段階である。
 ごくりとつばを飲んで相手の様子を耳そばだてて聞いていると、『OK』の言葉をもらえた。
「ありがとうございます! もう5年ぶりで、中々いけてなかったからすごく不安でしたけれど‥‥答えていただきありがとうございます!」
 携帯電話で話しながらライディは電話の相手に向かって何度も頭を下げ続ける。
「では、細かいところはおいおいで。ありがとうございました」
 携帯をきり、ライディは一息ついた。
 5年前にラストホープの町中から外れた海が見える丘の喫茶店で公開録音をしたことを思い返す。
「懐かしいなぁ‥‥」
 あの頃と今とを比べると色々と変わっていた。
 友人が増え、恋人ができ、一人ではなくなっている。
 定職にもついて、収入も増えた。
「さて、本部に依頼を出してもらうようにいかなくちゃ」
 それでも変わらない楽しいひと時を作ろうという思いをもってライディはUPC本部へと向かうのだった。
 
 

●参加者一覧

/ ハンナ・ルーベンス(ga5138) / シーヴ・王(ga5638) / ラウル・カミーユ(ga7242) / 宵藍(gb4961) / ビリティス・カニンガム(gc6900) / 村雨 紫狼(gc7632

●リプレイ本文

●綺麗な星空の下に集う
「結構長く乗ったなぁ」
 駅から降りた村雨 紫狼(gc7632)が伸びをしながら肩を鳴らす。
 ラストホープの中央区画からチューブトレインでいける場所と聞いてはいたが、そこは終点から数えた方が早かった。
「街から遠いぶん、星空が本当に綺麗だな!」
 紫狼の隣で日が沈み、夜空となっていく姿をみたビリティス・カニンガム(gc6900)が愛らしい外見に似合わない乱暴な口調ではしゃぐ。
「ビリィも星に負けないくらいに輝いているぜ」
 グッと親指を立てて突き出しウィンクをする紫狼。
 シャツには「俺がロリコンだ」と堂々と書かれていて、冗談ではなく本気らしことが伺えた。
「へへっ、ありがとよ。紫狼みたいな旦那がいて幸せだぜ」
 ビリィはそばかすのある頬を緩ませ、ダイヤの指輪がはめられている手を紫狼に絡めて、海辺の方へと連れ出していく。
「幸せそうな人がいるのはいいものですね。平和になった証‥‥でしょうか」
 駅を出て二人を見送っていたハンナ・ルーベンス(ga5138)が柔らかな笑みを浮かべた。
 そして、見守ってきた別の夫婦を見る。
 紅い髪の少女と黒い髪の青年だ。
「海の見える丘‥‥ライディと二人、同じ毛布にくるまって月を眺めた、ですね」
 シーヴ・王(ga5638)が5年前の思い出を口にして隣のライディ・王(gz0023)をチラチラと見上げている。
「懐かしいよね。あの頃は本当に手探りで色々やっていた気がするよ」
 苦笑を零すものの落ち着いた雰囲気が漂い、頼もしくハンナには映った。
「さぁ、ラジオの準備をしにいきましょう。ご挨拶もしたいですしね」
 二人の肩を軽く叩き、ハンナは二人を促す。
「シーヴもサブパーソナリティ、できたらしたい‥‥です」
「じゃあ、久しぶりにお願いしようかな?」
「まかせやがるがよし」
 二人のやり取りをみていたハンナは懐かしさを感じていた。
 ライディのラジオを幾度と手伝ってきて、その希望の風が人々に勇気を与えていた日々を‥‥。

●放送準備なう
「確か、シーちゃんとライライは公開ラジオイベントが馴初めなんだヨネ? そゆ意味では、二人の歴史とも言えるのカナ」
「俺はアイドルマネージャーとしてのライディと会うことがほとんどだったからな‥‥あの二人の馴れ初めもそうだったのか」
 ラウル・カミーユ(ga7242)の呟きに宵藍(gb4961)が興味を向けた。
 20人程度が入れる喫茶店の一角に簡易放送ブースを作ったりしているライディをラウルはビデオカメラで撮影している。
 男同士で席を囲んでいるのはこの二人だけだ。
 バレンタインということもあり、普通の御客もちらほらとみえるが大体カップルである。
「仕事以外でライディがパーソナリティやってるの見るのは初めてだな」
 いつもとは違う友人の姿を宵藍は見守ることにした。
 ブースもでき、原稿を確認している間に喫茶店のサービスで一杯の紅茶と手作りチョコパウンドケーキが置かれる。
 香り豊かな紅茶からは湯気が立ち、鼻腔をくすぐってきた。
「美味しそうだ。こうやって紅茶とケーキを食べながらなのは贅沢だな‥‥今後もやってもらいたいよ」
 ふんわりと柔らかさがフォークから感じるケーキを口にして宵藍は一息つく。
「スイーツは癒しだネ♪ お代わりを後で頼もう。他のケーキも食べれるのカナ?」
 ラウルも撮影を一旦置いてスイーツに集中していた。
 目的が微妙にかわっているのが不安であるが宵藍はあえて口にすることなく、放送が開始するのを見守るのだった。

●ON AIR
『ライディ・王の『Wind Of Hope!』 こんばんは、本日はバレンタイン公開録音としてある喫茶店にお邪魔しています』
『こんばんわ。サブパーソナリティを勤めるシーヴです。お久しぶりのリスナーもいるかもしれませんがよろしくお願いします』
『バレンタインに関するお便りも沢山頂きました、ありがとうございます』
『ありがとうございます。今日の会場にもカップルのお客さんがチラホラ見えますね』
 ライディとシーヴが隣り合って座り、一本のマイクに向かって軽快なやり取りをしている。
 久しぶりとはいえ、シーヴもライディとのやり取りについていっていた。
 音声の調整や原稿の整理などはハンナが受け持ち、近くの席で様子をみながら合わせている。
『寒い日々がまだ続いていますが、このお店の暖かい紅茶で体を暖かくし、僕の番組で心も温かくしてもらえたら幸いです』
 ライディの顔も笑顔が多く、心から楽しんで番組をやっているのが誰の目にも明らかだった。
 
***
 
 放送が流れている中、海の音の方が大きく聞こえるあたりで月明かりに浮かんだ一つの影がある。
 ビリィを肩車をしている紫狼だ。
「な、あれがオリオン座だぜ? あっちに見えるのが南十字星ってヤツだぜ」
「ビリィはよく知ってるな」
 太ももでガッシリ顔を挟まれている紫狼はにやけそうになる顔を保ちつつ歩く。
「紫狼、バグアの遺した恒星間航行可能な宇宙船ってのを見付けたんだよな? もし‥‥紫狼が外宇宙行くっていうなら‥‥あたしもついていくぜ! もう、絶対に離れたくないからなっ!」
 ギュウッと太ももで挟む力が強くなった。
 不安の表れなのは直ぐに分かった。
「ごめんな、ビリィ。火消しで方々回っていて寂しくさせてさ。でも、大丈夫だ。俺は外宇宙にはいかないぜ」
「え、ホントなのか?」
 立ち止まり、ビリィの顔を見上げる紫狼と目を合わせるように彼女は顔を覗く。
「俺はさ、この戦争で多くの家族が離散し不幸になってきたのを見たからお前や、俺とお前の子がおんなじ不幸を受けないように地球を平和にしていきたいんだ」
「くっそ、あたしが言いたいことを先に言いやがって! 子供沢山欲しいな! 頑張ろうぜ!」
 冷たい風が火照る体にほんの少しだけ気持ちよく思えるビリィだった。
 
***

「へー‥‥いい顔してるじゃん」
「ホント、仲イーよねー。で、シャオべぇの‥‥彼女って‥‥どんなコー? 可愛‥‥いい? シャオべぇより、可愛い?」
「つーか、食うか話すかどっちかにしろよ!?」
 放送を行っている最中にスイーツをリスのように頬を膨らませて食べるラウルに向かって宵藍はジト目を向ける。
「で、どうなのさー?」
 ごっきゅんと咀嚼してからラウルは今一度尋ねた。
「‥‥俺より背高いし、実年齢は下だけど俺の方が童顔だけど‥‥別にいいだろ」
 ぷーっとむくれる宵藍の姿がますます可愛いとラウルは内心思ったがあえていわない。
『では、次のお便りです。バレンタインの思い出には色々あるようですがこの方はどうなのでしょうか?』

――
彼女とフランスに旅行に行った時、ドレスアップした彼女に目を奪われた
そしてスーツを着てても
「身分証明書持ってた方がいいと思います」と言われたことに、全俺が心で泣いた
それでも大好きな人と過ごせたバレンタインは、幸せな思い出
これからも積み重ねていく未来予定図
――RN:ちまレッサー

『童顔とまではいいませんが、僕も若く見える方ですね。ちまレッサーさんも苦労されているようですが、幸せなら一番ですね』
『最近はとても頼もしく見えますよ』
『ありがとうございます。ようやく実年齢に追いついてきたかなと思っています。バレンタインの思い出といえば、僕としてここでの公開録音が一番の思い出ですね』
 ようやくゲリララジオ放送局として動きが定着してきたときに放送をしたとか、カップルを誕生させたとかそういったライディの話が続く。
『色々ありましたね。それでは、次のコーナーに行きたいと思います。「こんなバレンタインは嫌だ」』
『いい思い出もありますが嫌な思い出、もしくはこうなって欲しくないことってありますよね。僕は一人寂しいバレンタインは嫌です』
 きっぱりと言い切れるようになっただけ成長したなとラウルは思いながら、ビデオカメラによる撮影も再開していく。
『最初のお便りはこちらです』

――
甘いスイーツの代わりに、激辛食品を山ほど渡される
しかも請求書付
愛妹カラだったら我慢するケドね!

――RN:銀の野良猫

『辛いものが苦手でも愛があればなんとかなるんですね‥‥』
 ライディの顔が苦笑を浮かべてる。
『請求書までつけてきそうな人物に心当たりが凄くあるのですが‥‥』
 シーヴの視線がある人物にチラッと向けられたが、当人は視線をかわして口笛まで吹いている。
 ライディは苦笑をしながら、トークの話題を切り替えた。
『僕自身は嫌なバレンタインは来ることがなさそうなので一安心しています。そんなバレンタインに因んだ一曲をお届けしましょう‥‥』
『その前に一つだけ、メールを紹介しようと思います』

――
旦那が仕事で帰ってこない
――RN:紅の炎さん
 
 マスターからサービスで貰った紅茶をライディは思わず噴出す。
 放送では映像にして見られないのが残念なほど、動揺していたとその場にいた誰もが告げていた。

●愛のカタチ
「もう一つ、ビリィに言っておかなきゃならないことがあったぜ」
 肩車をしたままの紫狼が懐からゴツゴツした石のようなモノを取り出す。
 赤茶けてる上に一部がかけているので隕石のようにも見えるものだ。
「なんだよ、それ食べてなかったのか」
「一口だけ齧ったんだけどな‥‥残りは腐らないように未来科学研究所で永久保存の改造をしたんだ。すまない!」
 顔を伏せて謝っている紫狼の前へと、ビリィは肩車から降り立った。
 そして、振り返りそばかすの似合う笑顔を浮かべて紫狼を見上げる。
「いいっていいって大切にしてくれてありがとな! そんな岩チョコでもお守りくらいにはなってるようだしな」
 そう、紫狼が持っているのは去年のバレンタインにビリィが作ったチョコなのだ。
「本当にお守りになったぜ。俺の中にあった暗い感情。平和のためじゃなくて暴力を好きなように振る舞いたいっていう気持ちを鎮めてくれたのはこのチョコなんだ」
 顔をあげた紫狼はビリィの目をまっすぐ見つめる。
 ビリィも澄んだ紫狼の目を見つめ返して、照れ臭さそうに鼻の下を指でこすった後で、ランドセルの中からラッピングされた箱を取り出した。
「そいじゃあ、今年はちゃんと食べれるプレゼントだぜ!」
「今年も作ってくれたのか? あけてもいいよな?」
「もちろんだぜ」
 箱を受け取った紫狼がラッピングをほどくと、ビリィと紫狼が抱き合い口づけをかわしている姿を象ったレリーフが目に入る。
 綺麗に細工されていて、彼の持っている隕石チョコから目覚ましい進歩を遂げていた。
「名付けて『エターナルラバーズ』。ずっと一緒だぜ、紫狼」
「ありがとう。でも、これはこれで別の意味で食べれないぜ‥‥だから、ビリィをたb‥‥」
 何かを言おうとした紫狼の口を背伸びしたビリィがふさぐ。
 チョコのように二人はそして抱き合うのだった。

 ***

『最後のコーナーは「バレンタインだからこそ言いたい一言」です。このコーナーには多くのリスナーからメッセージが届いていますので、ずらっと紹介しようと思います』
 曲を流し終え、気分を切り替えたライディはハンナがまとめてくれた原稿にあるメッセージとパソコンで現在進行形で集まってくるメッセージをシーヴと分け合って紹介をしていく。

――
結婚して数回目のバレンタイン。大好きや愛しているはたくさんいったけど、
それでもこの日は貴方の誕生日の次くらいに特別だから

愛しています――と、永遠を誓わせてください
――RN:紅の炎

――
最愛の婚約者へ
遠く離れてても、僕らはいつも一緒デス
刻む時間は手を取る日へのカウントダウン
愛してる‥‥シンプルだけど、この言葉を贈るヨ
――RN:銀の野良猫

――
お前より背が低くて、童顔で、女にも間違われるけど
それでも一生守っていく
――RN:ちまレッサー

 この他にも中華料理店を経営している人からいい男を捕まえた報告や、ウェスタン酒場の女性オーナーからバレンタイン公開録音の祝辞もあった。
 放送で結ばれた『絆』が見える瞬間である。
『本当にたくさんのメールありがとうございます。皆さんのバレンタインの想いが届いてくれると嬉しいですね』
 感極まって泣きそうなのを堪えて、ライディは放送を続けていた。
『最後にこちらのメールを読ませていただきます』
 そんなライディを補佐するようにメールをシーヴが読み上げる。

――
聖バレンタインが私達に示された勇気と、信念が
リスナーの皆様の、心の糧となりますように
――RN:マリア

 勇気を貰ったことで伝えられた愛。
 カタチは違えども一途な想いがそこにはあった。

●星を見上げてみれば
 つつがなく放送は終了し、終電までの時間は夜空の星を誰しも眺めていた。
 抱き合っている紫狼とビリィ、寄り添って手を握りあうライディとシーヴなど、カップルが多い中で浮いているのはラウルと宵藍である。
「何で僕らは男同士で並んでいるんだろうネ」
「ちょっと前に京都でも似たような話をした気がするな‥‥」
「そういえば、そうだネー。友情を育むのもいいじゃないカ」
 お互いに視線を合わすことなく、吸い込まれそうな夜空を見上げていた。
「本当に赤い月はなくなったんだな」
「ずいぶん前から金色の月になっているのに不思議な気持ちになるヨネ」
 もっと前は赤い月なんてなかったはずなのに、今では赤い月がない方が居心地悪いようである。
「まだ各地に戦いは続いているし、完全には実感わかないんだが‥‥」
「僕もシャオべぇもちゃんと相手がいるんだしサ。しっかり、幸せにしてあげよーネ。 男だし!」
「なんで男という部分を強調したんだ。言われなくても支えてくれている分答えないとな。傭兵アイドルとして復興にも携わって行くし」
「では、シャオべぇの可愛いアイドルライブもビデオで撮りにいかなくちゃね。完全保存版デスヨ。晴れ姿を彼女さんにも送ってあげないといけないしネ」
 キュピーンとラウルは面白いイタズラを思いついた子供のように目を光らせた。
「それは断る! やるなよ、絶対にやるなよ‥‥というとやるよな、お前!」
「シャオべぇもようやく僕の事をわかってきてくれたんだね。うんうん、おにーさん嬉しいよ」
「同い年じゃん!」
「同い年でもチューとか済ませている分、おにーさんなんだよ」
「確かにしてないけど‥‥って何をいわせるかっ!」
 二人はその後もじゃれ合う一時を過ごしたのだった。

●未来のこと
「ようやく未来が考えられるです‥‥」
 ラジオ放送のときとは違う普段の口調でシーヴが小さく呟いた。
「未来か‥‥今も昔からすれば未来なんだけど、こんな風になるなんて思っていなかったな」
 ライディの方もやや砕けたしゃべりをしている。
 仕事のパートナーではなく、私事のパートナーとしての証だ。
「シーヴも思っていなかったです。これから先の未来もきっと素敵になるですよ」
「ピアノの先生になるんだもんね」
「そうですよ。今よりもっと頑張って自宅で教室開くようになるのが夢です」
 微笑みかけられれば微笑みで返し、握る手に答えて二人は語り合っている。
「ピアノはおけたし、これからが楽しみだね」
「自宅でレッスンできれば、赤ちゃんができてもギリギリまでレッスンが出来ると思うです‥‥赤ちゃんも楽しみ、です」
 最後は蚊の鳴くような小さな声になり赤い髪に負けないほどシーヴは顔を赤くした。
「あ、う、うん‥‥」
 つられてライディも顔を赤くし、そっと抱き寄せることでも答えた。
「よろしくですよ、パパさん」