タイトル:【京都】芋栗モフモフマスター:橘真斗

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 13 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/25 18:07

●オープニング本文


●秋深まる季節
 紅葉で山が色られ、お祭りも盛んな京都では観光客が溢れていた。
 人々の顔にも笑顔があふれているのはただのお祭りがあるだけではない。
 バグアを倒し、平和になったからであった。
 そんな平和な京都の南丹では例年にないお祭りが開かれている。
 その名も「尼丹生如来御本尊と一緒に焼き芋を食べようの会」略して

『ビニュウの会』

 ことの発端は京都の復興のために寺社の空き地でさつまいもを作っていたことに始まる。
 土地柄も良かったのか、予想以上に収穫できしかも美味しかったのだ。
「これこそ尼丹生如来様の御加護の賜物。これほど美味しい焼き芋は食べたことがありません」
「食べながら器用にしゃべっていることには感心するのじゃが、姉上は色々捨ててるよな気がするのじゃ」
 両手に芋をもって美味しそうに頬張る白川・仁宇を平良・磨理那はじとーっとした目で見る。
 そして、はむりと焼き芋を口にすると仁宇の言うとおり口の中に甘さが広がってきた。
「確かに美味しいのじゃ」
「そうでありましょう、そうでありましょう。せっかくなのでお供えついでに盛大な焼き芋パーティーでもいたそうかと思っているのですよ」
「いいのう、栗やキノコなども妾の領土で良いものがとれたので、あったまる鍋や栗きんとんも美味しそうじゃな」
「お世話になったラスト・ホープの皆様にも来て楽しいひと時を提供できたらいいですなぁ」
 そう彼女が計画してからすぐに支度は整い、白川家の庭で、境内でもある敷地でちょっとしたお祭りが開かれた。
 焼き芋やら栗きんとんや、キノコ鍋が振舞われているのか、美味しい匂いが漂う。
 また、ステージを見れば有志の大道芸人達が芸を披露しているが、飛び入り参加も可能らしい。
 どこかでカラオケ大会でもしているのか、歌声や手拍子なんかも聞こえてくる。
 
 美味しい誘いに乗っかったあなた達は誰とどうすごしますか?

●参加者一覧

/ 奉丈・遮那(ga0352) / 葵 コハル(ga3897) / クラーク・エアハルト(ga4961) / シーヴ・王(ga5638) / 玖堂 暁恒(ga6985) / ラウル・カミーユ(ga7242) / 風羽・シン(ga8190) / 宵藍(gb4961) / ルノア・アラバスター(gb5133) / 獅月 きら(gc1055) / BLADE(gc6335) / ニーマント・ヘル(gc6494) / レガシー・ドリーム(gc6514

●リプレイ本文

●平和な光景
 秋の古都。
 風情もあり、数々の実りをみせるそこはカップルでいくにはいい場所だ。
 今回の能力者を誘ってのビニュウの会も夫婦や恋人での参加者もいる。
「で、何で俺だったんだろうな‥‥妹に断られたとしても知り合い多そうなんだけど」
 宵藍(gb4961)は一人、誘われた友人について敷地をふらつきながら思った。
 街の人も結構来ているようで神社の境内という場所もあってか縁日のような雰囲気が漂う。
 ふらりと彼がステージを覗くとレガシー・ドリーム(gc6514)がお辞儀をして歌を披露するところだった。
 静かだけれども胸に響く独特の歌い方をするアニメソングである。
「へぇ、なかなか上手いじゃないか」
 宵藍が感心しているとレガシーがウィンクを飛ばしておじさん達に愛嬌を振りまいていた。
 ただ、レガシーが最近流行の男の娘だと知らないおじさん達は幸せなのか不幸なのか‥‥。

●京都の味覚色々
「ぇ〜ビタンセイニョライって読めばいいのか?」
「それは『ビニュウニョライ』と読むのじゃ。ほれ、人手が足りんので主も手伝うのじゃ」
 境内の入り口にあった看板を読んだBLADE(gc6335)を平良・磨理那(gz0067)が腕を引っ張り炊き出し場に連れ込む。
「料理スキルはないんだけどなぁ」
 頭をぼりぼりとかきながらBLADEが炊き出し場に入ると一際目立つ大男(?)が包丁を細かく動かしてカキアゲ用の野菜を刻んでいた。
 ムチムチでピッチピッチなボディをメイド服に包んでいるニーマント・ヘル(gc6494)である。
 なお、生物学上女性であることを付け加えておく。
「こ、焦がさない、ように‥‥」
「ちゃんと火加減をみれば大丈夫だよ」
 和風の料理が多いと思いきや、ルノア・アラバスター(gb5133)と獅月 きら(gc1055)がチキングラタン用のホワイトソースを作っている。
 最近まで料理が壊滅的だったルノアは緊張しながらバターを溶かして小麦と共に練りこんでいた。
「モンブランのマロンクリームは渋皮も一緒の方がコクが出るんダヨ。テリーヌの方は、たくさん栗を入れちゃおー、カットした時に栗がいっぱいだと嬉しいモンね!」
 また、ラウル・カミーユ(ga7242)が栗を使ったスィーツも作っている。
「相変わらずスィーツ作りはプロ並でやがるです」
「シーヴも包丁の使い方とか上手になってきてるし、慣れてきたらスィーツも学んでみるといいかもね」
「でも‥‥やっぱりライディの方が、手際が良いでありやがるです」
 じとーっとラウルと夫のライディ・王(gz0023)を見比べるシーヴ・王(ga5638)は複雑な気持ちを吐露していた。
 二人が作っているのはキノコ鍋で、様々な種類のキノコと野菜が入り暖かそうな湯気をだしている。
「なんというか、ここも戦場だな」
 人手が足りないといった磨理那の言葉も至極納得のいくBLADEだった。

●食欲の秋
 食事を作るもの達から離れ、御座を引いただけの宴会場では料理を味わう人々でにぎわっている。
「明日の依頼とか考えず、落ち着いて来られる京都は格別だね、うん。味覚に癒しにたっぷり堪能して、骨休めと行きますかー♪ いっただきまーす」
 葵 コハル(ga3897)もその一人で、栗ご飯にキノコ汁をムシャムシャと小さな体のどこに入るのだろうかと心配になる勢いで食べていた。
「お酒もあれば楽しめるんでしょうけど‥‥」
 能力者の協力もあって天ぷらなど酒に合うメニューが追加されてきたのを見た奉丈・遮那(ga0352)は残念そうに肩を落とした。
「あるみたいですよ。ほらほら飲んで飲んで」
 だが、リネーア・ベリィルンド(gz0006)がどこから持ってきたのか一升瓶を片手に遮那へ酌をすすめてくる。
「ああ、はい」
 肩ではなく眼鏡をややずれ落としながら遮那は酒を味わった。
 正式な恋人となってから指折り数えれるくらいのデートであり、平和になったことを実感できる。
「栗ご飯食べさせてあげるね。はい、あーん」
「ちょっと、それは恥ずかしいんだけど‥‥あーん」
 一方、クラーク・エアハルト(ga4961)がレオノーラ・ハンビー(gz0067)に栗ご飯を食べさせている。
 見ているだけでお腹いっぱいになりそうな光景だった。
 三者三様と盛り上がっているなか、静かな二人がいる。
「久しぶりだな、山戸。元気そうじゃねぇか‥‥」
「顔あんまり見せれてないもんな。ちょっとこっちの方に来ててさ‥‥」
 浮かない顔を見せる山戸・沖那(gz0215)の姿をみて玖堂 暁恒(ga6985)はそれ以上は何も言えず、そっとオレンジジュースをグラスに注いで出す。
「とりあえずは食えよ、宴会は楽しくやるのんだろ?」
「そうだな。乾杯」
「おう、乾杯」
 ジュースとビールで二人はグラスを当てた。

●飲めや食えや
 御座を敷いた宴席でそこら中で乾杯の音頭がとられていく。
「ライディ、ご飯粒がついてやがるですよ」
 夫の頬についているご飯粒をみたシーヴが摘みとって食べた。
「ライディくんとシーヴのツーショットゲットー」
 その瞬間をシャッター音が捕らえ、カメラをもったコハルが悪戯っ子みたいに笑う。
「撮影もいいでやがるですが、ラウルのデザートを食うがよし‥‥すげぇ負けた気分になりやがるですが味は保障するです」
 コハルの茶化しも気にすることなくシーヴはラウルの作ったいわゆる栗のパウンドケーキたるテリーヌをデザートとしてコハルにだす。
「ラウルやライディは『そういう面』で尊敬するわ‥‥あ、いやライディは仕事振りも尊敬してるぜ?」
 テリーヌを食べようと色々と見回っていた宵藍が席についた。
「シャオべぇもたくさん食べて大きくおなり」
 ふふふと嫌味に嫌味でラウルは宵藍に返す。
「余計なお世話だ‥‥というかお前、俺の方が年上だって絶対忘れてるだろ」
 ムスっと膨れて宵藍は年下のラウルを『見上げ』た。
「うーん、我ながらいい出来ダネ!」
「あはは、二人とも仲がいいね。一緒にこうして過ごせて嬉しいな。コハルさんも無事に帰ってきてくれて本当にありがとう」
 和やかな空気にライディは少し目を潤ませて言葉を紡ぐ。
 安全な場所で見守ることしか出来ない一般人であるライディにとって、終戦と共に訪れたこのひと時はかけがえの無いもののように思えた。
 潤んだ瞳からいつしか涙がこぼれていく。
「ライディは涙もろいでやがるです」
「でも、無事をないて喜んでくれる人がいるのは嬉しいもんだねー」
 涙をそっとハンカチでシーヴの姿を見たコハルの一言は、そこにいる誰もが思うことだった。

●これからのこと
「ん‥‥やっと終わりましたね」
 食事でお腹を満たしたところで、ルノアは空を見上げてつぶやく。
 昼間でも赤く輝いていたバグア本星の姿はなく、ようやく終わったのだと実感できた。
「ねぇ、ルノアちゃんはこれからどうするの?」
 隣に座るきらが同じように空を見上げて尋ねる。
「これから、ですか‥‥」
 きらの問いかけにルノアはしばし考え込んだ。
 選択肢は色々とある、時間もあるが‥‥。
「今は保留、かな? 傭兵としてお仕事を続けながら色んな所を見て回ったり、皆さんと遊んだり‥‥きらちゃんともっと一緒に居たいですし」
 ぐっときらの手を握りルノアは答えた。
 眩しくて尊敬できる彼女に一緒に居たいと言われ、きらは嬉しくなった。
「きらちゃんは、どうするの‥‥?」
「私の今後は‥‥そうだなぁ‥‥」
 少し間を空けてから、きらはもったいぶるように続ける。
「普通の女の子に、なりたい。学校に行って、勉強して、友達と笑いあって、それで、恋をして‥‥そんな普通が今は欲しいかな?」
 一口に言える『普通』という言葉だが、両親をなくして孤児になった経験のある彼女にとって手が届きそうで諦めてしまったものだ。
 それが能力者になりカンパネラ学園に通って少しずつ手に入れられた。
 だから、これからも思い出をくれた大切な人と一緒に居たいと願う。
「あとは、そうナトロナにもまた行きたいね」
「一緒に、行きましょう」
 お互いに微笑み合う二人だった。

 ***

 デザートに玖堂の作った大学芋を食べながら、すっかりカラオケ大会のアイドルになったレガシーの歌を聴く。
 平和になったからこそ出来る贅沢を沖那が味わっていると玖堂がタバコに火をつけながら口をあけた。
「山戸、お前は『この先』どうするつもりだ‥‥? まあ、人のことをどうこう言える程、俺も心を固めた訳じゃないがな‥‥」
「なんじゃなんじゃ、二人して悪巧みの相談でもしておるのかえ?」
 割烹着に三角巾をつけた給食当番風な格好をした磨理那が二人の間に入ってくる。
「ちげーよ。なんで、そういう話になるんかなー」
「姫さんも相変わらず、ちまっこいままで何よりだ」
「おぬしも口が相変わらず悪いままじゃの。そんな風では所帯は持てぬぞ?」
「いいんだよ、俺はこのスタイルがウリだからな」
 くくっと磨理奈の口撃を交わした玖堂はタバコの火を消し、改まって沖那と向かい合う。
「で、どうなんだ?」
「ああ、こっちの方に来てたっていったよな? どうもお袋がさ、具合が良くないみたいなんだ‥‥」
 沖那の母親は京都の日本海側を治める大物なのだ。
 本当の母親と育ての母親が違っていたりと沖那は多くの苦労をしてきていることも玖堂は知っている。
「オフクロさんのためにこっちにいるというのもいいんじゃないか?」
「両親は大事にしてやらねばの。妾も最近父上がわずらわしいことも多いのじゃが、思ってくれる人がいるのは良いことと思うじゃ」
 お茶を飲んで一息つく磨理那も玖堂に同意した。
 一時的に沖那の後見人を務めてきていて、沖那のことは気にかけているのだ。
「まぁ、俺の方はさっきも言ったとおり決めかねているところだ。軍の方は規則とかで縛られるからいやだからな」
 ビールを飲んだあと、ニヤリと笑って玖堂は続ける。
「山戸が偉くなったら姫さんともども依頼人になってくれりゃあ、俺も悩まなくても済むかもなぁ?」
「うるせー、黙れ。酔っ払い」
 沖那がそっぽを向いていると、炊き出しをしていた女性が磨理那のところへ駆け寄ってきた。
 どうやら、話にあがっていた沖那の母親から復興祝いに魚介類が届いたとのことである。
「さって、折角いい魚が出回ってきたなら料理してやるか」
 笑みを崩すことなく玖堂は立ち上がり、磨理那と共に支度にかかるのであった。

 
 ***


「さっき入って来たばかりの刺身、お待ちどう様だ」
 日本海側で取れた魚をニーマントが刺身にして遮那たちの前に置いた。
 飲んでいる日本酒に良く合いそうな魚である。
「自分は仕事をしながら、能力者のまま傭兵を続けようと思ってます。リネーアさんはどうするつもりです?」
 周囲で聞こえてきた『これからの話』に便乗して、遮那は考えていたことを話始める。
「そうですね‥‥とりあえずは能力者はやめようと思ってます。アダーラのためにもこれからは自分を大事にしていこうと思います」
 酒をくいっと煽り、手酌しようとするところへ遮那が酒を注ぐ。
「何か別な仕事でも?」
「まだ、何をするかは決めてないのでとりあえず今後の貯金をしつつオペレーターは続けるつもりではありますよ」
 リネーアの言葉に遮那は少し安心しながらも、リネーアの中心がアダーラなのが少し残念だった。
「アダーラさんと一緒に暮らすなら、お邪魔しちゃ悪いですね‥‥」
 自分もチョコを空にするとリネーアが酌をしてくれる。
「一緒に暮らすかどうかは‥‥まだ、わかりません。あの子も独立したいって言うこともありますからね」
 浮かない顔をしていたのか目の前の恋人はフォローをいれてくれた。
 ならば、一つ提案をしてみようと遮那は決意する。
「では、リネーアさんが良かったら、一緒に暮らしませんか?」
 ぽつりと漏らした一言に何故か場が静まり、二人に視線が集中した。
「え‥‥と‥‥、その‥‥生活性の無い私でもいいなら、お願いします」
 酒にも酔わないリネーアがこのときばかりは顔を赤くし、うつむきながら小さく答える。
「ですよねー、やっぱり一緒はでき‥‥ええぇ!?」
 どちらかといえばNGを考えていた遮那はマンガのようにのけぞって驚いた。
 拍手が二人を包み、お祝いとも僻みとも取れる祝辞を周囲から貰ったのはいうまでもない。

●ビニュウニョライサマ
「何か傭兵で似たような顔を見たことあるような‥‥」
 本堂に置かれているビニュウニョライ様なるありがたい御神体をみて宵藍がぽそりと呟く。
「いや、ともかくお祈りをしなきゃな‥‥」
 作法はよくわからないが手をあわせて目を閉じ祈る。
 祈るのは先の決戦で戦死した友人の冥福だった。
 平和への代償として決して小さくはない。
「えーと、僕と妹が早く結婚できますよーに。あ、やっぱ妹はもうちょと後でもヨイかな。あと、シャオべえの背が伸びますよーに!」
 シリアスな祈りを宵藍がしている横でラウルが個人的なお願いをしていた。
 最後が特に宵藍の心を乱す。
「胸の如来様なのかな?」
「あら、私はこの土地を薬で救ってくれた尼さんの死後如来様にしたと聞いているわよ」
「そうなのですか。拝み方、わかる?」
「そこの二人と同じようにすればいいわよ」
 クラークとレオノーラも如来様を拝みに来ていた宵藍やラウルに倣ってお祈りをはじめるのだった。

●舞えや歌え
 美味しい料理に美味しい酒、そして楽しい催しを調理を終えたBLADEは堪能している。
 一芸披露をするステージでは宵藍が二胡でクラシックを演奏しているためか食休みをしている人が多かった。
 着物姿で扇子を仰ぎ、ちょっと先のことを考えていた。
「ここの日本酒も美味いな‥‥さて、安定な収入を考えるなら士官教育だな」
 そうしているとステージではなにやら拍手が起こっている。
 ライディとシーヴがアイドルソングを振り付けつきでデュエットしたからだ。
 アイドルのマネージャーと、長らくお手伝いを続けていた夫婦の振り付けはキレがある。
 レガシーの歌も良かったが、これはこれで余興にはいいものだった。
「天麩羅の追加だよ」
 キスなどの天麩羅をニーマントが運んできたのでBLADEは酒のつまみにいただく。
 揚げたてでサクリとする衣とプリプリな身が絶妙だった。
「このテンプラ美味しいねぇー」
 一休みをしているレガシーも美味しい料理に舌鼓をうち幸せそうに笑う。
 傭兵になってよかったと思う瞬間である。
「とりはアタシと磨理那ちゃんが舞いまーす。シャオくんBGMよろしくねー」
 コハルが宵藍に日本のクラシックともいえる雅楽をリクエストするとステージに磨理那と共に二人でたった。
 扇子をもって、ゆっくりとした優雅な舞姿は普段の騒々しいコハルからかけ離れているものの様になる。
「いいもの見れたな。酒が美味くなる」
 BLADEは酒を飲み干しながらいい気分に浸るのだった。

●庭園を歩きながら
 小さな庭園ではあるものの、宴会場からは離れているためか静かな別世界が作られている。
 池には鮮やかな鯉が泳ぎ、庭木の紅葉が赤く色づいて秋のワビサビをかもし出していた。
「‥‥京都も久しぶりにきたね」
「ええ、そうね」
「普通の暮らしって、どんなものなんだろうね?」
 クラークはレオノーラと手をつなぎながら歩きつつ、静かに胸のうちの話す。
「そうね‥‥それは何をもって『普通』とするかじゃないかしら? たとえば、貴方は軍で働いていたときは訓練したりしてきたことが『普通』としてきたでしょ?」
「ですね‥‥でも、いざ戦争が終わるとこれからどうしていいかわからないというか、実感がわかなくて‥‥」
 戦うことや平和を守ることが当たり前として生きてきたクラークはいざ、戦いが終わるとどうしたらいいのか迷っていたのだ。
「そういうときはね、目の前にあるしなきゃいけないことをすればいいだけよ。まずは私も含めた家族を養ってくれなくちゃ。新しい家族を増やすならね?」
 見た目ではクラークより若く見えるレオノーラがまるで母親か姉のように彼を諭す。
 優しく頭を撫でられたクラークははにかんだ笑みを浮かべた。
「愛しています。レオノーラ」
 その後、人気のないところに連れ込んだ彼が何をしたか触れるのは無粋というものだろう。

***

「この前いってやがったピアノ教室ですが、小隊仲間にプロの楽士がいるの、思い出したですよ。了承してくれれば、レッスンして貰おうとおもうです」
 のんびりと歩いていたシーヴはピアノ教室を将来開くためへの第一歩について夫に話しはじめる。
 無表情で大剣を振り回して戦う彼女からすれば意外な将来像ではあるが、ライディはその夢を応援していた。
「そっか、おめでとう。こういう話をしていると本当に戦争が終わったんだなって思うよ」
 笑顔で夢を語る妻の姿に自然とライディの顔が緩んできている。
「でも、傭兵は‥‥もう少し続けるつもり、です。まだ能力者が必要な場所があるですから」
 少しうつむいた様子でシーヴは話を続けた。
 心配かけるのだろうと分かった上でケジメを少しでもつけたいという意志を伝える。
「落ち着きやがったらエミタ除去の手術して‥‥その、お母さんになりてぇ、です」
 その上で照れ隠しにライディの胸に顔を埋めた。
 夫は優しく、可愛い妻を抱きしめてこう囁く。
「ゆっくりと、これからも歩いていこうね。俺が支えていくから‥‥」
 新しい『これから』のために心を支えようとライディは内心改めて誓うのだった。

***

「なぁ、なんで俺を誘ったんだ?」
「それはリュンちゃんに断られたからダヨ」
「そうか‥‥」
 カップルで庭園散歩を楽しむものが多い中、宵藍とラウルが歩きながら話をしていた。
 やや中性的でファンの一部に男の娘認識されている宵藍はラウルとカップルにも見えなくもない。
「これからってどうするんだ?」
 話題をかえるよう宵藍が立ち止まってラウルに尋ねた。
 風が吹き、紅葉やイチョウの葉がいくつか落ちる。
「僕は、まだ暫く傭兵カナー。片がついテないコトもあるしネ。ソレにリュンちゃんが傭兵しテル間はやめる気はナイなー。そういうシャオべぇは?」
「アイドルは続けたいと思うんだよな‥‥傭兵も、多分暫くは続ける。ずっと先のことはわからないけど」
「そうダネー」
 ラウルがたそがれるように空を見上げたとき、突き落とそうと宵藍の手が動く。
 ほんの少しのいたずら心のはずだったのだが、無防備なラウルは避けることなく突き落とされてしまった。
 バッチャーンと水しぶきがあがり、水も滴るいい男が一人できあがる。
「ちべたーい」


●宴の終わり
 パシャりとコハルがシャッターをきって集合写真を収める。
「いやーたまにはカメラマンも悪くないよね」
 コハルが持つデジタルカメラには今日の宴の思い出が一杯詰まっていた。
「リネーアさん。折角ですから、ちょっと飲みに行きませんか?」
「二次会ですね。エスコートお願いします」
 ほろ酔いの遮那が酒の力を借りて積極的になったのかリネーアと腕組んで会場を一足先に帰って行く。
「アタシは今回食欲の秋を堪能できたからいいんだ、淋しくなんてないぞー!」
 無駄に気合をいれて強がっているとドンとニーマントとぶつかった。
「おっと悪いな。今片付けをしてる最中でな」
「美味しいご飯をご馳走になったし、気持ちよく歌えたからね。片付けくらい手伝ってあげたいじゃない?」
 ニーマントと一緒に片付けをしているレガシーも楽しかったのかルンルン気分である。
 たくましいニーマントと可愛らしいレガシーをデジカメでコハルは撮影したあと、他にならって片付けを手伝い始める。
 片付けをしているなか、BLADEが思い出したかのように呟く。
「あ、ビニュウ如来を拝み忘れたな‥‥またの楽しみにするか」
 かくして、宴は終わるのであった。