タイトル:【JTFM】WildWindマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/07 00:11

●オープニング本文


 南米の風は常に熱く、密林にある最前線も収束に向かっていた。
 エクアドルの南部では各地の戦いに敗れたバグア軍の残党達が集まっている。
 その中でも戦闘力の低い研究員達や強化人間などが集まるここでは、これから先に不安を抱える者が多かった。
 追い立ていたバグア側だったが、今では追い立てられる側へとなってる。
「どうする? 投降するのか?」
「投降したところで未来はない‥‥その上、ペルーやチリへの亡命は無理だ」
 隠れ家とも言える施設の中では不安を口にする男達に絶望が訪れた。
「ヴィエントシステムを手土産にすれば、UPCとて我々を無碍にはしないはずだ。うまくやれば、ベネズエラまで逃げる時間と隙ぐらいは稼げるんじゃないか?」
「そうだ!」
「そうしよう!」
 無数のケーブルで繋げられた人間の姿が映ったディスプレイをながめ、男達は口々にわずかな希望をつかみ出す。
『だからって、手土産差し出してノコノコ逃げ帰って来た野郎を、こっちが迎えてやるたぁ限らねぇよなぁ?』
 どこからか声が響いたかとおもえば、いつの間にかアスレード(gz0165)が立っていた。
「どうせてめぇらはこっちに魂売ったんだ。その支払いはてめぇの命で払えよ。でなきゃここで俺様が『処分』してやるぜ?」
 アスレードが指をぱちんと鳴らすと施設の外にキメラが放たれたのか悲鳴と破壊音が壁や扉を通り越して響く。
「ヴィエントだかのも出して精々あがいて死にな。てめぇらにはそれくらいしか残されてねぇんだからな」
 せせら笑いアスレードはその場にいる男達を見下した。
 
***

「緊急の依頼です。エクアドルのロハにてバグアの南米残党軍が動いているのを発見しました」
 リネーア・ベリィルンド(gz0006)が真剣な眼差しで本部に訪れた傭兵達を見渡す。
 JTFMとよばれる南米戦線の決着がついたのも先日の話であるが、事後処理がこれからというときだからだ。
「敵の戦力はキメラと強化人間、ゴーレム、ヘルメットワームなど少数ですが混戦となります。有人機が混じっている可能性もあります」
 街を制圧するには心もとない戦力であることは能力者達にも分かった。
 だが、一般市民やUPCの駐留軍にとっては脅威である。
「そして、以前に押収された資料からこの南部へヴィエントの本体が運ばれているものと推測されます」
 手元にある資料を眺めていたリネーアの表情がかたくなった。
「ヴィエント・システムは人間の頭脳を人工知能のように変換し、無人機を無線操作する非人道的システムです」
「検体の名前はシルフィードとされていますが、形式上は死亡扱いのため救出任務は出せません。見つけ次第『破棄』するように‥‥お願いします」
 リネーアはそういって能力者達に一礼する。
 下がった顔からは表情をうかがわせないかのように‥‥。

●参加者一覧

ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
水無月 紫苑(gb3978
14歳・♀・ER
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
D・D(gc0959
24歳・♀・JG
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

●風か嵐か
「ヴィエントともう一度やり合うとはね。以前は西王母でこっちの被害が大きかったが、今回はどうなることやら」
 D・D(gc0959)は以前の苦い経験を思い返した。
 センサーの感度と己の目と感覚を最大限に使って周辺警戒を怠らないのはそういう理由からだ。
『新年から残党狩りと南米[ここ]らしいはじまりだな』
 街に被害が出ない距離を保ち、待機をしたゲシュペンスト(ga5579)からの通信にD・Dも頷く。
『確認で来ている敵機も数が少ないし、何がしたいんだろね?』
『宇宙人の考えることはわからんな』
 後方の布陣として水無月紫苑(gb3978)とジャック・ジェリア(gc0672)が200mm4連キャノンを持つスピリットゴーストで待機していた。
『ま、ボクには関係ないか。なんにせよ、叩き潰すだけだね』
 紫苑の陽気な口ぶりに今から始まることが激しい戦闘とは思えなくなる。
「油断だけはするんじゃないよ。追い詰められるなら何をしでかすかわからないんだからね」
『予定ポイントに到着。いつでもいけます』
 D・Dが紫苑へ釘をさしているとロゼア・ヴァルナウト(gb1055)からの通信が届いた。 生身部隊はすでに配置済みとの報告も受けているので、仕掛けどきである。
 愛機に狙撃姿勢をとらせ、D・Dは深呼吸1つし操縦桿を握り締めた。
「一番槍を頼むよ、ジャック」
『任せておけよ、見た目は派手に中身は慎重にだ』
 スピリットゴーストファントムから地面を揺るがす咆哮が南米の大地へと響いた。

●地を凪ぐ者たち
「KV班も行動を開始したようですね。こちらも急ぎ施設の制圧に向かいましょう」
 銀色の闘気を周囲に展開させた神棟星嵐(gc1022)は街から離れていくヘルメットワームやゴーレムを尻目にロハへ侵入する。
「街中にもキメラがでているみたいだしその辺りからじゃない? 後は新しい人間がすみ始めた建物ね」
 エリアノーラ・カーゾン(ga9802)も天使のように白い翼と鎧を翻して彼に続いた。
 彼女がいうように街中では人々が逃げ惑う姿が見える。
 凶悪な獣が暴れているのを確認するまで数秒とかからなかった。
「腕試しには丁度いい。追い詰められた獣がいかなるものかみせてもらおう」
 直接上に姿をみせた全高3mはあろうかというライオンのキメラに犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)は長槍「ゲルプ」を突き出す。
 <四肢挫き>で足止めをねらっているのだ。
「住民の安全もお仕事の内ですわ」
 足止めが成功し、動きの止まったキメラにミリハナク(gc4008)の小銃「シエルクライン」の一瞥がみまわれる。
「流石、おねーたまー」
 無慈悲な銃弾を受けたキメラが沈黙するとエリアノーラの後ろに隠れていた夢守・ルキア(gb9436)がキラキラと目を輝かせた。
 普段は達観した態度をとルキアではあるもののミリハナクにたいしては少し気を許している。
「ありがとうございますわ。さぁ、皆さんは避難を‥‥。ここは少し騒がしくなりますから」
 小銃のリロードをしたミリハナクは優美に微笑んだ。
 何も言えずにただ首を上下に振る子連れの女性に向け、エリアノーラも尋ねる。
「ああ、もう一つ。最近、新しい人が住み着いた建物とか知らない?」
 そちらには首を左右にふって答えると女性は子供を連れてその場から離れていった。
「騒ぎの起きているところからキメラを潰しつつ追い込むのがよさそうか」
 長槍を死体から引き抜き、犬彦がその血を払う。
 そのとき、星嵐が<バイブレーションセンサー>で何かを感じとった。
「十時方向に複数のキメラを感知しました。明らかに逃げる動きではない、人間か強化人間らしきものもいます」
 その言葉に能力者達は互いに頷きあう。
 ロハの街中から聞こえる悲鳴と咆哮を背景に能力者達達は走り出した。

●疾風の如く
「ようし、釣れたぜ」
 動く要塞とも言えるべく改造されたスピリットゴースト・ファントム『ジャックランタン』の200mm4連キャノン砲を察知したヘルメットワームの編隊がすぐさま上空から飛来してくる。
 有効射程圏内の内側、最大殺傷範囲[キルゾーン]に敵が来るまで誰もが待った。
『ねぇ、突入した連中が制圧する前に全滅させちゃってもいいんだよね?』
 もう1機のスピリットゴースト・ファントムが無骨な姿に似合わない言葉と共にヘルメットワームの編隊に向けて試作型「スラスターライフル」を放つ。
 タイミングを合わせて一斉に撃ちだされる開戦の火口であった。
 身を潜めていたシュテルン・G『雷霆【焔】』が<垂直離着陸能力>で飛び上がり、上に逃げようとするヘルメットワーム達の頭を抑える。
 レーザーガン「フィロソフィー」を撃ってくる雷霆【焔】に対してヘルメットワームは拡散フェザー砲で応戦をはじめた。
 数の優位を盾にしようとするも、能力者達はやすやすとその状況を見逃すことはない。
『そこはスコルピオの射程だ。しばし付き合って頂こうか』
 ガンスリンガー改『REDSCORPIO』から挨拶代わりのスナイパーライフルLRX−1による砲撃がヘルメットワームを襲った。
 釣られて来たヘルメットワームは10機、街の外にいたであろうゴーレムも派手な撃ち合いに気づき姿をみせている。『ヴィエントの姿が見えないな‥‥鹵獲KVが残っているとも思えないが不気味だぜ』
 ヘルメットワームが1機、また1機と落ちていくなか、ゲシュペンストが呟く。その時、急接近する機影をレーダーが捉え、レッドアラートが鳴った。
「タロスだが、速いなこいつ」
 ジャックの呟きに全員の警戒心が強まる。
 嵐がやって来た。

●台風の目
 市街地での戦いがタロスの登場によって流れが変わる中、市内にも動きがあった。
 強化人間が姿をみせだし、一つの建物を護るように展開してくる。
「キメラを倒しながらここまできましたけど、ここがアジトかしら?」
「だろうな、とっと突破だ。外の怪物がこっちに来ても守りきれないぜ」
 自分の命は自分で守れよと犬彦が付け加え、滅斧「ゲヘナ」を構えたミリハナクと共に二階建てのテナントに突入する。
 入り口から強化人間がバグアのよく持つ光線銃で二人を迎撃すべく飛び出してきた。
 ミリハナクは目の前の脅威を振り払うかのように<ソニックブーム>を繰り出す。
 突風が襲いかかり切り刻まれたかと思えば、星嵐とエリアノーラが援護射撃を行い、追いうちをかけた。
「エキスパートあがりだからこっちの方が得意だったりもするのよね」
 怯んだ強化人間を<影撃ち>で足止めしつつエリアノーラは襲ってくる光線銃を盾で防いだ。
「治療は練力が持つ限り私が受け持つ。このままではこちらが圧倒的だけど、降伏はしない? ここで死ぬか、強化人間を人間に戻す処置にかけるか。こちらとしてもシステムの情報は詳しく知りたいんだ」
 エリアノーラの影に隠れながらルキアが強化人間の二人に交渉を迫る。
 だが、答えは銃声と悲鳴で帰された。
「仕方ないか‥‥完全にあてにしていた訳じゃないけど、残念だよ」
 <練成弱体>をルキアが2人の強化人間にかけると犬彦とミリハナクがとどめをさして建物内へと飛び込む。

***
 
「究極ぅっ! ゲシュペンストォッ! キィィィィック!」
 自らと愛機の名前を叫びながらゲシュペンストが機体スキルを込めた空中変形キックをタロスへと放つ。
 <宙空人型機動制御システム「エアロサーカス」>により機体の脚部および背部のスラスターを用いて格闘家のような滑らかな動きを再現させた。
 派手な極技は決まれば大きいが、何度も使っていれば見切られてしまうのは当然である。
 ゲシュペンストと戦闘経験のあるヴィエントはモーションから攻撃を予測し、<慣性制御>を使って直撃を避けた。
 そのままカウンターとばかりに腕に仕込まれたレーザーソードをタロスは居合抜きのように凪ぐ。
「さすがに大技を簡単に受けてはくれないか‥‥」
 空中でステップバックをするものすばやい連撃に装甲が斬り裂かれる。
『楽しませてくれそうじゃないっ! けど、目の前だけに集中していたら蜂の巣だぜ?』
 ゲシュペンスト機を狙っていたヴィエント機に向かって紫苑機が温存していた200mm4連キャノン砲を<ファルコン・スナイプB>で撃ちはじめた。
 数発が撃ち込まれるも目立った損傷を与えることは出来ずにいる。
 だが、ラッシュを食い止め、ゲシュペンスト機が体勢を整えるチャンスを生み出した。
『援護に入ります。次の一撃の準備を‥‥』
 ヘルメットワームを相手していたロゼア機が3.2cm高分子レーザー砲を連射して追撃を始める。
 タロスは急旋回でレーザー砲を回避すると両腕に仕込まれているアームガンでゲシュペンスト機とロゼア機を同時に攻撃してきた。
 タロスを相手できるのは3人‥‥D・D機とジャック機は一足遅れてきたゴーレムや未だに残っているヘルメットワームの相手をしていて手が回らない。
『ほらほら、遊んでないで! まだまだいくよ!』
 4連の砲身が焼け付くまで攻撃の手を緩めず紫苑の軌道予測をした砲弾がタロスを釘付けにしようと飛んできた。
「わかっているさ、三連ステーク、前のときよりもいてぇぞ」
 着弾を避けようと動くタロスに先回りしてゲシュペンストは機杭「白龍」を胴体に撃ちこむ。
 しかし、タロスは一時的に出力を上げて機体性能を強化し、大きく身を捻って致命傷を避けた。

***

 施設内にいた強化人間やキメラと戦い、流石に疲労の色が各自に見えはじめている。
 非戦闘員であろう研究者達はすでに死体となっていくつも転がりコンピューターなども破壊されていた。
 施設内の部屋を一つずつ確認しながら目的の『ヴィエント・システム』を能力者達は探していた。
 外では彼が動かしているだろうタロスと苦戦しているのが無線を通じて聞こえてくる。
「あちらも苦戦しているようですわね」
「こっちも結構ハードだよ」
 犬彦が閃槍「ゲルプ」でキメラを貫き、払いのけて道をつくっていった。
 すると、共に前衛を担うミリハナクが最後の部屋の頑丈な扉を力任せに破る。
 中にあったのは無数のコードに繋がれた人の姿をしたものだった。
 体の損傷が激しいものの顔は眠っているかのように穏やかで綺麗である。
「これがヴィエント?」
「だろうね。一種の生体コンピューターといったところか‥‥科学力の高さだけは、バグアを評価できる」
 データを持ち出したり何か持っていけそうなパーツがないか探るルキアだったが、無線機から届く苦戦する仲間の声で手を止めた。
「さっさと破壊しちまおうぜ」
「そうですわね‥‥貴方は誰よりも速いですわ。その夢を見続けたまま――おやすみなさい」
 ズダンと何もかも断ち切る斧が振り下ろされる。
 赤い液体が床に広がる中、能力者達は即座に撤退をはじめるのだった。

●嵐の後
 じりじりと削られていたKV達に好機が訪れた。
 タロスの動きから鋭さが消えたのである。
 自動操縦に切り替わったのが直ぐにわかり、相対していたゲシュペンスト機は再び空中変形からの大技を放つ。
『本当なら、ちゃんと当てたかったぜ、くらえっ、ゲシュペンストキィィィィックッ!』
 空中を飛び回る様に回転してからの急降下キックをタロスの胴体に減り込ませ、貫いた。
『おっと、丁度いいタイミングだったな』
 タロスが沈んだとき、ジャックとD・Dがゴーレムを倒して戻ってくる。
『これでヴィエントとも会うことはないんだな‥‥』
 苦戦を強いられてきた相手の最後をこんな形で迎えたD・Dは複雑な想いで呟いた。
『あーあ、結構楽しませてくれた相手だったのになー。まぁ、次のエースを狙えばいいかな?』
 残念そうな口ぶりではあるものの、紫苑は酷く楽しそうにしている。
『これで南米も静かになるのでしょうか‥‥』
 司令官もいなくなり、強敵も消えていった。
 戦争とはそういうものだとはわかりながらも、多くの犠牲を払った上で平和を勝ち取らなければいけない。

 この後、嵐を抑えたものとしてUPC南中央軍の間では今回の参加者を『セフィーロ(優しい風)』といつしか呼ぶようになっていた。