●リプレイ本文
●戦いは段取りから
「失礼致しますっ! 今回も宜しくお願いいたしますー!」
元気よく裏口から椎野 のぞみ(
ga8736)が顔だして挨拶をはじめる。
「うむ、久しぶりのあいどるのお仕事じゃな。がんばるのじゃ! よろしくたのむのじゃ」
のぞみの裏からは正木・らいむ(
gb6252)が今回がチームメイトの秋姫・フローズン(
gc5849)達と店内へと入った。
開店前の早い時間に最終打ち合わせと段取りもかねて、準備が進んでいる。
「‥‥ところで、どうしてケーキを作るのがあいどるのお仕事なのかのう?」
今回仕事を受けたはいいものの、不思議に思っていたことを気合の入り具合の違うのぞみへとらいむは尋ねた。
「ああ、Alpはこういう宣伝ものを担当していたりするんですよ。コラボレート企画とでもいいますかあるじゃないですか、コンビニとかのパンとか‥‥」
「なるほどのー。わかりやすい解説ありがとうなのじゃ」
「いろんなお仕事をしていますから‥‥一緒に美味しいもの‥‥つくりましょう」
候補生という立場ながらも料理が得意とあって仕事を請けた秋姫も小さく気合をいれていた。
「うむ、上手くできるかわからぬが美味く作りたくはあるのじゃ」
らいむの一言にみんなクスリと笑うが当の本人は何で笑われているのか分からないのだった。
●楽しい楽しいクリスマス
アイドル達は会場の設営と材料の確認をはじめる。
衣装合わせも忘れちゃいけない大事なことだ。
「クリスマスは、宗教関係なくわくわくするものじゃよな。わしは仏教徒じゃが、昔は家族で楽しんでおったしの」
普段は割烹着な秘色(
ga8202)も今日は洋風なお店の雰囲気にあわせてエプロンに三角巾姿である。
しかし、着物であることは譲れないところのようだ。
「ユウもねクリスチャンだからクリスマスは特別な日なんだよ。アイドル試験のときにもお披露目したけど得意なんだよ、へへっ」
ユウ・ターナー(
gc2715)もクリスマスソングを口ずさみカップケーキを並べる。
オーブンの焼き加減をチェックするために仮に作った品だ。
ユウの衣装はトレードマークのパンクロリータにチェック柄の可愛いエプロンを合わせたものである。
「本格的なオーブンは初めてだから試してみたの。味見してもらっていいかなー?」
「あたしの方もプッラを焼いてみたぜ。こういうのはできるからケーキもうまくやければいいんだがなぁ」
ユウに続き、エイラ・リトヴァク(
gb9458)が故郷のフィンランドでオヤツにも食べられている砂糖をまぶしたパンをだした。
「これは美味しそうなの」
「強敵だ‥‥」
出されたカップケーキとプッラから香るこんがりと焼けた匂いにファリス(
gb9339)は喜び、禍神 滅(
gb9271)は怯んだ。
「どれどれ‥‥ふむ、いい焼き加減じゃの。これは本番のケーキが楽しみというものじゃ」
カップケーキを口にした秘色はユウの腕前に感心する。
「ファリスもお菓子の腕をみんなに披露するの!」
(クリスマスケーキを作るのははじめてだけど、がんばろう)
それぞれの思いを胸にアイドルによるクリスマスケーキ勝負がいよいよ始まろうとしていた。
●チキチキケーキ作り猛製作!
『さぁ、いよいよ開始です。皆さん、てきぱきと作業中です』
ライディ・王(gz0023)が実況中継をしている会場の外にはアイドル達の応援に駆けつけたファンや、人だかりに興味を持って立ち止まった人達がいる。
『クリスマスケーキと一口にいってもブッシュドノエルやショートケーキなど種類がたくさんありますので作者の想像力次第といったところでしょう』
ラジオのDJもしている彼の実況に依頼主で審査員長のパティシエも頷いた。
『秘色さんは砕いたビスケットの土台にクリームチーズをいれていきます。すりおろした蜜柑の皮や蜜柑果汁を混ぜていますね。ここまで柑橘類の爽やかな香りが届きます』
「誰のケーキが選ばれるのかよりもファンの皆にも見た目ともども楽しんでもらいたいものじゃな」
手際よく作る姿は真剣というよりも楽しげで、鼻歌まじりな姿は『お母さん』らしさを感じさせる。
「ちょっと出遅れましたが、少し変わったロールケーキをお見せしますよ」
手を一度洗ってきたのぞみがテーブルの上に広げたのは薄く焼いたチョコ味の生地だ。
『ロールケーキにしては生地が薄いですね。破れないか心配でしたが、さすがは料理上手ALPののぞみさん、上手にイチゴ、りんご、みかんといったフルーツ果肉入りクリームをいれて巻いています」
「ここからが本番!」
ライディの実況に少し照れ臭さを感じつつものぞみは面積の大きいプレーン生地をだし、紫がかったクリームをぬる。
そして、三本のロールケーキを上に乗せると巻き寿司のようにぐるりと巻いて仕上げた。
『これは高等テクニックですね。綺麗にまるくしあげるのは素晴らしい腕前です!』
若干ライディの実況に熱が入りだす。 彼も料理を作るものとしてたぎるものを感じていた。
●デコってハッピー
調理の仕方にこだわった二人に対して飾り付けにを入れるアイドルもいる。
「うんしょ、うんしょ」
一生懸命とか健気という言葉が似合いそうな姿でファリスは生クリームでの飾り付けを頑張っていた。
ケーキを焼いた経験がないのでスポンジケーキはお店で使っているものを使用している。
『ファリスさんはホイップクリームで積雪のような小山をつくっていいますね。ケーキの中身にはイチゴやキウイフルーツなどもはいっているオーソドックスとも言えるものでしょうか』
ライディが実況を続ける合間もファリスはビスケットをぷるぷるしながら配置して山小屋を作り、ホワイトチョコとパウダーシュガーで積雪を表現していった。
「あとは森と動物さんなの!」
一息つくと、ふんすと気合を入れ直して彼女は作業を続ける。
『おお、これはユウさんのはクリスマスツリーをイメージしたようなケーキの登場です。生地にカスタードクリームとカットした果物をいれている模様で味も期待できますね』
円錐型のスポンジケーキに生クリームを薄くのばしてぬり、半分にきったイチゴを貼り付けてもみの木らしさをユウは表現していった。
お菓子作りが得意というだけに細かい気づかいや、丁寧かつ正確な手際はプロ顔負けである。
ところどころにミントの葉をアクセントにつけるなど芸も細かい。
「表面のクリーム塗りは手が抜けない‥‥」
一人真顔で作業を続けている滅はケーキのスポンジからちょっとしたこだわりをいれていた。
小麦アレルギーに考慮したものを用意し、サイズの違うものを二段重ねにして鏡餅の様に白く丸みのあるケーキを生クリームを使ってしあげていく。
『生クリームも砂糖を抑えたものを滅さんは使っているようです。生地作りから他の人達とは違った趣向のようですね』
丹念にクリームの層を一定にしていった。
「これで、完成」
最後にマロンクリームで蜜柑の形を作って上にのせると鏡餅ができる。
はじめてケーキを作った滅だが、納得のできるものに仕上がった。
●三味一体
「のうのう、りとばくや。このくらいでいいかの?」
「そんなもんじゃねぇか? こっちも質素にならないように仕上げていくぜ」
「はい‥‥仕上げもしっかりと‥‥です」
らいむ、エイラ、そして候補生としてサポートに入っている秋姫の3人が一人づつアイディアをだしたケーキを完成させようと協力しあっていた。
『勝負をするというよりはお菓子教室に集まった同級生のような雰囲気で楽しくやっているようですね。見ていて微笑ましいですが、二人が手馴れていない分、時間との戦いになることでしょう』
教えながら作るのは中々時間がかかるものだが、3人は焦りをみせることなく作業を進めている。
らいむが担当しているのはトッピングやクリームを塗ったり、材料を混ぜたりする作業だ。
『らいむさんが塗っているものはイチゴジャムでしょうか。円錐形はツリーではなくサンタの帽子のようです』
ユウと同じ生地をよういしていたが、円錐形と中央の円筒形、そして白いクリームの台座と3段重ねのケーキができあがっていく。
生地の中にはスライスしたマンゴスチン、ミカン、キウイフルーツがそれぞれの段ごとに変えて挟み込まれて味わう楽しみのあるものだ。
『エイラさんが今てがけているのは様々なベリージャムを使ったパイ型のケーキのようです。ナパージュと呼ばれるツヤだしようの上塗りジャムもつけて本格的な感じにチャレンジしていますね』
「しっかし、シンプルすぎるんだよなぁ‥‥」
ライディの実況を聞いたエイラが小声で呟く。
「世の中には『しんぷるいずべすと』という言葉があるのじゃ、手を動かしてたもれ、りとばくのケーキもわらわは試食したいのじゃ」
「ああ、わりぃわりぃ」
自分が二人をムードメーカーとして引っ張るんだと意気込んだことを思い出して、エイラはトナカイのジンジャークッキーをアクセントにのせはじめた。
秋姫も他の二人の調理を手伝いつつも自分が提案した丸いケーキを二つ重ねた雪だるまケーキに果物やチョコレートで目などをつけていく。
子供が作るような不格好さがあって愛嬌たっぷりだった。 制限時間ギリギリまで彼女達はあきらめずに頑張る。
自分たちの気持ちをしっかりこめて‥‥。
●試食会なう
「蜜柑の皮は栄養満点なのじゃよ、ケーキ自体はシンプルで作り易いし、蜜柑をオレンジやライム、季節もののゆずなぞに変えても美味いぞえ」
雪の結晶模様と蜜柑果汁を混ぜた薔薇も添え、食べるのがもったいないくらいに綺麗に飾られた自信作を秘色は美味しそうに食べるファンへと説明する。 試食会はこうした説明をしながら、アイドル達も互いのケーキを口にしていた。
「どれも素敵なの。ファリスも次はもっと素敵なケーキを作りたいの」
とろける様な甘さに頬を緩ませたファリスも次なる目標に意気込む。
「あ、この紫のクリームはですねー。隠し味程度にあんこを入れているんですよっ!」
拳を強く握り締めて、のぞみは熱く語った。
「のぞみおねーちゃんのケーキすごいねー」
三本の小さいロールケーキの入ったのぞみのロールケーキを見てユウはその手間と技量のすごさに目を輝かせて驚いている。
「いやいや、ゆうのけぇきもすごいのじゃ、美味しいしの」
「にしても、結果が気になるぜ」
ケーキを美味しそうに食べていくファンを見ててもどこか不安げなエイラだった。
そんな彼女の気持ちが通ったのか、試食会を終えて投票がはじまる。
使ったフォークを美味しかったケーキの名前の書いてあるゴミ箱にいれて貰って重量で計る形式だった。
残ったケーキは同じくらいのため、見た目では結果はわからない。
列を作ってプラスチック製のフォークを捨てていくお客様達を一同は息をのんで見守った。
『それでは、集計結果を発表します。今回のアイドルケーキ勝負は禍神 滅さんの鏡餅風ケーキとなりました。クリスマスらしさよりも素材について砂糖を減らしたり、アレルギーに考慮したぶぶんが多くの評価を得たものとおもいます。禍神さんはおめでとうございます』
ライディが結果を宣言すると会場が拍手に包まれる。
勝った禍神は目を大きく開いて瞬きを二度ほどしたあと、遅れて頭を下げて拍手に答えたのだった。
●これからの道
「秋姫さん、少しいいですか?」
「はい‥‥なんでしょうか‥‥」
片付けの途中でライディに呼び止められた秋姫は振り返った。
その表情は『何か変なことをしてしまったのか』といった不安が見える。
「いや、秋姫さんも少しづつ人気がでてきたのですがどこにも配属されてないので売り出し等の方針を決めかねてまして」
ライディは苦笑しながら後頭部をかいてつげた。
「秋姫さんが配属に迷っているのか、それとも自由に色々とでたいから候補生なのか分かりませんけど‥‥もっと前に売り出したいので一度考えてもらえませんか?」
ライディの一言を受け、秋姫は暫し考える。
「はい‥‥このままがあっているかも知れませんが‥‥一応、考えるだけ‥‥考えてみます」
友人からの推薦でオーディションを受け、アイドルが何かも分からないままに仕事をしてきた秋姫には重い宿題だ。
『やるからには頑張る』とオーディションのときに彼女はアピールをしたので、やめるという選択肢はない。
「とりあえず‥‥今の片付けから‥‥です」
先のことを考えるよりも目の前の問題にとにかく取り掛かった秋姫であった。