●リプレイ本文
●連絡不足でごめんなさい。
パーティ当日、まだウェスタンバー『Big Shot』に人が集まらないうちに事前準備は進められていた。
「え、ラジオの収録ではなかったのですか?」
樹エル(
ga4839)は機材の準備をとめてライディ・王(gz0023)に聞き返していた。
「すみません。連絡不足で‥‥。けれど、ロデオとかダンスではBGMが必要になりますからそのままお願いできますか?」
ライディが両手を合わせて頼みこむ。
エルはしばしライディを見ていたが、すぐに機材の準備を再開させた。
「ええ、音楽により盛り上げは任せてください」
エルは微笑みをライディに向けて答えた。
「ライディ君‥‥持込OKといっていたから、ロシア料理のキャベツシテーもってきたけれど‥‥」
大鍋を両手で抱えて持ってきたのはリン=アスターナ(
ga4615)である。
「いい匂いだね〜。アメリカのカントリー料理しかつくれないから他国の料理はうれしいよ」
不意にリンの後ろから声がする。
3人が見るとそこには谷間の目立つフロントレースアップ、フリンジ付きのフレアミニドレスを着た女性、キャロライン・ブリューレの姿があった。
「えっと、貴方がキャロラインさんでしょうか?」
ライディが視線のやり場に困りつつ聞いた。
「キャロルでいいよ。ほかの2人もよろしくね? ラジオで聞くよりもいい男じゃないか。二人も恋人候補がいるなんてもてているのかい?」
照れるライディの頭をそっと撫でて、意地悪な笑みを浮かべた。
「そんなんじゃないですって」
「ええ‥‥私達はスタッフ。‥‥そう、調理場かしてもらえる? ‥‥料理手伝いたい‥‥から」
リンもエルもキャロラインのカマをスルーした。
エルにはライディの顔がちょっと寂しそうに見えた。
「こっちだよ、一般人も結構くると思うから料理ができるなら、ライディもお嬢ちゃんも手伝っておくれよ?」
エルはそれにうなずき、キャロラインの後ろについていった。
●パーティタイム
「今日はあたしの呼びかけに集まってくれてありがとう、みんな愛してるよ!」
夜7時。
パーティが盛大に行われた。
「今日は思いっきり楽しみましょう♪ ということで、ババ抜きする人は挙手〜」
ナレイン・フェルド(
ga0506)の呼びかけにリュイン・カミーユ(
ga3871)、ハンナ・ルーベンス(
ga5138)、絢文 桜子(
ga6137)、レールズ(
ga5293)が能力者代表として挙手。
一般参加者には中華飯店を営業する凛華や、パイロットを目指している少年の進二君などが参加しだす。
「ハンナさんのお衣装は素敵ですわね♪」
桜子が俗に和ゴスと呼ばれる格好でハンナのディンドルをほめた。
リュインにいたってはカウボーイ姿。
ナレインと凛華にいたっては男性でありながらチャイナドレスである。
国境も能力者や一般人もまったく関係ないという心意気が伝わってきた。
「ババ抜きは大勢でやったほうが楽しいものね♪」
「そうそう」
ナレインと凛華は姉妹(兄弟?)と言った様子でノリノリだった。
「おねえちゃんが持っているババはこれだね?」
「ああ!? とられてしまいました‥‥」
進二君と呼ばれる少年に持っているババを見透かされるハンナ。
彼女はシスターであり、うそはつけない性分らしい。
だが、本当は別の理由で集中できなかった。
(「私は今‥‥とても幸せです‥‥このような楽しい席に、彼らを友として過ごせる事が‥‥」)
思い出されるのは今は亡き故郷の修道院で暮らしていた皆の笑顔。
トランプ遊びに興じていた平和な時代。
「おねえちゃん、ババがとられなかったから、ないてるの?」
「っ‥‥ううん、お姉ちゃん目にゴミが入っちゃったみたい」
進二君に指摘され、あわてて笑顔を作るハンナ。
「大丈夫ですよ、運の悪さなら俺も負けませんから」
レールズはハンナの態度を悟ってか、妙なフォローをしだす。
「我も同じだ。まだ勝負は始まったばかりだからな、小小も気にするな」
進二の頭をカミーユは撫でながらいう。
(「皆さん、ありがとう‥‥」)
ハンナは心の中で感謝の言葉を述べて、ババ抜きに興じる。
●ロデオにかける情熱
「ふふ‥‥ロデオで私に敵う人などいるのかしら? カウガールは伊達じゃないということを見せてあげるわ」
「台詞と行動があってないよー」
ロデオ大会に使われるメカブルをチェックしながらかっこよく決めるゴールドラッシュ(
ga3170)に対して、葵 コハル(
ga3897)が突っ込みを入れた。
「貴方いつの間に‥‥なかなかやるわね、ライバルとして申し分ないわ」
バァンと手で拳銃を作って撃ちだすゴールドラッシュ。
(「すごい人にかかわっちゃったなぁ‥‥」)
彼女の読めない行動に、コハルは昔の制服であるブレザーとスカートの格好でため息をついていた。
「ふはははっ! 勝つのは私です!」
そんな漫才をしている二人に、新たな挑戦の声が聞こえてきた。
二人は声がしている方向を見ると、阿野次 のもじ(
ga5480)がメカブルの上に仁王立ちしていた。
彼女の格好は猫耳尻尾にカウボーイハット、さらにはセーラー服の上下(乙女の秘密である下着はスパッツでがっちりガード)という萌えのフルアーマーである。
「く、強敵ね‥‥若さだけが勝利への決定打にならないことを教えてあげるわ」
のもじに向けてゴールドラッシュはバァンと手拳銃を撃つ。
本気なのかギャグなのかいまいちコハルにはつかめなかった。
「なんか、勝利よりも不安な空気が漂ってきたよ〜」
「ははは、盛り上がっているね! ほら、これでも食べて元気をだしな」
挨拶がてらにキャロラインはBigShotの一押しハンバーガー『スティアーレスリング』スパイスの効いた暴れ牛のようなパティが売りらしい。
「これこそウェスタンね‥‥スパイスもとてもいいわ」
ゴールドラッシュは一口食べ、その味に舌鼓を打つ。
「本当? むぐむぐ‥‥あっ、これ癖になりそう〜」
キャロラインからハンバーガーを受け取りコハルは勢いよく食べていく。
「私もいただきます! 実は依頼帰りでへとへとなのです」
もしゃもしゃとのもじも食べだした。
(「ふ、このアメリカサイズを勢いよく食べればブルに耐えられないはずよ。この勝負もらったわ」)
あくまでも姑息な手段に執念を燃やすゴールドラッシュは二人を見てニヤリと笑うのだった。
● ひっそりこっそり?
「人間楽しめるうちに楽しむのが吉ってな‥‥今日はかしこまったパーティじゃないから楽しもうぜ?」
赤マフラーの目立つゼラス(
ga2924)は一緒に来ている修道服のファティマ・クリストフ(
ga1276)に優しく声をかける。
「はい、でも‥‥こうして一緒にいるだけで、私には至福のときなのです」
クリストフがだんだんか細くなる声で呟いた。
「何かいったか? ファティマ」
「ななっ、なんでもないのですよ! あ、あちらにいられるのはハンナさんですね。綺麗な民族衣装です」
クリストフは自分の気持ちを悟られまいと必死に話題をそらせた。
「トランプで遊んでいるようだな、見に行こうぜ? まだロデオの受付は始まってないようだし」
ゼラスはまったく気づかずクリストフの指差す方向をみて知り合いの姿をみつける。
「あ、はい‥‥その、人が多いので、手を繋いでもよろしいでしょうか?」
「かまわんさ、ほら」
ゼラスが差し出したてをクリストフはそっと握る。
それだけで体の芯からほてってくるような気分になった。
ゼラスたちが移動したあと、入り口から一組のカップルがこっそり入ってきた。
「すごい人だな‥‥はぐれそうだから、俺のそば離れちゃだめだぜ?」
「はい‥‥ちかげさんと一緒にいます‥‥あぅ、私ったら大胆です」
企業戦士らしく、スーツを着こなした蓮沼千影(
ga4090)と頬をぺちぺちと叩くレーゲン・シュナイダー(
ga4458)の二人だった。
『今から、ロデオ大会の受付をはじめます。能力者も一般人の方も腕に自信のある方は是非ご参加を〜部門は分けますので、双方から優勝者はでてきます』
人垣の向こうで司会者であるライディの声が聞こえてくる。
「っと、ゆっくりしていられないな‥‥レグ、いってくるぜ」
千影は名残惜しそうにレーゲンから離れた。
「いってらっしゃいませ、気をつけてくださいね? あ、ネクタイ曲っています」
送り出そうとしたレグは千影のネクタイが曲っていた事に気づき、それを直す。
その姿は新婚夫婦そのもの。
いつの間にか二人は周囲にジーっと見られていた。
「うぉぅ!? み、みるなぁぁぁ!」
急に恥ずかしくなったのかあわてる千影を気のいいおっちゃん達は背中を叩いてロデオの受付まで送り出す。
(「こりゃ、いいところ見せないとな‥‥俺の今日のノルマはレグの笑顔だ」)
千影は心の中で決意した。
●Rodeo Party!
『レディース、アーンド、ジェントルメン! ボーイズ&ガールズ! お集まりの皆さん楽しんでいるでしょうか?』
ライディの挨拶と共に、会場は一層の盛り上がりを見せた。
『ただいまより、能力者部門のロデオを始めたいと思います。ルールは8秒以上落ちないでいる基本ルールです』
「さて、風の分も楽しまないとな‥‥しかし、王は大分トークが様になってきている」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は王の司会ぶりに関心しつつ1番手としてメカブルの前に立つ。
カウボーイハットをかぶりなおしながら、革手袋をはめた左手でメカブルの背に手を突いてくるりと一回転をしてまたがった。
それと同時にメカブルが動き出す。
「さて、俺なりに粘ってみるか‥‥」
激しく動き出すメカブルにまたぎバランスをとって難なくクリア。
終了後、とんぼ返りをしての見事な着地まで決めた。
「ま、こんなところだろうな‥‥」
少しずれたカウボーイハットを改めてかぶりなおす。
「次は俺だな‥‥モンゴルの牛とどっちが手ごわいか‥‥」
ホアキンと入れ替わってメカブルにまたがったのはゼラスだ。
メカブルにまたがり、ブルの激しい動きに合わせて腰を振って踊るかのように動いた。
「ひゃっほぅい! このまま余裕でっ!」
クリアできると思ったとき、ブルが急に加速してゼラスは振り落とされた。
受身を取って着地するも8秒持ちこたえられないという結果に終わる。
「じゃじゃ馬ならぬじゃじゃ牛だったな‥‥」
ぼやくゼラスの側にクリストフが近寄り怪我がないか確かめだす。
そんなゼラスに変わって、レーヴェ・ウッド(
ga6249)がチャレンジするも途中で思い切り振り落とされ床に叩きつけられた。
「なかなかハードだったな‥‥まぁ、こういう道化も宴には必要だろう」
あくまでも客観的に物事を判断していた。
「ああやって振り落とされるのはイヤですが‥‥やるだけやってみましょう」
中々な状況にレールズは緊張していたが、難なくクリア。
しかし、アピールが足りないような気もする。
「さて、いいところ見せないとな‥‥」
男性最後となったのは千影だった。
メカブルにまたがるとレグが精一杯背伸びをして応援をしている姿が見える。
負けていられないという気持ちでメカブルの動きに合わせてバランスをとりだした。
「みよ! 満員電車で鍛えた根性とバランス感覚を、両手を挙げて痴漢に間違われない対策だって完璧だぜ!」
動きはすばらしいが、台詞が少し物悲しいのは気のせいだろうか。
8秒間暴れ牛を乗りこなし無事に下りる。
「おっしゃ! これぞ企業戦士の底力だぜ!」
ネクタイを緩めて大きく手を振り、待つべき人の下へ千影は足を進めた。
小さくて見失いそうな大切な人、レグの下へ‥‥。
●ハプニング、そして勝者
「お義兄さんにほめてもらうんだから!」
女性陣の番になり、気合を人一倍いれているのは荒巻 美琴(
ga4863)だった。
「美琴さん、無茶しないようにしてくださいね」
その気合が少し不安になったのか、ライディは美琴にそっと声をかける。
彼女の家庭的な部分はラジオ番組開始にあたり大きな支えになったからだ。
「これはね、女としての意地でもあるの」
美琴が視線を向けた先では義理の兄である篠崎 公司(
ga2413)とその妻であり、美琴の姉でもある篠崎 美影(
ga2512)が日本酒と共に美琴のつくってきた巻き寿司を楽しんでいた。
美琴が手を振ると二人は振り返してくる。
「さぁ、はじめよう!」
メカブルにまたがり、ロデオの開始を促した。
ゆっくりと、だがどんどんメカブルは暴れだす。
「くっ! 負けるもんか!」
一瞬振り落とされそうになるのを強い想いで耐え切る美琴。
だが、その次の瞬間ガックンと動きを変えたメカブルに振り落とされてしまった。
運の悪い事に硬いテーブルにその背中をぶつけてしまう。
「美琴! 大丈夫か! 美琴!」
人垣を書き分け、普段は物静かな公司が声を荒げて美琴を抱き上げる。
「う‥‥お義兄さ‥‥ん?」
「よかった、怪我とかないか? 立てるか?」
美琴は優しくお姫様抱っこで抱き上げられると、甘えるように公司にもたれかかった。
「ちょっと、頭がくらくらする‥‥」
本当はそうではないのだが、せっかくのチャンスを逃したくない。
美琴の心はそれだけだった。
「仕切り直しね、この私の実力をみるといいわ!」
連れ出された美琴を見送り、ロデオ大会は再開された。
続いてはゴールドラッシュ。
気合と姑息とハッタリで優勝を狙う賞金稼ぎである。
しかし、あえなく7秒目で落馬。
「この私を振り落とせる牛なのだから、きっとクリアできる人はいないはずよ」
ゴールドラッシュがそんなことをいっていると、会場が大きな盛り上がりを見せていた。
のもじがスパチラ(スパッツチラ見せの略)しながらロデオの上で笑っていたのだ。
「あはははは、最高にハイ☆テンションって感じDADADA!」
両手を挙げて上下左右に振り回されながらもバランスをとっている。
セーラー服が揺れてへそが見えてそのたびに歓声が上がったのはいうまでもなかった。
彼女が猫のビーストマンだとゴールドラッシュが知ったのは後ほどのことである。
「中々手ごわいな‥‥だが、覚醒ありなら手加減無用! ライディ、盛り上げるがいい!」
のもじも途中で落馬したが、十分楽しんだのでのもじ自身満足していた。
次はリュインの番である。
司会者に指示を出すのは彼女の性格か、場の雰囲気か。
『十分盛り上がっていますが、リュインさんもどうぞ』
ライディの案内に頷き、リュインがロデオにまたがりだす。
カウボーイスタイルのリュインはとても様になっていた。
片手を挙げてメカブルの動きに合わせて振る本場のスタイル。
反射神経を駆使して乗りこなす姿には、男女共に魅了できるだけの華があった。
しかし、7秒目で惜しくも落馬。
「なかなか面白かったぞ。またここでやりたいものだな」
結果についてもくよくよしない。
あくまでもゴーイングマイウェイなリュインであった。
『最後は葵コハルさんです、どうぞー』
トリとなったのはコハルだ。
「籤で順番をきめたとはいえ、緊張するなぁ‥‥それにセーラー服のネタもかぶってるし」
いつの間にかセーラー服に着替えたコハルはいつもの少年っぽさは押さえられ、元気な美少女らしくなっていた。
メカブルにまたがり、スカートが揺れるも短パンをはいている為大きな被害(?)はない。
動きが激しくなるも合わせてダンスでもするかのように舞った。
「いえーい☆」
ピースを客席などに向けつつも激しく暴れるメカブルを乗りこなしきった。
終了するとメカブルから降り、スカートのすそをつまんでチョコンとお辞儀をしてしめる。
競技終了後の採点時間、選手達は短いながらも長い時間を待つ。
そして、ライディのアナウンスが流れた。
『集計の結果‥‥一般人部門はボルバル・スミスさん。能力者部門は葵 コハルさんに決定しました! おめでとうございます! 両者にはキャロラインさんより商品の授与が行なわれます』
歓声と拍手の中、西部のガンマンの格好をした男性とセーラー服のコハルが壇上に上がる。
「二人ともおめでとう。あなた達に幸運が訪れるようにね」
キャロラインが二人の首にペンダントをかける。
1セントコインで作られた幸運のお守りだった。
「キャロラインさん、ありがとうございます! あたし、大事にしますね!」
コハルの一言に歓声がさらに大きくなった。
ロデオ大会はこうして幕を閉じたのである。
●語らえる場所で語らう時間
「さて、時間をもてあましてしまうな」
ロデオ大会も終わり、ホアキンはテーブル席で一息ついていた。
今回は恋人と共に参加していないため、一人の時間を使うことに悩んでいる。
(「数ヶ月前は一人でいるのが当然だったのにな‥‥心境の変化というものは恐ろしい」)
内心そう思っていると、ニヤニヤとゼラスがトランプをもってやってきた。
「よう、ポーカーでもどうよ?」
「ポーカーは面白そうだな、ちょうどホアキンと話をしたかったところだ、私も混ぜさせてもらおう」
仕立てのいいスーツを着たシリウス・ガーランド(
ga5113)もホアキンの席に座る。
「ポーカーか、他愛無く騒ぐにはちょうどいいな。先ほどはロデオで落ちたから、その分を取り戻したい。大規模作戦前にいささか縁起が悪い」
レーヴェも席につき、男4人によるポーカーが始まる。
「そういえば、俺と話したいこととは何だ?」
タバコを吸いながらカードを2枚切るホアキン。
「去年の花火や警備の依頼などを一緒にやっただろう? ホアキンの考え方はなかなか詩的だったのが印象だった」
そして、3枚をいれかえてふむと悩むシリウス。
「ここまで来て仕事の話とはマジメだね、おたくら。俺はここでレイズだ」
ゼラスがニヤリと笑い、チップをドンと置く。
実際の賭けではなく、仮チップであったが、その行動はほかの3人の思考を悩ませた。
「まったく戦いがあっても、楽しみを見つけるやつもいる。ストレスを発散する方法を思いつくやつもいる。うまくできているな‥‥俺もレイズだ」
レーヴェも紫煙を揺らしながら、大きく賭けにでた。
「おいおい、後悔しないのか?」
「そっちこそ」
ゼラスとレーヴェの間に火花が散ったように見える。
「では、オープンだな」
ホアキンの掛け声でハンドがオープンされる。
勝ったのはシリウスだった。
「『フォー・オブ・ア・カインド』悪いな」
口では悪びれるもシリウスがチップを遠慮なく手元に寄せる。
「フルハウスを超えるとは、運がいいよあんた」
ゼラスはくくくと楽しそうに笑い、ビールをぐいっと飲んだ。
「皆‥‥楽しそうね? 料理は‥‥どう? キャロラインさんから教えてもらったタコスだけれど‥‥」
リンが給仕をしつつ、ホアキンたちのいるテーブルを覗きこむ。
トレイには香ばしいかおり漂うタコスが乗っていた。
「いただこう、そうだ‥‥貴方にひとつお願いしたい。王にテキーラ多めのマタドールを、このメッセージつきで頼めないかな?」
ホアキンはタコスを受け取り代わりに注文とメッセージを書いたカードを渡す。
それを読むとリンがふっと微笑んだ。
「わかった‥‥わ。けれど‥‥貴方も‥‥いじわるね」
それだけ言い残し、リンは席を離れていく。
「一体、何をいったんだ?」
レーヴェがタコスを食べつつホアキンに聞いた。
ホアキンは久しぶりに食べるリンの料理に満足に笑うとこう答えた。
「世の中見えるものがすべてではない。見えないからこそ、できることもある‥‥そういうことさ」
●お色直し
「それじゃあ、かんぱ〜い。しっとりと楽しみましょう」
ババ抜きを終えたナレインはライディの帰りと共に飲み会モードに入っていった。
「乾杯です。ホアキンさんからもらったジュースですがお付き合いします」
「どうした、ライディ。未成年でないのならもっと飲むがいいぞ」
遠慮気味なライディに酒を勧めるリュイン。
外見でいくと役割は反対のような気もする。
「乾杯に間に合いませんでしたね。クリスさんの着替えを手伝っていましたら‥‥」
ハンナがクリストフと一緒に輪に混ざりだす。
クリストフはハンナとおそろいの民族衣装に着替えていた。
「こ、こういう格好は初めてなので、緊張します‥‥です」
「きっと、ゼラスさんも気に入っていただけますよ」
ハンナに言われると、ぼしゅっと赤くなって修道服のときの癖で顔を隠そうとする。
しかし、フードがないため、両手で顔を抑えるクリストフ。
「いいわねぇ、恋って。私にも運命の人現れないかしら〜」
「それって、男性なのか女性なのか、すごく気になります」
ナレインのつぶやきにライディが突っ込みをいれつつマタドールを飲んだ。
「うえっ、これって‥‥ア、頭がくらくら‥‥」
「ほう、ライディ酔っ払ったのか。しかたないな、ナレイン。介抱してやってくれ『いろいろ』と!」
いろいろと特に強調し、リュインがナレインに指示を出した。
「ふぇ? 何を‥‥その手に持っているのはワンピー‥‥ス」
そこまで確認したあと、ライディが気を失いナレインは化粧しつで着替えから化粧まで、凛華と一緒に仕立て上げたのは言うまでもない。
●Dance! Dance! Dance!
『皆さん、ただいまよりダンスミュージックを流します。一緒に楽しみましょう』
エルが機材に設置されているマイクでアナウンスを流すと軽快なダンスミュージックが流れ出す。
「リンさん、よろしければ踊りませんか?」
「私‥‥無愛想な顔した女が相手でよければだけど‥‥」
レールズはリンを誘い、リードしながら踊りだす。
「こんなのんびりした依頼でリンさんと一緒になったのは初めてでしたね」
レールズは笑いながらリンをくるりと回す。
「そうね‥‥でも、こういうのんびりしたことをやろうと、ライディ君も‥‥あの放送局の人も‥‥がんばっている」
リンもレールズにあわせるようにステップを踏んだ。
「上手ですね、場慣れしています?」
少しくらい教えようと思っていたレールズは苦笑しつつリンに聞いた。
「人前で踊るのは恥ずかしい‥‥のよ? でも‥‥貴方がリードしてくれているから‥‥忘れられそう」
「よかったです、楽しみましょう。この時間を」
レールズは微笑み、ダンスを続けた。
「ファティマ、その衣装にあっているぜ?」
同じようにゼラスとクリストフも音楽にあわせて陽気に踊っていた。
「あ、ありがとうございます‥‥これでも、前から少し練習していたのです」
顔を真っ赤にしながら、クリストフはゼラスと踊る。
手を握られ、ゼラスの温もりを感じるだけで幸せな気分に心を満たされていく。
それは思慕なのか恋心なのか今のクリストフにはわからかった。
ただひとつ。
『これからも、ゼラスとこんな時間を作っていきたい』という気持ちだけだった。
一方、変わった組み合わせもある。
「ライディ様、着替えられたのですね‥‥とてもお似合いでしたのに」
いつもの服装に着替えたライディに対して、桜子は心底残念そうにつぶやいた。
「ぜんぜんうれしくないです‥‥トラウマになりそうですし」
携帯で写真を撮られたことを思い出したのか、ライディが肩を落とす。
「ふふふ、ねぇ、ライディ様。わたくし達は忘れてはならないと思いますの。こうして支えてくれる人がいることを‥‥。ライディ様のような『戦い方』もあるということを」
「桜子さん?」
桜子はいつになく感傷に浸りつつ話た。
ライディも不安になったのか桜子の瞳を見て不安そうな顔を向ける。
「ごめんなさいな。らしくありませんわね? ダンスのほうお誘いしてもよろしいかしら?」
「このリズムのものでしたら、多少は教えれます。日本舞踊は教えてもらわないと無理ですけれど」
「ご安心くださいな、まずは簡単な阿波踊りから‥‥」
「趣旨ずれていませんか?」
「あらあら」
そんな漫才のようなやり取りをしつつ二人は踊りだした。
フロアには一般人も能力者も精一杯楽しもうという心で結ばれた人々が踊り続ける。
●腹が減っては戦はできない
「肉、うめぇ〜」
ダンスを楽しんでいる人をよそに食べて千影は食べて楽しんでいた。
「おにっくにっくにく〜」
ロデオ優勝者のコハルも同じである。
「ちか‥‥げさん、勢いよく食べるとのどに詰まられちゃいます」
レーゲンは周囲を気にしてか、愛称で呼べなくて少しもどかしさを感じていた。
「レグも食えよ。三食お菓子ばかりなんだろ? しっかり食べないと大規模作戦に影響でるぜ」
千影はもしゃもしゃとがっつき、ステーキのお代わりを遠慮なく頼む。
「ヴィルフリートさんにも、帰ったらご飯あげないといけませんね」
千影の食べっぷりを見たレグがやさしく微笑みビールを飲む。
「そうだな、ヴィルフリートさんもレグも俺が護る。それが俺の大規模作戦のノルマだ‥‥ぜ」
言ってて恥ずかしくなったのか、最後の方で頬をかく千影。
そんな千影の姿にレーゲンがくすくすと笑った。
「大規模作戦が終わったら、二人で祝勝会あげましょうね‥‥ちかのいきつけの居酒屋‥‥で」
今度はレーゲンのほうが照れて赤くなり、ぺちぺちと頬を叩いた。
幸せな時間。平和なひと時が流れる。
それは、美琴も同じだった。
「お義兄さん、私の作った巻き寿司食べて」
「ん、最近腕を上げたな?」
「本当? ボクうれしい!」
すっかり元気になった美琴は公司にほめられて思わず抱きつく。
「あら、ずるいわ。私だって」
美影も対抗して公司に抱きついた。
「やれやれ、人が見ているぞ二人とも」
公司は落ち着いていうが、顔はまんざらでもないようである。
『皆様、最後に主催のキャロライン様へアメリカ民謡で感謝を評したいと思います。よろしければ、お付き合いくださいませ』
ハンナによるアナウンスが流れる。
時計を見れば夜も深まっていた。
一人、また一人とアナウンスに引かれて移動をしだす。
そして、パーティに集まった全員が幾重にも重なる輪を作り、歌と踊りをしだす。
アメリカの心温まる民謡。
大きな戦いが控えているが、結束を持ってすればいかなる障害をも跳ね返しそうなほどに息の合った歌と踊りにより宴の幕は閉じられた。
その後、Big Shotのカウンターから見える掲示板に、一枚の寄せ書き色紙が飾られた。
中央にはこう書かれていた。
『最後の希望のこの店で、必ず再会しよう』