●リプレイ本文
――リネーア・ベリィルンド(gz0006)さんを他の人に取られたくない
――本部での仕事ぶりや面倒見の良さ、そして美人
――仲良くなれたらと思って依頼にかこつけてラブレターなんてものを出したりして、時々一緒に過ごす時間もあったけれど
――全然良い雰囲気も作れず、結局は良いお友達どまり
「それでも誰かのところに行ってしまうのは嫌だ」
奉丈・遮那(
ga0352)は今までのことを思い返し、そして決意する。
「クリスマスの返事も濁されたまま、こんな気持ちで諦めることなんて出来ない」
UPC本部でリネーアのお見合い話を聞いた遮那はこうして動き出していた。
●暗躍する能力者達
「失礼。あなた方に女難の相が出ていますね」
じっと顔を覗き込み、立花 零次(
gc6227)は藍羅武雄に向かっていいだす。
夜色に桜が描かれた羽織と無地の袴・着物の一揃いを身に着けた零次の出で立ちは怪しいながらも何か力のありそうな雰囲気が漂っていた。
その雰囲気におされてか、武雄は不安げな顔で零次を見直す。
「きょ、今日はお見合いなんだ。大切な僕の天使を手に入れるお見合いなんだ。女難なんて不吉な‥‥」
「ふむ、お酒好きの女性には注意された方が宜しいかと」
「そのような方に近付くことで、その周囲から様々な災禍があなた方に齎される恐れがあります。どうかご注意ください」
「わ、わかったよ。君の言うことを信じる!」
「ゆめゆめ気をつけられよ」
零次の堂に入った演技を見た武雄はすっかり信じ込んでしまい、怯えながらリネーアとのお見合い部屋へと入っていく。
「お疲れ様ね‥‥下手な仕掛けはお見合い成就に縺れ込みそうだから、速やかに慎重に対処と」
零次がその隣の部屋に入ると、中では百地・悠季(
ga8270)が事前に調べたリネーアのお見合い相手の情報を見つつ唸っていた。
重度のオタクとか、あまり知りたくもない情報ばかりで美味しい料理も喉を通らない状態なのだが‥‥。
「結婚とは本来愛し合うもの同士が交わす神聖な誓いであるはずですわ。それを妹さんの為とはいえ、意に沿わぬかもしれない相手との縁談を受けようとなさるなんて‥‥この話がどう転がるにせよ、自分で冷静になって考えていただくべきですわね」
食事に口をつけつつ、妊娠中のために荒事を避けているクラリッサ・メディスン(
ga0853)は自分の指輪を見つつ今回の話を振り返っていた。
アダーラにはすぐさま連絡を取り次ぐことはでき、現状の説明ができるに至ったが忙しくてこちらにはこれないとのことだった。
能力者だからこそ世界中を飛びまわれるのだが、校則の厳しいお嬢様学校のアダーラは何かと身動きがとりづらいのである。
一言、『遮那さんにリネーアお姉様のことをよろしくお願いします』と言伝をクラリッサは預かっていた。
「後はどう転ぶかでしょう」
零次の言葉にその場の誰もが頷きで答える。
キメラと闘うことよりも難易度の高いミッションが始まった。
●リネーアのお見合い?〜破談編〜
「爽やかそうな人で安心しました。うちの上司がお写真を持ってきてくださらなかったもので‥‥」
「急なお話だったものですから、こちらとしても嬉しいところです。実物はとてもステキです」
オペレーターとして働いているときのような笑顔を浮かべてリネーアは武雄と話はじめる。
予想よりもいい人のようで一安心したということもあった。
だが、その空気を壊すかのように隣部屋からBGMが流れてくる。
「これは‥‥『視聴者には見えない鎧をつけてます』でお馴染みのマール放浪記のオープニング!」
新人類並の感覚で反応した、武雄だったが、すぐさま咳払い一つして席に座りなおした。
***
「うちの居候がアニメに詳しくてよかったぜ‥‥」
ラジカセを壁につけてテーマソングを流していた魔宗・琢磨(
ga8475)は壁越しに聞こえてくるリアクションに思わずにやけるのが止まらない。
「上の方はどうしているかな‥‥」
「へっくしゅ‥‥誰かあたいの噂でもしてるニャかね〜」
屋根裏では琢磨の言葉に軽いくしゃみをしてアヤカ(
ga4624)が動きやすい防護服姿で隣の部屋の天井から下を覗いた。
「リネーア姐さんがお見合いニャか〜。そう言えば、あたいも人のことも言えないニャがいい年みたいニャしね〜」
自分のことと照らし会わせながら、すすっと天井裏の板を少しずらした。
「お酒を飲まれる‥‥のです‥‥か?」
「え、ええ‥‥『嗜む』程度にです‥‥が」
ギクシャクした空気が流れている光景に思わずアヤカは含み笑いを漏らす。
「そこっ!」
天井裏から覗いていたアヤカに向かって、湯飲みが飛ぶ。
とっさに閉めた板に湯飲みが当たってガコンと鈍い音がした。
「リネーアさん?」
武雄は突然の事に言葉を失っている様だった。
もちろん、リネーアの上司と武雄の親も同じである。
下が動揺している間にアヤカは隣の部屋にこっそり戻っていった。
「あら、私ったら、おほほほほ」
誤魔化して無理やり微笑むが微妙な空気は晴れない。
***
「おほん、とりあえず食事にしましょう」
咳払い一つして上司は話題を変える。
「あいよ、おまちどうさん」
上司が仲居を呼ぶとやってきたのは湊 雪乃(
gc0029)だった。
乱暴に湯飲みがをおいていき、めんどくさそうに相手をする姿は柄が悪いの一言につきる。
「ああ、それとそちらのお客さんから。純米『バグア殺し』の注文を受けてたからついでにおいとくね」
「僕はそんなもの頼んだつもりは‥‥」
武雄はつい先刻に言われた注意すべき存在の酒の登場に若干顔が青ざめてきた。
「んー、そうだったかなぁ、注文はそっちの紙に‥‥おおっと!」
頭をかいて雪乃が注文の紙を取ろうと立ち上がったときに『うっかり』バグア殺しをリネーアの上司へとシャンパンシャワーのごとくぶっ掛けた。
日本酒独特の芳醇な香りが部屋を包み、悲惨な空気が充満したのはいうまでもない。
「早くタオルをもってこい!」
「いいお酒がもったいな‥‥ではなくて大丈夫ですか?」
思わず漏れかけた本音をリネーアが抑え込んでいる間に仲居に扮した雪乃は部屋を後にした。
「食事もまだですが、せっかくなのでここは若い二人に任せておきましょう」
『巻き込まれるのはごめんだ』と言外にいっているような雰囲気で武雄の親が酒まみれのリネーアの上司を連れて部屋を後にする。
悲惨な空気はなくなったが、代わりに充満している微妙な空気はなんともいえない気分である。
「お、酒‥‥お、お好きなんですね」
「え、ええ‥‥まぁ‥‥」
会話を元に戻そうと二人は向き合うが、改めて二人きりとなるとお互いうつむいて話ができなかった。
「話は聞かせて貰ったじょ! 此処からはボクの時間、ワンサイドゲームなのさね!」
微妙な空気をものともせずに襖を開け、リズィー・ヴェクサー(
gc6599)が部屋に入ってくる。
「にーちゃんねーちゃん、いい雰囲気かましてるじゃないのさねー! 万年彼氏無しのボクなんて‥‥よよよよよ」
片手に炭酸飲料のペットボトルを持ってきたリズィーが浴びるように飲むと、いきなり泣き出した。
それにあわせて隣の部屋では大宴会がはじまったりして、もうお見合いの雰囲気はむちゃくちゃである。
「隣が騒がしいですね。注意にいってきます」
「は、はい‥‥」
男らしさを見せようとして隣の部屋にいく武雄をただ、眺めるリネーアだった。
●リネーアのお見合い?〜激動編
「大酒のみで料理が壊滅的な上司がいてニャね〜」
「やっぱ旨いなあ、いいところの飯はお主の分も食うぞリズィー」
「あー、ちょっと食べないでよー! ボクのご飯ー!」
武雄が部屋をあけるとが服を着替え終えた雪乃に妊娠中で栄養をとらなきゃいけないクラリッサと百地などが盛り上がっている。
ちゃっかりリズィーも混ざっていて、美味しい食卓を普通に楽しんでいた。
「ちょっと、君たち! 僕達は大事な話をしているんだ。静かにしてくれたまえ!」
「大事な話ねぇ‥‥お見合い結婚した後で仲を深めるのを否定したくはないですが‥‥今のリネーアさんの顔みて、幸せになれると思いますか?」
怒鳴るようにいってきた武雄に対して、魔宗は座ったままに顔をあわせず静かに答える。
「き、君たちには関係のないことだっ! こ、これは僕と彼女と、彼女の妹の問題なんだ」
「何が本当の幸せかなんて、私には分かりませんが、『妹のため』と、自分自身の幸せを蔑ろにすることを、当の妹さんはどう思われるのでしょうか‥‥」
怒りから一転して、動揺を見せる武雄に零次が追い討ちの言葉をぶつけた。
零次の言葉は廊下で様子を眺めにきたリネーアをびくりとさせる。
「話にならないな。リネーアさん、中庭に行きましょう」
武雄が悩んでいるのかやや俯いているリネーアの手を引いて、中庭に移動しようとしたとき物陰から一人の男が飛び出した。
「そのお見合い、ちょっと待ったーっ!」
「遮那‥‥さん?」
知り合いの登場にリネーアは驚き、改めて部屋を見れば見知った顔がいくつもある。
「何だね、君は!」
「奉丈遮那‥‥能力者です」
武雄が『また変なのが』と苦虫を噛み潰したかのような顔になるが、遮那は遠慮なく続けた。
「リネーアさん、あなたには僕の側に居てもらいたいんです。リネーアさんもアダーラさんも、絶対守って見せます。バグアからも、生活でも。だから、僕と一緒にきてください」
突然の告白に、リネーアの体は更に震え、眼をまん丸にして遮那の方を見続ける。
「き、君! 一体何を‥‥リネーアさん、早く行きましょう」
リネーアの手を握ってひっぱろうとした武雄だったが、そこに雪乃がSMG「ターミネーター」を空砲で撃ってきたものだから動きが固まった。
「弾は入ってないから平気だ、うん大丈夫だ、問題ない」
何が問題ないのか、分からないが雪乃が満足しているようなのでよしとする。
言葉を続けずにじっと何時ものほわっとした雰囲気とは違う、真剣な眼差しを向けてくる遮那の方へリネーアが歩いていった。
「ま、待ってください! リネーアさん!」
「‥‥すみません、藍羅さん。私はやっぱりこのお見合いにお答えすることができません」
ぺこりと一礼すると遮那と共にリネーアは武雄に謝り、その場を後にした。
「ちょ、ちょっと君!」
「おっと、そこの人、これを見てもまだどっかに行こうなんて思うのかい?」
動揺し始める武雄の前に魔宗はりねーあのぬいぐるみを取り出してみせる。
「そ、それはラストホープでしか出回ってないという『りねーあのぬいぐるみ』! 君たちもまさか!」
「ラストホープの能力者ですわ。結婚とは自分自身が幸せになる為にするべきものだと思いますわ。彼女は妹さんの為になりすぎています」
静かに食事をしていたクラリッサが座りながら武雄に向けて言葉をつむいだ。
●リネーアのお見合い?〜完結編〜
遮那とリネーアの二人は中庭の方にでていた。
急いでかけてきたのでお互いの息もあらく、整えるまでに時間がかかる。
「はぁ‥‥はぁ‥‥まさか、遮那さんがこんなことするなんて」
「ははは‥‥自分でも思ってませんでしたけど‥‥リネーアさんを他の人にとられたくなくて。あと、アダーラさんからリネーアさんのことをよろしくとも貰いました」
息を整えながら、遮那は真剣な瞳でリネーアをみつめつつ、自分の気持ちを素直に伝えた。
「リネーアさんのことが好きです。クリスマスのも一緒に返事を聞かせてもらっても?」
昨年のクリスマスに遮那はリネーアに『家族』になりたいと遠まわしの告白をしていたのである。
「今日のことは私自身で良く分からない悩みを持っていましたけれど‥‥遮那さんに言われて、分かったような気がします」
くすりと小さく笑ったリネーアは遮那の眼を見つめ返して答えた。
「私の方こそ、よろしくお願いします‥‥結婚まではさすがにちょっと考えてしまいますけれど」
「ああ、僕もそこまでは‥‥その、ありがとうございます」
苦笑を浮かべるリネーアに対して、遮那はきゅうにドギマギしだす。
「ふふふ」
「あはは」
どこか決まらないながらも、そんなところがらしいかなと思う二人だった。
***
「にゃ〜。遮那ち。よく頑張ったにゃー。祝勝会を後は楽しむニャよ」
二人の到着を待っていた能力者達は元から始まっていた宴会を仕切り直す。
「そうなると来年の今頃が楽しみよね。あたしも落ち着いてる頃合だから、仲人ぐらいなら引き受けるわよ」
「ははは、そうなれるといいんですけどね‥‥」
席に座った遮那はお酒を注いでくる悠季の一言には苦笑しか返せなかった。
現状に至るまでもかなりの時間を要した遮那としては『結婚』というのはハードルの高いのでる。
「そんな、めでたき二人にはお酒をプレゼントするのさね! アルコールに飲まれてしまうがいいわ〜!」
リズィーが手持ちのコスケンコルヴァと発泡酒をだして、やっかみ半分に盛り上げた。
「よーし、成功報酬として奉丈氏のおごりでいっぱい食べるぜ! しゃぁぁぁ!」
雪乃もテーブルにある料理を片っ端から食べて小さなお腹に詰めていく。
「お二人ともおめでとうございます。費用は俺からも出しますから」
いい食べっぷりを見せるリズィーと雪乃を見た零次は苦笑した。
「いいえ、皆さんが私のためにしてくれたことですから、私が出します。迷惑をかけた人にも謝りにいきますよ」
「僕が謝ります。皆さんがやってくれたのが僕の背中を押すためですから」
「仲がいいことですわね。こういう姿こそ、人生のパートナー同士の姿ですわ」
クラリッサは静かに呟き、食べ物を口に入れる。
幸せな空気の中で食べる料理はとても美味しく感じた。