タイトル:【JTFM】Betrayalマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/16 17:04

●オープニング本文


 2011年 3月 クルゼイロ・ド・スウル基地
「カリ基地の包囲網は成功だ。コロンビアへのバグアの干渉はもうないだろう」
 ジャンゴ・コルテス大佐はブリーフィングルームに集まっている兵士達に向けて告げる。
「よって、こちらからも攻め手に入る。被害があるのはこちらも同じであるため、先ずは現状を片付けていく」
 大きなテーブルの真ん中に広げられた地図に駒を置いてコルテス大佐は説明を続けた。
「現在のところ逃亡中のキメラ四天王などを片付ける。コロンビアでのことはここで清算して次の勝負へと出る」
 ニヤリと片方の口元だけを上げたコルテス大佐の顔に思わず笑いをこぼすものもいる。
「そして、今後はコロンビアから逃走先であろうエクアドルへと軍のKVの修繕を済ませて出撃を行う。これにはグランマーゴイも投入し、決着に向けて一歩優位に立つべく動くぞ。作戦は以上だ、休めるものは休み、エクアドルへの出撃体制を整えてくれ」
 大まかな南米戦線『JTFM』の終わりまでの道筋が見えてくる。
 密林の覇者となるのは、人か、バグアか‥‥。

●南米ボリビア国境
「まずいですわ‥‥まさか、このような状況になるとは‥‥」
 コロンビアからのバグア撤退による影響は、何も表立ったものだけではない。
 各地方に散らばる親バグア派にとっては切り捨てられたといっても過言ではない状況に陥っていた。
「オニール・トランスポーターの代表として私はまだまだこの国を動かせるのに」
 逃げ惑い、疲れた体を木陰において少女は息を突く。
 彼女はカルメン・オニールといい、南米のボリビアの優良企業『オニール・トランスポーター』の若き代表だった。
 しかし、表向きの話であり、裏ではバグアと内通してキメラをボリビア国内に運んだり、優良な人間をバグアへ提供したりする企業である。
「もうすぐ、迎えが来るわ‥‥これでボリビアからエクアドルへ逃げれば私はこの体を捨てて生き延びることができる」
 国境沿いに配達のトラックが止まると、カルメンは乗り込みエクアドルに向けて出発を始める。
 しかし、後方からは既にボリビア軍が手配した能力者達が追いかけてきていた。
「仕方ありませんわ。手土産として残しておきたかったアレを使います。いきなさい! 私の兵隊よ」
 トラックの荷台から出てきたのは真紅に両肩を染めた、AU−KV‥‥。
 『カーディナル・リターナー』と呼ばれる動く死者[リビングデット]達だった。
 

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
鳳 勇(gc4096
24歳・♂・GD
カズキ・S・玖珂(gc5095
23歳・♂・EL

●リプレイ本文

●意志の確かめ
「あの赤い肩の部隊を仕掛けた張本人か‥‥ならば見逃す訳にはいかないな」
 ジーザリオを走らせる白鐘剣一郎(ga0184)はハンドルを握りつつ呟く。
「運転の方は頼みますよ。こちらは狙撃に集中します」
 ガチャン、カチャンと金属音やシュルシュルとロープ類が擦れる音を後部座席から響かせて篠崎 公司(ga2413)が銃を構える。
 篠崎は737mmという全長をもつスナイパーライフルの銃身をロールバーに乗せ、自らの体をカナビラで固定するという念の入れ方で準備をしていた。
「生きている人も死んでいる人も操るか‥‥救いようがないな‥‥」
 もう一人の同乗者であるシクル・ハーツ(gc1986)は追いかけているバグア、カルメン・オニールについての資料を眺めていた。
 カルメンの容疑が本当であるならばではあるが、逃走している現状からいえばグレーだ。
 前方にトラックが見え、距離が詰まろうとしたとき、荷台が開いて赤い肩のAU−KVが飛び出してきた。
「赤い肩のAUKV、白鐘さん、あれは‥‥!」
 自身もバイク形態のAU−KVで走る沖田 護(gc0208)が大きな声を出す。
 この時点でグレーは黒へと変わり、能力者達も覚醒しての迎撃体勢に入った。
「最後に一つだけ聞いておきたい。カルメンを捕らえるか討つかどちらだ?」
 ハンドルを強く握った白鐘は正面を見据えたまま周囲の味方に問う。
「これ以上、犠牲者が出る前にかならず止める‥‥!」
 シクルが妖怪変化を射落とすのに用いたと言われる弓と同じ名を持つ雷上動を構え、弦を引きつつ答えた。
 その言葉に頷きをもって篠崎も沖田も続く。
「よし、いくぞ」
『AUKVの構造的弱点は、腹部の装甲と、関節部特に脇の下です。あと足元のタイヤもです』
「さて、狙い撃つとしましょうか」
 ≪超長距離狙撃≫を使った篠崎がスナイパーライフルのトリガーを引くとトラックの中で同じようにスナイパーライフルを構えていたパイロドスの1体にあたって狙撃姿勢を崩させ、さらにもう一発が胴部を貫いた。
 銃声が口火となり両者の戦いがはじまる‥‥。

●挟撃作戦
「カルメン・オニール‥‥親バグア派か。人類を裏切った罪人、どのような末路を歩むか教えてやらなければな」
 ジーザリオと併走していたヤナギ・エリューナク(gb5107)とタンデムしている鳳 勇(gc4096)のSE−445Rが加速する。
 アクセルを全開にして飛び出してくるAU−KV達を避けつつトラックの隣にまで追いつく。
「攻撃は我に任せて貰う。運転は頼んだ」
 ガシャンとM−121ガトリング砲を構えた鳳がトラックのタイヤを潰す。
 ダダダダダとガドリング砲から放たれた雨にトラックのタイヤがバーストしてバランスが崩れた。
 ガタンガタンと大きく揺れて蛇行をはじめる。
 ミカエルがヤナギ達を追いかけだし、残りのバハムートとリンドヴルムが後方からの敵に向かった。
「ハハッ、ドラグーンとは一度力比べしてみたかったんスよねぇ!」
 植松・カルマ(ga8288)の眼球が赤く染まり、獲物見つけた獣のような動きでリンドヴルムへと飛び掛る。
 バイクに騎乗したままで移動や、攻撃スキルを発動するとその衝撃や勢いに壊れてしまうのだ。そのため、彼は躊躇う事なくバイクを乗り捨てていた。
「ヒャッァハァァッ!」
 チンピラといった風貌のカルマが≪両断剣・絶≫を使い、その言葉通りにリンドヴルムの腕を両断した。
 痛みに転がるはずだが、血も出てこない腕を放置して空いた手でリンドヴルムはパンチを繰りだす。
 ゴスッと鈍い音と共にカルマが頬を強く打たれるが、唇から流れた血を舌で舐めてカルマは更に横薙ぎに払った。
 上下が分かれてリンドヴルムの1体が倒れる。
「お前の相手はこっちだ」
 1体のリンドヴルムが倒れ、フォーメーションを変えようとしたバハムートへカズキ・S・玖珂(gc5095)がブーストで接近した。
 後方からの≪制圧射撃≫によって動きの鈍るバハムートに対してバイクから飛び降りる。
 ≪強弾撃≫と≪急所突き≫をあわせ、装填していた貫通弾を撃ちだした。
 強固な体には通じないはずの攻撃も、味方から教えてもらった間接部への集中攻撃で足を崩すことだけには何とか成功する。
「ちっ‥‥硬い敵は面倒だ」
 舌打ちをしてカズキは次の貫通弾を装填した。
「よし、こっちも降りていくぜ」
 追い抜いたヤナギと鳳の二人はターンと共にバイクを乗り捨て蛇行運転をするトラックの前に立つ。
「あんたらが進む道はこの先ではない、地獄だ」
 ガチャンとM−121ガドリング砲のリロードを終えた鳳が≪制圧射撃≫を真正面から撃ち、トラックのフロントガラスなどを穴だらけにしていった。
「そういうことだぜ」
 ≪瞬天速≫を使って瞬時にミカエルの側面に回ったヤナギだが、攻撃が空を切る。
「くっ‥‥!?」
 ミカエルの反応速度は、ヤナギの予想を僅かに越えていた。紙一重で攻撃をかわした敵は、即座に大地を蹴り、目の前から消えてしまう。
 気づいた時には遅く、背中に激痛が走ったかと思うとランスが抉りこまれる。
「はっ‥‥ちったぁ、やってくれるじゃねぇかっ‥‥よぉ!」
 片足を軸に≪円閃≫を使って回転し、ランスをさしてきたミカエルを斬りつつも背中のランスを引き抜いた。
 それと同時にトラックも横転し、逃走劇から一転した戦いに状況は流れていく‥‥。
 
●女帝の選択
『一度だけとう、投降か否か』
 バハムートに超機械「ヘスペリデス」の衝撃波を当てて、すぐさまトラックへ駆け寄った沖田はカズキと共にカルメンへ投降を呼びかけた。
「お前が少女の姿をしていようと、俺は惑わされない」
 周囲への警戒をしつつもカズキがSMG「ターミネーター」の装填を終えたとき横転したトラックが爆発して、一人の影が降り立ちながら、光の銃弾を飛ばしてくる。
「投降などしませんわ。私はもっと上を目指せるのですから! 貴方達、私を逃がすのですよ」
 カルメン・オニールがスカートを翻して降り立つと、赤い肩のAU−KV[カーディナルリターナ]に指示を飛ばすとバハムートが壁になって彼女を守る
 ここまでくれば、彼女が人類の敵であることは明らかだ。グレーどころか真っ黒であり徹底抗戦の構えであることははっきりした。
『ならばここで倒させていただきます、玖珂さん!』
「硬い相手は苦手だが、仕方ない‥‥」 
 二人が気合を入れなおしているとバハムート達はガドリング砲で銃弾をばら撒きはじめる。

 ***

「今だ!」
 シクルが横転したトラックを壁にしつつ狙撃を続けるパイロドスに向かっていく。
 後方からは篠崎がスナイパーライフルでの支援射撃を続けてくれていた。
 敵の弾をかわし、リロードのタイミングで踏み込む。
「死んでも戦わされるか‥‥すまない、あなた達に罪はないが斬らせてもらう!」
 身の丈を超える長さを持つ大太刀『風鳥』を抜いてシクルがパイロドスを斬り付けた。
 装甲がさかれ、血にぬれたカンパネラ学園の制服が覗く。
 噴出す血はなく、痛がることもなく、パイロドスは至近距離でスナイパーライフルをシクルに向けてトリガーを引いた。
 衝撃に身を揺らがせたシクルだったが、パイロドスの頭部を銃弾が屠る。
「すまない‥‥」
「成仏させてやる事が出来るほど説教が上手い訳でもねえんでな。その鉄の棺桶で勘弁してくれや」
 パイロドスを援護に向かおうとしたリンドヴルムをカルマが≪猛撃≫で叩き伏せた。
 
 ***
 
 パイロドスに向かって鳳が驟雨で斬りつけるも、ミカエル2体はタイミングをずらしながらランスによる攻撃を繰り出してきた。
「我の鍛えられし驟雨をここまで耐えるとはな‥‥」
 鳳はたて座を司る五角形の盾『スキュータム』でランスを受け止め、いなす事の方が攻めるよりも多くなる。
「こいつぁ、チョイト本気をだしていくかねぇ」
 背中に負った傷も沖田が≪練成治療≫を使ってくれたために治っているヤナギは鳳がランスを受け止めているチャンスをいかして≪瞬天速≫で間合いを詰めた。
 太陽の剣とも呼ばれる眩い光を放つガラティーンを振りかざして攻め込んだ。
 一撃を叩き込むも、ヤナギを無視する相手にニヤリとして≪二連撃≫を発動させる。
「そこそこ硬いじゃねぇのよ‥‥だけど、同じところに打撃与えるとどうなるか学校で習ったのを忘れたか!」
 ガラティーンを手元でまわしながら軌道を変え、連続で叩き込む動きは華麗であった。
 沖田に教えてもらった脇の下や腹部の装甲を中心に狙って刃をくらいこませ斬り裂く。
「ま‥‥死んでたら覚えてるもくそもねぇよな」
 まだ動く敵に対してヤナギは容赦なく≪二連撃≫を腹部に集中させて上下に体を別れさせた。
「鳳隼流 円倒刃!」
 攻撃してきたもう一体のミカエルの攻撃を≪弾き落とし≫で確実にそらせた鳳はその反動を利用して反時計に回転する。
 ミカエルの背中に驟雨を刺し込んで抉った。
 一瞬、動きを止めたミカエルだったが、エルボーを食らわしては鳳を突き飛ばそうとする。
 だが、その拳も≪自身障壁≫の前に阻まれて進むことはなく、その姿は不死鳥の如き守りのように見えた。

●カルメンの終わり
「カーディナルリターナーはこちらで足止めをする。カルメンを頼んだ!」
「‥‥っ! 逃げたぞ!私では追えない、頼む」
 戦闘のさなか、カーディナルリターナーをけしかけていたカルメンが街道沿いの茂みに入って逃走を試みていた。
 カーディナルリターナーの数は半分をきっているためにまずいと判断したのだろう。
 だが、そこまでも歴戦の傭兵である白鐘と篠崎は読んでいた。
「どこに行くつもりですかな、レディ」
「このまま逃げられると思うな」
 カルメンの足元を銃弾が走り、飛び退ったところへ白鐘が紅炎で薙ぎ払う。
「くあっ、このっ!」
 地面に無残にも転がりながらもカルメンは光線銃を撃って二人から逃げようとしていた。
「逃がしません!」
 アサルトライフルをカルメンの足元に放って篠崎が注意をひきつけてる間に白鐘が隙を逃さない大技を繰り出す。
「天都神影流『秘奥義』紅叉薙っ!」
 ≪猛撃≫と≪両断剣・絶≫、更には≪剣撃≫もあわせた攻撃が、重にも重なって敵を薙ぎ払う紅の剣閃となりカルメンを襲った。
 赤い血が飛び散り、生きているものの最後を伺わせた。
「‥‥成敗」
 どしゃっと血の海に倒れこみ、何も言うこともなく少女の姿をしたバグアの命が費える。
 ボリビアの闇にはびこり、悪行を重ねてきた諸悪の権化の最後にしてはあっけないものだった。

●終結
 ボリビアからエクアドルに向かう街道の傍、少々小高い丘に8つの墓標が立てられた。
「こんなところで最後を迎えるなんて思ってもなかったでしょうね」
 両手を合わせて祈っていた沖田が武器の残骸と木で作られた墓標を前に呟く。
 カーディナルリターナーの遺体からは、それを操っていたと思われる植物キメラの蔓のようなものが発見された。
 それを見た沖田には、同じAU−KVをまとって戦うものとして、思うところがあるようだった。
「このようなことをして何になる。報酬を受け取って早くここから去るべきだ」
 カズキはサングラスを人差し指で直すと、冷たく言い放つ。
 このまま長居しては他のバグアに目を付けられる可能性もないとはいえないのだ。
「そうだな、バイクも拾って、迎えに来てもらうとするか」
 沈黙がしばし訪れたが、ヤナギがそれを破り次々と移動していく。
 ボリビアの脅威が去ったはずだというのに、誰もが手放しで喜べないそんな結果だった。