タイトル:おやっさん格闘を語るマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/15 01:35

●オープニング本文


「まったく、やってらんねぇなぁ」
 バイパーのパーツデータを解析していたゴンザレス・タシロは一息ついて、薄いコーヒーを飲んだ。
 大規模作戦がはじまることもあり、急遽新作KV武装の開発をメルス・メスの社長から指示を受けている。
「ったく、今週はようやく帰れると思ったのに‥‥」
 高性能なバイパーのパーツを解析し、そこから格闘戦に特化したフレームを作るのがタシロの夢である。
 家庭よりも仕事を優先してしまうのが嫁や娘に評判が悪かった。
「短期間で何かやるとしたら、プランはこいつかな‥‥」
 パソコンを動かし、ひとつの企画書を表示させる。

『スパークワイヤー

 バイパーの電送システムを応用し、ワイヤーに過電流を流してワームやキメラにダメージを与える近接武器
 
 性能:練力をチャージするが、射程3、知覚50の威力をキープ。命中させるには技量が必要』
 
「細かい電圧調整は直接データとって仕上げるっきゃねぇな‥‥大規模作戦で使用されりゃうちの株もあがるだろうからな」
 ずずーとコーヒーを飲み終えると、タシロはUPCの南中央軍に電話をかけようとした。
 そのとき、タシロの携帯が鳴り出す。
 映画の悪役が登場するテーマソングだ。
「こ、こんなときに‥‥」
 恐る恐る携帯にタシロは出た。
『貴方、明日は帰ってくるんでしょ?』
「いや、それがだなぁ‥‥もうしばらく俺は仕事を‥‥」
 電話の相手は奥さんである。
 タシロが頭を下げる数少ない相手だった。
『結婚記念日なのよ? 忘れていたってことないでしょうね?』
 言葉にトゲがあるのをタシロは感じている。
「忘れてねぇよ‥‥帰れないから、プレゼント贈っておくから。愛してるよ」
『そう、ちょうど欲しかったものがあったの〜‥‥』
 急に温度が上がる電話の相手、そしてタシロの財布は寒くなることが約束された。
 長い注文のあと、電話をきる。
「くそっ、こうなったら仕事をし続けてやる!」
 自棄になったタシロは電話を掛け出す。
 文字盤が涙で少し曇って見えた。

●参加者一覧

御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
内藤新(ga3460
20歳・♂・ST
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
佐伯 (ga5657
35歳・♂・EL
ジェレミー・菊地(ga6029
27歳・♂・GP
シアン・オルタネイト(ga6288
16歳・♂・FT

●リプレイ本文

●親父の背中が語るもの
 能力者たちが高速移動艇でやってきたのは、メルス・メス社の修理工場。
 ジャンクパーツの山がいくつも築かれており、工場自身も雨風を長い間耐えてきたのかボロボロである。
「こいつはいいなぁ、匠の家。男の城ってやつだな」
 無精ひげの生えた顎をさすり、ジェレミー・菊地(ga6029)は工場の中を歩いた。
 ナイトフォーゲルの腕だけのパーツなどが並び、油の匂いと熱気が充満している。
 奥へ進むと資料の散在したパソコンのある部屋にたどりついた。
「ゴンザレスさん、子供に『おじさん誰?』って言われる前に帰ったほうがいいと思うよ?」
 シアン・オルタネイト(ga6288)は部屋の中で背中のすすけているタシロに対して声をかけた。
「うるせぇよ。とっとと帰るためにも協力しやがれ」
 ぐるりと小太りなゴンザレス・タシロがシアンの方を振り向きトゲのある言葉を返した。
 タシロの目にはクマがあり、無精ひげもボサボサでメルス・メス社の工房で缶詰になっていたのがよくわかる。
「おっちゃん、お久しぶりだべさ。おっちゃんも家庭の仕事の板ばさみで大変そうだべな」
「そういってくれるのは坊主くらいだよ」
 内藤新(ga3460)がタシロに優しく接する。
「相変わらずだな、タシロ。前の格闘強化フレームの開発進度はどんな具合だ? ここは熱いな。日本じゃこの季節はもっと寒いぞ」
 御山・アキラ(ga0532)は南米の工場の暑さにいつも以上にライダースーツのチャックを下げる。
 その行動にいつの間にか集まっていた周囲の男性整備員達はヒューっと口笛を吹く。
「お前ら! 仕事しやがれ! ねぇちゃんもこういうのはヤロウが多いんだ。ちったぁ自制しろよ」
「こればかりは私の性分だからな‥‥人は早々かわらん」
「そりゃそうだろうけどよ‥‥まぁ、いいぜ。さってと」
 アキラの態度にタシロは頭をわしわしと掻く。
 薄いコーヒーを飲み干すとタシロは立ち上がった。
「さぁて、今日一日で仕上げる。飯はだすからキリキリチェックいくぞ!」
「そうこなくっちゃな、ワクワクしてきたぜ。こりゃ、サインがマジに欲しくなってくるぜ」
 タシロの行動にジェレミーは感動していた。

●摸擬戦!
「各部、異常なし。レコーダー起動‥‥こちらは準備完了です」
 S−01の補助シートでノートパソコンを持ち出し、瓜生 巴(ga5119)は”悪ガキ科学者”リチャード・ガーランド(ga1631)に向かって声をかける。
「起動シークエンスを確認。こちらも行っくじゃ〜ん」
 鋼の騎士がゆっくりと立ち上がった。
『こちらR−01。さて、やりたいこともありますし、本気でいかせてもらいますよ』
 セラ・インフィールド(ga1889)の優しくも厳しい戦線布告がS−01のコックピットに響く。
「こちらのS−01は命中強化タイプ、R−01とは違うのだよ! R−01とは!」
 リチャードは気分が高揚してきたのか、覚醒をしだした。
 瞳が赤くなり、子供っぽさより乱暴さが口調に強くでる。
『さぁ、それはどうでしょうか!』
 セラの掛け声と共にR−01が近づいてくる。
「操縦センスはこちらが上ですが‥‥人生経験はあちらが上です。油断しないことですね」
 荒っぽくなるリチャードに対して巴はなだめるかのように言葉をかける。
「大丈夫、だいじょ〜ぶっ!」
 セラの射出したワイヤーは空中に伸びただけに終わる。
「今度はこっちの番! くらえっ!」
 セラの攻撃を避けたリチャードが高速移動をしつつスパークワイヤーを射出する。
 やはり、こちらもなかなか当たらない。
「移動しつつ攻撃して当たらないんじゃ、使えないな〜重くしたら何とかなるかもじゃん」
「そうするのであれば、重量は覚悟したほうがいいでしょう‥‥分銅を先につけて鎖鎌のような具合にすれば多少は制度もあがるでしょう」
 巴も攻撃した状態をトレースし、揺らぎを計測した。
 その後距離を詰めて、セラが攻撃に出た。
 リチャードは回避をしようとするも、スパークワイヤーの電撃を機体に受ける。
 チカチカと一瞬コックピット内の明かりが点滅した。
「威力は申し分ありませんね。起動モジュールをAパターンからBパターンに変更してみましょうか?」
「了解っ!」
 巴のかけた声にリチャードは元気にこたえた。
 そして、そのまま三時間ほど訓練が続き、リチャードの覚醒が止まると共に一時摸擬戦は終了したのである。

●おやじのおじや
「そぉぅら、男の料理だぞ」
 摸擬戦をいったん中断しての昼食タイム。
 食堂で待っている一同に、タシロが大きな鍋で持ってきたのは雑炊である。
 今日は食堂のおばちゃんはお休みだった。
「ほほう、南米で雑炊に出会うとは和食グルメを名乗るものとしては見過ごせないな」
 ジェレミーは目をキランと光らせた。
 おじやを器によそい、まずは匂いを楽しむ。
「残り物を混ぜた感じだが、食欲をそそる香りだな」
 ジェレミーはうなずいて語り、蓮華でゆっくりとおじやをすくいあげて口に入れる。
 鰹でとった出汁と、卵が口に広がる。
 純粋な日本の味かと思って何度か噛めば、南米特有の野菜や魚などの風味が混ざってくる。
 違和感もなくすんなりとしみこんできた。
「う‥‥」
「どうした? おまえさんの口に合わなかったか?」
 うつむくジェレミーを心配して、タシロが食べる手を止めてジェレミーに近寄った。
「うーまーいーぞぉぉぉぉぉっ! 素朴ながらもしっかりとした味わい。熟成された出汁と、卵の絶妙な混ざり合い。これぞ雑炊の真髄だ!」
 ジェレミーは急に立ち上がって、食堂の中心で美味いと叫んだ。
「いきなり叫ぶなよ、気色悪りぃ」
 おじやを食べていたタシロがジト目でジェレミーを見る。
「すまない、グルメとしての性が俺にこうしろと訴えてな」
 ジェレミーは座り直して食事を再開する。
「スパークワイヤーもいいが、ディフェンダーの強化とかはここの会社じゃやらないのか?」
「SES兵器の改造は未来研の仕事だろうに‥‥」
 アキラの問いかけにもしゃもしゃとおじやを食べつつタシロは答えた。
「いや、そうじゃなくてだな‥‥たとえば、ディフェンダーを熱して硬いものを切れやすくするとか‥‥」
「面白いアイディアだな。レーザー砲のカートリッジで電流を確保すれば機体の動力使わなくていいから楽かもな」
「やれそうなのか?」
 意外にもすんなり通ったのでアキラは思わず目を丸くする。
「いいアイディアは使わせてもらうぜ、こっちだってドロームに負けないほどの資金がほしいんでね」
 タシロはおじやを食べつつぼやいた。
「ふと、おら思ったんだが、おっちゃんのKVの武器は巨大スパナっぽいべ。巨大武器といえばスコップなんかどうだべ?」
 今度は内藤がタシロにつめより、質問を投げかけた。
「スコップもいいなぁ、KVによる復興作業も必要になってくるだろうからな」
 食事も終わりタシロは煙草を咥えて火をつける。
「新兵器としては是非、近距離で威力のあるものがほしいですね‥‥万力とか杭撃ち機とか‥‥」
 セラがタシロに自分のアイディアを提案する。
「万力はキメラ相手でもサイズを選んじまうのがネックだろうな。汎用性は高くないだろう‥‥杭撃ちはちと厳しいな。銛撃ちくらいならなんとかなりそうだが‥‥」
「そうですか‥‥少し残念ですね」
 今までがいい方向だったので、期待していた分セラの落ち込みは激しい。
「現状の技術とか、金とかの話だ。いずれ他所がやるだろうよ。その手のは」
 がははと笑ってタシロはセラの肩を叩いた。
「ナックルフットコートの知覚バージョンがほしいのだけれど‥‥タシロさんはどう考えてる?」
「ああ、俺のほうもモーショントレースとかほしいなと‥‥あとはフォーク兵器」
 シアンとジェレミーも食後の水を飲みつつタシロに要望を投げかけた。
「まぁ、どちらも一応俺の理想ではある‥‥詳しい話はまた後でだな。あ、フォークは却下な」
 タシロが煙草をもみ消すと、昼休みの終わりをつげるベルがなりだす。
「さ、午後もしっかりやるぞ。おまえら!」
 タシロは立ち上がると全員に向かって発破をかけたのだった。

●模擬戦二回目
 今度は固定目標を狙う訓練となった。
「先ほどの戦闘具合からすると、今の射程や重量では取り回しが厳しい感じか‥‥」
「そうですね、私の計測したデータでもそのような具合に‥‥」
 アキラと巴がそろって意見を交換する。
 今回は固定目標のため、二人が外から同時にチェックしようという具合である。
『内藤新、いくだよ!』
 内藤のS−01が固定目標に向かってワイヤーを伸ばし、電流を流した。
 ブレス・ノウとの併用では無改造機で4回前後である。
 命中はしやすく、固定目標のほぼ真ん中を狙っていけた。
『ほほぅ、なるほど‥‥現状ならブレス・ノウで補える範囲だべな』
「ただし、固定目標なのがネックでしょうね‥‥」
 結果をみて、巴は呟いた。
 移動している相手にはやはり当てづらいという不安は残る。
『おっちゃん、電流の持続時間長すぎねーべか? 燃費を考えるなら、持続時間を減らしてスキルが使えた方がいいべ』
 内藤がタシロに向かって通信しつつ、S−01は燃料切れですぐに止まった。
 S−01が燃料切れで補給とパイロットの交代を行なっているころ、ジェレミーの乗るR−01が射程のチェックをしていた。
『固定目標で少々物足りないが、やることは変わらない!』
 スパークワイヤーを伸ばして目標にあて、そのまま移動回収という流れをチェック。
 そのとき、ワイヤーが宙を泳ぎR−01にぶつかりそうになった。
『うぉぅ!? 洒落にならないぞ。今のは‥‥』
 避けれたはいいものの、当たっていたら自滅もいいところである。
『射程を短めて回収ラグを減らした方がいいと思うぜ‥‥最終判断はプロにまかせるけどよ』
 ジェレミーはやれやれといった具合に答えた。
 そして、S−01にはシアンが搭乗する。
『さて、とにかくデータをためることが目的だね』
 停止状態、徒歩、走った状態などでワイヤーを伸ばしては回収、伸ばしては回収という動きを繰り返す。
『これで費用が抑えられれば嬉しいのだけれど‥‥』
 くるりと振り向きざまに射出して回収。
 帯電時間が現状では長く、回収するにも少々時間が必要そうだった。
『威力を下げてもいいので、安価にして命中をあげたいところかな‥‥』
「威力は下げなくても、ワイヤーの太さを太くすればそれだけ費用は下がるさ。重量はあがるがな」
 シアンの意見を聞き、タシロが手書きでぐしゃぐしゃとメモを取り出した。
 しばらく、交代しつつ最終チェックを行い、一日が終わろうとしている。
「そろそろだな。今日はこの辺で終了だ。お疲れさん」
 タシロの一声で、依頼の終了が告げられた。

●格闘とは浪漫
 再び食堂に集まってメンバーはドリンクを飲みつつ高速移動艇が来るのを待っていた。
「近接打撃戦は同じエネルギーを相互に分け合う行為です‥‥効率が悪いです」
「何をいう、戦いの基本は格闘だっての。古き時代から伝統的に続いているもんだぜ?」
 巴の爆弾発言にタシロは突っ込みを入れた。
「接近戦‥‥が『結局は必要だから』考える。それだけで十分ですし、誰に対しても説得力がありますっ」
 目を少しそらしつつ、巴はあくまでも格闘を否定する話をする。
「格闘といえば、タシロさんの考えている格闘強化フレームとはどのようなものに?」
 セラがサワー系飲料を口にしてタシロにたずねた。
「そうさな、強化版人工筋肉を使ってKVの防御性能を高めつつも重量をあげないという方向にもっていきたいのが理想だな‥‥実現するかどうかは今後の研究次第になるだろうが、目処は立ちそうだな」
 ニヤニヤと笑い、タシロは答える。
「おっちゃんが一からKVを作るとしたらどんなものになるべ?」
「俺の理想のKVは戦場で闘牛士のように戦うKVだな‥‥どこまで近づけるかわかんねぇが、いつか作って見せるぜ。そのための格闘強化フレームであり、お前さんたちの依頼でもあるわけだ。今後とも頼むぜ」
 内藤の質問に自信もって答えると、タシロは腕を組んで能力者に頼むのであった。