タイトル:【東京】ListenToMySongマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/26 07:04

●オープニング本文


●目には目を音波には音波を!
『皆、ボクは桜華・さつき(gz0343)だよ。皆にお願いがあって今日は依頼をだすんだ』
 笑顔を絶やさないアイドルであるさつきに珍しいキリっと頬を張った真剣な表情でディスプレイ上の彼女は話を切り出す。
『東京にね、通信妨害をするための大きな電波塔があるんだって。ラジオも何も聞けないなんて、希望がなくなっちゃうじゃない? だから、ボクはその電波をボク達の歌で相殺して、電波塔を破壊できないかなって思うんだよ』
 アイドルらしからぬ大胆な作戦に誰もが目を見張ったが、彼女の瞳は一人でもやるんだという意気込みが強く現れ、燃えていた。
『だから、皆には手伝ってほしいの。希望の歌を流すこと、ソニックフォンブラスターで電波を相殺できるかどうかわからないけど地上の人たちには聞いてもらえると思うんだよ』
 つまり、囮になるかもしれないことを覚悟の上で、さつきは自分の歌を東京上空に流し、勇気をつけてもらうことと電波塔を破壊することを二つのことをやろうというのである。
 正規ルートの依頼ではないため、報酬は少ない、しかし得られるものはそれ以上かもしれない。
『じゃあ、無理強いは出来ないから、作戦時刻だけ伝えるね‥‥じゃあ、皆、最後まで聞いてくれてありがとう☆』
 一通り説明を終えたさつきは、ペコりとお辞儀をすると、かわいらしくポーズを決めて締めくくった。
 
 ***
 
 そんな、作戦告知から二日とあけて、作戦決行の当日。
 東京上空を1機のピンク色にカラーリングされたZGF−R1オウガがソニックフォンブラスターを起動させ、弾むようなイントロを大音量で流した。『東京を取り戻す作戦なのにボクだけじっとなんてしてられないよ! ボクの歌をきけぇぇぇっ!』
 さつきが東京で放送されているアニメ番組「ティピーリュース」のOP『MOTTAINAI』を流していると、一歩遅れていろいろな歌が流れてきた。
 彼女を追いかけてやってきた能力者たちである。
 バグアの電波塔からヘルメットワーム達が迎撃のために飛びだして電波塔の破壊を阻止しようと動きを見せた。
 希望の歌を響かせて、戦乙女が騎行するように能力者達の秋葉原解放がはじまる‥‥。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
雪村 風華(ga4900
16歳・♀・GP
ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
天戸 るみ(gb2004
21歳・♀・ER
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
片柳 晴城 (gc0475
19歳・♂・DF

●リプレイ本文

●それぞれの決意
「あの街が私を呼んでいるのか、私の内なるモノが行けよと叫んでいるのか。そして同胞達が待っているのだね」
 うつむき、やや反射して瞳の見えない眼鏡姿の鈴葉・シロウ(ga4772)が静かに呟く。
 さつきが出撃する時間の前にやるべき準備をシロウは行っていたのだ。
 プリントアウトされるものを手に取り、口元を彼は緩ませる。
「完璧だな」
 彼が手に持つのは眼鏡をかけた白熊と小さな美少女フィギュアが一緒になった写真だった。
 なんだか、格好をつけたはずがすべてダメになった瞬間、シロウの背後でザグッと細い束が切れる音がする。
「極北で届かなかった想いを、他の誰でも無い私自身という想いを、夢見る未来への想いを乗せて‥‥私、歌います!」
 音の主は長い髪をばっさりと苦無で切り落とした天戸 るみ(gb2004)だった。
 笑顔を絶やさない少女の顔にこのとき浮かんでいたのは強い決意。
 『憧れの姿』から『自分自身』へと踏み込んだ戦士の顔を天戸はしていた。
「気合入っているわね。るみちゃん、何か予定よりも先にさつきちゃん行っちゃったみたいだからあたし達も追いかけるわよ」
 パイロットスーツをしっかりと着込んだ鷹代 由稀(ga1601)がるみの背中を軽く叩いて控え室から格納庫へと急ぎ足で向かう。
「はい! シロウさんも行きましょう!」
 由稀の後に続き、天戸も格納庫へと向かい、その他にも準備していた能力者達が出撃準備にかかった。
 その中でシロウはゆっくりと写真を綺麗にファイリングしたあとで眼鏡を光らせる。
「我々[ヲタク]は一人じゃない。そうだろ、娘達」
 格好よく決めてはいても、どこか残念な香りの漂うシロウだった。
 
●東京上空大空戦
『ボクの歌をきけぇぇぇ!』
 桜華さつき(gz0343)の掛け声が終わるや否や援軍で到着した榊 兵衛(ga0388)の雷電『忠勝』から時代劇の殺陣のシーンで流れるテーマと共にK−02小型ホーミングミサイルを放つ。
『‥‥それにしても大胆なことを考えたものだな。だが、そういう無茶は嫌いじゃない。どこまで手伝えるか判らないが、俺も一枚咬ませてもらおうか』
『ブースト‥‥突撃!』
 兵衛機と合わせて≪アグレッシヴ・ファングVer2.1≫を付与させたK−02小型ホーミングミサイルを放つルノア・アラバスター(gb5133)のS−01HSC『Roat Empress』がブースト加速した。
 ミサイルを追いかけるように加速し、回避しようと散らばるヘルメットワームに向かって肉迫する。
『あんなものがあったら、私達の活動も出来ないしね。ちゃっちゃと壊しちゃお! まずはヘルメットワームを片付けるよ』
 突撃するルノア機を援護するように雪村 風華(ga4900)は竜牙からUk−10AMMを発射した。
「敵さんは出来るだけ引き付けてターゲットの塔から引き剥がしたいが‥‥なかなか派手にやってくれたもんだ」
 目の前で飛びかうミサイルの数にゲシュペンスト(ga5579)は帽子を深く被りなおして苦笑する。
 凡そ1000発を超えるミサイルの束を見れば苦笑するなというのも無理な話だ。
『それたのは撃ち落していく‥‥電波塔の破壊へ向かってくれ』
 片柳 晴城(gc0475)がシラヌイS2型でレーザーライフルML−3をミサイルを避けたヘルメットワームに向かって撃ちつつゲシュペンストに告げる。
「OK、コール、フレスベルグ!」
 帽子の位置を戻したゲシュペンストは愛機のスカイセイバー『Hresvelgr【フレスベルグ】』をヘルメットワーム群の奥に見える電波塔へと向けるのだった。
 
●勝利の歌を響かせろ!
『この時を待ってた‥‥奪われた故郷を取り返せる時を‥‥。ここまでに失われた命全てが無駄ではなかったことの証のため‥‥東京[ふるさと]よ、あたしは帰ってきたっ!』
「集めて! みんなの‥‥願いを!」
 天戸は愛機のワイズマン『セカンドサイト』の≪ハイコミュニケーター≫で由稀とクリアな通信をしながら、互いの声をソニックフォンブラスターに乗せて秋葉原の大空へと響かせた。
 現役アイドルと引退したアイドルの奇跡のデュオは戦場にリズムを刻み、流れる旋律に合わせて敵を攻撃していく。
 空を自由に駆けながらもレーザーガン「フィロソフィー」の光が尾を引いて青い空に彩りをつけた。
 ヘルメットワームの外装を貫き、破砕音が何度も続いて撃墜までの楽章を生み出している。
 16機のヘルメットワームのうちで、動いているのは半数ほどとなり、能力者達の勢いも更に加速していった。
 初手のK−02小型ホーミングミサイルの乱舞が功をそうしているものの、まだ動けるものは多数存在する。
『あたしが抑える! るみちゃん達はそのまま続けて!』
「分かりました!」
『うん、ぶっつけ本番のセッションでも僕は大丈夫だよ☆』
 由稀のガンスリンガー『ジェイナス』からのUK10−AAEMの支援を受けながら、さつき機と共に由稀機から離れすぎないようにして近づく敵機へ確実に攻撃を仕掛けた。
 正面の敵を二機が和音をつくり出すようにレーザーガンとガドリング砲が連続で叩き込まれ、更に1機のヘルメットワームが爆発した。
 しかし、残っているヘルメットワーム二機が天戸とさつきの背後へターンをしながらプロトン砲を撃とうとエネルギーを前方に集中させていた。
『いかせるかっての‥‥! ロックオン完‥‥了! コンテナフルオープン‥‥乱れ撃つわよおおおおっ!!』
 GP−7ミサイルポッドのコンテナからミサイルが飛び出して攻撃を仕掛けようとしていたヘルメットワームへとぶつかって砲撃の射線がさつき機と天戸機から外れる。
「由稀さん助かりました! ブーストターンして3人で一斉に攻撃しましょう!」
 誰かについていくだけではなく、天戸は自ら率先して戦闘に加わりながらも由稀とのデュエットを歌い続ける。
 短く無造作に切った髪が頬を撫でるのも気にせずに天戸は愛機のスロットルを踏み込んだ。
『さあ、あたしの‥‥いや、あたし達の歌を‥‥聞けえええええっっ!!』
 由稀機も戦列に加わり、3人の歌が戦場に響き渡る。
 アイドルのコンサートさながらの派手な花火を打ち上げながら‥‥。
 
●掃討作戦
 綺麗な歌声と共に激しい戦闘を繰り広げる3人に対して、時代劇のテーマを流しながら闘う一団も最後の追い込みにでていた。
 生き残っているヘルメットワームも電波塔を狙う部隊がいることにようやく気づいたのか、そちらを追いかけようと離脱するものがでてくる。
「そう、簡単に、抜けさせ、ません、よ?」
 離脱に気づいたルノアは試作型「スラスターライフル」を撃ちこむ。
 背後から撃ちこんだにもかかわらず、敵機はそれをかわそうを機体を斜めに傾けながら高度を上げた。
「その、パターンは、よんで、ます」
 初手のミサイル作戦の後に突っ込んでいったルノアは敵を撹乱しながらも、細かい機動に目を向けパターンを解析していたのである。
 避けることの出来る多少知能のいいヘルメットワームの存在も確認済みだった。
 だが、そこまで読んでいたルノアにとって、回避までも予測の上で作戦を立てている。
 上昇してきたヘルメットワームの上から十六式螺旋弾頭ミサイルを狙い撃ちした。
 ホーミングするミサイルをヘルメットワームは避けることが出来ずに装甲を貫いて中で爆ぜるミサイルにやられていく。
『お見事。これは俺も負けられんな』
 ルノアの鮮やかな戦い方、そしてソニックフォンブラスターで歌を流すアイドル傭兵達の粋な戦いぶりに兵衛は興奮していた。
 統制が取れずにバラバラになってきたヘルメットワームに向けて兵衛機は試作型「スラスターライフル」の銃弾を浴びせて確実に沈めていく。
『今の自分に出来ることは、この歌を途絶えさせないように‥‥だよな』
 片柳機は≪超伝導アクチュエータVer.2≫を使用し、GP−02SミサイルポッドでGプラズマ弾頭ミサイルを飛ばして散らばっている敵機を残さず損傷を与えた。
 一撃で落ちないものもいるが、UK−11AAMやCSP−1ガトリング砲を撃ち込んで着実に1機ずつを秋葉原の空で散らす。
「あとは、あの電波塔‥‥」
 ルノアは足止めをしつつ、戦いながらそびえ立つ大きな電波塔に目を向けた‥‥。
 
●とどめの一撃
「私もソニックフォンブラスター付けたかったけどな‥‥。まっ、しょうがないか」
 風華はBGMとして流れている歌を聴きながら、気合を入れると共に小さく最後に呟く。
 彼女も現役の傭兵アイドルとして戦いながら歌うのには興味があった。
『猫耳娘も、黒髪ロングも、ポニーテールも、銀髪っコも。全員守れなくて何が男か!』
 もう一つ、並ならぬ気合を入れているシロウと共に愛機の雷電改『飛熊』が風華と共に電波塔へと向かっている。
「この電波塔の構造は‥‥結構耐震構造とかしっかりしているね。支柱を壊してもそう簡単には崩れないよ」
『下からの振動には強いのならば、中心の支点を崩すのみだ‥‥ここからが、ラストショーダウンだ!』
 風華がタワーの構造をみながら、味方に注意を促すもゲシュペンストから力強い返事が返ってきた。
 中央に向かって3機が飛んで近づき、破壊すべく武装を解放する。
「人から娯楽を奪うなんて、そんなの絶対許さない。絶対にぶっ壊すんだから! ‥‥突撃開始するよ!」
 電波塔へ接近した風華は≪オフェンス・アクセラレータ≫を起動し、出力を高めた状態でR−703短距離リニア砲を電波塔に発射した。
 近い距離で叩き込まれた重火器の一撃が電波塔を震わせるが、倒れるまでには行かない。
「まだまだいくよっ!」
 リロードの隙を隠すように風華は84mm8連装ロケット弾ランチャーを続けざまに砕けた外壁へと叩き込んだ。
『アキバよ、ヲタクは帰ってきたぞ! これが勝利の鍵だ!』
 シロウ機は84mm8連装ロケット弾ランチャーを電波塔の根元へと撃ちこみ、倒壊したときの方向を危険ではない向きへとなるようにしていく。
『あまり時間はかけたくないが、ちっ‥‥なかなかに硬い相手だ』
 47mm対空機関砲「ツングースカ」とホーミングミサイルDM−10を電波塔へ浴びせるゲシュペンストから舌打ちが漏れた。
『ぶちかませぇ! ゲシュペンスト!』
「私の作った穴からなら、中から崩せるよ!」
『OK、派手にへし折ってやる!! 究極!  フレスベルグキィィィィック!!!!」
 二人の声を受けたゲシュペンストは<エアロダンサー>で人型に機体を変形させ、レッグドリルのついた脚部を風華達が作った塔のひずみに食らい込ませる。
 回転体がゴリゴリと電波塔の内部の柱や壁を砕きついには貫通して後ろへと抜けた。
 変形をさせて飛行形態に戻ることなく、広い地面に脚をつけてガガガガガっと削りながらゲシュペンスト機が着地をする。
 ポーズを決めると電波塔はゆっくりと傾き、崩壊したのだった。

●勝利者への‥‥
『敵機の確認はできません。増援も無いうちに帰還しましょう』
「いや、その前にやることがある」
 天戸の呼びかけにシロウは白熊となった頭を振って答えた。
 取り出したのは出撃前に印刷していた『原型師白熊とその娘達』の写真であり、キャノピーを僅かに開くと、黒い煙の上がる秋葉原の空へとばら撒く。
 眼下をよく見れば、レジスタンス達が手を振って別れを告げていた。
『あたし達のやったこと、ちゃんと伝わったみたい‥‥ね‥‥』
 嬉しそうな反面、やや息苦しそうな由稀の声がシロウの耳に伝わる。
『歌で世界を救いたい、か‥‥今日、聞いてみたけどなんとなく、みんなが歌いたがる気持ちもわかるかもな‥‥』
『届いて、よかった、です』
 片柳やルノアも自分達の戦い、そして歌を流し続けたさつき達に向けられたささやかなお礼であった。
 何を言っているのかまでは聞こえないが、ありがとうといっている気がする。
 それだけ、一生懸命に手を振られ能力者達はラストホープへと戻っていくのだった。