●リプレイ本文
●北上に進路をとれ
夕暮れ、ナイトフォーゲルを11機積んだコンテナ船はメンフィスを出発した。
補給用弾薬や食料などもつんでいるため、簡易空母そのものである。
それもすべてナイトフォーゲルが50mという滑走距離で離陸できる性能をしているからだ。
「VTOL型高速移動艇もあります、これなら十分な戦闘ができそうです」
Hish(
ga6000)は甲板に積み込まれた荷物を見て満足そうにうなずき、船室エリアへ足を運ばせる。
そのエリアの一角ではミーティングが開かれようとしていた。
「ヘイ、ブラザー。お前さんのファミリーを助ける為にも全力を尽くさせてもらうぜ」
緊迫した空気の中、ダニエル・A・スミス(
ga6406)は地元の民である『赤き奇妙な馬』に明るく声をかけている。
肩をバシバシと叩き、人懐っこい性格がうかがえた。
「よろしく、頼む」
馬は片言で答え、一礼をする。
「それで、お馬さん。進路はどうとるのか聞かせてもらえないかな?」
ラン 桐生(
ga0382)は軍から支給してもらった航空写真などの資料を広げ、二人のやり取りをさえぎって本題に戻した。
「運河をそのまま渡る物資輸送の船多い。ある程度紛れられる。あと、運河の入り口まではバグアの勢力強くない。ただ、クレストヒルに白人の作った工場がある。バグアに占拠されてしまったかもしれない」
馬はうつむきながら語った。
「そこがジャミング拠点の可能性はありそうね。天気はどう?」
「今は『冷たき妖精』の舞い降りる季節。『雪の精』はない」
斑鳩・眩(
ga1433)の質問に対して、馬は詩的な回答を述べる。
「あー、わかりやすくいってくれるとたすかるのだけど‥‥」
「『寒さは厳しいが、雪は降らない』そんなところだろうさ」
カウボーイの格好をしたザン・エフティング(
ga5141)は眩に補足説明をした。
「さすがだぜブラザー!」
ザンの物言いにドレッドヘアのダニエルは陽気に笑う。
「ネイティヴに陽気なアメリカンにカウボーイ。祖国を思う気持ちは一緒とはいえ、珍しい組み合わせになったものだ」
ザンはため息をつきつつ、カウボーイハットをかぶりなおした。
●戦場前の船上にて
ミーティングも終わり、各自戦闘前の最後の準備をしていた。
赤き奇妙な馬は進路側の甲板に立ち、風を感じている。
「いたた‥‥私は戌亥 ユキっていいます。マァピアさんって呼んでいいですか?」
依頼を梯子してきた戌亥 ユキ(
ga3014)が怪我をし、疲労の残る顔で医務室から甲板のほうに出てきた。
マァピア・ウィトコというのがネイティブ流の発音であるからである。
「そのほうがオレうれしい。それより、オマエ怪我している。無理するな」
「いえ、挨拶は大事ですから!」
挨拶をするために見上げているユキの頭をマァピアは撫でた。
「ここにいたのか、おまえさんと杯を交わしたくて探したぞ‥‥ん? 邪魔だったか?」
「そ、そんなんじゃないです!」
建宮 潤信(
ga0981)がミネラルウォーターを持ちつつ二人を見ると微笑ましそうに顔を緩めた。
ユキは急なことで頬を赤くして、うつむいてしまう。
「杯? 日本の風習なのか?」
「そんなところだ」
マァピアの問いかけに潤信は苦笑しつつ答える。
「では、俺も混ぜてもらおうかな」
「我も参加しよう。我のメンバーがほぼそろっているようだからな」
「王零もシンジもいいところを邪魔するんじゃないよ」
村田シンジ(
ga2146)、漸 王零(
ga2930)も自分のナイトフォーゲルの整備が終わったのか顔を出してくる。
しかし、MIDOH(
ga0151)は少し反応が違っていた。
「いいところって、そんなんじゃないですから!」
MIDOHの反応にユキは取り乱していた。
「二本しか持ってないぞ、俺は」
自分だけと思っていた催しに参加メンバーが多いことを喜びつつも、潤信は苦笑した。
「杯とは儀式のことか? なら、オレやりかたある。手で器を作りそこに水を注いで飲む」
「それは面白いやり方だな」
マァピアの儀式作法に王零は興味深げだった。
「では、それでいきましょうか」
「あ、私もやります‥‥大きな人たちばかりで場違いかもしれませんけれど」
うつむいていたユキも話題が変わったことで元気に答える。
2m近い巨漢が3人に、170cmの村田、165cmのMIDOHが小さく見えた。
ユキは村田達よりさらに低い。
「水の精霊よ、清き流れと心がままに我らを清め、邪を退けよ」
マァピアはそう呪文のような言葉を述べながら、一人一人の手で作った器にミネラルウォーターを注いでいった。
その水を飲んだ一同はいつものミネラルウォーターよりもどこかおいしく、力がみなぎるように感じる。
(「怖くなっていちゃいけないよね‥‥がんばろう」)
その中で、ユキは心の奥に恐怖心をしまいこむようにがんばっていた。
「大丈夫さ、理想で空を飛ばなければやっていける。ユキも戦場をくぐってきた傭兵なんだから自信もちなよ」
ユキの思いを感じたのか、MIDOHがユキを撫でて励ました。
作戦開始まで後数時間‥‥河は長く遠く伸びている。
●先手必勝
運河の手前にコンテナ船を待機させ、11機のKVはコンテナより離陸する。
「さて、勝つか負けるか‥‥」
眩はぼつりとつぶやきつつ、高度をゆっくり上げていった。水上からではわからなかった地形が目の前に広がる。
地図とは違い、大きな町は6割ほど破壊されていた。
150kmほど先のシカゴはとても小さいが、その空がワームによって黒いのが確認できる。
『HAHAHA、実はミーのシスターが今度‥‥』
「くだらないこといっていると、本当に死ぬよ」
『もっともだな』
眩はダニエルに気楽に返し、潤信が肯定した。
『無駄口叩いてないで、先手を取るぞ。これだけ余裕があるのはいいことだが、我は逆に怖い』
3人の会話をさえぎるように王零が自らの感想を述べる。
「なんとかなるでしょ」
眩は相変わらず気楽だった。
『なるのではなく、する! 先手を取るぞ! 前方に飛んでいるヘルメットワームに突撃後一斉射撃!』
王零の言葉と共に11機のKVが速度を上げ、空高く舞い上る。
前方には5機の小型ヘルメットワーム。
それらに向かって王零機、ユキ機、眩機、ダニエル機、MIDOH機。そして、マァピア機が一斉に遠距離兵装を放った。
王零、眩そしてダニエルの放ったミサイルが集中してあたり、1機を撃墜する。
ユキの放電装置も別のヘルメットワームをまばゆい光で包みこんだ。
「派手に撃っても、落とせたのは5機中1機か‥‥ジャミングの影響か、相手の機動力か」
集中攻撃も3人が約2回当てて何とかというレベルである。バグアの技術の高さを眩は見せられたように感じる。
『回‥‥運、! ‥‥ザッ』
王零らしい声だが、ノイズ交じりで聞き取りづらくなっていた。
「何いってるかわかんない‥‥ってっ! これ!」
眩がたずねようと思ったとき、ワームからプロトン砲の反撃が返ってくる。
王零チームは矢のように飛んでくるプロトン砲をさけ、そのままクレストヒルへ向かっていく。
村田機にプロトン砲がかするも、村田機はそのまま飛び立っていった。
一方、ランチームはHish以外すべてにプロトン砲の洗礼が浴びせられることとなった。
「くぅっ! 空で落とされるのは本望だけど‥‥やすやす落ちる気はないよ、カモォォォン!」
グラッと揺れたコックピットで、眩はにやりと笑ってつぶやいた。
それは命を懸けたものになるかもしれない。
けれど、生きて帰ると眩は心に決めていた。
●乱戦
「損傷10%‥‥装甲を改造してなかったら、これじゃすまなかったな」
王零チームとして飛行している村田は損傷度を計算してゾッとなる。
目の前には中型のヘルメットワームが姿を見せる。
こちらに気づいているのか、すぐにプロトン砲を放ってきた。
潤信機とユキ機が被弾し、潤信機にいたって装甲が溶け出している。
「ちっ! 村田機、仕掛ける!」
村田が飛び出し、潤信機、王零機、ユキ機が続く。
MIDOH機は狙撃体勢に入った。
敵機は3機でこちらは5機、1機ずつ集中して撃てば倒せなくはないはずだ。
突撃ガドリングとレーザーがうなった。
ほとんどがよけられ、当たったものもフォースフィールドに阻まれていまいち破壊力に欠ける。
『これ‥‥食らい‥‥っ!』
MIDOHの声が通信機から漏れる。
そして、集積砲の弾丸が村田の横を通り抜け敵機に当たった。
フォースフィールドを突き破り、大きく揺れた。
「このまま攻めれるっ!」
村田がそう思い仕掛けようとした。
だが、フォースフィールドの光が収まらず、強く輝く。
そして、ヘルメットワームはフィールドを張ったまま体当たりを仕掛けてきた。
●騎士VS闘士
ランチームはマァピアの先導のもと陸地に逃げる。
障害物が多いため隠れながら戦えるためだ。
地形は変わってないが、町の廃墟は近くでみるとひどい。
「ハッ! 人型のほうが俺の性にあっているぜ!」
ダニエルは降り立つと、ビームコートアックスを振り上げ追いかけてきた小型ヘルメットワームに切りかかる。
「お返しのダンクだッ!」
ユキ機の攻撃で弱っていたヘルメットワームをアックスで斬った。
カウンター気味の一撃はフィールドを裂き、ヘルメットワームを半壊させる。
弱ったヘルメットワームにザン機のレーザーが浴びせられ撃破にいたる。
『ダニエル‥‥、あぶな‥‥』
「あぁん?」
Hishの声が聞こえ、ダニエルが振り返る。
そこには巨大な人型兵器が出刃包丁のような剣を振り上げていた。
「ガッデム!」
振り下ろされた一撃をダニエルはとっさにビームコートアックスで受け止める。
だが、ビリビリと振動が襲い掛かりKVの足が地面を砕いて埋まった。
「パワーが違いすぎる、なんて奴だ!」
そんなとき、ラン機が横からディフェンダーを巨人の腕に刺し、ガドリングを叩き込んでディフェンダーもろとも腕を破壊する。
「サンキュー! とっとと逃げよう」
『はや‥‥ザッ、撤退‥‥ブッ』
ダニエルがぼやくと、ランも同じことを言おうとしていたかノイズ交じりに撤退を知らせる声が聞こえた。
ガドリングで牽制をしつつ再びKVたちは空へと上がる。
ヘルメットワームとの追いかけっこが再び始まった。
●渦中の闘争
「村田! 大丈夫か!」
ヘルメットワームのタックルを受け大きく揺れた村田機に対してMIDOHは声をかける。
返事はノイズしか返ってこない。
「ノイズが激しくって乱戦じゃ不利すぎる‥‥馬のいっていた工場の破壊を目指してみるか」
MIDOHがつぶやいていると、王零機が真横につき突撃をするハンドジェスチャーを見せた。
「リーダーも考えることは一緒か‥‥このまま被害が増えるならってね!」
燃料も厳しいため、施設の確認だけでもして起きたいのは同じだったらしい。
王零機が墜落するかのように地面へ下がり、超低空飛行で施設へと向かっていった。
MIDOHは振り切るように降下し、それについていく。
被害の多い潤信機、村田機、ユキ機がそれに続いた。
低空飛行でトンネルをくぐり、抜ける。
そこには大きな機械工場を改良したバグアの工場が広がっていた。
工場を守るかのように巨大な亀が4機と巨人が2機見える。
「ビンゴッ、当たってほしくなかったけどさ!」
超低空飛行を保ちつつMIDOHはリロードし、巨人を狙い撃つ。
だが、地上でとまっている敵を狙うには戦闘機の速度では早すぎた。
引き金を引く瞬間に敵の上を通りぎている。
「変形しないと無理かっ!」
5機のKVはいっせいに変形し、工場を襲撃する。
巨大な亀が背中についている砲塔を向けて砲撃してきた。
「ぐうっ!」
砲撃を受けてMIDOHの機体が揺れた。
コックピット内にアラームが鳴り響き、破損箇所がレッドサインを知らせる。
MIDOH自身も衝撃でキャノピーに頭をぶつけ、血がたれた。
「やってくれるじゃないのさ! このくらいで!」
リロードのかかる集積砲をしまって、MIDOHはバルカンで戦いだした。
背後からは倒しきれなかったヘルメットワームたちもきて、苦戦する戦いが始まる。
5機のKVだけでは数に押され、退路も厳しくなった。
「くそっ、脱出路を作るのすらままならないっ‥‥」
MIDOHもMIDOHのKVもボロボロになっていく。
そんな時、工場がまぶしく光り、爆音が響いた。
●大きな一歩
「くはぁぅ‥‥なんとか、できまし‥‥た」
ユキは青白い顔をしつつ、爆発する工場を見る。
潤信と共に墜落したと見せかけて工場を襲撃していたのだった。
だが、二人ともボロボロである。
腕はフレームが見え、翼はかろうじてついている状態だ。
ユキにいたっては、負傷していた傷口が開き、血があふれ出す。
「はや‥‥く、もどらな‥‥」
ユキ機がその場を離れようと動いていく。
しかし、燃える工場の中から青い巨人が飛び出し、ユキ機につかみかかった。
「きゃぁぅ!?」
ガシャンとユキ機が倒れ、ユキは操縦桿を手放してしまった。
青い巨人はクローのようなものでユキ機をつかみギリギリと締め付ける。
『ちょっと、それはさせないよ!』
ランの声が通信機から聞こえた。
そして、ガドリングで牽制し、ラン機はコックピットに手を入れてユキを回収する。
「ラン‥‥さん‥‥」
『お馬さんが、いやな予感がするってさ。精霊がいってたとか‥‥そういうの信じないけど、可愛い子を助けられたならOKだね。機体はまた支給してもらえばいいけど、ユキのような可愛い子を失う訳にはいかないから』
ランチームのメンバーも続いて駆けつけてくる。
青い巨人はユキのKVを抱えあげるとシカゴのほうへ撤退していく。
『ランの‥‥チームも、来ているが、どういう‥‥ことだ?』
かろうじてあるけるような王零機がラン機に近づきつつたずねる。
『わかんないけど、急に撤退しだしてね。こっちに来てみれば例の工場が壊れていたってわけ』
ランはなんともいえないといった具合に答える。
『何にせよ、そちらの努力のおかげで半分までは確保できた。これで愛すべきアメリカの大地を一歩取り返せたわけだ』
ザンも一息ついて、警戒を続ける。
『あの青い巨人かなり手ごわい相手になりそうですね‥‥』
そう、戦いは始まったばかりだ。
だけども‥‥。
「暖かい布団で寝たい‥‥な」
ユキは呟く。
今はひと時の休息が欲しいといわんばかりに。