タイトル:【JTFM】Demihumanマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/30 20:14

●オープニング本文


 2010年11月 クルゼイロ・ド・スウル基地
 ブリーフィングルームでジャンゴ・コルテス大佐は映像を眺めている。
『‥‥ボリビア国王、ミカエル・リア(gz0362)としてここに宣言をします。我らボリビアはUPCへの加盟をここに宣誓し、協力することを誓うと』
 一部ではあるが報道されているボリビアの加盟式の映像であり、これによって南米の情勢が変わることを意味していた。
 8月から10月にかけての大規模な防衛作戦により、中立からバグアとの対立、そして戦いを行うことを若き国王が決めたのである。
『国民の皆さんにはこの決定に反対する人もいるかもしれません、この国は内戦の絶えない国でした。この数年中立を保つことで平和を手にして来ました』
 騒然としていた会場が静かになり、映像の中のミカエルはおどおどした様子を抑え、力強くしゃべろうと真剣な表情を見せていた。
『ですが、それは傍観者になるということです。国境の傍では同じように人々が苦しんでいます。平和のために戦っています。それを見過ごしていくわけにはもういかないのです!』
「いうようになったな、あの小公子も‥‥これも能力者と直接触れ合ったお陰だろうか」
 映像を眺めていたコルテスは髭をなでながら、15歳という若さながらに国王となった少年を見守っている。
『だから、戦いましょう。この国だけの平和ではなく、世界の平和のために‥‥。そのために皆さん協力してください!』
 頭を下げるとカメラのフラッシュに合わせて歓声と拍手が轟音のように響いた。
 そこで映像と共に自分の気持ちもコルテス大佐は切り替える。
「ここまでやってくれたのだから、答えてやらねばならないな。まずは隣国のコロンビアのキメラ闘技場からだ」
 地図に表示された一点を眺め、コルテス大佐は部下を呼び作戦会議を始めるのだった。

●亜人の退治
 診療所のベッドの傍に花を飾りながらケイ・イガラスがユイリー・ソノヴァビッチへと話かける。
「ユイリー、UPC南中央軍のジャンゴ・コルテス大佐からエルドラドの駐留部隊にキメラ闘技場の四天王を捜索と排除の協力要請がだされたそうです」
「そうですか‥‥。私の方からもお願いします。ラストホープの能力者にUPC軍と協力して事に当たってくれるように頼んでください」
 重体は避けられたものの心労や事務での疲労もあったために安静状態のユイリーはケイの手を取り懇願した。
「もちろん、そのつもりです。パンデミヤ・モントーヤも回収されたそうなので再度ここを狙ってこないとは限りませんから、警備も兼ねて頼んでおきます」
 ユイリーの手に手を添えてケイは真剣な瞳で見つめ返して答える。
「負傷者の受け入れの手続きなどで忙しかったのですから、これを気に少しユイリーは休みなさい。後は私達が何とかします」
「分かりました‥‥では、お言葉に甘えまして休まさせていただきます」
 ケイの言葉に安心したユイリーはそのままベッドへと体を沈ませて目を閉じるのだった。
 
●バグアの思惑
「結局、きゃつは逃げ出したのであるか」
「そのようだ‥‥治療を終えたとたんに警備員を切り刻み、狂ったように出て行ったそうだ」
 10歳の少女を前にマスクをつけた背の高いサント・マスカラードが話かけている。
 バグア闘技場の地下にある吹き抜け最下層の一室にはバグア四天王とキメラ四天王と呼ばれるもの達が集まっていた。
「強化の副作用とみるとしようか‥‥きゃつも長くはあるまいし、好きにさせよ。UPCどもがワシらをかぎ回っているようであるからな」
「ボリビアの同調でいい気になっているのでしょう」
 ローブをまとったバグア四天王の一人は少女の言葉に同意を示す。
 部屋の隅ではケット・シーが毛づくろいをして欠伸をしていると、すっとその横を通ってアズラエルが一歩前に出た。
 彫刻のような美貌を持つ彼女の顔は少女の命令に対して不快感を見せている。
「クシィー様、私は今回の件は納得できません。同じ四天王のデュラハンも散ってしまった今、数ある戦力を無駄にするおつもりなのですか!」
「この南米は拠点ではない。そしてワシら四天王には好きに動く権利が与えられておる。故に死に場所をみずから決めるのも間違ってはいないであろう?」
「では、彼をみすみす殺させないよう‥‥私も能力者と戦って参ります」
「好きにせよ」
 クシィーと呼ばれた10歳の少女は頬杖を付きながら笑い、アズラエルに行動の許可を与えた。
 アズラエルはクシィーの言葉を聞くと、すぐさま翼を生やして広げ、飛び上がっていく。
「本当にこれでいいのか?」
 飛んでいくアズラエルを尻目に顔のよく解らないバグア四天王の一人はクシィーに尋ねた。
「モントーヤはいずれ死する運命‥‥アズラエルとて、主の仇を討ちたいという気持ちもあろう?」
 笑顔を崩すことなくクシィーはアズラエルの飛んでいった先を見上げ続ける。
 彼女の真意はそこからは読めなかった‥‥。

●参加者一覧

エレナ・クルック(ga4247
16歳・♀・ER
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
ORT(gb2988
25歳・♂・DF
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
リリナ(gc2236
15歳・♀・HA
沙玖(gc4538
18歳・♂・AA

●リプレイ本文

●決戦の地で
「目標、認識」
 無機質な声でORT=ヴェアデュリス(gb2988)が敵の存在を確認する。
 伝えられていた資料と照らし合わせれば片方はアズラエルというキメラ四天王の一人だ。
 もう一人はそうするまでもない、以前に殺し損ねた敵なのだから‥‥。
「もう傷つく人を見たくないですからっ‥‥まずは機動力をそぎましょう。ロゼアさんと月城さんはアズラエルの方をお願いします」
 <先見の目>を使い、探索に力を注いでいたエレナ・クルック(ga4247)は突如現れた二人に対しても冷静に動きを見せる。
「了解だ‥‥。ドラグーンの月城、得物は刀だ、近づいたら斬る」
 名乗りあげた月城 紗夜(gb6417)はAU−KVを起動し、装着した。
「焦らなくていいのよ‥‥二人とも殺してあげるから!」
 ロゼア・ヴァラナウト(gb1055)は月城と共に四天王を分断させるべくSMG「ターミネーター」を構える。
「撃ち落す!」
 白銀の髪も瞳も、そして心までも黒くなったかのようなロゼアは<強弾撃>を付与させた銃弾を容赦なくアズラエルに放った。
「こんなときに能力者ですか‥‥いいでしょう、相手になります!」
 翼を羽ばたかせて上空に一度上がると弓を番えてはロゼと月城に向かって矢を射る。
 開けた場所、さらには上空からの鋭い攻撃は二人を易々と貫いた。
『正確無比か‥‥死の天使の名前を冠しているだけはあるな』
 蛍火でも受け止めきれずに肩口に刺さった矢を一瞥しながら、月城は照明銃をアズラエルに撃つ。
 眩い光を放つ弾がアズラエルの注意を一瞬奪い、それと共に<竜の瞳>で強化された超機械「ザフィエル」の電磁波が叩き込まれた。
『羽根が生えているので、鳥目かと思ってな。ゴングだと思え』
 月城はザフィエルと蛍火を構えながら、アズラエルをゴーグルの奥の瞳で睨みつけるのだった。
 
 ***
 
「四天王か‥‥。そう言われるほどのキメラをこれ以上、野放しには出来ないな。先の戦いで傷ついた人の為にも、ここで倒す‥‥!」
 シクル・ハーツ(gc1986)は二体のキメラを視界に捕らえながら、不意打ちに気をつけ長弓「桜姫」で矢を引きパンデミヤを射る。
 両手に爪を生やしたパンデミヤは飛び跳ねて矢を交わし、敵意を見せてきたシクルに飛び掛ってきた。
「や、やらせません‥‥よ」
 しかし、その爪をリリナ(gc2236)が必死の形相で受け止め、さらに握っていた機械剣βでカウンターをする。
 かろうじて止めれたが、次はないことはリリナにもわかっていた。
 それでも少しでも役に立とうと覚醒して高まる集中力を目の前の敵に注いでいる。
 レーザーで作られた刃がビュンと空をきり、パンデミヤはバックステップをしてリリナを次の獲物として睨みつけてきた。
「狙わせませんよ」
 シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)の言葉と共に光の粒子の束がパンデミヤの肩などを撃ち抜く。
 <影撃ち>による虚を狙った射撃が捕らえたのだ。
『グルゥルァウワァ!』
 人とは違った声を上げてパンデミヤは悶えた。
「パンデミヤさんをやらせるわけにはいきません!」
 悶えるパンデミヤを援護するように上空を飛んでいるアズラエルが飛来しながら火球を撃ってくる。
「おいおい、こっちの方が数が上なのがわかってないのか? 人の心配よりも自分の心配をしろよ!」
 ライオット・シールドで援護の火炎弾を受け止めた沙玖(gc4538)が、盾の表面を伝う炎に焼かれながらも、アズラエルを見下すように吼えた。
 8人の能力者に対して2体のキメラ。
 数で行けば圧倒的有利なのは能力者の方だ。
「数の違いで勝てるほど、わたくし達キメラ四天王は伊達ではありません。その言葉を悔い改めれるよう教えて差し上げます」
 ばさぁっと翼を広げてアズラエルは沙玖に向かって火炎弾を放つ。
 役者は揃い、戦いの幕は上がるのだった。
 
●翼をもがれし天使の末路
 盾を持った沙玖や、リリナがアズラエルの火炎弾を負傷をしながらも受け止めていく。
「この地形で空を飛ぶのは反則だろうが‥‥」
 舌打ちをする沙玖だが、傷はリリナが<練成治療>で回復してくれるために致命傷は一発もない。
「目標確認。抹殺する」
 その間にも小銃「シエルクライン」で狙いを定めるORTが赤い眼球を光らせ、口から蒸気を噴出す機械のような動きで引き金を引いた。
 威圧感を伴わせながら翼をもごうと弾丸がアズラエルを狙っていく。
 ORTだけでなく、シンや月城も超機械の電磁波や光弾で相手の逃げ場を少しずつだが絞っていった。
「いい加減に‥‥落ちろっ!」
 ロゼアの<強弾撃>を伴った銃弾がついにアズラエルの翼を捕らえ撃ち抜く。
「しまった!」
 驚愕の表情を見せるアズラエルだったが、すぐにその体が地球の重力に引かれて落下していった。
 傷ついた翼で最後の羽ばたきをして、地面への直撃を避けて踏みとどまったが、背後に煌きが見えたかと思うと激痛が走る。
「邪魔なその翼を斬り落とし、地へと堕としてやろう!」
 アズラエルが振り返れば沙玖が邪笑に近い表情で<流し斬り>を繰り出していた。
 沙玖の言葉どおり、地に足をつけたアズラエルに6人の能力者達は容赦のない追撃をしていく。
「見敵、必殺」
 ORTが無機質な声を放ち、アズラエルへと肉迫した。
「まだです。まだ、私は負けません!」
 火炎弾をその場で撃ちつづけて、アズラエルは近づかれないように足掻く。
 2mの巨体がじりじりと火炎弾よける事なく迫り、受けた傷を<活性化>で塞いで自らの間合いに入った。
 牡丹の装飾のされた鞘から、片刃の太刀『獅子牡丹』を抜いたORTはアズラエルの首を狙って力強く刃を走らせる。
「なんて、男なの‥‥」
 自由に飛べなくなったアズラエルは手に持っている弓で獅子牡丹を受け止めようとするが<両断剣>を伴った一撃に弓が裂かれた。
『まだ、終わらないぞ。さっきまでの威勢はどうした』
 月城が利き足の右で踏み込み、横から入りながら蛍火を真一文字に薙ぎ、更に袈裟斬りで追い込んでいく。
 白いアズラエルの翼が傷口から噴出す血で染まっていった。
「こんな‥‥これほどまでとは‥‥」
 予想を超えた力にアズラエルは狼狽を隠せず、逃げようとするが足を鋭い刃が貫く。
『ここで逃がすわけにはいかないな』
「逝け」
 逃げ場を失い、翼すらない天使にORTが無慈悲な一撃を首に当てて、その命を絶った‥‥。
 

●本能で動く獣の終焉
「大人しくしてくださいですっ!」
 赤いプレゼントボックスの蓋を開けたエレナはパンデミヤの機動力を削ごうと電磁波を飛ばす。
 一度戦闘をこなしている前知識を総動員して動きを読み、少しずつでもダメージを与ていくが、パンデミヤの再生能力がその効果を低くしていた。
「くっ、疾いな‥‥何とかして動きを封じないと‥‥」
 高い再生能力と共に障害物を盾にしながら動くパンデミヤにシクルは通常の矢ではない攻撃を仕掛けることにした。
 弾頭矢に番えなおし、ジャンプして着地するタイミングを見計らう。
「1、2‥‥そこだ!」
 動きを見据えて、狙い済まされた一発が足場となる地面を爆発させた。
 不意をつかれたパンデミヤの動きが止まる。
「一気に片をつけたほうが良さそうだ‥‥!」
 再生していく体を持つパンデミヤを睨みつけ、沙玖は<スマッシュ>を込めた斬撃を繰り出す。
「ここで勝負を仕掛けていきましょう。援護します」
 シンが両手に構えたエネルギーガンで<二連射>する。
 粒子の束がニ本、パンデミヤの体を撃ち貫いた。
『アグゥアァ!』
 パンデミヤはすぐさま岩場に身を隠そうと動き出す。
「逃がしません、超機械にはこういう使い方だってあるんですっ!」
 岩場に逃げる姿を捉えていたエレナは相手の位置を予測すると、敵をいぶり出すべく超機械の電磁波を発生させた。電磁波は障害物たる岩を砕き、同時に後ろに潜むパンデミヤをも巻き込んで荒れ狂った。
 だが、岩場から飛び出したパンデミヤはエレナに向かって空襲をかけてくる。
「させるか!」
 割り込むようにしてシクルが<抜刀・瞬>を使い、背負っていた自らの身長よりも長い大太刀風鳥を抜いて斬り返した。
 刀身が煌き、飛び掛ろうとしてきたパンデミヤを縦一文字に傷つける。
 血を撒き散らして、パンデミヤが地面へと転がった。
 起き上がろうとした瞬間に、銃弾が追い討ちとばかりに襲いかかってくる。
「反撃する隙など与えるか!!」
 アズラエルを倒したことで、援護できるようになったロゼアがリロードをし、SMG「ターミネーター」の銃口から火を噴かせ続けていた。
 『断ち切る、終焉、抹殺』などを意味として持つ銃から撃ちだされる弾はジワジワとパンデミヤの生命力を奪っていく。
 再生する肉体よりも早く、命を削るためにアズラエルを倒した能力者達も攻撃を集中させるために集まってきた。
 動く余裕すらなく、身を守るようにしてパンデミヤは銃弾や電磁波を受け続ける。
 そんな中で、エレナが攻撃の手を止めて、パンデミヤに向かって言葉をつむいだ。
「教えてください、ユイリーさんを‥‥エルドラドを狙ったのはなにか理由があるのですか?」
「聞いたところで答えられる知能があるとは思えないが?」
 弓を射るシクルがエレナの問いかけを不思議そうに眺める。
 シクルの言葉通り、パンデミヤは答えることなく、突進と共に両手の爪で引き裂くことを選んでいた。
 怒りとか悲しみとか、そういった感情すらない唯の獣として目の前のパンデミヤは選びエレナを傷つける。
「しまった! 大丈夫か!」
「大丈夫です。このくらいは‥‥治せます!」
 <練成治療>で負傷した傷を治すとエレナはパンデミヤに自らの意志を込めて電磁波を発生させた。
 『もう、これ以上傷つく人を見たくない』‥‥ただ、それだけである。
 電磁波を受けて、パンデミヤの血管が爆ぜて血が噴出してきていた。
「いい加減に眠れ!」
 鉤爪を狙ってロゼアの銃弾が次々と撃ち込まれ、ORTや沙玖、リリナが前衛で取り囲んで斬り刻んでいく。
 どれほどの攻撃を受けて、痛がりながらも敵意を失うことはなく、がむしゃらに近づいてくるORT達に反撃をしてきた。
「‥‥強化の副作用か、少し哀れにも感じなくもないが‥‥そんな苦しみさっさとなくしてやるぜ! この俺がな!」
 沙玖は暴れるパンデミヤの姿を冷たい瞳で見つめると、止めを狙った<流し斬り>と<スマッシュ>のあわせ技を繰り出す。
 頭部を砕く一撃を受けたパンデミヤは、目を見開いてから倒れる。
 その瞳に一瞬、人間らしい輝きが戻ったように戦っている能力者達には見えた‥‥。

●作戦完了
「また、一つ」
 仲間から離れた位置で防護マスクをはずし、タバコに火をつけたORTは空虚な瞳を空に向けてつぶやく。
 リリナやエレナが負傷者の手当てをしていた。
 幸い、ORTの負傷は自らの<活性化>で収めているため、手当てに頼ることはない。
 敵の完全なる抹殺は遂行できた。
 キメラ闘技場と呼ばれるコロンビアの隠れたバグア拠点の戦力を大きくそぐことになっただろう。
 残るキメラ四天王はケット・シー一体だ。
 だが、まだマスカラードのようなバグア四天王がの残っているとされている‥‥。
 南米はコロンビアの安定には時間が掛かりそうだった。
「そろそろ、いくか」
 タバコの火がフィルターの手前まで来たときにORTは火を消して歩き出す。
 ラストホープの帰るべき場所に向かって一歩一歩を確実に踏み出した。