タイトル:Impalps〜Audition〜マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/18 04:28

●オープニング本文


●最終調整
「先月、先々月と人員はかなり確保できましたね」
「そうですね、mpaの増員は心強いと思います」
 ラストホープにある事務所で米田時雄とライディ・王(gz0023)は顔を合わせて打ち合わせをしていた。
 新しい血を入れることで、各部が盛り上がって欲しいと両者は思っている。
「人員不足も解消できますし、今年のコミックレザレクションに合わせたライブは今まで以上のものにしなければいけませんね」
「年々、ファンとハードルがあがってきてますよね。それも大事ですけれど、最終の選考はどうしますか?」
 ライディは忙しくなる事を覚悟しつつ、11月期2010年度の新規募集について米田に尋ねた。
「純粋なオーディションを行います。自己PRと共に一芸披露でいきます」
 米田が提案したのはシンプルな分、各自のやる気が問われるものである。
「わかりました。場所はこの事務所で、面接っぽい感じでいきましょうか?」
 企画書を書き上げるためのポイントをライディはメモ帳に記入していった。
「それでお願いします。審査員は私とライディ君で行いますから、よろしく頼みますよ」
 米田はライディの肩をぽんと叩く。
 傭兵アイドル今年最後の募集が動きだした。


●参加者一覧

秘色(ga8202
28歳・♀・AA
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
和泉 恭也(gc3978
16歳・♂・GD
春夏秋冬 歌夜(gc4921
17歳・♀・ST
安原 隼(gc4973
19歳・♂・HG
秋姫・フローズン(gc5849
16歳・♀・JG

●リプレイ本文

●自己紹介
 ラストホープにあるアイベックス・エンタテイメントの事務所の会議室に8人の男女が集まっていた。
 パイプイスに8人が待っていると、ライディ・王(gz0023)と共にスーツにサングラスという姿の米田・時雄が8人の対面に座る。
 マネージャーと社長という二人を前にアイドル達の一部に緊張が走る。
「秘色(ga8202)と申す、よしなに願うのじゃよ」
 あくまでも素の自分を見せたいと着物に健康サンダルとラフな姿で秘色は名乗った。
「特に目立った経歴は持たぬが、敢えて申すなれば夫と子に先立たれた未亡人という処かのう。年嵩も其れなりにいっておるが、アイドルへの障害じゃとは思うておらぬ。何れも個性、じゃろうとの」
「確かに、私の事務所のアイドルに年齢は関係ありません。特に能力者というものが年齢に左右されませんからね」
 米田は口元に笑みを浮かべ秘色の言葉を聞いている。
「おかんがアイドルやって悪い事は無いと思うのじゃよな」
 堂々とした物言いをする秘色が座るも、二番手の瑞姫・イェーガー(ga9347)は和服姿で物凄く緊張したまま動かない。
「ボクなんで此処にいるんだろう‥‥。これじゃ起業説明みたいな気が‥‥」
 はぁとため息を瑞姫が漏らしているライディが声を掛けてくる。
「次の人、自己紹介お願いします」
 その言葉にはっとなって瑞姫は慌てつつ立ち上がった。
「ボクは、瑞姫・イェーガーです。ちょっと前まで海外の特撮ドラマに出てました。こっちでも経験は有ります」
「多少顔は知られてるかも知れません。ただ、その経験だけでとかは‥‥思ってません過去は過去なので」
 自己紹介を終えた瑞姫はそのまま自分の志望動機を告げる。
「ボク、知りたいどこまで出来るのか‥‥今の自分が出来るか。不安定なボクは、向いてるとは思ってないけど、自分を変えてみたい」
 真剣な目で話す瑞姫の姿を米田はじっと見つめ返して聞いていた。
 三番目に自己紹介をしたのは普段どおりのエプロンドレス姿できているファリス(gb9339)である。
「ファリスはファリスと言いますの。宜しくお願いしますの」
 スカートの端をつまんで淑女らしい一礼をすると自分の思いを切々と語りだした。
「ファリスはラストホープに来て、叔母さまや叔父さまやたくさんの知り合いが出来て優しくして貰って、今は不幸じゃないの。でも、世界にはまだまだ哀しい思いをして居る人達もたくさんいると思うの」
「だから、ファリスが何かお手伝いできることがあったら挑戦してみたいの。アイドルになれたら、みんなに笑顔を届けられる人になりたいの」
「その心意気は大事ですね。私の事務所では自主性と個性を重視しています。ただし、同じ動機の方も多いでしょうから『個性』が大事かもしれませんね」
 米田は黒縁眼鏡の奥にある瞳でファリスを眺めつつ、次の人物へ自己紹介を促す。
 元気よくユウ・ターナー(gc2715)は立ち上がって挨拶をはじめる。
「ユウはヘヴィガンナーのユウ・ターナーだよっ! 宜しくお願いしますなの☆」
 ぺこりとお辞儀をすればツインテールと共に背負ったウサギのぬいぐるみの耳も揺れた。
「ユウのチャームポイントはいつでも元気な事と‥‥このツインテール! ゴスパンなお洋服がトレードマークだよ。アイドルになったら‥‥皆を笑顔に出来るような人になりたいな」
 ゴシックパンクの黒い衣装はユウの白い肌を際立たせている。
「元気なことはいいですね。やる気があるかどうかはとても大事なことですよ」
 まるで学校の先生のような口ぶりで米田はユウを見つめていた。
 
 ***
 
 ユウとは違って緊張した顔をしながら立ち上がるのは和泉 恭也(gc3978)である。
「初めまして、キャバルリーの和泉 恭也と申します。ボリビア応援隊のときは効果のお手伝いをさせていただきました」
「他者を幸せにするお手伝いが出来るということをしてみたいと思っています。よろしくお願い致します」
 一度、頭を下げて座ろうとした和泉だが、はっと何かに気づきもう一度、立ち上がった。
「以前LHG’sコレクションという舞台に一度参加させていただいたことがあります。また、警察の教材ビデオ作成に役者として参加させても頂きました」
「他の皆さんもそうだとは思いますが度胸は十分にあると自負しています」
 その言葉に偽りはない。
 自分を変えていきたいという和泉自身の意気込みでもあるのだが‥‥。
「話は聞いていますよ。ボリビアではお疲れさまでした。度胸も大事ですから、期待しています」
 含みのある笑みを米田は浮かべていた。
 和泉が座るとその隣の人物が立ち上がる。
「ボクの名前は、春夏秋冬 歌夜(gc4921)。17歳で、性別は‥‥不明ということで、一つ」
 六番目に挨拶をしたのは中性的な風貌の人物である歌夜だ。
「なるほど‥‥そういうことにしておきましょう」
 もちろん、米田はプロフィールに目を通しているのでどちらかは解っているが、それをあえて言わないのならそれでいいと行った様子である。
「志望動機は妹の推薦かな‥‥」
 被っている帽子を直すも半眼で静かにしゃべった歌夜はそのまま座る。
「安原 隼(gc4973)、18歳です♪ 最近LHに来たばかりの新米傭兵です。特技は誰とでも仲良くなれる事で、趣味は思いっきり遊ぶことかな?」
 爽やかな笑みと共にポーズを決めた準は挨拶をした。
「あ、最近では武器の手入れなんかも良くするようになったね。自分の身を護ること、自分の大切な人を護るために、こうした手入れってのは大事だと思うから♪」
 ウィンクをしながら話す隼は何かと様になっている。
「アイドルへ志願の理由は、多くの経験を積むため。それと、俺自身がどんな風に人と関わって、どんな風に人へ影響を与えられるか知りたいって感じかな」
「精一杯取り組む事で、少しでも多くの人に何かしらの影響が与えられたら、それはすっごく素敵なことだと思うんだ♪」
 微笑みを崩すことなく隼は自己紹介を終え、一礼と共に座った。
「よろ‥‥しく‥‥お願い‥‥します‥‥。秋姫・フローズン(gc5849)‥‥です」
 友人の推薦を受けたために参加することになった秋姫は酷く緊張というか、この場でどうしたらいいのかわからないといった感じで前にならって自己紹介をする。
「でも‥‥やるからに‥‥は‥‥頑張り‥‥ます‥‥」
 しかし、すぐに自分を推薦してくれた友達のためにもがんばろうと瞳に静かに闘志が燃えあがる。
「アイドルへの志望動機は何かありますか?」
「申し訳ないのですが‥‥アイドル‥‥って‥‥何でしょうか‥‥?」
 ライディの質問に秋姫は小首をかしげながら頬に手を当てて尋ねたのだった。
 なんともいえない空気が広がったのは言うまでもない。

●一芸披露
 一度小休止をいれ、気分を切り替えての一芸披露が始まる。
「アイドルらしくはないとは、思います。ボクの得意なことはこういうことなので‥‥、どうですか?」
「なるほど、面白いですね。こういうことが出来るのはオリジナルブランドなどへ転用できます」
 瑞姫の持ってきたシルバーのアクセサリーを大切に扱いながら米田は素直に評価をくだす。
 アイドルらしくないとかそうであるとかも重要だが、いろんな特技を持った人間が集まってこそ出来ることもあると思っているからだ。
「そうですね‥‥特技というほどのものでは御座いませんが、こちらは戦場で編んでいたものです」
 同じようにものを作ってきていたのは和泉だった。
『それと、もう一つだけ‥‥披露させてもらいます」
 一礼をすると和泉はバックラーをフリスビーのように回したり、投げてキャッチしたりといった演技を”魅せる”。
 バックラーを帽子のように胸にあて、紳士のように一礼をして和泉は演舞を済ませた。
「次はユウだね。ユウはね、兎さんとお話ができるんだよ」
『ボクもしゃべれるんだよ。名前はまだないけどね。ところでユウちゃんは何処の人?』
 ユウは背中に背負っているショッキングピンクの兎を抱きかかえると、妙に声色の低い声が響く。
「ユウはね〜イギリス人。施設でシスター達と一緒に過ごしてたんだよ」
『そっか〜それじゃあユウちゃんは何が得意なのかな?』
「んと‥‥お菓子創りとハーモニカが得意なんだよっ! ハーモニカはユウが施設に居た頃からずっと一緒なの☆ ‥‥ここで吹いてみても良いかなぁ?」
『良いんじゃないかな? ‥‥その前に。ユウちゃん、社長さんとマネージャーさんに渡す物があるんじゃなかったっけ?』
「あ! 忘れてたのっ! んと‥‥はい、コレ」
 兎と話を続けていたユウは思い出したかのように話をやめてパタパタと米田とライディの傍まで寄るとラッピングしたパウンドケーキを渡す。
 その後、目の前でハーモニカを吹き始める。
 綺麗な音色を披露するのはユウだけではなかった。
「流石に誰とでも仲良くなれること‥‥を実践する訳にもいかないからね。俺の第二の特技は、幼い頃から習ってたフルート。楽しい曲から、悲しい曲でも何でもござれ〜ってね♪」
 隼は自分のフルートで即興のメロディを生み出す。
 ついつい踊りたくなるような旋律に米田もライディも感心した様子だった。
 
 ***
 
「ワシの特技といえば歌じゃの。自前のアレンジじゃが聞いて欲しいぞ」
 秘色は音源で再生をしながら、あわせて歌う。
 全てImpのデビューシングルである『Catch The Hope』をロックや演歌などにアレンジしたものだった。
 その次はアカペラのオリジナルバラードである。
 
 ―想風花―

 ♪〜〜
 
 万華鏡の白い花 睫毛の先に咲いた
 空の彼方からひらりはらり
 急ぎ足の人波に 天からの贈り物

 哀も憂いも怒りも 戸惑いも喜びも愛しさも
 全てを包み込みながら 世界を白へと染めていく

 凍てついた風に負けるな
 俯けば未来[あす]は更に遠く

 舞い踊れ 白き花 狂おしく
 舞い踊れ 人の子ら 艶やかに
 吐息に花が溶ける頃
 色にあふれた季節がやって来る
 
 〜〜♪

 優しく穏やかに、だが、力強い声量の澄んだ声で歌が紡がれ、オーディションの会場として使われている会議室に広がった。
 一礼をした秘色と入れ替わり歌を披露するのはファリスである。
 賛美歌の一つで、誰もが知っている有名な曲だ。
 ゆったりしたリズムに乗せて、鈴の音のような歌声を響かせる。
「‥‥昔行った教会で良く聴いた曲なの。今でもよく判らないけど、きっとステキな歌だと思うの。だから、一生懸命歌ったの」
 スカートをつまんでお辞儀をしたファリスは歌への思いを米田とライディに伝えた。
「さ、一芸披露行ってみよう! ミュージックお願いします!」
 帽子を被りなおした歌夜はヒップホップミュージックにあわせてブレイクダンスをその場で踊る。
 白い床の上でジャケットを翻して激しく踊り、邪魔になったマフラーを途中で放り投げるなどの演出を加えた。
「ダンスが得意なようですね」
 米田は歌夜の様子を真剣な瞳で見つめつつ呟きを漏らす。
 倒立などはないものの、立った姿勢で腕をリズミカルに動かす踊りをして、歌夜の一芸披露は終わった。
「これで、終わり‥‥。ホントは。歌とか、演技とか。可愛いのも、出来るんだけど‥‥。今回は、一芸ってあったから。こんな感じで」
 放り投げたマフラーを拾い上げると歌夜は半目の静かな様子に戻る。
 切り替えができるのは演技を行う上では重要なポイントであり、米田の目は真剣なものに一瞬変わった。
「最後は秋姫さんですね」
 ライディが扉を眺めていると、タイミングよく秋姫が煮物料理を持って姿を見せる。
「すみません‥‥遅く‥‥なり‥‥ました」
 お盆に器を載せて秋姫はライディと米田に煮物を出した。
「料理が一芸ですか‥‥他にも何かありますか?」
 箸をつけて食べつつライディが秋姫に尋ねる。
「はい‥‥特技は‥‥料理と‥‥歌‥‥です。休憩中に‥‥お話‥‥受けて‥‥私も‥‥アイドル‥‥なりたい‥‥です」
 途切れ途切れの口調ではあるが、秋姫は真剣な瞳で二人を見つめた。
 人々に笑顔になってもらう仕事ということと、推薦してくれた友人のためにも最大限がんばりたいと秋姫は思っている。
「もう一つの‥‥特技‥‥披露‥‥します」
 教会の仕事を手伝っていた頃によく聞いていた賛美歌を秋姫が披露をし、今回のオーディションは終了する。
「皆さん、ありがとうございました。結果はのちほど報告しますので、今しばらくお待ちください」
 ライディが全員に向かって言うと、不安と期待の入り混じった顔で頷きを返ってきた‥‥。

●採用発表
「それでは、今回のオーディションの結果を発表しようと思います。落選者はいません」
 会議室に戻ってきたライディの第一声に自然と安堵の吐息が漏れる。
「ただし、所属希望が不確かなことと、適正が解らないこともありファリスさん、秋姫さん、和泉さん、瑞姫さんはImpalps候補生としての採用となります」
 その言葉に疑問符を頭に浮かべる秋姫ではあったが、とりあえず落選ではないということで肩の力を抜いた。
「Alpでの採用はユウさんと秘色さんです。おめでとうございます」
「ふむ、正直、Alpとやらの活動内容は分からぬ事が多い。じゃが、此れ迄行なわれて来た慰問ライヴ等には、非常に興味があるのじゃ」
「様々な理由で疲れた者らの応援がしたい。世界中の皆が笑える世である為の手伝いを、アイドルと申す形でやっていこうと思うぞ」
 ライディに採用を伝えられた秘色はオカンと呼ばれる彼女らしい優しい笑みでライディの目を見つつ改めて意気込みを伝える。
「Mpaでの採用は歌夜さん、安原さんとなります。歌夜さんは演技力の高さと安原さんは爽やかな雰囲気と誰でも仲良くなれる特技に期待とのことです」
「それじゃあ、期待に答えないとね♪」
 隼はにこやかに笑みを返した。
「候補生の方にはもう一度、自分の進路であるAlpかMpaかの依頼などに参加してもらうことで正規メンバー入りとなります。今日は皆さんありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
 ライディが大きく礼をすると、8人も礼を返す。
 傭兵としてだけではなく、アイドルとして芸能界という戦場へ一歩踏み出した瞬間だった。