●リプレイ本文
●準備OK!
「最近オーディションに通ったばかりの新人ですが、今回の企画が成功するように頑張らせて頂きます!」
緊張をしているのか、やや固くなった張 天莉(
gc3344)が頭を下げると桜華・さつき(gz0343)は肩をポンポンと軽く叩く。
「その気持ちがあれば十分なんだよ♪ でも、顔が固まっちゃ楽しめないからスマイルスマイル☆」
言葉どおりの笑顔ををさつきは見せてくるりと回った。
見た目は天莉よりも幼く見えるが芸能界では大先輩でありキャリアも長いのだから不思議である。
「事務所宛にいろいろと贈り物が着てますが、中身は安全でしたよ。皆さんはステージで気軽に盛り上げてくださいね」
念のためにとソウマ(
gc0505)がスキルを使ってお届け物のチェックをし、障害が無いかを確認していた。
裏方として参加しているのは彼だけではない。
「ジラソール音楽事務所のマネージャーをしてますアクセル・ランパード(
gc0052)です。前回のIRGのときも顔はあわせていますが、今回もよろしくお願いします」
「Loland=Urga(
ga4688)だ。昔はこっちで物資調達業をやっていたので、その時の知り合いがボランティアで食材とか持ってきてくれるそうだ」
「今日は演出効果のお手伝いに来ました和泉 恭也(
gc3978)です。舞台を少しでも盛り上げれたらと思います」
「音響関係は任せちゃってよ。オルカ・スパイホップ(
gc1882)です」
4人の裏方助っ人も姿を見せるとさつきは満面の笑みを返した。
「ようし、最終チェックと準備をやっちまうぜ」
テト・シュタイナー(
gb5138)が準備の手伝いに顔をのぞかせると、4人は頷き返す。
その他協賛事務所のスタッフを合わせた数十人による『ボリビア応援隊』の活動がはじまるのだった。
●もてなしの心で
配給の調理テントの一角では時間でも無いのに食材が持ち込まれ賑わいを見せる。
「さて、材料はこれでいいとは思うんだけど‥‥」
どれだけ買えばいいのか分からなかったため、最低限の材料を買い込んだ椎野 のぞみ(
ga8736)はリュックから食材をだした。
「のぞみん、その格好にあってるよ」
「神楽ちゃんだって似合ってるよ」
のぞみの隣では同じメイド服のような衣装を着た沖田 神楽(
gb4254)が現地の女性に講師を頼んでつれてきている。
二人が作ろうと思ったのは郷土料理、エンパナーダ(サルティーニャ)にクニャペの2つだ。
英語とボディランゲージを駆使し、二人は作り方を真剣に学ぶ。
食材は用意できたとしても作るのは初めてであり、自信があるとはいえないのだ。
「はてさて‥‥喜んでもらえるかなあ‥‥?」
のぞみ達から少し離れた場所では七市 一信(
gb5015)がパンダの着ぐるみ姿で屋台を立てている。
その姿に子供達は興味津々のようだ。
七市と同じように子供の興味を引いている屋台は他にもある。
「これはねー。わたあめっていうんだよ」
古いわたあめの機械を格安で借りてきたソーニャ(
gb5824)は棒をぐるぐる回しながら雲のような不思議なお菓子を作った。
日本の縁日ではおなじみにだが、南米の地では不思議な魔法のように子供達に見えることだろう。
別の場所では練習もかねて秋月 愁矢(
gc1971)が風船で人形を作るバルーンアートをやっていた。
女の子を中心に近くに集まり、器用な手の動きから作りだされるプードルなどに羨望のまなざしが注がれる。
「これは、君にプレゼントだ」
チョコと一緒に渡すとぶっきらぼうな言葉使いでも少女は喜んで受け取った。
能力者たちにもてなしは何も子供達向けばかりではない。
柳凪 蓮夢(
gb8883)が朝から夕方の開催ではあるがノンアルコールから普通のアルコールまでのカクテルバーを用意していた。
Urgaの同僚が持ってきたトレーラーとその中にある酒類をそのまま使った即席バーである。
「このイベントが、少しでも楽しめるモノで有るようにな‥‥」
「蓮夢君、私の分のお酒は?」
「ルキアは子供だろう? それに、これから出番のアイドルにアルコールを飲ませるわけにはいかない」
ライブを楽しみにきた非番のボリビア軍や大人達に蓮夢はカクテルを振舞うがねだって来た夢守 ルキア(
gb9436)にはノンアルコールカクテルを出す。
「心は大人だもん!」
むすっと膨れながらもノンアールコールカクテルを飲む姿は大人とは言いがたい。
そのような盛り上がりを被災テントが見せていると、ステージの方から歓声と拍手が聞こえてきた‥‥。
●コラボレーション!
『これからステージはじまるんだよ』
『最後まで楽しんでいってくださいね』
さつきと張の司会ではじまったライブは終夜・朔(
ga9003)が一番手でステージの中央に出る。
『Noirなの。今日は着せ替えのお店を出しているので見て行って欲しいの。ハロウィンも近いから仮装気分を味わえたらって思うの』
ステージの上から見える一角のスペースを指差し、朔は自分のお店をちょこっと宣伝をした。
『じゃあ、皆のために歌わせてもらうの。さつきさんにも一緒に歌ってもらうの♪』
『もちろんだよ、一曲目はボクとNoirちゃんの歌で『希望』』
耳をピコピコと動かして朔がさつきを呼ぶとさつきもステージの中央に立って、マイクを構える。
野外音響から明るく元気なイントロが流れ出した。
―希望― 作詞、作曲:Noir
♪〜〜
二人:諦めないで 希望は 必ず在るから
二人:共に手と手繋ぎ 歩き出そう 明日に向って
Noir:どんなに 苦難が降り注ぎ
さつき:どんなに 悲しみが襲おうと
二人:乗り越えられる
二人:さぁ 歩き出そう 未来を信じて
Noir:明日に向う為
さつき:希望を掴む為
二人:希望に満ちた明日は其の先に在るのだから
〜〜♪
交互に歌ったり一緒に歌ったりとそろった歌を二人は披露をする。
覚醒をして黒い猫耳のオーラを出して動かす朔と同じように覚醒して本物の猫耳をだして元気に歌う二人の息はぴったりだった。
『続きましてはシャンクーリィの皆さんが『軌跡』を歌います。どうぞ』
天莉の案内にそって、シャンクーリィのメンバーがステージに姿を見せる。
『神翠 ルコク(
gb9335)です。先ほど、ステージの前にエンパナーダという故郷のギョウザに似た物の作り方を教わりました。この国の文化に触れられて嬉しく思います。謝謝(シェイシェ)』
嬉しそうにルコクは話を始めた。
緑のチャイナドレスに身を包み、二本の扇子を持っているルコクの姿は南米では余り見られない格好で興味深げな視線が飛ぶ。
『久しぶりの音楽活動だから、おねーちゃんもがんばるよ。歌はシャンクーリィで『軌跡』』
アコースティックギターの旋律を樹・籐子(
gc0214)が奏でればゲストとして協力もしている朔も続けて歌いだした。
こざっぱりした縦じまのワイシャツを腕まくりし、紺色のロングパンツを着こなしている藤子はルコクとは違ってかっこよさがある。
アイドル達の歌を聞きながらステージ前で用意された客席兼カフェスペースではLetia Bar(
ga6313)が協賛事務所が貸してくれたメイドエプロンにローラーシューズで走り回りながら演奏を聴いていた。
「私には何もないから‥‥せめて笑顔で元気づけられるようにしたいもんさね」
綺麗な歌声を聴きながら、ステージ端にいる弟として可愛がっている天莉に向かってぶんぶんと手を振った。
歌っていない天莉も小さく振り返す。
「ほら、遊んでないで注文した品を運んでくれ‥‥」
「はいはい〜、しっかし似合ってるよ。その服♪」
何故かメイクを施されメイドエプロン姿にさせられたヘイル(
gc4085)にLetiaはウィンクを飛ばしながら料理を受け取る。
「‥‥どうして、どうしてこうなった。周りにアイドルとか、可愛い女の子とかもっといるじゃないか。何故俺がこんな‥‥。誰得?」
Letiaに褒められて(?)ヘイルは余計にへこみだした。
「ヘイルさん、注文お願いできますか?」
だが、そんな気分を紛らわしてくれるかのようにそろいのエプロン姿の若山 望(
gc4533)から注文が届く。
「仕方ないな‥‥『調理――開始!』」
姿格好は置いておいても自分の料理を求めてくれるのならば答えたいとヘイルは気分を切り替えた。
ヘイルが調理をしている間、望はステージで踊り始めたルコクを眺めだす。
(「私はああして人を楽しませたり、喜ばせたり出来るのでしょうか‥‥」)
綺麗な踊りに歓声が沸き、口笛が響いていた。
そんなことが地味な自分に出来るのかと少しばかり悩む。
「Letia、あそこの食器を下げてきてくれ。若山、ジュースをもって向こうの家族連れに。まだまだ料理はある。どんどん食べてもらってくれ、遠慮はいらんよ」
「あ‥‥はい」
ヘイルに指示されてジュースを運ぶと、『ありがとう』と返された。
その言葉を聴いたときに望ははっとする。
(「精一杯やれば、感動を与えることはできる‥‥なのに、私は失敗したことばかり考えてステージに立とうとしなかった」)
踊り終えたルコクが一礼をすると拍手がおきた。
続いて、ルキアが手品を披露する。
コートのポケット、空なのを見せてー叩いた。
『次はビスケットってあれ、種?』
袖から入れたのはヒマワリの種だが『皆、ビスケット食べたいって言ってっ!』といってもう一度叩けばビスケットを出す。
楽しんでもらうことを第一に考えているのは見て明らかである。
「まずは候補生の肩書きが取れるように頑張って、それからまた自分が出来る事をやっていこう」
望は決意を新たにローラーシューズで走りだした。
●スポーツは共通言語
ステージから少し離れた広場では少年達が自分達で作った遊び場でサッカーをしている。
葵 コハル(
ga3897)とエイラ・リトヴァク(
gb9458)が最後の合唱のための振り付けを教えるついでにサッカーに混ぜてもらった。
「さてさて、ドンパチの後ではアフターケアのお時間です。少しの間だけど辛い事は忘れて楽しんで貰えるよーに頑張るぞっ!」
「あたしもがんばるぜ、よっし。リフティングを見せてやるぜ」
エイラがリフティングをしてみせると少年の一人がパスをして欲しいように両手を振る。
ボールも立派なものではないのであまり跳ねないのだが、慣れている少年は器用にボールを操っていた。
「凄げぇな‥‥流石に上手ぇな」
「結構やるねー。じゃあ、これはエイラからのプレゼントの本物のサッカーボールだ。これでリフティング回しやってみよか」
コハルが新品のサッカーボールを取り出してリフティングで少年達にパスして、バレーのトスリレーのような要領でいつの間にか輪になってまわしだす。
「それはあたしが先にやろうとしたのに‥‥ずるいぜ」
エイラはパスされたボールをリフティングで少年達に回しながら笑った。
少年達も笑顔でリフティングのパスをまわしていく。
「ほーら、もっと際どいの飛ばして来い、返してやるぜ!」
エイラが少年達を挑発すると普通なら取れないようなところにボールを飛ばされてきた。
それを追いかけては返し、追いかけては返しをしているといつの間にかリレーではなくエイラとそのほかのリフティング対決になってくる。
「よーし、エイラ! あたしのボールも受け取るんだ!」
バシーンとコハルが物凄く高いリフティングをエイラに渡した。
おぉーと少年達が驚きながら空を見上げる。
(「あいつら、手加減しろってのアタシだって人間だっての‥‥。けど、笑顔見られて良かったぜ。あたしの小隊も未来を護れたんだな‥‥」)
少年達の顔を一度眺めたエイラは落ちてくるボールの下に向かって移動をはじめるのだった。
●Impalps!
『Buenas tardes(こんにちわ)』
昼を過ぎた頃、宵藍(
gb4961)の挨拶からアイベックス・エンタテイメントのメンバーによるステージが始まる。
しかし、そのときノイズがスピーカーから入ってきた。
『アッハッハッハ〜♪ この放送はぁ〜!! 一時的にジャックさせてもらったよ〜! ジャックしたのは〜!! DJオルルだぁ〜♪』
ラストホープのラジオではお馴染みの声が会場に響き、ざわざわと客席が不安そうに騒ぎ出す。
『アイドル候補だかアスリートだか傭兵だか分かんない人たちにステージという大きな舞台はお任せできないなぁ〜!』
『ここは本職に任せてもらおうじゃないですかぁ〜!』
『This program is presented by スタジオフィエスタ〜♪』
左、右、正面と各スピーカーから声が一言ずつ響いた。
そして、最後の言葉と共に耳にはヘッドセット&顔にはベネチアンマスクの少年が姿を見せる。
『はい、司会の二人は一度休憩ね〜。さがったさがった〜。というわけだが、ここはアイドル候補生の実力という奴を見せてもらおうか〜』
さつきと天莉を下がらせると司会進行を代わって宵藍に話を続けてと小声でいった。
『あー、つい驚いたがどうも悪いやつではなさそうなのでこのまま続けさせてもらう。何処へ行ってもバグアの、争いの爪痕は残っている。だから、俺達に出来る事を頑張りたい。皆の笑顔が少しでも多くなるように‥‥聞いてくれ『青空花火』』
気を取り直した宵藍は短く今の気持ちを語ると曲に入る。
バックバンドとしてジラソールのルキアがアコースティックギターで参加し、宵藍は二胡【碧霞】を響かせた。
―青空花火― 作詞、作曲:シャオ
♪〜〜
いろんなことがある毎日
だけど 僕は僕で 君は君だといいな
誰にも似てない僕らで行こう
他人の真似なんて必要ないさ
夜空を彩る華じゃなくても
ちゃんと音[こえ]は聴こえるよね
君に届けたい 幸せ祈る音[こえ]
青空の真ん中で自己主張する花火
カタチは目に映らなくても
僕はいつも傍にいるから
Always wishing you a good luck and happy days
La la la ‥‥
〜〜♪
最後のラララは合唱を促すようにルキアやDJオルルが宵藍に続いてスナッピングと共にラララと口ずさんだ。
大きな合唱がしばらく続いたあと、宵藍は演奏を締めて『Gracias!』と手を振る。
拍手に送られながら宵藍は下がって、次のメンバーと交代した。
「うわー、あんなのを見せられると緊張するよ」
「大丈夫さ、こういうのはどんと構えてりゃいいんだよ」
ちょっとした不安を口にする鈴木悠司(
gc1251)の肩を軽く叩いてヤナギ・エリューナク(
gb5107)はステージへと出て行く。
『続いてはアイベックス・エンタテイメントのイケメンユニット『awake』だ〜。しっかり楽しませちゃったりなんかしてくれよ〜』
登場こそテロリストのようではあったが、DJと名乗るだけはありオルルのMCはしっかりしていた。
追い立てられるように二人が中央まで来ると、ヤナギのベースが鳴り響く。
続くように悠司がギターを弾き、疾走感のあるギターロックを作り上げた。
―Infinity― 作詞、作曲:awake
♪〜〜
降り続いた雨は上がり 光が差す
光を掴む為に伸ばすその両手は
希望の証
歩き始めた一歩の先には 希望の道
踏み出した希望の道の先には
未だ見ぬ世界
鳴り止まぬ鼓動
動き出した世界
光差す目覚め
さぁ、
今 駆け出すんだ
さぁ、
今 飛び出すんだ
未だ見ぬ世界 この両手いっぱいに
その先の無限の道 今この手に
〜〜♪
はじめは明るく元気にすすみ、サビの前で力強く悠司は声を張り上げる。
『さぁ』のフレーズをヤナギと共に背中を押すように歌い上げ、最後はハモリつつ手を伸ばす動作と共に歌いきった。
ステージでのライブがはじめてな悠司だが、一曲を歌いきれたことが大きな自信となる。
「この後も楽しんでいってね!」
大きく手を振りながら悠司はステージを降りていくのだった。
『続いてはガールズソロ2組だ〜盛り上げちゃってくれよ〜』
DJオルルが拍手をしながら司会進行を続ける。
「エイラ、演奏の方は宜しく頼むぜ?」
ステージ裏で修道服をゴスロリに改造した衣装へ着替終わったテトがエイラに声を掛けると答えが口ではなく手で返ってきた。
むにゅっと柔らかいテトの胸にエイラの両手が回っている。
「テト姐さん‥‥やっぱ良い胸してんなぁ‥‥」
「こら、本番前にふざけるな!」
羞恥に頬を染めたテトのひじ撃ちがエイラの頭にぶつかると二人は離れた。
「まじめにやるときはやれよ、まぁ、お陰でちょいと緊張は取れたがな」
「すまねぇなテト姐さん‥‥」
ニヤリと笑いテトはいつもの調子に戻って舞台裏からステージへとあがっていく。
『新曲を作る余裕が無かったが‥‥その分、懸命に歌うよ。『Winter Prayer』』
俺様キャラであるテトだったが、今回は大人しく頭を下げてのスタートだった。
エイラがシンセサイザーを演奏し、修道服に合わせた賛美歌のような曲をテトが歌う。
先ほどのヤナギ達の熱い歌とは違って心に染み入るようなものだった。
テトが歌い終わるとハイタッチを交わしてエイラと入れ替わる。
『次はあたしだ‥‥さっきまで子供達とサッカーをやっていたけど、元気で手加減なくて‥‥それでもこんな状況でも元気に出来る心は大事だと思う。子供に負けないように大人たちへ不屈の心を‥‥『フェニックス』』
曲名を口にするとテトがシンセサイザーの演奏を始めた。
―フェニックス― 作詞、作曲:エイラ
♪〜〜
閉ざされた光
目の前が闇に閉ざされても
生きる事を辞めないで
希望を掘り当て見せよう
これから始まるから 今は弱くても
絶望の蒼い羽根を吹き飛ばし
不死鳥は飛び立つ
〜〜♪
心のそこから勇気を沸き立たせるような、熱い熱い思いの篭った歌。
短いながらも気持ちを込めて歌われた曲に観客達は拍手と口笛で答えたのだった。
『すばらしかったよ〜。これはこのDJオルルの出番はないようだね〜。司会はアイドルに任せて帰るよ〜。See you〜』
拍手をして歌を評価するとDJオルルはステージから下がっていく。
ステージはそのまま休憩時間へと流れ込むのだった。
●大盛況
「はいはーい、残り少ないですからまだ食べて無い人は食べてくださいね」
「最後は合唱だよ。帰るチャンスは今だからね」
餃子みたいな半月型をした菓子パンとフレッシュチーズをたっぷり混ぜたプレーンパンのクニャペをのぞみと神楽は給仕姿で振舞う。
「あ、残っているならちょっと負傷者テントの方に回ってくるから配ってきたいんだけどいいかな?」
「私もいきます‥‥お願いできますか?」
ローラーシューズで駆け回るLetiaと望が二人の作った郷土料理をもらえないかと尋ねてきた。
その申し出を二人が断るわけもなく、怪我をして祭りに直接凝られない人々への配給が二人によって行われる。
通り道では店をたたんだ七市がパントマイムなどの芸を見せていた。
パンダの着ぐるみを着ながら大道芸をする姿は子供でなくても楽しい。
「ああいうのもいいねぇ、楽しませることを良く知ってるよ」
玉乗りを始めて、わざと失敗して笑いをとる姿はさすが芸人といえた。
「まだ、次ぎのステージが始まるまでには間があるよ。歌おう、そして踊ろうよ」
ソーニャも屋台をたたんでケーナと呼ばれる木製の尺八に似た楽器を吹く。
紡ぎだすのはフォルクローテと呼ばれる民族音楽だ。
慣れ親しんだ曲調に子供達は踊りだし、蓮夢の店で楽器を持った大人たちは合わせてリズムを取った。
楽しいイベントが続いていたため、彼らの心に希望が芽生え体を動かしている。
「おー、楽しいことやってるねぇ! ちょっとあたしも混ぜてよ」
出店をサッカーをやっていた子供達と回っていたコハルもその踊りに急遽混ざってきた。
調和というリズムが生まれ、笑い声がこだまする。
気分の高まったソーニャは覚醒をして背中に翼状の淡い光を現した。
その姿は被災地に降り立つ天使のように子供達に写る‥‥。
『えー‥‥、ここで皆様へ連絡が一点ございます‥‥少し心痛む連絡となり、恐縮ですが、しばしお耳を頂戴したいと存じます』
『これは主に戦火でお子様とはぐれてしまった親御さん、親戚の一部と連絡が取れていない方、またはそういった親戚、友人が居る方々への連絡となります』
その中で、アクセルのアナウンスが広く染み渡るように会場に広がった。
●ファイナルステージ
「僕達のしてきた事が無意味にならないよう、最後までしっかりと楽しんで帰ってもらいますよ」
「はい、がんばりましょ〜」
ソウマが舞台裏で冷たく微笑みながら気合を入れていると音響担当のオルカが拳を上げて同意を示す。
「お前、Impalpsのステージの時ステージにいなかったが何をしていたんだ?」
「ははは〜、ちょーっとおなかの調子が悪かったんですよ〜」
Urgaに突っ込まれると乾いた笑みでごまかし、音響の最終調整に入った。
最後のステージは踊りやすい曲をメドレーで流してのフィナーレで、選曲からいろいろと準備は念入りに行っている。
「フィニッシュに紙吹雪を飛ばせばいいんですよね? スモークとかの演出は済ませましたからこちらはそれでラストです」
和泉も演出の準備を終えてゴーサインをだした。
●祭りも終わり
ルコクの舞やヤナギの歌、宵藍の二胡、藤子のアコースティックギターなど、ジラソール音楽事務所とアイベックス・エンタテイメントのメンバーによる最後のステージは大きく盛り上がった。
客席にまぎれてコハルや、ヘイル、蓮夢も一緒に歌えるものは歌ってサポートをする。
小さなステージではあったが、一体感では大きなステージの非では無いほど盛り上がった。
「ちゃんと厄災なく育ってほしいですね」
片づけを手伝っていた司会の天莉は一生懸命踊っていた子供達の姿を思い返して微笑む。
「迷子の親子も出会わせることができた。ボリビア軍の協力もあってだが、良かったな」
愁矢もぶっきらぼうながらも被災テント陣ないを歩き回り色々と尽力をしてくれていた。
自分でも出来ることをやろうという気持ちが体を動かしている。
「うんうん、ここもきっと元気に立ち上がってくれるさー。さぁ、俺達は次の戦いに向かわなきゃね。こういう人たちがまだ世界中にいるんだから」
重いものを運びつつ七市がどこか悲しそうに呟いた。
言葉どおりボリビアのような戦地になる土地はこれからも増えていく、そのたびに被災した人々が生まれ、悲しみが育つ。
少しでもその領域を減らすことが傭兵であり、バグアと戦う力をもった能力者だけだ。
「助けになれたのなら本望だな‥‥さぁ、さっさと片づけだ」
化粧を落とし衣装もいつもの黒い鎧になったヘイルは『傭兵』の顔で片付けを続ける。
ボリビアの大地に日が沈むと共に能力者達は高速移動艇でラストホープへと帰っていくのだった。