●リプレイ本文
●反撃の狼煙
『仁宇さんがワイズマンで一緒に‥‥。私の気分は上々よっ』
シュブニグラス(
ga9903)は意気揚々と愛機のK−111『Goat』を操る。
京都を守るため、そして平良・磨理那(gz0056)の力となるためにラストホープから来たのだ。
「磨理那様、いよいよ朱貂討伐ですね。この南 十星(
gc1722)微力ながら御助勢いたします」
彼女と同じように磨理那に強い思いを抱く十星もスピリットゴーストのコックピットの中で静かに誓いを立てる。
『敵制空権に突入。北西の施設へフレアを落として破壊が目的だ。仁宇らが力をあわせれば絶対に成功する』
一歩下がった位置にいるワイズマンの白川仁宇が各自に連絡を飛ばした。
『遂に始まる訳だな‥‥京都解放の為の作戦が‥‥前哨戦もまずまずの出来だったからな‥‥このまま波に乗りたい所だ‥‥』
『うん、沖那おにーちゃんの大事な場所だもんね。行くよ‥‥ミカエル!』
同じ空戦担当である玖堂 暁恒(
ga6985)とユウ・ターナー(
gc2715)も同じ強い思いでこの戦いに挑んでいる。
平和で楽しい思い出のある町に戻すために誰もが力を尽くすつもりだった。
能力者達が気合を入れていると、ボウボウボウと進路上の空に炎が浮き上がる。
その数は20体。
「敵ですね‥‥ただでは通してくれませんか」
『貴様等に居座られると迷惑極まりないんでな、とっとと消えて貰うぞ‥‥白川、タクティカル・プレデレィクションBを起動しろ。ジャミング中和・収束、出力全開! ブースト起動、ファイア!!」』
『心得た! 総員攻撃開始ぃぃっ!』
玖堂の合図に仁宇は<タクティカル・プレディクションB>を起動させ、<強化型ジャミング集束装置>を編隊全てに掛けた。
一斉にミサイルやライフルが火を噴いて戦いの狼煙があがるのだった。
●鬼と龍が参る
『俺も同じ戦域にいるなら、少しは安心できるんだろうが‥‥いつまでもおんぶに抱っこじゃ先に進めなくなるからな。ま、今日の所は無理せんで、おまえができる事だけ集中してろ』
『師匠こそ仁宇等を気にかけるよりも、同じ班の方と作戦をつめてくだされ。この仁宇、教えを忘れたことはございませんぞ』
「集中できてないのは俺の方か‥‥。んじゃ、大江山の鬼退治‥‥その手始めに掛かるとするかね」
出発前、押しかけ弟子である仁宇とのやり取りを思い返した風羽・シン(
ga8190)は自らを鼓舞する。
視線の先には門を守るように立つ3機の恐竜というよりは龍のような雰囲気を持つレックスキャノンと周囲を警邏している金棒を持った鬼のようなゴーレムが6体ばらばらに動いていた。
『沖那、京夜、任せたでありやがるですよ』
磨理那から聞き出せた側面襲撃ポイント200m圏内に近づいたときシーヴ・王(
ga5638)の声が響いた。
『俺達には捨てられた思い出しかない黴臭い街でも、故郷だ。いつかあいつらが帰って来て、眠りにつく場所だ。踏み躙る事は絶対に赦さない』
3機のレックスキャノンに向かって緋沼 京夜(
ga6138)の愛機『Naglfar』からM−181大型榴弾砲の洗礼が与えられる。
不意打ちもあり、効果的だが二度目は無いだろう。
だが、<パニッシュメントフォース>を込めた弾頭が4発も降り注がれてはレックスキャノンとて無事ではすまなかった。
奇襲にゴーレムたちが反応をするが、それは異常の察知で敵に背を向けたのは間違いである。
ブーストを掛けたシーヴの改良岩龍『鋼龍』やシンのシュテルン・G『アインヘリヤル』に山戸・沖那(gz0217)の破曉『ヘカトンケイル』、そして翡焔・東雲(
gb2615)のロジーナbis『レーシィ』がブーストで近づいて奇襲を仕掛ける。
『そうら、スモークディスチャージャーだ!』
『こっちもいくよ』
一歩遅れて反撃をしようとしたところへ沖那と共に煙が舞い上がり視界をつぶす。
そのまま懐に入り込んだ鋼の騎士達は鬼を屠り始めるのだった。
●苦しみを乗り越え‥‥
放たれたミサイルの弾幕に炎のようなキメラたちが包まれしぼむ様に消える。
「このまま殲滅する‥‥くそ、これは‥‥キューブか」
距離を詰めようとしたとき、激しい頭痛と嘔吐感が玖堂を襲った。
能力者に影響を与える怪音波を発するキューブワームが2体浮上してくる。
脳を直接揺さぶられる感覚に脂汗をかくが、玖堂はぎゅっとグローブに包まれた手でウーフー2の操縦桿を握った。
『これしきのこと‥‥仁宇が何とかして‥‥みせる!』
痛みをこらえて上空から仁宇のワイズマンがブーストによる突撃を仕掛けながらキューブワームへ突撃仕様ガドリング砲を叩き込む。
60発の弾丸が四角いボディに穴を開るが倒すまでには至らない。
頭痛が治まらない中、鬼火キメラがユウ機を撃ち落さんと火炎弾を飛ばしてくる。
『ユウさん危ないですよ! この間のようにはさせません』
十星のスピリットゴーストがユウ機の盾となって火炎弾を受け止めた。
装甲がすすける程度で止まるも、怪電波の苦しみが十星を追い立てる。
『磨理那様の苦しみに比べればこのようなところで弱音を吐くわけには参らないのです! <ファルコン・スナイプ>!』
鈍る照準を補うように機体特殊能力を発動させて十星機が200mm4連キャノン砲でキューブワームを吹き飛ばした。
「よし‥‥その調子だ‥‥いくぞ」
玖堂はスナイパーライフルRで残ったキューブワームを撃ち貫きながら、反撃の合図をあげた。
『平良さんの采配よ‥‥完璧に終わらてみせる!』
痛みもはれてすっきりしたシュブニグラス機がUK−10AAMにて鬼火キメラを確実に粉砕していった。
頭痛さえなければキメラ相手にKVがてこずることは無い。
『仁宇おねーちゃんに負けていられないの!』
<パニッシュメントフォース>を使ってUK−11AAMをキメラに打ち込むが、生き残ったキメラが急に接近してきた爆発し、ユウの機体を揺さぶる。
『自爆攻撃? 厄介なのを持っているよ!』
ユウ機は空を縦横無尽に動きながら対空ミサイルで鬼火を距離をあけて捕らえて発射した。
『距離をとっての戦いね。大丈夫よ、ミサイルならしっかりもっているわ』
シュブニグラス機に残っているUK−10AAMや数で押すためのKP−06ミサイルポッドが距離をとって撃ち込まれ、爆炎に包まれたかと思うとキメラたちは萎むように消滅していく。
いかなる炎が相手でも、能力者達の闘志を焼き尽くすことはできない。
4倍ほどいたキメラもキューブワームの支援がなければさほどてこずることなく殲滅できた。
『残存する敵機は確認できないようであるな』
「そのようだな‥‥短期決戦ができて‥‥なによりだ」
深呼吸をして、はぁと玖堂は息を吐く。
「目標を確認、爆撃態勢に入る‥‥‥見せてやろう、これが京都解放の狼煙になるという事をな」
『了解であるな』
『朱貂討伐に対する第一歩この作戦は失敗するわけにはいきませんね‥‥これが締めです』
十星機を先頭に玖堂機と仁宇機が続きフレア弾を施設に落としていった。
上空からみれば小さな爆発だったが、それは次々に誘爆を引き起こし、方々から煙を上げはじめる。
「こちら玖堂だ‥‥爆撃は終了した。地上のほうは‥‥任せる」
『了解でありがやがるです。もう少し時間はかかると思うですが、作戦は上手くいきそうです』
玖堂が通信をするとシーヴの力強い答えが返ってきた‥‥。
●修羅か羅刹か‥‥
「そこだ‥‥よーく狙って、うつっ!」
ゴーレムより先に弱ったレックスキャノンに向けて東雲はピアッシングキャノンを撃ち込んで2体を破壊する。
色を買え、防御能力を高めてはいるものの焼け石に水状態だった。
残りの1体はシン機が3.2mm高分子レーザー砲で風穴を開けて沈黙させる。
『今のうちだ‥‥ぶっ潰していくぞ』
『まずは一機! 数で勝ちゃいいってモンじゃねぇです』
試作型機槍「アテナ」で間合いを捕らえている鬼のようなゴーレムを背中から貫いたシーヴがシンに答えた。
シーヴの操る岩龍は見た目こそ、奉天の安価支援KVではあるがその性能は一級品のKVと遜色の無いほどに改造されている。
榴弾による奇襲と煙幕によるかく乱は成功し、今や戦場の流れは能力者側がつかんでいる。
「こんな敵、とっと蹴散らして鬼の大将を引きずりだしてやろうじゃないか!」
頼もしい仲間との戦いに東雲の操縦桿を握る手に力が入った。
機槍「ドミネイター」の補助ブースターが火を噴き、近くにいるゴーレムの動力部を貫く。
奥まで貫けず、ゴーレムの方は反撃とばかりにその場で金棒を東雲機にぶつけてきた。
「こんのぉっ!」
衝撃を受けながらも東雲は怯むことなくドミネイターをめり込ませ心臓部まで押し込む。
そこまでされるとゴーレムは四肢をびくつかせると静かになった。
『援護しようと思ったけどいらなかったみたいだな。数はまだいるからがんばろうぜ』
沖那機が背中合わせに立って周囲の敵を警戒する。
不意をついて倒せたのもいるが、3体ほど健在なゴーレムが臨戦態勢で迫ってきていた。
『こちら玖堂だ‥‥爆撃は終了した。地上のほうは‥‥任せる』
『了解でありがやがるです。もう少し時間はかかると思うですが、作戦は上手くいきそうです』
通信にシーヴは答えるとフェザー砲を機盾「アイギス」で防ぎながら、間合いを大きく詰め、懐へ入ったところで至近距離から試作型「スラスターライフル」を叩き込む。
銃弾の雨を受けつつも動こうとするゴーレムだったが、次の瞬間に吹き飛んだ。
『遅れたな』
緋沼機が腕に持っているスパイラルバンカーから使われた空薬莢がガラリと転がり落ちる。
『いいところばっかり奪ってくれちゃって』
ソードウィングで傷ついた部位から斬り裂いたシンが緋沼に悪態交じりの賞賛を与えた。
もうすぐ戦いの終わりが近づいてくる‥‥。
●制圧、そして次へ‥‥
戦場にはぐずれた瓦礫と、動いていたモノだけが横たわっている。
それらの影に京夜は揺らめく亡霊のような姿を幻視していた。
「お疲れ様なの!」
ユウが呼びかけても京夜は聞こえて無いかのように眺め続ける。
(「忘れるものか‥‥お前達が最初に俺から奪ったものを、あの叫びを。そして、今もあいつらは‥‥」)
そこまで思いを巡らせたところで京夜の頭に暖かいものが乗せられた。
ユウが沖那に肩車をしてもらいながら京夜の頭を撫でていたのである。
「ありがとな‥‥」
「何があったかしらねーけどよ、すごい顔していた‥‥」
ユウの頭を京夜が撫で返していると沖那が京夜に複雑な顔で尋ねた。
「大人にはいろいろあるんだよ‥‥。あのテッペンか、敵の根城は」
「そうかい‥‥ああ、あそこに朱貂がいる」
二人して大江山の頂上を眺めているとユウもそろって眺める。
まだ、これは始まりなのだと3人は思い直すのだった。
「初めての実戦はどうだった?」
「難しかったですが、やはりシミュレーターとは違いますな。良い経験でありましたぞ」
「そうか、アドバイスをするなら指揮官として前に出すぎるのは良くないな。装備ももう少し考えたほうがいいだろう」
シンは仁宇に対して自分なりのアドバイスをしていく。
言葉一つ一つを仁宇は真剣に聞き、自らの糧にしようと一生懸命だった。
「皆の者ご苦労じゃったぞ」
京都UPC軍を引き連れて磨理那が能力者達の前に姿を見せる。
「磨理那様、この南 十星任務をまっとう致しました」
磨理那の姿を見るや近づき、片膝をついて十星は挨拶をした。
「うむ、報告は聞いておるのじゃ。活躍したようじゃの? ゆえにそなたには『京姫の騎士』の称号を授けるのじゃ」
「ははっ、ありがとうございます」
十星の頭を撫でながら磨理那は嬉しそうに称号をつけ、そのことを十星は本当に喜ぶ。
「しかし、今回は四鬼士の姿が見えていません」
「本当ね‥‥今回は様子見でもしてるんでしょう?」
不安要素を口にした十星に続き、シュブニグラスもトゲの篭った言葉を続けた。
「きゃつらが何を考えていようと妾達には京を平和にするため進まねばならんのじゃ。そなた達の力を頼りにするのじゃ」
磨理那は二人を‥‥そして、今回戦ってくれた能力者全てを見て頭を下げる。
統治者として、自らが出来ることをしようという意志の表れが見えた。
大江山への道は繋がった、次は乗り込むばかりである‥‥。