●リプレイ本文
●黄金郷[エルドラド]
高速移動艇から能力者達が降り立つと、すでにケイ・イガラス補佐官が待っていた。
「ユイリーさんは大丈夫なんですか!?」
「ここの設備で出来る限りの処置はしました。意識不明ではありますが、一命は取り留めています」
エレナ・クルック(
ga4247)は開口一番、ケイに詰め寄って問いただす。
驚きながらも、返された言葉にエレナはほっと一息ついた。
「補佐官に要望があるのだがいいだろうか? 一番重要なのはモントーヤを捕獲した場合の受け入れだ」
ケイに近づいたアルヴァイム(
ga5051)は概要をまとめた紙を渡す。
「捕虜収容施設もありますし、可能だとは思いますが駐留されているUPC軍へ話したときは受け入れてもすぐに輸送するとのことです」
紙を受け取りながら、ケイはすでに対応していた部分への話を返した。
紙にはキメラが出た場合の傭兵への連絡や市民の避難、また周辺地図や野良キメラの出現状況などの資料の提供が書いてあった。
「避難はすでにモントーヤの襲撃があった段階で完了しています。野良キメラが町を襲ってきた場合は駐留しているUPC軍の方で対処してもらえますので皆さんはモントーヤの方に集中してください」
内容に目を通したケイはアルヴァイムへ返事をして頭を下げる。
ただのキメラではない存在らしいことがケイの言葉からも分かった。
「それでちょっとだけ聞きたいんだが‥‥被害者から多少話はきけるのかい?」
もぐもぐと移動艇の中で食べていたバランス栄養食を食べ終えた金 海雲(
ga8535)がまるで刑事のような態度でケイに尋ねた。
「すみませんが、お伝えしたことが殆どなんです。あと、確認できたのはモントーヤ氏であることと爪のようなものが生えていたことくらいでして‥‥」
「そうか、いや‥‥すまなかったな」
頭をかいて金はケイから離れる。
「目的は何? 暗殺? なぜ未遂した? 陽動? エルドラドは戦略要衝でない。村の掃討? 雑魚キメラで充分だ」
最後に高速移動艇から降り立った藤田あやこ(
ga0204)は目を下に向け、自らの思考に没頭する。
敵の行動、聞かされた情報から推理を働かせたのだ。
「目的が分からないですけれど、ユイリーさんを傷つけた人が潜伏しているのは確かなんです。早く見つけて対処をしましょう」
推理も大切だが、エレナは地図を握り締めてあやこを見上げる。
「手短に陣形などの話をして動くとしよう。遠くに逃げられたら厄介なのは確かだ」
アルヴァイムはいつになく真剣で、闘志あふれるエレナの姿を一度見るとポイントのみの相談をはじめるのだった。
●密林を進み‥‥
「こうも血痕を残すとは。素人という訳ではあるまいに‥‥」
「資料からすれば、元は素人さんのようですけれど‥‥今はどうなんでしょう」
血痕を追いながら前を進む鹿島 綾(
gb4549)の呟きに中央にいるロゼア・ヴァラナウト(
gb1055)が双眼鏡で密林を覗きながら答えた。
地図と共にパンデミヤ・モントーヤのプロファイルも受け取っていて、コロンビアで石油会社を運営するルイスの兄であるといたくらいで格闘技やら軍隊にいた経歴は皆無である。
「エルドラド関係か‥‥あまりいい思い出がないな‥‥とはいえちょっとは縁がある国だ‥‥脅威は排除しよう」
ロゼアの隣で漸 王零(
ga2930)が複雑な表情で警戒を続けた。
王零からすればエルドラドの建国宣言がなされた2008年からところどころではあるが関わっている。
まだ、その火種が残っているのであれば容赦をする必要はなかった。
「索敵モード実行中」
まるでロボットのような言動を発しながらORT=ヴェアデュリス(
gb2988)は巨体を揺らして最後尾でその高い頭で周囲の動きを確認する。
鳥の鳴き声が聞こえ、風で木々がざわめいていた。
「この中に敵がいるか‥‥」
音は宛てになりそうもないなと綾が思っていると、背後から声が響く。
「上だ!」
綾が見上げるとそこには爪を生やし猛獣のような形相を浮かべる怪物[モントーヤ]が奇襲を仕掛けてきていた。
●パンデミヤ・モントーヤ
「危ない!」
金が叫ぶと共に綾がエレナとあやこを守るために盾となった。
鋭い爪が綾を狙ったが天槍「ガブリエル」がその爪を食い止める。
『シャァァッ!』
一撃でしとめられなかったことを悟ると後ろに飛んで木々を飛びわたりだした。
「目標補足‥‥攻撃開始」
「唸れ密林の咆哮!」
ORTの小銃「シエルクライン」とあやこが担ぎなおした大口径ガドリング砲が唸りを上げて、木々を破壊しながらモントーヤを追い込んでいく。
木屑が飛び散るなか天井をつめるように動いていたモントーヤが今度は中央に狙いを定めて跳躍した。
そのすばやさは野生動物を彷彿させる。
「ちょこまかと‥‥その足、潰します」
覚醒して、髪と目を黒くしたロゼアが<強弾撃>を付与したSMG「ターミネーター」を迫るモントーヤに向けて撃ち放つ。
銃弾のうち何発かがモントーヤにかすり傷を負わせるが、勢いを止めるまでには至らなかった。
「爪も排除した方がいいだろうが、まずは足だ」
止まっている相手ならいざ知らず、動く相手の脚を切るのは容易ではない。
しかし、王零は握った魔剣「ティルフィング」でなぎ払ってモントーヤの右太ももを深く斬りつけた。
『ウグルアァァァ!』
痛みに声を上げてモントーヤが反撃とばかりに王零に爪をたて王零の胸の辺りを斬り裂く。
「味な真似をしてくれるな‥‥」
「捕まえるにしろ何にしろ、手加減してどうこう出来る相手じゃなさそうだ。全力で行くぞ!」
王零の胸を斬り裂き、はなれた地面へ血を噴出させながら着地したモントーヤに向かって綾が脚甲「プトレマイオス」による足払いを当てた。
<天地撃>と呼ばれるエースアサルトの業[スキル]で、天地逆転するようにモントーヤの体が地面に回転して落ちる。
だが、綾の攻撃は止まらない。
二撃、三撃、四撃とそのまま蹴りがモントーヤの体に叩き込まれゴム鞠のようにモントーヤの体が跳ねた。
「絶対にゆるさないです!」
追い討ちをかけるようにエレナの超機械「PB」が赤い蓋を開けて電磁波を追い討ちのように叩き込む。
叫び声すら上げることすら出来ずにモントーヤは地面へと倒れた。
「総攻撃のチャンスですね‥‥」
ロゼアがリロードしたSMGでモントーヤを撃ち続ける。
よろよろと立ち上がろうとしたモントーヤに銃弾が叩き込まれガードをするようにモントーヤが後ずさった。
傷口の一部は再生し始めているが、それを追い越すほどに能力者達の集中放火がモントーヤを襲っている。
「静かに。――何か聞こえないか?」
攻撃の手をいったん緩めて周囲の物音に耳を傾けていた綾が反応を示した。
「脱走なら刺客、遭難なら救援が遠からず来る筈よね‥‥」
ガサッと茂みが不自然に揺れるとあやこがそちらにガドリング砲を向けて放つ。
茂みが銃弾にさらされて丸裸になるが、そこには何の姿もなかった。
「‥‥! 鳥さん! きますよ!」
<先見の目>をあわせて使っていたエレナがいち早く気づく。
「悪いが、その男は回収させてもらう!」
レスラー、いやルチャドール『サント=マスカラード』はクロスチョップで勢いよく突撃をしてきたのだった。
●肉体言語
突撃はモントーヤと能力者の間に割り込む形で訪れる。
地面に追突し、土煙が上がって一瞬、視界がさえぎられた。
「敵の反応はある‥‥撃つだけ」
ORTとアルヴァイムが降り立ってきたレスラーを釘付けにするための攻撃を行う。
アルヴァイムの<制圧射撃>がレスラーを包みこんだ。
ORTは必要最低限以外の言葉を発することは無いが、無駄なく敵に銃弾を食らわせ続ける。
マスカラードは銃弾の雨にさらされ皮膚が傷つこうと遠慮く踏み込んできた。
最も近くにいた綾に向かって軽く飛び上がったかと思うと、胴体を両足でつかんで投げる。
流れるような動きを綾が感じたときには体が地面へと叩きつけられたときだった。
「ぐはっ!」
「装備交換、<練成弱体>と、<電波増幅>ね」
あやこがすぐさま装備をエネルギーガンと機械剣αに切り替えて自らの強化と敵の弱体化に力を注ぐ。
エネルギーガンが援護射撃として飛ぶ中、王零が<迅雷>で一気に間合いを詰めて魔剣を振るった。
「みすみす渡すわけには‥‥いかんのだよ!」
「踏み込みと気迫が足りないっ!」
王零の攻撃を受けながら、マスカラードは傷を気にすることなく走りこんで浴びせ蹴りを食らわせる。
近くで見るマスカラードの体はORTと等しいかそれ以上の巨漢で、その質量を持った蹴りの重さが王零の肩を砕く。
「急いで治しますっ!」
エレナは攻撃をするよりも傷ついた綾と王零の手当てに回った。
「その間は稼ぐぞ」
制圧射撃の影響で一撃しか繰り出せないマスカラードをアルヴァイムが機械巻物「雷遁」で、金が拳銃「マーガレット」でエレナに被害が及ばないように狙い続ける。
「くっ‥‥」
電磁波が当たるとマスカラードが大きく怯んだ。
「知覚系の方があたりがいいようだね」
金は自分の銃弾よりも電磁波の効果が大きいと推察する。
あやこのエネルギーガンが更にマスカラードの肌を焼いていったが、全てを凌ぎきる。
「この程度では倒れんぞっ!」
再び行動を開始したマスカラードはあやこを狙った。
前転をするように飛び掛ってあやこの顔を両足で掴んで横投げをする。
大木にか細い体がぶつかりミシリとなった。
「あやこさん! ‥‥回復の手が追いつきません!?」
エレナが手当てを行うも行動が追いつかない、重体とまではいかないにせよマスカラードの攻撃は重かった。
「わかりました‥‥そちらの方を回収してもらってもかまいません」
倒れていく味方を見ていたロゼアがマスカラードに向かって声を放つ。
「ただし、今回の戦いはコレで終わりです。このまま貴方と戦ったとしてもジリ貧になるのはこちらです」
エレナが回復に回っているが、負傷者の手段が追いつかないのは事実である。
アルヴァイムの制圧射撃で抑えるのも限界があるのは確かだ。
ファイティングポーズをとっていたマスカラードは構えをといて、傷が治りかけ獣のように敵意を見せるモントーヤを担ぐ。
「俺の仕事はこいつを回収することだ。もっとも、貴様らがコイツを捕らえたところで情報は聞けないだろうがな。すでに野獣そのものだ」
マスカラードはどこか楽しげに言葉を漏らす。
「次に会うときはリングの上で‥‥本気でやらさせてもらう」
そのまま密林の奥へバグアたちは姿を消した。
●ユイリーの目覚め
「ん‥‥うぅん‥‥」
<練成治療>でエレナに手当てをしてもらったユイリーが目を覚ます。
「ユイリーさん! 私のこと、分かりますか?」
「エレナさん‥‥傷が治っています」
切り裂かれ、痛みの酷かった胸の辺りを押さえながらユイリーはベッドで半身を起こしてエレナを見た。
「モントーヤさんは?」
「すまない、浚われた‥‥。ただ、もう人間としての意志はないようだった」
『人の姿をした怪物』という言葉が綾の脳裏に浮かんだが黙る。
その言葉は能力者としての自分にも当てはまらないとは言いがたかった。
「そうですか‥‥アンドリューさん達を支援したことも何もかも忘れてしまっているのでしょうか。それでも、ここにきたのは何かあったのかもしれませんけれど」
窓の外の景色を見ながらユイリーは言葉を紡ぐ。
復興は以前より進んだが、まだ解放時の戦乱が傷跡として街には残っていた。
「いずれ、あのマスクの男はコロンビアのキメラ闘技場にいるというマスカラードという男かもしれないな」
静かに今回の資料を作成していたアルヴァイムは能力者たちに聞こえるようにいう。
「リングで待っている‥‥なんて、バグアらしくなかった‥‥ですが」
ロゼアがおどおどした調子でアルヴァイムに続いた。
「また、彼が来るとも限りません。その前に手を打ちたいところですね」
「そうですね‥‥コロンビアへの闘技場へはこちらから依頼を出すかもしれません」
ユイリーが今回の被害を考え、ケイの提案に答える。
黄金郷に訪れた亡霊を振り払うべく、動きださねばならない‥‥。