タイトル:【京都】天からの御使いマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/13 03:24

●オープニング本文


●転進
 6月の平良・磨理那(gz0056)の結納から始まった京都府内の動乱は3ヶ月が経過しようとしている。
 このときのためと戦力などを温存していた山城地方はキメラの生産工場を落とされながらも大江山を要塞のように改造していた。
 京都市もバリケードで囲いながらキメラやワームの襲撃を耐え、UPC京都軍が退けていた。
「三ヶ月か‥‥早いものじゃが食料の備蓄は厳しいの」
「そうですね。市民も閉鎖空間の中で何とか生活はしているものの不安もあるでしょう」
 現在の中央政府となっている京都市の二条城では磨理那とその旦那となる渡辺鋼が資料を眺めながら相談をしている。
 予想もしない襲撃からの篭城ゆえに綻びがではじめるのは仕方のないことだった。
「姉上や天羽ノ君殿も自らの土地が忙しいからの‥‥そろそろ妾達、京都市で何とかしたいところじゃの」
「そうですね‥‥。そうなると、やはり大江山の本拠地を攻め入るしかありませんね」
「そうじゃのぉ‥‥しかし、京都市がその間持つのかどうか‥‥」
 二人は残りの食料などの在庫を確かめながら、次の一手を検討する。
 中秋の名月を楽しむ余裕など二人には無かった。
 
●家族
 天橋立を臨む屋敷に一人の少年が辿りつく。
「ここに来るのも久しぶりだけど‥‥まさか、お袋から呼び出しなんてな」
 勝って知ったる我が家のように扉をくぐり、屋敷の中へと上がって行った。
「沖那、よくきてくれましたね」
「お袋‥‥。夏ぶりだな‥‥」
 山戸沖那(gz0217)は呼び止められた女性の前に正座する。
「貴方に一度、話しておかなければならないことがあります」
 着物をきたその女性は目を伏せつつ一枚の写真を沖那に向けて差し出した。
 そこには小さな子供が二人と女性、そしてたくましい男性が一人写っている。
「これは‥‥親父?」
「ええ、タケル様です。そして、子供は貴方と双子の兄である尊です」
「兄貴か‥‥噂では聞いていたけど、直接聞いたのははじめてだよな」
 静かに話す母親を前に、沖那は言葉にトゲを持たせながら話を促した。
「そして、おそらく朱貂は尊でしょう。あの子の体をバグアがのっとったと思います」
「何だよ‥‥親父のことが片付いたら今度は兄貴だ。一体、俺をどんだけ縛れば気が済むんだよ」
 自分の運命というものを呪うように沖那は拳を床に叩きつける。
「貴方の言うことも分かります。私がもっとしっかりしていればと悔やみもしましたが、今はあの子を止めて欲しいと貴方に頼むしかできません」
「勝手だよ‥‥。でも、分かってるよ‥‥。親父のエミタを受け継いだときに決めたんだから」
 涙を流しながら頼み込む母親の姿に沖那はため息を漏らした。
「ありがとう‥‥。では、本題に入ります母親ではなく、丹後の統治者として依頼をします。今の京都は物資が不足しています。貴方が人を集めて平良さんに丹後から物資を届けてください」
「分かった、その依頼受けさせてもらうよ。天羽ノ君さんよ」
 沖那は一人の傭兵として願いを聞き、ラストホープへとその身を戻すのだった。
 
●四天王
 京都府は山城・大江山。
 北条氏が統治していた屋敷は城のように変わり始めていた。
「ヤクシニーもやられたか‥‥。まぁ、そのくらいやってくれなきゃ面白くはないわなぁ?」
 首に巻いた貂の毛皮を撫でながら、楽しそうに頬を歪める。
「じゃあ、ボクも名乗りくらいでていってもいいよね? ゴーレムだけじゃなくってワームも改造し終えたんだから使って見たくてたまらないんだよ」
 無邪気に笑う少年が朱貂に近づいて首を傾げた。
「榊原か‥‥いってこい。京都市も篭城戦だから物資を届けなくちゃならない、陸は俺らが塞いでいるとあれば空で来るはずだ」
「その油断を突くわけだね? 面白いね、ワクワクしてくるよ」
 榊原と呼ばれた少年は半ズボンに白衣という出で立ちで来るりと回るとコロコロと笑う。
 更なる驚異が京都市に迫ろうとしていた。

●参加者一覧

篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
玖堂 暁恒(ga6985
29歳・♂・PN
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
エヴリン・フィル(gc1479
17歳・♀・ER
南 十星(gc1722
15歳・♂・JG
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
エシック・ランカスター(gc4778
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

●再会
「久しぶり。なんか雰囲気変わったよな、お前」
 ラストホープを旅立つ前、翡焔・東雲(gb2615)は歯切れ悪そうに山戸・沖那(gz0217)に声を掛けた。
「東雲も久しぶり。ずいぶん前に飯食い入った分だっけ‥‥雰囲気が変わったというのはよく言われる」
 カンパネラ学園の戦闘服に身を包む沖那は和らいだ顔で答える。
 東雲の知っているトゲトゲしたあの頃とは違っていた。
「な、なぁ‥‥玖堂もそう思うよ、な?」
「ま‥‥俺は‥‥お前より山戸を見ているからな‥‥コイツ、アイドルなんだぜ?」
 玖堂 暁恒(ga6985)は笑いをこらえるようにしながら沖那を小突く。
「ばか、余計なこと言わなくていいっつーの」
 沖那の方は口を尖らせて頭を掻いた。
 自然な様子が東雲には嬉しく思えるが、それを言葉にするには少し恥ずかしい。
「いやいや、お嬢さん。はじめまして、エシック・ランカスター(gc4778)といいます。以後、お見知りおきを」
 東雲が暁恒と沖那を見守っているとエシックが東雲に片膝をつきながら薔薇を差し出してきた。
「あ、ああ‥‥よろしく」
 予想外なエシックの行動に東雲は毒気を抜かれて一歩退く。
「皆さん‥‥その、早くしないと時間が‥‥」
 一連の様子を眺めていたエヴリン・フィル(gc1479)が遠慮しがちに声を掛けてきた。
「そうですよ。京都は祭りの思い出の地。寄生虫などに壊させはしません!」
 ラナ・ヴェクサー(gc1748)もエヴリンの声掛けに強く同意する。
 彼女にとって恋人との思い出がある大切な場所が京都市なのだ。
「よし、いこう。合流ポイントは俺が案内するから、そこから京都市の二条城まで護衛だ」
 沖那が先導をするように破曉へと乗り込む。
(「本当に変わったな」)
 頼もしくなった沖那を見ながら東雲もロジーナbisへと乗り込むだった。

●接触
「ジャミングと思われる反応あり。中和を開始します。全機コードレッド」
 自機の<強化型ジャミング中和装置>を起動させながら篠崎 公司(ga2413)は指揮をはじめる。
 最年長であり、ウーフー2という機体もあって自然とそういう立場になったのだ。
「12時の方向からヘルメットワームらしきものが10、ビックフィッシュらしきものが1。識別データはありませんので各自注意を願います」
 敵数を確認した篠崎が全員に注意を促す。
 いかなる装備を持っているのか分からない敵は注意するに越したことは無い。
『京都でワームは殆ど見たことありません。おそらく朱貂の一味でしょう。これは磨理那様たちに届ける、大切な物資です、朱貂たちに落とさせる訳にはいきません』
『好きにはさせないんだカラ‥‥っ』
 京都に対して思い入れの強い、南 十星(gc1722)とユウ・ターナー(gc2715)は篠崎の言葉に力強く答えた。
「では、南機とターナー機は私についてきてください。僚機との一斉射撃後、ビッグフィッシュの方を狙いに行きます」
『Rabbit了解だよっ!』
『了解です。おそらく指揮官‥‥四鬼士の一人かもしれません。朱貂を入れて3人までしか確認されていませんからね。気をつけてください』
 3機はそろって敵陣へ突撃のタイミングを図った。
 
●ヒトウバン
『京都で好きにさせておくと、姫さんの負担が増えるばかりだからな‥‥良い加減に、大人しくさせてやろう‥‥』
 暁恒のウーフー2が<強化型ジャミング集束装置>を発動させると、一斉射撃を能力者達がはじめる。
「火力の集中は戦力の基本‥‥削れればいいのですけれどねっ」
 ラナはこちらの数の倍はいる敵の小型ヘルメットワームに向けてDー03ミサイルポッドを二発放った。
 すぐさま一体に接近すると、その異様さがまず目につく。
『ヘルメットワームに人の顔‥‥悪趣味ですね』
 ミサイルを受け止めて呻き声でも上げるような顔のあるヘルメットワームがラナの目の前にあった。
 大きな口を開いて噛み付いてくる。
 すばやい動きにラナのサイファーが喰らいつかれ装甲が悲鳴を上げた。
『砲撃を、してこない?‥‥ インファイトな、ヘルメットワームなんて‥‥中々、遭遇しませんよ‥‥』
 ラナ機を助けるためにエヴリンのディスタンがプラズマリボルバーを不気味な顔つきヘルメットワーム『飛頭蛮(ひとうばん)』へ叩き込んでラナ機を逃がす。
『なんで妖怪にする必要があるのかわからんね。幽霊じゃなくて良かったけど』
 飛頭蛮とは中国の妖怪であり、顔のついたヘルメットワームは言いえて妙なネーミングである。
 前衛であるラナ機を支援するように東雲機が47mm対空機関砲「ツングースカ」で支援を続けた。
 敵の数は対応する能力者の倍、数の多さは連携でカバーするしかない。
『素晴らしく幻想的な街です。こういう場所での出会いは刺激的な方がいいですね‥‥っと、もちろん仕事もしますよ』
 <リンクス・スナイプ>を使ったエシックが射程内で当てられる敵を確実にスナイパーライフルLPM−1で迎撃した。
『数が多い‥‥な。山戸も‥‥ひきつけろよ』
『分かってるよ、クソ。苦手だってのに』
 悪態をつきながら沖那もガドリング砲「嵐」などで輸送機に近づけないようにしている。
『ど、どうです‥‥能力者になった私ならヘルメットワームくらいは何とかできるんです』
 エヴリン機が哨戒しようとする敵機にむかってスナイパーライフルを撃ち込み、気をこちらに向けさせた。
 機体のタフさではメンバーの中では自信があるため、耐え切ることだってできる。
『確実に数を減らしますよ』
 ラナが機体を傾けながら上昇し、敵機の上をとった。
 すばやく慣性制御で反転しだしたところで試作型「スラスターライフル」を叩き込み、自分を狙ってきた敵を倒すことに集中する。
 暁恒機からもスナイパーライフルが飛び、何とか一機を片付ける。
『こちらへ援護を頼みます。数をひきつけていますが、集中攻撃を食らえばこちらも持つとは思えません』
『分かったすぐに支援するからまっていろ』
 東雲機がエヴリン機を援護するように機体の向きを変えて攻撃をしかける。
 ひきつけられなかった敵は輸送機へ向かうなど、混戦状態は長く続きそうだった。
 
●火車
『この僕が調整した火車と飛頭蛮が君達の相手だ! 僕は四鬼士の一人榊原!』
 突撃してくる3機に向かって弾幕のようなミサイル群を放ったビックフィッシュ『火車』から子供の声が響く。
 弾幕のようなミサイル群を損害を覚悟の上で、3機のKVは抜けてきた。
「私は南 十星、磨理那様の剣と盾! 四鬼士の榊原とやら勝負です!」
 南のスピリットゴーストは、ファランクス・テーバイで被害を減らしたてた一番に反撃に移る。
 主砲部を狙って<ファルコン・スナイプ>で狙いをさだめた200mm4連キャノン砲を南は発射した。
 大きな咆哮を上げた弾が叩き込まれ、主砲の一部が損壊する。
『やってくれたね。けどね、この火車の武装はまだまだあるのさ』
 10歳前後の子供のような声が響くと火車の横の装甲が開いて高速の弾丸が飛んできた。
 物体を加速させて飛ばすリニアキャノンである。
 回避に優れているとはいえない南機に直撃した。
「まだです。私の心は磨理那様の笑顔のために折れるわけにはいかないのです」
 副砲でもすさまじい火力に機体の各部が異常を示すも、南の目は戦意を失ってはいない。
 輸送機には自分が磨理那のために手作りしたクッキーを入れてもあるのだ。
 再び主砲が火を噴こうとしたとき、上空からミサイルの雨が降り注いで激しい爆発を起こす。
 ユウのディアブロがI−01「パンテオン」を放ったのだ。
 火車の主砲が砕けて燃えあがる。
『行こう、ミカエル‥‥!』
 ユウ機が火車を狙いブーストを仕掛け、真スラスターライフルの射程圏内まで加速した。
『上からの接近に気づかないとは何をやっている! さっさと撃ち落とすんだ!』
 ビックフィッシュの背中が開き、初撃のときに見たミサイルの雨がまっすぐに飛ぶ、ユウ機‥‥そして周りで援護をしようとした南機達をも狙う。
 急接近から回避を試みるも隠し玉に対応が遅れた。
 ミサイルの雨を受けて、ユウ機の勢いが落ちる。
 続けざまにリニアキャノンが叩き込まれてユウ機は緩々と地上へ落下していった。
「ユウさん! よくもやってくれましたね、四鬼士!」
 リニアキャノンとミサイルの雨を受け、南も機体の損傷の激しさに焦りを見せる。
『人の心配をしている場合ではないよね! 逃げるなら今のうちだよ』
「逃げはしません。次はそのミサイルの有爆を狙います‥‥」
『南さんは冷静に。冷静さを欠いたほうが戦いは負けます』
 篠崎の言葉に南は深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
 自分達は火車を攻撃することで、飛頭蛮への支援をとめるのが役目だと思い出した。
「すみません‥‥とにかく、あちらが片付けば援護が来ます。輸送機も守れます。それが最優先でしたね」
 篠崎の言葉に南は気持ちを入れ替え、火車への攻撃を再開する。
 リニアキャノンなどを狙って篠崎機もスナイパーライフルやミサイルで牽制を続けるのだった。
 
●決着
 飛頭蛮との戦いは苦戦を極めていた。
 それでも、ビックフィッシュからの支援攻撃が無いために、距離をとって戦えば倒せないレベルではない。
 数を一体一体と、確実に減らしていた。
「リロードする時間が欲しいですね。本当に」
 輸送機の近くまで飛頭蛮の何体かは近づいて来ていた。
 身を立てにしつつ兎に角乗り切らねばならないが、相手の噛みつきや突撃攻撃はすばやく、油断をしていれば態勢を崩される。
 エシック機は84mm8連装ロケット弾ランチャーでスナイパーライフルLPM−1のリロードの隙を埋めた。
 口の中に叩き込まれた弾頭が破裂するとそのまま爆散した。
『こいつはかなりジリ貧になりそうだ』
 沖那が愚痴零した。
 エシックを支援するにもラナ機と共に輸送機を守るのが精一杯なのである。
「まったく、そうですね‥‥しまった、弾切れです」
 エシックが1体の飛頭蛮を倒して、次へいこうとしたとき、残数が0であることに気づいた。
 スナイパーライフルのリロードをしようと思ったとき飛頭蛮がフォースフィールドを張りながらタックルをしてきて、その一撃で沈んでいった。
「すみません、不時着します‥‥」
 ゆるゆるとエシック機が地上へと下りていくのを残った飛頭蛮が追いかける。
『‥‥墜落機狙いは的を得ていますが‥‥で、できるかは別問題です』
 エヴリン機のロングレンジライフルが飛頭蛮を後ろから狙って撃ち抜いた。
『こっち‥‥は片付いた‥‥今ので全部のようだ‥‥な』
 玖堂機からの通信が皆にいきわたり、最後の攻撃をするために被害をもろともせずに全機が火車へと向かう。
『此処で一気に決めましょう!』
 篠崎機の合図と共に残っている残弾全てを叩き込もうと能力者達は準備をした。
『まずいだろうがこれでもくらえ』
『火車は目を合わせるとあの世につれていかれるんだっけ‥‥? 今回行くのはお前らだけだ!』
『ここで敵の司令官を削らなければ‥‥消えて頂きます!』
 玖堂機の84mm8連装ロケット弾ランチャーや東雲機のASM「トライデント」、そしてラナ機のD−03ミサイルポッドが火を噴く。
 ありったけの火力が火車に集中して装甲などを砕くが、撃沈までには至らない。
『蚊トンボがやってくれたなぁっ! ‥‥今日のところは退いてやるよ。次あった時はこうはいか無いと思うんだね』
 捨て台詞を残して火車はブーストを掛けて撤退していった。
 
●到着
「これでお姫様が少しは楽になれるといいんだけど」
 愛機をキョートタワーを管制塔にして作られた飛行場に着陸させながらヘルメットをとって東雲は髪を掻き揚げる。
 話には聞いていたが、鉄の壁に覆われた京都の町並みは異様な光景だ。
『ユウとエシックを回収してきたから門を開けてくれ』
 沖那の声と共に羅城門が開かれ、人型形態の彼の機体に支えられたユウ機とラナ機に支えられたエシック機が中へと入ってくる。
『敵の力を甘く見ていましたね。ヘルメットワームといって油断しました』
 エシックが苦笑しながら言葉を漏らす。
「本当に厄介な状態になっているんだな‥‥」
 東雲は改めて自分の知っていた頃と今が違うことを感じた。
「ご苦労じゃったの。まさか天羽ノ君より補給物資が来るとは思っておらなかったがの‥‥機体の修理はやらせるので、そち達は休んでゆくとよいのじゃ」
 思案していると平良・磨理那(gz0065)が能力者達を出迎えに来る。
「磨理那様、お久しぶりでございます。南 十星、京都へ参りました。クッキーを焼いて参りましたので差し上げます」
 出迎えてくれた磨理那を見つけた十星は機体から降りると手作りのクッキーを直接手渡した。
「次は、皆で一緒に食べましょう」
「うむ、京が安定した頃にはの」
 笑顔を見せる十星に磨理那も笑顔を返す。
 天橋立から来た御使い達の物資は京都市、そして、磨理那の新たな力となるのだった。