タイトル:【BD】孤立部隊を救え!マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/26 11:28

●オープニング本文


●ボリビア国内 スクレ
 バグアの突きつけてきた脅しと共に、ボリビア領内へはキメラが侵入を開始していた。本格的な侵攻ではなく、これも脅しの意味合いなのだろう。
「‥‥でも、この国にはそれに抗う力がない」
 国王ミカエル・リアは項垂れる。中立を標榜するボリビアの主権を尊重し、UPCは駐留していない。援助という形で持ち込まれた僅かなSES武器や能力者らの力では、長大な国境線はおろか、人里を守ることすら困難だ。それゆえに、彼は悩む。
「ULTへ依頼を出す。それならば国是を犯してはいない‥‥。そうだとでもいうのか? それで納得させるにも限界はある」
 一歩を踏み出した若き国王に、摂政のマガロ・アルファロは不快げに眉をしかめてみせた。
 
●孤立無援
 大きな力では無いにせよ、ボリビア国内では能力者が発掘され少ないながらも小隊が組まれてキメラの対応に出回っている。
 自分達の力で少しでも国を良くしようという思いが彼らを動かしていた。
 国境ラインのジャングルにてキメラを倒していた、ボリビアの能力者小隊『ピスカ隊』は大人の男一人、子供男女2人ずつの5人で組んで動いている。
 生まれも職業も違う5人だが、キメラを倒す力を得て、訓練も乗り越えて来た仲間だった。
「まだ連絡に寄ればキメラもいるらしい‥‥最新の注意を払っていけよ。キメラ退治にラストホープのベテランも来るって話だからな、凌ぎきれればいい」
 リーダー格のへヴィガンナーが子供たちに注意を促す。
 飲み物を飲んだり、保存食を口にしていると殺気を感じて急いで武器を取った。
 姿は見えないが、気配だけで体が震えるほどのものをピスカ隊の面々は感じている。
「なに、何なの‥‥おかしいよ、この感じ‥‥」
 体感したことの無い気配に10歳少女のフェンサーが震えだした。
 ジャングルの中で鳥の鳴き声だけが響いているいつもの姿のはずなのに、恐怖が5人を襲う。
 ガサッと茂みがなると16くらいのスナイパー少年がマシンガンを茂みに撃ち込んだ。
「びびってんじゃねぇぞ、おらぁっ!」
 茂みから飛び出した影は空中で回転をしながら、ダークファイターの少年を蹴り飛ばす。
 鋭い一撃を受けた少年は地面に転がり気絶した。
「あ、アスレード(gz0165)! 何故、こんなときにこんな所で!」
 へヴィーガンナーのリーダーが驚愕と共にガトリングシールドを構えて攻撃を仕掛ける。
「テメェらにいうことはねぇ! せっかくだ、援軍を呼べよ。噂じゃ最近強くなったらしいからなぁ?」
 銃弾をさらりと交わし、男の真ん前まで詰め寄ったアスレードはサメのような笑顔を見せるとボディーブローを叩きこんだ。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD

●リプレイ本文

●相手への思いを馳せて
 ジャングルの中を8人の能力者が走っていた。
 大規模作戦、第一フェイズも終わった時に聞こえた救難メッセージを聞きつけて掛けている。
 その中でも5人は体に深い傷を負っていながらも助けを求める声に答え、そしてアスレード(gz0165)に会うために走っていた。
「最初からクライマックス‥‥なんて、こういうのを言うのかねぇ‥‥倒しきれる自信は無ぇが、どうにかして追っ払わねぇとな」
 覚醒の影響で口調を荒げる宗太郎=シルエイト(ga4261)は右手に槍を握り、左はアレックス(gb3735)に肩を貸して引っ張る。
『ぐっ、まさかドジっちまうとは‥‥。悪いな先輩』
 重体者の一人であるアレックスはミカエルを着込み、痛む体に鞭を打って前に進んだ。
 体は安静が必要な程にボロボロだが、その闘志はまだまだ健全であり、倒れるならば前のめりと心を決めてもいる。
『こうなっちまった以上、せめて万全な状態じゃない事を残念がらせてやる』
「アレクは無理しない。僕がいうことでもないけれどね‥‥」
 バイク形態のハバムートを引きながら同行する霧島 和哉(gb1893)も傷ついた体でありながらアスレードとの相手を志願していた。
「本当はボリビアでの戦いの御礼参りをしたかったのですが、そうも行ってられませんねぇ‥‥」
 アレックスや和哉と同じ小隊にいる米本 剛(gb0843)も負傷した現状を悔やみながらも待ち構える敵への思いに気持ちを昂ぶらせる。
「気にするなよ。その分、怪我のない俺らがやるだけだ」
「ええ、そうですよ。この状況でどこまでやれるか分かりませんが、味方を放っておくわけにもいきません。どうにかして退いていただきませんとね」
 いつもの笑っている印象を崩さずにセラ・インフィールド(ga1889)は宗太郎の言葉に答えた。
「もう、そろそろかしらね? 使えるものは何でも使っていくわよ。実質どこまでできるかわからないのだから‥‥」
 葵 宙華(ga4067)は外套を羽織りながら、唇を噛み、視線を前に向ける。
 茂みを掻き分けて、8人は通信のあった座標を兎に角目指した。
「こんな状態でアスレードか‥‥正気じゃないな。だが、それでもやらねばならんか‥‥」
 アスレードに受けた昔の傷跡に手をやり、藤村 瑠亥(ga3862)は一人、言葉を漏らす。
 重体での傷よりもアスレードに受けた一発を返すために藤村はここにいた。
 さらに奥へと進んでいくと、打撃音と共に荒っぽい声が聞こえてくる。
「これは奴‥‥だな? 随分と命知らずな真似だが、やってやるしかないな」
 茂みに飛び込むようにして紛れた九条・命(ga0148)は閃光手榴弾のピンを抜いた。
 
●機先を制す
 セラがピンを抜いて用意していた閃光手榴弾をアスレードに投げ込むところから戦いは始まる。
「来たか‥‥」
 閃光が周囲を包むが、アスレードは動じることなく気配を読んだ。
 その隙を縫った命が<限界突破>と<瞬天速>をあわせて使い、文字通り限界に体を酷使しながら間合いを詰めて拳を叩き込む。
 本当ならチョコをかじるつもりだったが、そんな余裕はない。
「一発くらい、当ててやる!」
「はんっ! そんなボロボロの体で何ができる」
 全力を持って放ったはずの命の拳だが、その掌の中で閃光手榴弾が爆ぜた。
 強烈な閃光が二人を包み、命共々アスレードは目をくらませる。
 だが、そのような状況でありながらも、容赦のない蹴りが命の体を上空へ浮かせた。
「次は‥‥覚えていろ」
 ドシャっと落ちた命は苦し紛れに呟く。
「命さん! いえ、そんなこといっている場合ではありませんねぇ」
 しかしながら、命を攻撃することで出来たチャンスを逃すことはできないため米本も<四肢挫き>による固定をアスレードに仕掛けた。
 間合いを詰めるだけでも10秒を越えることしかできない米本にとってこのチャンスを逃せば後がない。
 ガシッとアスレードの四肢が米本の四肢に絡みとられて、動きが封じられた。
「続けていきますよ!」
 すぐさまにセラが月読を抜いて斬りつける。
 <天地撃>を狙おうとしたとき、アスレードの顔が不敵に歪む。
「残念だ。もっと強い奴を期待したんだが、こんな程度だとはなぁ!」
 四肢を止めている米本を頭突きで仰け反らせた後に膝蹴りを胴体にめり込ませて戒めを解いた。
「力及ばずですか‥‥しかし、自分の今出来ることはできましたよ」
 よろめく米本だったが、その顔に後悔は浮かんでいない。
「三発も耐えたあの時のテメェからすればクソにもならねぇよ。殺す価値すらない」
 アスレードは米本を一瞥していると、次なる動きが見えた。
「半人前二人‥‥一人に届くか届かないかだ‥‥」
 能力者達の追い打ちは続く。
 短期決戦をしなければ勝ち目はないと皆、覚悟を決めているのだ。
 藤村が和哉を抱きかかえて<迅雷>で急襲するように近づく。
「それでも‥‥やらない訳にはいかないから‥‥」
 <竜の瞳>を使って少しでも当てられるようにした和哉が<竜の咆哮>の一撃を狙った。
「てめぇらも重体か? よろよろの動きを俺様が見切れないと思ったか、クソがっ!」
 回し蹴りで二人を弾き飛ばしてアスレードは苛立ちに声を荒らげる。
 期待はずれといった様子が言葉にしないまでにも戦っている能力者達には伝わってきた。
「いくぜアスレード! 出し惜しみ無し、こいつが俺の全霊だ!」
 仲間は退けられたが、宗太郎が<瞬天速>で飛び出しながら<急所突き>で強襲をしかけ、更に反対側からはセラが挟み込むように斬る。
「ずいぶん前に出会った小僧か‥‥これが全力だと? くだらねぇ!」
 左右からの攻撃をアスレードは受け止め、苛立ったような顔で吼えて力任せに投げた。
 地面に二人は転がるがそれでも瞳は負けを見せない。
「一筋縄ではいきませんか‥‥まだ負けはしません」
 青白いオーラを纏っているセラは普段は閉じている目を見開きアスレードを睨んだ。
 月読を返しカウンターを狙うようにアスレードの出方をセラは待つ。
「良いだろう、その目‥‥この一撃を見せてやるぜ!」
 セラの動きを察したアスレードが右手を輝かせて殴りかかった。
 受け流そうとしたセラの目の前にすでにアスレードの拳が見え、体に叩き込まれる。
 加速されたセラの体はジャングルの木を薙ぎ倒していた‥‥。

●二段構え
「覚えてる? というか覚えててね、私はもっと成長するから」
「あぁん? 雑魚が吼えるな。結果を出してから威張るんだな」
 苦無を見せながら、葵が木々の間を走ってアスレードに言葉を渡すも、アスレードは鼻で笑う。
 アスレードが追いかけてくることを確認した葵はコートを脱いで投げつける。
 すぐさま振り払おうとしたアスレードに対して背中から声と共に銃弾がぶつけられた。
『よぉ、また会ったな‥‥アスレード。腕の調子はどうだ?』
「ちっ、次から次へとゴミ虫が‥‥もっと強い一撃は来ないのか? あ”ぁぁ!」
 銃弾は寸でのところでかわされ、アスレードの視線は銃弾を構えたアレックスを上から下まで眺めると忌々しく叫ぶ。
 指弾がAU−KVの腹部の装甲を貫き、血を噴出させた。
『文字通り命懸け、か‥‥クソったれ‥‥だが、他の奴らがやってくれるさ』
 アレックスが倒れこむと葵が真・デヴァステイターの引き金を引きコートを蜂の巣にするかのように銃弾を叩き込む。
「そうよ、ボロボロの人よりもこっちを向いて頂戴」
 銃弾がフォースフィードにぶつかり、マズルフラッシュと共に赤い障壁が強く光った。
「甘い甘い! どうした! もっとたぎる相手はいねぇのかよ!」
 ダメージを受けた様子すらないアスレードが葵に指弾を飛ばして、肩口を撃ち抜く。
「まだだ‥‥まだ、終わらせねぇ!」
 そのとき上空から宗太郎の声が響き、ランス「エクスプロード」での急降下チャージがアスレードに迫った。
 アスレードの頭上にもフォースフィールドが輝き、爆発音がジャングルに響く。
 ギリギリと槍を押し込むが、槍先を掴んで止めたアスレードの右腕がそれを阻み、ピクリとも動かせない。
「‥‥聞きてぇ事がある、別に大したことじゃねぇ‥‥」
 緊迫した空気の中、宗太郎はほぼ同じ高さに並んだアスレードの頭に向かって尋ねる。
「あぁ? この状況で何を言ってるんだ、ガキが」
「姐さん‥‥ナパームレディの体は、しっかり粉微塵になったのか?」
 宗太郎はコロンビアのキメラ闘技場で死んでいった一人の能力者のことだ。
 アスレードらから仲間を助けるために自らの命を絶った人の行く末が気になったのである。
「馬鹿馬鹿しい‥‥聞いてなんになる?」
「‥‥いや、なに、姐さんとは戦いたくねぇ。ただ、それだけだ!」
 鼻で笑うアスレードに宗太郎は力を込めてエクスプロードを押し込んだ。
「ドイツもコイツも俺様を馬鹿にしているのかぁ? そんな甘っちょろい考えで俺様の首を取ろうなんざ十年はええっ!」
 元々治り切っていなかった右腕が槍先を離し、ランスがアスレードに突き刺さるかと思ったとき、軸をずらして急所をはずしたアスレードの拳が光を纏いカウンター気味に宗太郎へと繰り出される。
 肋骨へ抉るような一撃が叩き込まれ、宗太郎の体が横に飛んで地面に伏せた。
 まともに立てるものは一人としていない‥‥。
 
●敗北
「時間つぶしにもならねぇ‥‥はじめにぶっ飛ばした雑魚とかわらねぇとはどういうことだぁ?」
 怒りを通り越して呆れさえ見せるアスレードの前に葵が片手を広げて立った。
「死逢いは終了よ、これ以上有益な死闘[たたかい]は出来ないっていうのはお互い判ってるはずよね?」
 撃ちぬかれた片手からは血が流れ落ちるも、葵はアスレードの目を睨み続ける。
 虚勢を張ることしかできないが、それでも葵は言葉で相手を攻めた。
「少しは気がすんだでしょ、興冷めよねぇ? 大きな戦いの片手間に遊ぶにはお互いタイミングが悪すぎた。だから今回はコレで帰ってくれるかしら?」
「てめぇは誰に対して物を言っている? 馬鹿か? そういうのは俺様を楽しませてから言うことだ」
 瞬時にアスレードは葵の前に近づき、猛禽類を思わせる瞳で葵を睨むとカカト落としを食らわせて地面へと転ばせた。
「確かに‥‥勝ち目も何もないかも知れんが‥‥それが理由には、ならんだろう‥‥?」
 這いつくばっていた藤村は二刀小太刀「疾風迅雷」を杖のようにして立ち上がった。
 体中が痛み、応急手当をしたところからは血が噴出している。
「理由にはならねぇな‥‥だが、噂に反して弱すぎる。あまりにもクソだ。てめぇらの目的が俺様を倒すことであるなら、こいつらをどう料理しても俺様の自由ということだな?」
 痛みに苦しんで転がっている5人のボリビア人を見ながらアスレードはサメのように笑った。
「そんなことは‥‥させませんっ!」
 一人として動けないと思っていた中、セラが傷ついた体ながらも斬りかかる。
「決めるのは俺様なんだよ! 雑魚は寝てろ!」
 足からソニックブームを放ち、セラを刻むとアスレードは唾を吐き捨てた。
 5人の男女を軽々と担ぎ上げるとアスレードは倒れている能力者達をじっと眺めまわし鼻で笑う。
 <瞬間移動>で姿を消すと、静寂がその場に戻ってきた。
「普段会いたいという思う時に会えない等と、心焦がす恋人ではあるまいに‥‥帰れるにしても、すっきりしない」
 AU−KVから転がるように出てきたアレックスは腹部を押さえながら空を見上げる。
 晴れていた空が雲に覆われ、雨が降ってきた。
 倒れている能力者の悔しさを表すかのような冷たく、激しい雨だった‥‥。