●リプレイ本文
●浪漫の翼を持つ鷹
北米のドローム本社にある『ドロームAirCraft研究室(通称:AC研)』は研究棟の中でも隅に位置していた。
そのAC研と書かれたプレートのある部屋を覗くと、F−15が部屋のど真ん中にドンと置かれていた。
「F−15イーグル‥‥死んだお父さんも、これに乗って空を飛んでたのかな‥‥?」
リーゼロッテ・御剣(
ga5669)は10年前に他界した父を思いながら、その鋼鉄の翼を持つ鷹を緑の瞳で眺めていた。
「AC研って、英西軒って中華そばやみたいやね?」
三島玲奈(
ga3848)も、一緒に覗きながらそんなことをつぶやく。
「能力者だけじゃバグアに勝てないし、能力者以外の人が戦う手段も増やさなきゃね。今回の呼び出しはこれからの戦いに必要だよ」
雪村 風華(
ga4900)もひょいと中を覗く。
「一体、何だ? ドローム社の研究棟に軍人でもないのが‥‥」
能力者たちが入ろうかどうか迷っているとき、ブーツを鳴らす音と、低い声が廊下に響いた。
振り向けばそこには戦闘機乗りの格好をした男がいた。
その男はグレーの髪は切りそろえられていて、彫りの深い顔立ちをしている。
「あんたは‥‥摸擬戦のときにいた、イーグルドライバー」
藤枝 真一(
ga0779)は2ヶ月ほど前に共に空を駆けた男の姿に驚きを隠せなかった。
「どこかで見た顔だと思ったら、お前はバイパーに乗っていた傭兵か。ということは、ここにいる残りも能力者で傭兵なわけか」
一通り見回すと、男は納得したようにうなづいた。
「このたびはよろしくお願いします! イーグルドライバーの方にあえてうれしく思います」
伊藤 毅(
ga2610)はTVのヒーローを見るような瞳で男を見上げ、敬礼をした。
「今回のアドバイザーとして参加するTACネームFantomのジェイド・ホークアイ大尉だ。今回の企画は俺達にとっても朗報だ、よろしく」
握手を求めたジェイドの手を真一は握り返して答える。
「俺達だけが戦っているわけじゃないとわかるだけでも、挫けずにいられる‥‥こちらこそ、よろしく頼む」
能力者と軍人による大きな一歩が踏み出された瞬間だった。
●意見交換
「今一度自己紹介をしよう。我輩がこのドローム社AirCraft研究室長の八之宮・忠次であぁぁぁるっ!」
「私は副室長のアルパンサ・ロレンタといいます」
気合を入れた挨拶のあとに、あっさりとした挨拶が続く。
ギャップが非常に大きい。
「二人はええお笑いコンビになりそやね」
玲奈はぼそりとつぶやく。
「自己紹介はこのへんにして、事前に知らせたとおり我輩のF−15改造プランに関しての意見をもらいたいのである」
忠次はカイゼル髭を指でさすりながら、能力者たちをギロッと見回す。
かなり怖かった。
「年功序列というわけではありませんが、俺の意見を述べさせてもらいます」
フォーカス・レミントン(
ga2414)は立ち上がり、一度咳払いをしたあと話し出した。
「俺の方からは機動性強化案を推したいと思います。前回の大規模作戦で重量過多によって撃墜されたことがあるからです。KVでもそうなるのならF−15で重量過多になるのは避けたいなと」
「なるほど、経験則は非常に助かる意見ですね」
ロレンタがメモを取っていく。
「ちょっと質問いいか? コストの安いF−16でもなくて、あえてF−15をアップグレードして大量に使ってる理由を知りたいんだが」
フォーカスの説明のあと、ルクシーレ(
ga2830)が挙手をした。
「いい質問である。たしかにF−16のほうがコストは安い。しかし、F−15はもともとアメリカの防衛戦略としての計画がでていたため、予算などがとおりやすかったのである」
「しかし、なぁ‥‥」
忠次の回答にルクシーレは納得のいかないという表情をする。
「それに、F−15はアメリカの国鳥である鷹を使っているのだ。シンボルとしてもこれに適したものはないのである。イーグルドライバーの名前のとおりもよいのである」
「なるほどね、そういう話なら納得いくな」
「しかし、その不滅の鳥もバグア相手には苦戦中。本格的な戦争がはじまってから数十人のイーグルドライバーが死んでいっているのが現状だ」
晴れた顔のルクシーレに対して、イーグルドライバーであるジェイドの表情は曇った。
「あ、俺からのプラン推薦は実弾弾幕兵装だ。使い捨てポッドとするなら換装の手間はへるからな。多少アビオニクス周りを改良する必要はでてくるだろうけど」
そんなジェイドを見たためか、話題を変えようとルクシーレは自分の意見を述べた。
「自分はレーザーがいいかなぁって思う。エネルギーチャージをすれば使い捨てしなくてもいいし。可能ならレーザーの射程を延ばして欲しいところだね」
三谷佐 遥(
ga5986)はイーグルドライバーや、F−15と共に戦うことを喜んでいる。
しかし、多くの文献を読んできた遥には現状のF−15でバグアと戦うには限界を感じてもいた。
「主役を張るのは無理かもしれないけれど、数の多さがあるから支援機として長距離からの援護や絨毯爆撃ができるようになるのが理想かな?」
「ふむ、なるほどである」
忠次は能力者たちのしっかりした目を持った意見に関心している。
「俺としてはどれも一長一短なのが気になったかな? 機動強化はいいがバルカンでは危険すぎるし、レーザー兵装はデットウェイト化がネックになる。実弾兵装が弾をつかってかるくなる分ましかな?」
真一が遥と交代に立ち上がり、プランの概略書類を見ながら意見を述べた。
「藤枝さんでしたっけ? 一長一短なのは仕方ないことなのです。すべてに万能をもとめてしまうと、それが一番の欠点になってしまうのです。F−16を使わない理由はそこにもあります」
真一の意見にロレンタがすまなそうに言葉を付け加えた。
平均にしてしまうと、結局のところF−15は中途半端になってしまう。
だからこそ、大きく流れをかえるためにピーキーともいえるプランをあげているのだ。
「弱点がなくてもうまくいくのは基本性能が高いからこそいえること。そうでなければどこかをエッジにしなければ突破口は開けないのであぁぁぁる」
どこか寂しそうに忠次はいう。
「なぁなぁ、機動性強化で無人機とかあかんの?」
そんなしんみりした空気を玲奈はさえぎって質問をした。
「無人機はまずAI作りから始めなければならないので、コストとして割りにあいません。何よりワームから発せられるジャミングを防ぐ処置も必要ですし、試作機だけでもこれくらいはかかるのではないかと」
電卓をつかってロレンタが試算し、その数字を玲奈に見せた。
「こ、こらわりにあわへんな‥‥がんばれがんばれイーグル! 負けるな負けるなイーグルッ!」
数字を見て汗をたらした玲奈は現実逃避をするかのようにチアリーディングを部屋に置かれたイーグルにするのだった。
●シミュレーション
ある程度プラン案はでたが、意見も割れているので一度検証することになった。
元航空自衛隊の所属である伊藤はイーグルドライバーとのシミュレーターとはいえ戦闘ができるとあって、気分はうきうきだった。
シミュレーターの座席は、航空自衛隊時代に触ったものに近い機器が並び、懐かしさと共に体に染み付いた動作で起動を行う。
「伊藤 毅、準備OKですよ」
『それじゃあ、お手柔らかに頼む』
無線機から隣のシミュレーターに座っているジェイドの声が聞こえてきた。
「こちらこそよろしくお願いします」
『まずは機動性強化のデータで行くのである、出発していろいろ動いて体感したことなどを報告してもらうのである』
「了解です」
『了解』
答えると目の前のガラスに映った映像が動き、空へと羽ばたいたように動く。
シートが動き、Gを感じる。
「いい機体ですね、イーグルは‥‥バグアさえ、こなければ」
『かも、しかは戦闘中には禁物だ。それに、お前はもっといい翼をもっている。それを誇りに思え』
毅のつぶやきがもれていたのか、無線機からジェイドの声が聞こえてくる。
「そうですね、ここでループ!」
操縦桿を引いてぐるりと回る、KVと同等のGがかかるのを毅は感じた。
「やっぱり、高速戦闘をするには厳しいかもしれませんね‥‥ブースターパックではなく」
『ああ、かなりきついな‥‥ただ、ミサイルとかレーザーとかで重しをつけるなら空力のことを考えて出力を多少底上げしないと今までどおりには動かせないだろうな』
『エースならともかく、これじゃルーキーが上手に空戦するっていうのにはほど遠いかもね。KV用のアクセサリーにできないかな?』
ジェイドの言葉に、外から見ていた風華はそんなことをいいだす。
「売り出して、開発資金の足しになるならいいかもしれませんね」
『無駄話はやめて、次はミサイル兵装である。ホークアイ大尉のほうはレーザー兵装で同時チェックを行うものとするのである』
画面が暗転し、毅のF−15は滑走路へと戻された。
「了解です。ウェイトが結構ありますね‥‥」
機体の状態を計器でみて、毅はうなる。
再び空へと踊りでて、簡単なマニューバーを毅は試すが、やはり異質なもののおかげでうまく操れない。
『大丈夫か?』
「ええ、ですが大尉のいうように多少機動性をあげないと不安ですね。固定砲台になってはF−15の制空戦闘能力を消してしまいますし」
『そうだなレーザーのほうは弾数に余裕はないが、サイドワインダーとかと同じと考えれば上等な線だ。射程の強化を望みたいところだな』
目の前でレーザーをうちながらF−15が通り過ぎる。
「そうですね‥‥大尉、少しだけドッグファイトの相手を願えませんか?」
『了解、F−15同士でなら負けないぞ』
機体についている追加パックをはずし、2機のF−15は空を書け、ドッグファイトをし始めた。
自由に飛び回る鋼鉄の鷹は楽しそうに見える。
『二人とも、遊んでないで戻ってきてよー』
遊びだす二人にたいして、風華は外部から無線で声をかけも子供のように飛び回る二人に聞こえてはいなかった。
●浪漫の行方
(「やっぱり、空を自由に飛ぶのが戦闘機のりの人たちは好きなんだ‥‥」)
シミュレーションを使っての両者の意見や、データをまとめながらリーゼは機動性の向上を望んでいた二人の言葉を思い出していた。
(「お父さんもそうだし、私もそうでありたい」)
リーゼの心は空を飛ぶことへの情熱に支配されていく。
「パラシュートやフロートはちょっと厳しいかもね。レーザーの射程が長いなら影響ないかもしれないけれど、今のままだと空戦時邪魔なりそう」
遥は出てきたデータにため息をつく。
「俺も乗ってみたが、少し酔ったな。KVよりも操縦の難度は高い。イメージしているよりも、重量が増した時の操縦の難は大きかった」
フォーカスも二人のあとに交代して乗ってみて感想をまとめた。
「ブースターによる強化ではないにせよ、多少の小回りの重視は必要ってことになるか‥‥」
真一も結果を見て唸る。完全なブースターでないとしたら、F−15自身に手を加えなければならない。
「先は長くなりそうだが、たどりつけば今まで以上に戦況は楽になると思うぜ?」
ルクシーレも実弾兵装の有効性確保のためにアビオニクス周りの強化を進言していたので、そのついでの作業になると考えていた。
「貴重な意見、データがあつまって我輩はとてもうれしいのである。諸君らの希望していたKV用の強化ブースターを我輩のプランを応用して開発するのである」
忠次は髭をなでながら、能力者たちに向かってそう宣言した。
「一体、どういう気の変わりようですか?」
フォーカスは情熱に燃えていた爺さんの手のひら返しにいぶかしむような目を向ける。
「なぁに、開発資金をためるためにも多少はお嬢にいいおもちゃを渡さねばな! 新型機ほど開発時間はかからないだろうし、うまくいけば資金援助もえられるのである」
「それをF−15改造計画にまわそうというわけですか‥‥相変わらずといいますか」
研究に燃え上がる忠次に対して、ロレンタはため息交じりの苦笑をする。
「年季の入った存在であろうと、意見を集めれば新しい道が見つかるか‥‥」
忠次の計画を聞き、フォーカスは誰に言うわけでもなくつぶやいた。
「ほな、今日のところはこれでお開きやね! みなお疲れさん〜」
玲奈の一声で、このたびの開発プラン相談会は幕を閉じたのだった。
●飛行姫
「君はまだまだ大空を自由に飛べるって私は信じてる。だけど、戦うだけが君の生きれる道じゃないって私は思うんだ‥‥君はどう思う?」
ほかの能力者たちが研究室からでていっても、リーゼは残って部屋の中央にあるF−15をじっと眺めていた。
リーゼは鋼鉄のボディにそっと触れ、冷たい感触を直に感じる。
この翼は空を飛び戦場を駆け抜けていった。
でも、今はその戦場でさえもお荷物のように扱われているF−15がリーゼには不憫に思える。
「まだ、残っていたのか? 高速艇が出発するようだぞ?」
ジェイドに声をかけられ、リーゼははっとなった。
今回の相談した内容のメモを持ち、急いで研究室をでていく。
しかし、ぴたっと止まり研究室のF−15へ振り返った。
「もし、君が大空を自由に飛ぶ日が着たら、一緒にとぼうね♪ 約束だよ」
F−15に別れの挨拶をしたあと、リーゼはジェイドに一礼をして急いで高速艇の停留しているところまで駆けていった。
「浪漫を持った空飛ぶ少女‥‥浪漫飛行姫といったところか」
走り去るリーゼを目で追いかけながら、ジェイドはぽつりとつぶやいた。