●リプレイ本文
●いきなり全開?
「いっけぇぇ! 愛紗ブーストォォ★」
バチコーンと愛紗・ブランネル(
ga1001)鋭い蹴りがあたるとイノシシキメラは地面に転がり、続いてベルニクスの一撃を受け息をしなくなる。
「やったよ、はっちー! 久しぶりの依頼で活躍だね!」
手に持ったパンダのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめているとライディ・王(gz0023)が物陰から姿を見せた。
「あ、どうもありがとうございます‥‥愛紗ちゃんじゃないですか。久しぶりですね」
「ラジオのお兄ちゃん! 覚えていてくれて愛紗、嬉しいな♪」
約二年ぶりに参加した依頼で出会ったのがお世話になった人ということもあって愛紗はほっとすると共に嬉しさに顔をほころばせる。
そのとき、ドドドドと足音を響かせてイノシシとそれに跨る白虎(
ga9191)がライディ目掛けて駆けてきた。
「にゅあー粛清だー、桃色は皆、粛清だぁー!」
いつも以上に気合をいれた白虎がライディに向かってイノシシを走らせる。
気になる女の子依頼に入れなかった腹いせだとかいう噂もあるが、そのことは当人のみぞしる。
再び追いかけっ子がはじまり、ライディは愛紗を連れて逃げ出した。
「‥‥む? ‥‥ライディさん、待ちきれずに遊んでいるのかねぃ?」
「どう見ても違うだろう。いくぞアキレウス、お前の出番だ」
逃げてくるライディをみていたゼンラー(
gb8572)が気楽に尋ねると緑間 徹(
gb7712)が突っ込みをいれながら両手剣アキレウスを構える。
「微力ながらお手伝いさせていただきます」
ライフルをリロードして狙いを定めた蓮樹風詠(
gc4585)が突撃してくるイノシシキメラに狙いを定めると、弾丸を放った。
銃弾を受けたイノシシキメラが足を止めると上に載っていた白虎が飛び上がって草の上に落ちる。
すぐさま、<迅雷>で徹が詰め寄り<刹那>を叩き込んだ。
その一撃でイノシシキメラはあっさりと倒れる。
「鮮やかな連携だねぇい。では、拙僧がこのキメラの供養のために裸で祈りを」
ゼンラーが倒れたキメラの前衣類に手をかけて脱ごうとしたが、そこへ黒瀬 レオ(
gb9668)と御鑑 藍(
gc1485)が割りこんで子供の目の毒にならないように『処理』をした。
「本当にあっという間に片付いたね。ボスと御鑑さんは最後の処理までご苦労さん」
ロープでぐるぐる巻きに去れたゼンラーを見たジョシュア・キルストン(
gc4215)はレオに声をかけつつ颯爽と姿を見せる。
イノシシキメラを倒した彼らは兵舎『はじまりの場所』のメンバーなのだ。
「ありがとうございました。とりあえず、他の食材もありますけど‥‥このキメラも食べたい人で食べましょうか?」
動かなくなったイノシシキメラを触りつつライディが尋ねる。
「愛紗は食べてみたーい。育ち盛りだもん」
一瞬、しんとなったが愛紗が希望したことによりイノシシキメラもバーベキューのメニューに加わることになったのだった。
●昼食前の過ごし方
「うん、さっきのキメラがいなければ保養には良いところかも」
「そうね、戦いばかりに明け暮れていたから静かなところはいいわね」
湖も周りをクラーク・エアハルト(
ga4961)とレオノーラ・ハンビー(gz0067)は散策する。
自宅の外では傭兵として戦場で会うことばかりなのでこうしたデートは久しぶりだった。
「皆で来るのも良いですが、今度は2人っきりでこういう感じの場所に行こう。うん、決定なのです」
「何なの、急に頷いちゃって‥‥デートのプランがあるなら楽しみにさせてもらうわね」
くすくすと笑いレオノーラはクラークと手を繋ぐ。
「実を言うと、場所の目星はつけてあるんですがね」
「へぇ。手回しいいのね。でも場所が同じなら今日と同じ様なことをするんじゃ、デートとしてはまだまだよ」
「はい、そこはもちろん気をつけますよ」
クラークもレオノーラの手を握り返してそのまま散策を続けるのだった。
「ふははは、俺様の発明の礎となれ! ファイヤーッ!」
「うわっ、このやってくれたなー! それっ!」
湖の一角ではテト・シュタイナー(
gb5138)が自作の水鉄砲を葵 コハル(
ga3897)にかけている。
テトはライトブルーのビキニ&ホワイトのレースパレオでさらに髪も下ろし別人へと変身していた。
コハルの方も水着は黒のワンピースだが、背中はザックリ空いててちょっぴりセクシーさをアピールしている。
アイドル二人が水鉄砲と水を掛け合う姿はプロモーションビデオの様だった。
「これはいいねぇ‥‥眼福ってやつか?」
ヤナギ・エリューナク(
gb5107)はガラティーンでイノシシキメラを捌きながら二人の様子を眺める。
美少女二人がじゃれあう姿というものはいいものだ。
「‥‥坊主だけは避けたいな」
「本当だな‥‥新鮮なのが釣れるといいけど」
宵藍(
gb4961)と沙玖(
gc4538)が釣り糸を湖にたらして魚を待つ。
釣り道具をライディが用意してくれたとのことで二人はバーベキューのレパートリーの一つとして考えていたのだ。
静かな湖畔は都会の喧騒などが別世界のように澄んだ空気と動物の声であふれている。
「中々釣れないな‥‥」
動きの無い糸をじーっと見つめる沙玖は欠伸をしだした。
「ふわぁ‥‥まったりしてたら眠くなって‥‥き‥‥た‥‥」
うつらうつらと宵藍が船を漕ぎ出すと糸がタイミングよく引っ張られる。
「おっと、引いてる‥‥っ。これで、どうだっ」
引っ張られた糸を引きながら宵藍が竿を上げると魚が一匹水面付近では跳ねだし、大きな獲物であることが分かった。
「網を下げるからゆっくりと‥‥よし」
沙玖も眼を覚まして宵藍が吊り上げようとした魚を網ですくって補助する。
「助かった。一匹でもつれると俄然やる気がでてくるな」
「ああ、どれだけ釣れるか楽しくなってきた」
宵藍と沙玖は不敵に笑いあうと餌をつけて釣り糸をたらし魚がかかるのを待ちだした。
ライディとシーヴ・王(
ga5638)は水着で泳ぎの練習に使えそうな場所を探している。
もっともシーヴは新しい水着が恥ずかしいためかパーカーを羽織って露出を隠そうとしていた。
「このへんなら大丈夫そうだね。シーヴ、ほら、パーカー脱いでよ」
「脱がねぇと泳げねぇのは分かってる、ですが‥‥恥ずかしい、です」
もじもじとしているシーヴだったが、覚悟を決めてパーカーを脱ぎ木に掛ける。
黒のビキニに身を包むシーヴは肌が見えていることが恥ずかしいのか手で隠してうつむいた。
「うん、やっぱり似合うね。ほら、泳ぎの練習しようか?」
「あんまりじっと見やがるなですっ」
ライディの笑顔にますます恥ずかしくなったシーヴは逃げる様に湖へと入っていく。
二年ぶりの泳ぎとなるが、体が覚えてくれていることを心のそこから願うシーヴであった。
●BBQを楽しもう
軽く遊ぶとお昼時がやってきた。
簡単に焼けるものは鉄板に乗せられてジュウジュウと音を立てている。
「キメラの肉というのも案外いけるものですね」
「元がイノシシなら食べれなくはないと思っていたが、確かにいけるな」
龍乃 陽一(
gc4336)と那月 ケイ(
gc4469)は隣り合った席でキメラ肉を食べていた。
『はじまりの場所』の仲間でもある二人の周りを同じ兵舎の仲間達があわせていたわけでもなく集まってくる。
「あぅ‥‥幸せです♪」
ビールを口にした陽一は惚けた顔でビールと共にキメラ肉を味わいだした。
「おいおい、ヨウ、しっかりしろよ。俺も人のことをいえたもんじゃないが、酒は飲んでも飲まれるなだぜ?」
「ふふふ、私は大丈夫ですよ?」
しなをつくり流し目をそいでくる陽一は男とわかっていても色っぽい。
さすが女形(おやま)というべきか‥‥。
「皆楽しそうで何よりですねぇ、うふふ。龍乃さんと那月さんも乾杯しましょう」
ジョシュアが二人の間に入ると缶ビールで乾杯の音頭をとるのだった。
「余り肉を食べ過ぎると太っちゃいますよ」
「生憎とこちらはデスクワークだけでなく前線にもでるものでね、運動はしているから新陳代謝はよいのだよ」
別の網の傍ではソウマ(
gc0505)と錦織・長郎(
ga8268)が野菜よりも焼けた肉を片っ端から取り合っている。
「育ち盛りの子供に与えようという広い心を持って欲しいものですね」
しゅぱっと箸を滑らせて焼けた肉を拾ってソウマは食べる。
「愛紗も育ち盛りだからお肉たべるんだもーん!」
ソウマに便乗してか、愛紗も網の肉を狙って食べ始めていた。
「君達にいい言葉を教えよう。世の中は弱肉強食だよ」
書類の山にウンザリしていた錦織は容赦なく長身を生かした幅広い範囲の肉を捕らえていく。
子供相手に大人げないかもしれないが、それでも疲れた心には楽しいひと時だった。
●もちつもたれつ
「夏のBBQと言えばビールが美味いわけで‥‥乾杯!」
「おう、乾杯だ」
釣り上げた魚を焼くための準備をしてきた宵藍はヤナギの元に缶ビールを持ってきて渡し、軽くぶつける。
「マネージャーもビール大丈夫?」
「缶半分くらいなら‥‥僕、弱いんですよ」
「じゃあ、残り半分はシーヴがもらうですね」
宵藍とヤナギの周りはライディ、シーヴとコミックレザレクションのライブに参加していたメンバーが集まっていた。
「ライディ、焼けたの持ってきたです」
「うん、ありがとう。シーヴは相変わらず野菜中心だね。夏バテとか心配だよ」
「い、いいじゃねぇですか‥‥っ」
皿に盛られた品を見比べたライディは苦笑をしながらシーヴの顔を覗く。
「おいおい、二人でいちゃつかないでこっちに付き合えよ。俺達トモダチだろ? マネージャーとアイドルじゃなくて、それより先になりたいんだよ」
ぐいっとヤナギがライディの肩に手を回して顔を近づけ、缶ビールで乾杯をした。
「今の発言は何か妖しく聞こえるぞ、ヤナギ。っと、シーヴが食べない肉は俺が食べよう成長したいんだ。この身長だと女に間違われたり酒が飲めなかったりしてこまるんだ」
ヤナギに突っ込みをさりげなく入れた宵藍は焼きあがっている肉をとっては食べていく。
各自が苦手なものなどを補う食卓がここにはあった。
●桃色注意報?
「この一日が、ただの思い出で終わるか、何かのきっかけになるかは、当人たち次第なのだよ‥‥俺もその一人か」
楽しい雰囲気を作っているバーベキュー会場を見回した徹は一人ごちる。
「いい感じに焼けてるよー。食べる?」
レオが小皿によそって徹に差し出した。
「ああ、頂こう」
「ところでレオさんは食べていますか?」
徹が受け取っていると、藍が取り分けた小皿を手にレオを見上げる。
「あ、いや‥‥焼くのが楽しくってつい‥‥」
「そうだと思いました。とりわけていますから‥‥。はい、食べてください」
残った野菜と肉や魚介類を混ぜて焼きそばを作り始めたレオの隣から藍が箸でつまんで食べさせていく。
「レオノーラもどうぞ、美味しいですよ」
「ありがとう」
近くではクラークがレオノーラに皿を渡しては一緒に肉や野菜を味わっていた。
なんだか、この場所の空気が他とは違う気がしてくる。
「難儀だな、俺も」
そんな空気さえも気を緩めて微笑ましくなった自分の姿を思い返して眼鏡を治した。
「ふふふ、桃色がうらやましいのにゃね? 皆まで言わなくていいので君もしっと団のしっ闘士としてがんばらないか!」
そんな徹を白虎がスク水姿で勧誘をする。
「しない、するか、するわけないだろう」
ずばっと徹は勧誘を断ち切ってレオにもらったBBQを味わうのだった。
●黄昏時の肝試し
夕食を済まし、昼寝をしたり水遊びを再開したりと楽しんだ後は本日のイベント第二段でもある洋館での肝試しが行われる。
蔦で覆われ、外壁の塗装が剥がれ落ちている湖畔の洋館はそれだけで何かでそう雰囲気が十分にあった。
参加者の中から脅かす役と中に行く役で分かれて、ペアやグループなどでまとまって、順序よく洋館をぐるりと裏口から入って二階に上がり、また一階に下りて正面玄関からでてくる流れである。
「ヤナぎん、抱きついてもいいよ?」
「それはパス。だせぇじゃん?」
最初に入っていったのはヤナギ&コハルのアイドルペアだ。
ニシシと笑うコハルは余裕であり、色気というものはない。
洋館の中身も外見以上に古臭く、ギィギィと床がなったり懐中電灯で照らす先には前の居住者の趣味だったか怪しい絵画が写りどっきりさせられた。
「今のところ異常はない‥‥か?」
ヤナギがそう呟いたとき、ガタガタと視線の先にある部屋から音が聞こえてくる。
一歩一歩、足を進めると今度はキィィィっという高音が部屋から流れてきた。
「ヤナギん、こわーい」
冗談っぽくいいながらコハルはヤナギに抱きついた。
(「よし! 誰だかしらないがナイス!」)
内心抱きつかれて有頂天になったヤナギの首筋にぴとっとこんにゃくが当たる。
「うぉぉ!?」
思わず驚いたヤナギはコハルと共に音の聞こえてくる部屋へと飛び込んだ。
すると、今度は頭上からタライが落ちてくる。
「ヤナギん、上! 上!」
コハルの声に答える前にお姫様抱っこで抱きかかえると<迅雷>でその場を駆け抜け、窓のあたりでブレーキをかけてターンした。
ガランガランとむなしく床に落ちたタライがしょぼくれたように落ち着く。
「まさか、コンボを仕掛けられるとは思ってなかったぜ」
「あたしもまさかヤナギんにお姫様抱っこされるとは思わなかったよ」
ヤナギが一息つくと腕の中のコハルが複雑な表情でヤナギの顔を見上げながら呟いた。
「わぁっ!」
「きゃ、きゃぁぁ!‥‥怖いですからやめてください」
大声をだすケイに驚いた陽一は一緒に来ていた蓮樹へと抱きつく。
子供じみた脅かし方だが、陽一は心底びっくりしたのか目じりに涙まで浮かべていた。
「こういうことしてると、本物が寄ってくるって言うよね‥‥ほら、あそこにいるのなんてそれっぽくないか?」
怖がっている陽一が面白いのかケイは追い込むように白い長い鬘で白い着物をまとって遠くで佇む人影を指差す。
「ひぃぃぃっ!? 怖い怖い、見えない見えない〜!」
蓮樹のぎゅぅーっと抱きついて陽一はケイの言葉を聴かないように必死だった。
「ははは、面白いなぁ」
「うーうー」
ケイが陽一をからかっていると、ピチョンピチョンと水の滴る音が廊下に響く。
「急に水漏れでしょうか? 無用心ですね」
「おぉっ! なんだ、この音。というよりは突っ込みどころ間違ってないか、フウ」
水滴音に突っ込みを入れた蓮樹へ更にびくっと驚いたケイが突っ込みをいれると3人は音のするほうへとゆっくりと進んでいくのだった。
二階のコの字になった建物の中央部の通路は長らく住まわれてないはずなのいのに柱時計が振り子を揺らして時を刻んでいる。
廊下の天井ではあからさまに分かるこんにゃくを釣り糸でぶら下げているジョシュアが脅かしついでにサボっていた。
「夜は長いですから、体力温存ですよ」
はじめに通ってきたのはソウマだった。
軽い足取りながらも速くゴールするよりは洋館の隅々まで探検しようといった楽しそうな顔を浮かべている。
「こんな廊下の真ん中にこんにゃくを下げていても驚きませんよ」
ソウマに注意されるとジョシュアはめんどくさそうにこんにゃくを引き上げた。
「何か面白いものはありませんかね?」
キョロキョロと辺りを見回しながら進むソウマの姿が急に消える。
ガタン、ドスン、ゴロンと大きな物音がすると、後ろから来ていたライディとシーヴのペアが何ごとかと走ってきた。
「なに!? 何! 何がおきたの!?」
「ライディ、落ち着くです」
懐中電灯を照らしおびえる様子が分かるライディと無表情で冷静に行動するシーヴの姿は対照的である。
天井裏から眺めていたジョシュアはせっかくなのでと移動する二人を見つつコンニャクを下げてシーヴの後頭部を狙った。
「ひゃぅ!」
ピトっと冷たい感覚にシーヴは襲われるとびくっと体を震わせた。
「ど、どうしたの?」
「な、何でもねぇです‥‥ほら、先にいくです。きびきび進む」
おどおどしているライディの背中をシーヴがつっついていく。
能力者の女子は強い‥‥。
●拘りすぎる肝試し
「肝試しデートでイチャイチャなどはさせん!」
「えー、仲良しさんはいいことだよー」
ぐっと拳を握って出口の通路前となる一階の階段下では白虎と愛紗が相談をしていた。
白虎はクラークとレオノーラ夫婦を狙って大きな攻撃を仕掛けようとしていたのである。
先ほどのライディ夫妻はライディが激しく反応してくれたが、今回はそれに輪をかけて仕掛ける気満々だった。
愛紗のほうはメイクを施して転々と蓑虫のように上から降りて回ってきたときに白虎につかまったのである。
面白そうだと乗って二人が準備をして数分後、件の夫婦がやってきた。
「きゃーきゃー言ってくれるかと思ったら、怖いの平気なんですね」
「驚いて抱きついたりして欲しかったの? それならそういってくれればちゃんと演技してあげたのに」
「結構です‥‥いいとこ見せようと思ったんだけどな」
トホホとクラークが呟きながらレオノーラと共に階段を一段ずつ下りていく。
ギィギィと歴史を刻みながら下がっていくと上から生首と共に愛紗が落ちてきた。
「わっ、これはびっくりしたわ‥‥けど、この子寝ちゃってるわね」
白塗りにクマをつけてキョンシーのような怖いメイクを施した愛紗だったが、脅かしつかれたのか寝袋の中で寝ている。
頬をツンツンとしながら、レオノーラは微笑みを浮かべた。
クラークもそんなレオノーラの姿に心和まされて言葉に従う。
だが、そのとき、顔に赤いものが飛び散った。
「にゃはは、真っ赤に染めてやるぅ〜♪」
白虎が天井裏から身を乗り出して水鉄砲で今度はレオノーラの顔を赤く染める。
白い肌の二人が赤い塗料を付けられると不気味に見えた。
「ぱぁいふぅちゃぁん? 世の中に流行っていいこととやっていけないことがあるの分かる?」
見下す視線を投げかけるレオノーラは恐ろしく怖い。
「白虎さん、やりすぎにはお仕置きが必要ですね?」
クラークの顔も本気と書いてマジなほどにこわばり、右目が金色へと変化した。
「くくく、ここは戦場。脅かすか脅かされるかという場所で油断をした二人が悪いのにゃー」
腰についたロープを解いておりると、白虎はそのまま逃げるように走っていく。
肝試しから鬼ごっこへと内容が変わった瞬間だった。
●夢のコラボレーション?
最後の組はレオと藍のペアである。
ゴールの正面玄関に行く間も、レオと藍は幽霊よりもキメラの方が怖いという信念のもと適度に驚いていた。
ガッカリさせないよう気を遣ってのことだが、その気遣いは驚かす方にとっては逆にガッカリである。
「他の人たちは無事抜けてきたようですね」
レオの服の裾をちまっと摘みながら藍はレオの顔を見上げた。
「まだ、ぜんらさんが見えてないから不安ではありますけどね」
遠い目をしながらレオが答えると廊下に怪しげなマッチョポーズの西洋甲冑が見えてくる。
ガタガタと周囲が鳴り出し、怪しさを感じながらもゆっくりとした足取りで甲冑に近づいていった。
動かない甲冑の暗い目の部分から目玉が見えたかと思うと爆発が響き、鎧の下からゼンラーがでてくる。
「たァだでェかァえれェるとゥおもうんじゃないよゥゥゥ!」
「わー、おどろいたー」
おどろおどろしい声でゼンラーが二人に喝をいれるが、一瞬びっくりするもレオはドライに返してきた。
しかし、そんな雰囲気の中風が揺らぐ。
刹那、藍の脚爪「オセ」が空をきってゼンラーの丸出しっぽく見える股間を<円閃>で狙ってきた。
「容赦ないな‥‥」
ゼンラーの大事な部分を守るために徹が金印を持って<迅雷>で飛び出す。
「ないすあしすと! さぁぁぁぁ全裸神にお祈りをするんだよぉぉ」
一命を取り留めたゼンラーだったが、反省する気もなく、汗臭い体で藍に迫った。
「見苦しいです‥‥」
鞘に入ったままの氷雨で藍は無情にもゼンラーを殴り倒す。
「痛そう‥‥緑間さんは後をよろしくね。藍さん、ゴールにいこうか」
ゼンラーの驚異を力技で乗り切った二人はゴールへの一歩を踏み出した。
中庭へと通じるドアを曲がってゴールへ向かおうとしたとき、規則正しくなる鐘の音が響く。
「何‥‥でしょう?」
「中庭の方‥‥かな?」
音の聞こえる方は中庭。
もうすぐゴールでもあったのだが、気になった二人は扉を開けて中庭へと出た。
鐘はどこにも見えないのだが、音色は不規則になるだんだん乱舞のように鳴り響いた。
コの字に建てられた洋館は反響を大きくし、不気味に広がっていく。
「レオさん、あそこ」
キメラの仕業かと警戒を強めた藍が服の裾をひっぱりながら中庭の中央にある井戸のようなところを指さした。
「ここに何かあったりするのはある意味王道‥‥ですよね」
レオが藍を守るようにしながら井戸へと近づく。
蓋のされていない井戸を覗き込めば、突然に下からライトアップされる。
ぼろぼろのシスター服に覚醒変化による赤い涙を流したテトが飛び出してきて二人に白目を見せた。
「キメラっ!」
思わず一言だけ呟くと藍は覚醒して猫の幻影を出しながら斬りかかる。
レオが宥めてテトの命を救ったのは言うまでもなかった。
●それぞれの夜の過ごし方
洋館のテラスで錦織が腕を掛けて夜空を眺めている。
「一仕事を終えた後の一杯は格別だね」
黒ビール中心の自前の酒類に口を付けて夜風を浴びていた。
肝試しでは裏方で小細工を仕掛け周り様子をみていたのである。
夕食を軽く済まし、テントと洋館で分かれて就寝時間ではあるのだが、眠れないものはそれぞれ寝ることなく楽しんでいた。
「『蝿の王』バスベズル‥‥南中央軍諜報部を苔にした借りを返せるといいのだけれどね」
一人呟きながら酒をあおっていると二胡の音色が耳に届く。
「BGM付とは優雅なものだね」
黒ビールを口につけながら漸は音色に酔いしれた。
「洋館は安全みたいですね。肝試しなんかしなければいいんです」
夕方の肝試しがよほどこらえたのか陽一は若干怒り気味で洋館周囲の見回りをしていた。
もちろん、『はじまりの場所』仲間のケイ、蓮樹、ジョシュアと共に出歩いている。
「うーん、気持ちの良い夜ですねぇ。鼻歌でも歌いたくなりますよ。ふっふっふっふふふん、ふっふっふふふ〜♪」
静かな湖畔のテーマにした鼻歌を口ずさんでジョシュアが歩いているとガサゴソと茂みが物音を立てた。
一同が武器を構えて覚醒しようとしたとき、茂みから出てきたのは狐の親子だった。
「うわぁ、可愛いです!」
蓮樹が武器を下ろして二匹に近づく。
しかし、親子は警戒しているのか子供を守るように親狐が蓮樹の前に立ちはだかる。
「これ、食うかな?」
「板チョコはさすがに厳しいかもしれません」
ポケットからケイが板チョコを出すが陽一は苦笑を浮かべた。
「動物好きに抜かりはありません」
蓮樹はビニール袋にいれたバーベキューの残りの肉を親狐の前に投げる。
一瞬、親狐はびっくりして下がったがすぐに匂いをかいで食べはじめた。
母親に促されえて子狐も肉を食べ始める。
「和みますね‥‥可愛いはやはり正義ですよ」
親子狐の様子を蓮樹はしゃがみこんで眺め顔を緩ませる。
夏の夜に素敵な出会いが訪れた。
「はい、藍さんはこっちのテントね。俺と沙玖さんとぜんらさんとは別のテントだよ」
仲間内の中で唯一の女性である藍を気遣ってかレオはテントを用意してそこに詰める。
だが、藍にしてみれば仲間はずれにされた気がして残念でもあった。
「おーっす、暇してるだろ? ゲームやろうぜ、ゲーム」
藍が寂しそうにしているとテトが愛紗をつれて藍のテントを訪れる。
「中途半端に寝ちゃったから愛紗眠れないの。一緒にあそぼ♪」
「ちょうど良かったです‥‥。一人で湖畔を散歩しようかと思っていましたけど‥‥。せっかくの機会ですからね」
藍は突然の来訪者である二人を中にいれ、テトの持ってきたカードゲームを遊び始めた。
夜はまだ長い‥‥。
床にシートや毛布を引いて愛する人と寝る夫婦や、湖畔で友人と共に酒を飲むもの。
それぞれの夜を能力者達はゆったりと過ごしていた。
夏の夜があければ再び戦いの日常へと彼らは舞い戻る‥‥。