タイトル:【AAid】我ら炊き出し隊マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/28 15:25

●オープニング本文


 【Asia Aid】
 
 過去に起きた北京大規模作戦においてその周辺地域での人道支援活動の総称である。
 その活動に一人の男(?)が立ち上がった。
「北京の人たちに美味しい料理を作りにいきましょう♪ 前は忙しくていけなかったけど、今なら私にも余裕があるわ」
 彼の名前は凛華・フェルディオ。ラストホープで凛々亭と呼ばれる中華飯店を営業する美人オーナーシェフである。
 散歩ついでに見かけた商店街のポスターに目を奪われ、チャイナドレスを翻して彼は小走りにUPC本部と向かうのだった。
 
●炊き出し隊募集
「皆さんに依頼内容を改めて説ねいします。今回は北京への炊き出し依頼となっていまして、依頼主はこちらの凛華・フェルディオさんです」
 リネーア・ベリィルンド(gz0006)が集まってきた能力者達に向けて説明を始めた。
 隣にはリネーアに負けないほど美人の凛華が立っている。
「急に集めてごめんなさいね? 思いたったら吉日って言うでしょ? 中華料理店もやっているし北京にはいろいろと思い入れもあるから恩返しをしたいのよ」
 凛華の口調はいたって優しく、女性らしさを伺わせるが細身なりにもしっかりした骨格は男性であることが伺えた。
「‥‥ということです。皆さんは食材や調理器具を積んだ高速移動艇に乗って現地へ移動。KVを輸送する事も可能です。凛華さんの指導の下、炊き出しを行ってもらいます」
「普段は使えないみたいだけど、申請したらサービスしてくれちゃったのよ。なので大きな鍋でスープとか作ろうと思っているの♪ もちろん、餃子とかも手取り足取り教えちゃうわよ♪」
 両手を合わせてころころと笑い最後はウィンクを飛ばして凛華は補足をする。
「改めて皆さんよろしくお願いします‥‥私もちょっと行きたかったな‥‥」
 一度、頭を下げてお願いしたリネーアだったが、最後にポツリと呟いた。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
王 憐華(ga4039
20歳・♀・ER
R.R.(ga5135
40歳・♂・EL
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
結城 有珠(gb7842
17歳・♀・ST
亜守羅(gb9719
18歳・♀・SF
高梨 未来(gc3837
19歳・♀・GD
テッサ・フォクスロット(gc4410
20歳・♀・ST

●リプレイ本文

●準備が大事
「ご飯は全ての活力の源です! 頑張って、美味しいご飯をお届しましょう♪」
 ぐっと拳を握った高梨 未来(gc3837)は調理道具の搬入を手伝い始めた。
 愛機を輸送機の中に積み込むのを見送ったホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は踵を返して食材の確認に回る。
 KVを動かすにはかなりコストがかかり、長距離であればあるほど、機数が多ければ多いほど敵の目につきやすかった。
 今回は特に慰問という流れもあるため、一部のKVは輸送機へ搬入されることになったのである。
「中華は火力だとよく言われるが‥‥実際はどうなのだろうか」
「火力が命アルよ。チンジャオロースでの炎の扱いは任せるアル」
 難民相手に屋台を引いてきた中華料理人のR.R.(ga5135)は胸を叩いてホアキンの疑問に答えた。
「そうか、ならばその腕前から盗める物は盗ませてもらうとしよう」
 アルアルの頼もしさにホアキンは思わず頬を緩ませる。
「お料理をするのは‥‥前に食堂を手伝ったとき以来でしょうか‥‥」
 頼んでいたもち米やゴマ揚げ団子の材料を搬入しながら結城 有珠(gb7842)は二人とは離れたところで呟く。
 人数もかなりいるそうなのでその量は必然的に多いのだが、有珠は丁寧に運んでいった。
「有珠様もお団子を作るのですか? 私もお団子だけは作るの得意なんですよ」
 たゆんたゆんと体の正面にある二つの大きな団子を揺らして王 憐華(ga4039)が有珠に迫る。
「あ‥‥はい‥‥」
 内気なのとゆれるものに驚いた有珠は言葉を出せなくなってしまった。
「ちょっと、憐華。準備の方手伝って頂戴。習いたいんでしょう? 料理」
「あ、そうでした。教えてください百地さん!」
 百地・悠季(ga8270)に呼び出された憐華はパタパタと有珠から離れていく。
「亜守羅(gb9719)も絣も今回は一緒ね。頼りにしているわ」
 悠季の周りには同じ小隊の仲間の澄野・絣(gb3855)らが集まっていた。
「食材にちょっと慄きましたが大丈夫です。やってみせます!」
 自分を奮い立たせるように亜守羅はガッツポーズをとる。
 仲間同士で来たのはもう一組あった。
「今回はすまないな、男一人で炊き出しというのに少し抵抗があったもので‥‥」
「ああ、そうか‥‥あれだな、誘われただけにしっかりやらさせてもらうよ、麻宮君」
 苦笑しながら話しかけてきた麻宮 光(ga9696)にテッサ・フォクスロット(gc4410)は歯切れ悪く答える。
 それもそのはずテッサには光には言っていない料理の腕前をしていたのだ。
 さまざまな思いを乗せる輸送艇はまもなくラストホープから北京郊外へと飛び立とうとしている。
 美味しい料理を待つ人々の下へ炊き出し隊が出発するのだ。

●炎の菜展
『おっとっとっと、エイヤッハァトォ!』
 後ろで食材や巨大鍋を不恰好ながに股で運ぶファイターパターンのシラヌイを背に光とテッサが準備を始めていた。
「うーん‥‥麻宮君には言ってなかったが、私の料理はかなり独特なのだが‥‥」
「何かいったかい?」
「いや、何でもないので切り続けて欲しい」
 チンジャオロースのための野菜をきっている光がテッサの呟きに反応するもテッサはとっさにごまかす。
「ピーマンと赤ピーマンを細きり、タケノコと豚肉も切ったな。レシピにはニンニクと土しょうがのみじん切りもあったけど大丈夫か?」
「あ、ああ‥‥そこまでしっかりあれば大丈夫なはずだ‥‥」
 一人暮らしをしていることもあってか光の手際はよく、すぐさま用意は整った。
 後は調理だけだが、テッサの手は動き鈍いままである。
「よし、覚悟を決めよう」
 妙な気合をいれながらテッサは光の用意したレシピを見ながら調理を始めた。
 食材を炒めて、味付けを始める。
 その手捌きはすばらしいが、なぜか調味料に砂糖やら、油の代わりにメープルシロップが注がれていることにまだ誰も気づかなかった。
「何だ、上手いじゃないか。それじゃあ俺は米の方炊きにいくな。こういう料理ばかりだとやっぱり飯が欲しくなる」
 光がその場を離れると、テッサが炒める中華鍋から甘い香りが漂いだす。
「な、なにアルかこの香りは!」
「甘い香りがしているけど〜、何を作っているの?」
「チンジャオロースだ‥‥なぜか私が調理をするとこうなってしまっ‥‥て‥‥」
 アルアルと依頼主の凛華に突っ込みをいれられると、最後は物悲しくなってテッサは遠くを見始めた。
「見本を見せるアルよ。これぞ中華四千年の歴史の技アルよ! ハァイヤァァッ!」
 シラヌイから降りたアルアルの動きは華麗の一言、本場の味を再現するためにまだ使っていない光の刻んだ食材を使い、老酒や醤(ジャン)で味付けをする。
 火力を高め、鍋を回すように動かすと食材が踊っているようにも見えた。
「すごい、これが‥‥本場の動き‥‥」
「こだわればあれくらいね? でも、テッサちゃんにはもっと初歩から教えましょうか♪」
「すまない、凛華殿‥‥頼む」
 アルアルの華麗な鍋捌きに少し面食らったテッサは凛華に改めて料理の享受を願うのだった。

●女中、走る
「忙しいですね。料亭の調理場というのもこういう雰囲気なのでしょうか?」
 着物を襷掛けして、割烹着姿の絣がパタパタと駆け回りながら出来上がった料理を小分けにして並んでいる人々で配っていた。
 暖かい料理をすぐに渡せるように調理場の前に机を並べてちょっとした出店のような雰囲気で絣は配る。
「あ‥‥お持ち帰り‥‥ですか? お口に会うか分かりませんが‥‥どうぞ、です」
 有珠も絣と共に受け渡しの方をやっていた。
 出発前に仕込みは済ませておいたので蒸し器で蒸すだけのため、手の回らない接客の方に回っている。
 無口な方なのだが、食堂で手伝いをしたりと人に優しい面を持っていた。
「家から出てこれない人やお仕事をしている人もいるでしょうから‥‥。そういう人たちにも‥‥少しでも食べていただければ‥‥」
「揚げ餃子できました! 中国の方ではなじみが無いと聞きましたけど、コーンとか入れて子供にも合わせてみましたよ」
 パックに具の違う数種類の揚げ餃子を入れて未来は笑顔で出していく。
 子供達はさっそくそれらをとるとハフハフとしながら揚げたての餃子を早速味わっていた。
「ちゃんと水餃子もあるアルよ」
 餃子といえば水餃子と譲らないアルアルが中国ではなじみのある水餃子を器にスープと一緒に用意する。
 チンジャオロースーと平行してやれる姿はまさに料理人だった。
 蒸しあがった有珠の糯米鶏と呼ばれるちまきの一種や、悠季と憐華が作っていた肉饅頭も蒸しあがったものからどんどん振舞われていく。
 そのたびに絣や有珠はパタパタと走り回った。
 忙しいことには変わりないが、食料を受け取る人の笑顔を見ると苦労などは吹き飛ぶ。
「ひと段落するまでがんばりましょうか?」
「いえ‥‥絣さんは少し休憩を‥‥倒れてはいけません、から‥‥」
 汗をぬぐう絣に有珠はいつに無く強い視線で休憩を促した。
「私もいるから大丈夫よ。仲間を信じなさい?」
 皿を割り振ったりしながら、春巻きの揚げるのを一度とめていた悠季が絣に微笑みかける。
「それではお言葉に甘えてそうさせていただきますね」
 二人の優しい気遣いに絣は甘えて一息つくのだった。

●中華すぺくたくるっ!
 一方、巨大スープを作るチームは食材の刻みが終わると亜守羅がいの一番でウーフー『我瑠夢』へと乗り込んで起動させる。
『今からKVのデモンストレーションを見せます。行きますよー、ジャミング中和! どう? 凄いでしょー』
 しーんと静まり返った雰囲気の中、ポーズを消えたウーフー気まずそうに立ち続けていた。
『鍋の用意はできているぞ、早くしないと待ちわびた子供を踏みそうになる』
 雷電『Inty』を使って巨大鍋の固定から水の用意をしていたホアキンから冷静な突っ込みが亜守羅へと飛ぶ。
『は、はーい。それじゃあ、少し離れていてくださいね。沸騰したらまずはダシからとりましょう』
 ウーフーがむんずとボ−ルの中身をつかんだかと思うとはねない様に背をかがめて持ち上げた鶏がらやしょうが、にんじん、ねぎ、スルメなどを投下していった。
「熱いお湯がかかるとやけどしちゃうから距離をあけてね?」
 下では様子を見るために凛華が子供達に注意をしながら様子を見守っている。
 二時間という長い時間を煮込まねば鶏ガラからは美味しいスープは取れないのでゆっくりじっくり煮込んだ。
 その間に具材のカットなどを凛華の指示で行ったり、他のメニューの配給からはじめている。
『味の方はどうだ?』
 ホアキンが白濁鶏スープとなった鍋の中を凛華に確かめてもらえばOKサインがでた。
『では、取り出します。気をつけてくださいねっ!』
 新型機のオウガ『白楼銀鬼』で憐華が大きなザルで鶏がらとスルメを回収をする。
 パイロットスーツのチェックのためにオウガでの操縦具合を見るためにと手伝いを買って出たのだ。
『では、具材いきますよー。皆がきっと大好きな金華ハムー!』
 入れる食材の名前を一つ一つ言いながら鍋に亜守羅とホアキンが交互に投下していくと、そのたびに拍手が起きる。
 貝柱や海老、ワカメや蟹など難民としては豪華すぎる食材は子供ならずとも喜ばしいものだ。
『最後にこの卵をいれちゃいますよ−。業務用の液卵を入れておいてよかったですよ』
『片栗粉でのとろみも問題ないだろう、満遍なく混ぜるとしようか』
 亜守羅とホアキンが息を合わせながら卵を鍋に入れて混ぜ合わせると巨大な卵スープが完成する。
「さぁ、順番にならんでねん。まずは一人一杯よ〜♪」
 味を確かめた凛華が配給の準備を整えながら呼びかけを始めた。
『なかなか人気のようだな。卵とカニが受けるようなら一つ作りたいものがあった。液卵とカニを炒めるものだが、このままKVでやってみないか?』
 人の列をみていたホアキンが、自分のやろうとしていた炒めものをやろうかと亜守羅と持ちかける。
『いいですね、やりましょう』
 楽しそうな申し出を亜守羅は受けて、大きな鍋の用意をはじめるのだった。

●お団子がイッパイ
 光の炊いたご飯など主食があらかた片付いたら次はデザートの時間である。
「やっぱりお団子の方が気が楽です」
 よいしょよいしょと力を込めて憐華が団子を捏ねているが、テーブルの間に挟まれた二つの特大お団子が形を変えていることに気づいていなかった。
 かなり扇情的な姿ではあるが、真剣な表情に誰も突っ込みをいれない。
 春巻きや揚げ餃子に使った鍋の油を入れ替えた有珠は芝麻球の調理にかかった。
 出発前にゴマをつけるところまで用意をしてタッパに詰めてきたので揚げるだけである。
 ジュワーという音と共に香ばしいゴマの香りが漂い、たくさん食べたはずの難民達のお腹を刺激した。
「こちらはあと、ハバネロのタレをつけてと‥‥これから焼き団子にしますよ」
「火の用意できました。いつでも来て下さい!」
 練り終わった団子の生地を丸めて櫛にさしていく憐華に未来が手伝いに回っている。
「熱いですから‥‥気をつけて‥‥ください」
 揚がったゴマ団子を器にいれて有珠が並び始めた子供達に渡しだした。
 笑顔でほおばる子供達をみるとやはり心が和む。
「はい、こちらにはみたらし団子もありますよ。百地さんも配るのお願いします」
「分かったわ。絣も手伝いお願いね」
「もちろんです。作る方も手伝いますからいってください」
 出来上がった憐華のにちょっと甘めに作ったタレと甘辛く調整したタレを付けた2種類のみたらし団子と周りをハバネロ風のタレを塗った後で一度焼いた焼き団子を併せてもったものを、百地と絣が用意しては並んできた人々に手渡していった。
 感謝の言葉を返されると、悠季はふっと優しい母親に似た顔を浮かべる。
 誰かに優しくすることで自分の心にも優しくなれたのかもしれない。
「悠季さん?」
「なんでもないわ。さぁ、がんばりましょう」
 首をかしげて見上げてくる絣に悠季はいつもの笑顔を返して作業に戻るのだった。
 
●打ち上げ
「はい、皆。お疲れね? 難民キャンプの人はとっても喜んでくれたから私としてもとっても嬉しかったわ♪」
 凛華は両手を叩いて参加者をねぎらった。
 現在は配給も終り、高速移動艇の中で残った食材などで簡単な打ち上げをしているのである。
「残った食材で味噌汁。そしてテッサのチンジャオロースにご飯。これだけあれば贅沢だな」
「あの‥‥味は期待しないでくれ。匂いでわかるかもしれないが、私のは独特なんだ。作り直したものの方がいいと思うんだが‥‥」
 テッサは三品を定食のように並べた光に歯切れの悪い言葉をかけるしかできなかった。
「捨てるのももったいないしあるだけ十分ってもんさ」
 光が手をつけて食べる姿を見たテッサはもっと上手くなろうと心に誓う。
 テーブルには悠季の作っていた肉団子風・叉焼風・花巻の肉汁たっぷり小龍包や他にも凛華お手製のまかないメニューが並んでいた。
「人の料理もこれまたいいものアルね。勉強になるアルよ」
 煙管刀で軽くタバコを吸っていたアルアルはつまんで食べながら味付けを考え出す。
「なるほど‥‥」
 テッサはアルアルの言葉に頷いた。
「そうね、美味しいという味とか何を使っているかを考えてつくれば上手くいくかもしれないわねん。筋はいいんだからいっそパティシエ方面を極めてみるのもいいかもしれないわよ?」
「考えてみる‥‥」
 今回誘われて参加したが、いろいろな経験をでき凛華から今回のメニューを教わったのは収穫である。
「っと、そうだ。一つ聞こうと思っていたんだが俺の料理はどうだった? カニの卵いための方は即興気味だったんだが感想を聞かせてほしい」
「そうね。普通なら十分だと思うわよ。でも、どうせなら調味料にこるといいわね。醤とか油もごま油を使ったりするだけで味わいかわるからアレンジしてみてね」
 思い出したかのように尋ねてきたホアキンに凛華はウィンクを飛ばした。
 こうして難民キャンプでの炊き出しは終りを告げる‥‥まだ全てを救えたわけではないが笑顔を提供できたことに能力者達は喜びを得る。
 バグアとの戦いに終りはまだ見えないが、早く戦いが終わるように‥‥難民を減らせるようにと能力者達は気持ちを改めるのだった。