タイトル:【コミ】Impalps前夜祭マスター:橘真斗

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 20 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/16 18:46

●オープニング本文


 コミック・レザレクション〜夏〜
 
 日差しの暑い季節にもかかわらず、熱い闘志をもったヲタク達が己のすべてをつぎ込む場所
 
 一昨年より、参加をしているアイベックス・エンタテイメントにとっても、回を追うごとに成長しているライブステージはプロモーション活動として格好の舞台でもある
 
 2010年、夏
 
 Mpaの加わり新たな展開を見せるアイドル達の熱い夏が訪れようとしていた
 
●コミレザ前夜祭
「改めて今回の企画について確認をします。何かありましたら説明後質問をしてください」
 パリッとしたスーツを着こなす米田時雄は多くの関係者やスタッフを前にプロジェクターを使った説明をはじめる。
「今回、我がアイベックス・エンタテイメントはコミック・レザレクションの開催日である8月1日の前日、7月31日に前夜祭という形で深夜ライブを行います」
 ざわざわとする会場だが、そのまま米田は話を続けた。
「能力者は依頼であれば未成年でも深夜の活動は日本でも制限されません、それを有効に使うとともに例年増え続ける深夜の座り込みをなくすために終電時間の12時から翌朝6時までの6時間をライブですごしてもらおうというものです」
 大きな企画に更なるどよめきがあがり、一部のマスコミ関係者からフラッシュがたかれる。
「入場は無料ですが、その分販売ブースなどを設けて休憩時間中に買ってもらうことで利益をあげます」
「長丁場になりますので、スタッフにも能力者の手を借ります。人員整理やトラブル対応、また食品類の屋台等も自由にだしてもらうことにします」
 名前の通り前夜祭というにふさわしい内容に関心の声があがった。
「例年以上に大きなステージとなります。皆さんの協力をもってこのステージを成功させましょう」
 米田は笑顔でもって締めくくる。
「これは‥‥本当にすごいことになりそうだな‥‥」
 プロジェクターに映る画像をみながらライディ・王(gz0023)は予想外の大きなステージに感嘆の声を漏らすのだった。

●参加者一覧

/ 鷹代 由稀(ga1601) / 鷹代 朋(ga1602) / 葵 コハル(ga3897) / アルヴァイム(ga5051) / シーヴ・王(ga5638) / 椎野 のぞみ(ga8736) / 加賀 弓(ga8749) / 大和・美月姫(ga8994) / 終夜・朔(ga9003) / 金城 ヘクト(gb0701) / 嵐 一人(gb1968) / ジェームス・ハーグマン(gb2077) / 水無月 春奈(gb4000) / 沖田 神楽(gb4254) / 冴木 舞奈(gb4568) / 宵藍(gb4961) / 七市 一信(gb5015) / ヤナギ・エリューナク(gb5107) / テト・シュタイナー(gb5138) / エイラ・リトヴァク(gb9458

●リプレイ本文

●打ち合わせ
 7月31日22時。
 大阪の埋立地に大きな野外ステージが立っていた。
 2009年冬に行われたコミックレザレクションのステージである。
 10000人規模の収容可能なほどのエリアの確保、それを混雑解消のためにと無料解放する大判ぶるまいの企画だ。
 その打ち合わせをスタッフ担当の能力者達とアイドル達が控室で行っていた。
「‥‥というタイムスケジュールでステージは行います。休憩時間の前後は混雑もありますので人員整理の方をよろしくお願いします」
 Impalpsのマネージャーであるライディ・王(gz0023)は集まったスタッフを前に話を進める。
 今回はイベントのマネージングも任されて顔は緊張していた。
「アイドルの方でまとめてもらえたのは助かりますね。こちらの作業が減りますし」
 スケジュールを眺めたアルヴァイム(ga5051)は穴を補うように演出による必要資材の確認をリストと比べて行う。
「夜といっても夏だから油断できねぇです。タオルと水の搬入と救護室の用意はできてるですね」
 シーヴ・王(ga5638)がライディに報告を返した。
 夫婦ではあるものの公私はきっちり分けてスタッフ活動に勤しむことにしている。
「ありがとう、お客さんだけでなくスタッフにとっても過酷になる可能性が高いですから交代したり休憩をとるようにしてください」
「あ、はいはーい。質問です! あの、舞奈は入籍して名字かわったけどどうしたらいいのかな?」
「ええっと、それは昔のままで。本名でも一種の芸名扱いになりますので樋口舞奈さんとしてステージにはたってくださいね。TVでみるタレントさんとかはそうでしょ?」
 元気だが、やや照れ顔で手を上げた冴木 舞奈(gb4568)がライディに尋ねた。
 入籍して引退とは考えずにアイドル活動を続けたいとのことで今回のライブにも参加している。
 ライディは戸惑いながらも説明して対応ができるのはマネージャーとしてもしっかりしてきた証拠だ。
「第二部の方は殺陣とかやるから演出の方はよろしくねん、バックダンサーとかバックバンドも大丈夫かな?」
 また、パンダの着ぐるみを夏であろうと脱がない七市 一信(gb5015)は今回の第二部ステージの演出をまとめている。
 大掛かりな演出となったため、その点の確認をしたかったのだ。
「バックバンドもバックダンサーも一応Impalpsの方でやってくださる方がいますので、それで十分まかなえます」
「私とジェームズさんが担当になりますね。よろしくお願いします」
「でしゃばらないようにがんばりますのでよろしくお願いします」
「メインを張るのはちょっと厳しいから、バックでがんばるさ」
 大和・美月姫(ga8994)とジェームス・ハーグマン(gb2077)や山戸・沖那(gz0217)が基本的にバックアップに回ったアイドル達もいて、各自が自分にできることに一生懸命である。
「あ、屋台の方の場所はどこか指定ありますか?」
 イチゴのミルクレープの台車を一台控室に持ってきた水無月 春奈(gb4000)が確認のためにやってきた。
「一応食べ物系でまとめていますので、ステージ左側のですね‥‥」
 ライディが春奈に答えながら、細かい部分の確認をつめていく。
 ライブの成功のために時間ぎりぎりまでこうして打ち合わせは続いたのだった。

●OP
『はいはい、毎度おなじみのぞみんの説明だよー! 皆聴いてね!』
 スポットライトに照らされて、ステージ上に立つ椎野 のぞみ(ga8736)が慣れた様子で注意事項の説明を始める。
 時刻は深夜0時、開場が夜23時ということだったが、すでに数千人が集まっていてステージの前に固まっていた。
 のぞみの登場に声をかけるファンもいて、説明の合間にのぞみもそちらに手を振り返す。
『のぞみん、一人だけ人気独占はやめてよね』
 遅れて沖田 神楽(gb4254)がステージにスポットライトを浴びながら出てきた。
 二人の衣装は黒のキュロットスカートにブーツ、そしてチューブトップとやや露出の多い組み合わせにアイベックスのスタッフジャンバーを羽織ったお揃いのスタイルである。
『ごめんね、こちらは今日のMCの神楽ちゃんです』
『あんまり活動してないけど、覚えてもらっているのかな? ちょっと心配だけど、今日はがんばるよ。皆も無理はしないでね?』
 神楽がそういうと「はーい」と元気な声が返ってきて、その中にも「かっぐらちゃーん」と名前を呼ぶ声だってあった。
 心配しなくてもファンはいるようだ。
 他の人に比べて人数は少ないが、一人一人を大事にしようと神楽は思う。
『それじゃあ、第一部はじめるよ!』
『皆で歌いまくるよ! さあ、盛り上がっていきましょ!』
 二人が客席に向かって手を振りつつ両袖に下がっていくとロック調のメロディが流れ始めた。

●波しぶきと共に
『やっほーっ! 皆燃え滾ってる? 深夜だからって寝かさないつもりでいくよー!』
 イントロにあわせた葵 コハル(ga3897)が元気な声をだしつつ動くステージに乗ったまま登場する。
 コハルはハーフパンツにビーチサンダル、そしてタンクトップにパーカーと遊びに来ている感満載でキーボードを叩いて手を振っていた。
『一曲目は俺達Azureで、新曲のMidsummer Mermaidを聞いてくれ!』
 隣で二胡を弾きながら登場した宵藍(gb4961)もコハルにあわせた海ファッションで現れ、ヘッドホン式マイクで声をだす。
 
 ―Midsummer Mermaid―作詞、作曲:Azure

 ♪〜〜
 
 
 照りつける灼熱の太陽 カラカラになりそうだった
 退屈で乾燥した心 まるで陸にうちあげられた人魚
 昨日までのブルーな日々を 果てなく続く蒼に溶かして
 優しく潤してくれた貴方の 微笑は魔女の魔法も叶わない

 手を繋ぎダンスを踊りましょ
 貴方に出逢えた奇蹟 ステップの軌跡に残すわ
 きっとそれが私の生まれてきた意味

 この夏は いつもと違うでしょう
 貴方との未来[あす]が無ければ 泡になって消えるわ
 だって恋の呪いにかかってしまったから

 届いてるかしら Can you hear me in a silence?
 言葉にならない胸の想い
 空と海の狭間で 恋の微熱クラクラ
 眩暈に泳ぐ Midsummer Mermaid

 
 〜〜♪

 演奏の最中にコハルのキーボードに合わせて水が噴水のように飛んで曲の夏らしさを引き立てた。
 サビは二人がハモリを入れるなど曲への演出もこだわりを見せる。
 コミレザのために組まれた新ユニットの登場は驚きを与え、ロックナンバーは盛り上げを見せた。
『今日から発売されるCOLORSの収録曲もよろしく!』
 宵藍が歌の終了と共に手を振りながらPRをしていると、コハルの歌声がBGMで流れる。
『この後って言うかコミレザ本番で、あるサークルさんのゲームに歌を書き下ろしで提供させて貰いました。キャラクターとしても登場しているので、気になる人は探してみて下さいね?』
 コハルの言葉に客席がどよめきだした。
『ちなみにこの曲はエイベックスのCDに収録する予定はありませんので〜♪ では、次のユニットに交代しましょう!』
 しかし、コハルはそれを無視してステージを降りていく。
 宵藍もやれやれと肩をすぼませながら同じようにステージを後にしたのだった。

●風と柳と戦乙女と
 二人が下がるとステージどころか会場が暗転し、客席の左右からバイクが走ってステージへと上っていく。
 一度交差した後巡ってステージ中央で停車。そのまま楽器を取り出し疾走感溢れる演奏が始まった。
 バックアップスタッフの協力の元安全に十二分の考慮された演出である。
『いくぜ! 今回が初出しのユニットだ!』
『カズト&ヤナギで、Ride On!』
 バイクから降りたのは嵐 一人(gb1968)とヤナギ・エリューナク(gb5107)だ。
 嵐の登場にキャーと会場からは黄色い声援が飛ぶ。
 そちらに手を振りながら、ギターを弾きつつヘッドホンマイクでカズトが歌を紡いだ。

 ―Ride on!― 作詞、作曲:カズト&ヤナギ
 
 ♪〜〜
 
 
 ミラーの中、俯いた 昨日までの自分振りほどき
 闇を裂いて走り出す 
 立ち止まれはしない Let`s get on the way

 このハート 今、熱く騒ぐ
 この鼓動[ビート] 誰も止められない
 そうさこの路は
 お前の元へと続いているから  

 闇を破り夜明けに向かって
 明日の「今日[いま]」追いつく
 未来の「現在[いま]」追い抜く

 Ride on‥
 Ride on‥‥!
 
 
 〜〜♪
 
 Impとして人気の下地のあるカズトをリードボーカルに据えて、ヤナギはコーラスやベースでさらに深みを増すことで自分の存在をアピールする。
 美形男子二人のこのユニットは今後に期待できる一組になりそうだ。
 二人が伴奏を続けているとエイラ・リトヴァク(gb9458)が下から競り上がる仕掛けで中央に現れる。
『皆ー! のってるかー!』
 「イェー」と大きな声で客席から答えが返ってきた。
 演出に関しては指定は無かったのだが、ライディとアルヴァイムが協議の上に仕掛けを用意したのである。
 ワンパターンを気にしていたエイラにとってありがたい心遣いだった。
『次はあたし達『a rabble』の歌を聴いてくれよ。タイトルはBlueだ!』
 エイラはステージに慣れてきた笑顔を向けながらタイトルをコールする。
 ステージと共に上がってきたシンセサイザーでエイラがリズムを刻んだ。

 ―『Blue』― 作詞、作曲:a rabble

 ♪〜〜

 Blue Sea White Sand
 Blue Sky White Cloud
 
 飛び出せ ほら、熱い世界はすぐそこ


 眠れぬ夜をくぐり抜け
 土砂降りの雨を越えて
 来たんだ ボクらの季節
 来たんだ 熱い季節

 火遊びなんて厳禁さ
 本気の火傷 現金さ
 さぁ今 駆け出して Let’s PartyTime!
 さぁ今 飛び出して Let’s ShowTime!


 Blue Sea White Sand
 Blue Sky White Cloud

 飛び出せ ほら、熱い世界はすぐそこ
 飛び出せ ほら、光る世界はすぐそこ

 
 〜〜♪
 
 カズトがリードボーカルで二人を引っ張り、エイラとヤナギがコーラスでもって彩を加える。
 青い海、青い空、白い砂、白い雲と夏を代表する言葉の入ったこの曲は夏のライブにふさわしい一曲といえる。
『皆、聞いてくれてありがとよ! 次はここのエイラと追加で二人入ったユニットだ。そっちも楽しんでくれ』
 カズトはそういいながらヤナギと共に一歩下がり、バックバンドのようにギターとベースで次のメンバーの登場を促した。
 
●鷹のように空を飛ぶ
『こんばんはー。役者だけのつもりが、いつのまにかCD出していました。世の中ってわからないモンですねぇ』
 鷹代 朋(ga1602)が手を振りつつ奥から姿を見せた。
 Mpaという俳優部門だったが、今回のイベントで発売のCDアルバムでデビューを果たしている。
『いよーっし。カッ飛んでいくぞ、テメェ等!』
 続いて現れたテト・シュタイナー(gb5138)には「テトちゃーん」と横断幕をもった一同が応援をしていた。
 テトももうアイドル活動を始めてから一年以上、ライブやゲームのPRなどで顔を出していることもあり固定ファンはしっかりついている。
『今日はエイラと朋でユニットを組んだぜ。CDにもある曲だが、ライブでしか味わえない演出を見せてやるから眠るなよ!』
 乱暴な命令口調ではあるのだが、「イエー」と盛り上がりの声が返ってきた。
「やっぱりかわないな、姐さんには‥‥」
 ぽつりとエイラは呟くと歌う姿勢に戻る。
 3人のユニット『Heating Heart』はエイラと朋がダブルボーカルで歌い、テトがシンセサイザーで曲を奏でるユニットだ。
 今回のライブでは、さらにシンセサイザーの鍵盤のキーに合わせて、様々な色のレーザー光を出したり、ホログラムを用いて、青空を飛行している様なエフェクトを出したりする。
 ライブでしか見られない綺麗な演出にまさに眠気の飛ぶような気分を観客は味わっているようだった。
『次のユニットは大人のデュオ「ちゅらうみ」のお二人です。よろしくお願いします』
 神楽が曲の切れ目に合わせて次の登場を促しながら、朋が着替える時間を作る。
『ちゅらうみの弓です、深夜ライブですががんばりたいと思います』
『ちゅらうみのヘクトさ。こんな大勢の前で歌うのは初めてだけど、なんくるさいさでがんばるさ』
 加賀 弓(ga8749)と金城 ヘクト(gb0701)は熱気あふれる観客に圧倒されながらも自分達の歌を歌おうと気合を入れなおした。
 生演奏ではなく、別取りのBGMにあわせてユニットのデビュー曲である『遠くに消えた日々』をしっとりと歌いきる。
 二人がそろって礼をしてステージの奥へと戻っていった。
『先ほどの2曲は物販で販売中のCDに収録されていますので、そちらもよろしくお願いします。じゃあ、次のユニットは‥‥』
 一区切り終えてのぞみがCDの宣伝を兼ねた紹介をしているとスモークが噴出し鷹代 由稀(ga1601)が着替えに下がった朋と一緒に現れる。
『よっす、ただいま、とかいった方がいいかね? ともあれ鷹代由稀、Impalpsのステージに一夜限りの復活っ!』
『知っている人もいるとは思いますがあたしと兄貴は双子の兄妹って奴でして』
『今夜限りの二人で一人のシンガー‥‥なんてね?』
 派手な登場を受けながら朋と由稀はステージの中央にマイクを持って背中合わせで立った。
 黒いスーツに白いYシャツ、赤いネクタイに黒いソフト帽を被る朋にいレザージャケットにチューブトップ、黒いレザーパンツに同色のブーツの由稀はどちらも決まっている。
『『さあ、後悔の時間は終わりだ!』』
 二人がハモリで台詞を叫ぶとジャズとロックの合わさったようなメロディが流れ出した。
 
  ―Hoffnung Schwert― 作詞、歌:Zwillinge

 ♪〜〜
 

 明日を見ろ 希望持て
 俺達の この世界 必ず取り戻そう
 いつの日かこの手に

 失うもの 流れる涙 胸に
 その想い 託された 翼よ羽ばたけ
 今は見えない明日だけど 前に踏み出すんだ
 闇の向こうの 光を求めて

 その手には 希望の剣
 切り開け 明日への 光り輝く道を
 涙無き 世界へ

 向かうのは 希望の明日
 俺達の 未来へと 続く道守るため
 前を見て 踏み出そう
 
 〜〜♪

 双子の息の合った歌声が会場の隅々まで響いていた。
 引退をしたといってもImpの設立時からのキャリアのある由稀の知名度はやはり大きく、会場全体の興奮の仕方がそれを訴えている。
 朋もそんな妹に負けじとついていき、相乗効果でいい曲が出来上がった。
『ステージが一夜限りなら新曲も一夜限り、ってね。あたしと兄貴の相乗り、一夜限りの双子ユニット”Zwillinge”を聞けたあんた達は幸せよ! 覚えておきなさいよ』
 びしっと指を突きつけて決めると由稀はステージの奥へ朋と一緒にさがる。
『ユニット曲はこれで終了。次はソロパートの写るよ。休憩まで一気にいくから聞き逃しちゃいけないよ』
 神楽が力強い由稀のパフォーマンスに圧倒されながらも、今後は自分ががんばらねばとマイクパフォーマンスに力を入れた。
『ソロパート一曲目はDIVAのNoirちゃんのソロ曲「恋歌〜〜貴方だけで〜」を聞いてね』
 紹介を受けるとゆったりしたピアノのメロディにあわせてステージの奥からスポットライトを浴びてNoirこと終夜・朔(ga9003)が姿を見せる‥‥。

●十人十色の音色
 紹介されたNoirが一番手を担う。
 自他共に認める天使の歌声が会場中に染み込むように広がっていった。
 
 ―恋歌〜貴方だけで〜― 作詞・作曲;Noir

 ♪〜〜
 
 
 どんなに 思ったか
 この想い 二人出会った あの時以来
 私の心を 締め付け 満たしてくれた光
 この手に 残る 貴方のぬくもり
 どうして 貴方は 今此処に 居てくれないの
 私はこんなに 焦がれているのに
 貴方が 傍に 居てくれる
 私は ただそれだけで良いの
 他には何も要らない 貴方だけで良いの

 〜〜♪
 
 猫耳をピコピコと動かしてお辞儀をして朔がさがるとピアノから三線に音色が変わる。
 ステージの中央の奥から椅子に座ったヘクトが三線を弾きながら出てきた。
「毛色が違いすぎるからな‥‥正直へこむかも知れないが、なんくるないさ」
 一人、メロディに違いがあることを気にしつつも祖父の形見の三線を聞かせたく弾き続ける。
 そんな自分の気持ちのままに緊張のままにヘクトは歌いだした。

 ―独りよがり― 作詞、作曲:ヘクト

 ♪〜〜
 
 
 夢を掴むと決めたなら
 傷付く事傷つける事を恐れるな
 始まりは独りよがりなんだ
 どう思われようと折れたりはしない

 それだけじゃどうにもならない
 そんな事、嫌と言うほど思い知らされる
 独りよがりが恥ずかしく幼すぎて
 それでも、出会った事は忘れられない

 諦める事は悪い事じゃない
 カッコ良くなんて生きられない
 だから 惨めだなんて思わない
 悪く考えるなんて簡単にできてしまうから
 前を向いて行こう なんくるないさ

 
 〜〜♪
 
 
 ヘクトの精一杯の気持ちを込めた歌は少数ながらも拍手をもらう。
 全員の心に届かなかったとしても、今までよりも多くの人に自分の歌が通じただけでヘクトは満足だった。
『まだ、緊張して美味くできないかもしれないがこれからも応援してほしいさ』
 立ち上がって深く頭を下げるとヘクトはステージを降りる。
『ソロパートであり、第一部の締めはあたしだ。これがあたしの新曲だ‥‥Valkyrie Soul』
 ステージが暗くなりつつエイラの声だけが響いたかと思うとワイヤーでステージ上部からエイラがつるされながら降りてきた。
 スポットライトに照らされる姿はヴァルキリーをイメージした甲冑とワンピースをあわせたものである。
 ヤナギとカズト、そしてテトによる伴奏に後押しされながら夜空を飛ぶ銀髪の戦乙女は空中に浮かんだまま歌い始めた。

 ―Valkyrie Soul― 作詞、作曲:エイラ

 ♪〜〜
 
 
 幾つの 時を駆け抜けたのか
 この瞳に映る 儚く強き者
 あたしに何が出来るのか
 凱歌に消える聞こえぬ鎮魂歌
 この魂に刻まれる想い
 いつか訪れる破滅に 立ち向かて見せよう
 無駄にはしない 先に何も無いとしても

 何度すれ違っただろう
 夢や熱いモノを持っている 人達
 あたしには そうなれるのか解らない
 始まってもいないのに諦めたりはしない
 この魂に刻まれた想い
 出会った全てが背中を押しているから
 だから 突き進もう

 Valkyrie Soul


 〜〜♪

 地上に降り立つとエイラは作り物の剣を突き上げてポーズを決める。
『お前達、最後まできいてくれてありがとう! これから休憩にはいるので、トイレや食事を済ませて第二部を待ってくれ!』
 ぱちぱちと湧き上がる拍手がエイラに贈られると第一部の幕は閉じたのだった。

●ブレイクタイム
 休憩時間に入ると人が多く動き出した。
 2時間半という時間は映画一本に相当するため一息入れる時間がくれば各々の目的にために行動するのは普通だろう。
「押さないで移動しやがるです、トイレはこっち、物販はあちら、出店はそっちでありやがるです。立て看板を目印に移動しやがです」
 シーヴはスタッフジャンパーを着込み、他のスタッフとともに人並みを整理する。
 予想以上の混雑だが、事前の打ち合わせやアルヴァイムの手筈や、休憩時間中の催しとして新曲から旧作までのPVを流したこともあって人の動きに混乱はみられなかった。
 
「はーい、こちらは本日限りの屋台ですよ。クレープシュクレとクレープサレがありますから是非食べていってくださいね」
 休憩時間のみの営業が許され、第一部から準備をしていた春奈はクレープ屋台を開き訪れた人に手作りのクレープを売っている。
 アイスクリームとフレッシュフルーツをふんだんに用意して売り切るつもりで笑顔を振りまいた。
 握手を希望する人には答えながら春奈はステージで歌うよりも、こういうときの方が好きなのだなと感じる。
「あら? ファンの方ですか? 出番少ないのにうれしいですね、それではフルーツをおまけです」
 愛嬌を見せながら春奈は屋台を切り盛りしていった。
 
「はい、新作CDですね。ありがとうございまーす!」
 物販ブースでは第一部ではステージに立たなかった舞奈が元気に販売を行っている。
 新曲のアルバム『COLORS』をはじめ『ALP合宿行進曲』や『VMポータブル』など関連グッズもあわせて売られているため特に人が列を作っていた。
「はい、ありがとうございます。久しぶりのユニット曲ですので是非、お聞きください」
 舞奈の隣では和洋折衷ともいえるオリジナルの白いアイドル衣装を着る弓が新曲CDを売っていく。
 今までは兄の婚約者という立場で舞奈と交流はあったもののアイドルとして競演するとは思ってはいなく驚いていた。
 弓の隣ではほぼ同期の美月姫が商品の受け渡しを手伝う。
 売り子とバックダンサーに集中してはいるもののファンからは歌が聞きたいとの言葉もあり苦笑を浮かべた。
「シャオちゃん、応援してるよ!」
「いや、悪いが俺は男でできればやめて‥‥」
 CDを売っていた宵藍だが、男性ファンに明らかに女性と思われている節が多く笑顔を崩さないながらも心で泣き出す。
「すごい人数ですね‥‥私もこれだけの人を惹きつけれるようになりたいです」
 宵藍のサポートに回るジェームスは初のコミックレザレクションの人の多さに驚きを隠せずにいた。
「休憩中は休みなさいって言われてるけど‥‥Noir皆の笑顔が見たいから頑張るの♪」
 朔は猫耳をピコピコと動かしながら笑顔で訪れたファンと対応をしていく。
 売り子も何回か行っているだけに手際よく人を裁いていくものの、少しでも褒められれば照れて動けなくなってしまうのはまだまだ幼い少女らしくもあった。

「今回は簡単に、冷やしお茶漬け。第2部も乗り切りましょ!」
 バックスタッフ用の差し入れにとのぞみが休憩しているスタッフに冷やした緑茶とおひつで鮭、梅、昆布佃煮と種類のあるものを一人一人に渡している。
「よう、ライディ。これ飲んで第二部も乗り切ろうぜ」
「あ、ヤナギさん‥‥。ありがとうございます」
 投げ渡されたコーヒーを受け取りライディはリストのチェックを続けた。
 ステージ裏では第二部のためのいろいろな機材の用意、出入り口の確保などもやっている。
 
「働きすぎるのも良いが、マネージャーが倒れたら話しにならないから気をつけろよ?」
 ヤナギは今しか吸えないタバコを吸いつつライディにウィンクを飛ばす。
「準備をするだけですからね、終わればゆっくり結果を見るだけです。細かい指示はシーヴやアルヴァイムさんが見てくれるみたいですから十分助かってますよ」
 ライディは苦笑しながらも答えた。
 時刻は3:30分、もうすぐ第二部の開幕である‥‥。
 
●再スタート
『さあ、そろそろ、第2部がはじまりますよー。第2部は色々パフォーマンスが目白押し! ‥‥でもそのまえに‥‥ちょっとボクのお話を聴いてくださいね‥‥』
 第二部はクールダウンをかねてとのぞみの怪談話からはじまった。
 テトの演出で恐ろしい雰囲気のBGMが流れる。
『‥‥それはまだボクが中学生の時、自転車で3時間ほどの親戚の家までサイクリングに出かけた時の事‥‥』
 ゆっくりと話を続けるのぞみに会場内の空気もしっかりと下がっていった。
『‥‥親戚の家に着いて、気を抜いた瞬間なんか足が痛いと気がついたの! ‥‥左足に捕まられたあとのようなあざが在ったんです‥‥』
 ピシャーンとSEがなって驚かすように大きな声で締める。
『さあ、クールダウンはこれで終わり! 二部のMCはボクらの味方パンダマンに交代するよ』
 間を空けてからのぞみが宣言すると、大型ディスプレイの上でパンダの着ぐるみ姿の七市が右手を腰に手をあて、左手の人差し指を天に伸ばして両足を開いたポーズを決めた姿がライトアップされた。
『第2部スタートだよ!』
 会場を飲み込むくらい大きな叫びを七市があげると、ステージにジェームス、朋、沖那、弓、神楽、美月姫、舞奈、エイラのImpalsメンバーのバックダンサーがポップなリズムに合わせて派手な踊りをみせた。
 クールダウンしていた会場が一気に熱を取り戻す。
 ポップなリズムからロックな調子にBGMが変わった。
 バックバンドを担当するのはヤナギ、カズト、テト、コハルがそれぞれ得意とする楽器をかき鳴らす。 
『Rock Up!』
 黒のレザーで決めた宵藍がバク転などをしながらステージ端から登場して着地と共に叫んだ。
 沖那も同じように側転から宙返りと決めると、ストリートダンスのステップを踏んで、ステージを踊りまわる。
 演奏をしているヤナギやカズトもステップやキックを見せ、ライトがステージで踊る男達を追いかけるように走った。
 
 4人の派手な演出が終わると、ポーズをとり続けていた七市がナイフを取り出してその場でジャグリングを始める。
 華麗にナイフをまわさせた後は空中に投げると上から飛び降りて着地、ナイフも全部受け取った。
 ここで大きな拍手が七市に向けられるが、チッチッチッとパンダは指を振る。
『このナイフをそこの笹にあてちゃうよー』
 エイラのシンセサイザーがどこかこっけいな雰囲気の曲を奏で、ドラムロールをSEで流し始めた。
 一本ずつ、狙いを定めてステージの端から端にある笹に向かって七市は投げて笹に直撃させる。
 全部を命中させると大きな拍手が七市に浴びせられ、その拍手を受けながら礼をした七市は下がった。

『Noirなの♪』
 次にステージへ出てきたのは朔である。
 猫のぬいぐるみをもって来て、ペコリとお辞儀をさせた。
『クロなのですよ』
『クロちゃん自己紹介お願いしますの♪』
『クロの好物はお魚、クロはケットシーの血を引く由緒正しい猫の王族なのですよ。でも、今はNoirちゃんの傍でNoirちゃんを見守るのがクロの使命なのです』
 ぬいぐるみをつかった腹話術をNoirは披露をするがライブのネタとしてはやや苦しい。
 動きが小さくなってしまうため、後ろの方からでは見づらいのだ。
『だから、皆も見守ってあげてね』
『クロちゃん、ありがとうなの♪』
 一通りの挨拶を終えると、前の方の観客から拍手が送られる。質問をいくつかやり通りすると朔はお辞儀をして下がった。
 
 明るいBGMだったものが、流麗な和を意識するものへと変わる。
 琴の音色に合わせて、アクション担当のスタッフが紺色の忍び装束をまとってステージの上に集まってきた。
 そこへステージの奥から春奈が白拍子姿で静かに中央へと現れる。
 忍び装束を纏った男達は春奈を囲みながら刀を抜いた。
『良いでしょう、私の薙刀捌きを見せてさしあげます』
 普段は見せないキリっとした表情で春奈は薙刀を構える。
 飛び掛ってくる男達の間を蝶のように舞いながら斬撃や打撃を入れていった。
 柄でもって腹を打ったり、殺陣のように振るった後倒れてもらうことで動きのリアルさを強くする。
 一人、また一人と男達を倒した春奈は薙刀を頭上で回転させてから、ポーズを決めた。
 拍子木の音がなり、拍手が贈られる。
 だが、まだ演舞が終わったわけではなかった。
 残った四人がその間に春奈を囲むように動いていて、タイミングをお互いの顔をあわせて確認すると一斉に飛び掛る。
 前後左右から振り下ろされる刀を春奈は髪を青白く輝かせて大ジャンプ一つで避けて四本の刀を踏みしめながら着地した。
『勝負あり‥‥ですね』
 再び薙刀をまわして見得をきると拍子木の音が鳴る。
 大きな拍手に後ろ髪引かれながら春奈が中央から奥へ下がと今度は神楽とコハルがステージの両サイドから袴姿で姿を見せた。
 コハルは当初バックバンドのみだったが、神楽の真剣の打ち合いをする提案に乗っかることにしたのである。
 神楽もコハルも道場で剣術を習ったもの同士であり、体育会系なところなど似通ったところも多いのだ。
 ゆっくりと近づき、刀を二人は構える。
 表情も真剣そのもので、ライトを受けた刀はキラリと輝いていた。
「コハルさんよろしく」
「こちらもね。本気でかかってきて良いよ、神楽とは一度稽古したかったからね」
 マイクを通さず地声だけで二人は言葉を交わし、間合いを探るように動き出す。
 和風のメロディからダンスミュージックへと曲調が変わった。
 神楽が得意のブレイクダンスを織り交ぜた動きでコハルへと斬りかかる。
 それをリズミカルに弾き、コハルも踊るように間合いを取った。
「本気じゃないと負けるな‥‥」
 軽くあしらわれたことで神楽は刀を握りしめ、息を整える。
 驚異でもあるが、心が震えるほどに喜んでもいた。
 再び神楽は回転を加えた剣戟をあてに行く、キンキンと甲高い音を立てさせてコハルはそれらを弾く。
 息をのむ殺陣に会場はしんとなった。
 両者が打ち合って距離を開くと引き分けで刀を納める。
 勝負を決めるものではなく、魅せる演舞として二人は演技を終えた。
 
●フィナーレ
 二人が演技を終えると、再びダンスミュージックが流れる。
 テクノではなく、勝利を祝うようなポップなものだ。
 参加者から、バックダンサーまでそして、倒された忍者達も一緒になってそろった踊りを見せる。
 踊りの苦手な春奈にもできるような簡単な振り付けくらいのダンスで最後はそろいのポーズを決めた。
 ドーンと火花が飛んで証明が落ちる。
 その後に流れてくるのはImpのデビュー曲であり、Impalpsの原点ともいえる『Catch The Hope』だった。
『皆、今まで見てくれてありがとう。エンディングはImpalpsのメドレーをお送りします』
『ボク達の歌声を最後まで聞いてください、Catch The Hope!』
 のぞみと神楽がメドレー曲の紹介と共に歌いだした。
 全体曲でもある『Will〜光へ〜』や『ALPha―夢への翼―』、そしてVMポータブルのテーマ曲『鉄の翼』などを全員で一生懸命に歌う。
 今回のアイドルは全部で18人。
 Imp、Alp,Mpaと3つのグループになってからでは初めてのイベントだった。
 古参も新人も、歌が得意な人も苦手な人もいろんな人がいるが、全員がこのライブステージに全力をかけている。
 その想いを一つ一つの言葉に込め、旋律に乗せて届けた。
 メドレーを歌っている間に夜が明け始め、朝日がステージに差し込む。
 フィナーレにもう一度、Catch The Hopeを歌って締めくくると、最大級の拍手が会場から起きた。
 スタッフもライディも会場にいる全ての人が拍手をささげている。
『これにて前夜祭は終了だよん、これから戦場に行く諸君へ‥‥敬礼!』
 アドリブで七市が観客に向けた言葉をささげると、アイドル達はそろってカッコいい敬礼をささげたのだった。
 
●終わりの始まり
「‥‥風の噂通りライブ後もサークル参加みてぇですね。倒れねぇように、ですよ?」
 シーヴが苦笑しながら裏口からカートを引いて出て行くコハルを見送る。
「あたしの戦いは、まだまだ続くのよね‥‥じゃ、いってきまーす」
 コハルはウィッグで変装をしつつ帰っていくスタッフなどにまぎれてホテルへと向かった。
「あ、シーヴもお疲れ。春奈さんの用意したクレープが残っているけど食べない?」
「食べるです。ライディもお疲れです」
 シーヴはライディの隣に座り飲み物を渡す。
「救護所の方は大丈夫だった?」
「やっぱり、途中で気分の悪くなったのとか。休憩から寝込むのがいやがったですね。無事対応できたんで、それほど混乱はなかったですが」
 シーヴは救護室詰めを最後の方はしていたようで、それらの報告をライディにしていた。
「ありがとう‥‥6時間本当に皆がんばったね。疲れて眠たいだろうし、撤収は日中にしようか」
 ふわぁとあくびをライディは漏らしてシーヴからもらった飲み物を口につける。
「そうでやがるですね。片付けがはじまるんでそっちも手伝っていくですよ」
 シーヴは仕事を頑張る夫の横顔を見ながら、微笑んだ。
 アスタリスク大阪ではヲタクの戦争がこれから始まる。
 撤収やらごみ処理などスタッフ側の戦争もこれからだった。