●リプレイ本文
●人鬼騒乱
ラストホープから日本の空へたどり着き、京都に向かう飛行物体の編隊がある。
能力者による対策チームだ。
「ん〜、京の都に大江の鬼ですか‥‥。ここは「屍を越えていけ」って感じでしょうか」
依頼内容を聞いていた水無月 春奈(
gb4000)は何かの符号を思い出す。
『鬼なんてのは俺一人で満員だ、山に帰ってもらおう』
鬼非鬼 つー(
gb0847)も鬼を名乗るものとして今回の敵は許すことはできないようだ。
『奇遇、ですね。私も覚醒時の見た目から白髪鬼と例えられるんですよ。でもこの見た目、私は好きでは無いので、彼らには早々に消えて頂きます』
同じように如月 葵(
gc3745)も鬼へは別の思い入れがある。
ところどころに火の手が上がり、キメラによって破壊工作が多少なりとも行われているのが明らかだった。
編隊は空中でターンをしながら京都市へ進路をとり加速する。
『少し前まで祭りを行っていたとは思えないけれども‥‥。此処が我々が生きる現在なのですね』
紫陽花祭のとき、綺麗な町並みだった京都に蠢く巨人の影や崩れる建物など見た和泉 恭也(
gc3978)は今、世界は人類とバグアの戦争中であることを思い返す。
楽しい出来事があれば忘れてしまうが、この光景は世界のいたるところで『日常』となっている光景なのだ。
『早く迎撃しなきゃっ! キョートを鬼さんたちの好きにはさせないんだカラッ!』
ユウ・ターナー(
gc2715)が我先にとディアブロを傾けて京都市の二条城の周辺を目指す。
それに続きKVたちが資材置き場を目指して降下していった。
山積みになったチタン合金の塊をバリケードとして市中を囲む‥‥。
篭城作戦『羅城門』が開始されたのだった。
●バリケード作戦
『雅なる街に、主の加護があらんことを‥‥』
作業が上手く進むことを祈って、ラルス・フェルセン(
ga5133)が祈りの言葉を口にしつつ<GoodLuck>をかけた。
南北に約5km、東西に約3kmという広いエリアに向かって各自がチタン合金板を持って走っていく。
『早くやらなきゃ‥‥街が落とされてからじゃ、こんなものが完成したって遅いんでしょう!』
イース・キャンベル(
gb9440)はペインブラッドにパネルを抱えこませて京都の道を北西に向けて駆けた。
KVのパワーであれば物資の輸送から設置まで行えるため、今回のようなバリケード設置は適している。
南北に一機ずつ、東西に二機ずつの合計6機での建設が始まっていた。
『うりゃうりゃ、南側を固めるのにゃー!』
羅城門と呼ばれる入り口付近を担当することになった白虎(
ga9191)もビーストソウルにKVハンマーを持たせて飛び上がりながたバリケード用の鉄板を埋め込む。
深く打ち込まれるたびにアスファルトが砕けて大地が若干揺れた。
『磨理那様の愛する物は私にとって守る対象です』
南十星(
gc1722)も南西方面を固めるためにドリルで地面を砕き、安定するようにしてバリケードを張る。
南西は裏鬼門と呼ばれて忌み嫌われる方角なのだ。
実家の屋敷を捨て、京都の二条城において暮らすことを決意した平良・磨理那(gz0056)の気持ちを思っての対処である。
巨大な砲門をもつスピリットゴーストが力強くバリケードを立てていく姿は安心感を与えた。
『こっちもバリケードを立てていくか、そっちは順調か?』
北東の鬼門をガードする山戸・沖那(gz0217)は一緒に東方面のバリケードを作る火柴(
gc1000)へたずねる。
『順‥‥調‥‥』
KVの中でもサイズの大きい部類に入る破曉を使って沖那もバリケードの設置作業を進めていた。
火柴がのるペインブラッドのバリケードを立てる動きが止まる。
『違う‥‥敵、迫ってきている』
『まぁ、これだけ派手に動けばくるか‥‥まずは生身の担当迎撃頼んだ‥‥』
沖那はまだ距離はありつつも集団でにじり寄ってきた鬼達を見据え仲間に要請をした。
KVでやることは戦闘ではなく、町の人々を守ることなのだから‥‥。
四方から迫る鬼の軍団は列を成しており、文字通りの百鬼夜行とでもいうべき光景を作り出していた。
●蹴散らせ鬼軍団
―北―
いち早く連絡を受けた葵が北方面へ迎撃に出た。
陸続きのためにまっすぐ接近される可能性が高いのである。
「悪く思わないで下さいね」
バイクで接近した葵は途中でバイクを降りて鬼の軍団に詰め寄り、まず足を斬った。
バランスを崩すことを第一に考えての策である。
鬼は一瞬斬られたことすら分からない表情を浮かべたがすぐに血が噴出して傷ついた事に気づいた。
「反応が遅すぎます」
揺らめく刃を振るう白髪の葵は膝を突いた鬼の腕を駆け上がって首の後ろを乙女桜で斬り裂く。
動脈を切られた鬼の首から血の華が咲き、黒い瘴気を纏う葵を赤く染め上げた。
後ろに迫ってきた鬼が棍棒を振りあげて葵を地面へ叩き落そうとする。
葵は崩れ行く鬼の体で踏みとどまり、衝撃をそらすように刀を構えた。
「自分より大きい相手と戦うのは慣れています」
そして、棍棒を払いながら次の鬼へと動く。
混乱が見え出すが、葵が戦闘を続けるところに集まりだし、数による押し出しを鬼達は考えだしていた。
―西―
『ん〜ここなら少数で敵を迎え撃てますね。敵を混乱させるために、一人で待っていて正解でしたか』
AU−KV「バハムート」を纏った春奈は西方にある橋『桂大橋』で待ち構えている。
鬼の波がそのまま迫り、渡ってくるのを見据えて天剣「ラジエル」とエンジェルシールドを構えて鬼軍団を食い止めようと動いた。
群れを成して迫る鬼軍団は力任せに棍棒を振るって春奈を殴りつけた。
橋の上に広がれるだけ広がり数人係で春奈を殴るために、シールドを構えっぱなしで応援の到来を春奈は待つ。
「ユウが援護するよっ! 消えちゃえー!」
春奈がガードしているとユウが特殊銃「ヴァルハラ」で銃弾をばら撒き鬼の足をつぶして言った。
『ありがとうございます、反撃いきますよ』
足の崩れた軍勢に向かって春奈がラジエルで切り払う。
二人の攻勢をものともせずに、鬼達は二人の所に集まり集団で動いてくる。
『作戦は成功ですね。時間をこれでだいぶ稼げるはずです』
「それっ、しんじゃえー!」
少女二人の過激な攻撃に鬼達は徐々に押され始める。
しかし、倒していく間に次の鬼がやってきて、攻撃の手を止めることはできなかった。
―東―
「皆さんのような力はありませんが‥‥。此処から先へ進ませるわけには参りません!」
五条大橋に押し寄せる鬼に向かって和泉は駆けている。
守るために得た力でできる限りのことをしたいと和泉は強く思っていた。
血の涙を流すような筋が入り覚醒をして拳銃「キャンサー」で攻める。
飛んでいく銃弾に撃たれながらも鬼達は勢いを緩めることなく怒涛のごとく踏み込んできた。
『ちっ、他が回れないか‥‥援護するぞ、上を気をつけろよ!』
和泉を支援するために作業を止めた沖那が破曉で支援に動く。それを追い越して、ラルスのワイバーンが前へ出た。
「外すわけには、参りませんので」
D−03ライフルが敵の腹部に着弾する。仰向けに倒れる仲間に、敵の出足が僅かに鈍った。
「ありがとうございます、自分を倒さない限り他の方は倒せないと心得ていただきます!」
2人の援護に気合を入れなおして和泉はエルガードを構えて守りながらも戦いを続けた。
多くの武器を持つ沖那の破曉はさながら弁慶、ライフルと近接武器を切り替えつつ素早く立ち回るラルスのワイバーンは義経の如く。
しかし、多勢に無勢‥‥しかも五条大橋は広いために斃れた仲間の報復とばかりに鬼達が集団で詰め寄ってきた。
「数が多すぎ‥‥うぐわぁぁっ!?」
『おい、和泉! くそ、逃げる時間を稼ぐから逃げてバリケードを頼むぞ!』
集団で襲いかかれた和泉が悲鳴を上げ、その鬼達を沖那が蹴散らす。
「すみません‥‥沖那さんも無理だけはしないように‥‥」
<蘇生術>で治療しながら集団から逃げるように和泉が下がっていった。弱った獲物にたかるハイエナのように、別の鬼がその後を追おうとする。
『ここから先へは、通す訳には参りませんので』
その敵へ、小柄なラルスのワイバーンが飛び掛り、剣翼で引き裂いた。脚にダメージを追った所へ、ドリルを突き立て、止めを刺す。しかし、突破を狙う敵を全て食い止めるに、二機ではまだ足りない。
「危ない‥‥!」
形勢を見てかけつけたイースのペインブラッドが先頭の鬼へと切りつけ、打ち倒す。
「ありがとうございます。さて、このまま押し返してしまいましょうか」
ゆらり、返り血を浴びて立ち上がるワイバーンに恐れをなしたか、鬼達が低く唸り声を上げた。
―南―
「我は一鬼当千、鬼非鬼山の一本角。貴様ら三下が束になったところで敵うものか」
バリケードが順次設置されていく中、つーが鬼キメラを蹴散らしていると、鬼の中に背の高い存在をみつける。
角を生やし、全身を赤くした無骨な腕を持つゴーレムだった。
「ほう、ようやく骨のあるものがきたか‥‥」
余裕ぶるつーではあるが、多数の鬼を倒すだけでも骨が折れている。
この状態でゴーレム級と相手をするのは不利だった。
「よし、いくぞ!」
『鬼を模しているか、だが本当の鬼というものを見せてやろうぞ!』
ゴーレムから男の声が響き、踏み込んでくる。
プロトン砲が迸り、つーを狙った。
地面がえぐられるがつーはかろうじて交わし、閃光手榴弾を投げる。
しかし、爆発までは30秒、すぐさま光る訳ではなかった。
『笑止! それで鬼とは甚だおかしいわ!』
ゴーレムの拳がつーを狙って振り下ろされる。
回避しきれなかったつーは受けて仰け反った。
『どこぞのゲーマー娘を追いかけるのに比べたら、この程度余裕だにゃ!』
窮地のつーを救うべくビーストソウルが作業の手を止めて20mmバルカンをばら撒く。
ただのバルカンではなくペイント弾の仕込まれた弾丸が飛び出して鬼キメラとゴーレムをピンク色に染めて視界を妨げた。
『小癪な! この程度で止められる”羅刹”ではないぞ!』
視界を妨げられたゴーレムだが、勢いを止めることなくごつい腕を射出してビーストソウルにぶつけてくる。
『にゃあ! ここは耐え切ってやるにゃ。皆やバリケードに手出しはさせないにゃ!』
「羅刹を名乗るか、面白い! 今の一撃で勝ったと思うなよ!」
拳を受け止めた白虎は気合を入れなおし、つーも口元に流れる血を拭ってゴーレム”羅刹”へと向かうのだった。
●四鬼士
羅刹の力はすごく、能力者達はだんだんと押されてくる。
もちろん、羅刹だけでなく鬼達の攻め込みも続いているためにつーと白虎が押さえに回ってバリケードへの被害を出さないようにしていた。
『赤鬼か‥‥。ククッ、いいね、相手したげるよ!』
そのとき、援軍として火柴のペインブラッドがビームサイズを振り回して羅刹を狙う。
『援軍か、しかし! 悪鬼剛弾ッ!』
腕で受け止めて豪腕ではじき返すと羅刹は腕を射出した。
『キャッハハハハ! 厄介なモンから切り落としてやるよ』
飛んできた腕を繋いでいるワイヤーをビームサイズが斬り落とす。
さらに<ファルコン・スナイプ>でロックオン速度と精度を高めた南十星のスピリットゴーストから200mm4連キャノンが羅刹の足元に飛んで進路をふさいだ。
『あなた何者ですか、名を名乗りなさい! 私は南十星、磨理那様を守ると誓った者です』
『くっ‥‥囲まれたか。では名乗ろう、我が名は鬼頭・吉光。朱貂様に仕える四鬼士の一人よ!』
羅刹に乗っている男が名乗りを上げつつ後退を始めた。
『ならば、朱貂に伝えなさい、あなた方の計画は、この命に代えても必ず阻止して見せますと』
南十星は鬼頭に言いながら、スナイパーライフルD−02を撃つ。
道路が抉られ、土煙が上がったかと思うとゴーレムは急加速し、やがて見えなくなった。
『逃げられましたか‥‥』
「何かあったようじゃが、大丈夫かの?」
南十星が呟いていると、平良・磨理那が二条城から様子を見るために渡辺鋼の運転する車でもって現れる。
『いえ、鬼頭と名乗るバグアの手のものがやってきましたので対処をしていたところです。すぐさまバリケードの方に戻ります』
「左様か、けが人は無理をせずにの。屋敷ではないが宿を用意しておるので、作業が終わればゆっくり休んでからかえるとよいのじゃ」
『すまない‥‥戦闘で町を壊してしまった』
火柴は覚醒を解いておとなしくなった様子で被害状況を磨理那にわびた。
戦闘によって京都の町は一部壊されてしまったのである。
「気にするでない、こればかりは仕方ないのじゃ。こういう作戦を取るしかなかった妾の責任じゃ、ともかくバリケードの完成を頼むのじゃ」
磨理那は火柴をねぎらい二条城の方へと戻っていった。
『分かった‥‥』
『生身の方の援護をしつつ建設の方を進めましょう』
二人は互いに頷きあうとそれぞれの目的のために動きはじめる‥‥。
●完成、羅城門
「お前ら、寄ってたかって‥‥!」
『脅威の増大を確認。パラジウム活性化、バランサー解除。フォトニック・クラスターの使用を推奨します』
「五月蝿いぞ、アリス‥‥っ。俺は撃たないぞ。護るんだよ、街を!」
北から抜けてきた敵に向かってイースは動いていた。
アリスというのは擬似人格AIの名前であり、機体の補助システムの一部である。
有効な手段を選択して動こうとするものだが、イースは今回ばかりは同意せずに戦っていた。
『ここから先へは、通す訳には参りませんので』
イースを支援するようにラルスも90mまで接近していた鬼キメラに向かって胴体を打ち抜く。
「まだ、片付かないのか!? 一体どれだけいると」
『白虎にゃー! バリケードは完成したにゃ! 南側の門から全機てっしゅーにゃー!』
舌打ちするイースに白虎からの撤収合図が知らされた。
それを聞いていたのか定かではないが、鬼達もバリケードの周囲から下がっていく。
『撤退していきますね‥‥何かの目的があってのことでしょうか?』
ラルスは疑問を口にするが、答えることはできなかった。
ともかく、凌げたのであればまずは作戦は成功である。
しかし、すべてが終わったわけではない、まだ鬼との戦いは始まったばかりだ‥‥。