●リプレイ本文
●嵐の訪れ
―数分前―
「ボリビア、か‥‥あの時以来だな‥‥」
三ヶ月前にこの地へ降り立ったことを思い返しながら綾河 零音(
gb9784)はULTの検査チームの護衛を続ける。
適性検査を受けているボリビア国民の中から自分たちと同じ能力者が見つかれば大きな戦力となるだろう。
「ったく‥‥金目当てじゃなけりゃあ、こんなところ頼まれたって来たかねえや」
湊 獅子鷹(
gc0233)が空を見上げて愚痴を零した。
憎らしいほどにいい天気であり、日差しが肌を刺してくる。
南半球であるボリビアは現在は冬の気候であり、それほど暑くはないにせよ日差しの強さはきつかった。
「ぼやくな、仕事なんだからしっかりしろ」
雇い主である零音が獅子鷹に檄を飛ばしていると地面が揺れる。
「サンドウォームだぁぁっ!」
飛び出してきたミミズのようなモノに対して誰かが叫ぶと能力者達は動き出した。
そして、現地での人員の輸送や物資提供を借りでていたカルメン=オニールも動きをみせる。
「皆様、往復して運びますのでこちらへお乗りくださいませ」
「万が一ということもあるから私も同乗させてもらおう。オニール氏も問題ないな?」
一瞬、零音の申し出に驚いたかのように目を開くも、カルメンは同意をしめして輸送車へ乗せた。
続けて2体のサンドウォームが姿を見せ、丘を混乱の渦へと叩き込む。
「慌てないで! ここはあたし達に任せて避難して!」
警備をしていたボリビア国軍へ指示を出し、赤崎羽矢子(
gb2140)は覚醒した。
背中から猛禽類の翼が生え、目つきの鋭くなった羽矢子はサンドウォームへと間合いを詰めながら引き付けを行う。
「バグアが何を考えているのかわかりませんが、でてきた限りは相手になりましょう分断して1体ずつ相手をします」
鳴神 伊織(
ga0421)が常に使う愛刀ではなく小銃「スノードロップ」でサンドウォームを撃って動きを止めようとした。
その間にボリビア国軍は混乱するコチャバンバ市民を落ち着かせ、能力者が戦えるように足での避難誘導にかかりだす。
「ちょっと車借りるわよ」
軍による護衛が当てにならないと踏んだ葵 宙華(
ga4067)はジープを一つ借り受けてカルメンの輸送車を追いかけようとした。
「俺も乗せてくれ」
助手席に獅子鷹が飛び乗り、ジープは輸送車に向かって駆け出す。
大きなキリスト像の見守るなか、人類とバグアの戦いがはじまった。
●サンドワームの脅威
ボリビアにある僅かに整備された道をトップを輸送車、そして距離をあけてSE−455R、さらにあけてジーザリオとサンドウォームと連なって走る。
「サンドワームが相手か‥‥倒せなくても注意を引くくらいなら‥‥」
緑(
gc0562)はバイクを走らせながら追ってくるサンドウォームをミラーを見ながら警戒を続けた。
「ほらほら、こっちですよーだ。ばーんっ!」
グローブ型の超機械「クロッカス」を装着した手で相澤 真夜(
gb8203)が指鉄砲を作ると電磁波を飛ばして地面を穿つ。
1体のサンドウォームがその振動を察知してか地面に潜ると大きく地面を揺らしながら近づいてきた。
『グシャァァァルルルルゥ』
この世のものとは思えない鳴き声を発しながらサンドウォームが飛び出し、口を開いて喰らいついてくる。
「このっ! どっかいっちゃえーっ!」
指鉄砲をサンドウォームのほうに向けて構えると放った。
飛び出した電磁波が表皮にあたるがまったくといっていいほど効いていない。
「え、ちょっとホントやばいよー!」
大きく口を開いて近づいてくるサンドウォームにビビリながらも真夜は<瞬天速>で飛び降りて距離をあけた。
「ターンして回り込みます」
緑はブーストを使って辛うじて避けると転進する。
「うひゃぁ、ものすごく硬いですって、これっ!」
忍刀で斬りつけるも勢いが止まらないサンドウォームに真夜が動揺をはじめた。
そこへターンしてきた緑がバイクを降りてから<紅蓮衝撃>を付与した銃剣「フォレスト」の弾丸を飛ばす。
バイクの耐久性能はエミタの発動した能力に耐えれるものでないため、スキルを含めた攻撃も行うことはできないのだ。
燃え盛るような一撃がサンドウォームの表皮にあたるも傷は微量で倒しきることはできそうにない。
身動ぎすらしないサンドウォームは触手を広げながら緑に向かって体当たりを仕掛けるのだった。
ジーザリオを走らせる御守 剣清(
gb6210)は緊張感を保ちながらハンドルを握る。
「ジャックさん、とにかく足止めですからねぇ。無理だけは控えてくださいよっと」
「わかってる‥‥運転の方を頼りにしているぜ」
ジャック・ジェリア(
gc0672)は自らの体をロープで固定しながら荷台部からガドリング砲を構えてサンドウォームを睨んだ。
「でっけぇミミズだなあ‥‥ってのんびり見てる場合じゃなかった! とっとと倒すなり追い返すなりしてみんなの安全を確保しなきゃな」
桂木穣治(
gb5595)は双眼鏡からサンドウォームの動きを眺め、ジャックや御守のタイミングを合わさせる。
大きなミミズに向かってジャックの<制圧射撃>が飛び、その動きを鈍らせた。
ガドリング砲から大量の銃弾が飛んで食い止め、ジーザリオとの距離をあけさせる。
地中に潜ると巨体を唸らせて動きだした。
「もっと飛ばして距離をあけろ、時間を稼ぐんだ」
ジャックが御守に発破をかけて大きく距離を取らせる。
追いつこうとサンドウォームも全力で迫り、地面を割ってでてくるとその大きな口をあけてジーザリオさら飲み込もうとした。
ハンドルを回して、御守はサンドウォームの体当たりを辛うじて避けるものの、尻尾による攻撃を受けてジーザリオが拉げ、運転席の御守が扉に挟まれる。
「おい、大丈夫か! しっかりしろよ!」
穣治がすぐさま手当てをすると扉を蹴飛ばして空間を開けて御守は走りを再開させた。
●時間稼ぎ
赤崎がハミングバードによる<円閃>の連撃でサンドウォームが踊る。
たまらなく逃げようとしたところへ、赤崎は動き潜ろうとする頭部を<獣突>で弾いて宙空へとその体を浮かせた。
絶え間なく間合いを取っている伊織からもスノードロップの洗礼が与え続けられ、10mクラスのワーム相手に生身でもひけをとらない戦い方をしている。
続けざまの攻撃に強固な装甲を持っているサンドウォームでさえ所々血のようなものを噴出し始めて動きが鈍った。
「よし、このままいけるっ!」
勝機を感じ取った赤崎がサンドウォームへ追い込みをかける。
しかし、サンドウォームは触手を伸ばして赤崎のハミングバードを奪いに来た。
叩ききろうと腕を振るうも触手の勢いをとめることはできずに絡め取られる。
「くそっ! 離れろっ!」
エナジーガンで振り払おうと抵抗するものの振り回され地面に叩きつけられた。
背中に激痛が走り力が抜けそうになるのを堪えてエナジーガンを口の中へ叩き込む。
「援護します」
伊織が<ソニックブーム>を愛刀「常夜」から飛ばして赤崎が捕らえられている触手を斬り裂いた。
「助かった。あとチョットだ。押し切って倒す!」
戻ったハミングバードを握り直した赤崎が<円閃>で弱った部分を横に凪いだ。
その一撃がとどめとなって、サンドウォームの1体が崩れ落ちる。
「思ったほど手間取りました‥‥」
刀を納める伊織だったが、それでも倒すまでに1分と掛かっていないのは二人が熟練の能力者だからだ。
「他が心配だ、追いかけよう」
「ええ、そうしましょう」
傷を受けながらも赤崎はハァと息をついておいて置いたバイクSE−455Rへ跨る。
姿の見えなくなった輸送車を二人は追いかけだした。
●悪魔の囁き
「はぁ‥‥はぁ‥‥緑さんが食べられちゃうなんて」
サンドウォームの喰らいつくような一撃を受けて姿を見失った緑のことを気遣いながらも真夜は自分の命を守るために逃げることを辞めなかった。
<瞬天速>で駆け回り、サンドウォームの体当たりの射程外へととにかく逃げ続けた。
攻撃をしても少しずつ削るだけに過ぎず、このままではジリ貧なのは目に見えている。
「どうしよう‥‥どうにも出来ない気がする」
首を大きく振るって動きつつ攻撃を仕掛けるサンドウォームの攻撃をとにかく避けていた。
既に一分近くこのままの状態がつつこうとしている。
物陰に飛び込み、真夜は鼓動の早くなった心臓を押さえるように深呼吸を繰り返した。
動こうと思ったときに地面が揺れる。
「きゃーっ! きゃーっ!」
動きながら忍刀を振るうが、既に練力がなかった。
大きく口の開いたサンドウォームに真夜も丸呑みされる。
「何やってんだよ‥‥くそっ」
零音は後ろの窓からその光景を眺め、そして迫ってくるサンドウォームに苛立ちを見せた。
そのときだ、輸送車の無線機から声が流れ出す。
「私はソフィア・バンデラス(gz0255)です。UPCに加担するボリビア国民に告ぎます。UPCの能力者は無力です。今もサンドウォームにやられてしまっています」
見ているかのような言葉に零音は苦虫をかむような顔でその言葉を宙華に用意してもらった録音媒体へ記録をはじめた。
「無力な力は無駄な争いを引き起こすだけです。私はUPCに配属してそのことを知りました」
ソフィアの言葉は演説をするかのように続き、輸送車にいた人々の言葉を大きく揺さぶる。
「そんな‥‥でも、それが事実なのかもしれませんわ‥‥」
不安を装いながらカルメンがソフィアの言葉に同意を見せた。
(「そろそろタイミングか‥‥」)
零音は空気の変化を感じ取り、トランシーバーを入れて暗号めいた言葉を送る。
「ええっと、空模様も怪しいし、ちょっと揺れが激しいでーす。で、凄くミントの香りがします」
言葉を送ってすぐに輸送車が大きく揺れた。
「チッ、仕事増やしやがって」
窓ガラスを破り獅子鷹が飛び込んでくる。
「おっと、演説はそこまでだぜ。クソアマ!」
ショットガン20に持ち替え、無線機を鉛弾で潰した。
「い、いきなりなんですの!? 物騒にもほどがありますわ」
突然の乱入者にカルメンが驚き、同じようにその場にいたボリビア国民達も不安の顔色を浮かべている。
「大人しく止まってくれよ、荒っぽいことはしたくないんだ」
運転手に銃口を向ける獅子鷹の姿はバスジャック犯にも見えなくはないが、ソフィアの言葉に懐柔されるよりはましだと零音は思った。
『ちょっと、早くとめるなりして外に出て。サンドウォームがこっちにきているわよ』
外を走る葵の声が聞こえてきた。
「そういうことだ。止まってくれ、応戦する」
「そんな無謀ですわ。貴方たちのお仲間も二人食べられているのですよ?」
炎剣「ゼフォン」と拳銃ストレリチアを取り出した零音は獅子鷹の入ってきた窓から身を乗り出して風を受ける。
「お前ら全員諦めんな! 最後まで必死に足掻け! それしか出来ないんなら尚更だ! 少なくとも私は諦めんぞ!!」
不安に怯えるボリビア国民に活をいれると零音はそこから飛び出した。
●ギリギリの戦い
「次、一発くらったら車事態もオジャンだ」
<制圧射撃>を限界まで叩き込んだジャックは疲労の濃い顔見せながらサンドウォームを睨む。
「大丈夫だ、回復は何とかしている‥‥だが、前方の緑と真夜が食われた」
穣治は双眼鏡で様子を確かめ、<練成強化>を掛けて援護を続けていたが、勝負としては分が悪かった。
分断しての迎撃は個々の戦力が均等であってこそだが、今回は差がありすぎる。
敵と自らの戦力を見誤ってしまったのが大きかった。
「何とか振り切りますが‥‥見てください、援軍です」
御守がジーザリオを運転しながら後方をみると、伊織と赤崎が着てくれた。
「それじゃあ、最後まで粘ろうか」
残りは打つだけとばかりにガドリングをリロードしてジャックはサンドウォームを見据える。
「よし、やれるだけやりやがれ」
穣治が背中を叩くと銃身が火花を放ちながら弾丸をばら撒いた。
突撃を受け、瀕死となった獅子鷹の放つ弾丸がサンドウォームの口の中に吸い込まれ爆ぜる。
その一撃で大きく揺らいだサンドウォームに車が壊され、怪我をしながら抵抗する宙華のスコールと黒猫が口内に追い討ちで撃ち込まれた。
ズシンと横たわったサンドウォームの傷口を狙って零音が炎剣「ゼフォン」を突き刺し、力任せに振りぬいて中を開区と共に受けていた傷によって倒れこむ。
『こちら穣治だ。こっちもサンドウォームは潰れている‥‥そっちも終わったか?』
「ええ、今、丁度‥‥終わったわ」
辛うじて立っていられる宙華が座り込みながら穣治への無線に答える。
後続の能力者達も集まり、食べられた二人の救出が終わると穣治が負傷者の手当てに回った。サンドウォームに飲み込まれた二人は重傷を負っていたものの、まだ息があったのだ。
能力者を殺すのではなく連れ去るために飲み込んだのではないか、と疑う者もいたが、現時点では憶測の域を出ない。
「かなりてこずったねぇ‥‥もっと倒すべき作戦を練るべきだったかな」
重傷者を多数出してしまった結果に御守はいたたまれない様子で悔いる。
そうしていると輸送車で様子を伺っていたボリビア国民達が降りてきた。
「ねぇ、貴方たちに一つだけいいかしら?」
宙華は国民たちに向かって歩き、全員に聞こえるような大きな声をだす。
「選ばれなかったからといってそれで道が閉ざされる訳ではないわ。現に一般人という肩書きのまま手を貸してくれている人も多々存在している。
貴方達が今までの様に一丸となって行動して貰えるだけでも行幸なの。
道は一つではない。そして同じ道を歩めるものだと思ってる‥‥ただ道を過ち外れる事は望まない。
どこにヨリシロが手をこまねいているか分からないから。すぐ其処まで来ているかもしれない。
‥‥だから適性検査を受けた身として十二分に気を付けて。無論、私達も貴殿方を守りますが。‥‥心寝とられぬよう‥‥」
宙華のその言葉は釘をさしたようにも応援したようにも聞こえた。
自分たちの信じる道を、自分たちの信じる道で歩むこと‥‥。
そんなことを教えられたような依頼となった。