●リプレイ本文
●準備段階
「はい、ここで由稀さんからの豆知識。北アフリカあたりはイスラム系とヨーロッパ系が混ざり合った独自の文化をもっているわ。特に衣装は白くて露出の少ないものが最良というのがポイントね」
ラストホープのアイベックス・エンタテイメントの事務所で準備をしている仲間に向けて鷹代 由稀(
ga1601)が手を鳴らして話をはずめる。
考古学や歴史学を大学で専攻していたこともあって、下調べはするまでもなかった。
「ああ、それと食べる前に手を洗うことに熱心なので料理を作る人は清潔感だけには気をつけてね」
「国が違えばいろいろあるんさな。沖縄から来た俺も戸惑うことあったくらいだから当然といえば当然か」
金城 ヘクト(
gb0701)は由稀の話に頷きながら、ブリュンヒルデの食堂で作るサーターアンダギーの食材を詰めて準備を進めている。
「皆もカンパありがとよ、これで結構盛り上がれそうだぜ」
ヤナギ・エリューナク(
gb5107)は100Cショップで買ってきた玩具の楽器類を梱包しながらカンパをしてくれた先輩や同僚のアイドル達に頭を下げた。
「私達が戦って傷つけてしまった場所ですから、少しくらい希望を与えたらと思います」
避難民の救済という経験の少ない依頼のため、古参のアイドルである加賀 弓(
ga8749)でさえ緊張している。
そのため少しでも役に立つならとカンパにも参加したのだ。
「遅れてごめんね。準備は僕も手伝うよ♪」
勢いよく扉をあけると、ブロンドの髪を大きく揺らす桜華・さつき(gz0343)が梱包準備に加わる。
「さつきさんは今回よろしくお願いします。あ、今回の地方に伝わる歌とか由稀さん知りませんか? できれば歌えたらなって思うのですけど」
「そうね、ちょっち時間かかるけど昔のノートとか手持ちの資料で調べておくわ」
お菓子やジュースをパッキングしていた大和・美月姫(
ga8994)もさつきに挨拶をしつつも、思い出したかのように由稀へ頼みごとをした。
各自が協力し合い無償のチャリティーへと気合を入れていた。
「こちらの皆さんは気合の入り方というか手際とかも違いますね。勉強になります」
「本当に僕も少し手伝うくらいですけど、アイドルとしても傭兵としてもあの人達はすごいですよ」
準備に励むアイドル達を一歩はなれて見ていたアクセル・ランパード(
gc0052)とライディ・王(gz0023)はそれぞれの感想を漏らす。
ジラソール事務所というアメリカにある事務所の裏方を担当しているアクセルは大手事務所のとの今回の共同企画を待っていた一人だった。
お互いの良いところを交換しあって高い目標へと煤みたいと思っている。
「こちらは子供中心にいきますので、よろしくお願いします」
「分かりました、向こうは成年〜お歳を召した方でも良いかもですね。じゃあ、俺はウチのメンバーにこの事を伝えてきます
頭を下げるライディに同じように頭を下げ返したアクセルは自分たちのメンバーとの打ち合わせに向かうのだった。
●機械と共にある機会
固定されたKV達を子供達が目を丸くしながら見上げている。
そんな子供達を不安そうに離れて見るエイラ・リトヴァク(
gb9458)の頬に冷たいジュースが当てられた。
「ひゃぁ!? テト姉さんか‥‥びっくりさせないでくれよ」
「沈んだ顔してんなよ、俺様たちが笑わなきゃ笑ってくれないぜぇ?」
ジュースやお菓子を持ってきたテト・シュタイナー(
gb5138)がエイラをつれて子供達のほうへ近づく。
「よーし、休憩だ。そっちのお兄さんをもふもふにしているのもこっちにくるといいぜ。お菓子やジュースがあるからな」
テトが呼び込むと落書きをしていた子供達がいっせいに集まってきた。
「ぬこパーカーのもふもふ振りは大人気のようだな。明るい顔が増えてきて少しホッとした」
けもしっぽアクセサリーとけもみみつきパーカーを装備して子供達に大人気な宵藍(
gb4961)はであったときは暗かった子供達の顔に笑顔が浮かんだことにほっとする。
数ヶ国語を話せたこともあり、打ち解けるのには苦労はしなかったが笑顔を作るまでには愛機に下手な絵を描いてみせるくらい苦労した。
「ほら、宵藍だって身を削ってんだ。エイラももっと肩の力抜けよ」
テトがエイラのわき腹をくすぐりだす。
「て、テト姉さん‥‥それはきびし‥‥いひひひっ!」
「お前らもくすぐってやれー!」
ガキ大将といった様子でテトが先導すると子供達がエイラを囲んでくすぐり攻撃を仕掛けた。
たまらず輪から逃げていくエイラをテトと子供達が追いかけていく。
「楽しそうに落書きして、一緒に遊べて少しでも元気になってくれたら機体の洗浄代とかなんて安いよね」
「そうだな‥‥」
雪村 風華(
ga4900)は白いステージ衣装をクレヨンで少し汚しながら、残った子供達にお菓子やパンを渡して一緒に食べた。
バグアの支配下だったり、戦場となって疲弊した土地にいた子供達にとって安いお菓子やパンもご馳走へと変わる。
戦争の道具として使われたKVではあるが、今は子供達の遊び相手として打ち解けあうきっかけの存在だった。
「さぁ、休憩が終わったらもう少し高いところも塗ってみようか?」
背を屈め、視線をあわせるようにした風華が女の子に声をかける。
女の子は頷くと風華の手を握った。
「よし、肩車だ」
小さな女の子を宵藍は肩車すると風華と共にまだ落書きされて無い部分の残る愛機の元へとつれていくのだった。
●みんなDEうたおう
アカペラの綺麗な歌声が艦内放送を通じて響き渡る。
終夜・朔(
ga9003)が同じ艦内の別の場所で歌っているものを流しているのだ。
ヨーロッパの文化も通じるこの地方では賛美歌も親しみのある曲の一つである。
「子供達の為の慰問ね、こーいう事をしてこそあたし達の意義があるってものだよね、今日も全力でいきますか」
葵 コハル(
ga3897)は拳をぐっと握って気合をいれると子供達の輪に混ざって歌を教え始めた。
「これはね、あたしの国の子供の歌‥‥童謡っていうんだけどね」
コハルは子供達に言いながら大きな動きで木の形やクリの形を作りつつ歌を歌う。
ボディランゲージで会話を試みるコハルに子供達も見よう見まねで動き再現しはじめた。
「そうそう、おーきなくりのー♪」
コハルと子供達に合わせて嵐 一人(
gb1968)がエレキギター型超機械「ST−505」で範奏をつける。
言葉は通じなくても音楽や動きという物がその壁を壊し、交流のきっかけとなっていた。
「皆、楽しそうだね〜。俺の出番はまだだけどここで見守らせてもらうね」
ステージ設営にAU−KV(パンダの着ぐるみ風?)を着て頑張っていた七市 一信(
gb5015)は音響設備代わりに置かれたKVの足に身を隠しながらステージの様子をみまもっている。
すると、ふにっと何かに触られた感触がした。
振り返ると、トイレがえりの子供達に不思議そうな顔で見上げられている。
「わー、まだ俺の出番じゃないんだよ。パンダ、分かる?」
ふるふると首を横に振る子供に七市は寂しそうに背中を丸めた。
「図鑑でしかみたことない? マヂデカ、パンダさん寂しいな‥‥けど、パンダさんの出番はあとだからあっちで皆と遊んでおいで」
七市は子供達の背中を押してコハル達ステージ組へと引き渡す。
「さて、出番の前に手持ちのジュースの用意をしてくるかな」
ぴょこぴょことスキップをしながら七市はトークショーに向けての準備を進めるのだった。
●Free Drawing
「貴女は何を書いているの?」
自分のゼカリアの足に落書きをする少女を見つけた弓はしゃがみこみながら首を傾げる。
「キャメル!」
少女は茶色のクレヨンで首とこぶのある絵のしたにミミズが這っている様なアラビア文字を書きながら元気に答えた。
「ラクダは英語もアラビア語も一緒なんですね」
白地に桜の花びらの舞い散る浴衣を着た弓は少女の言葉に関心を見せる。
「星の名前なんかもアラビア語が多かったりするよ? アルタイルとかヴェガ、アルデバランなんかもね♪」
覚醒して尻尾や耳などを見せているさつきが子供達を引き連れて弓のゼカリアへとやってきた。
さつきの白いナイチンゲールは戦闘機形態のままで落書きだらけのため、一緒にゼカリアを綺麗(?)にしようと来たのである。
「物知りなんですね‥‥流石は世界的に有名なアイドルさんです」
「そんなことないよ、今は僕も弓さんも同じ能力者だものね♪ ゼカリアは大きいから描き甲斐がありそうだよ」
耳を上下に動かして尻尾を揺らしていると、いつの間にか朔も隣で同じように耳を動かし、尻尾を揺らしていた。
「同じ‥‥」
笑顔を見せた朔は子供達に混ざってさつきと一緒に弓のゼカリアへ落書きを始める。
二人が描いたのは大きな猫の絵だ。
「また‥‥」
「‥‥同じだね☆」
二人は笑いあうとサインをつけながらゼカリアへペイントを続ける。
「さぁ、あの二人に負けないよう皆さんも落書きしましょうね。折角なので、このゼカリアは動物ばかり書きましょうか?」
弓の提案に子供たちは頷き、ゼカリアを動物園にするように落書きを始めた。
●Hard Live
コハルによる歌の練習が終わると、嵐が立ち上がりチューニングをはじめる。
「場所がちょいと殺風景だが‥‥ま、そこはこっちで盛り上げるだけか」
ヤナギがOKのサインをだすと嵐はエレキを一度掻き鳴らした。
大きな音に一瞬子供達が怯えたような顔になる。
「っと、驚かせちまったか‥‥でも最後まで聞いてくれよ?」
戦争被害を受けた子供であることを少し忘れていたため嵐は躊躇いを覚えたが、それでも自分を思いを貫いた。
元気になるようにと願ってヤナギのベースから単調のリズムでノリを取り直し、ハードなリズムを紡ぐ。
―RUN!―
♪〜〜
打ちひしがれて閉じた瞳の中 哀しく笑う君が振り向いて
約束の言葉はまだ強く輝いて 僕はまた立ち上がる‥‥!
破れ散った夢の地図を集め 繋いでもリアルは変わらない
先の見えない道でもスタート切らず ゴールには決して届かない
暗く果て無く険しい道のりは ヒトの心容易く挫く
君の眩しい微笑みに照らされて 僕は 前に走り出す
そうさ運命が押し付ける下らないドラマも
高く飛び越えてゆけ flyaway
そうさ 悲しみ過ぎた数だけ 胸の奥で叫んだ熱い拳振りかざせ
思い描いた明日へ ただひたすら走るさ
躊躇いも捨て Over the Now
〜〜♪
歌が終わる頃には大きな音にも慣れた子供達が拍手を嵐やヤナギに向けて送る。
恐怖を乗り越えるほど伝わる物が嵐のロックにはあった。
「おねーちゃんかっこいいー」
「もう一曲、なんかやってー」
子供達が嵐の足元に寄ってきて、袖を引っ張りアンコールをせがみだす。
「俺は男なんだがな‥‥」
中性的な容姿のため勘違いされた嵐だったが、未来のファンのアンコールにこたえることにした。
「今日はたっぷりファンサービスといこう」
「では、折角ですのでこの地方に伝わる歌を一曲歌いませんか? きっと皆も歌ってくれると思いますから」
美月姫がマイクを片手に嵐とヤナギに視線を送ると、任せるとばかりに二人はヘクトに視線を向けた。
「範奏は俺がやるさ。民謡なら、国を超えたって一緒さ」
形見の三線を持ったヘクトが玄をならし、心に染み行く音を奏でる。
美月姫が歌うのはヌビア人とよばれる故郷を失ってしまった民に伝わる民謡。
「んっ、いつのまにか増えてきてるみたいだ‥‥ここまでのは、始めてだ‥‥本島でも経験無かった」
曲とヘクトの三線がマッチしたのか子供達が集まり、合唱を始めた。
確かな手ごたえを感じながら、ヘクトは三線を弾き続ける。
自分の腕がここまで人の心を惹き付けられたことが嬉しかったからだ‥‥。
●アクシデント
落書きもひと段落すると、ヘクトがサーターアンダギーをもって休憩タイミングに姿を見せる。
「自分のつくったお菓子さ。口にあうか分からんけんど、食べてくれると嬉しいさ」
大きなケースに一杯に敷き詰めたサーターアンダギーを持ってきたヘクトに子供達が集まってきた。
「おい、元気だなぁ。あんまり走ると‥‥こけるぞ」
子供に追いかけられて疲れた様子を見せるエイラが駆け出す子供に気圧される。
もちろん、それだけではない。
難民を生み出したのは自分の使っていたKV達『兵器』であることを気にしているのだ。
「おー、俺も腹へっていたんだ。貰うぜ!」
テトの方はそんなことなど気にせず子供に混じってサーターアンダギーを求めて走り出す。
「ちょっと、飛び出しちゃあぶないっ!」
エイラが苦笑していると、雪華の叫ぶ声が聞こえてきた。
コックピットに乗っていた子供が阿修羅の背中から飛び出して駆け出したのである。
制止の声に足を止めた瞬間、するっと子供の体が揺らいだ。
鉄板の敷かれた床に向かって子供の体が落下していく。
「何やってんだ、あぶねぇぞっ!」
白銀に目を光らせてエイラが駆け出し床にぶつかりそうになった子供をダイビングキャッチして転がった。
服が破れるほど勢いよく滑るが子供の体をしっかり抱えたエイラは離そうとしない。
「いってぇーったく‥‥、気をつけろよそれなり高いんだぞ」
「ごめんなさい‥‥おねーちゃん、だいじょうぶ?」
たどたどしい英語で子供がエイラに話しかけてきた。
視線の先にあるエイラの腕からは血がにじんでいる。
「反省してくれりゃ良いんだよ‥‥これしきの事じゃビクともしねぇよ」
それでもどうしていいのか視線を彷徨わせる子供の手をエイラが握った。
「気にすんなょ。手をつなごうぜ、あたしらは同じ所に生きてるんだ」
エイラは子供にぎこちなくながらも笑いかけて、ヘクトの元へと歩く。
(「そうだよな‥‥、あたしは見向きもしてなかったんだよな。けど、今は能力者だ。それじゃいけねぇ、この星に生きているのは同じなんだ」)
子供を助けた自分の行動に驚きながらも何かを掴んだエイラの足取りはしっかりしたものになっていた。
●トークショー
激しいライブステージの曲の後、美月姫のシュテルンに装備されたソニックフォンブラスターから曲が流れ出す。
CD『小悪魔の楽園』に収録された弓のソロ曲『Walkers〜旅人〜』という旅立ちをテーマにした歌だ。
『はいはーい、これからトークショーですよー。よいこの皆はステージの方へ集まってねー』
コハルがヒーローショーや教育番組のお姉さんのようにマイクパフォーマンスで子供達を集める。
『今日はあたしのほかに皆を元気付けにパンダさんがやってきたんだよ。皆、声を出してよんでみよー』
「「パンダさーん」」
子供達が声を出すと七市がそっくりパンダと名づけたお手製着ぐるみで姿を見せた。
二足歩行で歩くリアルなパンダは怖いような気もするが、図鑑でしかみたことのない不思議な生き物に子供達は興味しんしんである。
『俺は皆を喜ばすためにきたんだよね、今日は皆のことを教えてほしいな!』
『そして、さっきのライブでベースをやっていた赤毛のお兄さんヤナギー!』
『ベースのヤナギだ。こっちでは主役を張ろうと思ってたんだが、相手が悪すぎるわな』
コハルの呼びかけに手を振って答えながらヤナギがマイクを持ちながら七市をコハルと挟むように立ちながら見つめた。
構図としては日本の子供番組そのものっぽいが、そのことに気付く様子はない。
『コハルお姉さん、早速質問とかしちゃってもいいのかな?』
ワクワクといった様子で体を弾ませる七市がコハルに尋ねた。
『落ち着いてパンダさん。先に皆から聞きたい事がないか聞いてみてからだよ』
どうどうと半ば本気で七市を落ち着かせたコハルが子供達に視線を向けて挙手を仰がせる。
互いに顔を見合わせながら迷っていた子供達の中で、一人の少年が手を上げる。
『はい、そこのきみっ!』
「図鑑ではパンダは笹が好物って書いてあったけど、本当はどうなの?」
由稀が少年の言葉を翻訳してコハルたちに伝えた。
単語くらいならば事前に教えていわせることもできるが、質疑応答をするとなれば翻訳しないと厳しいものである。
『パンダさんの好物? 笹じゃないんだなあ。好き嫌いなく食べる、これが大事だよ』
回答をしながら七市はリンゴを取り出しむしゃむしゃと食べだした。
『はい、他のしつもーん‥‥そこの女の子!』
「ヤナギお兄さんは楽器の演奏上手なのに、なんで能力者になって戦っているの?」
由稀が言葉を訳しながらヤナギの顔を見る。
子供らしく純粋で、そして重い質問だった。
『確かに俺は昔インディーズバンドでベースを弾いていたりもした。けど、今の俺のステージは戦場ってことだな。楽器が弾けるからバンドをやったように、能力者の適性があったなら戦わなきゃな?』
口調は砕けたままではあるが、少女の眼を見るヤナギの顔は真剣である。
『他に質問はー?』
コハルが見回していると、集まった子供達の中では年長者とも言える少年が手を真っ直ぐにあげた。
由稀が通訳に回るが少年は英語で質問を行う。
「傭兵とバグアが戦っているために戦争が長引いている気がします。僕らだって、多少辛くてもそのままの方が難民になんかならなかったのですが、どう思いますか?」
拒絶に近い質問に流石の周囲の子供達もざわついた。
助けてくれた人を英雄と見れるほど子供ではなく、かといって仕方ないと割り切れるほど大人でもない年代らしい重い質問が飛んでくる。
『え、えーとそれは‥‥』
流石に困ってどうしようかとコハルが悩んでいると七市がたじろぎもせずに答える。
『確かにこの戦争は辛いね。‥‥でも、パンダさん達も平和を望んで戦っていることを忘れないでほしい。こうして後からいいように扱っているかもしれないけれど、無償で俺らはここに来て君たちの声を聞きたいと思っているんだ』
最後のほうは本心の真面目な言葉を七市はつむいだ。
少年の方はその言葉に納得したのかどうかはわからないが静かに座り、じっと七市を見ている。
『それじゃあ、次はこっちから質問を飛ばしちゃうよ。だーれをあてようかな〜?』
コハルが緊迫した空気を解すように明るく元気にきりだし、子供達を見回した。
子供達の言葉は飾りのない本心である。
そういう子供達を自分たちが作っていることをこのとき、能力者達は改めて思うのだった。
●ラストダンス
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、そろそろ慰問ライブも最後のイベントが近づいてくる。
朔を主旋律として『すばらしき恩寵』とも和訳される賛美歌を歌ったアイドル達は最後の休憩をとっていた。
KVペイントのメンバーもステージへ集まり、フォークダンスの準備が進められていく。
朔の手作りお菓子のあまりを食べて元気をつけると、輪になって手をかざした。
「最後もばしっときめるよー☆」
「「おーっ!」」
さつきの掛け声と共に全員が手を上に上げて気合を入れると、ポジジョンにつく。
楽器の演奏として、エレキギターの嵐、ベースのヤナギ、三線のヘクト、二胡の宵藍だ。
『それじゃあ、最後のイベントしてみんなでフォークダンスをしようと思うよ。ダンスといっても簡単だからまずは僕をみていてね?』
マイクを持ったさつきが日本でのフォークダンスの定番曲でありながら、原曲がイスラエル民謡で『あなた方は水を汲む』という意味を持つ歌の踊りをみせる。
軽快な音と共に横に動き、リズムが変わると前に進んで頭の上で手を叩き、そして下がる。
イスラエル系の文化も混ざったこの地方ではそれだけで通じたのか、子供達が両手を叩いて踊る動きを見せた。
『教える必要なかったかな? じゃあ、踊りをはじめよう』
ゆっくりした音色からのスタート、楽器を演奏しないアイドル達は子供達の間になるべく入るようにしてリズムをとり、大きな円を作って回り始める。
すぐにフォークダンスが始まり、大きな輪が小さくなったり広がったりとウネリを起す。
踊りに入ろうとしなかった子供達も2週目、3週目と踊りを見たり、由稀やテトが練習を手伝ったりして仲間はずれにならないように入れていく度に輪が大きくなった。
「どうしたの?」
その中で由稀は踊りに参加しない女の子を見つけると近づいて背をかがめる。
「んー‥‥こういうの、苦手だったりするのかな?」
女の子は首を横に振って答えた。
「じゃあ、一緒に踊ろうよ。下手でも気にしなくていいのよ、楽しむのが一番なんだから」
手を差し伸べながら由稀が笑いかけると、遠慮しがちに女の子はその手を握る。
小さな手は震えていて、こうしている中でも寂しさとか怖さを感じていたのかもしれなかった。
それでも由稀は深く尋ねることはせずに女の子の手を引いて輪に混ざる。
総勢120弱の大きな輪が井戸を掘り当てた喜びを表現するダンスをそろって踊り、今日の出会いを喜ぶかのように笑いあうのだった‥‥。
●宴の終焉
「終わりましたね」
「終わりましたよ」
飛び立っていくブリュンヒルデを見送りながら、ライディとアクセルは一息ついていた。
「こういうのも中々面白くて良い物ですね♪ ‥‥事務所の垣根を越えて、また出来ると良いですね」
アクセルはコーヒーをライディに差し出して微笑を浮かべる。
ほろ苦いコーヒーのはずだが、豊潤な甘味をライディは感じていた。
「よーし、掃除するぞ、お前ら!」
「相棒‥‥我慢してたよな、今きれいにしてやるぜ」
ツナギ姿のテトが先導しながらペイントKV達をモップで掃除していく。
エイラも自分の服が汚れるのも構わず愛機のヘルヘイムを綺麗に磨きだした。
「あんな子達が他にも一杯いるんだよね‥‥。もっと頑張らなくちゃダメかな‥‥。もっとみんなを笑顔に‥‥」
着替えを済ませた風華が小さくなっていくブリュンヒルデを見送りながら決意を新たにする。
2時間ほどの小さなライブだったが、そこで培った思い出はかけがえのない物となっていた。
連動企画IRGのスタートは上々ではじまる。
この先、多くの人々の心を救うためにアイドル達は今日も頑張るのだった‥‥。