●リプレイ本文
●コスプレ軍団?
関西を中心に広がっている大きなゲームセンター『ドリームパレス』通称:ドリパ。
京都市にある三階立ての大型ドリパには貸し切りで武士[もののふ]達が集まっていた。
「由稀さん写真いいですかっ! ファンなんです!」
「やっぱしこの格好すると気合入るわね。あ、一般隊員用もあるからイルも着てみる?」
鷹代 由稀(
ga1601)が参加しているマイスター達と握手を交わす。
それもそのはず、彼女の格好はVMポータブルのインパルス小隊の隊長服なのだ。
「ええっと、お揃いというのも確かに嬉しいです‥‥ね」
由稀の人気に圧倒されながらもイリアス・ニーベルング(
ga6358)はお揃いのお誘いに顔を赤くする。
「ふぇるたんだ」
「おお、本当にフェル・ゼーヴだぜ」
「なんで、ここでも言われやがるんですか‥‥ゲームセンターであることを少し忘れていたです」
上から同じように声をかけられて写真も撮られるシーヴ・フェルセン(
ga5638)は自身の失念を悔いていた。
参加者だけというのに50人近い人数がごった返すフロアは騒々しい。
「しかし今回はチーム数が多い分、乱戦必至か。さて、どう転ぶかな?」
傭兵とマイスターが談笑をしたり、最終調整や作戦会議のしているフロアの中、白鐘剣一郎(
ga0184)は楽しげに口元を緩めていた。
そこへ、青いゴシックロリータ服に身を包んだ少女がちょこちょこと近づいてくる。
「ん‥‥あなた‥‥ゲームショーにいた‥‥」
「確か、ブラウだったな。今回も勝負を挑むのでお手柔らかにな。姉の方は赤[ロット]なのか?」
「ううん‥‥お姉ちゃんは‥‥朱[ツィノーバ]‥‥」
剣一郎の素朴な疑問にブラウは見上げながらか細い声で答えた。
「分かった。ではステージの上ではいい試合をしよう」
「うにゃー! ライバル発見ニャ! 萌えでもバトルでも僕の前に立ちはだかるか!」
ブラウが剣一郎と握手をしているところにチャイナドレスの白虎(
ga9191)がバタバタと駆け寄ってくる。
「じゃあ‥‥試合で‥‥」
歳も同じくらいでコスプレをする少女に白虎はライバル心を一方的に燃やすが、ブラウの方は何事もなかったかのように剣一郎と挨拶を交わして去っていった。
「アウトオブガンチューにゃー! 南十字、いっしょにがんばるにゃ!」
相手にされなかったことに俄然闘志を燃やす白虎は遅れてついてきた人物に向かって拳を上げるとさっさと筐体の方へと駆け出していく。
「あの、私の名前は南十星(
gc1722)なんですけど‥‥」
自分の名前を訂正するもその声は雑踏の中に消えていくのだった。
●VM武神祭、開幕!
―Welcome to Vogel Meister Are you Ready? Good Luck!―
起動したときにシステム音声と共に黒い画面に文字が走った。
ノイズが晴れると正面のディスプレイには古戦場のような景色が広がっている。
実際の戦場のようなリアルな風景に驚きと共に興奮をだれもが覚えていた。
『さあさあ、シューティングゲームだけで開店から閉店まで粘った経験見せてやるっすよ!』
登場から気合を入れていた三枝 雄二(
ga9107)がフェニックスで登場するがどこからともなく撃たれたアハトアハトによって撃墜される。
『って、あるぇ〜?』
気の抜けた声をだしながら倒れこみ、戦いの火蓋となった。
「ロマンチストはお互いに引かれ合う さぁ、君達と私の。どちらの夢と希望と浪漫が輝いているか、競ってみよう!!」
ドドドドという気迫をまとい鈴葉・シロウ(
ga4772)が試合開始と同時にグランエミターに向かって雷電『飛熊』をまっしぐらに向かわせる。
全高30mという実現不可能な巨体に3連装レーザーキャノン、巨大剣、イクシードコーティングに可動式シールドと豪華な装備が目立ったVVがグランエミターだ。
『断鎧おぉぅっ! けんざんっ!』
巨体から高校生くらいの男の声が響くと目を光らせたグランエミターがポーズを決める。
しかし、そこへペイント弾がべチャッと当たった。
「ぬぬ、何ごとか! なんとぉぉ!?」
ベチャっとシロウの機体にもペイント弾がぶつかる。
ゲームではありながら拘ればリアルな設定やエフェクトなど、実機シミュレーターを操作系を簡略化したフォーゲルマイスターらしいこだわり演出だ。
『挑戦状、というわけではありませんが、お待ちしておりますよ』
ペイント弾を撃ちすえたファイナ(
gb1342)の右半身を白、左半身を黒にしたS−01HSC『ホワイトナイト』は残像を残すような動きで距離をあけていく。
高出力ブースターのみを積み込み、バグアのエースと勝負できるほどの性能を引き出されていた。
挑戦状を叩きつけられたのであれば答える。
それが武の礼節というものだ。
「良い感じですね‥‥いざ、参りますっ!」
世の平安を望み、武の道を歩む男‥‥米本 剛(
gb0843)はファイナの挑戦を受け取って濃緑色の機体を向かわせる。
アヌビス(真)『黄泉』が双機刀「臥竜鳳雛」を交差させてガード体勢のまま勝負にでた。
「味方と固まりながら攻めるのは自由とのことですから、答えないといけませんよね」
『私の戯言に付き合わせてすいません。ですが、どこまで通用するのかとてもたのしみです』
米本の呟きに答えるようにハーモニー(
gc3384)がディアブロ『螺旋』を動かしながら鈴の音のような声をだす。
古戦場に銃声が鳴り響き、走輪走行によって土煙が上がる‥‥。
戦が始まったのだ。
●ブラックナイツ
「ファイナに先陣を切られたがこれより行動を開始する。各自最後まで生き延びるように奮闘してくれ」
黒いカラーリングを主に各自で多少のアレンジをされたKVの一団にむかって大神 直人(
gb1865)は指示を伝える。
中堅どころともいえる実力をもつ直人は今回が自分と新しい愛機のペインブラットを試す機会と思っていた。
『基本は木々や高低さを利用しての牽制ですね〜。がんばりますよ』
明菜 紗江子(
gc2472)が直人のディスプレイにコックピット内の映像を出しながら気合を見せる。
彼女の機体は黒い斉天大聖『石猿「孫悟空」』だ。
『明菜さんの援護は私がするから‥‥一騎打ちしたい相手もいるんだよね?』
東西でぶつかり合っているマイスターチームと傭兵チームの間に南側から黒いKV達は進軍をしていく。
『しかし、芹佳さんは黒がチームカラーとはいいますものの眼のやり場に困ってしまう格好をしていますね』
『えっと、お祭りだからで‥‥でもかなり恥ずかしいかな‥‥』
直人のディスプレイに映る如月 芹佳(
gc0928)の姿は黒のネコミミにグローブをつけ、水着のような露出の高いキャットスーツだった。
突っ込みを入れたクラーク・エアハルト(
ga4961)も思わず赤面してしまう。
「祭りを楽しむのは問題ないさ、周囲に敵の反応が増えてきた警戒を怠らずにいくぞ」
『『了解』』
直人が各自のやりとりを苦笑しながら見守る。
マイスター側の方から4機のVVが近づいて来た。
拡張性の高さで初心者向けとされている『エレメント』である。
現在動いているのは装備スロットと特殊能力スロットを拡張してあるエレメント・ザ・サードと呼ばれているものだ。
「あれがゲーム専用機か‥‥面白いのがいる」
ブーストを使って小刻みに動くエレメント達に直人は思わず頬を緩ませる。
動きだけ見れば自分の仲間達に引けをとらないほどいい動きをしていた。
「腕試し、させてもらうか‥‥纏めて吹き飛べ!」
直人が操縦桿を動かし、ブーストと共に特殊能力を起動させる。
<強化型SES増幅装置『ブラックハーツ』>で出力を上げ、50mの90度コーンに<フォトニック・クラスター>で高熱量のフラッシュを浴びせた。
●戦姫、現る!
――さぁ、この騒乱たる戦を踊れ
前にあるは、敵、敵、敵
目を閉じ、耳を塞ぎ、触れざるものを全て滅ぼせ
唯一人の勝者には騒乱者たる戦姫からの口付けを――
戦闘の途中でソーニャ(
gb5824)の声が戦場に響いた。
北側のエリアに複数の機影が姿を見せる。
女性らしいフォルムにスカートのようなスラスターをつけたAU−VV『ジングウ』だ。
『ちょっと言い過ぎたかなぁ。MVPにはキスしてあげてもいいよね。‥‥女の子同士になってもまぁ問題ないか』
『女子同士の接吻は仁宇には抵抗がありますな』
『これ、普通にフィギュアとかになりそうね‥‥美しいわ』
シュブニグラス(
ga9903)が予想以上のデザイン性に感嘆の声を漏らす。
『A班は私についてきてくださいな、先陣を切り開きます』
AU−KVでの戦いに気合をいれたドラグーンのエリザ(
gb3560)が自分のチームメンバーを率いて戦場を駆けた。
『さぁ、みゅうの登場だよ〜。イクサヒメ、いざ戦いに‥‥』
『‥‥参るのじゃ、妾の初舞台を勝利で飾るのじゃ』
エリザの後ろに平良・磨理那(gz0067)とみゅうがついていく。磨理那の方は和服をモチーフにしたカラーリングとなっており、みゅうはアイドルっぽく派手な色合いでどちらも目立つ。
戦場に舞い降りた日本の戦いの神『ジングウ』は巨人を相手に如何なる戦いをみせるのか‥‥。
●戦う理由
戦闘が始まり乱戦が続く、だがじっと動きを見守っている能力者達もいた。
ほぼ壁ギリギリで狙いを定めているVV『ファルコンスナイパーカスタム』を見つけたオルカ・スパイホップ(
gc1882)は味方に報告を行う。
『うわ、あんなとこいるよー。まだまだ遠いけど狙えない距離じゃないかな?』
『悪いな、俺はそっちよりも押しかけ弟子の具合を見なきゃならないんだ。あー面倒くせー』
風羽・シン(
ga8190)はオルカに答えながら欠伸するような声をだす。
シンの機体であるシュテルンG『WF−01(アイン)』は待ちの姿勢を維持し、スラスターライフルを構えている。
「こちらにイクサヒメ来ているな。物陰に隠れながらなのが厄介だ‥‥あとは予想よりも突進速度は高い」
シンと共にチームを組んでいる柳凪 蓮夢(
gb8883)は岩龍からのデータを見ながら北側から動いてくる敵機に警戒を呼びかけた。
400発という弾丸を放つクァルテットガン「マルコキアス」を携えたシラヌイS型『紅弁慶』が向きを変える。
ダークブルーとブラックのツートンカラーな御剣 薙(
gc2904)の『ジングウ』が傾斜を飛び越えながら小銃「フリージア」を<竜の翼>で一気に間合いを詰めながら放った。
瞬時に照準が鈍り、狙って撃ったはずの制圧射撃が交わされた。
被弾をしても被害がないとはいえ、厳しい戦いである。
『御披露目なら獲物はでかくなくちゃね』
狐月 銀子(
gb2552)が持ち替えていたエネルギーガンを使って紅弁慶の脚部関節を狙ってきた。
「近づかれすぎると不味いな」
ツングースカも使っての牽制を続けながら蓮夢は銀子から距離を取り出す。
それでも<竜の翼>を使って食いついてくる銀子に苦戦をしいられた。
『容赦のない動き‥‥もしかしなくても、冷蔵庫に1つだけ残ってたプリン。銀さんのだった?』
鬼気迫る銀子の動きに恋人のセージ(
ga3997)が場にそぐわない言葉を漏らす。
しかし、銀子はセージの言葉が聞こえていないのか蓮夢への攻撃を続けていた。
コックピットへのダメージを与えるも、ゲームという性質上、内部への侵入は出来ない。
『ちょっと、無視するなよ。ならこっちもマジで行くぞ! 怪我しても恨むなよ』
流石のセージもこれには立腹して、銀子に向かって攻撃を仕掛けた。
手に持ったスラスターライフルから火を噴かせて銃弾を浴びせるが、すぐさま距離をとられて離れていく。
「ありがとう、助かったよ」
『気にするなよ、これは俺と銀さんの問題だからな』
かっこいい事を行っているセージだが、その問題がプリンだということが蓮夢にはどこか寂しく思えた。
●相棒[バディ]
高度のある丘陵から8.8mm高分子レーザーライフル‥‥通称『アハト・アハト』を構えた由稀のシラヌイS型『ラジエル』がVV『ファルコンスナイパーカスタム』に狙いを定める。
試合開始直後に雄二のフェニックスを撃ち落とした同じアハト・アハト持ちであるため、倒さなければ窮地に立たされることは必死だった。
「‥‥見つけた。スナイパー抑えるわ。イル、寄ってくるのは任せたわよ」
由稀は普段使っている銃型コントローラーでないため精度射撃に集中力を注ぐ。
ガードを相棒のイルに任せるのは信頼の証でもある。
『分かりました由稀さん。任せてください』
頼りにされていることに喜びを感じるイリアスの弾むような声が返ってきた。
「さあ、いくわよ。ラジエル、目標を狙い撃つ!」
周囲の地形に沿わせた砂色の塗装をほどこしたファルコンスナイパーカスタムをラジエルから放たれた光りの矢が貫く。
個人的なカスタムで限界まで装甲を減らし、必殺能力を高めていたスナイパーカスタムが一撃で沈んだ。
『おめでとうございます』
「まずは白星一つ、次の狙撃ポジションまで移動するわよ」
『由稀さん! 上です!』
狙われないように移動をはじめようとする由稀の耳にイリアスの声が響く。
『我は真戦組総長、近藤ユウ。推して参るっ!』
由稀が視線を上げるとブーストで加速をした6機のディアブロ改が上空から機槍「アルカトル」を構えた姿で時間差チャージングを仕掛けてきた。
「あれが真戦組っ! なんつー攻撃を仕掛けてくるのよ」
プラズマライフルへ持ち替えながら由稀は距離をあける。
『由稀さんをやらせはしません!』
ペインブラット『ヴァルキュリア』を盾にしてイルは由稀へのチャージングを受け止めた。
機盾「ウル」が悲鳴をあげつつも6機の攻撃を辛うじて受けきる。
『この一撃を押し切るとは‥‥やるな。斉藤一輝、手合わせ願う!』
近藤の後ろに控えていた1機のディアブロ改が機刀を抜いてヴァルキュリアへと斬りかかった。
「ちょいちょい、こっちを忘れてもらっちゃ困るわよ」
プラズマリボルバーを抜いたラジエルがディアブロ改を撃ち足止めを心見る。
『お返しをさせていただきます。私は多数が相手でも引くわけにはいかないんです。由稀さんの騎士であるために!』
時間差と多方面からのそろった連携を繰り出してくる真戦組相手に<強化型SES増幅装置『ブラックハーツ』>を起動させた<フォトニック・クラスター>を放った。
全弾を使った攻撃で6機を押し返すと二人は一度距離をあける。
「イルは無茶しないでよ、先にやられたらあたしが困るわ。イルは支援と索敵に集中することいいわね?」
『はい‥‥了解です』
由稀はイリアスを気遣いながらとにかく次の狙撃場所の確保を目指すのだった。
●青と朱と
戦場が乱戦になっていく中、剣一郎は2機のワイバーンmk2を見据える。
チームの勝利も大事だが、個人として勝負を心行くまで楽しむ事を剣一郎は考えていた。
「そちらも改修済みか。相手にとって不足なし、いざ尋常に勝負と行こう!」
『ボクで勝負出来そうなのはパワーと耐久性‥‥何とかそれを活かすっ! ボクと南十字は赤のワイバーンを確保するにゃから、青い方をよろしくにゃ』
『あの‥‥僕は南十星だから〜』
戦場を高速で駆ける獣に向かって3機が動いた。
交差して互いの位置を変えつつ戦場を鮮やかに走る青と朱の機体が対応するように向きを変える。
『お姉ちゃん‥‥来たね』
『いつも通り、いくよ』
二機のワイバーンは互いを見合って確認をすると左右に飛び退って距離をあけた。
「何か来るか」
口に真ツインブレイドを同時に構えると<マイクロブースト>による交差攻撃を仕掛けてくる。
「相変わらずいい動きをする」
機槍「ロンゴミニアト」で受け流した剣一郎は背後を狙って青いワイバーンmk2へシュテルンG『流星皇』を突撃させた。
<PBMオフェンスコンボ>を起動させ、ラッシュを仕掛ける。
回避しようにも追いつかれる攻撃に急所をはずしはするものの青いワイバーンmk2の装甲を貫いた。
『ブラウ‥‥』
「キミの相手はボクにゃー」
分断に成功したところで、ブーストと<剛装アクチュエータ『インベイジョン』B>を発動し踏み込み速度を上げて20mmバルカンの雨を見舞った。
隠し武装をいくつか持ち合わせた白虎のビーストソウル改『タイガーヴァリアント』は相手の注意を退くことと関節部を狙っての緻密ともややセコイともいえる攻撃で追いこもうとする。
『白虎さんを援護するんだ』
南十星が高分子レーザー砲を撃って白虎の攻撃を援護した。
だが、マイクロブーストで加速しきっているツィノーバのワイバーンmk2はそれらの攻撃をことごとく交わして距離をとりつつもショルダーキャノンを撃ちこんで牽制をした。
『まだ動き、ゆるい』
『でしたら、こちらを受け取ってください』
距離をとり着地する瞬間を狙ったかのようにクラークのシラヌイS型『ファルケ・リッター』がスラスターライフルとプラズマライフルの二段攻撃にファランクス・アテナイを組み込んだ自動攻撃を織り交ぜて叩き込む。
爆発音が幾つも響き煙に赤いワイバーンmk2が包まれた。
●激突、浪漫VS浪漫
30mの巨大なロボットに10m前後のロボットが集まる姿はアニメのような光景である。
巨大な剣を振り回す、原色塗装のグランエミターはかなり目立つ存在だ。
だが、その性能も現行のKVよりも高くカスタマイズされた物とも引けをとらない。
3人のパイロットがそろっていればの話だが‥‥。
「いくぞ、タケ! ウメ!」
『おっけー、アニキ』
『わかったよ、にぃちゃん!』
実家が酒屋の松竹梅3兄弟は息のあった操作でそのグランエミターを使いこなしていた。
『螺旋の王に私はなる!』
脚爪「シリウス」のブースターで加速させた勢いをもったまま、ツインドリルを回す飛熊がグランエミターを狙う。
「シールド展開! イクシードコーティングフルパワー!」
可動式のシールドとイクシードコーティングを張ってグランエミターは飛熊の一撃を食い止めた。
『おっと、後ろがお留守だ。斬り裂け! 雪村ぁぁっ!』
そのとき、背後に回りこんでいた直人が試作練剣「雪村」を<ブラックハーツ>を起動させた最大出力で放つ。
『にいちゃん、今のでSESエンジン一機やられたよ!』
「わかった、こいつらを振り払うぞ」
動力を担当しているウメの悲痛な声にマツは落ち着くように諭し持っている巨大剣を横に凪いでシロウと直人を弾き飛ばした。
『援護にはいりますよ。チョワーッ!』
チタンロッドをもった孫悟空の腕が<如意金箍棒システム>で延ばされてグランエミターへ叩き込まれる。
『今持ちうる全ての力でいくよ!』
<超伝導アクチュエータ>で加速した影狼がグランエミターの懐へと飛び込んだ。
ジェットエッジが鋭い貫き手を当てて、反動で裏へ回り込み足払いを仕掛ける。
グランエミターが多方面から攻撃に膝を突いた。
『アニキ、囲まれてきているぜ』
「いわれなくてもわかっているさ。これが本当の戦争を味わっている人達ってわけだ」
管制制御をしているタケに冷や汗を少し垂らしたマツは傭兵の実力の高さを感じる。
それと共に興奮が体中から沸き起こってきた。
「まずは確実に倒していくぞ、ブースト展開! いっけぇぇぇっ! 断ッがいっ、れぇぇぇざっぁぁぁっ!」
グランエミターを加速させて距離をとるとマツは胸部の三連装レーザーキャノンを影狼とに向かって撃ち出す。
直撃しそうになるところへアクティヴアーマーを強化したリヴァイサン『レプンカムイ』が体当たりをして射線をずらした。
『おっと、ごめ〜んよ。確かに楽はしたいけど、とどめをさされるのは面白くないからね』
『これで、トドメとさせてもらおう、魂ぃぃいい!! KUMA・ドリル・ブゥレイクゥゥウウ!!!』
ブレイクドリルをリロードした飛熊がキュィィィィンと激しく回転音を唸らせながらバランスを崩したグランエミターの胴体を貫く。
「くそ‥‥ここまでか」
『GameOver』と表示された画面を眺めたマツはそのまま外にでて試合の行く末を見守ることにした。
●弟子と師匠と
「磨理那、一騎打ちを申し込みやがるです」
マイスター組に撃墜機が増えてくるが、傭兵達も満身創痍の戦いをしている。
勝負はまだどちらに転ぶか分からない状況下でシーヴは名指しで戦いを挑んだ。
『うむ、やってやるのじゃ。皆のものこればかりは手を出さないで欲しいのじゃ』
『手伝いはしないけど、応援はさせてもらうわ。京の統治者の力、見せつけてやりなさいなっ』
磨理那の制止にエリザらは頷き、シュブニグラスは<練成強化>の支援を飛ばす。
『では、残りはこちらの相手をしてもらおうか』
蓮夢が間髪いれずにスラスターライフルをばら撒いて引き寄せていった。
「では、いざ尋常に」
シーヴは見た目だけ岩龍改ともいわれる『鋼龍』に練剣「白雪」をもたせて構える。
『勝負じゃ!』
磨理那も超機械式の扇と盾扇を持って、勝負に掛かった。
一般人であってもゲームの上では傭兵と戦えるのがVMの魅力である。
ブーストを使用した鋼龍が小さなジングウ装備の磨理那と同じ速度でぶつかり合った。
「狙いはいいでやがるです‥‥磨理那も結構ゲーマーでやがるですか」
KVの操縦は慣れているシーヴではあったが、小さなAU−VVによる足元への撹乱攻撃に苦戦する。
「だけど、あまいです‥‥」
バーニアを噴かして飛び上がって距離をとりながら着地すると交差するように斬り結んだ。
「勝負あったです‥‥中々やりあがるですね磨理那」
磨理那の戦闘不能を確認したシーヴは右足の関節が砕けて移動が困難になる。
「次はもっとちゃんと勝つです」
やられたのだが、シーヴは達成感のある微笑みを浮かべていた。
一方、シンも押しかけ弟子の仁宇と一騎打ちをしている。
「どうした、デカイ相手だからって遠慮していちゃ被害を出すことはできないぞ」
飛びついてきた仁宇のジングウを盾で振り払い、シンは様子を伺った。
言葉ではいうものの動きなどは以前に稽古したときよりも良くなっている。
努力家なところは相変わらずだと思わず口元が緩んだ。
「攻撃が終わったなら、反撃させてもらう」
牽制用のMSIハンドマシンガンで仁宇の撃つがフェンサーらしい素早いステップで仁宇は銃弾をかわしきる。
『このままでは疲労で負けてしまう‥‥勝負をかけますぞ』
刀を構えたジングウがスカート状のスラスターを吹かせて間合いを詰めた。
「ワンパターンだな」
たてを構えてガードしようとしたシンは足元を潜り抜けた仁宇に気をとられる。
足を踏み込んでブレーキをかけながら<迅雷>で強引に機動を変えた仁宇が背後のブースターを切り裂いた。
『一太刀‥‥頂ましたぞ、師匠』
「やってくれたな、今のはいい攻撃だった」
シンは被害の数値を見ながら楽しく笑う。
面倒だったが、参加した価値はあった。
●決着
『これでラストだ‥‥勝負は貰ったぞ』
流星皇の練剣「白雪」が青いワイバーンmk2を斬り裂くと勝負はつく。
コンボシステムを使いきるほど苦戦した相手だったが、それだけに負傷も大きようだ。
「こっちも勝負を賭けるにゃー!」
機剣「レーヴァテイン」を<インベイジョンA>を起動させて炸薬によるブースト加速をツィノーバへと叩き込む。
南十星とクラークが射撃による足止めを行ってくれたが故に可能なことだった。
『被弾がきつい、残念』
最後の言葉を残すとツィノーバも戦線を離脱する。
『ヤクトハウンドと決着がついたのなら‥‥こちらの決着もつけましょうか?』
クラーク機がプラズマライフルの銃口を白虎に向けながら声をかけてきた。
一瞬、きょとんとなった白虎だがすぐさまニヤリと口元を歪める。
「しっ闘士として久しぶりに対決にゃー。南十字も手伝うにゃ」
『‥‥もういいです、最後までお付き合いしますよ〜』
どこか諦めた様子で南十字は答えて白虎のクラークとの対決を支援しだした。
「グランエミターは大人気だったようですね。さて、こちらもどうにかしないと」
ファイナはナックル・フットコートβで米本のアヌビス(真)黄泉とスパーリングをするように戦いを続けていた。
互いに性能が近い機体コンセプトの改良が施されているため、勝負は一進一退となる。
『むむ、中々勝負がつきませんなぁ‥‥このまま牽制しあうのも楽しいですが、時間切れで引き分けは惜しいです』
両手に双機刀を持ち、腕に機杭とマシンガンを装着した黄泉から米田のどこかのほほんとした声が発せられた。
「同意です。決着をつけましょうか」
クスリとファイナは笑ってスラスターライフルをばら撒きブーストを使って残像と共に間合いを取る。
『逃しはしませんよぉ』
黄泉宇が同じくブーストを使って間合いを詰めた。
そのままの加速を持って双機刀による二段斬撃をホワイトナイトに繰り出す。
機盾「リコポリス」の回避制御ブースターが火を噴いてその攻撃を寸前でかわしスラスターライフルで撃ち抜いた。
被弾をした黄泉だが、その勢いに負けず策をめぐらす。
<ラージフレア『幻魔炎』>を展開し、周囲の空間をゆがめた。
「これは‥‥」
あたかも黄泉が分身しているかのような効果処理にファイナが一瞬たじろいだ。
その隙を突いて黄泉が<フレキシブルモーション「神天速」>を起動し機杭「エグツ・タルディ」をどてっぱらに叩き込む。
「しまった!」
『フィニッシュですよ』
ファイナは米本の声と共に煌く二本の刃を最後に戦闘不能へとなるのだった。
終盤に差し掛かり、グランエミターと戦闘をしていたメンバーはそのまま対決を続けている。
『勝負だよ!』
「ゲームだから本気をださないからね〜」
グランエミターとの戦いで被害を受けていたシロウ機は直人達第四勢力の協力組にやれてしまったためオルカは口で余裕な発言をするものの内心あせる。
敵の方が数は多く、リヴァイアサン1機ではきつかった。
マイスター側の戦力も少なく、乱戦に持っていくのも厳しい。
とりあえず、明菜との一騎打ちに近い状況に持って行きながら逃げ延びるのが一番だとオルカは考えた。
ヘビーガドリング砲を放ちながらオルカは孫悟空を狙う。
『うわ、オルカの機体硬い!』
チタンロッドで殴っていた明菜がすぐさまミサイルを撃ちながら距離をあけた。
「どーすこーいっ!」
グランエミターすらも吹き飛ばしたタックルをオルカは明菜に当ててマウントポジションを取る。
『それ以上はやらせないよ』
超電磁マニピュレーターの放電で影狼がオルカの攻撃を妨害してきた。
「ああ、もう、たまんないなっ!」
電撃による攻撃に苛立つようにしてオルカは練鎌「リビティナ」を起動させて振り払うように凪ぐ。
『遅れました援護しますよ』
ハーモニーがタイミングよう表れ、ピアッシングキャノンによる支援を続けた。
「ナイス〜。それじゃあフィニッシュ!」
孫悟空の頭部へリビティナの光刃を刻み込むとオルカは離れる。
『あ〜ん、負けちゃったよ〜』
悔しそうな明菜の声を聞きながらオルカはハーモニーと共に撤退戦術へと切り替えるのだった。
●終結
『この一撃を受けてくださいなまし』
<竜の翼>で機体の側面へ動いてきたエリザが竜斬斧「ベオウルフ」を使った大きな一撃をブルーブレイカーへ見舞う。
「ふう、危ない危ない。気を抜けば落とされる‥‥か、嫌いじゃないぜ。そういうの」
セージは確実に弱点をついてくる攻撃に避けながらも全神経を周囲に張り巡らせた。
『ごめんね。ここに辿り付いた時点で‥‥決着よ!』
「銀さん、それはないってのっ!」
機械拳「クルセイド」でコックピットを集中的に狙ってくる銀子へソードウィングを構えながら回転し、竜巻のようなトリプルアクセルカウンターを返す。
『今、天上宮へと誘わん』
ソーニャがセージの足へ<竜の咆哮>を叩きこんでバランスを崩させた。
3倍近い体格さがあっても、ゲームらしい演出による補正が乗っかっている。
そのまま大鎌「ハーメルン」をふるって追撃によるダメージを与えていった。
「数が多いな‥‥こうも囲まれるとやりづらい」
『エリザさん! 銀子さん! そちらへ飛ばしますよ!』
御剣がさらにBBを<竜の咆哮>で弾き飛ばしてコンビネーションを叩き込む。
「いい加減に、しろよなっ!」
<PRMシステム・改>で命中を高めたセージがスラスターライフルを使って弾幕を張った。
<竜の翼>や<竜の咆哮>による練力を消耗した御剣やソーニャは弾幕を避けることが出来ず防御にでてしまう。
そこへ間髪いれずにショルダーキャノンが撃ち込まれて二人をリタイアさせた。
だが、それを犠牲にしてでもエリザと銀子はBBの足関節を狙った最後の攻撃を繰り出す。
両足の関節がレッドゾーンをしめして砕けた表示がでるとBBは移動不能となった。
「しまった‥‥食い物の恨みって恐ろしいな‥‥」
セージはAU−VV二機の連携に恐ろしさを感じてあきらめたような声を出す。
しかし、銀子とエリザもこの後、練力の限界使用により敗北を記してしまうのだった‥‥。
●夢と現実
ドリームパレス京都支店はテニスなどの屋内スポーツのできるエリアもある施設のため、シャワールームが完備されていた。
たかがゲーム、されどゲームといえども汗はかくわけで武神祭り終了後、女性陣はこぞってシャワールームに入っている。
「AU−KVって無骨なのが多いからジングウが制式採用されると嬉しいんだけどなー」
「あっ、ボクも思ったんだ。採用されて欲しいよね、これ」
一緒に浴びている御剣もソーニャに同意をしめす。
「採用は無いようじゃの、変形機構をなくしているようじゃしあくまでも『げーむでーた』上のものらしいからの。筐体の中でKVと同じように動かしておるからの。今回のも『てすとぷれい』の趣が強かったようなのじゃ」
同じくシャワーを浴びている磨理那が二人の話を聞いていたので答えた。
もちろん、企画発端者であるためある程度の事情は把握済みでもある。
「なるほどね〜。残念だけどKV相手に戦えて面白かったな‥‥ところで、磨理那ちゃんは結婚するんだってね。人妻だね。それってただ一緒にいるのと違うの、どんな気持ち? 気持ちいい?」
「妾の場合は京都のこともあってのことじゃからの。実感はわかぬが渡辺殿はよい男じゃの」
ソーニャが何気ない‥‥しかし、直球ど真ん中ストレートのキツイ球を投げるが磨理那は普通に答えた。
「今日こられておったかどうかまだ確認していませぬが、試合を見ていたらよいですね、磨理那殿」
「余りよい試合とは言い切れないのじゃ。顔を合わせづらいのじゃが、仕方ないかの」
仁宇からいわれて磨理那はふぅとため息を漏らす。
「大丈夫だよ。うん、きっと大丈夫!」
ため息をついた磨理那を御剣は元気になるよう声をかけるのだった。
●サプライズを君に
「磨理那さん、こっちですよ〜」
「何じゃ南十字」
「僕は南十星ですからね‥‥」
本日何度目になるのかカウントすらしたくない訂正をしながら南十星は磨理那の手を引いて屋上の駐車場へと出る。
扉をあけると、日の落ちた暗い駐車場で光りが幾つも走っていた。
「磨理那ちゃんにゃー。こっちにゃ〜なんかかっこいいおにいさんも一緒にゃよ?」
白虎が手を招くと、そこではブラウとツィノーバのゴスロリ姉妹が線香花火を楽しそうに眺めている。
小さな少年少女に混じってクラークや、直人も花火を楽しんでいた。
その中に一際目立つガッシリしたスーツの男がいる。
「む、鋼殿‥‥」
「お久しぶりです。貸し切りということでしたが、マイスターの方でこっそり参加させていただきましたよ」
意外な言葉にあんぐりと口を開けて磨理那は驚いた。
「磨理那さんにはお世話になっている者よ」
磨理那のリアクションにキュンとしつつもシュブニグラスが鋼に挨拶をする。
「こっちにきて一緒に花火をするです」
「そうだよ〜、南十字も一緒に女の子同士で遊ぼうよ」
シュブニグラスが鋼に挨拶していると、シーヴと明菜が磨理那と南十字を呼んで白虎の花火セットに火をつけて遊びだした。
「うむ、参るのじゃ‥‥すまぬの、鋼殿」
ぺこりとお辞儀をした磨理那は逃げるような早足で去っていく。
「来月結納というのに嫌われていますかね?」
「照れているのよ。ああ‥‥平良さんのああいう姿ものすごく萌えるわ」
無邪気に遊ぶ磨理那を眺めるシュブニグラスと鋼の顔は笑っていた。
少し離れたところでは由稀とイリアスが星空を眺めながら静かに風を浴びている。
「今日はお疲れ様、助かったわ。イル」
「いえ、由稀さんと一緒に遊べただけでも十分楽しめました」
「あ、そちらにいたんですね。僕が真戦組の近藤ユウです。こっちが斉藤一輝です」
二人が談笑しているところへ小柄で少女とも見える男性と背が高く厳つい男が近づいてきた。
「今日はありがとうございました。苦戦したのは久しぶりで楽しく遊べてよかったですよ。次はもっと完璧に勝負をしますよ」
にこぱという表現の似合う笑顔を浮かべて近藤は由稀に手を差し出す。
「分かったわ、あたしも次はイルの世話にならないような試合をさせてもらうわよ」
由稀もしっかりと握手に答えた。
「よう、押しかけ弟子」
「師匠! 今日はありがとうございました。まだまだ未熟な仁宇に付き合っていただき、恐悦至極にありますぞ」
シンが磨理那の様子を眺める仁宇へと声をかけると、堅苦しくも力強い返事が返ってくる。
そんな仁宇にジュースでも渡すかのようにシンが水晶の指輪を投げ渡した。
「し、師匠!?」
「良く出来たご褒美だ」
「ゆ、指輪というのはその‥‥あの‥‥」
いきなりのことに仁宇は顔を真っ赤にして驚き、慌てふためくがシンの方は涼しい顔でコーヒーを飲みなおす。
「みなさん、記念撮影を取りましょう」
「ほらほら、寄った寄った。全員一枚にいれるからな」
クラークと直人が人を集めて撮影の準備をしはじめた。
離れて様子を見ていた人たちも一同に集まってポーズをとる。
能力者や一般人の垣根を越えた戦友達の記念すべき一枚が記録された。