タイトル:【AA】幽霊船マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/26 09:43

●オープニング本文


「アフリカ、‥‥か」
 ピエトロ・バリウス中将は地図を見ながら独言した。かの地を攻めると言うのは容易い。しかし、その為には幾つかの準備が必要だった。部隊は整いつつある。あと必要な物といえば。
「情報か」
 UPCが叩き出されてから、10年。長きにわたり、バグアに支配されてきたアフリカの情報は余りにも少ない。ゲリラがいるとも言われるが、連絡は取ることが困難だった。
「私の知るかつてのアフリカとは、もう違う土地やもしれん。立案に際して不安が無い、とは言わないがな」
 狙いが奇襲である以上、軽々しい調査でこちらの狙いを知られる事も、慎まねばならない。ピエトロは作戦直前になって初めて、現地の強行偵察を指示した。その結果如何で、北アフリカの一部を占拠するのみに止めるか、内陸まで踏み込むかを彼は決めるつもりだった。
「その為には、足元を固める事も必要だな。無論」
 PN作戦が集結して2年が経つが、いまだに地中海沿岸部では、キメラは珍しい物ではない。時には、ワームすら現れる事がある。点在するバグアの残存戦力は、一部は拠点を擁して立て篭もり、それ以外の多くは巧妙に潜伏していた。それらを可能な限り排除する事が必要なのは言うまでも無い。
「そして、ミカエル」
 トゥーロン沖に座す、彼の切り札はバグアの目にも留まっているだろう。敵の情報は速やかに収集し、こちらの情報は保持する。都合の良い、と笑われそうな事が今回の作戦には必要だった。
「‥‥傭兵には恨まれるだろうな。だが、連中ならばできるはずだ」
 クク、と彼は珍しく笑う。その困難のいずれにも、ラストホープの傭兵達が当てられていたのは、彼の指示による物だった。

〜The Gost Ship〜
 エーゲ海の夜。
 地中海は比較的温かい気候をしているため、夜でも冷えすぎるということはない。
 これから北半球は夏を迎えるためどちらかといえば暑くなっていくことは確実だった。
「6時異常なし!」
「12時異常なし!」
 大規模作戦【アークエンジェル】のために地中海の戦力を叩くために出動しているUPC軍の戦艦の一つでは今日も巡回任務が行われている。
 SESを搭載した砲門を持つ戦艦であればワーム達と戦うことも不可能ではないのだ。
「艦長、現在のところ異常ありません!」
「そのまま警戒を続けよ、敵はいつどこからくるかわからないのだぞ?」
 副官からの報告を受けた艦長は緊張した面持ちで答えると、視線を海へと向ける。
 月を写す海はいつもと変わらないのだが、心の奥底から湧いてくる不安が何なのか艦長には分かりかねていた。
「10時の方向より友軍艦と思われる信号を確認しました‥‥しかし、これは!」
「何だというんだ!」
 狼狽に近い声をだしているオペレーターの声に苛立ちの声を艦長は返した。
「既に以前の大規模作戦で大破している艦です! 中からテンタクルスを多数確認、こちらに向かってきています!」
「幽霊船とでもいうのか‥‥総員第一種戦闘態勢! 輸送中の傭兵にも声をかけて出撃させろ! 面舵一杯、距離をとれ! 対戦魚雷も用意しろ!」
 艦長はマシンガンのように命令を下し、突如現れた友軍艦を警戒する。
 夜のエーゲ海で不気味な戦闘が始まろうとしていた。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
刃金 仁(ga3052
55歳・♂・ST
林・蘭華(ga4703
25歳・♀・BM
荒神 桜花(gb6569
24歳・♀・AA
カーディナル(gc1569
28歳・♂・EL
ガイギス(gc1907
25歳・♂・ST

●リプレイ本文

●先手必勝
 サーチライトで夜のエーゲ海が照らされ大きな影がぼぅっと浮かんだ。
「敵艦‥‥艦体より距離200の位置に確認‥‥。各自気をつけて、中から何かでているわ」
 新たな力であるグリフォンに乗った林・蘭華(ga4703)は目視で確認しながら敵との距離を測り、味方に連絡する。
 蘭華機は甲板の上に陣取り、残りはすべてエーゲ海の中へと身を沈めた。
「艦長、この辺にソナーかソノブイはあるかしら? あれば機影情報をこちらに頂戴、皆に流すわ」
『了解した。今送る』
 ブリッジから送られたデータを見ると戦艦から敵影が小さな物が20、KVくらいのものが4つ確認される。
「キメラらしきものが20、KVらしきものが4、真っ直ぐこちらに向かっているわ」
『水中戦闘は初めてやけど、まぁ がんばるわ。ほな よろしゅうにな』
 荒神 桜花(gb6569)が準備が完了したとばかりに通信をよこしてきた。
『こちらカーディナル(gc1569)‥‥偽装船や鹵獲KVを使ってくるなんて許せないな、死んでもしに切れないだろうから成仏させてやろうぜ』
『キメラとは初めてですがまあやれるだけやってみましょう』
 ガイギス(gc1907)はKVを使った暴走ロボット処理、メガロワームとよばれるサメ型ワームの排除と平行した護衛依頼をやっていたがキメラとは初めてである。
「大丈夫、キメラは油断さえしなければKVの相手じゃないわ。だから、しっかりとね。まずは先手を取るわよ」
 蘭華がカイギスを安心させるような言葉をかけると攻撃の合図をだした。
 水中にいるKV達が一斉に各々の魚雷を用意して発射する。
 グリフォンのアイカメラ越しでも分かるほどの細長い白い線が何本も尾を引きながら敵戦艦のほうへ向かっていき破裂した。
 爆竹のように連続ではじけるも、その音は水柱を立てるほどに大きな物となる。
「敵機は尚も接近中‥‥キメラが盾になったのかもしれないわね。邪魔な」
 蘭華は舌うちをしながら、様子を通達し次の作戦を指示した。
「KVへのBFへの突撃班とキメラの対処班で分けるわ。足の遅いテンタクルスはこのまま防衛、残りは敵本体の迎撃を頼むわ」
『『『了解』』』
 返事と共に水中のKV達が別れていく。
 夜の静かなエーゲ海は嵐が訪れたように荒れ始めていた。
 
●難攻不落
 能力者達の魚雷やホーミングミサイルなどの先制攻撃から水中の戦いは始まる。
 2mくらい大きさの生き物が浮遊する機雷のように漂って迫ってきていた。
 それらを盾にするように4機の人型が水中用ガウスガンを構えて発射してくる。
 暗い海に青いカラーの人型と半透明のキメラの組み合わせは目視を困難にしていたが、上を走るサーチライトが影を作り敵の姿を浮かびあがらせた。
 イカともクラゲとも言いがたいキメラとテンタクルスである。
「鹵獲機をコレ以上弄ばれてたまるか! 二度とバグアに使われることないよう、海の底で眠りたまえ!」
 過去の自分の愛機を奪われ、さらにバグアの兵器として使われたドクター・ウェスト(ga0241)はいつになく興奮していた。
 バグアへの憎しみ表す眼球の光りを強くさせながら操縦桿を握ってリヴァイアサンを動かす。
 水中での高機動戦闘用に調整されたリヴァイアサンはテンタクルスの水中用ガウスガンをかわしながら水中用アサルトライフルでの反撃を行った。
 テンタクルスの前に漂うキメラを盾にテンタクルスは銃弾を回避するが、その盾もガウスガンを撃ちながら近づいた藤田あやこ(ga0204)のビーストソウルが高分子レーザークローで斬り裂く。
『キメラを盾にじりじり近づく作戦よ!』
 盾にして隠れさせないようにあやこ機がブーストでの加速を維持しながら次の敵へ水中用のスナイパーライフルD−06を放った。
『言いたいことは分かるが、闇雲に突っ込むだけではいかんぞ?』
 刃金 仁(ga3052)の声と共にM−042小型魚雷ポッドを撃ち出され、盾を失ったテンタクルスが25発の魚雷にその装甲を潰される。
 そのまま水中用ガウスガンに装備を交換した仁のリヴァイアサンが続けざまに叩き込んで一機を落とした。
『テンタクルス、使われたのは不幸だが静かに眠れよ』
 静かな仁の声だが、そこには底知れぬ怒りを帯びている。
「鹵獲機を使う物は許せん! 徹底的に潰す!」
 あやこ機に追随するようにドクターもキメラを水中用太刀「氷雨」と高分子レーザークローの二段攻撃で潰した。
 クラゲのような表面は物理よりも非物理の方が通りがいいようではある。
『いつまでも人類の希望であるKVをオモチャにされたままと言うのも業腹だしな。速やかに鹵獲機は海の藻屑としてやらねばなるまい』
 ドクターの怒りに呼応して榊 兵衛(ga0388)のリヴァイアサン【興覇】がガウスガンの攻撃で弱らせたテンタクルスに向かって近づき<エンヴィー・クロック>と<システム・インヴィア>を機動させた全力の一撃を見舞った。
 水中機槍斧「ベヒモス」がさらに一機のテンタクルスを海の藻屑へと変えた。
「残りは2機。このまま潰してまずはキメラを倒すのだ〜」
 ドクターはさらに目を光らせて獲物を睨みつけて機体を動かす。
 4人のベテラン達はキメラもろともテンタクルス達を蹴散らして行くのだった。
 
●疾風怒涛
 4機のベテランがテンタクルスと周辺のキメラと戦っている間に撃ちもらしたキメラ達はUPCの戦艦に向かって近づいてくる。
 距離100mを越えたところで甲板にいた蘭華のグリフォンが海上に着水し、キメラへの警戒を強めた。
『これ以降は海面に降りて戦闘を行うわ‥‥援護の回数に限りあるから、要請だけお願いね』
「了解! さぁて、守るばっかりが、防衛じゃねぇんだ‥‥ぜっ!」
 蘭華からの通信に答えながら、カーディナルは警戒していた死角へ漂ってきたクラーケンキメラに向かってブーストで迫る。
 マルス・リッターと名づけたネイビーブルーを基調に、随所にエメラルドグリーンの塗装が施されたテンタクルスはM−25水中用アサルトライフルをばら撒きキメラの侵攻を遅らせた。
『援護します。キメラの数はまだ半分もいっていません。確実に潰していきましょう‥‥このイカがっ!』
 カーディナルの動きを見ていたガイギス機がツインジャイロを使ってクラーケンキメラの胴体に穴を空ける。
 しぼんでいくキメラにM−25アサルトライフルを叩き込んで潰すと近くの敵へカーディナルと共に向かった。
「蘭華! 少し離れるから正面の敵へ援護よろしく頼むぜ!」
 ゆっくりとだが、迫ってくるキメラにカーディナルが蘭華に援護を頼む。
 <着水攻撃>で一度潜水したグリフォンが水中用ホールディングミサイルを撃った。
『蛸か烏賊は知らんけんど、戦闘艦には近づけさせへんで』
 ホールディングミサイルは回避されるものの、そこを狙った桜花機の多連装魚雷「エキドナ」が直撃し弱らせる。
 続けて桜花が残ったエキドナを全部放ち、包囲しようとしているキメラ達の足を止めた。
『巡洋艦の諸君もがんばりたまえ〜』
 ドクターの声と共に巡洋艦の甲板に設置されたアスロック・ランチャーが吼える。
 飛び出した魚雷が着水しながら沈み、ジャイロジェットへと切り替わって加速した。
 爆発が起きて、水柱が立つ。
『鹵獲機を片付けててくれた人達が戻ってきたようですね』
 数の多さに困りだしていたガイギスが安堵の息と共に凱旋してくるリヴァイアサンとビーストソウルを迎えた。

 一瞬の隙が戦場では命取りになる。
 生身で泳ぐのでも感覚が違うように、KVの操縦でも空とは違う感覚に迷った桜花のテンタクルスが近づいていたキメラにその体を捕らえられた。
「水中での回避運動がこうも難しいとは、空や陸の様に直ぐに反応しよらんで、こなくそ」
 桜花は操縦桿を動かして振りほどこうとするがギリギリと締め付けてくるキメラによって動きが封じられる。
 困っている桜花を助けるように仁機とカーディナル機が援護にやってきた。
 仁のリヴァイアサンはシャープな潜行形態で近づいたかと思うと変形し、得物を取り出す。
『よし、蹴散らすぞ。一片足りと近づけはせん』
『インファイトは奴らの十八番だ。気ぃ付けろよ!』
 スクリュードライバーと呼ばれるマイナスドライバー型の武器でクラーケンキメラの胴体を貫こうとする仁機をカーディナルがアサルトライフルを放って援護射撃をする。
 連携が整いはじめると共に数の多さゆえに勝っていたキメラ達が一体、また一体と消えていく。
「さっきのお返し、させてもらうで」
 桜花は自機各部の損傷に異常がないことを確認すると残った敵をつぶさんとガウスガンを撃ち続けた。
 ガウスガンが撃ちこまれ動きの止まったキメラへさらにあやこ機からスナイパーライフルD−06が撃たれてトドメをさす。
『これで一通り片付いたようだな』
「ザコはやね? まだ、本星がいきとるで」
 桜花が仁の言葉に静かに答えた。
 偽装船は未だ距離を変えずにこちらの様子をただ伺っている‥‥。

●一点突破
 様子を伺っていた偽装船が動き出す前に兵衛は潜行形態で興覇を加速させて迫った。
 リヴァイアサンでありながら朱色の武者鎧を着たように見える興覇は夜空に流れる流星のようにも見える。
「ようやく動き出したが、逃げるかどうかはわからんがここで落としておけば、後々楽になるからな。墜ちて貰う」
 変形をした興覇がべヒモスを船体に叩きつけた。
 フォースフィールドが一瞬発動するが、打ち砕かれて装甲に亀裂が入る。
 一瞬で懐に飛び込まれた偽装艦だが、一撃で沈むことはなく、さらには全身をフォースフィールドでコーティングすると興覇に向かって体当たりを仕掛けてきた。
「くっ! これくらいの攻撃当たるわけには‥‥いや、しまった!」
 自らに向けられた攻撃と思い、避けたがそのため戦艦への接近を許してしまう。
 フォースフィールドを身にまとって弾頭のようにして進む戦艦が勢い良く間合いを詰めた。
『援護します、注意してください』
『ふふ、偽装するはKVを使うわ腹の立つヤツだ‥‥逃げる気がないなら、沈めてやるぞ』
『再び一斉発射だ〜』
 兵衛が悔やんでいたときには既に迎撃体制が整えられており、フォースフィールドをはっての体当たりが落ち着いた頃を狙って魚雷やホーミングミサイル、対潜ミサイルなどが残っているものたちが一斉に偽装艦に向かって放つ。
 何本もの白い尾を引く矢が偽装艦にぶつかり爆ぜた。
 ガラガラと装甲が砕けて崩れる音が響くが、中から出てきたのはバグアの輸送戦艦ビッグフィッシュである。
 生物的なフォルムの装甲が開くとプロトン砲の砲門が現れて砲撃を行ってきた。
 サーチライトとは比べ物にならない眩い光りが線を引いて巡洋艦の甲板をなぞる。
 回避はできた物の次を受ければ沈むことは確実である。
「姿を現したか、だが逃すわけにな!」
 追いかけてきた兵衛が再び<エンヴィークロック>と<システム・インヴィア>を起動させてべヒモスの大きな一撃を背後から叩き込んだ。
 グシャリと直接装甲が抉れて火を噴出す。
 窮地を感じたのかそのままビッグフィッシュは海上へと浮上を始めた。
『逃がしゃしねぇぞオラァッ!』
 カーディナルが残りの魚雷全てを放つが当たったのは一発のみであり、ビッグフィッシュの浮上は止まらない。
 空中へ上がり撤退しようとしたところへ巡洋艦の砲撃と一つの機影が飛び込んでいった。
『悪いわね‥‥垂直離着陸機が無いから追撃の心配はないとでも思った?』
 蘭華のグリフォンは逃げることを予測して海面を滑走路代わりに飛び上がっていたのである。
 言葉がいい終わらないうちに兵衛の傷つけた箇所に向かって放電ミサイル「グランツ」を撃てるだけ撃ち込みビッグフィッシュを破壊した。
 空中で炎の玉となり、残骸を落としていくビッグフィッシュは偽装されて味方と戦わされたUPC軍兵士達への弔いの火のように見える。
『敵機沈黙、周囲に反応なし』
 巡洋艦のオペレーターからの声が響き、作戦終了が言い渡された。
 
「ふう‥‥鹵獲とか偽装とか色々相手もやってくるんですね」
 息をつき、シートに体重を預けながらガイギスは息をつく。
 キメラとのはじめての戦闘‥‥KVを使ったことは何度もあったが、まだ少してが震えていた。
 北アフリカの大きな侵攻作戦に敵もいろいろな手を講じてきている。
 今回の経験はきっとこれからの戦いへの糧となるだろう。
「こちらガイギス、これより帰還します‥‥眠い、ゆっくり寝たいぜ」
 しかし、今ガイギスが取りたいのは少しの休養だった。