タイトル:バイトをしよう〜中華〜マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/19 21:29

●オープニング本文


 12月に吹いた希望の風。
 俺にも予想できなかったその風は、大きな力となっていた。
 
 
「次のメールは‥‥なんと、能力者さんに向けてのメッセージのようです」

『は〜い、ライディちゃん、能力者の皆さんはじめまして
 
 今月から、ラスト・ホープで支店を出すことになったラジオネーム、蓮華でっす
 
 この島ははじめてで、また能力者さんに向けたメニューというのが思いつかなくて困ってます
 
 ラジオを聴いている能力者の皆さん、ライディちゃん。うちにきて助けてくれませんか?
 
 オープンイベントのスタッフそのままやってくれると蓮華、嬉しいです♪
 
 美しい私が、美味しい料理と共にお待ちしています
 
 RN:蓮華』

「とのことです。すごく女性らしい綺麗な便箋で送られてきました。興味のあられる方は一緒にいきましょう♪」
 
 
 今思えばすごく後悔している。
 後悔しても仕方ないんだけどさ‥‥。
 そして、打ち合わせ通り、蓮華さんに会いにいった訳だ。
「あら〜、どちらさまぁ〜♪」
 凛々亭という名前の蓮華さんの店の中から、ちょっと声質の低くも明るい声が聞こえてきた。
「あのー、ライディ・王です」
 恐る恐る店の中を覗くと、チャイナドレスを着た綺麗な足をした人物がいた。
「あ〜、貴方がライディちゃんね。『RN:蓮華』よン」
 投げキッスをしたその人は、足が綺麗で、背が高くて、化粧の綺麗な『男の人』だった。
「だ、騙された‥‥」
 思わず、俺は打ちひしがれた。
「人聞き悪いわねン。本名は凛華・フェルディオよン♪ 能力者の皆さんもよろしくね〜恋人募集中♪」
 再び投げキッスをする凛華さんに、俺も能力者のみんなも「どっちだ!」と突っ込んだに違いない。
「とりあえず、新メニューと新装開店イベントを手伝ってもらうわよン♪」
 ウィンクする凛華さんに、俺は頷くしかなかった‥‥。
 頼むから、最後まで付き合って欲しい。
 オネガイシマス。

●参加者一覧

大曽根櫻(ga0005
16歳・♀・AA
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
響月 鈴華(ga0507
15歳・♀・GP
蒼羅 玲(ga1092
18歳・♀・FT
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
夏 炎西(ga4178
30歳・♂・EL
西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
中松百合子(ga4861
33歳・♀・BM

●リプレイ本文

●いっつぁ、お色直し
「や〜ん、炎西ちゃんかわいぃ〜」
「このルージュが似合うンじゃない?」
「あ、いいわ。それ」
 キャピキャピした声が、凛々亭の化粧室から聞こえてくる。
 ちなみに、どちらも声質が若干低かった。
「ほら、炎西ちゃんどう?」
 ナレイン・フェルド(ga0506)は手鏡を夏 炎西(ga4178)に向ける。
「こ、これが私です‥‥か?」
「自分に惚れちゃいそうでしょ♪ 冬でもお化粧の塗りがいいなんて若さかしらねン」
 驚く炎西にため息交じりに声をかけたのは凛々亭LH支店長の凛華・フェルディオ(♂)である。
 衣装はスリットの深いチャイナドレスという格好ではあるが、それはナレインも同じだ。
「百合子さ〜ん、女の子たちのおめかしはどう?」
 ナレインは隣の部屋で着替えている女性陣に対して声をかけた。
 一応、男としての良心らしい。
『こっちも大体は終わったわよ』
 スタイリストでもある中松百合子(ga4861)の手際により、女性陣もチャイナドレスとヘアメイクは完璧にすんでいた。
『着替えも終わりました。でも、ちょっと胸の辺りがきついです』
 大曽根櫻(ga0005)の苦笑交じりの声に、複雑な顔をする男性(?)3人。
『私とひとつしか年の差ないのに‥‥ま、負けた』
 響月 鈴華(ga0507)の落胆する声が続く。
「胸なんてのは飾りだから気にしないのン。貴方は貴方なりの魅力があるわよ♪」
 フォローとばかりに凛華が声をかけるが、よよよと泣き声が返って来た。
「みなさーん、チラシ印刷してきましたよ?」
 ライディ・王(gz0023)が裏口からチラシの束やら、機材をいくつかもって現れる。
 百合子のアイディアにより、出迎えよりは宣伝効果の高いビラ配りを綺麗な子でやろうという話になった。
「ライディさん、貴方へのご恩は返しましたよ」
 炎西はりりしく語るも、目じりに少し光るものが浮かんだようにライディには見えたという。
「それじゃ、チラシ配りにいきましょ♪」
「こ、この格好で外を‥‥」
「私は調理場の準備してくるわねン。開店はディナーからだから、よろしく〜」
 愕然とする炎西を放って、ナレインとハイタッチをすると凛華は厨房へスキップしていくのであった。
 
●新メニューを作ろう
「さ〜て、皆さんのアイディアを聞きたいわン」
 凛華が火等を準備し終えた厨房で、チャイナドレスにエプロンといった格好で尋ねた。
 一部がビラ配りに行っている間に、新メニューの作成が厨房で行われる。
「能力者は健康第一。故にスタミナ食材多量使用のメニューを我は推そう」
 リュイン・カミーユ(ga3871)はドンと構えた様相で意見を述べた。
「あの、能力者といっても女性や若い方もいますので、食べやすい一口餃子とか、‥‥杏仁豆腐とかがいいと思います」
 朧 幸乃(ga3078)はボツボツとしゃべりだす。
 ちなみに、リュインも朧も男性チャイナを着ているので、凛華とはいろんな意味で対象的だ。
 蒼羅 玲(ga1092)と西村・千佳(ga4714)は子供用のチャイナドレスを着用している。
 スリットは小さく、ズボン付きなのがどちらも残念そうだ。
「ライディお兄ちゃんの女装は見れないし、スリットのないドレスにゃし、ちょっと残念にゃ〜」
「私もチョット残念です。あ、メニューですけれど、能力者も覚醒してなければ、普通の人間ですから普通のメニューでいいと思います」
「そう? 大食い大会に来てた人たちってすっごく食べたから、それが標準だと思っちゃってたわ」
 意見を聞いていた凛華は意外な意見の出揃いに驚きを隠せない。
「あ、凛華さん。これ、鈴華さんからです」
 ステージの準備のキリがついたとき、ライディが小さな包みをさしだす。
「あらん、あ・り・が・と♪ 女装させれなくって、チョット残念だわ」
「い、いや、結構ですからっ!」
 はふぅと甘いため息をつく凛華に包みを渡すと、さっさと作業に戻っていくライディ。
「これは何かしらね〜」
 凛華が包みを解いていく。
 リュインたちもその中身が気になるのか集まった。
『新作メニューにこんなのはいかがでしょうか?』
 そんなメモ書きと共に入っていたのは『マンゴー杏仁豆腐』と名づけられた創作デザートだった。
「あら、おいしそうね」
 凛華が一口食べると、口に広がる甘さに思わず頬を押さえてしまう。
 リュインたちも食べて、各々美味しいという反応を見せた。
「凛華さん、メモまだ続いているみたいですよ」
「あら、本当ね」
『能力者だって人間だし、普通の物で十分です。ちゃんと心を込めて美味しい物ならば‥‥あ、これは鈴音作なのでごあんしんをぉぉぉぉぉっ!』
「追伸のほうが長いわね、これ‥‥でも、参考になったわ♪ 基本メニューで勝負。あとはリュインちゃんのいう激辛チャレンジメニューをいれてみるわねん」
 凛華はノースリーブではあるが、腕まくりの動作をして微笑む。
「ビラ配りから返って来た人の遅いお昼代わりにさっさと作っちゃいましょ。皆も手伝ってねン♪」
「わかったにゃ〜」
「我を唸らせる辛さで頼むぞ、店主」
「あの‥‥飴玉、買ってきますね」
 開店前の準備は進んでいく。
 ディナーの時間まであと少しであった。
 
●凛々亭にようこそ♪
 ビラ配りの効果もあり、開店は大賑わいではじまった。
「お客様、どうぞこちらへ‥‥」
「凛々亭へようこそ。どうぞいらっしゃいませー♪」
 朧や鈴華たちが接客で出迎る。
 ウェイトレスには通常のアルバイトの女性達がせわしなくテーブルと厨房を往復していた。
 裏では、百合子やナレインによって炎西やライディの舞台メイクが始まる。
「劇は普通にやりたいです‥‥」
 心の汗を目からほろりと流しながら、炎西の着替えも終了。
 舞台役者さながらの凛々しいメイクが施された。
「悪のボスだからって、ここまで業業しい格好が必要なんでしょうか‥‥」
 髪型やメイクまでロックバンドのようなものにセットされていく様がライディには不安だった。
「寸劇でもインパクトが必要なんだから♪ かっこいいわよ」
 ナレインの説得により、悩みながらも身を任せだすライディ。
「それにメイクをしたほうが、自分が変われるものよ。役になりきるためにも『仮面』をつけるのよ」
 百合子はメイクをし終え、満足そうに頷きつつライディの肩を叩いた。
「わかりました。やれるだけやってみますね。人前に出るのは苦手ですけど‥‥」
「そんなんじゃ有名パーソナリティにはなれないわよ、がんばれ男の子♪」
 ナレインはライディの背中をぽんと押して元気付けた。
(「ナレインさんも男の人なんだけど、ぜんぜんそんな感じしないんだよなぁ‥‥」)
 ライディは心の中だけで呟き、舞台のほうへ歩いていくのだった。
 
● 寸劇『激辛遊戯』〜第一部〜
「皆さん! 私の誕生日祝いに来てくれてありがとう♪ 今年こそいい人と出会えるよう頑張るから、応援してね♪」
 ステージの中央。暗くなったフロアの中で、そこだけがライトアップされていた。
 照らし出されたのはナレインである。
 髪は左右にだんごを作り紫のリボンで括り、チャイナドレスは紫を貴重にしたもので、ノースリーブタイプ。
 スリットはきわどい。
 男性とは思えない綺麗な足と、妖艶な微笑みが客席の男女を共に魅了した。
 ナレインが、ステージから降りて羽のついた豪華な扇子を翻しながら、客席に挨拶をしていく。
 そのとき、こっそりと「ご飯はここで、お茶は「Luckey Days」でね♪」と店の名刺を配っていった。
 テーブルを一通り回り終わったとき、ライトアップが消える。
 ざわめく客席。
 そして、再びライトが照らされたとき、そこにはナレインの姿はない。
 さらに、2階の回廊にライトが当たるとそこにはナレインをお姫様抱っこした炎西こと、謎の怪人の姿があった。
「この令嬢は私がいただいていく!」
「く、お嬢様を返せ!」
 リュインの声と共に、フロアの照明がつく。
 使用人としての役であるリュインが鬼気迫る表情で、炎西にステージから飛びかかかった。
 銀糸の髪が黄金色にかわり、瞳も金色に染まりあがる。
 2階の回廊まで30mはあろうかという距離を一瞬にして駆け上がり、激しい演舞が繰り出された。
 蹴りと拳、拳と拳、蹴りと蹴り。
 炎西はナレインを抱きかかえながらも、リュインの繰り出す連撃を捌いていった。
 そして、一瞬の隙をついて炎西の蹴りがリュインの腹にあたり、1階のステージの方までリュインが飛ぶ。
 そのアクションに客人の目は釘付けだった。
「ご令嬢を連れ戻したくば、私を追いかけてくるがいい。さらばっ!」
 マントを炎西が翻す。
「く、お嬢様ぁぁぁぁ!」
 リュインが叫びをあげたところで、照明が再び落ちた。
 しばらくして、ステージにライトが照らされる。
 そこにはメイド姿の千佳がいた。
「お嬢様はどこかにゃ〜」
 メイド姿の千佳がちょこまかとフロアを探し出す。
「ここかにゃ? ここにもいにゃいにゃ〜」
 そして、ステージへ戻ると玲が待ち構えていた。
「ここから先は歌を歌わなければ通しませんです」
「にゃにゃ、歌にゃら得意にゃよ〜」
 
 ♪〜

 小さな胸の中 ずっと抱えている

 一つだけの 大切な想い

 
 一生懸命頑張るあなたに

 想いをこめて頑張れ

 あなたの笑顔を見るたびに

 僕は強くなれるから


 小さな胸の中 ずっと抱えている

 たった一つの 想いがある

 あなたがくれた勇気 あなたの笑顔

 全部が大事な僕の宝物


 だから‥‥僕はあなたのために歌うよ‥‥

 小さな僕の歌を

 〜♪

 千佳の歌が終わると客席から拍手が飛んだ。
 千佳も客席に向かって一礼をする。
「すばらしい歌でした、では通しましょう〜」
 玲が道を開け、千佳は舞台袖に消えていった。

●闇の不審者
「ん‥‥あれは‥‥」
 劇が順調に進んでいる間、様子を見ていた朧の目にこそこそと動く人影が映る。
 暗闇の中ではあるが、覚醒していなくても動きは捉えた。
 ゆっくりと近づき、背後にたつと演出めいた言葉をだす。
「おやおや‥‥こんなところにも怪物の手下が‥‥可愛らしいお嬢さんを狙ったのでしょうか‥‥? 悪い方にはお帰りいただきませんとね‥‥」
「いや、俺はちかたんのサインが‥‥」
 うろたえる男の手にはサイン色紙にカメラを携えていた。
 舞台袖に入って千佳を狙っていたのは一目瞭然である。
「そういう話は‥‥事務所のほうでゆっくり、‥‥聞かせていただきます」
 朧は微笑しているが、目は笑っていなかった。
 ずるずると、千佳のファンという男は引きずられていくことになったのである。

●寸劇『激辛遊戯』〜第二部〜
 再びフロアの照明が照らされると黒を基調とし、金糸に龍の模様をあしらえた男性用チャイナを着たライディがいた。
 傍らにはナレインが眠ったようにいる。
「この令嬢をかえして欲しくば、チャレンジメニューを食べてもらおう! これぞ、我が最終奥義! 激辛遊戯!」
 ライディの掛け声とともにわもわもわとスモークが炊かれる
 煙が晴れたあとには普通の物よりも赤みの増したエビチリがあった。
「く‥‥どなたか! どなたかお嬢様を助けてくれる勇者はおられぬか!?」
 リュインも現れ客席に向かって叫んだ。
 幾人か挙手があがり、その中からリュインは一人を選び出す。
 しかし、全部食べきるまでには行かない。
 挑戦者は全身から汗をあふれださせ、顔を真っ赤にしても食べ切れなかった。
「なんという恐ろしい‥‥しかし、食べきれればタダという魔性のささやきが食べることを辞めさせない。おそるべし、激辛遊戯!」
 リュインは食べ切れなかった協力者にマンゴー杏仁のグラスを渡して、こっそりと礼を述べた。
「辛味の調整中なので、このたびは申し訳ない‥‥では、この私が相手になろう!」
 リュインは再び大きな声を張りあげて、指を鳴らした。
 舞台袖から豆板醤の瓶が飛んでくる。
 それをパシンとキャッチをする。
「激辛遊戯‥‥全力を持って相手をしよう!」
 豆板醤を注ぎこんだ新しく用意エビチリをリュインは勢いよく食べていく。
 挑戦者が食べ切れなかったエビチリが瞬く間に消えていった。
「美味だ‥‥では、約束どおりお嬢様を返していただこう」
 口もとをナプキンで拭いたリュインは妖艶な微笑をライディに向ける。
「く、仕方あるまい‥‥この場は退こう! だが、忘れるな我が野望に終わりはない!」
 最後の台詞はアドリブでいれて、ライディは立ち去っていった。
(「意外とやるではないか。多少は骨のある若者のようだな‥‥」)
 リュインは去り行く姿を見ながらそう思う。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ん、ああ‥‥リュイン。ありがとう」
 眠れる姫が目覚めるかのようにナレインは起き上がる。
「皆さんも心配かけてごめんなさいね、あとは美味しい料理と楽しい歌を楽しんでいってちょうだいな」
 ナレインが微笑むと盛大に拍手が起こり、口笛がなる。
 寸劇は大盛況のうちに幕を閉じたのであった。

●閑話休題のち、お別れ
 そして、ドレス姿に猫耳尻尾の生えた千佳による歌のステージがはじまる。
 食が進むのか、客の注文が多くウェイトレスに厨房に能力者は対応していった。
「ニラタマに一口餃子お待ちどうさまです」
 お団子頭の櫻が笑顔でウェイトレスをする。
 普段着ないチャイナドレスに嬉しさ一杯だった。
「え、転職じゃないですよ〜。いわゆる、敵状視察ってヤツですって♪」
 落ち着いた櫻とは対照的に、元気一杯に鈴華は接客をしていた。
 こっそり、と自分の喫茶店「Lucky Days」の宣伝も忘れない。
 看板娘の鏡だった。
 賑やかな夜はそうやってすぎ、お別れの時がやってくる。
 祭りの後の静けさともいうべき、人気のない凛々亭のフロアで凛華から能力者に一人一人にハグの挨拶をしていく。
「皆今日はありがと〜。久しぶりにすごく楽しめたわ♪ ライディちゃんの番組に宣伝してよかったわ♪」
「私も別れるのがさびしいわ。いつでも呼んでね? 手伝いにくるから」
 凛華に親近感を抱いているナレインはとても寂しそうであった。
「そうにゃ、皆で記念写真とるにゃ〜」
「賛成‥‥です」
 千佳の思いつきに皆賛同する。
 寸劇を行ったステージに並んで写真が撮られた。
 この思い出は皆の心にどう映ったのだろう?
 それは、写真の表情だけが知っている。