タイトル:【JTFM】宣戦布告マスター:橘真斗

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 51 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/10 01:45

●オープニング本文


2010年3月末 クルセイド・スウル基地
「ベルディット少尉が殉職か‥‥いや、今は二階級進んで大尉だったな」
「闘いに犠牲はあるのはわかっていますが、やり切れませんね」
 ジャンゴ・コルテス大佐の言葉にソフィア・バンデラス准尉は顔を俯かせて答える。
 多くの兵士が戦いで散っている中、いまだ自分は大きな成果を出せてはいないことが悔しくも悲しかった。
「だからといって准尉が無茶をすることはない、君には生きてこの戦争を感じてボリビアの民を救う手助けをして欲しいのだからな」
 ソフィアの心を見透かすようにジャンゴは優しい瞳で見つめてくる。
「そうですね‥‥私の国ボリビアは周辺諸国との戦争、内紛の他、百回以上のクーデターが繰り返されていました。バグアの圧力で前政権が倒れ今の中立体制になったのですがまだ国境付近では決着のつかない闘いがあります」
 自らの国のことを省みてソフィアはますます顔を俯けた。
 国のためにこれから自分が何ができるのか、他の兵士達のように命を投げ出してまでやり遂げることは何なのか‥‥。
 彼女は悩み続けていた。
 
 
●???
 パキリと軽い音が鳴り板チョコがアスレード(gz0165)の口の中へ入った。
 チョコを食べている瞬間、アスレードの機嫌はよくなる。
「アスレード、そこにいるのね? 貴方に命令があります」
 エミタ・スチムソン(gz0163)が窓辺でチョコを食べるアスレードに近づき、鈴の音のような声をかけた。
 20代前半のような外見にそぐわないカリスマ性と威圧感をエミタはもっている。
「姫が直々に話を伝えにくるとは珍しいじゃねぇか」
「コロンビアが陥落しかけているいま、南米の戦線は揺らいでいるといえます。よって、ボリビアの獲得を指示します」
「ちっ‥‥里帰りしようとおもっていた時ワザワザいってくれるな。で、俺様は何をすればいいんだ?」
 アスレードは舌打ちをしながらも窓辺から降りてエミタへ近づいた。
「宣戦布告です。こちらに逆らえばどうなるか、貴方のやり方で知らしめてきなさい」
 彫刻のような美しい顔から出された命令は非情なものである。
 人間と同じ姿をしていても中身はバグアという宇宙人なのだ。
「ククク、俺様のやり方か‥‥じゃあ、自由にさせてもらうぜ」
 口元に残ったチョコを拭いアスレードはエミタの前から去っていく。
 その顔は鮫のような笑顔が張り付いていた。
 
●ボリビアの首都・ラパス
 ボリビアの中枢でもある首都ラパス、すり鉢上の地形をしていて標高3600m強に位置するため『雲の上の町』とも言われている。
 底に行くほど富裕層がいて、縁に行くほど治安が悪くなるという典型的な構造をしていた。
 底辺にある大統領府では国を動かすために一人の少年が尽力している。
「国境で小競り合いがあったみたいだね」
「今、この国を中心に南米が動こうとしております。ですが、中立を保つべきです。どちらについてもまたしてもクーデターのように反対勢力が上がるだけです」
 少年の名前はミカエル・リア。
 若干15歳にしてボリビアを統べる少年だ。
 その少年の隣にいるのは壮年の摂政マガロ・アルファロ‥‥現政権設立クーデターの協力者でもあり、実際の実権を握っている男でもある。
「でも、国民を不安にさせるのは父様の望んだことじゃない。どちらについて、安定するのならそちらの方が‥‥」
「ミカエル様は分かっておられないのです。中立を保ち続けることが一番国民のためなのです!」
 力強く威厳に満ちたマガロに一喝されるとミカエルは口をつむぐしかなった。
 そのとき、低所得層の一角が吹き飛ぶ。
「な、なにが起きたの!」
 ミカエルが窓から見える爆発の方角を見るとそこには巨大なミミズが2匹姿を見せていた。
「あれは‥‥アースクウェイクです! なぜ、ボリビアの首都に!」
『おい、聞こえているか? 今回のはちょっとしたデモンストレーションだ。3時間後、俺様が首都の中心を目指して3分間だけ攻め込む。こっちの本気がどれほどのものか見て、身の振り方を決めるんだな!』
 マガロがミミズの姿を見て驚愕の声をあげていると、拡声器を通したアスレードの声が響く。
 アースクウェイクはそのまま地面に潜って姿を消すが、大きな爪後が残った‥‥。
「ど、どうしよう‥‥」
「緊急事態です。ラストホープへ傭兵の救援をもとめましょう」
 見たこともない存在、そして大胆不敵な宣戦布告にミカエルは青ざめた顔で動揺する。
 マガロは拳を握りながら、すぐさま対応にでむくのだった。

●参加者一覧

/ 榊 兵衛(ga0388) / 鳴神 伊織(ga0421) / 黒川丈一朗(ga0776) / 比留間・トナリノ(ga1355) / 終夜・無月(ga3084) / アッシュ・リーゲン(ga3804) / 藤村 瑠亥(ga3862) / 葵 宙華(ga4067) / 宗太郎=シルエイト(ga4261) / UNKNOWN(ga4276) / キョーコ・クルック(ga4770) / ファルル・キーリア(ga4815) / クラーク・エアハルト(ga4961) / アルヴァイム(ga5051) / ハンナ・ルーベンス(ga5138) / 月神陽子(ga5549) / ゲシュペンスト(ga5579) / 六堂源治(ga8154) / 百地・悠季(ga8270) / ヒューイ・焔(ga8434) / 優(ga8480) / レティ・クリムゾン(ga8679) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 虎牙 こうき(ga8763) / 白虎(ga9191) / 米本 剛(gb0843) / タルト・ローズレッド(gb1537) / 霧島 和哉(gb1893) / 須磨井 礼二(gb2034) / 赤崎羽矢子(gb2140) / 嘉雅土(gb2174) / キリル・シューキン(gb2765) / 鳳覚羅(gb3095) / 堺・清四郎(gb3564) / アレックス(gb3735) / 冴城 アスカ(gb4188) / ソーニャ(gb5824) / 月城 紗夜(gb6417) / 相澤 真夜(gb8203) / 神楽 菖蒲(gb8448) / ゼンラー(gb8572) / 柳凪 蓮夢(gb8883) / 夢守 ルキア(gb9436) / 黒瀬 レオ(gb9668) / 綾河 零音(gb9784) / カンタレラ(gb9927) / 湊 獅子鷹(gc0233) / ソウマ(gc0505) / ジャック・ジェリア(gc0672) / 長瀬 怜奈(gc0691) / リュティア・アマリリス(gc0778

●リプレイ本文

●死合開始
「3分間の勝負か‥‥1ラウンドと同じ、リングはこの首都か」
 黒川丈一朗(ga0776)は骸龍のコックピットの中で時計を眺めながらアスレードの到着を待つ。
 到着するなりポジショニングしたため事前にできる策は少ない、コックピット転移を考えてツーハンドソードとアラスカM2007の護身用に携えるのが精一杯だった。
『各防衛ラインの索敵担当機は、C−3回線をオープン。双方向データリンク、スタンバイ。特異点[アスレード(gz0165)]、防衛ライン接触まで15秒』
 開いた回線からハンナ・ルーベンス(ga5138)の声が伝わってきた。
「よいよか、ルキアと怜奈も連絡は密にな」
『丈一郎君と逆位置にいるよ。皆、笑顔を忘れずにいこう!』
『わかりました管制支援システム【サンダーヘッド】による情報統合による支援を行います』
 夢守 ルキア(gb9436)と長瀬 怜奈(gc0691)が元気な返事を返してくる。
 気持ちだけでも負けていなければ勝負はできる。
『‥‥我らに主の御加護を』
 ハンナが祈りを捧げたとき、地鳴りと共にアスレード達が現れた。

●地震
『さぁ、ショウタイムだ!』
 アスレードの声と共に巨大なミミズのようなものが地面から飛び出し口元のブレード類をガシャガシャと鳴らして暴れる。
 恐怖心を煽るような動きでも、歴戦の傭兵達にはただの敵以外の何物でもなかった。
「‥‥ボリビア、か。この一戦、ただのアスレードの祭りに終わらないだろうねぃ。国の今後の行方を決める大きなターニングポイントだよぅ」
 ゼンラー(gb8572)は操縦桿を握ってヘルヘブンをミミズに向かって突撃させる。
 アスレードには目もくれず、アースクェイクに狙いを絞った。
『確かにアスレードは危険きわまりないが、EQも放っておいてはどれくらいの被害が出るか分からぬからな。そちらの脅威を取り除くこととしようか』
 榊 兵衛(ga0388)がカスタム雷電『忠勝』を<超伝導アクチュエーター>を起動させながらスラスターライフルの弾幕をゼンラーと同じミミズの身体に叩き込む。
「‥‥すまん。早々に散ってもらわなくてはならん。お前さんにはこの街は小さすぎるんだよぅ」
 命を奪うことに心を痛めながらもゼンラーはアースクェイクへ<キャバリーチャージ>を仕掛けた。

『敵機は4、8機いれば2対1で相手できるわ。暴れまわる前に片すわよ』
 シュテルンに乗ったレオノーラ・ハンビー(gz0067)が陣形を指示し、重体ながらもシュテルンを動かす須磨井 礼二(gb2034)をカバーするように立ち回った。
「地殻変化計測器は可能な限り配置しましたからね、後はやるだけです‥‥もう少しだけ僕を支えてくださいね。バハムート」
 痛む身体をAU−KVに包みながら礼二は管制するハンナ達に情報を送り続ける。
 巨体を揺らしてアースクェイクが暴れるため酷い地面の揺れが続くも闘いをやめるわけにはいかなかった。
『足元、来るわよ!』
「了解、飛び上がりましょう」
 二機のシュテルンが<垂直離着陸能力>で低空まで上昇すると地面を砕いて出てきたアースクェイクが口を開けて姿を見せる。
 口に向けて<PRM>の練力を攻撃力に注いだスラスターライフルによる鉛弾の雨を二機そろって叩き込んだ。

『市街戦、被害を最小限に。大丈夫、エルシアンとならやれる』
 ソーニャ(gb5824)は試作型「スラスターライフル」をばら撒いてアースクェイクを攻め立てる。
 暴れるアースクェイクの移動を防ぐように虎牙 こうき(ga8763)が新型KVパラディン『紅夜叉』のゲルヒルデでもって突いた。
「当てやすい的なのに中々倒れないな。暴れまわされても被害が増えるだけだ‥‥覚悟を決めるか」
 こうきは一歩下がると腰ダメにゲルヒルデを紅夜叉に構えさせた。
「一瞬集中‥‥行くぞ、ディ・ワルキューレ!」
 加速した機体がアースクェイクの横っ腹を貫く‥‥。

 <ブースト空戦スタビライザー>を起動させた夜叉姫が広場に現れたアースクェイクへ機槍「ロンゴミニアト」を突き刺して炸薬を爆ぜさせる。
「嘉雅土(gb2174)さんは無理をせず私の支援をお願いします」
『言われなくてもそれくらいしか出来ませんよ。チョコ座はこの戦域からは抜けてしまったみたいですね。狙いはやっぱり中央府なのでしょうか?』
 月神陽子(ga5549)も重体となった嘉雅土と組みながら殲滅を目指す。
「このアースクェイク、いつものよりもタフになっていますね。時間を稼ごうというのが見えます」
 外側から何発もあたえるが倒れないアースクェイクに陽子はくっと顔をゆがめた。
 カードリッチを交換しようとしたとき、アースクェイクが口を大きく開けて飲み込もうと迫る。
「‥‥ごめんなさい、貴方のために泣くのはこれで最後です。貴方もきっと、それを望まないでしょうから」
 ロンゴミニアトからグレネードランチャーに持ち替えた陽子は寂しげに呟くと開かれた深淵に向かって業火を放った。

●護衛
 アースクェイクとKVの戦闘が激しくなりその振動は中央府にまで余波を飛ばしてくる。
 大きな地震ではないにせよ、不安が広がるのは仕方なかった。
『アースクェイク4体は第一防衛ラインで食い止めているようです。うっうー』
 独特の口癖を持つ比留間・トナリノ(ga1355)が中央府の中にいるミカエル・リアを初めとしたラパスにいる要人達へ状況報告を行う。
「揺れはもう収まる‥‥の、かな?」
 不安そうに周囲を見回すミカエルの手を優(ga8480)がそっと握る。
「今は私達を信じてください。奴等の、バグアの好きにはさせません」
 手の温もりがミカエルの心の不安を少しだけ軽くした。
「振動の収まっている今のうちに脱出しましょう。こちらです」
 ソウマ(gc0505)が先導して要人たちを外に泊めている護送車に向かって案内をはじめる。
 だが、突如大きな横揺れが全員を襲った。
「きゃっ!」
「危ないっ!」
 その揺れに一人の少女がバランスを崩したところをソウマが助けに入る。
『アースクェイクを内部爆破させた影響みたいです。うっうー』
 近くで爆発していないとはいえ、すり鉢状の地形をしているラパスでは振動の伝わり方が違っていた。
「ありがとうございます」
「いえ、当然ですよ」
 か弱き少女の身体を壊れないように抱きとめたソウマは笑顔を返す。
 少女は着ている服を整え、優美にお辞儀をすると微笑を返した。
「ボリビアで輸送業を営んでいるオニール・トランスポーターのカルメン・オニールと申します」
「カルメンさんですか‥‥いいお名前ですね」
 ソウマは自分とさほど年が変わらなくとも芯の強い瞳を持ったカルメンに何処か惹かれる。
「二人ともお話は後で、まずはここを抜けましょう。アスレードは真っ直ぐこちらを目指しているそうです」
「分かりました。ではいきましょう」
 優に促がされてソウマはカルメンの手を引きながら中央府の屋敷を出て行くのだった。

●死者と愚者と
 腐臭を漂わす人型のものが低所得層の中を進んでいく。
 しかし、到着したキリル・シューキン(gb2765)を筆頭に能力者のKV達が地殻変化計測器の設置と共に作り上げたバリケードにより20体のゾンビ達は次第に固まってきていた。
「ボリビアへようこそ糞どもが! 観光なら地獄を勧めるぞ! 我が異名は『守りの刃』‥‥どんな凶刃からも人を守ってみせる!」
 堺・清四郎(gb3564)が吐き捨てるように叫ぶと蛍火と真デヴァステイターを構える。
 声に反応したゾンビ達はだらりと涎をたらすと清四郎に向かって襲い掛かった。
「ここから先は民間人がいるんでな‥‥通行止めだ! かかってこいやぁ!!」
 真デヴァステイターを連射して足を止めようとするも、弾丸の勢いを弾きかえすようにゾンビ達は迫る。
「舐めたマネしてくれるわよね。本当にこんなところで迎撃しなきゃいけないなんて」
 エナジーガンを撃ちながら赤崎羽矢子(gb2140)はゾンビの移動方向を低所得層に釘付けするように<瞬即縮地>で移動しながら横へそらせた。
 清四郎も数によって押されるため、下がりながらの対応をよぎなくされる。
「奴を一発殴りたいところだけど、今はその時じゃない。私にとっても、奴にとっても‥‥ね」
 散らばって行きそうになるゾンビ達は冴城 アスカ(gb4188)が<瞬天速>で引き寄せながら袋小路へ追いこんだ。
『遅れたぜ、援護する。宣戦布告とは大胆なことをしてくれたが、俺達がそう簡単にやらせないことを見せてやろうぜ!』
 アスカが引き寄せてきたゾンビたちをヒューイ・焔(ga8434)の白魔が奉天製の20mmレーザーバルカンでゾンビ達を斉射する。

 戦闘が続く中、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は逃げ遅れた一般人がいないか、探索していた。
「何というか‥‥相変わらずやる事がなぁ‥‥」
 ゾンビとアースクェイクを街に放ち、自らは中央府に向かって攻め込もうとするアスレードの作戦にユーリは呆れに近いため息を漏らす。
 避難がある程度終わっているとはいえ、破壊行動に巻き込まれていないとも限らない、静かな町を歩くと鳴き声が聞こえてきた。
『ユーリさん、ここらでアスレードが見つかったって話もある。早く逃げた方がいいっスよ』
 ゾンビを警戒していた六堂源治(ga8154)がバイパーの手をユーリに差し出そうとしたとき、人影が建物から飛び出してくる。
 ゾディアックの魚座・アスレードだ。
『お前に会いたい奴は多いッスからね。俺がでしゃばるのも筋違いってなもんで‥‥牽制だけにさせてもらうっすよ』
 ユーリ達が見つからないように盾を構えてヘビーガドリングでアスレードを源次は撃つ。
「ちっ、うざってぇ‥‥」
 ガドリングの弾をフォースフィールドで弾きながらアスレードは左右に身体を動かして源次機から離れるようにして抜けていった。

●待つもの
「アスレードをこちらで補足した。対アスレード第二波、第三波の方にも連絡を頼む」
『了解です。味方の位置はこちらでも把握し続けていますので照明銃は大丈夫です』
 レティ・クリムゾン(ga8679)が無線機に伝えると怜奈が味方の位置と伝令を代わりに行う。
「了解した‥‥。これより、交戦する」
 アスレードと目が合ったレティは一言伝えると無線機を切って両腕の武器の縛りをきゅっと強めた。
「よぉ、久しぶりだなぁ。その顔は覚えてるぜぇ?」
「こちらとしても忘れたくても忘れられないな‥‥」
 自分たちを助けるために死んでいったUPC軍少尉の顔がレティの脳裏に浮かぶがそれを追いやってアスレードを睨み返す。
「邪魔をするなら次はてめぇだ」
「それはどうかな!」
 レティは見下すような視線と共に笑うアスレードに向かって踏み込んだ。
 鋭い斬撃を放つもアスレードは上体を軽くそらすようにして避け、カウンターのフックをぶつけてくる。
 以前に受けたときよりも重い一撃に意識が飛びそうになるが<活性化>で傷を癒しながらレティは耐えた。
「く‥‥今日は本気か」
「ああ、3分間の本気がどれほどか見せてやるっていっただろ?」
 もう一撃を放とうとするアスレードに向かって、衝撃波[ソニックブーム]が飛んでくる。
 殴ろうとした動きを止めて一歩下がると続けざまに苦無が足元を狙ってきた。
「そこかっ!」
 後ろに下がりながらも指弾をアスレードが放つとソニックブームを放った黒瀬 レオ(gb9668)にあたり、レオが腹を押さえながら蹲る。
「久しぶりね、アスレード。それじゃ、ロシアの続きといきましょうか」
 ファルル・キーリア(ga4815)は不敵に笑ってナイフを二本投げた。
 ナイフが後頭部を狙って迫るが消えるようにアスレードが動く。
「消えたのではない‥‥高速で動いているだけっ!」
 自分に言い聞かせるようにしてファルルは後ろに向けてイアリスを振り回す。
 シュッと空をきったかと思うと刃がアスレードの頬を傷つけた。
「面白れぇ、だがもう一歩足りねぇな!」
 頬を傷つけられたことに怒りよりも喜びを見せたアスレードがファルルを上段回し蹴りで建物へ蹴り飛ばすとそのままレオへ指弾を飛ばす。
 盾を構えて防御体制をとっていたがそのまま弾かれて地面へとレオは転がる。
「まだ、私は倒れていないぞ。アスレード!」
 小銃「ブラッディローズ」を構えてレティはアスレードに向けて引き金を引いた。
 半ば無駄だと分かってはいても時間を稼ぐために全力を出すしかないのだ。
 指弾を受けて、<活性化>で回復をしながら攻撃をしようとするが、回復が追いつかずに固まってしまう。
「ふんっ‥‥つまらねぇな‥‥ン、この匂い。ククク、てめぇの命は預けてやるぜ」
 最後まで攻撃するかと思ったアスレードだったが、戦場に漂う何かを感じたのかニヤリと笑うとその場から駆け出した。
「‥‥ごめん。アレックス‥‥あと、宜しくね」
 レオは自分の未熟さを感じながらも、後悔せずに戦えたことに満足する。
「すまない‥‥第一陣突破だ、作戦開始から40秒は稼げた。後は頼む」
 無線機にそれだけ伝えるとレティはレオとファルルを担ぎながら無線で連絡を飛ばすのだった。

●アンタッチャブル
「どこだ‥‥チョコの匂いがする」
 獲物を探す獣の眼でアスレードが周囲を見回すと白虎(ga9191)が野球ボールサイズのチョコを投げつける。
「アスレードがいたにゃ〜これでたも受けるにゃ」
 白虎としては挑発のつもりだが、アスレードにとっては『宣戦布告』だった。
「てめぇ、チョコを粗末にするか‥‥」
 何かが切れる音がする。
 <瞬速宿地>で逃げの体勢にでた白虎の背中にアスレードの指弾がくらい込み、腹からでてきた。
 熱い血と共に力が抜けるのを白虎は感じる。
 倒れそうになったところへアスレードが近づき踵落しで地面へと白虎の身体をたたきつけた。
「おら、ここでくたばるなよ。てめぇが捨てようとした物の恨みはこんなもんじゃねぇぞ?」
 言葉を無くし血が流れ続ける傷口をアスレードは踵で抉り、『殺意』をあらわにしている。
 もう虫の息となっている白虎へアスレードはトドメの一撃を放とうとするがそこへ、スナイパーライフルの一撃が飛んできた。
 右手で受け止めるが、フォースフィールドで防ぎ切れず5mほど吹き飛ぶ。
『私からのプレゼント、受け取っていただけましたか? 怒りも憎しみも悲しみも‥‥今、この瞬間だけに‥‥込めました』
 白虎の無線機から陽子の声が響いた。
「くそっ‥‥舐めたマネをぉっ!」
「今です! 回収っ、そして撤収!」
 一命を取り留めた白虎を相澤 真夜(gb8203)が家屋の影から飛び出し、血まみれの白虎を担ぎ上げて逃げ出した。
「にがさねぇぇぇぞ、クソガキがぁぁぁっ!」
「その台詞はこちらですよ〜」
 追いかけようとしたアスレードの前に二人を隠せるほどの大きさを持った米本 剛(gb0843)が立ちはだかる。
 ゾンビ対応をしていたもののうち手の空いたものがアスレードの迎撃へ管制担当の電子戦機からの連絡を受けて動いているのだ。
「邪魔をするなぁぁっっ!」
「いざ、参ります!」
 閃光手榴弾のピンを抜いて耐え切ることを覚悟した米本だったが、アスレードのフリッカージャブが遠慮なく入る。
「ま、まだですよ‥‥」
 <活性化>で回復するが、そのままワン・ツーとアスレードの拳が米本の身体を穿いた。
 回復が間に合わず、すべての行動を<活性化>に回して動くことすら出来なくなる。
「これ‥‥ほどとは」
 身体が悲鳴を上げて膝をつく、10秒ともたなかった。
「吹き飛べ‥‥」
「――灼雷「衝」」
 回し蹴りで米本をアスレードが転がしていると背後から鳴神 伊織(ga0421)が<ソニックブーム>に<スマッシュ>と<紅蓮衝撃>をあわせた技を放つ。
 アスレードの背中に傷がつき、らんらんとした瞳で伊織を睨み返すと、指弾を飛ばして返して白虎を追いかけるように駆け出す。
 一撃を受けた伊織は去り行くアスレードをみながら一撃の重さを身で感じていた。
「一発でこのダメージ‥‥こちらに興味をなくして無ければどうなったか」
「本当に‥‥一人で10秒もたせれば18人と思っていたけど、これはちょっと頑張らないといけないかもね」
 鳳覚羅(gb3095)が双眼鏡で去っていくアスレードを眺めて苦笑を浮かべる。
「ええ、負傷者もでているようですし相澤さんだけに頼るわけにはいきませんね」
 伊織は覚羅に答えながら米本の回収等のために一度判れた。

●迫る敵、そして未来
「アスレードは本気みたいね。ここまでくるかしら? そうしたら面白いのだけど」
 護送車に要人を乗せているさなかカンタレラ(gb9927)は戦闘地域を見上げながらチラリともらす。
「少し不謹慎ですよ‥‥」
 周囲を警戒する終夜・無月(ga3084)に注意されるとカンタレラは首をすくめた。
「首都が戦場になるなんて‥‥この国はどうすればいいんだろう‥‥」
「国王さんはどうしたいの? お父様とかではなくて国王さん自信で‥‥中立はもう望めない、だからどうするのか決めなくちゃならないのよ」
 ミカエルが護送車に乗り込むときカンタレラと同じように戦闘地域を見上げて呟く。
 その呟きにカンタレラは身を乗り出しながらミカエルに尋ねた。
「僕の個人ですか‥‥」
「すまないが、王を悩ませないでいただきたい。君達の仕事は我々を無事運ぶことのはずだ」
 ミカエルが俯きながら答えに詰まっているとマガロ・アルファロが割って入り護送車の中に入っていく。
「此方は命を張っている、雇われた以上完遂する」
 何か言おうとしたカンタレラの前に月城 紗夜(gb6417)が割り込み、無表情に答えた。
『一分少しかかってアスレードは第二防衛線へ侵入したとの報告がありました。猶予はあまりないかもしれません』
 マガロが乗り込み、次々に人が入っていく中、秒単位で動く作戦の流れを宗太郎=シルエイト(ga4261)が伝える。
 気の抜けない3分間はまだ終わらない。

●凶暴な獣
 無線から届く報告を聞きながらキョーコ・クルック(ga4770)はアスレードの進路を防ぐ。
 通り抜けていく相澤を見送って身を隠しながら連絡をしていて前から準備をしている閃光手榴弾をしっかりと握った。
「友人ってほどじゃいけど、色々世話になったからね。少しは借りを返してやるさ‥‥全員で生還する。絶対に!」
 コロンビアのキメラ闘技場で散ったUPC軍少尉を思い返しながらキョーコは敵を待つ。
 すぐに敵は姿を見せ、猛スピードで迫ってきた。
「許す物か‥‥私の、この世で一番大切な者を踏み躙り、ゴミ呼ばわりした事、後悔する間もなく消し飛ばしてやる」
 神楽 菖蒲(gb8448)は左手の指輪にキスをして手近なバイクをアスレードに向かって蹴り飛ばしてそれを追いかけた。
「くだらねぇ、邪魔をするなぁぁっ!」
 蹴り飛ばされたバイクを片手で掴んだアスレードは軽々と振り回して神楽の接近を阻む。
「2、1っ!」
 キョーコがわざと声をあげてアスレードが警戒するように促がしたが‥‥気をつけるべきは自分であったことを悟った。
「背後がガラ空きだ!」
 アスレードの声と共に10cmほどあげた閃光手榴弾が破裂しキョーコは視力を失うと共に重い一撃を背中に受ける。
「今回のあたしは菖蒲の駒。彼女の想いを叩きつける刃で良いわ、それで充分よ」
 肘撃ちをキョーコに当てたアスレードに百地・悠季(ga8270)が顔を狙ったデヴァステイターを撃ちだすがかすりもしなかった。
「うぜぇんだよ、てめぇらぁ!」
 神楽が銃口を突きつけて零距離射撃をするが、アスレードはキョーコを掴み力を込めて地面へとたたきつけた。
「今よっ!」
「だめ‥‥離れ‥‥」
 悠季が横合い回りこんで零距離射撃を狙ったところにアスレードは<サークルブラスト>を放つ。
 至近距離で受けたキョーコはメイド服を血に染めてぐったりとしていた。
 衝撃を受けた、神楽と悠季も全身を打って倒れこんでいる。
「あのクソガキを素直に追いかけさせればいいものを‥‥」
 アスレードが興味をなくして隙を見せたときに、神楽が飛び出してわき腹をナイフで刺した。
「誰が貴様に恐怖なぞしてやるものか。貴様が私に何をしようと、悲鳴一つ上げてやるものか」
 だが、神楽の刺したナイフはかすり傷をつけたところで折れる。
「これ以上俺を怒らせると殺すぞ?」
 アスレードの瞳には楽しむ余裕の無い冷たさだけが浮かんでいた。
「逃げるわよ、菖蒲!」
 倒れていた悠季が<両断剣>と共にワイズマンクロックをぶつけてキョーコと菖蒲を回収し逃げだす。
 アスレードは小さく舌うちをするも、白虎を探すためにそこから走りさった。
 
●時間稼ぎ
「開始から1分30秒‥‥それでこの重体数か」
 回収されてきた仲間を見ながらゲシュペンスト(ga5579)は自らの傷口を押さえる。
 先の依頼の負傷を抱えたままでボリビアにたどり着き、リッジウェイでの要人や負傷者の回収に終始していた。
『アスレードがそっちに接近しているよゲシュペンスト君。どうやら相澤君を狙っているようだね?』
「た、ただいまぁ‥‥もう、つかれたー。白虎君の回収お願い」
 ルキアからの通信に疑問符を浮かべる前に相澤がボロボロの白虎を連れて乗り込んでくる。
『アスレード来ました』
 随伴しているリュティア・アマリリス(gc0778)がディスタンに乗りながら警戒を促がした。
「俺も迎撃にでる。その間に一端、離脱してくれ」
 米本を運んできた覚羅が外にでて竜斬斧「ベオウルフ」構える。
「分かった。全力を出しての撤退はできないから時間を少しでも稼いでくれ」
 二人に頼むとゲシュペンストはリッジウェイをアスレード迎撃メンバーのいる方へと走り出した。
 一般人ではKVのブースト加速度には耐えられない。
「てめぇらぁぁ、さっきのガキを渡しやがれぇぇっ!」
 入れ替わるようにアスレードが大声を上げて迫ってきた。
「そう簡単に渡しますか」
 軽口を叩きながら覚羅が先行してベオウルフを振り下ろす。
 飛び上がって避けたアスレードは柄を走って覚羅に迫ると膝蹴りを一発当てて飛び越えていった。
『エオール‥‥あなたの名の意味は『護り』、その意味を示す時です』
 倒れこむ覚羅を他所にリュティアは距離を保ちながらレーザーガドリング砲を放ってアスレードの動きを塞ごうとする。
 50発の光弾が迸り、アスレードの行く手をさえぎった。
「うざってぇなっ!」
 フォースフィールドでいくつかの弾丸を受け止めながらアスレードが迫り、ガドリング砲の砲身を蹴り折る。
『何と言うことですか!?』
 さらに懐に飛び込んだアスレードが肘撃ちから踵落しを繰り出してエオールを沈めるとそのまま飛び越えた。
 10秒という短い時間の間に二人を抜けたアスレードだったが、さらにルキアの骸龍から煙幕銃が放たれて視界を防ぐ。
『今のうちに撤退だよ、鳳君にアマリリス君。向こうの準備はできたようだからね』
 ルキアの声に従い、二人は戦域を離脱した。

●殺愛[ころしあい]
「姐御‥‥また呑もうって約束は流れちまったな‥‥ま、いずれ俺もソッチに行くからよ、それまで一人で呑っててくれるか?」
 アッシュ・リーゲン(ga3804)が街角にスブロフを置いて、リッジウェイの通った傍の建物へと身を寄せる。
『特異点、接近中です。接触まで10秒』
「連絡どうも、こっちはポジションについたぜ」
 アサルトライフルを<プローンポジション>の体勢で構えながらハンナに答えた。
『白虎さんが狙われているようです‥‥気をつけてといったんですが』
「だが、お陰で誘えたんだ。文句はいえないだろ?」
 クラーク・エアハルト(ga4961)が無線機を通してアッシュへと声をかけてくる。
 アスレードは二人が話している間にやってきた。

「バカには当たらない弾なんでよろしく♪ 私は葵 宙華‥‥あんたを殺す”決死の弾丸”よ」
 葵 宙華(ga4067)が引き金を引きながら自己紹介を始める。
 飛んでくる弾丸をフォースフィールドで弾きながらアスレードは正面突破を狙ってきた。
「リロード、援護を!」
 クラークが打ち合わせた暗号と共に閃光手榴弾を投げる。
 破裂する瞬間アスレードは瞬天速ににた動きで間合いを宙華の真正面へと詰めてきた。
「俺様を殺すだぁ? てめぇが死にさらせ!」
 血走った瞳は宙華を睨みつけて、右ストレートを叩き込んだ。
「てめぇじゃないわよ、葵 宙華‥‥葵って気軽に呼んでよね」
 ミシリと腕が悲鳴を上げるが強がりを見せながら葵は拳銃「黒猫」にキスして腕の関節に向かって撃ちこむ。
 かすり傷ができる程度で止まり、葵自身も身体が耐え切れずに地面に転がった。
「チョコはやれんが、鉛弾ならいくらでもくれてやるぞ」
 そこへ、アッシュからのアサルトライフルによる洗礼がアスレードの顔面に降り注ぐ。
「てめぇも死にさらせ!」
 アスレードは銃弾を避けるとアッシュのいる建物さら拳一撃で潰した。
「くっ、まだですよ!」
 次々と倒れていく味方にクラークは戦慄を感じながらも<急所突き>をした全力の攻撃をアスレードに浴びせる。
「てめぇも‥‥沈め!」
 真っ向からかすり傷を受けながら突破してきたアスレードがクラークの顔を掴むと共に地面へとたたきつけた。
 
●一撃にかけて
 2分が経過していた。
 アスレードは高所得層の中央付近で戦闘をしていて、それでも尚、チョコを投げた白虎を探している。
 戦い方は怒りに満ちた突出したものだが、その破壊の力は今までの比ではないほどの被害を見せていた。
「私は私に出来ることを。負けない戦いをする。それだけだ」
 綾河 零音(gb9784)は被害報告を聞き、回収に向かうアルヴァイム(ga5051)のリッジウェイと並走してバイクを走らせている。
 強大な強さを持つアスレードに惹かれている思いを胸に零音はアクセルを回した。
 リッジウェイのタラップにはジャック・ジェリア(gc0672)が捕まっており、身を隠しながら攻撃射程に敵が来るのを待つ。
 クラークを叩きつけたアスレードが見えた。
「あのチョコ狂いに一発かましてこいよ」
 重傷ながらも援護を行おうと参加している湊 獅子鷹(gc0233)が指を立てる。
 ジャックも頷き、銃を構えた。
「挨拶代わりだ、とっときな!」
 ジャックが小銃「バロック」によるペイント弾を込めた<制圧射撃>を行う。
 弾丸がアスレードを包み、ピンク色の塗料が周囲に散らばった。
 すぐさま、貫通弾に入れ替えて<強弾撃>を込めた一発をアスレードに撃ちこむ。
 一瞬たりとも気が抜けないが、頭部を狙った弾丸はアスレードの右手に阻まれた。
「そうさ! 自分の強さを示すために、お前は『手で銃弾を受け止める』!」
 予想通りに動きとばかりにジャックが試作型機械刀を片手に飛び降りる。
「くだらねぇ‥‥なら、こいつぁ予想通りか? あぁぁんっ!」
 手に握った弾丸をアスレードはコインを弾くようにしてジャックへと飛ばした。
 回避すらままならない速度に一撃がジャックの腹部を貫き、追い討ちをかけるようにアスレードが迫る。
 だが、そのアスレードをバイクで急襲するように横合いに零音が斬りかかった。
「綾河 零音! 私の名であり‥‥いずれお前の前に立ちはだかる女の名だ!」
「そういう台詞は聞き飽きたんだよ、ザコが!」
「獅子特攻[スコントロ・ディ・リオーネ]」
 <紅蓮衝撃>を込めた炎剣「ゼフォン」による大きな一撃を零音は繰り出すもアスレードの右腕が阻む。
「この腕一本くらい、くれてやる! 覚えてもらうためにな!」
 悲鳴を上げる腕に力を入れて一太刀をアスレードに浴びせるが、同時に自らもクロスカウンターを受けて上空へ飛ばされた。
『タルト、蓮夢、負傷者の回収をアッシュが瓦礫の下敷きになっているからそちらもあわせて行うぞ』
 鮮血の飛ぶ戦場でアスレードだけが立っているところへアルヴァイムがリッジウェイから7.65mm多連装機関砲を放ってカーゴにいる仲間へ指示を出す。
 アスレードはフォースフィールドで銃弾を防ぎながら間合いを放していく。
「その‥‥無茶するなとは言わんが‥‥あ、あまり心配をかけるなっ」
 腹に空洞が出来ながらも辛うじて息をするジャックを<練成治療>で動けるように治しながらタルト・ローズレッド(gb1537)は悪態をつく。
「悪い‥‥だが、今回分かったぜ。俺は『あいつを殺せる』ってな」
『20秒でこの有様‥‥能力者の戦いのすごさを感じますね‥‥アスレードはここから去ったようです小さな傷ですが蓄積できているようです』
 クラークと宙華を抱えた柳凪 蓮夢(gb8883)が二人に状況を伝えながらアッシュを回収しようと瓦礫を砕くアルヴァイムの方へと向かった。

●タイムアップ
 残り20秒‥‥アスレードが宣言した3分の時間が近づいてきている。
 それまでに防衛ラインは中央府まで突破されようとしていた。
 だが、それを心待ちにしているものがこの中央府最前列にはいる。
「心なしか傷が疼くな‥‥」
 藤村 瑠亥(ga3862)は腹のあたりを押さえると、周囲を壁に囲まれた狭い空間で敵を待った。
「ちっ‥‥クソガキを追っていて時間が潰れた」
 舌打ちをした男が目の前に姿を見せる、以前と変わらない姿ながらもあふれ出てくる殺気は以前の比ではない。
「二度と会いたくなかったが‥‥相手をしてもらおう」
 身に受ける殺気を払うように藤村がアスレードに迫った。
 意識を集中し、戦闘経験を持って回避を試みるが、相手の拳の速さに目が追いつかない。
 肩にアスレードの左拳が減り込みゴギリと砕ける音がした。
「く‥‥以前の8割は本当だったのか‥‥」
 藤村は感覚のなくなりそうになるがそれでも二刀小太刀「疾風迅雷」で目の前の敵を薙ぐもののかすり傷を受けながらアスレードは蹴りで返す。
 今度は肋骨が折れ、地面に転がるところを「バハムート」を身に纏った霧島 和哉(gb1893)に受け止められた。
『アスレード、プレゼントを贈ろう!』
 その瞬間を狙ってUNKNOWN(ga4276)の声が無線機から響く。
 続けざまに火花が散ったかと思うと、小さな爆発が起こってアスレードの視界をさえぎった。
 一瞬でも気を惹けたら、一瞬でもアスレードの目を眩ましたら、一瞬でも隙を作りだせたら‥‥として放った<プローンポジション>一発が功をそうする。
「その隙、狙わせてもらうぞ」
 藤村が身体に鞭を撃って<瞬速撃>の斬撃を繰り出した。
 咄嗟に右腕でカバーしたアスレードは全身から衝撃波である<サークルブラスト>を放つ。
 藤村が衝撃波で倒れながらも目で合図をし、共に動いていたカズヤが衝撃波を受け止めながら挑発を行った。
『おいで。‥‥この装甲‥‥貫けるものなら、貫いて‥‥ごらん?』
「のぞみ通りやってやる!」
 右腕のボディブローが構えた盾を避けたわき腹に食い込む。
 一撃では倒れないカズヤにアスレードが拳に力を込めて<メガギブライフ>による練力吸収を始めた。
 AU−KVの動力は装着者の練力でありそれが無くなればただのデッドウェイトになるのである。
 しかし、それはカズヤにとって好機だった。腕を掴んで口元に笑みを浮かべた。
「アレクさん‥‥任せるよ」
 <竜の咆哮>を使い、逃げれないアスレードを弾き飛ばす。
 空中に飛びながら体勢を整えようとするアスレードにアレックス(gb3735)がランス「エクスプロード」による<竜の翼>で加速したチャージを喰らわせた。
『ランス「エクスプロード」、オーバー・イグニッション!』
 叫び声と共に<竜の爪>、<竜の瞳>を込めたチャージングがアスレードの腕にくらいつく。
「ぐぅ‥‥この‥‥やるじゃねぇかぁっ!」
 フォースフィールドを抜け、突き刺さった右腕の槍先から血があふれ出した。
 その傷を痛むよりも喜びを見せたアスレードは右腕でランスを掴むとアレックスを蹴り返す。
 顎を蹴り上げた後に身体を捻り蹴り落とした。
 二回の攻撃を受けただけでミカエルが拉げてアレックスは重傷を負うものの四肢の一つを削れたことで悔いは無い。
「てめぇら‥‥ここで散ってもらう」
 アスレードがカズヤに向けて攻撃を仕掛けようとしたとき、何かに気付いたように唾を吐く。
「ちっ‥‥時間だ‥‥。俺は約束を守るんでな、今日はここまでだ」
 戦闘を続けようとしたアスレードだったがエクスプロードを抜き捨てると右手の傷を押さえた。
「強くなってきて楽しくなってきたぜ? もっと、もっと俺を楽しませてくれよ‥‥そんなてめぇらにいいことを教えてやる。俺の瞬間移動は一日に1回だ。何発もつかえねぇし、距離もそれほどねぇ‥‥だが、その気になれば国王の首を捻れたことを忘れるなよ」
 クククと笑いを続けながらアスレードは姿を消す。
『目標撤退確認‥‥これより‥‥帰還する』
 カズヤはアスレードの反応が周囲から消えたことを確認するとアレックスと藤村を回収し、撤退準備に入った。

●ボリビアに潜む陰
「アスレードは首都圏外に離脱したようだな。カメラで捕らえた、追いかけるのはよしておく」
 黒川はカメラで状況を確認しつつ、一息ついた。
 ワンボックスの試合は勝利を得れたが、簡単なものではない‥‥。
 アースクェイクを内部爆発させたことによる被害は仕方ないとはいえ大きく、また負傷者の数も多いのだ。
「ゾンビはいったいどうしてきたんだ? ヘルメットワームとかは見つからなかったが」
 落ち着いたことでクリアになった頭に疑問が浮かんできた。
『黒川、聞こえるか? こちらEQ迎撃していた榊だが‥‥付近でゾンビが出てきたらしいトラックが見つかった』
「トラック‥‥つまり、内通者がいるということか。なるほどな、ボリビアは荒れていると聞いていたがそういう手もあるか」
 味方からの連絡に黒川は顎に手を当てて考え込む。
「情報はUPC軍に回して、そのまま瓦礫の撤去などを続けてくれ」
『了解した』
 榊は答えるとKVによる事後処理をはじめるのだった。

●ボリビアの未来
 3分間という短い時間だったはずなのに首都は大きな傷跡を残している。
 戦争という一言で片付けれることだが、この国、この街に住む人にとっては日常の崩壊だった。
「これが首都‥‥昨日まであんなに平和だったのに」
 ミカエルは動く車の中から様子をながめていると、ソーニャのシラヌイS型が手を振ってくる。
『ミカエル様〜。こっちにきて復旧作業手伝いませんか〜?』
「行ってはなりませんぞ、ミカエル様には新しい首都で今後の仕事があるのです」
「マガロ‥‥僕はいくよ。民を一番に考えるのが父上の政治だった。だから、僕も父上のように民を感じないといけないんだ‥‥彼らのように」
 KVを一瞥したマガロがミカエルを諌めるもミカエルは護送車の扉へ向かう。
「国王の決定であれば従うべきが護衛ですね」
 カンタレラが微笑みながら車を止めさせて、扉を開けた。
「ありがとう‥‥」
『うっうー、国王様が到着ですー』
 作業を手伝っていたトナリノがゼガリアから声をかける。
『え、君がミカエル様?』
 自分とさほど変わらない年かさの少年にソーニャは驚きながらもシラヌイで膝を突いて語りかけた。
『ボクたちはみんなのために戦ってる。でもみんなの理解と協力がなければ戦えない。戦うだけじゃ理解されないこともいっぱい。だから、言葉にしなきゃ。パフォーマンスも言葉だね』
「うん‥‥君たちは本当に頑張ったよ。傷つきながらも国のために頑張ってくれた」
 小さな国王は戦場の煤けた空気を吸いながら、巨大な騎士を労う。
『国って言うのも同じだね。ねぇ、ボクと一緒に作業しない? 役には立たないかも知れないけど、一生懸命やれば言葉は伝わるから』
「ありがとう‥‥僕もがんばるよ。バグアには負けない僕らの国のために」
 巨大な騎士の足に触れて国王は決意を新たにした。
 その後、負傷していない傭兵達による復旧作業がすむとミカエル達はスクレへと移り住む。
 3分間の襲撃はボリビアの道を決める運命的なものへとなったのだった。