タイトル:【JTFM】火種マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/24 14:03

●オープニング本文


2010年3月末 クルセイド・スウル基地
「ベルディット少尉が殉職か‥‥いや、今は二階級進んで大尉だったな」
「闘いに犠牲はあるのはわかっていますが、やり切れませんね」
 ジャンゴ・コルテス大佐の言葉にソフィア・バンデラス准尉は顔を俯かせて答える。
 多くの兵士が戦いで散っている中、いまだ自分は大きな成果を出せてはいないことが悔しくも悲しかった。
「だからといって准尉が無茶をすることはない、君には生きてこの戦争を感じてボリビアの民を救う手助けをして欲しいのだからな」
 ソフィアの心を見透かすようにジャンゴは優しい瞳で見つめてくる。
「そうですね‥‥私の国ボリビアは周辺諸国との戦争、内紛の他、百回以上のクーデターが繰り返されていました。バグアの圧力で前政権が倒れ今の中立体制になったのですがまだ国境付近では決着のつかない闘いがあります」
 自らの国のことを省みてソフィアはますます顔を俯けた。
 国のためにこれから自分が何ができるのか、他の兵士達のように命を投げ出してまでやり遂げることは何なのか‥‥。
 彼女は悩み続けていた。
 
●ボリビア国境付近
「くそっ、キメラがッ! カールグスタフを撃てっ! 一斉発車っ!」
 武装したUPC軍の兵士たちが肩に乗せて構えたカールグスタフ84mm無反動砲をキメラに向かって叩き込む。
 84mmHEAT弾がフォースフィールドに着弾し大きく炎の華を咲かせた。
 土嚢に身を隠し、敵の様子を双眼鏡で確認する。
 一撃では、まだ沈まない‥‥対戦車用の砲弾だというのに洒落にならない相手だ。
「ボリビア国内に入れるなよ、最近こいつらの数が増えてきている。中に通したらUPC軍の維新にかかわるからなっ!」
 指揮官の男はそういい、地雷設置班に連絡をしながら陣地を下がっていく。
 ボリビアは複雑な国だ。
 バグアによる圧力によって政府が瓦解し、クーデターの結果によって現政権が誕生。
 しかし、直後に初代国王が死亡。長男が王位を継ぐと同時に、若年を理由に摂政制となり、現在実権を握っているのは摂政のマガロ・アルファロという男だ。
 そして、バグアとUPCによる大きな戦いが無かったことから、現在の両軍から無視された中立状態を、長らく待ち望んだ『平和』と受け止めている者も多く存在している。
 だが、コロンビアの陥落により南米の情勢は変化していた。
 国内ではかりそめの平和に市民が心をゆだねている中、国境付近や、深い森になっている場所では明らかに戦闘が多発している。
「隊長、地雷設置完了ですが今回で最後です」
「次回の補給の予定は‥‥ないよな」
 敬礼をする部下に崩し気味の敬礼を返した男は一人ゴチながら、次の指示をだす。
「本営に連絡し、傭兵を呼ぶようにいってくれ。もう、この地域は危険度をDからCへ上昇とも繋げてな。あとはありったけの対戦車装備を集めておけ、いざとなったら真面目に俺たちだけでなんとかしなければならなくなる」
「サー、イェッサー!」
 兵士は背筋をピット伸ばして敬礼をを返すとすぐ様行動に移るのだった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
比留間・トナリノ(ga1355
17歳・♀・SN
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
優(ga8480
23歳・♀・DF
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
ランディ・ランドルフ(gb2675
10歳・♂・HD
佐賀 剛鉄(gb6897
17歳・♀・PN
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

●直前ブリーフィング
 現在地の地図が広がり、中央には関所と大きな道路が目立っている。
 その両側から30mと50m地点に国境から半円を描くように×が多くかかれ、地雷原であることを示していた。
「そのポジションにしいてありますか左右から進軍してくると2回当てることが可能ですか」
 優(ga8480)が地図につけられている×とアノマノカリスキメラの進軍ルートを眺めながら作戦を組み立てだす。
「どういう状況かは聞いたよ。フォース・フィールドの無効化は急務だねぇ〜」
 ドクター・ウェスト(ga0241)は眼鏡をフレームを指であげながら研究を続けているフォースフィールドの無効化について急がねばを決意を新たにした。
 しかし、現在の未来科学研究所の技術ですら追いつけていないものであるため、茨の道である。
「地雷の位置は了解だヨ。ボク達傭兵は左右に散らばるから中央で支援射撃だけよろしくネ」
 ラウル・カミーユ(ga7242)はその場にいる軍人達に得物のチェックをしながら要望を述べた。
「キメラの情報についてはどこまでわかっているのでしょうか?」
「はっきりしているのはヤツラは硬い。あとは近づくと牙で食われ離れていても口から楔のようなものを放ってきたりする‥‥仲間も大分やられている相手だ。一部のやつは飛ぶらしい」
 手に持った資料を基に作戦の指揮官である大尉が情報を伝えた。
 仲間の死をもって得てきた彼らの勲章である。
「飛んできたらスナイパーが打ち落として地雷原にご案内がベターだな。だが、どうなるかはもう各自に任せる形で‥‥基本は作戦通りにいこう」
 リュドレイク(ga8720)が締めくくると傭兵達はブリーフィングルームを後にし、戦闘の準備を整い始めるのだった。

●エンカウント
「おお〜? 何やらエビっぽいキメラがやってきましたよ〜?」
 双眼鏡を覗いていた右翼担当の八尾師 命(gb9785)は関所を挟み撃ちして潰そうとするアノマロカリスキメラの存在を見つける。
 右翼、左翼に5体ずつ。
 能力者にとってはさほど脅威ではないかもしれないが、一般人であるUPC軍人にとってはかなりの敵だ。
「南米解放戦の小さな戦場。だけど、この戦場での勝利が全体への天秤を動かすかもしれないな」
 ランディ・ランドルフ(gb2675)は10歳の少年とは思えない達観した目線でこの戦場を大きく見ている。
 小競り合いの続く国境だが、勝利は勇気となり大きな希望への可能性を秘めているのだ。
「一般人部隊の皆は各個に支援で迎撃して。でも無理はしないでね? いくよ、バハムート」
 ランディは笑顔でUPC軍人にお願いをするとAU−KV「バハムート」に跨り、装着を始める。
 初めて見る変形に、UPC軍人達の口がぽかーんと空きアニメのような動きを見守っていた。
『バハムート火器管制システム起動。ベルセルクモード発動! ランディ・ランドルフ。推して参る!』
 覚醒の影響で声に力強さを帯びたランディが<竜の鱗>で守りを固め優と共に迎撃をすべく走り出した。
 <竜の翼>をもったランディが一歩先に前にでる。
『我はベルセルク。我が前に立ちふさがるならば我を倒してからにしてもらおうか?』
 無骨な甲冑を思わせるバハムートを纏うランディの姿は弱者を守る騎士に相応しかった。
 右手に機械剣αを持ち、左手に小銃「S−01」をもったランディはUPC軍人達に近づかせないように立ち回る。
『ギシャァ!』
 鋭い牙を光らせながらランディに向かってキメラが飛び掛ってきた。
『その程度っ!』
 <竜の角>を使って錬力を注ぎ、輝きを増した機械剣αでアノマロカリスキメラをランディは斬り裂く。
 身体の半分を切られたアノマロカリスキメラは地面に落ちるとのたうちまわった。
 
 一方、比留間・トナリノ(ga1355)は自分の背丈とさほど変わらないアンチシペイターライフルを両手で持ち、近づいてくるアノマロカリスキメラに狙いを定めた。
「久々の実戦です‥‥。何もかも懐かしい戦場の空気ですっ」
 埃っぽい空気、飛びかう声、銃器特有の油と鉄の香り‥‥その全てを受け入れたトナリノは自分の居場所をしかと確認する。
「んしょ、んしょ‥‥敵さんはまだ100m先やね? 」
 準備体操をしながらも左手の土竜爪、履いている靴にあるステュムの爪の具合を確かめ佐賀 剛鉄(gb6897)は振り返った。
「それであっている。にしても余裕だな‥‥いや、その方が心強いよ。頼むぜ、お嬢さん」
 大きなランチャーを担いだUPC軍人が剛鉄に崩した敬礼を返す。
「ありがとう! ほな、ちょっくら行ってこよか。地雷原の場所は分かっとるし引きつけれるように殴りおうてくるわ」
 ちょっと買い物に出かけてくるとでも言いたげなノリで剛鉄は左翼側のアノマロカリスキメラに向かって走り出した。
 じっくり眺めて覚えた地図を脳内に浮かべながら剛鉄は地雷原を抜けて全力で近づき、その後をリュドレイクが追いかける。
『シュギュルルル』
 剛鉄を見つけたアノマロカリスキメラは触覚を動かし、敵であることを認識した。
 シュバババと5体のキメラの口からコーン状の突起物が吹き矢のように連射される。
「そないな攻撃、うちにはあたらへんよ」
 解した関節を上手く使い、踊るように剛鉄は攻撃を避け、キメラの意識を自らに集中させ始めた。
 射撃攻撃では拉致があかないと思ったのかキメラ達は鋭い牙を生やし剛鉄へと迫る。
 ガサガサガサとムカデのように動いてくるも、そこをアンチシペイターライフルの銃弾がうがいた。
「‥‥うっうー! 敵の方からのこのこやってきてくれるなんて‥‥カモ撃ちです!」
 フォースフィールドをも貫く一撃に軍人達は驚きの表情を見せる。
「すごい威力だな‥‥これなら地雷の数を残しつつ押し切れるか、頼むぜ、そっちのお嬢さんも」
「うっうー! 任せるのです!」
 UPC軍人に答えながらもトナリノの瞳はキメラを見据え、引き金を引き鉛弾を叩き込むのだった。
 
●チャージングオペレーション
「よーし、そのままそっち行け!」
 ラウルの洋弓「アルファル」が<強弾撃>を帯びて鋭さを増した矢を放つ。
 <狙撃眼>により飛距離の伸びた矢がランディを避けて迫ってくるアノマロカリスキメラを射抜き、地雷原へと近づくように誘導を仕掛けた。
 次の矢を番える間にも優がランデイを支援するように近、中距離で戦闘を続ける。
「そこでしばらく吹き飛んでください」
 月詠と機械刀「凄皇」を構え、踏み込んでは足止めのために地面を這って動くキメラを弾き飛ばした。
 指向性地雷が反応し、大きな爆発がする。
 衝撃を受けたアノマロカリスキメラが悶えながら衝撃に飛び、ぐったりとその身を横たえた。
「地雷の効果はあるみたいだね。一時的にでも動きが止められればあとが楽だよネ!」
 弦を大きく引き、ラウルが覚醒してダークグレーになった瞳で3体にまで減ったキメラを見据えて次の獲物に向けて矢をつ。
 ヒュゥンと空を切った矢がキメラの甲殻を突き破って突き刺さった。
『グシャリュゥゥ』
 緑色の体液を出しながらキメラは悶えるも、羽を広げて牙をむき出しにしながらラウルに向かって飛び上がってくる。
「チョ、チョット! エビならエビらしくしてよネー。そもそも陸地に出てきている時点でアウトなんだけどサ」
「大丈夫です、射程圏内です」
 飛びあがり地雷原をこえようとしたアノマロカリスを優が<ソニックブーム>を機械刀「凄皇」から放った。
 閃光が刃となってキメラを真っ二つにし肉を散らせる。
「エビの開きですね〜。美味しそうじゃありませんけど」
 散らされた敵を見た命は双眼鏡で眺めながら、じっくりと観察を続けていた。
 双眼鏡で敵を除いていた命の眼にもう一体飛行してくるキメラの姿が映る。
「ふわ、こっちに着ます〜! 皆さん迎撃たいせ〜」
『抜かせはせんよ。弱き者を護り抜くが我が役目』
 命が悲痛な声をあげるとランディが<竜の翼>で追いかけ機械剣αで縦に斬りおとし、横に翼を凪いだ後にトドメとばかりに背中から突き刺した。
「ありがとうございます〜。知覚攻撃の方が効いているみたいです」
「それなら凄皇が有効につかえますね。手早く片付けましょう」
「僕は支援一辺倒でいくから、ガンガン頑張ってネー」
 再び番い終えた矢を引いたラウルが仲間を鼓舞した。
「俺たちも負けてられないな。一体くらい俺たちで倒すぞ」
「了解です」
 闘いを眺めていたUPC軍人達は活力を取り戻し、カールグスタフ84mm無反動砲を構えて引き金を引く。
 残ったキメラに支援砲撃が届き、能力者達を応援する烽火となった。

「今後非能力者[ノーマル]の力でバグアに有効な手段が見つかったとき、その手段を君達以外の誰が使うのか‥‥余り無茶をしてもらってはこまるよ」
 血気盛んになるUPC軍人達を横目に眺めながらドクターはため息を漏らす。
 ポリカーボネートシールドを構え、突撃に備えながらもエネルギーガンのトリガーを引いた。
 750mmの銃身から光線が迸りキメラの頭部を焼く。
 フォースフィールドなど無いかのように光線は無残な痕を残した。
「ドクターの攻撃でかなり削れているな‥‥地雷を使わなくてもいけるかもしれない」
 リュドレイクは頼もしい援護射撃を受けながら鬼蛍と拳銃「アイリーン」を握る手に力を込める。
 甲殻に覆われて硬いとしても以前戦った経験と力強い援護があるため不安はなかった。
「動きがはようても捕らえられないもんやない。うちの目からは逃れられへんで」
 剛鉄が蹴り上げたキメラを土竜爪で貫く。
「うっうー、あと一体です」
 トナリノがアンチシペイターライフルで近づいてくるキメラへ牽制をしていると、リュドレイクが動いた。
「一体くらいは倒さないとね。かっこ悪いかな?」
 リュドレイクは残った一体に向かって駆ける。
 地雷原より離れているが追い込むよりもこの場で決着がつけれるほどに味方の攻撃で弱っていた。
 キメラの隙間を狙って<紅蓮衝撃>を纏った鬼蛍の切先を刺し込み、切れ目にそって力をかけながら一気に斬り抜く。
 足を踏み込んで力を入れたリュドレイクの刃がキメラの頭部と胴体を斬り分けた。
 斬り分けられた頭部へリュドレイクは鬼蛍を突き立ててトドメをさす。
「駆逐完了です。30m部分の地雷は残りましたね」
 最後のキメラを倒し、そして最後といわれていた地雷も残すことに成功したことにリュドレイクは満足そうに笑った。
「うっうー、がんばりましたー」
「助かったぜ、お前ら帰るまでに時間があるなら一杯、付き合えっていけよ。こんなに楽に終えれたのは初めてなんだからよ」
 勝利に喜ぶトナリノやリュドレイクにUPC軍人の一人がサムズアップをしながら尋ねてきた。
 申し出に誰もが頷き、答える。
「アノマロカリスキメラ‥‥どんなものか研究してみたいものだねぇ〜」
 ドクターは破片の一部を回収しながら奇妙な笑いを浮かべるのだった。
 
●世界の今後
 ランディが持ってきたキメラの破片を見てUPC軍人達は顔をしかめた。
 野営地の一つでささやかな宴と思ったときに仕事の話をされたのだから仕方ない。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず。是非、分析して次なる勝利への糧としてください」
「気持ちはありがたく受け取っておく。コロンビアの方に送っておけ、キメラ研究所関連の人材がいるはずだ」
 作業をしつている部下に隊長格の男はサンプルを渡してビールに手をつけた。
「危険度が高まっているのは事実だからこの野営地も今日で撤収だ。だから、荷物を減らしたいので飲み食いは好きにしてくれ、せめてもの感謝の気持ちだ」
「いえ、私達はできることをしているだけですから‥‥」
 優が遠慮がちに答えるも、無碍に断るわけにもいかず目の前の料理とかに少しだけ手をつけた。
「あれだね。早くフォースフィールドの無効化することを勧めなければならないねぇ」
「もし、そうなったとしたら俺たちの敵はバグアじゃなくてお前達能力者になるかもな?」
 ドクターの言葉にビールを口につけた隊長が静かに言葉を漏らす。
「武器が量産できれば今のUPC軍でも十分にバグアに対抗できちゃったら、僕らヨウナシの可能性は高いヨネ」
 事実かもしれないが、否定したい思いを込めてラウルが呟いた。
「どうなるかなんて今はわかりませんよ〜。頑張って勝てた。この勝利を素直に喜びましょうよ〜」
 命が暗い雰囲気を解すようなスローテンポな口調でジュースのビンを掲げる。
 小さな国境での小さな闘い‥‥だが、大きな問題を垣間見た闘いだった。