タイトル:進化する邪眼マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/04 07:30

●オープニング本文


「ぬわぁんで、我輩がこのような機体のアイディア集めをせねばならぬのだぁぁ、ロレンタくぅぅぅんっ!」
 ドンと血走った瞳をした老人の顔がドアップでロレンタの目の前に現れた。
 子供が見たら泣くか卒倒するかの二択だが、昨年三十路に見事突入したアルパンサ・ロレンタにはには効かない。
 既に慣れてしまった自分が嫌だが、贅沢を言っている場合でもないのだ。
「いいから上の命令に従ってくださいよ。ドライイーグルは少数製造してのデータ取り段階です。KVのバージョンアップが多数出ている中、これをはずすわけにはいきません」
 もう何度目となる台詞を口にしながらロレンタは企画書を目の前の老人――上司である八之宮忠次に押し付ける。
「最近、ロレンタ君が我輩に冷たいのである‥‥年寄りはもっと優しくだな」
「いつもは年寄り扱いするなとおっしゃっているでしょう、ほら傭兵は私が呼びますから承認の印鑑だけください」
 ギラリとした視線を忠次にぶつけて脅迫まがいに企画書を承認させると今一度自らの手元に戻した。
 企画書の内容は『R−01E・イビルアイズバージョンアップ計画要項』である。
 AC研というプラスチックの表札がある扉を締めてロレンタは足を運んだ。
 インペリューム・エアクラフト社という北米中規模企業が作り出したR−01の後継機であり、ロックオンキャンセラーというほかに類を見ない特殊能力を持つKVがイビルアイズなのである。
 忠次も、ロレンタもインペリューム・エアクラフト社からドローム社へ出向してきた身であるためR−01に対する思いは強かった。
「と思っていたけど、私だけだったのかしら‥‥」
 ふと足を止めてロレンタは外を眺める。
 青い空に飛行機雲が三筋流れていた。

●参加者一覧

明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
カーラ・ルデリア(ga7022
20歳・♀・PN
ミッシング・ゼロ(ga8342
20歳・♀・ER
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
フィソス・テギア(gb4251
23歳・♀・FC
トクム・カーン(gb4270
18歳・♂・FC
カルミア(gc0278
16歳・♀・PN
天小路 皐月(gc1161
18歳・♀・SF

●リプレイ本文

●会議をはじめよう
「では、早速会議を始めたいと思います。まずは機体性能の強化案件から話を進めようかと思います」
 議長のポジションに立ったアルパンサ・ロレンタはAC研の会議スペースで円卓上に座る能力者達と室長の八之宮忠次を見回す。
「イビルアイズは私が傭兵となってからずっと共に歩んで来た機体だ。それなりに愛着もある。これからもなるべく長く乗っていきたいゆえ、良いバージョンアップになれば幸いだ」
 フィソス・テギア(gb4251)をはじめとした能力者達に否定の意思はなく、よしと小さく口にしたロレンタはホワイトボードを用意した。
「えっと、まず、兵装スロットの増設が‥‥欲しいです、空戦だと、長距離兵装のほとんどは‥‥リロード不可なのでもう少し積みたいときが多いです‥‥」
 挙手をしながらおどおどとした口調で明星 那由他(ga4081)が希望をあげる。
「確かにイビルアイズの元となったR−01もバージョンアップ後には副兵装を増設出来ましたし、構造的に無理はないと思うのですけど。何はなくともこれは優先した頂きたいですね」
「現在の主力機は殆どが副兵装3つあるし、攻撃機と言うならやはり、ね」
 乾 幸香(ga8460)とユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が後押しするように意見を述べた。
「私にとってはこれが一番最優先ね。何より他機と少ない故に兵装選択枝に困ったもので‥‥軽量の援護武装がもてるようになるだけでもより幅広い選択肢が取れるようになるわね」
 一番力を込めているのはいつもの迷彩服ではなく女性物スーツに身を包んだアンジェラ・D.S.(gb3967)である。
「そーですよねー。兵装スロットは少なすぎます〜希望をいうなら装備力もあげてほしいです」
 ぴょんぴょんとびはね、ドリルと呼ばれるツインテールを揺らしてカルミア(gc0278)も同意した。
「イビルアイズは他と遜色の無い機体です。スロットの増加による多彩性がでれば次期の機体に考えてもいます」
 天小路 皐月(gc1161)は今回が初依頼だが、落ち着いた様子で椅子に座り広く周りを見ている。
 居並ぶのは自分よりも熟練の傭兵達。
 機体の扱いに関しても熟知しているだろう彼らと共に意見交換会にでれたのはいい経験だ。
「スロットの増加は総意ということで良いようですね。こちらは予定でもありましたので採用可能だと思います」
「うむ、空戦では装備力が全てを誇る。ミサイルの数が勝敗をきめるのだぁぁぁっ!」
 静かに話を聞いていた忠次がくわっと目を見開いて叫びだす。
 話の中で琴線に触れることがあったようだ。
 
「室長。落ち着いてください。‥‥装備力の話もでましたので性能の強化案についてのご意見お願いします」
 ふぅと息をつくと共にロレンタはホワイトボードへ『副兵装スロット増加・確定』と書き込み、次の話題へと話を促がす。
「能力に関しては生命、錬力、抵抗、防御など落とされないことを前提にした方がいいかな? ロックオンキャンセラーの連発はきついし、落とされないことが電子支援攻撃機の役目だと思う」
 トクム・カーン(gb4270)が椅子にゆったりと腰をかけながら麗しい双眸を忠次に向けた。
 男でありながらも中性的な容姿は美女に見られることさえある。
「そやねー錬力は言うまでもないけど、装備もほしいやね。最近は重い武装も増えたしねん」
 机に肘をつきつつカーラ・ルデリア(ga7022)も装備力の強化には必要性を訴えた。
「あと移動力も‥‥だめかな?」
「スロットの増加と兼ねるのは難しいですね‥‥ダメとはいえませんが、多数の意見を集めるとすると切り捨てなければいけない部分になるとは思います」
 他の人の意見の出し合いに思わず怯え越しになっていたミッシング・ゼロ(ga8342)は震える手を上げて意見を言うもののロレンタに苦笑を返される。
 選ばれた9人のみで多数の意見というのも可笑しな話だが、乗りこなしているものの意見というのは何よりも貴重なのだ。
「あとは回避が欲しいです。防御があっても多少でも避けれないとジリ貧ですし‥‥」
「生命や防御も必要ですよ〜」
「練力の向上がECMとしての素養と思うわ」
 さまざまな意見が飛び交いながら、まずは機体強化案のまとめが行われていく。
「では、最終的には練力と装備を同じくらい、時点で回避ということで今回はまとめさせていただきたいと思います。では、休憩を挟みましょう」
 ロレンタがホワイトボードにいろいろと書き上げて中で、3つのポイントを二重丸で囲んだ後、一度会議を打ち切るのだった。

●開発に休みは無い?
「我輩の脳細胞には栄養が必要なのでな、やはり日本人らしく米を食べなくば生きてはゆけぬ」
 モシャモシャという形容しか出来ない食べ方で忠次はチャーハンとチキンライスが丸くふたやま盛られた俗称『社長ランチ』を口にする。
「ねぇねぇ、ダミープローブみたいなのってできないのかな? KVと誤認するようなやつで」
 食事中ということもあり少し気が楽になったのかミッシング・ゼロが忠次の前の席から身を乗り出してきた。
「向こうの探知方式が重力波である限り誤魔化すのは厳しいのであるな、あえて言うならラージフレアが近い品ではある」
「空戦で使える店売り知覚武器も欲しいな‥‥射程30くらいでリロードできれば尚いい」
「ですが、確かラスト・ホープのショップには知覚式ミサイルもありましたよね?」
「それ一つだけなのがな‥‥ライフル系は射程がないので困っている」
 ロレンタの返答にユーリがコーヒーを口にしつつ苦笑を浮かべる。
「いっそ強化不可な遠距離用バルカンというのはどうかしらね? 威力は下げて、射程を保てるようなものを」
「ふむふむ‥‥あれば便利そうではあるな」
「先ほどの知覚式ミサイルのように炸薬を放電タイプにすると知覚式バルカンというものにできそうですかね?」
「試してみる価値はあるな」
 社長ランチを平らげた忠次はお茶を飲み、カイゼル髭を弄った。
「推奨武装の話かい? そうだね、空戦での自衛能力強化のために装弾数多くて軽いミサイル。威力は低くてもいいから射程と命中、数撃てればいい感じのやつ。どうかな?」
「わたくしとしましてはファランクス系が欲しいです。今のままでは防御が低すぎて前にでれません〜」
 食後の一杯として紅茶を持ったトクムとカルミアが忠次を挟むように座って自らの考えていた装備について話をはじめる。
 会議室を抜けたはずなのにすっかり会議がはじまるのは皆の熱意が故なのか‥‥。
「皐月は属性付の長物系武器や、命中の高いスナイパーライフルが良いと思います‥‥元の高い攻撃力を生かせる方がきっとイビルアイズのためです」
 はじめから忠次と同じテーブルに座っていた皐月も静かに自己主張をした。
「もう休憩にあまりなりませんね‥‥ですが、幅広い意見を求めるこちらとしては気楽に話せる空間の方がいいかもしれません」
 意気揚々と推奨武装について語る傭兵達を眺め、ロレンタは微笑みを零す。
 会議は次のステップへ移ろうとしていた。

●迸る思い、ぶつかる気持ち
「では、次に機体の特殊能力についてですが‥‥」
「試作型じゃないのが欲しいの。他のKVに付けられたら悲しいものっ!」
 ロレンタの言葉をさえぎるようにミッシング・ゼロが机をバンバンと叩いた。
 先ほどまでのお気楽な様子の彼女からは考えられないほどに力が入っている。
「いや、最優先事項は<試作型対バグアロックオンキャンセラー>の強化ではない<アグレッシヴ・ファング>の再登載だ」
 そんなミッシング・ゼロの勢いを抑えつけるほどに威圧的な言葉がフィソスから放たれた。
「イビルアイズは、攻撃力ではトップクラスの機体だ。これに<アグレッシヴ・ファング>を搭載する事により、攻撃性能に更に磨きを掛け、前線で先陣を切って戦える様な機体にしたいと私は思う。実現すれば『攻撃的な姿勢の電子戦機』というイビルアイズの売り文句は再び輝くだろう」
 熱く語る姿は法律を知り、弱者の盾となってきた司法書士としての経歴が伺える。
 力を持った言葉に会議室全体が圧倒された。
 だが、固まった空気を壊す存在がいる。
「そんなもの、いらない。攻撃力に特化させたいならディアブロでも、S−01HSCでも乗ればいい。1機だけで戦うもんじゃないっしょ? R−01とR−01Eは全くの別物なの」
 カーラがきっと青い瞳を釣り上げフィソスの真正面の席から対抗した。
「元々搭載されていた物であり、S−01HSCの前例がある為、不可能ではないと考えている。傭兵が使うものということを踏まえても1機でも戦えるということは重要だ」
 きつい口調で返されたフィソスだが、物怖じげせずカーラの瞳を見返す。
「超簡単に搭載できるって言うなら話は別だけどね。他の要素を犠牲にするくらいだったら、必要なし。攻撃なんて誰だって出来るんだから、僚機に任せたほうが遥かに効率がいい。だから、いらない」
「超簡単に‥‥とはいきませんね。<アグレッシブ・ファング>に回す出力系等をいじって『試作型対バグアロックオンキャンセラー』を搭載したようですし」
 開発資料を眺めながらロレンタが気難しく眉根に皺を寄せた。
 本来搭載すべき機能を捨ててロックオンキャンセラーを搭載したイビルアイズの開発経緯はかなり難しいのである。
「私はそれをデメリットだとは思わぬな。強化を一点に絞るのは悪い事ではない。‥‥それに、意見を取捨するのはドロームだ。依頼内容から、クライアントはより多くのアイディアを求めているように感じたが、違うか?」
 フィソスの視線がカーラからロレンタや忠次の方に向けられた。
「無論のこと最終決定権は我輩たちにある。双方の言い分は良くわかった。結論は結果を持ってしてとさせてもらおうバージョンアップの費用は暇っているがゆえ高性能な改造はほどこせないというのはわかって欲しいのである」
 目を伏せてじっと聞いていた忠次は静かに語る。
「否定して、ダメって意見を言えなくするダメだよ。もっと自由にアイデアとか意見だして使えるのを見つけていこうよ〜」
 緊迫した雰囲気にミッシング・ゼロは怯えるようにアンジェラの背中から隠れつつ言葉を漏らす。
「彼女のいうようにすぐさま決定とはしませんし、上で悩むようなら今一度依頼としてだしますから二人とも座ってください。解答できるものはすぐにしますけど」
 いつのまにか立ち上がって意見を交わしていたフィソスとカーラは椅子に座り会議が仕切り直された。

「えっと‥‥高望みな案があって‥‥現状のロックオンキャンセラーは‥‥レーダーで敵機を捉えてないと効果を発揮しません‥‥、もし敵にキューブワームがいて、味方にジャミング中和可能な機体がいないと‥‥、使用そのものが‥‥不可能になってしまいます。正規軍では考えにくいですけど、傭兵部隊だと‥‥ありえない話じゃないです」
「一理ありますね」
 おどおどした態度ながらも一生懸命に話す那由他の話をロレンタはゆっくりと聞きながら、微笑み浮かべる。
「そこで、いっそ‥‥イビルアイズに積んでしまえないでしょうか? 中和範囲を大幅に絞って‥‥、5km位にしてしまえば‥‥機体への負担も少なく搭載できるんじゃないかなっていう‥‥素人考え‥‥、です」
「確かにそういう手段もありかもしれませんが‥‥残念ながら範囲を絞っても中和装置は中和装置としての機能が必要です。現在の機体ポテンシャルを下げないと補えないでしょうね。バージョンアップとはいえなくなるのが残念ですが」
「そうです‥‥か‥‥」
 残念そうに俯く那由他にロレンタはどう接するべきか困るが、事実は伝えなければならないのが辛いところだ。
「あ、初めの方のアイディアに戻ってしまうのですが正式版の搭載というのはどうでしょうか? 現状よりも性能を向上‥‥たとえば範囲拡大と有人機に対応とかですね」
「正式版については我輩たちからはなんともいえないのであるが、燃費向上くらいであれば可能であるかな? あと有人機対応というが相手が重力波レーダーを使っているか否かであり有人機無人機は関係ないのであると予想されている。簡単にいえば車のオートマかマニュアルかの違いであるな」
 乾からの提案については忠次が髭を弄りながらも答える。
「どちらかといえば航空機自動操縦と手動操縦ですよ。車の場合はもう決まっているじゃないですか」
 わかりやすいような判り辛いたとえはロレンタに一蹴されてしまったが‥‥。
「消費練力が減ってくださればとりあえずは十分です」
「今回のアイディアはバージョンアップだけでなくロックオンキャンセラーの正式版に向けての意見として関連部署へ提出しますので他にもありましたら意見をください」
「んー、やっぱり‥‥もう少し距離がね〜」
「妨害強度といいますか、対応できる機体の幅を増やして欲しいです」
 対バグアロックオンキャンセラーに大して多くの意見が集まりつつ、会議は終了を迎えた。
 熱い思いが飛び交った会議、最後に実を結ぶ力はイビルアイズとしていいものだろう。
 更なる進化を遂げるために今、時は動き出した。